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生き物の「居場所」はどう決まるか 攻める、逃げる、生き残るためのすごい知恵
 [自然科学]

生き物の「居場所」はどう決まるか-攻める、逃げる、生き残るためのすごい知恵 (中公新書 2788)
 
大崎直太/著
出版社名:中央公論新社(中公新書 2788)
出版年月:2024年1月
ISBNコード:978-4-12-102788-7
税込価格:1,155円
頁数・縦:282p・18cm
 
 生き物がいかにして自らの「居場所」を確保するのか、生存競争のさまを、これまでに提唱された研究成果と考察を参照しながら解説。
 
【目次】
第1章 「種」とは何か
第2章 生き物の居場所ニッチ
第3章 ニッチと種間競争
第4章 競争は存在しない
第5章 天敵不在空間というニッチ
第6章 繁殖干渉という競争
終章 たどり来し道
 
【著者】
大崎 直太 (オオサキ ナオタ)
 1947年、千葉県館山市生まれ。鹿児島大学農学部卒業。名古屋大学大学院農学研究科博士課程後期課程中退。京都大学農学部助手、米国デューク大学動物学部客員助教授、京都大学大学院農学研究科講師、准教授、国際昆虫生理学生態学研究センター(ICIPE、ケニア)研究員、山形大学学術研究院教授を歴任。農学博士。専門・昆虫生態学。
 
【抜書】
●リンネの使徒(p15)
 カール・フォン・リンネ(1707-78年)は、当時の強国スウェーデン・バルト帝国の版図全域を4度に分けて探検調査旅行を実施した。海外は、オランダとその周辺のフランスやイギリスの研究者を訪れただけだった。
 しかし、17人の弟子たちを世界各地に派遣して、動物・植物・鉱物、三界の標本収集に努めた。
 その一人がカール・ツンベルク(1743-1828年)で、日本にもやって来た。スウェーデン人のツンベルクはオランダ人に成りすまし、出島のオランダ商館医師として1775年8月から1年4カ月間滞在した。『日本植物誌』(1784年)、『日本植物図譜』(1794年)などの著書がある。日本滞在中は、将軍徳川家治に拝謁し、幕府医官桂川甫周、小浜藩医中川淳庵と交わり、医学だけでなく、植物学、物理学、地理学、経済学の知識を伝えた。
 
●ラマルク(p16)
 ジャン=バティスト・ラマルク(1744-1829年)は、1793年、50歳にして植物分類学から動物分類学に転じた。フランスの国立自然史博物館にて、昆虫と蠕虫の担当になった。そして、動物を脊椎動物と無脊椎動物に分けた。動物界の分類単位の上位に「門」を置き、脊椎動物門と無脊椎動物門としたのである。
 また、『水理地質学』(1802年)では、動物と植物を一つにまとめ、「生物」という語を作った。物質というものは元素の集まりであり、動物も植物も生命を維持するために外界から元素でできている物質を得ている。それを体内で新たな物質に変えて生きている。やがて生命活動を終えれば、動物も植物も分解されて元の元素に返っていく同じ生物という存在だと考えた。だからこそ、ラマルクは、生物は常に自然に単純な構造で発生すると考えた。
 『動物哲学』(1809年)では、「用不用説」「獲得形質の遺伝説」を説いた。ダーウィン以前に説かれた最初の本格的な進化論。現在では否定されている。
 
●テルナテ論文(p46)
 1858年、ダーウィンはウォーレスから2度目の封書を受け取った。インドネシアのモルッカ諸島にある小さな火山島テルナテ島からの投稿。
 「変種が元の型から限りなく遠ざかる傾向について」という論文。マルサス『人口論』にヒントを得ていた。人間だけでなく生物一般も、生き残れる以上の子どもを残し、生存のためにわずかでも有利な変異が起こったなら、その個体はそれだけ生き残る可能性が高く、子孫を残すために、有利な形質が淘汰され進化する。
 ダーウィンはライエルとフッカーに相談し、リンネ協会の直近の会議でダーウィンの進化論の概要と「テルナテ論文」を同時に紹介することにした。その講演の紀要は、ダーウィンとウォーレスの共著という形になった。
 
●ロジスティック曲線(p51)
 環境収容力に至るまでの生物の個体数の推移を描いた曲線。ベルギー陸軍大学の数学教授ピエール=フランソワ・フェルフルスト(1804-49年)による。
 マルサス『人口論』から示唆を得る。個体数は等比級数的に増加するが、食糧は等差級数的にしか増加しない。人口と食糧は伸び率が異なっても結果的にバランスが取れるに違いない、というもの。
 曲線は、はじめは徐々に増加するが、次第に急激な増加に転じ、その後、増加が漸減して上限に達し、飽和状態になる。
 dN/dt=rN(1-N/K):ロジスティック方程式。
  N:個体数 t:時間 dN/dt:時間tにおける個体数の増加率
  r:自然増加率 K:環境収容力
 
●密度依存要因(p53)
 個体数が環境収容力(K値)に達すると、1メスあたりの産卵数が減る。
 レイモンド・パール(1879-1940年)が、キイロショウジョウバエで実験。餌量を常に一定に保つと、個体数は一定に保たれ、メスの産卵量が減った。
 
●食物網(p64)
 現在では、「食物連鎖」のことを「食物網」と言い換えている。
 
●ガウゼの競争排除則(p68)
 1934年、ゲオルギ・ガウゼ(1910-86年)が論文を発表。
 大型のゾウリムシと小型のヒメゾウリムシを混ぜて飼育する。ヒメゾウリムシは、1種で飼育したときよりもやや低い量でロジスティック曲線を描いて平衡状態に達した。ゾウリムシは、最初のうちは増殖したが、やがて減少に転じ、絶滅した。
 2種の生き物が同じニッチを利用した場合、一方の種は絶滅し、他方の種だけが生き残る。
 
●ハッチンソンの比(p74)
 ニッチの近い生物が1:3。共存可能なサイズの比。ジョージ・ハッチンソン(1903-91年)。
 ニッチの近い鳥の体長、ニッチの近い動物の頭骨の長さを測って共存の有無を調査。
 たとえば、同じ池の中で水生昆虫を食べているニッチの近い2種の魚がいたとする。もし魚の口のサイズが等しいなら、同じサイズの水生昆虫を巡って競争が生じ、共存が困難になる。口のサイズが異なると、大きさの異なる昆虫を餌とするので、競争は緩和され、共存が可能となる。
 
●マネシツグミ(p79)
 ダーウィンがガラパゴス諸島で関心を持ったのは、3種のマネシツグミだった。
 最初、3種の鳥は、形態は少しずつ異なるが、変種に過ぎないと考えた。
 イギリス帰国後、標本の調査を鳥類画家グールドに依頼。3種の鳥はきわめて近縁な同じグループの別種で、ガラパゴス諸島の固有種だと言われた。その結果をもとに『種の起源』を執筆。
 
●中規模攪乱説(p147)
 1978年、カリフォルニア大学サンタ・バーバラ校のジョセフ・コネル(1923-2020年)が「熱帯降雨林とサンゴ礁の多様性」という論文を『サイエンス』に発表。
 熱帯降雨林は、暴風、地滑り、落雷、昆虫の食害などによって樹木が折れたり枯れたりして攪乱されている。サンゴ礁は、嵐の波、陸地の洪水による淡水の流入や堆積物の流入、捕食者の群れの出現などの要因によって絶えず攪乱されている。この攪乱が中規模に続く限り、種の多様性が最大に維持される。
 攪乱が少ないと、極相林が形成される。
 
●緑の世界仮説(p159)
 1960年、ミシガン大学の3人の生態学者が提唱。
 地球は緑の植物に溢れている。植物を餌資源としている昆虫や動物などの植食者には餌資源をめぐっての競争はない。野外での研究を通して、植食者の密度は、競争が起きるような高密度にはなり得ないと主張された。
 密度を抑える最大の要因は、捕食者や捕食寄生者や病原菌など、天敵類の存在。
 
●天敵不在空間(p160)
 1984年、ジョン・ロートン(1943年~)とマイケル・ジェフェリーズが、イギリス・リンネ協会の『生物学誌』に「天敵不在空間と生態的群集の構造」という論文を発表。ロートンは、植食性昆虫に競争はないと主張した『植物を食べる昆虫』の著者の一人。
 生き物のニッチは、生き物と天敵の相互作用により、天敵からの被害を少しでも軽減できる空間、すなわち「天敵不在空間」として占められている。
 天敵不在空間は、天敵の全くいない空間を指す語ではない。天敵に囲まれていても絶滅せずに、生き延びることができるニッチのこと。
 
(2024/3/27)NM
 
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日本経済の見えない真実 低成長・低金利の「出口」はあるか
 [経済・ビジネス]

日本経済の見えない真実 低成長・低金利の「出口」はあるか
 
門間一夫/著
出版社名:日経BP
出版年月:2022年9月
ISBNコード:978-4-296-00121-7
税込価格:2,640円
頁数・縦:305p・20cm
 
 2%物価目標未達のアベノミクスは失敗だったのか? さまざまな観点からアベノミクス後の日本経済を概観する。
 日本経済の現状を整理できる。
 
【目次】
第1章 アベノミクス景気の日本経済
 金融政策の大転換
 成長率が最低の景気回復
  ほか
第2章 正しい「成長戦略」の難しさ
 日本の生産性は低いという通説
 生産性上昇率は米欧も低い
  ほか
第3章 2%物価目標と異次元緩和
 「日銀は変わった」というメッセージ
 本当は異次元ではなかった異次元緩和
  ほか
第4章 強まる金融政策の限界
 自然利子率の低下
 金利の実効下限とリバーサルレート
  ほか
第5章 重要性を増す財政の役割(日本の財政は破綻するのか
 金利が上昇する「何らかの理由」とは
  ほか
 
【著者】
門間 一夫 (モンマ カズオ) 
 みずほリサーチ&テクノロジーズ・エグゼクティブエコノミスト。1957年生まれ。1981年東京大学経済学部卒業後、日本銀行入行。1988年ペンシルバニア大学ウォートン校経営大学院MBA取得。日銀では、調査統計局長、企画局長を経て2012年5月金融政策担当理事に就任し、白川方明総裁の下で「2%物価安定目標」の採択に至る局面を担当。2013年3月から国際担当理事として、G7やG20などの国際会議で黒田東彦総裁を補佐。2016年6月から現職。
 
【抜書】
●合成の誤謬(p56)
 個々の企業は合理的な経営判断のもとに、必要でない人件費を抑制してきた。しかし、個々の企業は合理的でも、全体として「人件費抑制⇒個人消費の停滞⇒国内市場の低迷」という連鎖が働く。市場が冷え込めば、企業にとって国内の投資や人件費を抑制することがますます合理的になる。
 ミクロの合理的な判断がマクロでは国内市場の縮小スパイラルを生む、という「合成の誤謬」が働いてきた。
 
●貧富の格差(p65)
〔 逃げられないのは労働者・消費者である。経済と金融のグローバル化は、国境を容易に越えられる者とそうでない者を分け、後者に負担を寄せていく力として作用してきた可能性がある。国境を容易に越えられる企業にとっては、グローバル化によって企業価値を最大化する選択肢が広がったのであり、合法的な租税回避行動もそのひとつである。〕
 
●サービス産業の生み出す価値(p89)
〔 しかし、サービス産業が生み出す価値は、それぞれの国やライフスタイルと密接不可分である。「品質もそろえた同じ価値サービス」など、国が違えば存在しない場合が多い。米欧諸国間の比較はまだよいとしても、日本のように米欧と生活習慣が異なる国は比較が難しい。たとえば日本の温泉旅館や寿司屋の生産性を、米国の何とどう比べたらよいのだろうか。日本の医療体制はコロナ禍では様々な課題に直面したが、少なくとも平時の医療サービスが日本ほど便利な国はない。町の交番を含めた日本の治安サービスは世界に冠たる質を誇るとされる。「便利」「安全」「正確」「清潔」がもたらす価値は、生産性の国際比較には反映されにくい。〕
 
●やりきった(p156)
〔 ところが、異次元緩和の開始から数年経過した時点で、二つの重要な事実が明らかになった。それは、①「全部盛り」の異次元緩和でも2%物価目標の達成は難しい、②2%物価目標が未達でも人手不足が深刻化するほど経済は改善する、の二つである。つまり、2%物価目標は「できもしないし、要りもしない」ことが明らかになった。もし、日銀が中途半端な緩和しか行っていなければ、「もっと大胆な緩和を行っていれば2%物価目標は達成できたはずであり、それによって日本経済はもっと良くなっていたはずだ」という誤った認識が、今も残っていた可能性が高い。〕
 
●ニュメレール(p219)
 価値尺度材。相対価格の基準となる財のこと。
 現実の世界では、金利が常にゼロとなる貨幣(=現金)が基準財(ニュメレール)の役割を果たしている。
 現金をなくしてデジタル通貨に完全に置き換える時代が来たら、デジタル通貨に決して金利を付けてはいけない。どんな未来が来ても、相対価格、相対金利の基準となる絶対座標軸は、何か一つ必要である。現金が消えるのであれば、その役割を引き継ぐデジタル通貨の金利は、永遠に「ゼロ」に固定しなければならない。
 「現金をなくせば金融緩和の地平が広がる」のではなく、「現金をなくしたらデジタル通貨に金利はつけられない」のである。
 
(2024/3/22)NM
 
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細部から読みとく西洋美術 めくるめく名作鑑賞100
 [芸術]

細部から読みとく西洋美術 めくるめく名作鑑賞100
 
スージー・ホッジ/著 中山ゆかり/訳
出版社名:フィルムアート社
出版年月:2023年9月
ISBNコード:978-4-8459-2119-5
税込価格:4,180円
頁数・縦:439p・26cm
 
 西洋美術の歴史を概観し、ひととおり頭に入れておこうと思って読んでみた。しかし、なかなか絵画と画家が一致しない。こういう本は、本来は手もとにおいて時折眺めるのがいいのである。
 気になった絵と画家は……。
 ヤン・ファン・エイク「アルノルフィーニ夫妻の肖像」、1434年
 サンドロ・ボッティチェリ「春(プリマヴェーラ)」、1481-82年頃
《16世紀》
 ヒエロニムス・ボス「快楽の園」、1500-05年頃
 アルブレヒト・デューラー「東方三博士の礼拝」、1504年
 ミケランジェロ「システィーナ礼拝堂の天井画」、1508-12年
 ラファエロ「アテネの学堂」、1510-11年
 ティツィアーノ「バッカスとアリアドネ」、1520-23年頃
 ティントレット「磔刑」、1565年
 エル・グレコ「オルガス伯の埋葬」、1586-88年
《17世紀》
 カラヴァッジョ「エマオの晩餐」、1601年
 ペーテル・パウル・ルーベンス「十字架昇架」、1610-11年
 アルテミジア・ジェンティレスキ「ホロフェルネスの首を斬るユディット」、1620年頃
 レンブラント・ファン・レイン「夜警」、1642年
 ディエゴ・ベラスケス「ラス・メニーナス」、1656年
 ヤン・フェルメール「ギター弾く女」、1670-72年頃
《18世紀》
 アントワーヌ・ヴァトー「ヴェネツィアの祝宴」、1718-19年
 ジャン・オノレ・フラゴナール「音楽コンテスト」、1754-55年頃
 ジャック=ルイ・ダヴィッド「ホラティウス兄弟の誓い」、1784年
《19世紀》
 ジャン=オーギュスト=ドミニク・アングル「王座のナポレオン1世」、1806年
 フランシスコ・デ・ゴヤ「マドリード、1808年5月3日」、1814年
 ジョン・コンスタブル「チェーン桟橋、ブライトン」、1826-27年
 ウジェーヌ・ドラクロワ「十字軍のコンスタンティノープル占領」、1840年
 J・M・W・ターナー「雨、蒸気、速度――グレート・ウェスタン鉄道」、1844年
 ジョン・エヴェレット・ミレイ「オフィーリア」、1851-52年
 ウィリアム・ホルマン・ハント「良心の目覚め」、1853年
 ギュスターヴ・クールベ「画家のアトリエ」、1854-55年
 ジャン・フランソワ・ミレー「落ち穂拾い」、1857年
 エドゥアール・マネ「草上の昼食」、1862-63年
 クロード・モネ「秋の効果、アルジャントゥイユ」、1873年
 ピエール・オーギュスト・ルノワール「陽光の中の裸婦」、1875-76年
 ジョルジュ=ピエール・スーラ「アニエールの水浴」、1884年
 ポール・ゴーガン「説教のあとの幻影」、1888年
 フィンセント・ファン・ゴッホ「パイプが置かれた椅子」、1888年
 エドガー・ドガ「入浴後、身体を拭く女性」、1890-95年
 アンリ・ルソー「熱帯嵐の中のトラ(不意打ち!)」、1891年
 アンリ・ド・トゥルーズ=ロートレック「ムーラン・ルージュにて」、1892-95年
 エドヴァルド・ムンク「叫び」、1893年
 ポール・セザンヌ「キューピッドの石膏像のある静物」、1895年
 カミーユ・ピサロ「夜のモンマルトル大通り」、1897年
 (1900年以降、省略)
 
【目次】
 
【著者】
ホッジ,スージー (Hodge, Susie)
  美術史家、作家、アーティスト、ジャーナリスト、英国王立技芸協会フェロー。美術史、実用美術、歴史に関する100冊以上の著書がある。雑誌記事、美術館やギャラリーのウェブ用の資料も執筆しており、世界中の学校、大学、美術館、ギャラリー、企業、芸術祭、美術団体などのためにワークショップや講義を主宰・提供している。ラジオやテレビのニュース番組、ドキュメンタリー番組の常連コメンテーターであり、『インディペンデント』紙のNo.1アートライターに2度選出された。
 
中山 ゆかり (ナカヤマ ユカリ)
 翻訳家。慶應義塾大学法学部卒業。英国イースト・アングリア大学にて、美術・建築史学科大学院ディプロマを取得。
 
(2024/3/13)NM
 
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動物感覚 アニマル・マインドを読み解く
 [自然科学]

動物感覚 アニマル・マインドを読み解く
 
テンプル・グランディン/著 キャサリン・ジョンソン/著 中尾ゆかり/訳
出版社名:NHK出版
出版年月:2006年5月
ISBNコード :978-4-14-081115-3
税込価格:3,520円
頁数・縦:443, 17p・20cm
 
 自閉症の動物学者が、動物の知性と意識に関して考察し、動物との正しい関わり方を教示する。
 
【目次】
第1章 私の動物歴
第2章 動物はこんなふうに世界を知覚する
第3章 動物の気持ち
第4章 動物の攻撃性
第5章 痛みと苦しみ
第6章 動物はこんなふうに考える
第7章 動物の天才、驚異的な才能
動物の行動と訓練の仕方の問題点を解決する
 
【著者】
グランディン,テンプル (Grandin, Temple)
 コロラド州立大学准教授。イリノイ大学で動物科学博士号を取得。自ら経営する会社、グランディン・ライヴストック・システムズを通じて、アメリカ国内のファーストフードの指定業者と提携し、世界中の動物施設の状況を監査する。動物科学と自閉症について講演を行い、多くの自閉症の人々とその家族の模範となっている。
 
ジョンソン,キャサリン (Johnson, Catherine)
 脳と神経精神病学を専門とする著述家。全米自閉症研究連盟会理事を7年間務めた。夫と子どもたちとともにニューヨーク州アーヴィントン在住。
 
中尾 ゆかり (ナカオ ユカリ)
 1950年生まれ。西南学院大学文学部卒業、現在翻訳業。
 
【抜書】
●ふつうの人(p39)
〔 ふつうの人が自閉症の子どもを「自分の狭い世界に閉じこもっている」と判で押したようにいうのを聞いて、いつも何となくおかしくなる。動物を相手にしばらく仕事をしていると、ふつうの人にも同じことがいえるのが分かってくる。彼らがほとんど受け入れていない広大な世界があるのだ。たとえば、犬は私たちには聞こえない音域の音を聞いている。自閉症の人と動物は、ふつうの人には見えない、あるいは見ていない視覚の世界を見ている。〕
 
●抽象思考人間(p43)
〔 ふつうの人が大脳に頼りすぎるのは困ったことだ。私はこれを思考が抽象化されているという。〕
 〔この手の計画をまとめるには、優秀な専任の現地調査員が必要だ。ところが、当節は抽象思考人間が担当していて、現実にもとづかない抽象的な議論や論争にしばられる。これは、政府内に派閥抗争が多い理由にもなっているのだろう。私の経験では、人は抽象的に考えると、ますます過激になる。いつまでたっても終わらない論争の泥沼にはまり、現実の世界からかけはなれていく。唯一すべてに片がつくのは、緊急事態の場合のみだ。そうなると、たちまち、だれもが行動せざるをえない。〕
 
●犬の近視(p61)
 犬の視力は、犬種によっても違う。
 ジャーマンシェパードとロットワイラーは近視が多い。前者は53%、後者は64%が近視。
 近視の犬は、正常な犬に輪をかけて視力が悪い。
 
●意識(p71)
 定位反応……動物が生まれながらに持っている反応。初めて聞いたり見たりするものに、自動的に反応を示す。
 〔動物は、音にどう対処するか意識的に決断しなければならないのだから、定位反応は意識のはじまりだと私は考える。被食動物であれば、逃げなければならないのか。捕食動物なら、なにかを追う必要があるのか。捕食動物も逃げなければならない場合がもちろんあるだろうから、ふたとおりの決断に迫られることになる。〕
 
●TRP2(p87)
 ヒトを含めた旧世界霊長類は、フェロモン系が退化した。TRP2と呼ばれる遺伝子に、多数の突然変異を持っている。TRP2は、「フェロモンの情報を伝える経路」。
 旧世界霊長類のTRP2遺伝子が劣化しはじめた時期は、三色型色覚を発達させた2,300万年前ごろ。ミシガン大学の進化生物学者ジャンツィ・ジョージ・ツァンによる。
 三色で見えるようになると、嗅覚の代わりに視覚を使って連れ合いを見つけるようになった?
 
●探索システム(p130)
 ドーパミンは、脳内の快楽物質と考えられてきた。快楽中枢(報酬中枢)を刺激する。コカイン、ニコチンなどの刺激物は脳内のドーパミン値を上昇させる。
 探索回路にかかわる主要な神経伝達物質もドーパミンである。
 新しい説では、コカインのような薬物が快感を与えるのは快楽中枢ではなく、脳内の探索システムを激しく刺激するからだと考える。好奇心/関心/期待回路が刺激され、それが快く感じられる。
 (1)脳のこの部分を刺激されている動物が、強い好奇心があるように行動する。
 (2)脳のこの部分を刺激されている人間が、楽しくて興味津々だと述べる。
 (3)脳のこの部分は、動物が近くに食べ物がありそうな気配を感じると活発になり、実際に食べ物を見ると活動が止まる。
 
●痛みを隠す(p240)
 動物は、痛みを隠す。
 自然界では、傷ついた動物は捕食動物に殺される可能性が高いので、どこも悪くないようにふるまう習性を生まれつき持っている。
 ヒツジやヤギやレイヨウなど小型のか弱い被食動物はとりわけ我慢強い。捕食動物はそうでもない。猫は怪我をすると脳天を突き抜けるような声で鳴きわめき、犬は人に足を踏んづけただけでも殺されかけているような悲鳴を上げる。
 
●恐怖、不安(p254)
 恐怖……外からの脅威に対する反応。
 不安……心の中の脅威に対する反応。
 恐怖と不安の根底にある脳のシステムが同じものかどうかは、明らかになっていない。ウィスコンシン大学の精神科医ネッド・カリンの調査では、「恐怖の刺激に対する最初の反応」と「心配性」に違いがあることが分かった。恐怖の刺激を司るのは偏桃体。心配性にかかわるのは前頭前野。
 
●AOS、MOS(p268)
 どの動物にも、二通りの嗅覚系統がある。
 近距離のにおい感知システム(副嗅覚系AOS)と、遠距離のにおい感知システム(主嗅覚系MOS)。
 AOSは、脳内の恐怖中枢と結びついているが、MOSはそうではない。
 
●プレーリードッグの言語(p359)
 北アリゾナ大学のコン・スロバチコフの研究。
 米国およびメキシコに生息するガニソン・プレーリードッグの危険を知らせる鳴き声を分析して、名詞、動詞、形容詞を備えた意思伝達システムがあることを発見した。
 どんな種類の捕食者(人間、タカ、コヨーテ、犬:名詞)が接近しているのか、どんな速度で移動しているのか(動詞)を教えあう。また、身体の大きさや形ばかりではなく、服の色(形容詞)まで教えあっている。さらに、いきなり襲うコヨーテなのか、巣穴の前で辛抱強く待つコヨーテなのか、コヨーテを一匹ずつ識別している。
 これらの鳴き方を、学習によって身につけている。群れによってそれぞれの方言がある。
《言語の定義》
 ・意味。
 ・生産性……同じ言葉を使って無限の数の意思伝達が新たにできる。
 ・超越性……言葉を使って、目の前にないものについて話すことができる。
 プレーリードッグの『言語」の超越性に関しては、まだわかなっていない。
 
●シーザーアラート(p378)
 シーザー・レスポンス……発作反応。犬が、人間の発作に反応してサポートすること。ケガをしないように体の上に覆いかぶさる、薬や電話機を持ってくる、家族に知らせる、など。
 シーザー・アラート……発作感知。発作を予測して、本人に警告してくれる。
 ある調査では、シーザー・レスポンス犬からシーザー・アラート犬に進歩したのは10%。犬が自ら学習した。
 
●オオカミ(p398)
 人間はオオカミのおかげで進歩した。
〔 人間が動物を飼いならした話や、オオカミを犬に変えたという話はつねに耳にする。ところが新しい研究では、オオカミのほうが人間を飼いならしたかもしれないということもあきらかになっている。人間はオオカミとともに進化したのだ。〕
 最初に埋葬された犬は、1万4千年前。
 DNA調査では、犬がオオカミから分離したのは13万5千年前。10万年前より、人骨の付近にオオカミの骨がたくさん見つかる。
 オーストラリアの考古学者のチームは、原始人はオオカミと仲間だった時代に「オオカミのように行動して考えることを学んだ」と確信している。
 オオカミは集団で狩りをし、複雑な社会構造があり、同性の非血縁者との間で誠実な友情がある。さらに縄張り意識も強い。これらは、現生人類では認められるが、どの霊長類にもないことである。チンパンジーにも。
 
●脳の大きさ(p400)
 動物は、飼いならされると脳が小さくなる。
 馬の脳は16%、豚の脳は34%、犬の脳は10~30%、小さくなった。前頭葉がある前脳と、左右の脳を繋ぐ脳梁が小さくなった。
 人間の脳は、10%小さくなった。情動と知覚情報を司る中脳と、嗅覚を司る嗅球が小さくなり、脳梁と前脳の大きさは変わらない。
 犬と人間の脳は専門化された。人間は仕事の計画と組織化を引き受け、犬は知覚の仕事を引き受けた。犬と人間はともに進化して、よき伴侶、よき友達になった。
 
【ツッコミ処】
・チャット生成AI(p350)
 ディスプレイ画面の上半分に小さな点が現れたらレバーを押さなければならない実験。点が画面の上部に現れる時間の割合を70%に設定。
 罰がないので、ネズミは実験時間の100%、レバーを押した。ヒトは、出現パターンをあれこれ考え、ネズミほど頻繁にレバーを押さなかった。
〔 ネズミが人間よりも成績がよかったのは、前頭葉の能力が低いか、あるいは言語がないせいか、あるいはその両方だったのだろう。人間についてひとつわかっているのは、意識的な言語をつかさどる左脳が、状況を説明する話をつねにつくりあげていることだ。ふつうの人の左脳の中には「通訳」がいて、なにかをしているときや思い出しているときはいつも、それについてでたらめでこまかな情報をかたっぱしから取り入れて、すべてをすじの通るひとつの話にまとめあげる。つじつまの合わない情報があるときには、たいていの場合、削除するか書きかえる。左脳がつくる話の中には、いちじるしく現実離れしていて、創作と思えるものもある。〕
  ↓
 人間の頭のなかも、ChatGPTなどのチャット生成AIと同じことをやっている、ということか??
 
(2024/3/7)NM
 
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日本の動物絵画史

日本の動物絵画史
 
金子信久/著
出版社名:NHK出版(NHK出新書 713)
出版年月:2024年1月
ISBNコード:978-4-14-088713-4
税込価格:1,485円
頁数・縦:286p・18cm
 
 動物を題材とした日本の絵画史を概観する。
 西洋とは異なり、日本では古代からさまざまな動物が絵画に登場した。
 
【目次】
1 信仰と動物、失われた美術―古代・中世
 海を越えて来た動物の絵
 “鳥獣戯画”のどこがすごいのか?
 失われた愉快な世界
 鹿と竜―神の使いと仏の守護神
 涅槃図に描かれた動物
 禅宗と動物の絵
2 平和な社会と多彩な動物絵画―近世
 獅子と鳳凰
 縁起物から生まれる創作
 図鑑に心を遊ばせる
 本物に迫る
 花開く自由な造形
3 動物の心と人の心―近世~近代
 「禅画の虎」の遺伝子
 絵の中の動物を愛おしむ
 禅画の動物が教えてくれること
 仏の国の動物
 動物を使った風刺画
 近代の美術家と動物
 
【著者】
金子 信久 (カネコ ノブヒサ)
 1962年、東京都生まれ。1985年、慶のことを指した。
 應義塾大学文学部哲学科美学美術史学専攻卒業。府中市美術館学芸員。専門は江戸時代絵画史。
 
【抜書】
●写生(p143)
 円山応挙の本物のように描くスタイルは、当時「写生」という言葉で呼ばれていた。
 しかし、スケッチという意味ではなく、立体感や奥行きのある描き方のこと。
 
●動物を描いた画家たち(p205)
 円山応挙の子犬、長沢蘆雪の子犬と雀、森狙仙の猿、歌川国芳の猫、伊藤若冲の鶏。
 
●風刺画(p262)
〔 本章では、動物を使った風刺画をめぐって色々考えてみた。動物による風刺画が根を下ろさなかったことは、日本の動物絵画の歴史を考えるうえで重要なポイントになるのではないかと、私は感じている。動物に神聖さ、かわいらしさを感じて、それを絵画に表現してきた江戸時代までの歴史と、何か繋がりがあるかもしれない。〕
 キリスト教西洋では、動物は人間より劣った存在としてとらえられている。しかし日本では、仏教の影響で多情仏心、動物にも人と同じ生命が宿ると考える。
 
(2024/2/29)NM
 
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