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海を越えたジャパン・ティー 緑茶の日米交易史と茶商人たち
 [歴史・地理・民俗]

海を越えたジャパン・ティー:緑茶の日米交易史と茶商人たち
 
ロバート・ヘリヤー/著 村山美雪/訳
出版社名:原書房
出版年月:2022年3月
ISBNコード:978-4-562-07148-7
税込価格:2,750円
頁数・縦:269, 32p・20cm
 
 建国以来150年にわたって、米国では中西部を中心に緑茶が好んで飲まれていたようだ。しかし、太平洋戦争によって日本からの輸入がストップして以降、ジャパンティーの市場は壊滅した。
 その歴史を、米国の事情、日本の事情、双方をからめて丹念にたどる。
 
【目次】
第1章 日本とアメリカ合衆国の茶様式の始まり
第2章 南北戦争中のお茶
第3章 ジャパンティーの誕生
第4章 緑茶地帯と呼ばれたアメリカ中西部
第5章 アメリカに押し寄せた紅茶の波
第6章 日常の茶飲料―アメリカ合衆国の紅茶、日本の煎茶
 
【著者】
ヘリヤー,ロバート (Hellyer, Robert)
 ウェイクフォレスト大学歴史学科准教授。日本で活躍した茶貿易商ヘリヤ商会創業者の子孫。ワシントン州タコマで育ち、JETプログラムのメンバーとして山口県で英語指導を行った時に日本の歴史に興味を持つ。東京大学、ハーバード大学などで研究員を務めた後、ウェイクフォレスト大学で日本、東アジア、世界経済史のコースを担当する。専門は日本の近現代史。
 
村山 美雪 (ムラヤマ ミユキ)
 英米文学翻訳家。東京都出身。外資系商社、出版社勤務を経て翻訳者となる。19世紀の英国を舞台にしたヒストリカル・ロマンス小説のほか、ノンフィクションを含め、出版翻訳をおもに手掛けている。
 
【抜書】
●茶産業(p124)
 〔時計の針を戻して江戸時代の秩序を取り戻そうとしたのはおもに明治維新を先導した地域の人々だった。権力の座から追われた徳川家の元幕臣たちは以前の秩序を取り戻そうとする反乱には加わらなかった。〕
〔 その理由のひとつが、戊辰戦争で薩長同盟に粘り強く抵抗した彰義隊の元隊員たちをはじめ、元幕臣たちが茶の輸出産業の発展により職を得ていたことだ。明治時代初めの急激な社会経済の変化で住まいを追われた平民たちも新たな生業に救われていた。かつての川越人足は茶農家となり、水版画の技術に秀でた芸術家たちはアメリカ合衆国へ出荷される茶箱のラベル作りで日本の新たな時代の広告媒体に移行することができた。さらに農村の女性たちや出稼ぎ労働者たちも、製茶工場でわりのよい給金を稼げるようになった。これらの人々にとっては、茶産業が生み出されたことにより、江戸時代の封建領主の領民から新たな日本国家の国民へ転身する道筋が開かれた。ただし、そうした男女に選挙権は与えられていなかったので、日本の政治制度に参加できたわけではない。それでも政府のスローガンと、もっとまとまりのある国家を作ろうという大きな目標に同調していたのは目に見えてあきらかだ。〕
 
●コロンブス万国博覧会(p161)
 1893年、コロンブスのアメリカ大陸発見から400周年を記念して、シカゴで開かれた。参加46か国。
 日本の展示館は、英国をしのぐほどの展示品の多さで異彩を放っていた。しかし、働く日本人が和装ではなく西洋の服を身に着けていたのが残念がられた。
 茶業組合中央会議所は、三つの茶室を設けた。
 (1)普通の茶席……入場料10セント。若い日本人男性が本物の日本茶(煎茶)とともに和菓子を供し、日本小物のお土産も配られた。
 (2)特別な茶室……入場料25セント。高級茶の玉露が、和菓子とともに純和風で供され、本物の日本茶の見本付き。
 (3)儀式用の茶室……50セント。最高級の抹茶を茶の湯式に供され、菓子が付くほか、袋入りのジャパンティーのお土産が渡された。
 
●日本茶の優位(p195)
 1905年の米国の貿易収支額では、日本茶の輸入は茶全体の40%以上。45%が中国の緑茶と紅茶、15%がインドとセイロンの紅茶。
 翌年には、日本茶は中国の茶を上回り、数十年にわたってその地位を保持し続けた。
 1985年以降、台湾を支配下に置いた日本に台湾島からの烏龍茶が日本の港を通して米国に流れ込んだため?
 それでも、1910年代は、日本の緑茶がほかのどの茶よりも米国に多く輸入される状態が続いた。ほとんどがシカゴを流通拠点として中西部各地に届けられた。
 
●セイロンとインド(p207)
 1920年1月、禁酒法制定。
 アルコールが禁止され、日本茶の需要が高まると期待されたが、それほど伸びなかった。
 一方、この10年でセイロンとインドの紅茶の輸入量が大幅に増え、中国と日本の緑茶の輸入量が徐々に減少していた。
 《日本茶の減った理由》
 ・1920年代初め、ジャパンティー・ブランドが、他国の製品より茎や粗悪な植物の葉が含まれるなど低質だと悪評を受けた。
 ・南アジアのより大きな茶業界がその経済規模を武器にジャパンティーより安価で提供し始めた。
 ・インドとセイロン勢が、紅茶ブランドを宣伝する斬新な広告キャンペーンを打ち出した。中国と日本の茶は不潔な環境で生産され、着色などの不純物も含まれている、というネガティブ・キャンペーンも行った。
 
●軍馬の飼葉(p246)
 日中戦争勃発以降、家庭や店で使った茶葉を回収し、軍馬の飼葉として軍事基地へ送る取り組みが始まった。
 
(2022/6/14)NM
 
〈この本の詳細〉


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