SSブログ

権力にゆがむ専門知 専門家はどう統制されてきたのか
 [社会・政治・時事]

権力にゆがむ専門知 専門家はどう統制されてきたのか (朝日選書)
 
新藤宗幸/著
出版社名:朝日新聞出版(朝日選書 1026)
出版年月:2021年12月
ISBNコード:978-4-02-263116-9
税込価格:1,760円
頁数・縦:249p・19cm
 
 2020年の日本学術会議の新会員任命拒否に端を発した、政治と専門知との問題を、歴史的に掘り下げて論じる。
 中曽根康弘の私的諮問機関から、安倍晋三の有識者会議へ。名称は変わったが、政権が専門知を取り込もうとする傾向と、意に沿わない専門家を排除しようとする傾向、その両面を、具体例をもとに詳述する。戦後直後の経済安定本部の経済学者・エコノミスト招聘から、行政・学界一体となった原子力ムラ、行政と専門知の間で齟齬が生じた新型コロナ対策の専門家会議=分科会など、戦後に現れた政治と専門知のさまざまな関係を追う。
 
【目次】
序章 学術会議任命拒否問題と専門知
1章 政権・官僚機構と専門知―敗戦後、専門知をどのように調達したのか
2章 囲い込まれる専門知―第二臨調・国鉄解体・自民一党優位の政治戦略
3章 原子力ムラ―「規制の虜」になったのはだれか
4章 新型コロナウイルス感染症対策―専門知は政治と対峙しているか
5章 介護保険制度に同調した専門知―理論的考察の底の浅さ
6章 司法制度改革と専門知―「国民に開かれた司法」の顛末
終章 政治と専門知の責任をいかに確立するか
 
【著者】
新藤 宗幸 (シンドウ ムネユキ)
 1946年、神奈川県生まれ。千葉大学名誉教授。中央大学大学院法学研究科修士課程修了。専攻は行政学。東京市政調査会研究員、立教大学法学部教授、千葉大学法経学部教授、後藤・安田記念東京都市研究所理事長などを歴任。
 
【抜書】
●洞察力(p31)
〔 ところで、研究者が政権(政治)の意のままに動くかどうかは、理系・文系を問わず人文・社会・科学の知識や経済社会にたいする洞察力によって左右されよう。もちろん、すべての研究者がひろくかつ深い人文・社会科学の知識をもとことなど不可能である。だからこそ、人文・社会科学の各分野に精力的に取り組む専門家を必要とするし、その業績の蓄積をもとにした教育への伝播が重要とされるのである。つまり初等中等教育から高等教育まできちんとした学問に根差した教育が重視されなくてはならないのである。「教員養成系教育組織の重視」は、本来、こうした教育をなしうる組織の重視でなくてはならない。〕
 
●私的諮問機関(p69)
 中曽根政権が設けた平和問題研究会、靖国神社懇談会は、国家行政組織法第八条を基本的根拠とする公的諮問機関ではない。
 首相の諮問を受けて審議するが、「私的諮問機関」。法律ないし政令を定めて設置すると政治的コストが極めて大きいので、設置の機動性を高めるために政権の裁量で要綱などを定め、それを根拠とした。
 実態は、公的諮問機関にもまして政権の意に応える諮問機関。政権もこれらの諮問機関の報告に基づいて行動した。
 安倍晋三も、中曽根の手法をまねて多くの私的諮問機関を設置したが、「有識者会議」と称した。
 
●原子力行政(p133)
 1978年、原子力安全委員会が設置された。科学技術庁原子力局が事務局を務めた。
 科学技術庁原子力局は、原発の安全審査を縦横になしうる情報と能力を持つ技術官僚から構成されていたわけではない。独自の審査を実施する条件も能力も欠いていた。
 
●機関委任事務体制(p173)
 日本の福祉行政は、中央政権的であった。生活保護、児童福祉、老人福祉、身体障害者福祉、知的障害者福祉などの福祉立法が制定されていったが、実施体制は機関委任事務体制のもとに置かれた。
 法律ないし政令で知事などの首長を法令所管大臣の下部機関と位置づけ、その指揮命令のもとで事務を処理させるもの。実務を担う自治体は、所管庁の通達によって行政の細部まで統制された。
 
(2022/6/29)NM
 
〈この本の詳細〉


nice!(1)  コメント(0) 
共通テーマ:

nice! 1

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。