SSブログ

古代マヤ文明 栄華と衰亡の3000年
 [歴史・地理・民俗]

古代マヤ文明-栄華と衰亡の3000年 (中公新書)
 
鈴木真太郎/著
出版社名:中央公論新社(中公新書 2623)
出版年月:2020年12月
ISBNコード:978-4-12-102623-1
税込価格:1,056円
頁数・縦:304p・18cm
 
 古代マヤ文明を専門とする考古人骨研究者による、古代マヤ文明の概説書。マヤの王朝史や考古学の科学的研究法、バイオアーキオロジーからマヤ人の食事まで、多角的に紹介する。
 
【目次】
序章 マヤ文明研究の歴史
第1章 考古学と形質人類学―バイオアーキオロジーの誕生
第2章 南部周縁地―グアテマラ南海岸地方、エル・サルバドル、ホンジュラス
第3章 人は動く―移民動態の研究
第4章 グアテマラ高地、マヤ王国の終焉
第5章 古代の食卓―マヤご飯
第6章 ペテン地方―密林に眠る神聖王の群雄活劇
第7章 古代マヤにおける戦争
第8章 灼熱のユカタン半島を行く
第9章 肉体は文化を語る
 
【著者】
鈴木 真太郎 (スズキ シンタロウ)
 1979年生まれ。2002年上智大学外国語学部卒業。2008年ユカタン自治大学骨人類学修士課程修了。ホンジュラス共和国コパン遺跡の調査発掘・保存業務に従事。2009年ユカタン自治大学人類学部助手。2015年メキシコ国立自治大学哲文学部メソアメリカ地域研究科博士課程修了。現在、岡山大学大学院社会文化科学研究科講師。文部科学省卓越研究員事業平成30年度卓越研究員。
 
【抜書】
●加工品(p14)
〔 さらに、人骨に残される活動の印は、力学的に創出される骨格上の特徴だけではない。活動や生活様式によって栄養状態や衛生状態に悪影響が及べば、それが病変という形で現出したり、食料事情は体内に蓄積される化学的な元素の違いとして現れたりもする。つまり古人骨は遺伝的、生物学的な多様性を表すだけではない。その個人が生きた社会、文化、時代を反映する非常に強い考古情報を含むまさに“加工品”なのである。〕
 
●住居址(p16)
 古代マヤ人たちは、死者を住居の下もしくは周囲に埋葬した。
 マヤ文明圏の場合、住居址はほぼ必ずその世帯に暮らした人々の埋葬地である。
 
●時代区分(p19)
 パレオ・インディアン期……BC1万3000年頃~BC7000年頃。
 古期……BC7000年頃~BC2000年頃。狩猟採集生活から、カリブ海や太平洋沿岸部にて、すこしずつ定住傾向を強くしていく。内陸部でも、トウモロコシ、トウガラシ、カボチャ、豆類などの簡易栽培が始まる。
 先古典期……BC2000年頃~AD250年頃。
 ・前期(~BC1000年頃):メキシコ湾岸やメキシコ南部のオアハカ盆地に複雑な社会構造を持った定住農耕共同体が出現。
 ・中期(~BC400年頃):マヤ文明圏に明白な社会の階層化が起こり、世襲の為政者を伴った国家機構の端緒が見られる。
 ・後期(~BC100年頃):神聖王という概念や、マヤ文字による筆記のシステムの萌芽が見られる。
 ・終末期(~AD250年頃):ペテン地方でマヤ文明の最盛期を彩る諸王朝が勃興する。
 古典期……AD250~950年頃。ティカルやコパン、パレンケなど古代マヤ文明を代表する大都市が最盛期を迎え、芸術、数学、天文や建築など、古典期マヤ文化が絢爛豪華に花開く。神聖王の王国が「謎の崩壊」を迎え、都市が放棄される「古典期マヤ文明の崩壊」。
 ・前期(~600年頃)、後期(~800年頃):神聖王による中央集権国家が誕生・成熟し、相争う時代。
 ・終末期(~950年頃):神聖王による統治システムが衰退し、崩壊が起こり、やがて貴族による合議政治体制へと国家のあり方が変わっていく。
 
●ホヤ・デ・セレン(p47)
 AD600年前後に起きたロマ・カルデラ火山の噴火によって壊滅した、エル・サルバドルの小規模村落。古代の市井が分厚い火山灰の層に埋まる、「中米のポンペイ」ともいうべき遺跡。
 1976年に、小麦保存用のサイロを建設していたブルドーザーが偶然に発見した。
 石造りが一般的な大都市とは異なり、建物の土台が土で出来ている。
 家々の周囲には、トウモロコシやキャッサバ、その他の作物が別々の畑で計画的に栽培されていた。畑を柵で囲み、畝を作っていた。
 住人の遺体が全く残されていない。人々が、非常に迅速にかつ適切に退避することができたらしい。自然災害に対する優れた危機管理の知見が、十分に蓄積されていたと考えられる。
 
●トウモロコシ神話(p114)
 グアテマラ高地のキチェ族が植民地時代の初期に残した歴史文書『ポポル・ヴフ』のマヤ創世神話によると、人間はトウモロコシから創造されたとされている。
 神々はまず泥や木で人間を作ろうとして失敗し、トウモロコシのペーストから人間を作った。そして、初めて美しく知性のある人間が生まれたのだという。
 キチェ族のライバルであるカクチケル族の年代記にも、相似の描写がある。
 古典期でも、トウモロコシの神はマヤの神々における主神の一角であった。王はさまざまな儀式で自らを神格化し、トウモロコシと同化しようとした。
 
●ニシュタマル(p116)
 「石灰からの灰」を意味するネシュトリと「調理されたトウモロコシの生地」を意味するタマリから成る。中央メキシコのナワ語群の言語に由来。
 古代マヤに限らず、メソアメリカの全古代文明、さらに現代のメキシコ、中央アメリカでも行われている調理法。
 石灰水でトウモロコシの粒を下茹でする。その際に化学変化が起こり、トウモロコシの栄養価が高まる。カルシウムで20%、リンで15%、鉄分で37%、栄養価が上昇する。ナイアシンなどの栄養素も、人体に吸収可能な形態へ変化する。粒そのものも柔らかく美味しくなり、さらに粉末化され長期保存も可能になる。
 現在、メキシコ料理などで使われるトウモロコシの生地はほぼすべてがニシュタマルである。
 
●蛇の国(p152)
 562年の「星の戦争」以降、ティカル王朝が没落し、カラクムルを首都とする蛇の国が台頭する。古典期前期の終盤、7世紀の中頃にかけて蛇の国が最盛期を迎える。
 636年、36歳で蛇の王座に就いたユクノーム・チェーン2世が、強大な武力と政略結婚を巧みに操り、50年にわたって古典期マヤ世界に君臨する。唯一、後世の研究者に「大王」と称される人物。
 星の戦争……通常の攻撃、局地的な襲撃ではない、国と国との「征服」をかけた激突のことを、「星の戦争」と呼ぶ。562年の戦争は、マヤ文明史上もっとも有名な星の戦争である。
 
●830年(p174)
 古典期マヤの崩壊。
 830年は、古代マヤの暦で長期暦という大きな時のサイクルの一つ、第9のバクトゥンが満了する年。しかし、この大イベントを記録する石碑が見つかっている遺跡はごく少数で、この年を迎える前に大部分の都市がすでに放棄されていたと思われる。
 
●マヤの暦(p181)
 キャン……1日。マヤの暦の最小の単位。実際に古代マヤ人が使っていたことが分かっていて、名称がはっきりしている唯一の単位。
 ウィナル……20日を区切りとする。おおむね、現代人の感覚で1か月に相当する。
 トゥン……ウィナルが18(か月)集まった360日の単位。おおむね1年。
 カトゥン……約20年。
 バクトゥン……約400年。
 バクトゥンの上に、ビクトゥン、カラブトゥン、キンチルトゥン、アラウトゥンという、万年、億年に対応する時間の単位も存在する。
 マヤ文明における2012年世界の滅亡説は、BC3114年に始まった大きな時の単位が、13個のバクトゥン(約5125年)を経て2012年に満了するということに端を発している。実際には、古代マヤの観念では、時間は循環するので、大きな単位が満ちれば、次の大きな時の単位が満ち始める、と考える。
 ハアブ暦……農耕の指標として用いられた正確な太陽暦。360日+5日から成る。
 ツォルキン暦……主に儀礼や宗教行事のために使われる暦。20日×13=260日。
 ハアブ暦とツォルキン暦の組合せが大きく1周してまた最初の組合せに戻る大きなサイクル(365と260の最小公倍数。1万8980日、ハアブで約52年)が、古代マヤでの一つの節目となる。
 
●チチェン・イツァ(p232)
 古典期終末期、チチェン・イツァが、古代マヤ文明史上最強国として君臨する。AD750~800年から約100年間。
 メキシコ湾岸からユカタン半島を回って、ホンジュラス湾岸へ至る広範な交易網を築き、内陸部の河川ネットワークや陸上交易網とつなげる。
 ポポル・ナ(ござの家)……チチェン・イツァの政治機構は、ポポル・ナと呼ばれる合議場で国の意思決定がなされていた。神聖王による支配からの移行。こうした分権統治のシステムは、スペイン制服当時には「ムルテパル」と呼ばれていた。『チラム・バラムの書』という歴史書によれば、「多くの柱が並び立ち、大きく、そして広く開かれた建造物」が合議場として機能していた。
 
●ナイア(p243)
 2007年、ユカタン半島東部のキンタナ・ロー州の世界最大級のセノーテ(オジョ・ネグロ〈黒い穴〉と名付けられる)で見つかった、ほぼ完全な少女の遺骨。15~17歳、1万2000~3000年前。身長148cm、体重50㎏程度。1回以上の妊娠のあとが認められる。
 オオナマケモノやサーベルタイガーのような絶滅種の動物骨とともに発見された。
 
●オルメコイデ(p278)
 先古典期中期後半(BC700~)から後期(BC400~)に多く見られた頭蓋の変形。オルメカ亜種を意味する。オルメカ文化の土偶や石像にみられる頭の形。完全な環状タイプではなく、いくつかの平板を帯のようなものでまとめ、頭に巻き付けるようにして行われる頭蓋の変形。
 
(2021/6/30)NM
 
〈この本の詳細〉


nice!(2)  コメント(0) 
共通テーマ:

nice! 2

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。