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トランジション 社会の「あたりまえ」を変える方法
 [社会・政治・時事]

トランジション 社会の「あたりまえ」を変える方法
 
松浦正浩/著
出版社名:集英社インターナショナル
出版年月:2023年7月
ISBNコード:978-4-7976-7433-0
税込価格:1,980円
頁数・縦:221p・19cm
 
 トランジションによっていかに現状が変えられるか、その理論と方法を説いた書。やや若年層を意識した記述か。
 
【目次】
第1章 現代社会の諸問題
 化石燃料で成り立つ社会
 持続可能性の必要性
 気候変動対策の行き詰まり
 日本の人口問題
第2章 トランジションの可能性
 どうして社会の仕組みを変える必要があるのか?
 社会とは「システム」である
 マルチ・レベル・パースペクティブ(MLP)
 トランジションの加速でシステムを変える
 未来のあたりまえを先取りする
第3章 トランジション・マネジメントのステップ
 トランジション・マネジメントとは?
 ステージ1 問題を定義する
 ステージ2 計画をたてる
 ステージ3 仲間を集める
 ステージ4 実行する
第4章 トランジション先進国・オランダ
 トランジション都市・ロッテルダム
 ケース1 モビリティ・トランジション・アリーナ
 ケース2 M4H地区
第5章 今日からはじめるトランジション
 未来への希望としてのトランジション
 日本でトランジションを起こすには
 小さくはじめて、大きく実らせる
 日本の身の回りにあるトランジション
 
【著者】
松浦 正浩 (マツウラ マサヒロ)
 1947年生まれ。Ph.D.(都市・地域計画)。東京大学工学部土木工学科卒、マサチューセッツ工科大学Master of City Planning(1998年)、(株)三菱総合研究所研究員(1998~2002年)、マサチューセッツ工科大学Ph.D.(2006年)、東京大学公共政策大学院特任講師・特任准教授(2007~2016年)を経て、明治大学専門職大学院ガバナンス研究科(公共政策大学院)専任教授。
 
【抜書】
●外部不経済(p26)
 意図した経済行為とは別のところで不経済となること。
 例えば、自動車を走らせることで、その排気ガスが沿道の住民に健康被害をもたらす、など。
 
●マルチ・レベル・パースペクティブ(p71)
 MLP。フランク・ヘールスという社会システムの研究者が2002年に提唱した概念。
 社会学の基本的な考え方として、「構造」と「エージェント」の二つのレベルがある。わたしたち個人は、「エージェント」として、さまざまなルールや「当たり前」に従って行動している。そのルールや当たり前のことを「構造」と呼ぶ。エージェントは、構造に従って行動する。
 「構造」も、エージェントの意思によって変化することがある。かつて職場でスーツを着るのは当たり前だったが、クールビズが普及して、スーツを着ない人が増えてきた。職場の適切な服装に関する「構造」が変化した。
 ヘールスは、構造の上にさらにもう一つ、「ランドスケープ」というレイヤーを置いた、三層構造で考えるべき、と提唱した。人間社会が置かれている自然環境や、国際情勢などがランドスケープにあたる。
 人類は、産業革命によって化石燃料を主軸に置いた社会経済システムを構築してきた。この社会経済システムこそが「構造」。しかし、その構造が理由で、ランドスケープとしての地球が持っている温室効果を狂わせてしまい、人為的気候変更がこれから深刻になると考えられている。
 構造もランドスケープに従って修正できれば問題を解決できる。つまり、気候変動という問題を認識して、私たちの社会の仕組みが変わればよい。
 
●トランジション(p75)
 〔トランジションとは、MLPでいうところの中間層、すなわち「構造」を大きく変える、あるいは「構造」が変わるということです。〕
 
●Xカーブ(p81)
 新しい仕組みを導入する際の時間経過と普及率を描いたSカーブと、古い仕組みが解体していく様子を描いた逆Sカーブを重ねた図。
 
●Xカーブを作成する(p111)
 新しい仕組みは、実験・実証⇒加速⇒成長⇒一般化⇒安定化、という流れで普及していく。
 古い仕組みは、最適化⇒不安定化⇒混乱⇒崩壊⇒消滅、という流れで解体される。
 Xカーブ図の右上に、実現したい未来の姿を書き込む。
 左上に、現在の社会の仕組みや制度で、取り壊すべきものを書き込む。
 左下に、フロントランナーを書き込む。
 
●フロントランナー(p114)
 現在において、Xカーブの右上に描いた未来像を先取りしている人。
 
●ロッテルダム(p138)
 ナチスの大空襲で、ロッテルダムの街は破壊された。他都市への空爆を恐れたオランダは、数日後に降伏。そのおかげで、アムステルダムなど、他の都市は破壊されず、昔ながらの都市景観が残った。
 ロッテルダムでは、復興のために広幅員の自動車道が整備された。同時に、路面電車や地下鉄も整備された。
 トランジション・マネジメントにより、2008年、中心市街地活性化計画として「シティ・ラウンジとしての中心市街地」という戦略を発表。2015年には、The Academy of Urbanism Awardで欧州の最優良都市に選出された。
 2015年、「ロッテルダム・モビリティ・アリーナ」を立ち上げる。自動車に代わる移動手段の普及と整備を目指す。具体的な作業をオランダ・トランジション研究所(DRIFT)に委任。DRIFTは、ロッテルダムにあるエラスムス大学のなかに設置された研究組織。
 トランジションの一つとして、市内の通りにある駐車スペースを「自転車プラットフォーム」に置き換える。さらには、永続的な駐輪スペースへの転換が進められている。
 
●Floating Farm(p167)
 M4H地区の西端では、水上に巨大な四角形の浮体構造物があり、その中でたくさんの牛が酪農用に飼われている。乳製品を製造し、隣接する事務所で、新鮮なミルクやチーズなどが販売されている。
 牛の餌は、市内のビール醸造所から出た麦汁の搾りかすや、近隣で発生する廃食材など。
 牛の糞は、家庭菜園などの肥料として販売。
 
●正の外部性(p199)
 Positive externality。自分がいくら努力したとしても、努力しない他人にメリットが行きわたってしまうこと。
 外部不経済とは正反対の現象。
 
●走行距離に課税(p205)
 電気自動車(BEV)が普及すると、ICE車(Internal Combusion Engine:内燃機関車)と異なり、燃料に課税することが難しくなる。そこで、走行距離に基づいて課税しようという動きが、全世界で出ている。
 
●ロトクラシー(p212)
 くじ引き民主主義。
 議員を選挙ではなく、市民や国民の中から無作為にくじ引きで選ぶという制度。
 
(2024/8/11)NM
 
〈この本の詳細〉


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