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サイバー文明論 持ち寄り経済圏のガバナンス
 [経済・ビジネス]

サイバー文明論 持ち寄り経済圏のガバナンス
 
國領二郎/著
出版社名:日経BP日本経済新聞出版
出版年月:2022年5月
ISBNコード:978-4-296-11341-5
税込価格:2,200円
頁数・縦:246p・19cm
 
 人類の社会は、農業文明から近代工業文明へと発展してきて、今後はサイバー文明の時代となる。
 今後、近代工業文明との違いを見極め、サイバー文明にふさわしい制度の設計が必要となる。サイバー文明が近代工業文明と大きく異なるのは、持ち寄り経済(シェアリング)とトレーサビリティ。財は個人所有から共有へと変化し、富は匿名性の高い金銭からトレーサビリティの高いデータへと変化した。それにふさわしい制度とは……?
 
【目次】
第1部 サイバー文明の夜明け―デジタル技術で富、技術、統治の形が変わる
 第1章 近代工業文明の基盤―所有権交換(販売)経済とその前提
 第2章 文明の進化
 第3章 デジタル経済で広がる格差と富の変質―深刻化する「反乱」
 
第2部 新しい時代を呼び込む四つの構造変化
 第4章 ネットワーク外部性―データは集積・結合で価値を高める
 第5章 ゼロマージナルコスト―価格メカニズムの限界
 第6章 トレーサビリティ―ビジネスモデルの時空間制約からの解放
 第7章 複雑系としてのサイバー文明―創発のオープンアーキテクチャ
 
第3部 サイバー文明を創る技術
 第8章 デジタルとネットワークが生み出すゼロマージナルコストの複雑系
 第9章 IoT―センサー、IDとネットワーク技術で広がるトレーサビリティ
 第10章 クラウド、プラットフォームとAIが生み出す情報のネットワーク外部性
 
第4部 新しい文明の経済―サイバー文明におけるビジネスの姿
 第11章 所有権交換モデルからアクセス権付与モデル、そして「持ち寄り経済」へ
 第12章 劣後サービスの大きな価値―効率化、持続可能化そして格差解消
 第13章 サイバー文明における価値と富
 
第5部 サイバー文明の倫理と統治
 第14章 デジタル社会の倫理とサイバー文明の精神―アジア的価値観再考
 第15章 複雑系の統治機構としてのプラットフォーム
 第16章 サイバー文明時代の民主主義―分散と協調のガバナンス
 あとがきに代えて―技術システムと社会システムの統合
 
【著者】
(國領 二郎 (コクリョウ ジロウ)
 慶應義塾大学総合政策学部教授。1982年東京大学経済学部卒。日本電信電話公社入社。92年ハーバード・ビジネス・スクール経営学博士。93年慶應義塾大学大学院経営管理研究科助教授。2000年同教授。03年同大学環境情報学部教授などを経て、09年総合政策学部長。2005年から09年までSFC研究所長も務める。2013年より慶應義塾常任理事に就任(21年5月27日任期満了)。
 
【抜書】
●複雑系の排除(p92)
 もともと世界は複雑系である。
 近代工業文明は、世界の複雑系である性質を抑え込むことで成立した。
 工場では、管理された空間の中で、理論通りに同じ現象を繰り返し発生させることで、品質管理を行い、大量生産を実現する。
 
●LPWA(p119)
 Low Power Wide Area。低消費電力広域無線システム。
 スピードは5Gほどではないが、少ない電力で広い範囲の通信を可能とする技術。電池1本で理論的には10年運用可能なものもある。
 長距離通信も可能なので、WiFiと異なり基地局をたくさん立てなくてもよい。
 
●知徳報恩(p158) 
  他者による貢献を認識することで(知徳)、恩を与えてくれた社会(仏教では仏)や他者に報いて社会貢献する(報恩)。
 トレーサビリティによる持ち寄り経済の社会では、「知徳報恩」の考え方が重要。
 
●劣後サービスによる格差問題の解決(p166)
 アクセス権を優先度別に提供し、高優先度利用権を持つ所有者が低優先度ユーザーも使う共用資産に投資を行うという形態は、富裕なユーザーが投資した資産を低価格で低所得のユーザーが使うこと(劣後サービス)を可能にする。つまり、格差解消にもつながる。
 ピーク時に優先度高く使用したい「わがまま」なユーザーが投資した設備を、オフピーク時に低価格でより低所得のユーザーに開放することで、良質なサービスをより多くの人が享受することができるようになる。「わがままの効用」(藤井資子)。
 その際、最上位(最優先)のユーザーは、ライフラインのユーザーとすべき。命にかかわるようなサービスについては、優先的に利用できるようにする。
 第二優先度は、お金を出してでも優遇してほしいユーザー。
 第三優先度は、劣後ユーザー。
 
●信頼、評判(p181)
 金銭はトレーサビリティが低く、大量生産を前提とする、見知らぬ他人同士の匿名による経済に向いていた。近代工業文明の時代には、トレーサビリティの低い金銭の蓄積が富となった。
 サイバー文明の時代には、トレーサビリティの高い経済のなかで、「信頼」や「評判」などが蓄積されるべき富となっていく。
 
●忠実義務(p196)
 fiduciary responsibility。
 受託者は信託者の信頼を裏切ってはならない。
 弁護士などが依頼人の利益に反する行為を行ったり、金融機関が預金者の利益に反する行為を行ったりする場合、責任が厳しく問われる。
 
【ツッコミ処】
・一神教(p35)
〔 統治構造については、都市国家などにおける共和制などの形態もあったが、多くの農耕社会は王権のもとに組織化されていった。金属農具による高度な農耕技術は、その技術を持つ集団に大きな力を与え、支配できる王国の規模を拡大させていった。農耕が必要とする共同体による治水、共同農業作業、収穫物を守る警備などが階層的な支配構造を必要とし、王制がごく自然な形だったからといえる。
 広域に信奉される一神教の世界宗教が、農業文明の広がりと機を一にして広がった。これは、生産力の高まりとともに広域化した権力がその基盤を必要としていたからであると考えるのが素直だろう。自然界のさまざまな事物に畏れをいただき、それぞれの土地に土着の神を見る多神教は、自然のなかで暮らす狩猟採集社会ではごく自然であったが、農耕社会が必要とする統一的な権力には不都合だった。唯一の絶対神から統治を授権した王の統治という物語を成立させるために一神教が生まれ、時の権力者に採用されていった。
 日本においては、多神教的な要素を残しつつ、最高の祭司である天皇が将軍に統治権を委ね、土地をめぐる紛争の解決にあたらせるなどの形式をつくりあげていった。権力の確立に寄与したのが金属製の武器だったということも指摘しておいた方がいいだろう。青銅や鉄製の武器によって、より広域の支配が可能になっていった。〕
  ↓
 一神教は砂漠で誕生したと言われているが……。
 農耕が始まったメソポタミアは、多神教の世界だった。もっとも、都市国家ごとに信奉する神が存在していたので、狭い意味での一神教にあたるのか?
 
(2022/7/31)NM
 
〈この本の詳細〉


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