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ことば、身体(からだ)、学び 「できるようになる」とはどういうことか
 [言語・語学]

ことば、身体、学び 「できるようになる」とはどういうことか (扶桑社BOOKS新書)
 
為末大/著 今井むつみ/著
出版社名:扶桑社(扶桑社新書 473)
出版年月:2023年9月
ISBNコード:978-4-594-09579-6
税込価格:1,045円
頁数・縦228p・18cm
 
 トップアスリートと言語心理学者との対談により、言葉と身体の関係、学びの原理を明らかにする。
 
【目次】
1章 ことばは世界をカテゴライズする
 考 ことばは究極の編集行為
 問 ことばが世界をつくるのか、世界がことばをつくるのか?
 解 子どもが、動詞学習が苦手な理由
2章 ことばと身体
 考 選手の調子を上げる音とリズム
 問 ことばと身体とは?
 解 胎児はリズムからことばを学ぶ
3章 言語能力が高いとは何か
 考 「確からしい」ことば
 問 言語能力が高いとはどういうことか
 解 ことばとは
4章 熟達とは
 考 運動神経の正体
 問 熟達するというのは、調整力が高いということではないか
 解 アウトプットに合わせた微調整
5章 学びの過程は直線ではない
 考 熟達の過程で行き詰まる時
 問 伸び悩んだり、つまずいたりした時、どのようにして抜け出すか?
 解 学びはリニアではない
 
【著者】
為末 大 (タメスエ ダイ)
 1978年広島県生まれ。スプリント種目の世界大会で日本人として初のメダル獲得者。オリンピックには3大会連続出場。男子400メートルハードルの日本記録保持者(2023年8月現在)。現在は執筆活動、身体にかかわるプロジェクトを行う。Deportare Partners代表。
 
今井 むつみ (イマイ ムツミ)
 1987年慶應義塾大学大学院社会学研究科に在学中、奨学金を得て渡米。1994年ノースウェスタン大学心理学部博士課程を修了、博士号(Ph.D.)を得る。専門は、認知・言語発達心理学、言語心理学。2007年より慶應義塾大学環境情報学部教授。
 
【抜書】
●慣習(p57、今井)
〔 言語の進化や変化は、メタファーと切り離せません。言語はメタファーを使って既存の使い方を創造的に拡張しようとする力と、慣習的で制限をかけようとする力の均衡で成り立っていて、結局、慣習が負けて少しずつ変化していきます。〕
 
●トップスピード(p77)
〔 また、普遍的な気づきを与えるようなことばもあります。桐生祥秀〈きりゅうよしひで〉選手が2013年に男子100メートル予選で日本歴代2位の10秒01を記録した時、ウサイン・ボルト選手が桐生選手に言ったことばは、とても印象的でした。それはニュース番組の対談だったのですが、桐生選手が記録を出した時の映像を見ながら、「これからトップスピードを上げる練習をしたほうがよいか」と質問すると、ボルト選手は「それは違う」と答えました。
 そして、「多くの選手がトップスピードからさらに速くなろうとするが、それでは速度に足の回転が追いつかず逆に遅くなってしまう」と言いました。「トップスピードに乗ったら、それ以上速くなろうと努力してはいけない」というアドバイスで、表現としては一瞬、何を言っているのだろうと思うかもしれません。でもこれは、僕たちにとって、とても深いことばなのです。〕
 
●メンタルモデル(p97、今井)
 専門的には「表象」のこと。状況を適切に抽象化してイメージできるということ。
 たとえば、「全部で14人いて、太郎さんの前には6人、太郎さんの後ろは何人いますか?」という質問に対して、適切に状況をイメージし、正しく7人という答えが出せること。
 
●ICAPモデル(p210、今井)
 主体的な学びの階層モデル。アリゾナ州立大学のミキ・チー教授が提唱。
 Interactive……双方向的。対話によって複数の人と新しい知識を構築する。最も深い学び。
 Constructive……構成的。新しい知識と既存の知識が関連付けられる。人に説明できる。
 Active……能動的。メモや付箋をつける。
 Passive……聞いているだけ。
 知識というものは、自分でアウトプットしないと定着しない。
 
●レス・イズ・モア(p225、今井)
 Less is more.小は大に勝る。
 一つの単語には、複数の意味があったりする。これは、情報処理能力と記憶能力の制約の範囲内で情報を扱い、記憶し、学ぶことを言語が可能にしていることの裏返し。
 
(2024/9/15)NM
 
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ペンギンは歴史にもクチバシをはさむ 増補新版
 [歴史・地理・民俗]

penguim.png  
 
上田一生/著
出版社名:青土社
出版年月:2024年6月
ISBNコード:978-4-7917-7647-4
税込価格:3,520円
頁数・縦:424, 13p・19cm
 
 ペンギンに関する総合的概観、広義の社会史・文化史をまとめた書。
 個人的な興味として、著者も希望しているようなペンギンの生物学についても読んでみたかった(p.422)。
 
【目次】
序 人よせペンギン
第1章 太った海鳥
第2章 羽毛のはえた魚
第3章 ペンギンズ・イン・プリント
第4章 シロクマのともだち
第5章 オタクの国のペンギン踊り
第6章 ペンギンの現在地・人間の現在地
 
【著者】
上田 一生 (ウエダ カズオキ)
 ペンギン会議研究員、IUCN・SCC・ペンギン・スペシャリスト・グループ(PSG)メンバー。1954年、東京都出身。國學院大學卒業。ペンギン会議研究員としてペンギンの研究・保全活動を30年以上実施。
 
【抜書】
●ペンギンの魅力(p17)
 ① 人に外観が似ていること(直立二足歩行)。
 ② 珍しさ(鳥のくせに飛べないこと)。
 ③ かわいらしさ(ヨチヨチ歩き)。
 ④ たくましさ(人間が生存できない極寒を生き抜く)。
 ⑤ 好奇心の強さ(人を観察する視線)。
 
●ウミガラス(p24)
 日本では天売島に生息するオロロン鳥のこと。空を飛ぶことができる。
 北のペンギン。頭と背中が黒く、腹が白い。エトピリカ、ツノメドリなど20種類あまりの潜水性海鳥とともにウミスズメ科を構成する。
 
●オオウミガラス(p45)
 体高75cm。ウミスズメ科の中では最も体が大きい。また、同科のなかで唯一「空を飛べない」鳥。
 10-12世紀には「ゲイルフーグル(槍鳥)」という呼び名がついていたが、16世紀ごろから「ペンギン」と呼ばれるようになった。
 主な繁殖地は、北アメリカ大西洋沿岸とグリーンランド、ノルウェー、デンマーク、イギリスの一部だった。
 「科学の名のもとに、一つの種が滅ぼされたのはこの時一度きりである。ハンターたちの強欲と冷酷さは、オオウミガラスの生息数を一握りにまで減少させはしたが、最後の幕を下ろしたのは、博物館の館長たちの愚かさであった。それぞれが展示用の標本を入手したがるばかりで、誰一人としてこの種の運命を顧みる者はいなかったのだ。」(シルヴァーバーグ)
 1844年、絶滅したと考えられている。
 
●阪神パーク(p292)
 阪神電鉄は、1928年9月に旧枝川の一帯で「御大典記念国産振興阪神大博覧会」を開催、その施設の一部を会期終了後も「甲子園娯楽場」として営業を続けた。
 1932年、「阪神パーク」と改称、動物園と遊園地、汐湯と演芸場からなる総合レジャーランドとした。
 1935年、「ペンギンの海」として、南アフリカから輸入された33羽のケープペンギンの展示を始める。100坪の敷地の中央に白く塗ったコンクリート製の氷山と陸部を置き、その周辺をプールで囲んだ。増設された「水族館」の一部を成す。
 ペンギンは、繁殖によって1941年までの間に100羽になった。
 
(2024/9/14)NM
 
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経済学の思考軸 効率か公平かのジレンマ
 [経済・ビジネス]

経済学の思考軸 ――効率か公平かのジレンマ (ちくま新書 1791)
 
小塩隆士/著
出版社名:筑摩書房(ちくま新書 1791)
出版年月:2024年5月
ISBNコード:978-4-480-07618-2
税込価格:990円
頁数・縦:247p・18cm
 
 経済学ではモノゴトをこのように考える、という例。
 やさしく解説しているつもりなのだろうが、一部、分かりづらい箇所も。「抜書」の「パレート効率的」の説明に関しては、他で調べて分かったことを加えた。
 
【目次】
第1章 出発点はあくまでも個人
 個人か社会か
 経済学の発想でどこまで突っ走れるか
 経済学で「幸せ」を語れるか
第2章 経済学の2本立て構造
 効率性の観点からの問題提起
 経済学は公平性をどう裏づけるのか
 せめぎ合う効率性と公平性
第3章 教科書では教えない市場メカニズム
 評判の悪い市場メカニズム
 医療保険の強制加入―その奇妙な理由づけ
 あまりにも特殊な教育市場
 情報収集をサボることのコスト
第4章 経済学は将来を語れるか
 現在と将来をつなぐ架け橋
 人口減少下における政府の介入
 将来世代にどこまで思いを馳せられるか
 人口減少にどう立ち向かうか
 
【著者】
小塩 隆士 (オシオ タカシ)
 1960年京都府生まれ。83年東京大学教養学部卒業。2002年大阪大学博士(国際公共政策)。経済企画庁(現内閣府)等を経て、一橋大学経済研究所特任教授。主な著書に『再分配の厚生分析』(日本評論社、日経・経済図書文化賞受賞)ほか。
 
【抜書】
●パレート改善、パレート効率的(p23)
 状況が変化する前に比べて、世の中を構成する誰もがアンハッピーにならないまま、少なくとも一人がハッピーになるような変化。
 パレート効率的……パレート改善的になる余地のない状況。すべての人に資源が無駄なく効率的に配分されている状態。
 
●厚生経済学の第一定理(p186)
 市場が完全な競争状態にあり、価格による需給調整が働いていると、最も効率的(パレート効率的)な資源配分が実現される、というもの。
 経済学者が市場メカニズムを重視する最も基本的な理由が、この定理にまとめられている。
 
●国民貯蓄(p214)
 その時点で人々が生産した財・サービスのうち、人びとが消費せずに次の時点に残す分。政府貯蓄と民間貯蓄の合計として計算される。
 政府貯蓄は、税や社会保険料などから、社会保障給付や防衛費など経常的な支出を差し引いたもの。公共投資は支出として計算されない。
 民間貯蓄は、生産によって得られた所得から税や社会保険料などを差し引き、年金など社会保障給付を加え、そこから消費に回して残った分。家計だけでなく、企業も含む。
 
●国家資本減耗(p218)
 こっかしほんげんもう。
 経済全体の減価償却のこと。工場やビル、機械装置などの民間ストック、道路・港湾・公共施設などの公的資本ストックを機能させるためのメンテナンス費用を社会全体で合計したもの。
 2023年時点で年間140兆円を上回り、GDPの約四分の一。
 国民貯蓄を捉える場合、固定資本減耗を差し引いた「国民純貯蓄」に注目する必要がある。
 国民純貯蓄は、第2次世界大戦以後、順調に拡大を続け、1991年には90兆円に近い水準に達した。その後は減少傾向にあり、2010年前後にはゼロ近辺に。その後、回復傾向にはあるが……。
 
(2024/9/9)NM
 
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「モディ化」するインド 大国幻想が生み出した権威主義
 [社会・政治・時事]

「モディ化」するインド―大国幻想が生み出した権威主義 (中公選書)
 
湊一樹/著
出版社名:中央公論新社(中公選書 151)
出版年月:2024年5月
ISBNコード:978-4-12-110152-5
税込価格:1,980円
頁数・縦:278p・20cm
 
 「世界最大の民主主義国家」という仮面の下で進行する権威主義国家への変貌をつぶさに論証する。
 
【目次】
プロローグ 大国幻想のなかのインド
第1章 新しいインド?
第2章 「カリスマ」の登場
第3章 「グジャラート・モデル」と「モディノミクス」
第4章 ワンマンショーとしてのモディ政治
第5章 新型コロナ対策はなぜ失敗したのか
第6章 グローバル化するモディ政治
エピローグ 「モディ化」と大国幻想
 
【著者】
湊 一樹 (ミナト カズキ)
 1979年青森県生まれ。東北大学経済学部卒。2006年ボストン大学より修士号(政治経済学)を取得後、日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア経済研究所に入所。現在、同地域研究センター研究員。専門はインドを中心とする南アジアの政治経済。
 
【抜書】
●アヨーディヤー(p23)
 ウッタル・プラデーシュ州。「ラーマーヤナ」の主人公ラーマの生誕地とされる。
 ムガル帝国の初代皇帝バーブルの名を冠したモスク(バーブリ・マスジッド)が16世紀に建てられた場所でもある。
 ヒンドゥー至上主義勢力は、アヨーディヤーにはラーマ生誕を記念して建てられた寺院がもともとあったが、それを破壊してモスクが建立されたと主張し、バーブリ・マスジッドの場所にラーマ寺院を再建することが必要であると訴えてきた。歴史家たちは、その根拠を否定。1992年12月に、モスク破壊へと至り、その直後には2,000人以上が犠牲となる宗教暴動が、北インドを中心にインド各地で起こった。
 ラーマ寺院の建設は棚ざらしとなっていたが、2019年12月、最高裁がモスクの跡地へのラーマ寺院建設を承認。モディ政権第二期に入って半年後。
 2020年8月定礎式。2024年1月ラーマ神像(幼児姿)奉献式(モディ首相臨席)。
 
●大陸国家(p38)
 インドには、「海洋国家」と「大陸国家」、二つの顔がある。
 クアッドは「海洋国家としてのインド」が直面する脅威の緩和に役立つが、「大陸国家としてのインド」としては国境を接する中国からの脅威に対処するうえで、ロシアとの連携が重要である。
 
●イベント運営責任者(p64)
 1987年にモディをRSS(民族奉仕団)からBJP(インド人民党)に呼び寄せたL・K・アドヴァー二ー(BJP総裁、当時)が、2024年総選挙の期間中に党員の前で語った言葉。
 「私はナレンドラを自分の弟子と呼んだりはしませんでしたが、彼ほど有能で効率的なイベント運営責任者を見たことがありません。彼はイベント運営の能力を州政府による統治に持ち込んでいるのです。」
 
●ワンマンショー(p131)
〔 「モディ首相」という架空のキャラクターをモディという実在の人物が演じるワンマンショーは、きわめてパターン化された筋書きに沿っている。それは一言でいうと、「恵まれない境遇を自らの力で乗り越えていった主人公が、強い指導者として人々からの絶大な支持と信頼を得ながら、インドを偉大な国へと導いていく」というストーリーである。そのなかで、主人公の「モディ首相」を演じるモディにつねにスポットライトが当たる。
 政府・与党によるプロパガンダの最大の目的は、傑出した政治指導者である「モディ首相」という架空のキャラクターのイメージを国民のあいだに浸透させ、実在のモディがあたかも「モディ首相」そのものであるかのように信じ込ませることにある。そして、モディのカリスマ性と国民的人気を高め、それを梃子にして権力基盤の維持・強化を図ろうとするものである。〕
 
●NaMo TV(p141)
 2019年総選挙の直前から期間中に1日中放送されていた衛星チャンネル。モディ首相の選挙演説や、モディ首相に関する映画(『さあ、生きよう』『バッドマン 五億人の女性を救った男』など)の番組で構成。他のCMは一切入らなかったが、「モディだけを宣伝する」ためのチャンネルだった。
 チャンネルの所有者が不明、衛星チャンネルに必要な認可を情報放送局から受けていない、選挙規定や放送に関わる法律に明らかに違反、など、多々問題があったが放送が停止されることはなかった。
 総選挙の終了とともに忽然と姿を消した。
 
●市民権改正法(p202)
 2019年12月に成立。
 ① 2014年12月31日以前に、② アフガニスタン、パキスタン、バングラデシュからインドに入国した、③ ヒンドゥー教徒、シク教徒、仏教徒、ジャイナ教徒、ゾロアスター教徒、キリスト教徒、という三つの条件をすべて満たす移民に、市民権を与える。
 イスラム教徒は除外。三国以外からの移民は適用外。
 
●ブルドーザー(p224)
〔 モディ政権成立以前のインドにも、民主主義の規範からの逸脱は多々あった。しかし、最近のインドでは、逸脱という言葉では片づけられないほど事態が悪化している。たとえば、この一、二年のあいだにインド人民党(BJP)政権下の複数の州では、当局が法的許可なしにイスラーム教徒の家や商店をブルドーザーで破壊することが平然と繰り返されている。さらに、一部のBJP支持者のあいだでは、ブルドーザーが「正義」のシンボルにさえなっている。〕
 
●価値観の共有(p228)
〔 残念ながら現状では、インドが価値観を共有しているのは、日本やアメリカなどの民主主義国というよりも、中国やロシアなどの権威主義国ではないかという懸念が国際的に高まっていることを、多くの日本人は認識していないようである。その理由として、現代の権威主義化した国々を巧みに模倣しながら、モディ政権が一歩ずつ着実に「世界最大の民主主義国」を解体していったという点を見逃すべきではない。〕
 
(2024/9/3)NM
 
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イランの地下世界
 [社会・政治・時事]

イランの地下世界 (角川新書)
 
若宮總/著
出版社名:KADOKAWA(角川新書 K-453)
出版年月:2024年5月
ISBNコード:978-4-04-082476-5
税込価格:1,056円
頁数・縦:290p・18cm
 
 政治、社会、歴史、宗教……、現在のイランとイラン人の実態を知ることができるルポルタージュ。
 「地下世界」とあるので、何やら物騒な内容なのかと思いきや、現在の目の前のイラン社会とイラン人を活写しており、いたって平明で読みやすい内容である。
 
【目次】
第1章 ベールというカラクリ―貞節、政治化、「イスラム・ヤクザ」
第2章 イスラム体制下で進む「イスラム疲れ」―キリスト教、神秘主義、古代礼賛
第3章 終わりなきタブーとの闘い―薬物、酒、自由恋愛、美容整形
第4章 イラン人の目から見る革命、世界、そして日本―王政復古、反米、反中、親日
第5章 イラン人の頭の中―謙遜、メンツ、嫉妬心
第6章 イランは「独裁の無限ループ」から抜け出せるか―小さな独裁者、コネ、歪んだ義理人情
 
【著者】
若宮 總 (ワカミヤ サトシ)
 10代でイランに魅せられ、20代より留学や仕事で長年現地に滞在した経験を持つ。近年はイラン人に向けた日本文化の発信にも力を入れている。イラン・イスラム共和国の検閲システムは国外にも及んでおり、同国の体制に批判的な日本人はすべて諜報機関にマークされる。そのため、体制の暗部を暴露した本書の出版にあたり著者はペンネームの使用を余儀なくされた。
 
【抜書】
●政教一致(p57)
〔 政教分離の国でも独裁におちいる可能性はあるが、政教一致の場合は、むしろ独裁によってしか機能しない仕組みになっているといってよい。
 さらに恐ろしいのは、独裁者となった最高指導者への異議申し立ては、「正しいイスラム」に反旗をひるがえすことに等しいので、これに対する弾圧が神の名によって正当化され、熾烈をきわめることだ。〕
 
●内面軽視(p66)
 レイラさんの説明。
 「結局ね、イスラムが私たちの一挙手一投足にまで口を出す宗教として成立したこと。それが、そもそもの過ちだったのよ。もしこの宗教が人間の心だけを問題にしていれば、今のように内面が軽視され、外面だけで人間が序列化されるような世の中にはなっていなかったと思うの」
 イスラムの内面軽視の傾向は、「天国」の解釈に顕著。イスラムでは、天国には酒の流れる川があり、美しい処女たちが侍っているとされる。
 「天国でお酒を飲んだり、かわいい女の子とセックスしたりできるから、現世ではそれらを我慢しろってわけ? そんな下心をもって生きることを認めちゃってる宗教に、人間の内面を高めることなんてできっこないわ」
 
●シャー・ナーメ(p83)
 10~11世紀に活躍した詩人フェルドゥースィーが30年以上かけて完成させた長大な民族叙事詩。イスラム化以前の神話と歴史の集大成と言われ、『古事記』や『日本書紀』のような性格を持つ。文字どおり、イラン人の国民的バイブル。
 近年は、ハフト・スィーンに、コーランの代わりに好んで飾る人が増えている。
 ハフト・スィーン……正月飾り。ノウルーズ(イラン正月。春分の日にあたる)に、頭文字がSの縁起物を七つそろえる。その中央に、ハフト・スィーンとは別にコーランを配することになっている。ノウルーズは、古代ペルシャよりもさらに古い時代の太陽崇拝に起源をもつとされ、今でもイラン人がもっとも大切にしている年中行事。
 
●昭和(p138)
 パフラヴィ―(パーレビ)王朝は、1925年(大正14年)にレザー・シャーが初代国王として即位し、イスラム革命によって第二代国王モハンマド・レザー・シャーが廃位された1979年(昭和54年)まで続いた。ほぼ、日本の昭和期。
 イラン人が「王政期レトロ」として感じるモノは、ダイヤル式の黒電話、桃色柄の食器(日本製が多かった)、青や黄色のガラス窓、小型の石油ストーブ、家族団欒の場だった炬燵、など。
 
●ファラ王妃(p145)
 レザー・シャーの娘で、モハンマドの王妃ファラ・パフラヴィーは、多くの社会事業を手掛けることで、イランの教育や福祉、文化芸術の分野で歴史的な貢献を果たした。
 革命後、実質的な亡命先となったエジプトでシャーの最期を看取った。自身は、85歳で健在。
 長男レザー・パラヴィーは、父の在位中に皇太子となっており、現在は米国在住。王政復古に担ぎ出される可能性大。他の二人の王子は自殺。長女ファラナーズは健在。
 
●ホメイニ(p157)
 ホメイニの先祖はインド出身。イランに移り住んだのはホメイニの祖父の代。中西部のアラークにあった英国領事館で使用人として働いていたらしい。ペルシア語も話せず、ムスリムでなかったという。
 ホメイニの父親は、有力なイスラム法学者だったが、インド系としてのアイデンティティを失わなかった。
 イスラム革命英国陰謀説によれば、
 〔ホメイニ一族は、英国領事館に出入りしていた祖父の代から英国と内通しており、英国はイランに政変を起こす目的で、平凡なイスラム法学者に過ぎなかったホメイニを革命家に仕立て上げた。われわれイラン人は、まんまとそれに騙され、恐るべき政教一致体制を押しつけられることになったのだ。英国と売国奴ホメイニ、許すまじ――。〕
 
(2024/8/31)NM
 
〈この本の詳細〉


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