SSブログ

米中戦争 「台湾危機」驚愕のシナリオ
 [社会・政治・時事]

米中戦争 「台湾危機」驚愕のシナリオ (朝日新書)
 
宮家邦彦/著
出版社名:朝日新聞出版(朝日新書 836)
出版年月:2021年10月
ISBNコード:978-4-02-295145-8
税込価格:891円
頁数・縦:256p・18cm
 
 「あるか、ないか」ではなく、「あるとすれば何時か」という段階に入った「米中戦争」に関して、台湾に視点を据えてマトリクス分析を行い、その抑止方法について考察する。
 しかしながら、結論にある、中国と台湾の関係の「現状維持」(p.252)が最善の状態であるという前提が気になる。米国のスタンスとして、過去の経緯により、台湾の独立は念頭にない、ということだ。中国を国家として承認する過程で「一つの中国」を是認しているからだ。
 つまり、台湾は未来永劫、「国家」として認定されず、宙ぶらりんな状態が続くことになる。この状態をいつまで続ければいいのだろうか。中国が台湾を国家として認めるまでだろうか。
 過激な考え方、もしくは現実を無視した考え方なのかもしれないが、台湾を国家として認める方向で現状を変更していくことによってしか、根本的な解決にはならないのではないだろうか。そうしなければ、台湾海峡の両岸の緊張は、この先ずっと消えることはないだろう。
 もしくは、平和的に台湾が中国に併合される時か?
 
【目次】
第1章 国交正常化後の米中関係―過去から将来のマトリックス分析
第2章 中国の発展に関するモデル分析
第3章 「脅威」とはなにか
第4章 「能力」以上に重要な「意図」
第5章 中国の「目的」「動機」を左右する内外情勢
第6章 「グレーゾーン事態」「ハイブリッド戦争」―古くて新しい概念
第7章 「グレーゾーン事態」「ハイブリッド戦争」を如何に抑止するか
第8章 米中の軍事対立に関するマトリックス分析
第9章 中台双方の「目的」に関するマトリックス分析
第10章 中台双方の「動機」に関するマトリックス分析
最終章 米中戦争を如何に「抑止」するか
 
【著者】
宮家 邦彦 (ミヤケ クニヒコ)
 1953年神奈川県生まれ。キヤノングローバル戦略研究所研究主幹、立命館大学客員教授。1978年に外務省入省。外務大臣秘書官、中近東第一・第二課長、日米安全保障条約課長、在中国・在イラク大使館公使、中東アフリカ局参事官を歴任。2005年に退職し外交政策研究所代表を経て現職。
 
【抜書】
●グレーゾーン事態(p123)
 純然たる平時でも有事でもない事態であり、領土や主権、経済権益などをめぐる主張の対立を背景としつつも、明白な武力攻撃事態と認定することが困難な主権侵害、あるいは、その発生の可能性が高い事態。
 
●ハイブリッド戦争(p124)
 「防衛白書」による解説。
 「軍事と非軍事の境界を意図的に曖昧にした現状変更の手法であり、このような手法は、相手方に軍事面にとどまらない複雑な対応を強いることになります。
 例えば、国籍を隠した不明部隊を用いた作戦、サイバー攻撃による通信・重要インフラの妨害、インターネットやメディアを通じた偽情報の流布などによる影響工作を複合的に用いた手法が、「ハイブリッド戦」に該当すると考えています。このような手法は、外形上、「武力の行使」と明確には認定しがたい手段をとることにより、軍の初動対応を遅らせるなど相手方の対応を困難なものにするとともに、自国の関与を否定するねらいがあるとの指摘もあります。」
 
●まだらグラデーション(p150)
 中国の脅威は、「脅威」=「能力」(「手段」×「機会」)×「意図」(「目的」×「動機」)として分析すべきであり、米中戦争は「グレーゾーン事態」と「ハイブリッド戦争」が「まだらグラデーション」状態で発生する可能性が高い。
 
●現状維持のための「意図」(p251)
〔 さてさて、まずは、ここまで辛抱強くお付き合い頂いた読者各位の強靭なる「知的体力」に対し深甚なる謝意を表したい。ここまで、台湾をめぐる「米中戦争」勃発の可能性と、その「抑止」方法について、駆け足ではあるが、可能な限り「虱潰し」の議論を行ったつもりだ。しかし、これだけ精緻な分析を行った割に、筆者の結論は意外なほど常識的なものとなった。
 要するに、台湾と米国が現状維持のため最大限の「意図」を持てば、中国による台湾武力侵攻を「抑止」することも不可能ではないということだ。逆に言えば、万一、台湾や米国が本気で現状を維持する「意図」がなければ、対中「抑止」は減殺され、中国の国家「目的」は成就するだろう。そうなれば、西太平洋における米国のプレゼンス自体が徐々に弱体化していく恐れすらある。
 されば、中国の台湾に対する「脅威」が顕在化する前に、我々はそれを「抑止」する準備を始めなければならない。これは決して他人事ではなく、21世紀後半の日本の国際的地位を決定づけるという意味で極めて重要な課題となる。これから2030年代までの10年間に日本に求められる課題は何か、また、その課題が見つかった時にそれを実行する知的、財政的体力が果たして日本に残っているだろうか。
 日本の正念場はこれからである。〕
 
(2022/1/28)NM
 
〈この本の詳細〉


nice!(1)  コメント(0) 
共通テーマ:

アルゴリズムの時代 機械が決定する世界をどう生きるか
 [コンピュータ・情報科学]

アルゴリズムの時代 機械が決定する世界をどう生きるか
 
ハンナ・フライ/著 森嶋マリ/訳
出版社名:文藝春秋
出版年月:2021年8月
ISBNコード:978-4-16-391422-0
税込価格:1,870円
頁数・縦:294p・19cm
 
 IT化が進む現代社会を支配しているのはアルゴリズム?
 様々な分野で幅を利かす「アルゴリズム」を詳述し、それでも人間は機会と共生できる、ヒトは機械をうまく利用しながら生きていくことができると説く。
 
【目次】
1章 影響力とアルゴリズム
2章 データとアルゴリズム
3章 正義とアルゴリズム
4章 医療とアルゴリズム
5章 車とアルゴリズム
6章 犯罪とアルゴリズム
7章 芸術とアルゴリズム
結論 機械とともに生きる時代に
 
【著者】
フライ,ハンナ (Fry, Hannah)
 1984年、イギリス生まれ。ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン高等空間解析センター准教授、数学者。数理モデルで人間の行動パターンを解析する研究をおこない、政府、警察、健康分析企業、スーパーマーケットなどとも協力している。TEDトークで人気を集め、BBCやPBSのドキュメンタリーの司会も務める。アダム・ラザフォードとのBBCの科学ポッドキャスト『The Curious Cases of Rutherford & Fry』は人気長寿番組になっている。
 
森嶋 マリ (モリシマ マリ)
翻訳家。
 
【抜書】
●感度、特異度(p117)
 乳がん検査アルゴリズムの場合、
 感度……問題のある組織を見逃さず、はっきりと教えてくれること。見逃し。
 特異度……正常な組織をがん細胞と間違えないこと。誤検知。
 多くの場合、アルゴリズムの精度を上げるには、感度と特異度のどちらかを優先させなければならない。
 
●プレッドポル(p197)
 予測警備。「プレディクティブ・ポリシング」の略。
 
(2022/1/28)NM
 
〈この本の詳細〉


nice!(1)  コメント(0) 
共通テーマ:

名画の生まれるとき 美術の力Ⅱ
 [芸術]

名画の生まれるとき~美術の力II~ (光文社新書)
 
宮下規久朗/著
出版社名:光文社(光文社新書 1161)
出版年月:2021年10月
ISBNコード:978-4-334-04568-5
税込価格:1,320円
頁数・縦:296p・18cm
 
 美術に関する小論・考察を55編集めたエッセー集。「産経新聞」夕刊に毎月連載している「欲望の美術史」の2017年12月から2021年8月までの記事を中心に、その他の媒体に書いた記事16点を加えて、大幅に加筆修正して再構成した。
 個々の美術作品の背景を綴り、作品の見方をわかりやすく指南してくれる。たまには美術館に行き、ゆったりと美術に浸りたいと思った。
 
【目次】
第1章 名画の中の名画
第2章 美術鑑賞と美術館
第3章 描かれたモチーフ
第4章 日本美術の再評価
第5章 信仰と政治
第6章 死と鎮魂
 
【著者】
宮下 規久朗 (ミヤシタ キクロウ)
 1963年愛知県名古屋市生まれ。美術史家、神戸大学大学院人文学研究科教授。東京大学文学部美術史学科卒業、同大学院修了。『カラヴァッジョ―聖性とヴィジョン』(名古屋大学出版会)でサントリー学芸賞などを受賞。
 
【抜書】
●犬(p130)
 犬がモチーフとして女性の傍らに描かれると、その女性の夫への貞節という美徳を表した。
 ヤン・ファン・エイク「アルノルフィーニ夫妻像」(1434年)には、夫婦の間に犬がいるが、これは妻の夫への忠節心を表している。
 男女の間に犬がいるか、あるいは女性が犬を抱いていれば、それは兄弟や親子ではなく、夫婦を示す。
 
●手紙(p136)
 フェルメールの作品は世界に三十数点しか現存していない。そのうち、6点が手紙を主題としている。
 
●浴衣(p175)
 上野公園にある西郷隆盛の銅像は、東京美術学校に制作が依頼され、高村光雲が同僚や弟子たちと十年近くをかけて作った。木彫を原型としているため、仏像のような丸みのある造形となっている。
 1898年にこの像が除幕されたとき、西郷未亡人の糸は、主人はこんな人ではないと叫んで関係者を慌てさせた。
 この像が西郷に似ていなかったからではない。この像が浴衣の着流し姿だったため。西郷は浴衣姿で人前に出るような礼儀知らずではない、と訴えたらしい。
 
●慰安婦像(p232)
 キム・ウンソンとキム・ソギョンの彫刻家夫婦によって作られた、チマチョゴリの少女の座像。2011年に慰安婦問題を告発する記念碑としてソウルの日本大使館の前に置かれた。
 2019年8月1日に始まった「国際芸術祭あいちトリエンナーレ2019」の企画の一つ「表現の不自由展・その後」で「平和の少女像」として展示されたが、3日間展示されただけで企画展が中止された。
〔 ただ、問題の像を会場で政治的な先入観なしに客観的に見れば、この像自体には何らの意味も造形的な強さもない凡庸な像に過ぎないことがわかるはずだ。そして、そんな像でも文脈や設置場所次第で大きな力や火種になりうるということから、美術や造形の意味や役割について考える絶好の機会になったであろう。そう思うと、やはり中止は残念であり、展示を見たかったと思うのである。〕
 
●鍾馗(p252)
 中国の道教系の神。病魔退散の神。
 マラリアにかかった唐の玄宗皇帝が、鬼を退治する人物を夢に見て、それを画家の呉道玄に描かせたのが始まりだと伝えられている。
 
(2022/1/19)NM
 
〈この本の詳細〉


nice!(2)  コメント(0) 
共通テーマ:

種を語ること、定義すること 種問題の科学哲学
 [哲学・心理・宗教]

種を語ること、定義すること: 種問題の科学哲学
 
網谷祐一/著
出版社名:勁草書房
出版年月:2020年12月
ISBNコード:978-4-326-10288-4
税込価格:3,520円
頁数・縦:238, 15p・22㎝
 
 生物学者たちは、「種」について厳密な定義をせずに「種」という用語を使用し、それでいて大きな混乱もなくコミュニケーションを成立させている。その状況を哲学的に考察する。
 「種」の分化というのは、大きな時間のスパンで考えれば現在進行中の現象である。どう定義するにしても、分化中の種と種の境界にある個体は常に存在することになる。
 また、生殖可能性で定義したとしても、実験でうまく証明できない場合もある。遺伝子で定義しても、何パーセント一致すれば同一の種としてみとめるのか、厳密には決められないだろう。
 難しい問題である。
 
【目次】
第1章 種問題とは何か
 形態学的(分類学的)種概念
 生物学的種概念
  ほか
第2章 合意なきコミュニケーション
 三つのケーススタディ
 二論争物語―プライオリティの問題と同所的種分化の問題
  ほか
第3章 「よい種」とは何か
 二重過程説とは何か
 生物学者は種についてどう語るのか
  ほか
第4章 「投げ捨てられることもあるはしご」としての種
 一般種概念の構成要素を明らかにする
 一般種概念と個々の種の定義の関係―精緻化
  ほか
 
【著者】
網谷 祐一 (アミタニ ユウイチ)
 1972年生まれ。2007年3月京都大学大学院文学研究科博士課程単位取得退学。哲学博士(Ph.D.)ブリティッシュ・コロンビア大学(カナダ)より取得。米ピッツバーグ大学(ポスト・ドクトラル・フェロー)、京都大学文学研究科(研究員)、東京農業大学生物産業学部准教授を経て、2019年4月より会津大学コンピュータ理工学部上級准教授。
 
(2022/1/17)NM
 
〈この本の詳細〉


nice!(2)  コメント(0) 
共通テーマ:

職業としてのヤクザ
 [社会・政治・時事]

職業としてのヤクザ(小学館新書)
 
溝口敦/著 鈴木智彦/著
出版社名:小学館(小学館新書 396)
出版年月:2021年4月
ISBNコード:978-4-09-825396-8
税込価格:880円
頁数・縦:189p・18cm
 
 二大ヤクザ・ライターが、対談形式で、シノギを中心にヤクザの生態と、暴力団対策法(暴対法)施行(1991年)以降のヤクザの苦境について語る。
 
【目次】
序章 ヤクザは職業か、生き方か
第1章 どうして働かないで生きていけるのか
第2章 なぜ暴力団に需要があるのか
第3章 抗争に経済的メリットはあるのか
第4章 ヤクザの「命の値段」はいくらなのか
第5章 人はどうやってヤクザになるのか
第6章 組長まで出世する条件とは何か
第7章 暴力団経営にはどんな経費がかかるのか
第8章 子分と子供、本当に大事なのはどちらか
第9章 ヤクザの仕事に休日や祝日はあるのか
第10章 いつ引退し、どんな老後を送るのか
終章 ヤクザという職業は消えていくのか
 
【著者】
溝口 敦 (ミゾグチ アツシ)
 1942年、東京生まれ。早稲田大学政経学部卒業。ノンフィクション作家。『食肉の帝王』で2004年に講談社ノンフィクション賞を受賞。
 
鈴木 智彦 (スズキ トモヒコ)
 1966年、北海道生まれ。日本大学芸術学部写真学科除籍。ヤクザ専門誌『実話時代』編集部に入社。『実話時代BULL』編集長を務めた後、フリーに。
 
【抜書】
●無職(ぶしょく)(p17、鈴木)
〔 無職でいながら世渡りをしているということですが、本心をいえばそこに彼らの矜持がある。表面上、自分たちの位置を「ヤクザは乞食の下で盗人の上」と言いながら、金筋(きんすじ)と呼ばれる本格的な博徒は、自分たちは犯罪者ではあっても悪人ではない、真っ当に働いてはいないが、卑ではないと自負している。〕
 
●庭場(p23、溝口)
 にわば。博徒の勢力範囲を「縄張り」というのに対し、テキ屋のそれは「庭場」という。
 
●愚連隊(p24、溝口)
 警察の分類では、博徒系とテキ屋系のほかに、三つめとして「愚連隊系」がある。
 終戦直後に戦争帰りの軍人とか大学生崩れとかが始めた組織が源流。安藤組(法政大学を中退した安藤昇を組長とした組織。64年に解散)など。
 博徒でもテキ屋でもない暴力常習者が愚連隊。シノギは、用心棒といったゆすり・たかりの先駆け、みかじめ料、覚醒剤売買、など。
 かつては警察の分類も細分化しており、会社ゴロ、港湾ゴロ、不良土建、右翼系暴力団、不良興行、新聞ゴロ、炭鉱ヤクザ、などがいた。
 
●火消し(p26、溝口)
 ヤクザの原点は火消し。
 江戸時代末期、ひとつの町で6~7人の火消しを抱えなくてはいけなくて、そこで集めた若い衆、町奴(まちやっこ。町人出身の侠客)みたいな連中をまとめる人がいた。それを「親分」と呼んだ。親分には、若い衆を抱えていれば町から補助金が出た。
 親分は、町のあちこちに目を光らせ、工事がありそうだとなればそれを請け負い、解体とか鳶なんかを若い衆にやらせて日銭をピンハネしていた。それと同時に、浅草のような盛り場では、「みかじめ料」を取った。
 ほとんどの町では、そこに住む富豪が町奴を支配していた。浅草だけは、新門辰五郎という親分が仕切っていた。新門一家というのは今もある。
 新門辰五郎は、浅草寺に露店を立てたり、猿回しとか薬売りから金を取るから経済力があって、商人に頭を下げなかった。それが原型になって、ヤクザ独自のシノギの目処がついてきた。
 
●人足供給業(p28、鈴木)
 土木建築の人足供給業も、ヤクザの原型の一つ。海運業に労働者周旋をしていた山口組が、元来、建設業のものだった「組」という名称を使うように、両者は双子のような関係にあった。
 人足の親玉たちは、働き手を集めるため、なぐさみに博奕を開帳した。
 
●弘道会(p115、鈴木)
 山口組では、元来、建前として直参はみな平等である。代替わりの際には、慣例としてトップである組長とナンバーツーである若頭は別の組織から選ばれていた。
 六代目になって司忍組長、高山清司若頭とも弘道会で占めることになり、さらに弘道会を継いだ竹内照明会長が、若頭補佐に抜擢された。
 弘道会のトップ独占が、分裂の原因となった。分裂後、離脱派が「神戸山口組」という名称を付けた。
 弘道会は愛知を拠点とする組織。山口組はもともと神戸の組織で、六代目山口組の総本部は神戸の篠原本町だが、本家は名古屋だと言い出した。
 
●事始め(p156)
 ヤクザに基本的に祝日休みはないが、「事始め」という行事を大事にしている。
 12月13日にやることが多い恒例行事。正月の準備を始める行事としてはもともとある。芸事の世界などには今も残っている。
 元々、正月は博奕で忙しく、書き入れ時だから、その前に組内で新年を迎えておこうという意味。正装で餅や樽酒、豪華な弁当などが用意される。
 親分に一年の礼を述べ、来年もよろしくとあいさつする。月々の上納金とは別にお礼も包む。
 昔は、スポンサー筋の経営者も来ていた。
 西日本の組織では一般的だが、関東ではあまりやらない。
 
(2022/1/13)NM
 
〈この本の詳細〉


nice!(1)  コメント(0) 
共通テーマ:

事件でなければ動けません 困った警察官のトリセツ
 [社会・政治・時事]

事件でなければ動けません 困った警察官のトリセツ (幻冬舎新書)
 
古野まほろ/著
出版社名:幻冬舎(幻冬舎新書 ふ-17-3)
出版年月:2021年9月
ISBNコード:978-4-344-98634-3
税込価格:946円
頁数・縦:237p・18cm
 
 「事件性がないと警察は動けない」という「神話」の実態を検証し、協働者・同盟者であるべき市民と警察の正しい付き合い方を教示する。
 警察に対する批判と擁護の双方の観点を持ち合わせつつ、丁寧に解説してくれる。つまり、不良(ゴンゾウ)警察官もいるにはいるが、大半は職務に忠実でまじめな人たちなので、困ったことが起きた時には上手に彼らを利用して、うまく付き合いましょう、ということ。そのためのトリセツ、「警察官取扱説明書」である。
 
【目次】
第1章 「事件でなければ動けません」?
 警察をめぐる神話と現実
 最大の“警察不信”―事件でなければ動けません
  ほか
第2章 動かない理由、動けない理由
 いわゆる『民事不介入の原則』の呪縛
 現代における“民事不介入の原則”―そもそも存在するのか?
  ほか
第3章 警察を動かすツールとその実際
 110番通報
 初動警察と終局処理
  ほか
第4章 警察アクセスFAQ
 警察への相談は、具体的にどこにするのがよいですか?
 警察には、どのような時間帯に相談をするのがよいですか?夜間だから、昼間に出直してほしいと言われました
  ほか
 
【著者】
古野 まほろ (フルノ マホロ)
 東京大学法学部卒業。リヨン第三大学法学部修士課程修了。学位授与機構より学士(文学)。警察庁1種警察官として警察署、警察本部、海外、警察庁等で勤務し、警察大学校主任教授にて退官。警察官僚として法学書等多数。作家として有栖川有栖・綾辻行人両氏に師事。小説多数。
 
【抜書】
●通信指令本部(p112)
 各都道府県警察本部に設置され、110番通報を受ける初動警察担当セクション。受領後、しかるべき部署に引き継ぐ。24時間365日対応。
 名称は、「通信指令課」「通信指令室」等、都道府県によって様々。
 通信指令本部が所要の指令を出してから、警察官が現場に到着するまでの時間は8分9秒(令和2年度版『警察白書』)。
 110番通報は、無応答・いたずら・かけ間違いを除くと、全国で年間約910万件。約3.5秒に1回、通報を受けたことになる。約14人に一人の市民が110番通報したことになる。
 
●#9110(p122)
 警察相談専用電話番号。110番とは異なり、通常の電話代がかかる。
 緊急の対応までは必要としない相談等に対応する通報先。各都道府県警察本部の「総合窓口」「相談窓口」等に接続される。警察安全相談員なる警察官あるいは警察OBが、事情を聴取しながら対処方法を教示してくれる。
 平成31年3月12日付け警察庁丙総発第25号「相談への迅速・確実な組織対応のための総・警務部門における相談の受理・点検等の実施について」(相談通達)によって、警察庁No.3の官房長が全国警察に通達。
 受付時間は平日の開庁時間。たとえば8:30~17:15など、各警察本部で定めている営業時間。
 閉庁時間帯、土・日・祝日は、音声ガイダンスか、本部で当直をしている警察官(相談対応を任務とする警察官とは限らない)によるガイダンスとなる。
 
(2022/1/11)NM
 
〈この本の詳細〉


nice!(1)  コメント(0) 
共通テーマ:

未完の西郷隆盛 日本人はなぜ論じ続けるのか
 [歴史・地理・民俗]

未完の西郷隆盛―日本人はなぜ論じ続けるのか―(新潮選書)
 
先崎彰容/著
出版社名:新潮社(新潮選書)
出版年月:2017年12月
ISBNコード:978-4-10-603820-4
税込価格:1,430円
頁数・縦:268p・20cm
 
 明治維新から150年を経た現在、なぜ日本人は、西郷隆盛を論じ続けるのかを、主に5つの著作・論者を題材にして問う。
 福沢諭吉、中江兆民、頭山満、橋川文三、江藤淳。五者五様とも言うべきこの5人とも、「日本の近代化に対して違和感を抱き、西郷隆盛という人間の生涯をつうじて、日本の『近代』を洞察し、その特徴をあきらかにしようと試みたのだ。そして西郷のなかに、処方箋を見いだそうとした」(p.239)。彼らがとらえた西郷は、明治維新という近代化を推進した一方で、最後は近代化の流れに抵抗し、死を選んだ、という矛盾を含んだ姿である。西郷は、「反近代の偶像」だったのだ。
 さらに言えば、彼ら5人、そして日本人の多くは、西郷に「政治家・西郷」を追い求めたのではなかった。西郷に政治家としての力量や理想像を問うてきたのではない。「近代社会のなかでどう生きればよいのか、どう死ねばよいのかを考えるとき、日本人の心のなかに西郷はその魔術的な魅力で大きな姿を現してくる」(p.247)。
 西郷の理想とする日本は誕生しなかった。西郷は志半ばで、もしくは志を諦めたのちに死を選ぶことになる。そんな姿も、「未完」の西郷隆盛を意味しているのかもしれない。
 
【目次】
第1章 情報革命―福澤諭吉『丁丑公論』と西南戦争
第2章 ルソー―中江兆民『民約訳解』と政治的自由
第3章 アジア―頭山満『大西郷遺訓講評』とテロリズム
第4章 天皇―橋川文三『西郷隆盛紀行』とヤポネシア論
第5章 戦争―江藤淳『南洲残影』と二つの敗戦
終章 未完―司馬遼太郎『翔ぶが如く』の問い
 
【著者】
先崎 彰容 (センザキ アキナカ)
 1975年、東京都生まれ。東京大学文学部倫理学科卒。東北大学大学院博士課程を修了、フランス社会科学高等研究院に留学。2016年より日本大学危機管理学部教授。専門は日本思想史。
 
【抜書】
●情報革命(p56)
 明治維新期、近代化によって情報革命が起きた。蒸気、電信、郵便などの発達。
〔 つまり情報革命の時代とは、情報を拡散しても、逆に管理しても、人びとの心を不安定にさせてしまう、非常に厄介な時代なのである。〕
 
●チフィジン(p178)
 聞得大君(チフィジン)。南島地域で最高位にある巫女。
 各村落には、宗教的権威をもった土着の巫女がいて、「ノロ」と呼ばれる。
 ノロは最高の権威であるチフィジンの支配下にはいっており、この組織編成から逸脱した巫女は、「ユタ」と呼ばれている。
 ユタは遍歴巡廻を特徴とし、村々を歩いて祈禱をし、お布施をもらうことで生計を立てていた。
 
(2022/1/8)NM
 
〈この本の詳細〉


nice!(1)  コメント(0) 
共通テーマ:

東京の謎(ミステリー) この街をつくった先駆者たち
 [歴史・地理・民俗]

東京の謎(ミステリー) この街をつくった先駆者たち (文春新書 1328)
 
門井慶喜/著
出版社名:文藝春秋
出版年月:2021年9月
ISBNコード:978-4-16-661328-1
税込価格:935円
頁数・縦:254p・18cm
 
 独自の東京論21編を収録。東京の見方に新たな視点を加えてくれる1冊となっている。
 「この東京(まち)のかたち」(文藝春秋digital連載)2019年11月8日~2020年12月18日の記事に、書下ろし2編(第4回、第12回)を加えた。
 
【目次】
はじめに なぜ東京を「とうきょう」と読んではいけないのか
第1章 東京以前
 第1回 なぜ源頼朝は橋のない隅田川を渡ったのか
 第2回 なぜ大久保長安は青梅の山を掘ったのか
 第3回 なぜ麹町は地図の聖地になったのか
 第4回 なぜ浅草は東京の奈良なのか
 第5回 なぜ勝海舟はあっさり江戸城を明け渡したのか
第2章 東京誕生(明治以後)
 第6回 なぜ銀座は一時ベッドタウンになったのか
 第7回 なぜ三菱・岩崎弥太郎は巣鴨を買ったのか
 第8回 なぜ早矢仕有的は丸善を日本橋に開いたのか
 第9回 なぜヱビスビールは目黒だったのか
 第10回 なぜ「東京駅」は大正時代まで反対されたのか
 第11回 なぜ野間清治は講談社を音羽に移したのか
第3章 関東大震災
 第12回 なぜ後藤新平は震災復興に失敗したのか
 第13回 なぜ日比谷は一等地の便利屋なのか
 第14回 なぜ新宿に紀伊國屋書店があるのか
 第15回 なぜ五島慶太は別荘地・渋谷に目をつけたのか
 第16回 なぜ堤康次郎は西武池袋線を買ったのか
 第17回 なぜ羽田に空港があるのか
第4章 戦後
 第18回 なぜトットちゃんには自由が丘がぴったりだったのか
 第19回 なぜ寅さんは葛飾柴又に帰ってきたのか
 第20回 なぜピカチュウは町田で生まれたのか
 第21回 なぜ代々木の新国立競技場は案外おとなしいのか
むすび なぜ江戸は首都になったのか
 
【著者】
門井 慶喜 (カドイ ヨシノブ)
 1971年群馬県生まれ。2003年「キッドナッパーズ」でオール讀物推理小説新人賞を受賞。16年『マジカル・ヒストリー・ツアー』で日本推理作家協会賞(評論その他の部門)を受賞。18年『銀河鉄道の父』で直木賞を受賞。
 
【抜書】
●三業地(p182)
 芸妓の置屋、貸座敷、料理屋が揃った街。つまり色町。
 このうち、貸座敷のない街を「二業地」という。
 
(2022/1/3)NM
 
〈この本の詳細〉


nice!(1)  コメント(0) 
共通テーマ: