お金に頼らず生きたい君へ 廃村「自力」生活記
[文芸]
服部文祥/著
出版社名:河出書房新社(14歳の世渡り術)
出版年月:2022年10月
ISBNコード:978-4-309-61745-9
税込価格:1,562円
頁数・縦:270p・19cm
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廃村の蕗沢集落小蕗地区(通称)に建つ古民家を20万円で購入し、自力生活を始めた著者による、お金に頼らない生活のノウハウを伝授するエッセー。
とはいえ、本書で語られるのは、横浜で勤め人生活をしながら、有給休暇や在宅勤務を活用し、3時間かけて廃村に行き、生活を組み立て行くところまでの3年半の軌跡である。会社員をやめた後の本格的廃村生活がどうなったのか、続編が楽しみである。
【目次】
その1 田舎に住処を探す
その2 ちょっと寄り道(生きるとは)
その3 ケモノを狩る
その4 古民家を活用する
その5 沢の水を引く
その6 土間を活用する
その7 文化カマドで脱化石燃料
その8 犬と暮らす
その9 ソーラーで発電する
その10 畑で作物を育てる
その11 制約と妥協点
【著者】
服部 文祥 (ハットリ ブンショウ)
1969年生まれ。登山家、作家。大学時代に登山を開始し、ヒマラヤにある世界第二の高峰K2に登頂。日本では剱岳や黒部で冬期初登攀を記録。やがて食料を現地調達する「サバイバル登山」に傾倒。現在は、生活の拠点を都会から山の廃村の古民家に移しつつ、狩猟、畑作の生活を送る。
【抜書】
●循環と代謝(p44)
「生きていくとはどういうことなのだろう」という疑問に対する答え。
「生きていくとは、循環と代謝を続けていくこと」。つまり、生きていくことを楽しむには、「循環と代謝を楽しむ」ことである。
〔食べ物も水も燃料も排泄も、生きることそのものであるにもかかわらず、購入して生きているのだ。〕(p42)
〔代謝や呼吸、血液の循環は、お金を払って人任せにすることはできないのだ。〕
●不耕起栽培(p221)
自然農法とは、不耕起無肥料(無農薬)で野菜を育てる方法。
野菜は肥料によってよく育つが、バランスがとれていれば、肥料を入れなくても育つ。
野菜も雑草も同じ植物なので、雑草が大きくなるところでは、野菜も大きくなれる。植物の根についている菌類がカギで、根っこを掘り起こさずに、菌類ごと根っこを利用するのが不耕起栽培の考え方。雑草にも野菜と相性がいいものや、土壌を豊かにしてくれるものなどがあり、そういう雑草をバランスよく生やして利用する。緑肥、生きた肥料。
雑草は刈ってそのまま畑に敷いておく。種を蒔くところだけ掘り返し、邪魔な根っこをどかす。土壌は、鍬などで掘り返さない。
30年位前に思想家で農家の福岡正信によって、基本的な考え方と技術が提唱され、世界中に影響を与えた。『わら一本の革命』春秋社。
●廃村自力生活の値段(p254)
食費……1日500円。米小麦、乳製品、卵、納豆など。月15,000円。
家の修繕費・工具・衣類など……月3,000円。
電気代……10アンペア、月2,000円。
(ソーラーパネルの場合……バッテリーの消耗費が年間1万円、月1,000円。)
狩猟……登録3万円(保険含む)、弾代2万円、銃の更新や維持費1万円、合計年6万円。月5,000円。
バイク、チェーンソー、草刈り機などの全燃料費、月2,000円。
予備費……月3,000円。
合計月3万円、年間40万円程度。
他に、通信費とPC、紙や郵便などを加えても、年間50万円強。 国民年金、健康保険料は除く。
●ベーシックインカム(p263)
〔 現在、先進国でベーシックインカム制度導入が検討され始めている。ベーシックインカムとは、全国民に毎月一定のお金を分配するいう制度である。日本のベーシックインカム推進派は支給金額を七万円前後で検討しているようだ。ここで検証したように田舎で自給生活をするならひと月七万円あれば充分生きていくことができる。国からお金をもらうのは、自力という点でちょっと気が引ける部分はあるものの、過密社会や競争社会、過剰な消費生活(エネルギーダダ漏れ生活)になじめない人が、現金入手法が少ない地方で暮らそうとするときには、大きな後押しになる素晴らしい制度といえる。家族が増えればベーシックで入る金額も増えるため、子育てもしやすい。子どもたちにとっても競争社会以外の選択肢ができるのは、大きな朗報だと思う。〕
(2023/3/19)NM
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