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沖縄から貧困がなくならない本当の理由
 [社会・政治・時事]

沖縄から貧困がなくならない本当の理由 (光文社新書)  
樋口耕太郎/著
出版社名:光文社(光文社新書 1072)
出版年月:2020年6月
ISBNコード:978-4-334-04479-4
税込価格:990円
頁数・縦:250p・18cm
 
 ホテル再建のために沖縄に赴任し、成功しながらそこをクビになってからもそのまま移住して沖縄を見続けた著者による、沖縄論、沖縄人(ウチナーンチュ)論。
 沖縄の「貧困」を手掛かりにして語られるわけだが、その貧困の背景にあるウチナーンチュの性格がよくわかる1冊だ。変化を嫌い、同調圧力によって「つよいものいじめ」をし、身内の人間関係を大切にする。ちょっと誇張もあるように思えるが、身近な沖縄出身者に照らして考えると、妙に納得させられる。それでも、いい人たちなのである。まあ、沖縄らしくて、それでもいいんじゃない? という気にはさせられる。
 また、本土に対する沖縄の「参入障壁」は、米国対日本の貿易摩擦を思い出させた。よく似た構図なのである。沖縄は、まさに日本の縮図なのかもしれない。
 
【目次】
はじめに 沖縄は、見かけとはまったく違う社会である
第1章 「オリオン買収」は何を意味するのか
第2章 人間関係の経済
第3章 沖縄は貧困に支えられている
第4章 自分を愛せないウチナーンチュ
第5章 キャンドルサービス
おわりに これからの沖縄の生きる道
 
【著者】
樋口 耕太郎 (ヒグチ コウタロウ)
 1965年生まれ、岩手県盛岡市出身。’89年、筑波大学比較文化学類卒業、野村證券入社。’93年、米国野村證券。’97年、ニューヨーク大学経営学修士課程修了。2001年、不動産トレーディング会社レーサムリサーチへ移籍し金融事業を統括。’04年、沖縄のサンマリーナホテルを取得し、愛を経営理念とする独特の手法で再生。’06年、事業再生を専業とするトリニティ設立、代表取締役社長(現任)。’12年、沖縄大学人文学部国際コミュニケーション学科准教授(現任)。内閣府・沖縄県主催「金融人財育成講座」講師。沖縄経済同友会常任幹事。『沖縄から貧困がなくならない本当の理由』が初の著書。
 
【抜書】
●松山(p21)
 水~土曜日のほぼ毎晩、午後8時半から午前2時まで、那覇市の繁華街・松山の「ある店」にいる。沖縄県内外の知識人が集まる飲食店。知る人ぞ知る有名店。カラオケもなく、女の子もいないので、基本的に会話だけで成り立っている場所。
 ※麗王(れお)という店らしい。 http://www.trinityinc.jp/updated/?p=5981
 
●基地関連収入(p28)
 沖縄の「基地関連収入」は、県民総所得の5%程度とされる。
 基地関連収入とは、
  ① 軍用地料
  ② 軍雇用者所得
  ③ 米軍等への財・サービスの提供
 上記以外に、年間3,000億円を超える、様々な沖縄「振興」予算がある。有形無形の補助金、税制優遇、観光プロモーション、政治的配慮による数々のイベントやプロジェクト、など。普天間飛行場の辺野古移設に対して事実上のバーターとして提供される一括交付金も。
 1995年9月4日の米兵少女暴行事件を期に、「振興」予算が増えた。
 1997年6月、島田懇談会(座長:慶応大学・島田晴雄教授)設立。事業予算1,000億円。NAHAぶんかテンプス(国際通り、14億円)、宜野湾港マリーナ整備(11億円)、浦添市産業振興センター・結(ゆい)の街(19億円)、名護市立動植物公園ネオパークオキナワ(33億円)、沖縄こどもの国・こども未来館(46億円)、コザ・ミュージックタウン(29億円)、かんなタラソ(22億円)、読谷村・先進農業支援センター(25億円)、嘉手納タウンセンター(165億円)、ちゃたんニライセンター(40億円)、など46事業。
 1999年、普天間飛行場移設を視野に入れた北部振興策(2000~14年度)に1,026億円計上。
 2000年、平和祈念資料館が、沖縄戦跡国定公園内に改装オープン。73億円。
 2002年、美ら海水族館(新館)オープン。145億円。
 2004年、沖縄工業高等専門学校が名護市辺野古に設立。117億円(土地購入代を除く)。
 同年、国立劇場おきなわ開場。100億円。
 2012年、沖縄科学技術大学院大学が恩納村に開学。1,990億円。
 
●酒税軽減措置(p30)
 沖縄で生産・販売される酒類について、泡盛は35%、ビール等は20%の酒税減免措置が、1972年の本土復帰以来、続いている。
 軽減された酒税の合計額は、復帰から2016年までの累計で1,287憶円。
 うち、オリオンビールは約700憶円の軽減措置を一社で享受している。2018年の当期利益は23億円。復帰以来の利益すべてを合計すると520憶円。減税がなければ赤字? しかし、復帰前には県内9割のシェアを押さえていたが、現在では44%。
 2019年1月、オリオンビールは、野村ホールディングスと米投資ファンドのカーライル・グループへの身売りを決断。48年間続いた酒税の優遇措置がそろそろ廃止されるのではないかという見通しのため。
 
●DFSギャラリア・沖縄(p49)
 2004年、沖縄振興特別措置法によってDFSギャラリア・沖縄が開業。
 国内にいながら免税品の購入ができる、全国で唯一のお店。
 
●出る杭(p76)
 運転中、警告のためにクラクションを鳴らしただけで周りから白い目で見られる。被害者ではなく、加害者と見なされる。
〔 沖縄社会は、現状維持が鉄則で、同調圧力が強く、出る杭の存在を許さない。
 この社会習慣は、人が個性を発揮しづらく、お互いが切磋琢磨できず、成長しようとする若者から挑戦と失敗の機会を奪うという、重大な弊害を生んでいる。善意をもって注意すること、学生に厳しく叱ること、部下に仕事を徹底して教えること、友人に欠点を指摘すること、将来のために現実的な議論を戦わせることなどの多くが、沖縄では最も困難なことだ。
 はっきりとした物言いをする人に対しては、表面上はやんわり、目には見えないほどの微妙さで、その発言を取り消せと言わんばかりの強い同調圧力がかかる。
 だから、自分の意見は常に他人の出方を見てから言う。
 自分の意見が際立つくらいなら、いっそ意見を持たない方がいい。うかつに意見を述べると、クラクションを鳴らして、自分が「加害者」になってしまうからだ。〕
 
●できるものいじめ(p85)
〔 乱暴な一般化を試みると、本土のいじめは「弱いものいじめ」である。仕事のできないもの、いつまでも学ばないもの、やる気のないものに強い圧力がかかる。
 これに対して、沖縄のいじめは「できるものいじめ」だ。個性的な人物、一所懸命でまわりが見えていない人物、悪意なくクラクションを鳴らしてしまうタイプがターゲットになりやすい。〕
 
●人間関係の経済(p95)
 沖縄社会では、商品よりもサービスよりも価格よりも、人間関係のバランスによって経済が動く。
 高くても、味が平凡でも、他に優れた商品があっても、同じ店で同じ商品を買い続ける。
 沖縄には、独自の定番商品がある。なぜか他府県産。まるこめ酢(鹿児島県産)、ボンカレー(大阪府)、金ちゃんヌードル(徳島県)、A1ソース(イギリス製)、ポーク(米国製SPAMまたはデンマーク製チューリップ)、など。
 
●貧困(p130)
 人間関係の経済に支えられた沖縄企業が強固であるにもかかわらず貧困がなくならない理由。
〔 沖縄の貧困が(沖縄の低所得者が)沖縄の企業を強固に支えているのだ。極端に言えば、沖縄の社会構造の中では、(悪意なく)変化を止め、(無意識のうちに)足を引っ張り、個性を殺し、成長を避けることが「経済合理性」だったのだ。〕
〔 沖縄社会が貧困なのは、貧困であることに(経済)合理性が存在するからだ。
 これが、「沖縄から貧困がなくならない本当の理由」である。〕
 
●自尊心(p133)
 自尊心の低さ……貧困を生み出す沖縄の社会構造の下に、もう一つ存在する根本原因。
 自尊心とは、自分を愛する力のこと。
〔 自分を愛する力は、自分を生きる力、人と向き合う力、生産的な人生を送る力……あらゆる力の源である。
 自分を大切にする人は、他人を大切にできる。自分を尊敬できる人は、他人を尊敬できる。〕
 利己的な人すなわち利己主義者は、自分を「愛しすぎる」のではなく、「愛さなすぎる」。自分を憎んでさえいる。それを埋め合わせるため、ごまかそうとしている。(エーリッヒ・フロム『愛するということ』)
 
●愛の経営(p188)
 人に関心を向けるのではなく、人の関心に関心を注ぐ。
 
●新型コロナ(p230)
〔 ……不謹慎な考えかもしれないのだが、人が亡くなってしまうことと、経済的に困窮することを(敢えて)除いて考えると、新型コロナウイルスは、二酸化炭素の放出を大幅に減らし、空気汚染を激減させ、不要不急の(無駄な)仕事を減らし、非効率な会議を減らし、同調圧力的な仕事を減らし、刹那的な娯楽を減らし、無駄な飲み会の誘いを断りやすくし、自宅での料理を増やし、家族の会話を増やし、一方で、夫婦間であっても親子間であっても(既に破綻していた)偽りの人間関係を表面化させ、おそらく子どもを増やす効果がある。
 つまり、環境問題、働き方改革の問題、家族の絆の問題、自分を見つめるという問題、大切な人を大切にするという課題、少子化問題……現代社会が抱える大問題の全てに、全世界的に、爆発的に(おそらく正の)影響力がある。これらのことを、人為的に、政治的に実現することは、ほぼ不可能に近いのではないか。
 しばらく後になってからでなければ、この出来事の本当の意味は分からないかもしれないが、その予兆はある。新型コロナが、単なる感染症の問題、経済縮小の問題を超えて、世界的な社会の枠組みを大きく変化するきっかけになるという可能性だ。なぜならば、私たちがこれまでどうしても必要だと信じ、守り続けてきたことが、実はそれほど重要ではなかったかもしれない、というパラダイムシフトが全世界で生じているように見えるからだ。〕
 
(2020/10/6)KG
 
〈この本の詳細〉


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