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面白くて眠れなくなる化学
 [自然科学]

面白くて眠れなくなる化学 (PHP文庫)  
左巻健男/著
出版社名:PHP研究所(PHP文庫 さ67-3)
出版年月:2017年4月
ISBNコード:978-4-569-76725-3
税込価格:704円
頁数・縦:209p・15cm
 
 化学の面白さを、日常生活に根ざした事象を元に科学的に伝える。
 
【目次】
1 スリリングな化学のはなし
 ドライアイスを密閉すると危険
 爆発とは何だろう?
 ガス爆発が起こる理由
  ほか
2 面白くて眠れなくなる化学
 毒物の代表―青酸化合物とヒ素
 水を飲み過ぎるとどうなる?
 「しょう油をがぶ飲みすると死ぬ」は本当?
  ほか
3 思わず試したくなる化学
 折り紙の銀紙は金属?
 カルシウムは何色?
 ケーキの銀色の粒の正体は?
  ほか
 
【著者】
左巻 健男 (サマキ タケオ)
 法政大学教職課程センター教授。1949年生まれ。栃木県出身。千葉大学教育学部卒業。東京学芸大学大学院修士課程修了(物理化学・科学教育)。中学・高校の教諭を26年間務めた後、京都工芸繊維大学アドミッションセンター教授を経て2004年から同志社女子大学教授。2008年より法政大学生命科学部環境応用化学科教授。2014年より現職。
 
【抜書】
●16~17%(p36)
 空気には、約20%の酸素が含まれている。乾燥空気中には約21%。
 瓶のなかでロウソクが消えたとき、酸素が16~17%になっている。
 私たちの吐く息も、酸素が16~17%になっている。
 
●一酸化炭素中毒(p53)
 一酸化炭素を吸い込むと、血液中でヘモグロビンと強く結びついてしまう。そのため、各細胞に酸素を補給することができなくなる。
 一酸化炭素のヘモグロビンとの結びつきやすさは、酸素の約250倍。
 
●燃えカス(p106)
 食品を燃やしてできた燃えカスの灰が酸性なら「酸性食品」、アルカリ性なら「アルカリ性食品」。
 かつては、体内でも食品の燃焼と同じような反応が起こっていると考えられていた。しかし、燃焼とは700℃以上の高温で急激に起こる激しい酸化作用。「食品の燃えカス次第で体が酸性になったり、アルカリ性になったりすることはない」。
 
●物質(p114)
 物質は、大きく3つに分けられる。
 (1)分子からできている物質(分子性物質)……非金属元素同士が結びついている。固体は分子結晶。
 (2)イオンからできている物質(イオン性物質)……金属元素と非金属元素とが結びついている。固体はイオン結晶。
 (3)金属原子からできている物質(金属性物質)……金属元素だけからできている。固体は金属結晶。
 ダイヤモンドやポリエステルのような巨大分子と呼ばれる物質など、三大物質に当てはまらない物質もある。
 
●アラザン(p128)
 装飾としてケーキの上などにつける小さな銀色の粒。粉砂糖の表面に銀を塗っている。
 ※アラザンの語源はフランス語のargent。まさに「銀」のことである。
 
●塩酸(p148)
 燃焼理論を確立したアントワーヌ・ラボアジェ(1743−94年)は、酸を特徴づける元素として「酸素」を考えていた。
 しかし、食塩と硫酸を原料に作られる塩酸は、酸素を持っていない。
 酸の特徴は、「物質を構成している水素原子が、水溶液中で電離して、水素イオンになること」。スウェーデンの化学者アレーニウス(1859−1927年)の唱えた電離説。
 
●お茶(p152)
 お茶は、製造方法の違いにより三つに分類することができる。
 (1)緑茶……お茶の葉を発酵させないで作る「不発酵茶」。乾燥茶の30%程度のポリフェノールを含む。
 (2)紅茶……お茶の葉を完全に発酵させる「発酵茶」。
 (3)烏龍茶……お茶の葉を適度に発酵させる「半発酵茶」。
  ポリフェノールとは、ベンゼンやナフタレンのような芳香環に複数のヒドロキシ基(-OH)が結合したものが複数集まった化合物の総称。緑茶のポリフェノールのほとんどはカテキン。
 紅茶では、発酵の過程でカテキンが二つ結合したテアフラビン(1〜2%)やテアルビジン(10〜20%)が含まれている。
 烏龍茶にはカテキン、テアフラビン、テアルビジンが含まれている。
 
(2021/12/31)NM
 
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科学の歳事記 どんぐりから宇宙へ
 [自然科学]

科学の歳事記 (どんぐりから宇宙へ) 
渡辺政隆/文 山本美希/絵
出版社名:教育評論社
出版年月:2021年3月
ISBNコード:978-4-86624-037-4
税込価格:1,760円
頁数・縦:143p・19cm
 
 毎日新聞日曜版に月1回連載された科学コラム「団栗(どんぐり)」(2015年4月~2020年8月)に加筆・修正してまとめたもの。
 連載タイトルは、敬愛する寺田寅彦の随筆「どんぐり」からとったとか(p.136)。ちなみに、寺田寅彦の随筆を集めた『科学歳時記』(角川ソフィア文庫)という書籍もあるようだ。一字違い!
 
【目次】
訳語がつくるイメージ
よみがえれ雷竜
パンダは進化の気まぐれ
ニワトリの口
うな重
永遠平和のために
よみがえる記憶
楕円球の行方
胡蝶の夢
コロンブスの卵
〔ほか〕
 
【著者】
渡辺 政隆 (ワタナベ マサタカ)
 サイエンスライター、日本サイエンスコミュニケーション協会会長、東北大学特任教授。専門は科学史、サイエンスコミュニケーション、進化生物学。
 
山本 美希 (ヤマモト ミキ)
 マンガ作家、筑波大学芸術系助教。2011年に文字なし絵本『爆弾にリボン』でデビュー。車上生活する女性を描いたマンガ作品『Sunny Sunny Ann!』(講談社)は、第17回手塚治虫文化賞新生賞を受賞した。物語と表現手法の関係を重視しており、作品ごとにイラストレーションのスタイルも異なる。大学では、作り手に役立つ研究・教育を目指して、絵本・マンガにおける物語表現の調査に取り組む
 
【抜書】
●ブロントサウルス(p12)
 ブロントサウルス(雷竜)は、アパトサウルス(偽り竜)に統一された。同じ種に別々の名前が付けられていたため。
 しかし、各地の博物館に保存されている化石を調べ直した結果、アパトサウルス(体重40.3t)とは別系統の、それより小型のブロントサウルス(30.5t)も実在したことが判明。「雷竜」が再発見された。
 
●イヌハッカ(p62)
 猫を陶酔状態に陥れるハーブ。キャットミント、またはキャットニップ。またの名を西洋マタタビ。蚊よけに効く。
 猫を誘引する物質は、ネペタラクトン。1941年に抽出された。
 ネペタはイヌハッカの学名。たくさん自生しているイタリアの古都にちなむ。
 ネペタラクトンは、イヌハッカにたかるアブラムシの性フェロモン。アブラムシの天敵の肉食昆虫にアブラムシの存在を知らせている。
 
●トガリネズミ(p76)
 ヨーロッパトガリネズミは、体長6~8cm、体重5~12㎏。最小の哺乳類。
 冬眠しない。食物が少ない冬は、体重を減らしてエネルギーの消耗を防ぐ。冬を迎える前に、夏場の18%ほど体重を落とす。頭骨のサイズは最大20%縮小、脳の容量は最高30%も縮む。
 
●誕生日のパラドックス(p82)
 特定の二人の誕生日が同じである確率は、(1ー364/365)×100=0.27%。
 40人学級で、誕生日が同じ生徒が二人いる確率は89.1%。
 チャールズ・ダーウィンとエイブラハム・リンカーンは、ともに1809年2月12日生まれ。
 
(2021/12/30)NM
 
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警察庁長官 知られざる警察トップの仕事と素顔
 [社会・政治・時事]

警察庁長官 知られざる警察トップの仕事と素顔 (朝日新書)  
野地秩嘉/著
出版社名:朝日新聞出版(朝日選書 833)
出版年月:2021年9月
ISBNコード:978-4-02-295141-0
税込価格:891円
頁数・縦:244p:18cm
 
 警察庁の元長官5名、元警視総監1名に行ったインタビューを元に、警察のトップの仕事、警察という組織の有り様について描く。
 本書を読んでいると、日本の警察は素晴らしい組織なのだなあと思う。たとえば「最前線!警察密着24時」(TBSテレビ)なんかを見ていたら、警察官が麻薬所持の容疑者を追っている時、その場にいた通行人が容疑者の行方を即座に教えてくれる。あっちに行った、こっちに行った、というふうに。これは、一般人に警察官が愛され、信頼されている証だろう。市井のお巡りさんたちが、時に命の危険にさらされながらも市民の安全を守るという仕事を忠実に愚直にこなしているからこその反応だと思う。
 そんな警察官30万人の長たる警察庁長官は、能力的にも優秀でありながら人格的にも優れていなければ務まらない仕事だということがよく分かる。
 
【目次】
はじめに―増え続ける警察の仕事
第1章 警察とその組織
第2章 警察の現在動向
第3章 警察の成り立ちと警察庁長官の原型となった3人の長官
第4章 警察庁長官の仕事と資質
第5章 元長官たちの話―長官になるのに必要なキャリアとは何か
第6章 警視総監が見た警察庁長官
おわりに―長官の資質について
 
【著者】
野地 秩嘉 (ノジ ツネヨシ)
 1957年東京都生まれ。早稲田大学商学部卒業後、出版社勤務を経てノンフィクション作家に。人物ルポルタージュをはじめ、ビジネス、食や美術、海外文化などの分野で活躍中。『TOKYOオリンピック物語』でミズノスポーツライター賞優秀賞受賞。
 
【抜書】
●8%(p7)
 警察白書によると、110番受理件数のうち、刑事関係は8%に満たない。
 大半は、「近所で夫婦喧嘩をしている」「ゴミ屋敷を片付けてくれ」「隣の騒音がうるさい」など、市民生活における苦情。遺失物の問い合わせ、交番での金借りなどは入っていない。
 〔市民生活を助けることを業務として推進している警察は世界にはほぼないと思われる。〕
 
●国家公安委員会(p41)
 警察庁長官を選ぶのは国家公安委員会。警察組織の中から候補者が出てきて、その候補を長官にする。
 国家公安委員会は行政委員会で、政府の一員。全員で6名。委員長は大臣で、残りの委員も含めて、任命するのは総理大臣。実質的には官僚たちが推薦している。
 任免にあたっては、衆議院と参議院の同意が必要。
 国家公安委員会が警察を管理するというシステムは、GHQが戦後に持ち込んだもの。それでも日本に適合し、定着している。
 世界の国では、国家公安委員会のような行政委員会が警察を管理するといったシステムはまずない。
 
●警視庁(p60)
 東京に警視庁が置かれたのは1874年。内務省警保局のスタート(1876年)より早い。
 創設者は、日本の警察を作った川路利良(かわじとしよし)。
 〔今に至るも東京都警察本部とならず、警視庁という名称を死守しているのはプランドネームへの誇りと川路利良への敬意だろう。〕
 
●大阪警視庁(p63)
 1948年から6年間、戦前からの国家警察は解体され、アメリカ式の自治体警察(市町村警察)に再編された。
 人口5,000人以上の都市には独立した自治体警察が設置され(1,605市町村)、5,000人以下の町村については国家地方警察が担当することになり、本部は東京に置かれた(国警本部)。
 大阪は、東京への対抗意識から大阪警視庁と名乗った。釧路署、稚内署も警視庁。いずれもトップは警視総監を名乗る。
 
●警察庁(p65)
 占領下が終わった1954年、警察法が施行され、警察は都道府県警察へと変わり、国警本部は警察庁となる。現在の組織体系。
 
●柏村信雄(p72)
 3代目警察庁長官。1959〜60年、日米安全保障条約に反対する大規模デモが頻発していた。第一次安保闘争。
 岸信介総理から「国会前のデモ隊を排除しろ」と命令されたにもかかわらず、頑として断った。
 「都心と羽田空港を埋めるデモ隊を、警察力で強制排除することは物理的に不可能です。総理、今日の混乱した事態は反安保、反米もございますが、それらはこのくらい(両手を十センチほど開いて)小さい。それに比べますと、この大きなデモのエネルギーは反岸で、このくらい(両手を一メートルほど大きく開いて)大きい。このデモ隊は、機動隊や催涙ガスでの力だけではなんともなりません。もはや残された道は、一つ。総理ご自身が国民の声を無視した姿勢を正すことしかありません。」岸総理は、激怒して「警察は肝心なときに頼りにならない。わしは自衛隊に頼む」と言った(『警視庁長官の戦後史』より)。
 全国の警察本部長から、「総理が長官を罷免する暴挙に出るなら、われわれは一斉に辞任する。警察庁は政府の圧迫に屈服するな」という電報が長官に送られた。
〔 日本の警察組織にとって60年安保における柏村の判断は大きい。日本の警察は総理大臣が厳命しても、国民に対して発砲することはできない。もし、治安出動があるとすれば、おそらく外国の戦闘部隊が日本に侵入してきた時くらいではないだろうか。〕
 
●警察庁長官の責任のとり方(p127)
 警察庁長官だけがする判断、仕事について、米田壯(第24代長官:2013年1月25日〜2015年1月22日)が問われたときの答え。
 「想定外のことが起こったときどう責任を取るか、具体的にはどう辞めるかをつねに考えている。」
 「警察庁長官にしかできない仕事は、今言ったような判断をすることと、正気を保つことだと思います。権力の衣をまとうと人格が変わってしまう人も皆無ではありません。極論すれば、感情に流されることなく、日々平静に淡々としていれば、特に華々しい業績がなく
ても、長官としてまずまずの点数が取れるのではないかと思います。」
 
●正義(p206)
 國松孝次長官(第16代:1994年7月12日〜1997年3月30日)が狙撃されたことに関して。
〔 彼は狙撃犯に対する憎しみは持っていない。誰が自分を殺そうとしたかという個人レベルでの話ではないからだ。犯人として撃った個人を特定し、逮捕し、罪に服させるのが警察官としての仕事であり、個人を敵として憎んでいるわけではない。思うに、警察官が感じる「敵」とは個人ではなく、正義に対する大きな脅威ではないだろうか。〕
 
●地図(p227)
 警察と自衛隊は、所持する地図が異なる。
 自衛隊の地図は、緯度と経度が書いているだけ。
 警察の地図は、何丁目何番地とか、建物の名前が入っている。
 
【ツッコミ処】
・妖精さん(p137)
 働かない中高年。
  ↓
 現場のベテラン刑事でも、上司になったキャリア組が仕事ができず(能力が低く)、気に食わない場合、「妖精さん」になってしまうこともあるらしい。でも、2年も我慢すれば高級官僚たちは異動してしまう。その間だけ「妖精さん」を決め込んで、新しい上司が来ればまたやる気を取り戻したりするのだろう。
 
(2021/12/27)NM
 
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「うつ」の効用 生まれ直しの哲学
 [医学]

「うつ」の効用 生まれ直しの哲学 (幻冬舎新書) 
泉谷閑示/著
出版社名:幻冬舎(幻冬舎新書 い-28-2)
出版年月:2021年7月
ISBNコード:978-4-344-98626-8
税込価格:990円
頁数・縦:260p・18cm
 
 鬱病、鬱状態は、「心=身体」が「頭」に反逆を起こした状態、という前提に立って、「うつ」の原因と解決法、そして「うつ」の効用・必要性を語る。
 現代人が「うつ」になるのは当然である。まっとうな人間ほど「うつ」に罹りやすい。
 「うつ」になったら「心=身体」の声に耳を傾け、真の自分に戻るよう努力しよう……。いや、「努力」をしてはいけない、自然と「生まれ直し」が起きるようにならなければ。
 
【目次】
第1章 「うつ」の常識が間違っている
第2章 「うつ」を抑え込んではいけない
第3章 現代の「うつ」治療の落とし穴
第4章 「うつ」とどう付き合うか?
第5章 しっかり「うつ」をやるという発想
第6章 「うつ」が治るということ
 
【著者】
泉谷 閑示 (イズミヤ カンジ)
 1962年秋田県生まれ。精神科医、作曲家。東北大学医学部卒業。東京医科歯科大学医学部附属病院、神経研究所附属晴和病院等に勤務したのち渡仏、パリ・エコールノルマル音楽院に留学。帰国後、新宿サザンスクエアクリニック院長等を経て、現在、精神療法専門の泉谷クリニック(東京・広尾)院長。
 
【抜書】
●精神療法(p9)
 〔そもそも「うつ」がその人に生じたのはなぜだったのかを共に探索し、そして、自然治癒力を妨げているものが何であるのかを明らかにしていくような、緻密で丁寧なアプローチ。〕
 
●頭、心=身体(p22)
 頭……物事の効率化を図るために発達してきた部分。理性の場。情報処理を行う場所。記憶・計算・比較・分析・推理・計画・論理的思考などの作業が行われる。シミュレーション機能を持っており、「過去」の分析や、「未来」の予測を行うのは得意だが、「現在」を把握するのが不得手。must/should(~すべきだ、~しなくてはならない、~に違いない)。
 心……感情・欲求・感覚・直観が生み出される場。「いま・ここ(現在)」に焦点を合わせる。want to/like(~したい、~したくない、好き、嫌い)。「頭」とは比べ物にならないほど高度な知性と洞察力を備えていて、直観的に対象についての本質を見抜き、瞬時に判断を下す。その理由をいちいち明かさないので、情報処理という不器用なプロセスを必要とする「頭」にはほとんど解析不能。「心」と「身体」は一体。「一心同体」。
〔 生き物として人間の中心にある「心=身体」に対し、進化的に新参者として登場してきた「頭」が、徐々にその権力を増加し、現代人はいわば、「頭」による独裁体制が敷かれた国家のような状態にあります。
 これに対して、国民に相当する「心=身体」側が、「頭」の長期的な圧政にたまりかねて全面的なストライキを決行します。もはや、「頭」の強権的指令には一切応じない。これが「うつ」の状態なのです。中には、過酷な奴隷扱いがあまりに長期にわたった結果、「心=身体」がすっかり疲弊してしまい、ストライキというよりも、潰れてしまって動けない状態になっている場合もあります。〕
 
●努力、熱中(p97)
 野球の適性の高い資質を持った少年は、野球の練習をさほど苦痛に思っていない。面白いものに思える。「熱中」している。
 資質の乏しい少年にとって野球の練習は苦行以外の何物でもない。「努力」してもあまり上達しない。
 〔「熱中」したがゆえに成功した人間を見て、周囲の人間がそれを「努力」と誤解したところに、今日の「努力」信仰が作り出されてきた大きな原因がるように私には思えてならないのです。〕
 
●生まれ直し(p110)
 「うつ」からの本当の脱出とは、元の自分に戻ることではない。モデルチェンジしたような、より自然体の自分に新しく生まれ変わること。
 repair(修理)のような治療では、どうしても再発のリスクを残してしまう。
 reborn(生まれ直した)あるいはnewborn(新生)とも言うべき深い次元での変化が、真の「治療」には不可欠。
 
●ハングリー・モチベーション(p207)
 人類は、その始まりから永らく、様々な欠乏や不足を補い、それをすこしでも満たそうという方向に動機づけられて生きてきた。衣食住、平和や安全、安定、快適性、娯楽、情報や利便性。これら諸々の状況が少しでも改善・向上するように、あるいはより多く手に入るようにと、心血を注いできた。
 〔このような行動原理で人類が動いてきた時代を、私は「ハングリー・モチベーションの時代」と名付けました。〕『仕事なんか生きがいにするな 生きる意味を再び考える』(幻冬舎新書)。
 
●摂食障害(p232)
 拒食症と過食症。
 どちらか一方の状態だけで経過することは珍しい。拒食に始まり、途中から過食が主になるケースが多くみられる。
 摂食障害の人たちに共通してみられる特徴は、自己コントロール力の強さ。大概の人ならば挫折するはずの無理なダイエットでも継続できてしまったりして、それを契機に摂食障害を発症してしまうことも多い。
 ダイエットという「頭」による計算が強制的に介入して食行動にコントロールをかけてくると、ある限度を超えたところで「心=身体」側は、食欲のストライキ(拒食)か暴動(過食)という形で、レジスタンス運動(反逆)を始める。
 
●自己本位(p247)
 夏目漱石が、神経衰弱に罹って休学し、郷里の広島で療養生活を送っている門下生の鈴木三重吉に送った手紙。
 「……しかし現下の如き愚なる間違ったる世の中には正しき人でありさえすれば必ず神経衰弱になる事と存候。これから人に逢う度に君は神経衰弱かときいて然りと答えたら普通の徳義心ある人間と定める事に致そうと思っている。
 今の世に神経衰弱に罹らぬ奴は金持ちの愚鈍ものか、無教育の無良心の徒か、さらずば二十世紀の軽薄に満足するひょうろく玉に候。」
〔 この「神経衰弱」とは、現代で言えば、ほぼ「うつ病」に相当するものであったと考えられますが、漱石自身も英国留学中にこれにかかり、引きこもりがちの生活をしていたことがよく知られています。しかし、漱石はこの神経衰弱の時期を通して、「他人本位」で生きてきた自分の不甲斐なさと向き合い、「自己本位」こそが大切であることをつかんだのでした。そしてそこで得た境地が、その後の小説家・夏目漱石の精神的な出発点にもなったのです。〕
 
(2021/12/23)NM
 
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旅するカラス屋
 [自然科学]

旅するカラス屋
 
松原始/〔著〕
出版社名:角川春樹事務所
出版年月:2021年4月
ISBNコード:978-4-7584-1376-3
税込価格:1,650円
頁数・縦:256p・19cm
 
 カラスを研究テーマとする動物行動学者による、旅がらすならぬカラス旅のエッセー。屋久島、知床、ウィーン、ブタペスト、ランカウイ島(マレーシア)、ウプサラを訪れた時のカラス探しの旅の様子を綴る。軽妙でありながら程よい薀蓄と微笑のネタがちりばめられていて心地よい。
 時にカラス旅に同行し、共同で論文を執筆する森下英美子さん(東京大学農学部の研究室に勤務)が気になった。調べてみると、1958年生まれで、『カラスの自然史ーー系統から遊び行動まで』(北海道大学出版会、2010年)、『カラス、どこが悪い?』(小学館文庫、2000年)などの共著があるようだ。
 
【目次】
はじめに さあ、カラスづくしの旅へ
第1章 調査のためのカラス旅
 カラス訪ねて山々へ
 世界遺産屋久島山頂域へ
第2章 学会もまた旅である
 そもそも学会とは
 東欧に暮らすカラスたち
第3章 カラス旅での出会い
 知床のワタリガラス
 世界のカラスを知る旅へ
 北欧のカラス
おわりに 旅はまだまだ終わらない
 
【著者】
松原 始 (マツバラ ハジメ)
 1969年、奈良県生まれ。京都大学理学部卒業、同大学院理学研究科博士課程修了。専門は動物行動学。東京大学総合研究博物館・特任准教授。研究テーマはカラスの生態、及び行動と進化。
 
【抜書】
●7種(p12)
 世界には約40種のカラスがいる。
 日本で記録されたカラスは7種。ハシブトガラス、ハシボソガラス、ワタリガラス、ミヤマガラス、コクマルガラス、ニシコクマルガラス、イエガラス。
 
●ポリウレタン(p16)
 ポリウレタンとは、単体のウレタン同士が結合して連なったもの。ウレタン重合体。長年使っていると湿気が浸透し、結合部分に水素と水酸基がくっついて、勝手に分解してしまう。加水分解。
 
●聞きなし(p232)
 鳥の鳴き声を人間がわかりやすく言葉で表現すること。ウグイスの「ホーホケキョ」、ホトトギスの「テッペンカケタカ」、エナガの「チーチー チリリ ジュリリ」、目白の「チョイチョイチューチュルル」、など。
 
(2021/12/20)NM
 
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世界と日本の地理の謎を解く
 [歴史・地理・民俗]

世界と日本の地理の謎を解く (PHP新書)
 
水野一晴/著
出版社名:PHP研究所(PHP新書 1259)
出版年月:2021年5月
ISBNコード:978-4-569-84948-5
税込価格:1,045円
頁数・縦:251p・18cm
 
 自然地理学が専門の著者が、これまでに疑問に思ってきたことについて、文化や人類学の知見も取り入れて学術的に解説する。地理学の面白さを伝える1冊。
 
【目次】
第1章 フィヨルドはどのようにしてできたのか?―ノルウェー、ニュージーランド、日本のリアス海岸
第2章 火山島誕生後、島はどのように森に覆われていくのか?―ハワイ、桜島、雲仙普賢岳
第3章 砂漠の砂丘はどのようにしてできたのか?―ナミブ砂漠、カラハリ砂漠、鳥取砂丘
第4章 温暖化は、高山の氷河や生態系、住民生活にどのように影響を及ぼすのか?―ケニア山、キリマンジャロ、北アルプス、南アルプス、中央アルプス
第5章 日本の平野に築かれたお城や海外のお城の地形的共通点は?―江戸城、名古屋城、大阪城(真田丸)、ドイツの城
第6章 なぜ、そこに山があるのか?―富士山、アポイ岳、早池峰山、南アルプス、中央アルプス、北アルプス、丹沢山地、比叡山、比良山地、大文字山、吉田山、ヒマラヤ、エベレスト、キリマンジャロ、ケニア山、ルウェンゾリ山地
第7章 なぜ、イースター島、ハワイ、マダガスカルは1万キロも離れているのに言葉が似ているのか?
第8章 なぜ世界どこでも山が信仰の対象になるのか?―御嶽山、愛宕山、ヒマラヤ、ケニア山、アグン山(インドネシア・バリ島)、アンデス
 
【著者】
水野 一晴 (ミズノ カズハル)
 京都大学大学院文学研究科地理学専修・教授。理学博士。1958年名古屋市生まれ。名古屋大学文学部地理学専攻卒、北海道大学大学院修士課程修了、東京都立大学大学院博士課程修了。京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科助教授などを経て現職。専門は自然地理学(植物地理学)だが、人文地理学や人類学的調査も行っている。これまで調査・研究で世界50か国以上を訪れている。
 
【抜書】
●雪線(p18)
 雪が解ける量よりも雪が積もる量のほうが多い高度の下限。雪線より高い山があれば、雪線の高度より上の場所では、氷河ができる。
 積もった雪は、自らの重みで下のほうから雪の結晶が結合して氷になる。氷は地表を滑るので、徐々に斜面下方に移動する。それが氷河。
 
●カール、モレーン(p20)
 カール……氷河は、流れるときに地面をすり鉢状に削る。これがカール地形。
 モレーン……氷河は、削った砂礫をブルドーザーのように押し運ぶ。温暖化すると氷河が後退をし始める。氷河が最も拡大した時の氷河前面に砂礫の高まりが残る。これがモレーン。
 U字谷……海外にあるような長大な氷河は谷を削って流れ、谷の断面がU字型のU字谷を作る。
 
●キリマンジャロの氷河(p84)
 キリマンジャロの氷河は、温暖化により2020~2030年代に消滅すると予想されている。
 キリマンジャロ登山の6か所のキャンプ地の河川水の多くは氷河の解け水由来。氷河がなくなると、キャンプ地の水は涸れてしまう。
 
●氷河の定義(p89)
 氷河の国際的な定義は、「重力によって長時間にわたり連続して流動する雪氷体(雪と氷の大きな塊)」。
 (1)陸上、(2)移動する、(3)雪と氷の大きな塊、の三つが氷河の条件。
 日本の雪線は、すべての地で山地より高いので、氷河はないとされてきた。
 2012年に日本雪氷学会にて発表された論文では、観測の結果、剣岳の三ノ窓雪渓と小窓雪渓、立山の御前沢(ごぜんざわ)が氷河と認められた。
 カムチャツカ半島とされていた極東の氷河の南限は、富山県・立山連峰となった。
 2018年には、北アルプスの鹿島槍ヶ岳のカクネ雪渓、剣岳の池ノ谷(いけのたん)雪渓、立山の内蔵助雪渓、2019年には唐松岳の唐松沢雪渓も氷河と認められた。日本の氷河は7か所。
 
●洪積台地(p125)
 洪積台地(台地)とは、最終氷期の最盛期である2万年前以前にすでに海から顔を出していた高台。これらの地形が作られた時代を、かつては「洪積世」と呼んでいた。
 最終氷期に作られた谷に泥がたまった地形を沖積平野あるいは沖積低地と呼び、その泥の層を「沖積層」と呼ぶ。また、これらの地形が作られた時代を「沖積世」と呼んでいた。
 日本ではこの時代区分が2万年前になるが、約1万年前にも海面が下がった時期がある。日本では地形の差や地層の不整合は不明瞭だが、ヨーロッパでは顕著で、1万年前で時代区分され、「漸新世」「完新世」と呼ばれるようになった。「洪積世」「沖積世」という時代区分は現在では使われなくなった。洪積台地も、単に台地と呼ぶようになってきた。
 
●プレート(p146)
 地球表面は、地殻と上部マントルからなる、厚さ100kmくらいの硬い岩盤に覆われている。プレート。
 プレートは、海洋プレートと大陸プレート合わせて14~15枚もある。海洋プレートのほうが強固で密度が高いため、二つがぶつかると海洋プレートが大陸プレートの下に沈み込んでいく。
 
●橄欖岩(p152)
 地球の全体積のうち、橄欖(かんらん)岩が82.3%、玄武岩が1.62%、花崗岩が0.68%を占めており、地球はほとんどがこの三つの岩石からなっている。
 橄欖岩は、地中奥深くでマントルを作っているために、地表には少ない。
 地殻より内部の70kmから2,900kmくらいまでが、橄欖岩からなるマントル。
 玄武岩は主に海洋の地殻を、花崗岩は大陸の地殻を作っている。
 橄欖岩が地表に出てくる場所が、日高山脈の南端の襟裳岬近くにあるアポイ岳(810m)。
 橄欖岩は、非常に不安定な岩石なので、地表に上がってくる過程で水に触れて変質し、蛇紋岩になる。しかし、アポイ岳やその周辺にみられる橄欖岩はほとんど変質しておらず、新鮮なのが特徴。地名をとって、「幌満橄欖岩」と呼ばれている。
 かつて、日高山脈は北アメリカ・プレートとユーラシア・プレートの接合境界だった。千島列島を載せたアメリカ・プレートのマントル上部がめくれ上がり、のし上がった北アメリカ・プレートの底から橄欖岩が引きはがされ、500万年前に地表に現れてアポイ岳が誕生した。
 
●花崗岩(p172)
 岩石は日中日射を浴びて温度が上がり膨張し、夜間は冷やされて収縮する。花崗岩はその膨張収縮率が、岩石を構成する鉱物の石英、長石、黒雲母によって異なるため、1日の膨張収縮のたびにぼろぼろと遊離し、玉ねぎの皮を剝くように風化して剥離していく。
 花崗岩の風化を「玉ねぎ状風化」と呼んでいる。
 大文字山から比叡山にかけての花崗岩は、風化で白い色の石英が遊離し、それが川に流れて白砂が堆積する川となる。山麓に流れている川は「白川」と命名されている。
 
●エベレスト(p178)
 エベレストの標高は8,848m。
 対流圏と成層圏の境界の「圏界面」は、両極6,000m~赤道1万7,000m。対流圏では、地表から上昇気流が生じて大気の擾乱があり雲ができるが、山頂がこの圏界面を超えたとしても雲ができないため、日中は強い日差しで、夜は急速に冷え、機械的風化作用が活発で岩盤は砕けていき、長い年月を経れば圏界面より低くなる。
 高い山の標高は、圏界面の高度によって決まる。
 
●イースト・サイド・ストーリー(p187)
 アフリカ大地溝帯の西側にルウェンゾリ山地が形成され、ギニア湾からの湿った風が東アフリカに届かなくなり、乾燥化して熱帯雨林が消失し、草原のサバンナになった。そこで人類の祖先が熱帯雨林からサバンナに進出し、二足歩行するようになった、というのが定説だった。フランスの人類学者イヴ・コパンによる「イースト・サイド・ストーリー」(1982年)。
 しかし、近年、この説が否定されるようになる。
 800万年前の大地溝帯付近の隆起はまだ小さく、実際に山脈が形成されたのは、400万年前。すでに600万年前に二足歩行が始まった。
 800万年前の東アフリカは完全に乾燥化したわけではなく、かなりの森林が残っていた。
 アフリカ西部のチャドで600~700万年前のトゥーマイ猿人の化石が発見された。
 2003年2月、コパン自身がこの説を撤回した。
 
●あやとり(p205)
 ポリネシアン・トライアングル……北端をハワイ諸島、南東端をラパヌイ(イースター島)、南西端をアオテアロア(ニュージーランド)とする三角形。この地域では、オーストロネシア諸語が使われ、伝統文化、芸術、宗教なども似通うポリネシア文化圏を構成する。
 あやとりは、ポリネシアに共通する文化。
 
(2021/12/20)NM
 
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野垂れ死に ある講談社・雑誌編集者の回想
 [ 読書・出版・書店]

野垂れ死に: ある講談社・雑誌編集者の回想
 
元木昌彦/著
出版社名:現代書館
出版年月:2020年4月
ISBNコード:978-4-7684-5878-5
税込価格:1,870円
頁数・縦:263p・19cm
 
 週刊誌の黄金時代(?)をハチャメチャに突っ走った編集者による、平成時代の回想録。
 夜の飲み会は会社持ち、「取材のときに使う食事代や酒代も天井はなかった」という、太っ腹な会社で幸せな時代を生きた編集者の交遊録でもある。アルコールを通じて多くの知人・友人のネットワークを築いていく姿が、先に逝った先輩や友人へのオマージュとともに描かれている。「酒に強い」ことが良い編集者になるための第一歩だと言われるが、まさにそれを地で行くようだ。
 にしても、この人の肝臓は大丈夫だろうかと、いささか心配にもなる。御年76歳?
 
【目次】
プロローグ 引っ込み思案だった高校時代とバーテンダー稼業
第1章 講談社の黄金時代
第2章 フライデー編集長「平時に乱を起こす」
第3章 週刊現代編集長「スクープのためなら塀の内側に落ちても」
第4章 ばら撒かれた怪文書と右翼の街宣、そして左遷
第5章 もしも、もう一度逢えるなら
エピローグ 愛すべき名物記者たちへの挽歌
 
【著者】
元木 昌彦 (モトキ マサヒコ)
 1945年新潟県生まれ。早稲田大学商学部卒。1970年講談社入社。「月刊現代」、「週刊現代」、「婦人倶楽部」を経て、1990年「FRIDAY」編集長。1992年から1997年まで「週刊現代」編集長・第一編集局長、1999年オンラインマガジン「Web現代」創刊編集長。2006年講談社を退社し、2007年「オーマイニュース日本版」編集長・代表取締役を経て、現在は出版プロデューサー。
 
(2021/12/16)NM
 
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米中対立 アメリカの戦略転換と分断される世界
 [社会・政治・時事]

米中対立-アメリカの戦略転換と分断される世界 (中公新書 2650)
 
佐橋亮/著
出版社名:中央公論新社(中公新書 2650)
出版年月:2021年7月
ISBNコード:978-4-12-102650-7
税込価格:1,034円
頁数・縦:308p・18cm
 
 米国が中国に抱いていた「三つの期待」を捨て、対立姿勢を示すようになった過程と原因を分析する。
 
【目次】
序章 米中対立とは何か
第1章 関与と支援―対中政策における主流派の形成
第2章 不確かなものへの恐怖―中国警戒論の胎動
第3章 高まる違和感―台頭する中国と出会ったオバマ政権
第4章 関与政策の否定へ―トランプ政権と中国
第5章 アメリカのなかの中国―関与と強硬姿勢、それぞれの原動力
第6章 米中対立をみつめる世界
第7章 今後の展望―米中対立はどこに向かうのか
 
【著者】
佐橋 亮 (サハシ リョウ)
 1978年(昭和53年)、東京都に生まれる。国際基督教大学卒業、東京大学大学院法学政治学研究科博士課程修了。博士(法学)。東京大学特任助教、オーストラリア国立大学博士研究員、スタンフォード大学客員准教授、神奈川大学教授を経て、2019年より東京大学東洋文化研究所准教授。専攻、国際政治学、東アジアの国際関係。
 
【抜書】
●三つの期待(p162)
 米国は、過去40年、中国に対して三つの期待を抱いていた。
 政治改革、市場化改革、国際社会への貢献。
 
●韓国(p229)
 韓国にとっては、米国との同盟を維持しながら、それの対中関係への波及を避けることが重要な外交手法。
 〔「中国との仲介者を演じて米韓同盟を裏切っているという認識を作らず、日米と結託して中国に対抗しているという認識も作らないこと」は、韓国外交にとって一つの現実的な姿だろう。〕
 
●ヘッジ(p231)
 ASEAN諸国の外交姿勢。
 同盟や服従、中立化といった明確な選択を迫られることがないような立場を維持するために、どちら側にも与しない中間的な場所を作ろうとする。
 
(2021/12/14)KG
 
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日本の私立大学はなぜ生き残るのか 人口減少社会と同族経営:1992-2030
 [社会・政治・時事]

日本の私立大学はなぜ生き残るのか-人口減少社会と同族経営:1992-2030 (中公選書)
 
ジェレミー・ブレーデン/著 ロジャー・グッドマン/著 石澤麻子/訳
出版社名:中央公論新社(中公選書 120)
出版年月:2021年9月
ISBNコード:978-4-12-110120-4
税込価格:2,200円
頁数・縦:355p・20cm
 
 日本では、少子化により18歳人口が減少し、2018年ごろから私立大学の崩壊が始まると予想されていた。しかし、現実はそうはならず、4年制大学の数も学生数も増加した。その私立大学のレジリエンスを、同族経営に求めた論考が本書である。
 
【目次】
序章 「2018年問題」
第1章 予想されていた私立高等教育システムの崩壊
第2章 日本の私立大学を比較の視点から見る
第3章 ある大学の危機―MGU: 1992-2007
第4章 法科大学院とその他の改革―MGU: 2008-2018
第5章 日本の私立大学のレジリエンス
第6章 同族ビジネスとしての私立大学
 
【著者】
ブレーデン,ジェレミー (Breaden, Jeremy)
 豪モナッシュ大学准教授。1973年生まれ。メルボルン大学人文学部・法学部卒業、同大学博士号取得(人文学)。専門は日本の教育・雇用システム。
 
グッドマン,ロジャー (Goodman, Roger)
 オックスフォード大学日産現代日本研究所教授。1960年生まれ、英国エセックス州出身。ダーラム大学人類学社会学部卒業、オックスフォード大学博士号取得(社会人類学)。専門は日本の社会福祉政策、高等教育。
 
石澤 麻子 (イシザワ アサコ)
 1989年生まれ。国際基督教大学(人類学専攻)卒業、オックスフォード大学大学院現代日本研究修士課程修了。オックスフォード大在学中はロジャー・グッドマンに師事。現在は記事の翻訳、執筆を中心に活動。
 
【抜書】
●学歴過多(p239)
 日本の大学卒業生のおよそ50%が、仕事で求められているよりも高い学歴を持っている。
 過少雇用(underemployed)あるいは「学歴過多」状態になっている。
 
●同族経営(p268)
 近畿大学……世耕一族。日本で最も多くの学部受験生を獲得(2019年、15万4,000人以上)。
 帝京大学……沖永一族。39校もの異なる大学や学校、幼稚園などを運営。歳入は毎年1,000憶円。
 都築学園グループ……都築一族。全国に大学6校を保持。その一部は、教育を超えたビジネス的関心を持つ親族が運営。
 朝日大学、明海大学……宮田一族。1960年代の東京での大規模コンドミニアム開発責任者。中華料理店チェーン「南国酒家」を経営。
 
(2021/2/8)NM
 
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酔っぱらいが変えた世界史 アレクサンドロス大王からエリツィンまで
 [歴史・地理・民俗]

酔っぱらいが変えた世界史:アレクサンドロス大王からエリツィンまで
 
ブノワ・フランクバルム/著 神田順子/訳 田辺希久子/訳 村上尚子/訳
出版社名:原書房
出版年月:2021年8月
ISBNコード:978-4-562-05937-9
税込価格:2,200円
頁数・縦:203p・20cm
 
 酔っ払いたちが紡ぐ世界の裏面史。
 まあ、よくぞこれだけ酒飲みのエピソードを集めたなというくらい、歴史の暗部(?)を抉り出してくれる傑作。たとえば、「一八四七年、マルクスは『哲学の貧困』を出版し、自分とエンゲルスがかつて偶像視していたフランスの社会主義者ピエール=ジョゼフ・プルードンをコテンパンにやっつけた(なお、プルードンは醸造職人の息子だった)」なんて記述も。プルードンもアルコールに関係のある人物だったのである。それにしても、プルードンが出てくるのはおそらくここ一か所だけだし、文脈的にこの情報、必要?
 
【目次】
アフリカ 1000万年前 ホモ・ノンベエラスに遺伝子変異が起きた
中近東 前8000年 「パンじゃなく、とりあえずビール」
エジプト 前2600-1300年 神泡の立つピラミッド
バビロニア(メソポタミア)前323年 アレクサンドロス大王、32歳で深酒により落命
マルセイユ 前6‐前1世紀 ワインがマルセイユに繁栄をもたらす
バルフルール灘(ドーヴァー海峡)1120年11月25日 酩酊した船長がイングランド王位継承戦争をひき起こす
シゼの森(ポワトゥー地方)1373年3月21日 美味しいソミュール産ワインが百年戦争に転機をもたらす
パリ(フランス)1393年1月28日 王弟オルレアン公、「燃える人の舞踏会」を燃やす
イスタンブール(オスマン帝国)1574年12月12日 酔漢セリム2世に浴室が死をもたらす
イングランド 1660-1685年 チャールズ2世、グラスを片手に、立憲君主制の礎を築く
ボストン(北アメリカ)1773年12月16日から17日にかけての夜 アメリカ独立戦争はラム酒のおかげ
パリ(フランス)1789年7月10-13日 フランス革命はワインによって引き起こされた
パリ(フランス)1844年8月28日 マルクス主義は、10日間続いた酒盛りの結実だった!
ワシントン、フォード劇場(アメリカ)1865年4月14日 リンカンが暗殺されるというときに、大統領のボディガードは酒場で深酒をしていた
フランクフルト(ドイツ)1871年5月9日 コニャックですっかりできあがってしまったビスマルク、フランス占領からの撤退を承諾!
旅順(満州)1905年1月5日 1万ケースのウォッカのおかげで、日本がロシアに苦杯をなめさせる
フラン北東部の塹壕 1914-1918年 フランスのワイン対ドイツのシュナップス=1:0
ソヴィエト連邦 1922-1953年 ウォッカはスターリン外交のバロメーター
テキサス州フォートワース 1963年11月22日 午前3時、JFK警護官が二日酔い
ワシントンDC(アメリカ)1973年10月24日-25日夜 核危機渦中で泥酔するニクソン
モズドク(ロシア)1994年12月31日 グロズヌイ攻撃は、ウォッカで大晦日を祝う宴席で決定された
 
【著者】
フランクバルム,ブノワ (Franquebalme, benoit)
 ジャーナリスト。1997年に「ラ・プロヴァンス」紙でデビュー。2000年、パリ実践ジャーナリズム学院で学位を取得。2004年からはさまざまな雑誌を活躍の舞台としている。
 
神田 順子 (カンダ ジュンコ)
 フランス語通訳・翻訳家。上智大学外国語学部フランス語学科卒業。
 
田辺 希久子 (タナベ キクコ)
青山学院大学大学院国際政治経済研究科修了。翻訳家。
 
村上 尚子 (ムラカミ ナオコ)
フランス語翻訳家、司書。東京大学教養学部教養学科フランス分科卒。
 
【抜書】
●酔っぱらいのサル仮説(p2)
 2004年、生理学・バイオメカニクスを専門とする、カリフォルニア大学バークレー校のロバート・ダドリー博士が提唱、2014年に出版。
 パナマの森林地帯で研究を行っていた時、サルが微量のアルコールを含む熟した果実を食べているのを目撃し、思いつく。〔進化とは、長い歳月にわたる二日酔いのようなものではないか、という考えだ。〕
 私たちの祖先は、熟した果実に自然に含まれるエタノールのにおいと味を関連付けることを学習し、進化上の優位性を得た。一般的に植物の組織にはグルコース、フルクトース、サッカロースなど、発酵によってエタノールを生み出す糖分がたっぷり含まれている。
 果実に含まれるエタノールは重要なカロリー源で、しかも強い腐敗臭があるから霊長類にとって探し出しやすい。こうした魅力から、人間jはアルコールに惹かれ、乱用してしまうのだろう。
 
●ミツバチ(p5)
〔 ミツバチがいなければ、ヒトの先祖は果実以外のものから、エタノールを定期的に摂取することはできなかっただろう。養蜂の世界的権威である故ロジャー・モースは、愛しのミツバチが世界初の酒をもたらしたことを立証した。木の幹にあいた穴に蜂蜜と蜜蝋がたまり、そこに雨水が流れこんで、人類初の醸造所が生まれた。七〇パーセントの水で希釈された蜂蜜は、酵母によって発酵を開始。おいしい蜂蜜酒ができあがった。そして類人猿が魅力的な香りに誘われてこの酒を味見して仲間にも知らせ、やがて初期の酒へと発展していったのだ。〕
 
●5リットルのビール(p15)
 クフ王のピラミッドは、BC2600-2550年のあいだ、20年をかけて建設された。
 1日1万人が動員され、毎日5リットルのビールが支給された。ビールが賃金代わりだった。
 5リットル×1万人×365日×20年=3億6500万リットルのビールが、この工事だけで消費された。
 
●入市関税徴収所(p94)
 1789年のフランス革命にとって真に重要だったのは、バスティーユ要塞の襲撃ではなく、入市関税徴収所。専制政治の真の象徴は、「フェルミエ・ジェネローの城壁」の各所に設けられた入市関税徴収所や税関事務所だった。
 7月12日と13日、パリを取り巻く55の入市関税徴収所のうち40が放火された。ワイン商人とブドウ栽培者が放火犯たちに合流し、「3スーのワイン万歳! 12スーのワインを打倒せよ!」という合言葉が決まった。入市税関の官吏たちが個人として所有していた何百本ものワインが強奪された。
 フェルミエ・ジェネローの城壁……王権は、1784年、徴税請負人たち(フェルミエ・ジェネロー)の発案に応じ、パリ市内に運ばれる物品(ワインも含む)に課せられる関税を徴収するために、パリの周囲に城壁を築くことを決めた。1785年、55の関税徴収所をつなぐ24kmの城壁が建設された。この際に当局が重視したのは、パリ市北部の辺縁に存在していた酒場(ガンゲット)を城域内に取り込むことだった。ワインの入市と消費を監督下に置くこと。
 1351年、パリの商人頭(市長に相当)は、「ヴァンドゥール・ド・ヴァン」と呼ばれる官吏組織を作り、ワイン流通を規制監督するようになった。昔から、パリに流入するワインには重税が課されていた。
 
●平等主義(p101)
 1791年1月20日、憲法制定国民議会は、パリを含むすべての都市の入り口で徴収される入市関税が5月1日をもって廃止される、と宣言した。パリ市民がラ・シャペル入市関税徴収所で新たに騒動を起こし、死者が出たことを受けての決定だった。
 2月19日、ワインは「平等主義、共和主義、愛国主義を体現する飲料」である、と宣言された。
 しかし、革命暦7年葡萄月27日(1798年10月18日)の法律によって、パリの入市税関は復活した。名称は、「慈善のための入市税関」だった。
 
●集団アルコール中毒(p152)
 ブルゴーニュ大学の研究者クリストフ・リュカン著『ポワリュたちのワイン』(Le pinard des poilus、2015年)。
 「攻撃性の維持と上官への服従を可能としたのは、敗北をおそれる政界と軍上層部があえてひき起こした集団アルコール依存症である。それ以外のなにものでもない」。
 ポワリュ……第一次世界大戦の兵士たちの呼び名。
 身がすくむ恐怖に立ち向かい、ひどい状況でも持ちこたえることを可能にしたのは「ワインという神様」だった。
 塹壕を飛び出して突撃する直前、ポワリュたちはワインを与えられた。当時、ワインは殺菌作用がある健全な飲み物と考えられていた。塹壕では、汚染された水の代わりにワインが飲まれていたのだ。
 
●ウォッカ(p174)
 ロシアの古い格言。「ウォッカを飲めるのは二つの場合だけ、食べているときと、食べていないとき」
 
(2021/12/7)NM
 
〈この本の詳細〉


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