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ネイビーシールズ 特殊作戦に捧げた人生
 [社会・政治・時事]

ネイビーシールズ 特殊作戦に捧げた人生
 
ウィリアム・H・マクレイヴン/著 伏見威蕃/訳
出版社名:早川書房
出版年月:2021年10月
ISBNコード:978-4-15-210057-3
税込価格:3,410円
頁数・縦:428p・20cm
 
 SEALにして、特殊コマンド(SOCOM)司令官であった米海軍大将(退役)の回顧録。
 中東と米国との戦いの裏面史でもある。イラクのサダム・フセインの捕縛、アルカイダのビン・ラーディン殺害の現場が生々しく語られている。
 平和主義者にとっては、戦争の肯定や、暗殺を正義として語られることに違和感が残る。もちろん、テロが平和を乱す最悪の行為であることに異論はないし、それを防ぐことに尽力してくれていることに、感謝の意を表したいとは思うが……。
 
【目次】
もっとも偉大な世代
ヴォルケーノ作戦
素晴らしき哉、人生
楽な日はきのうだけだった
神の手?
バーにゴリラがやってくる
トフィーノの幽霊
アメリカ人海賊
立ち直る機会
空挺カエルちゃん
ペンシルヴェニア・アヴェニュー1600
スペードのエース
指名手配・生死不問
公海の人質
人間狩り
つぎのもっとも偉大な世代
ネプチューンの三つ叉矛
最後の敬礼
 
【著者】
マクレイヴン,ウィリアム・H. (McRaven, William H.)
 1955年、テキサス州で空軍将校の息子として生まれ、テキサス大学の予備役将校訓練課程から海軍に入隊。過酷な訓練過程を経てSEALの一員となる。その後特殊作戦の分野で活躍し、統合特殊作戦コマンド(JSOC)在任中にビン・ラーディンを殺害する作戦を指揮した功績により、特殊作戦コマンド(SOCOM)司令官に就任した。最終階級は海軍大将。海軍退役後、2015年から2018年までテキサス大学システムで学長を務めた。
 
伏見 威蕃 (フシミ イワン)
 1951年生まれ、早稲田大学商学部卒。英米文学翻訳家。
 
【抜書】
●BUD/S(p73)
 水中爆破/SEAL基礎錬成訓練。米軍全体でもっとも厳しい肉体訓練。
 著者が受けた頃は、コロナードの海軍水陸両用戦学校の一教育課程に過ぎなかった。6か月続き、終わるとSEALか水中破壊工作チーム(UDT)に配属される。訓練を終えることができる下士官は25%、士官は50%以下。著者の所属した「クラス95」は、当初、下士官146名、士官9名の合計155名。地獄の一週間(ヘル・ウィーク。フェーズ1の最後から2週間目)の3日間は睡眠を取れず、肉体と精神を絶えずしごかれる。
 
●一度にひとつずつ(p76)
〔 強化訓練(エヴォリューション)を一度にひとつずつこなす。強化訓練(エヴォリューション)を一度にひとつずつこなす。その後、私は、仕事人生でその言葉を片時も忘れたことがない。困難な時期に対処する生きかたを、その言葉はいたって簡明に示している。BUD/Sの訓練生の多くが落伍するのは、終りが見えないのに、先のことばかり考えてしまうからだ。彼らは目の前の問題を片付けるのに苦慮しているわけではなく、今後生じるかもしれない無数の問題のことを考え、とうてい克服できないと判断してしまう。ひとつの問題、ひとつの出来事、あるいはBUD/Sに固有の用語でいう強化訓練にひとつずつ取り組めば、どんなに難しことでも処理しやすくなる。BUD/Sにおいても、人生の多くの物事と同じように、もっとも強く、もっとも速く、もっとも頭がいいものが成功するとは限らない。弱気になり、失敗し、よろめいても、屈しないで、起きあがって進みつづけるものが勝利をものにする。一度にひとつの強化訓練をこなし、つねに前進することが肝心なのだ。〕
 
●戦争の誘惑(p177)
〔 恐ろしいと思えるかもしれないが、SEALはだれでも有意義な戦闘、信念の戦い、名誉ある戦争を切望している。戦争では人間が試される。勇気を再確認する機会でもある。臆病な人間や傍観者と自分を区別する。仲間の戦士との切れない絆ができる。人生の意味をあたえてくれる。長年のあいだに、私は何度も戦争を経験した。多くの人々が死に、なんの罪もない人々が殺される。家族が取りかえしのつかない喪失をこうむる。だが、どうにも説明がつかないのだが、戦争は人間を誘惑する魔力を失わない。戦士にとって平和は記憶に残らず、里程標にはならない。冒険も英雄的な死も深い悲しみもなく、歓喜も自責の念のもない。悔恨も救いもない。平和な状態にゆっくりとひたれる人間もいるが、私にはそうではなかった。〕
 
(2022/2/27)NM
 
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田舎暮らし毒本
 [社会・政治・時事]

田舎暮らし毒本 (光文社新書)
 
樋口明雄/著
出版社名:光文社(光文社新書 1158)
出版年月:2021年9月
ISBNコード:978-4-334-04565-4
税込価格:990円
頁数・縦:317p・18cm
 
 良い点、悪い点を挙げながら、田舎暮らしの醍醐味を語る。
 田舎暮らしは一筋縄ではいかない。基本的には何でも自分でやらないとならないので、結構面倒そうである。家の補修も薪割も、銃猟禁止区域指定の申請も! 自分には向かないな、と思いながら楽しく読んだ。
 
【目次】
第1部
 移住前の段階
 ログハウス
 薪ストーブの話
第2部
 狩猟問題
 電気柵問題
 水問題
 他にも問題が山積み
 移住者と地元民
 
【著者】
樋口 明雄 (ヒグチ アキオ)
 1960年、山口県生まれ。雑誌記者、フリーライター等を経て小説家に。作家業のかたわら野生鳥獣保全活動に従事。趣味は渓流釣りと登山。松涛館流空手初段。2008年『約束の地』(光文社)で第27回日本冒険小説協会大賞および第12回大藪春彦賞。'13年『ミッドナイト・ラン!』(講談社)で第2回エキナカ書店大賞を受賞。
 
【抜書】
●セトリング(p63)
 ログハウス最大のウィークポイント。
 「settle」という英語は、「落ち着く」という意味。建築でいれば丸太が収縮すること。ログ材は経年で水分を放出し、乾燥すればするだけ縮んでいく。丸太そのものの重さも影響。直径が少しずつ小さくなり、長さも短くなっていく。それが5、6年は続き、家屋のログ壁全体で最大10cm程度沈む。
 ログハウスには、セトリング対応のツールがある。
 何年か住んで、明らかにログが沈んでいるのに気づいたら、軒下などに入ってボルトを締め付ける。左右の隙間にはコーキング材を塗り込んでいく。
 建築時には、セトリングを予想し、わずかな空間の余裕を作って設計がなされる。
 
(2022/2/26)NM
 
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神楽坂つきみ茶屋 2
 [文芸]

神楽坂つきみ茶屋2 突然のピンチと喜寿の祝い膳 (講談社文庫)
 
斎藤千輪/〔著〕
出版社名:講談社(講談社文庫 さ123-2)
出版年月:2021年5月
ISBNコード:978-4-06-523492-1
税込価格:715円
頁数・縦:264p・15cm
 
 父の借金が判明し、両親が遺したつきみ茶屋が窮地に。焦る剣士と幼馴染の翔太は、大地主の桂子に料理の腕試しを条件に食い下がる。だが、桂子は美食家。絶体絶命のピンチ! その時、江戸時代の料理人・玄が翔太に憑依し…。【「TRC MARC」の商品解説】
 シリーズ第2弾。静香登場!
 
【目次】
プロローグ ピンチを招く美食家の女
第1章 江戸で最高ランクの豆腐百珍
第2章 勝負をかけたグローバル料理
第3章 家族団らんの特製ばら寿司
第4章 喜寿を祝う江戸のご馳走
第5章 初めて作った美味な朝餉
エピローグ 怪しく震える禁断の盃
 
【著者】
斎藤 千輪 (サイトウ チワ)
 東京都町田市出身。映像制作会社を経て、現在放送作家・ライター。2016年に「窓がない部屋のミス・マーシュ」で第2回角川文庫キャラクター小説大賞・優秀賞を受賞してデビュー。
 
(2022/2/24)
 
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風間八宏の戦術バイブル サッカーを「フォーメーション」で語るな
 [スポーツ]

風間八宏の戦術バイブル  サッカーを「フォーメーション」で語るな (幻冬舎単行本)
 
風間八宏/著
出版社名:幻冬舎
出版年月:2021年11月
ISBNコード:978-4-344-03838-7
税込価格:1,540円
頁数・縦:181p・19cm
 
 風間八宏の独特なサッカー戦術論。フォーメーションとかシステムではなく、個人戦術に重点を置いて、点の取り方、守備の仕方を説く。
 結局、突き詰めるとサッカーとは個人の能力、創意工夫がものをいう競技である。相手が形を極めれば極めるほど、それを超えていく個の力が重要になっていく、ということなのだろう。
 ビルドアップのときにボールを奪いに来る相手を囲む攻撃、チームによって異なる最適の距離感、ボールから目を離すタイミングの重要性など、示唆に富む内容である。
 
【目次】
第1章 ゴール前で「センターバック」を攻撃する
第2章 ビルドアップは相手を「囲む」
第3章 欧州プレイヤー&クラブ解説
第4章 ボールを奪い切る守備
第5章 川崎フロンターレと名古屋グランパス
第6章 日本サッカーの育成改革
 
【著者】
風間 八宏 (カザマ ヤヒロ)
 1961年10月16日、静岡県生まれ。清水商業高校時代に79年のワールドユースに出場。筑波大学在学時に日本代表に選出される。卒業後、ドイツのレバークーゼンなどで5年間活躍後、89年にマツダ(現サンフレッチェ広島)へ加入。97年に引退後、桐蔭横浜大学サッカー部、筑波大学蹴球部、川崎フロンターレ、名古屋グランパスの監督を歴任。現在はセレッソ大阪の技術委員長および、サッカークラブ「トラウムトレーニング」の代表を務める。
 
【抜書】
●止める・蹴る・運ぶ・受ける・外す(p7)
 〔ボールを止めるとは、何でもできる位置にボールの絵柄見えるくらいに静止させること。なおかつ一番遠くまで蹴ることができ、次の動作に一番速く移ることができるように、ボールを自分の場所に置くこと。運ぶとは動きながら次の足でボールをコントロールできる場所に置き続けること、そして目的に向かって最短で行けること。蹴るに関しては、足の指のどこに当てるかを解説した本も書きました。〕
 
●前向きの選手(p23)
 「前向きの選手を数えると、その攻撃がうまくいくかがわかる」。
 正確に言うと、「縦方向のパスやクロスを受けられる位置にいる選手のうち、何人が相手ゴールに向いているか」。
 「前向きの選手」の数がきちんとそろっているほど、「センターバックを攻撃」でることになる。
 
●センターバックを攻撃する四つの方法(p23)
 (1)裏へ飛び出す
 (2)センターバックの背中側に立つ
 (3)センターバックに向かって突っかけ、突然方向を変える
 (4)動きすぎない。それでいて背中を取り続ける
 
●歩く(p73)
〔 メッシはチームの中で歩くことを許されていて、プレーに関与できそうな場所でうろうろしていることも多いです。
 でもそうやって歩くことで、捕まりづらくなっているんですよね。相手がマークの受け渡しで対応しようとしても、メッシがなかなか自分の方向へ近づいてこないので捉えるタイミングを計りづらい。守る側としては対応がすごく難しい。
 逆に味方からすると、メッシはあまり動かないので、位置を確認しやすいという利点がある。〕
 
●止まる・狙う・奪う(p110)
 守備の原則は、「止まる・狙う・奪う」の三つ。
 
(2022/2/17)NM
 
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クソったれ資本主義が倒れたあとの、もう一つの世界
 [社会・政治・時事]

クソったれ資本主義が倒れたあとの、もう一つの世界
ヤニス・バルファキス/著 江口泰子/訳
出版社名:講談社
出版年月:2021年9月
ISBNコード:978-4-06-521950-8
税込価格:1,980円
頁数・縦:356p・19cm
 
 近未来SF経済小説。2008年を境に分岐したもう一つの世界と、2025年に交信した結果、明らかになったあちら側の世界の「理想的な」社会を描く。
 2008年の世界金融危機が、社会を根本的に変える絶好の機会だったという認識が、著者にあるのだろう。さらに、2020年のコロナ禍により、ロックダウンやワクチン接種の半強制があり、リベラル国家においても国家権力が増大している、という認識が。そして、それを国民も素直に受け入れている。
 となると、さて、21世紀中盤へと向かう今後の世界はどうなってしまうのだろうか。
 
【目次】
第1章 現代性に敗北する
第2章 パラレル世界との遭遇
第3章 コーポ・サンディカリズム
第4章 資本主義が死に絶えたそのあとの世界
第5章 審判が始まる
第6章 資本主義のない市場
第7章 天国でトラブル発生
第8章 再びの審判
第9章 脱出
 
【著者】
バルファキス,ヤニス (Varoufakis, Yanis)
 1961年アテネ生まれ。経済学部教授として長年にわたり、英国、オーストラリア、ギリシャ、米国で教鞭をとる。2015年、ギリシャ経済危機のさなかにチプラス政権の財務大臣に就任。財政緊縮策を迫るEUに対して大幅な債務減免を主張し、注目を集めた。2016年、DiEM25(Democracy in Europe Movement 2025:民主的ヨーロッパ運動2025)を共同で設立。2018年、米国の上院議員バーニー・サンダース氏らとともにプログレッシブ・インターナショナル(Progressive International)を立ち上げる。世界中の人々に向けて、民主主義の再生を語り続けている。
 
江口 泰子 (エグチ タイコ)
法政大学法学部卒業。編集事務所、広告企画会社勤務を経て翻訳業に従事。
 
【抜書】
●政治権力と経済力の再統合(p86)
 あちら側の世界で実現した「一人一株一票」は、政治領域と経済領域の再統合という点で革命的だった。
 〔資本主義が始まって以来、政治領域と経済領域とが再統合を果たしたのだ。資本主義の前には、政治権力と経済力は同じ人物が握っていた。王子は裕福であり、裕福なのは王子だけだった。政治権力は強制か征服によって、無条件に他者の富を搾取する力を意味した。そして、その強制力は称号、城、王権やティアラになった。ところが、そこへ資本主義が登場してなにもかも変えてしまった。国際的な交易路が開かれたことで、新興階級の商人が誕生した。彼らは経済力を誇ったが政治的な影響力はなく、社会的な地位も低かった。こうして史上初めて、政治権力と経済力とが分離したのである。その分離が決定的なものとなったのは、商人が産業界の、そして最終的にはグローバル金融やテクノロジー業界の大株主へと進化した時だった。長い論争を重ねて、コスタにそう指摘したのはアイリスだった。〕
 
●パーソナル・キャピタル(p88)
 あちら側の世界(コスティの世界)では、市民は全員、中央銀行にパーソナル・キャピタル、通称「パーキャプ」という口座を与えられる。商業銀行は消滅。
 パーキャプには、「積立」「相続」「配当」という三つの資金口座が設けられている。
 積立……基本給とボーナスが振り込まれる。
 相続……赤ん坊が生まれた瞬間に、国は赤ん坊のためにパーキャプ口座を開設する。相続にまとまった資金が振り込まれ、全員が同じ額を受け取る。パーキャプの中で相続が最も流動性が低く、65歳の者が利用する際には、面倒な手続きや厳しい審査をくぐり抜けなければならない。
 配当……中央銀行から、毎月、市民の年齢に応じて一定額が振り込まれる。ベーシックインカム。
 国は、あらゆる企業が納める総収入の5%で、全市民に対する社会給付を賄っている。
 コスティの世界では、税金は「法人税」と「土地税」のみ。「配当」の原資は税金ではない。市民が集団的に生産する資本ストックの共同所有者として、市民一人一人が受け取る「本当の配当」である。
 
●アンティドシス(p212)
 財産交換。古代アテナイにおいて、行政単位のデーモス(区)は裕福な市民に対して、特別な公共サービスの費用を負担するレイトゥルギアー(奉仕義務)を命じていた。「私有財産を蓄えることができたのは都市のおかげだから、デーモスには富裕層にその負担を要求する権利がある」。
 例えば演劇の上演費用を負担するように命じられた個人には、二つの選択肢が与えられた。その費用を負担するか、自分は不当に選ばれたと考えてアンティドシスを申し立てるか。
 アンティドシス……Aが費用負担に不服な場合、他の市民Bを指名する。その市民Bは、費用負担を拒否する場合には、自分の全財産とAの全財産を交換しなければならない。
 
●円積問題(p230)
 「与えられた円と等しい面積を持つ正方形を、定規とコンパスを用いて作図できるか」という問題。古代ギリシャで、三大作図不能問題として研究された。(注より)
 円積問題は、難しいのではなく、絶対に不可能。
 
●共産党(p231)
 〔1991年に資本主義が勝利した理由は、旧ソ連や東ドイツの市民に自由がないことよりは、むしろ、パンであれテレビであれ、なにかを手に入れるためには、いちいち列に並ばなければならないことだった。単に自由だけの問題なら、赤い旗はいまでもクレムリンの上で、はためいているのかもしれない。いや、ホワイトハウスの上でも。〕
 〔シリコンバレーのおかげで、最も大きな、そして唯一、恩恵を受けるのはおそらく中国共産党だろう。中国政府がアリババと同じような技術を開発した時、その技術を中国政府が採用しないという理由はない。中国版アマゾンと呼ばれるアリババが、顧客が次に欲しがっている商品を正確に予測するために使う技術を、中国共産党が使えば国全体の経済を管理できるのだ。すでにその権限も有している。あと必要なのは手段だけだ。そしてAIがもう少し進化すれば、中国式の共産主義が市場を完全に制圧するのを阻止するものがあるだろうか。〕
 
●資本主義の終焉(p233)
 〔本来の市場が復活するためには、資本主義の終焉が必要だったのだ。〕
 
●国家の権力(p296)
 2020年以前、民主主義を標榜する国では、政治家は国民をコントロールしていないという印象だった。
 しかし、新型コロナ・ウイルスの蔓延により、国家が強大な権力を有しているという認識にかわった。中国やロシアのような権威主義の国家だけではなく、リベラルだったはずの国家でも。
 〔ウイルスの蔓延に伴い、24時間の外出禁止令が出される。地元のパブは閉店する。公園の散歩もスポーツも禁止。劇場は空になり、コンサート会場は沈黙した。政府の役割や影響力を最小限にとどめ、権力を喜んで個人に譲る“最小国家”という考えは、きれいさっぱり消え失せた。多くの者がまるでよだれを垂らさんばかりに、生の国家権力の誇示を欲した。〕
〔 2008年の余波で経験した、経済の低迷と不平等の悲惨なスパイラルが、2020年初めに猛烈な勢いで戻ってきた。国際社会の協力の代わりに、国境には壁が立ち上がり、店のシャッターは降りた。国家主義の指導者は、意気消沈した市民にシンプルな取引を持ちかけた。致命的なウイルス――と策略に長けた反体制派――から守る代わりに、国家権力を受け入れよ、という取引を。〕(p300)
 
●大企業(p298)
 〔大企業は常に国家を必要とした。企業が事業の基盤とする財産や資源、資金、市場の独占を国家に課してもらい、実施してもらう必要があった。〕
 
(2022/2/17)NM
 
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経済学者が語るスポーツの力
 [スポーツ]

経済学者が語るスポーツの力
 
佐々木勝/著
出版社名:有斐閣
出版年月:2021年10月
ISBNコード:978-4-641-16585-4
税込価格:2,310円
頁数・縦:214, 23p・19cm
 
 スポーツ(をすること)が、個人に与える影響、集団・社会に与える影響、高齢者の健康に与える影響について分析した論文を逍遥し、経済学的に論じる。
 特に目新しい知見はあまりないが、改めて「スポーツの力」を認識することができた。
 
【目次】
第1章 スポーツから非認知スキルを習得できるか?―勉強だけでなく協調性、統率力、根性も社会人には必要
第2章 スポーツが女性の社会進出を後押しするか?―女性の教育や就業に与える影響
第3章 スポーツで目標を達成する力を伸ばせるか?―行動経済学から見たスポーツにおける損失回避行動
第4章 選手への報酬を増やせば勝てるのか?―スポーツ・データから見る賃金インセンティブ
第5章 多様な人材がチームを強くするか?―ダイバーシティと勝利の方程式
第6章 企業がスポーツ・チームを持つのは得なのか?―一体感の醸成と従業員のやる気
第7章 企業にスポーツ支援を頼りきりでよいのか?―オリ・パラ出場選手の活躍と外部性
第8章 オリンピックに経済効果はあるのか?―長野オリンピック・パラリンピック大会のケース
第9章 高齢者のスポーツ参加で介護費用は抑えられるか?―健康資本投資と健康寿命
 
【著者】
佐々木 勝 (ササキ マサル)
 大阪大学大学院経済学研究科教授。1993年、テンプル大学本校教養学部卒業。1998年、ジョージタウン大学大学院経済学研究科博士課程修了。1998年、経済学博士号取得(ジョージタウン大学)。
 
【抜書】
●非認知スキル(p14)
 ① 集団の一員として集団意思決定を円滑に進めることができる協調性。
 ② 目標のために望ましい行動をとる自己規律・自己管理。
 ③ リーダーとして同僚や部下をまとめることができる統率力。
 ④ 困難な仕事にも果敢に立ち向かうことができる忍耐力・根性・闘争心。
 ⑤ 部署内の上司、部下、同僚、パート従業員に対する気配りや思いやり。
 
●ピア効果(p53)
 ピア(peer)とは、もともと同レベルの人のこと。そのような人たちの集団に入ると、互いに意識し、影響を受けることを「ピア効果」という。
 
(2022/2/14)NM
 
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三好一族 戦国最初の「天下人」
 [歴史・地理・民俗]

三好一族―戦国最初の「天下人」 (中公新書)
 
天野忠幸/著
出版社名:中央公論新社(中公新書 2665)
出版年月:2021年10月
ISBNコード:978-4-12-102665-1
税込価格:902円
頁数・縦:210p・18cm
 
 戦国時代、織田信長以前に「天下人」になっていたのかもしれない、三好一族(特に長慶)に焦点を当て、戦国時代を詳述する。
 教科書ではあまり触れられることのない三好一族の業績。戦国時代に新たな視点をもたらしてくれる。
 
【目次】
第1章 四国からの飛躍―三好之長と細川一族
 1 阿波守護細川家と室町幕府
 2 細川政元の権勢と死
 3 細川家の分裂
第2章 「堺公方」の柱石―三好元長と足利義維
 1 将軍家の分裂
 2 細川晴元・氏之兄弟
 3 堺公方と晴元の対立
第3章 静謐を担う―三好長慶と足利義輝
 1 阿波から摂津への移転
 2 細川晴元への下剋上
 3 足利将軍家を擁立しない政権へ
第4章 将軍権威との闘い―三好長慶・義興と足利義輝
 1 将軍権威の相対化
 2 義輝との「冷戦」
 3長慶の周辺
第5章 栄光と挫折―三好義継・長治と足利義昭
 1 三好本宗家の分裂
 2 阿波三好家の足利義栄擁立
 3 織田信長との戦い
 4 三好本宗家の名跡争い
第6章 名族への道―三好康長・義堅と織田信長・羽柴秀吉
 1 信長と義昭の抗争
 2 秀吉の統一戦争
 3 三好一族と江戸幕府
終章 先駆者としての三好一族
 
【著者】
天野 忠幸 (アマノ タダユキ)
 1976年(昭和51年)、兵庫県に生まれる。大阪市立大学文学部卒業。同大学大学院文学研究科に進み、博士(文学)を取得。現在、天理大学文学部准教授。専門分野は日本中世史。
 
【抜書】
●小笠原氏(p4)
 三好氏はもともと阿波の国人(在地の有力武士)であったが、成長して阿波北西部の郡代となるに従い、ふさわしい由緒を求めて、一宮氏など多くの阿波国人と同様に、先祖を小笠原氏に定めたと考えられる。
 
●才覚(p54)
 松永久秀、野間長久、鳥養貞長、松山重治は、独自の領地や家臣団を持つ存在ではなかった。三好長慶が家格にこだわらず、その才覚を認めて登用した者たち。彼らの権力基盤は長慶の信頼のみであった。
 長慶は、自らに絶対的な忠誠を尽くす家臣団を作り上げようとした。
 長慶は、三好姓を与えたり、譜代被官の名跡を継がせたりすることなく、彼らに腕を振るわせたところに、他家にない特徴がある。
 
●天下人(p75)
 〔長慶は、破約を繰り返す義輝を信用せず、義輝の弟の鹿苑院周暠(ろくおんいんしゅうこう)や足利義昭も擁立しようとしなかった。つまり、足利将軍家の誰も擁立せずに、自らの力だけで首都京都の支配に乗り出す。これは戦国時代でも初めてのことであった。初めての「天下人」、すなわち、単なる京都や畿内の支配者、また日本全国を統一した人ではなく、室町幕府に拠らない中央政権の主催者が誕生したのである。〕
 
●日本国王(p89)
 足利義輝の父義晴は、大永7年(1527年)に京都を追われて近江に在国していても、琉球に返書を送り、明には勘合符を求めて国書を発給した。足利将軍家こそが外交権を独占する日本国王であると自負していたから。
 しかし、義輝にそのような自覚はなかったので、日本国王としての役割を放棄してしまった。
 長慶は、そうした将軍に代わり、新たな武家の代表として、後奈良天皇を補佐し明との外交に当たったのである。
 
●甲子年(p110)
 中国の讖緯説とは、辛酉の年に王朝交代が起こり、甲子の年に徳を備えた人に天命が下されるという革命思想である。
 日本では、王朝交代を防ぐため、十世紀以降、必ず改元が行われてきた。
 しかし、義輝は、辛酉にあたる永禄4年や、甲子にあたる永禄7年(1564年)に改元を執奏しなかった。
 これをみた三好方が、正親町天皇に甲子の改元を執奏した。義輝に代わって、将軍の専権事項を行おうとした。
 改元した場合、長慶は事実上の将軍と認められることになり、改元しなかった場合、義輝が将軍としての職務を怠り、天皇を侮っているということが明らかになる。
 天皇は、再び京都で戦争が起こることを恐れ、改元しなかった。
 明治時代になって一世一元制が採用されるまで、甲子年に改元しなかったのはこの時だけである。
 
●御小袖(p129)
 足利将軍家重代の家宝である御小袖(おんこそで)の唐櫃(からびつ)が、義輝の死後、朝廷に預けられていた。
 足利将軍家は、御小袖を源義家以来相伝の鎧と喧伝し、自らを源氏の嫡流と主張してきた。そして、室町幕府が朝敵を追討する際、天皇による治罰(じばつ)の綸旨の発給と錦の御旗の付与、将軍の御小袖の着用という一定の様式が整えられることで、御小袖は幕府軍を北朝の軍隊と位置付ける象徴としての役割を果たす。足利将軍家の家督を象徴する存在。
 永禄8年10月26日、松永久秀と広橋国光が申請して、三好義継に御小袖の唐櫃が下賜された。
 
●幕府滅亡(p192)
〔 長慶は義輝と同じ従四位下に叙せられ、義輝を討った義継は源氏嫡流にして足利将軍家の象徴である御小袖の唐櫃を授けられた。一方、そうした役割を放棄した足利義輝は、武家唯一の公卿という地位を剝奪された。京都をいたずらに戦禍に巻き込んだ将軍は、「御天罰」を蒙り、三好氏に「御謀反」を起こす存在に成り下がる。極端な言い方をすれば、長慶が将軍義輝を近江に追放していた五年間と、義継が義輝を討ち果たしてから義昭が上洛するまでの三年間の二回、幕府は事実上滅亡し、そのたびに再興されたのである。
 その後の戦いにおいても、三好義継や三好長逸(ながやす)が足利将軍家を擁さず戦う一方、織田信長が義昭や義尋の親子を推戴して戦おうとする姿を見る時、三好一族は日本の武家でいち早く足利将軍家の軛を断ち切っていたと言えよう。〕
 
●天正13年(p194)
 天正13年(1585年)、羽柴秀吉が、武家で初めて関白に就任。足利将軍家の代行者ではなく、全く新たな形で正当性を確保し、武家の統合の秩序を示した。
 天正13年こそが、室町幕府が完全に滅亡した年。
 
●山城(p197)
 三好一族は、芥川城や飯盛城といった山城を居城とし、城下町を設けなかった。
 かつては、山城は戦時のみに使用するもので、山城から平山城、平城へという城郭の発展過程において最も遅れた段階とされ、経済支配を無視するものとして、マイナス評価であった。
 しかし、芥川城や飯盛城には数百人規模の被官やその家族が山上に常時居住し、恒常的に政治的・文化的機能を果たしていた。自治都市の堺や平野には代官を設置しており、経済的機能を軽視していたわけでもない。
〔 三好一族にとって、自治都市の堺や平野、門前町であり陸・海の要所でもある西宮、港町の兵庫津、浄土真宗寺内町の大坂・富田・枚方・久宝寺・富田林・貝塚、法華宗寺内町が主導権を握った尼崎、キリスト教の教会という新たな核を得た三箇や岡山、国人の城下町の池田と伊丹、広域支配の政治拠点である越水・高屋・岸和田といった大阪平野の多様性を発展させることにこそ意味があった。〕
 多様な都市を睥睨するためには、山城のほうが効果的であった。
 
(2022/2/11)NM
 
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データエコノミー入門 激変するマネー、銀行、企業
 [経済・ビジネス]

データエコノミー入門 激変するマネー、銀行、企業 (PHP新書)
 
野口悠紀雄/著(PHP新書 1282)
出版社名:PHP研究所
出版年月:2021年10月
ISBNコード:978-4-569-85052-8
税込価格:1,089円
頁数・縦:251, 6p・18cm
 
 マネーとはデータである。この命題に沿って、近未来の経済を論じる。
 
【目次】
第1章 データを制する者が世界を制する
第2章 ビッグデータの利用には規制が強まる
第3章 マネーを制する者がデータを制する
第4章 マネーのデータを本人がコントロールできるか?
第5章 オープンバンキングで進むデータ利用
第6章 分散型金融と分散自律型組織は、金融の世界を一変させるか?
第7章 マネーのデータ活用で日本再生を図れ
 
【著者】
野口 悠紀雄 (ノグチ ユキオ)
 1940年東京生まれ。63年東京大学工学部卒業、64年大蔵省入省、72年エール大学Ph.D.(経済学博士号)を取得。一橋大学教授、東京大学教授、スタンフォード大学客員教授、早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授、早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター顧問を歴任。一橋大学名誉教授。専攻はファイナンス理論、日本経済論。著書に『財政危機の構造』(東洋経済新報社、サントリー学芸賞)、『バブルの経済学』(日本経済新聞社、吉野作造賞)ほか多数。
 
【抜書】
●ITP(p76)
 Intelligent Tracking Prevention。トラッキング防止機能。
 2017年、Appleは、SafariにITPを導入した。
 2020年には、ITPが強化され、デフォルトでサードバーティ―・クッキーを完全にブロックするブラウザとなった。
 Googleも、Chromeにおいて、サードバーティー・クッキーを停止することを決めた。
 サードバーティー・クッキーが使用できなくなると、リターゲティング広告などができないことになり、広告会社の収入は激減する。
 
●金融包摂(p110)
 Financial Inclusion。これまで融資などの金融サービスを受けられなかった人々が、受けられるようになること。
 従来の中国では、国民の大部分が金融サービスを受けることができなかった。「利用履歴や担保がないために信用度が評価できず、そのために金融サービスを受けられない」という悪循環に陥っていた。それが、Antグループの「芝麻(ジーマ)信用」(2015年1月開始)、Tencentの「微信支付分」(2019年1月発表)などの信用スコアリングにより、金融サービスを受けられるようになった。
 
●マイナンバー(p142)
 スウェーデンでは、1947年に個人識別番号(PIN: Personal Identification Number)が導入された。日本の「マイナンバー」に相当。
 2003年には、Bank IDが導入された。PINと氏名、電子証明書を結合したもので、日本の「マイナンバーカード」に相当。パスポート、運転免許証などに匹敵する電子身分証明書。Bank IDで作成された電子署名は、物理的な署名と同等の法的立証力を有する。
 
●スマートコントラクト(p214)
 「ある条件で作動するプログラムをブロックチェーンに登録し、条件が満たされた際に自動的に作動させ、その結果をブロックチェーンに自動的に記録する仕組み」。
 
●手数料ゼロ(p241)
〔 本格的な変化はCBDC(中央銀行デジタル通貨)の導入でもたらされる。あるいは、Diemのような大規模デジタル通貨が一般に使えるようになれば生じる。
 これらの送金料は、事実上ゼロになると考えられる。そして、現在ある様々な送金サービスよりも、はるかに便利に使えるだろう。
 送金決済はいかなる経済活動でも必要なことであるから、そのコストがゼロになることは、生産性の向上に重要な役割を果たす。世界の趨勢がそのようなものであるなかで、日本だけが高い送金料の送金手段を使い続ければ、生産性はさらに落ち込んでいく。
 したがって、いずれ日本でもCBDCが発行されるだろう。CBDCでは、利用者にとっても、店舗にとっても、コストはゼロになるだろう。したがって、これが導入されれば、現在あるキャッシュレスの手段は、ことごとく淘汰されてしまうだろう。〕
 
(2022/2/10)NM
 
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問題の女 本荘幽蘭伝
 [歴史・地理・民俗]

問題の女 本荘幽蘭伝
 
平山亜佐子/著
出版社名:平凡社
出版年月:2021年10月
ISBNコード:978-4-582-83864-0
税込価格:3,080円
頁数・縦:342p・20cm
 
 本荘幽蘭、本名久代。明治12年2月18日生まれ。昭和39年頃没?
 この明治大正昭和を大胆に生きた「妖婦」「狂人」「淪落の女」の生涯を、資料を基に綴る伝記である。
 その報道のされ方は、テレビがなかったこの時代、雑誌・新聞がメインのマスコミ界の寵児だったのだろう。アイドル・有名人に対する現代のスキャンダル合戦に通じるものがある。いつの時代も、人間ってやつは……。
 
【目次】
第1章 少女時代
 久代、その「惨憺たる」生い立ち
 久代、婚約者たちに翻弄さる
  ほか
第2章 幽蘭誕生
 幽蘭、第二子を出産す
 幽蘭、第三子を妊娠す
  ほか
第3章 仕事遍歴、男性遍歴
 幽蘭の父、死す
 宮武外骨、幽蘭を語る
  ほか
第4章 満鮮、南洋へ
 幽蘭、自伝を新聞連載す
 大連に「幽蘭ホテル」開業す
  ほか
第5章 戦争に向かって
 幽蘭、恩師との仲を怪しまれる
 日蓮主義の幽蘭尼となる
  ほか
 
【著者】
平山 亜佐子 (ヒラヤマ アサコ)
 挿話収集家、デザイナー。戦前文化、教科書に載らない女性の調査を得意とする。
 
【抜書】
●明治女学校(p46)
 明治18年創立、明治41年閉校。
 キリスト教に基づく女学校。創立者は牧師の木村熊二。教師には、巌本善治(のちの校長)、津田梅、人見銀、富井於菟、など。卒業生に相馬黒光(新宿・中村屋)がいる。
 〔錚々たる教師と卒業生を輩し、新思想に敏感な女子たちがこぞって憧れた伝説的な存在だった。〕
 
●幽蘭(p55)
 「幽蘭」とは、幽谷に咲く蘭のことで、孔子が歌ったとされる『琴操』(古代の琴曲と解説の書)の「猗蘭操(幽蘭操)」の一節から、徳を持ちながらひっそりと隠れて世に出ない君子の意味。
 しかし、本荘幽蘭の場合、東海散士(こと柴四朗)の小説『佳人之奇遇』(博文堂、16巻、明治18ー30)から取った可能性が高い。
 小説の主人公は作者と同名の元会津藩士。フィラデルフィアでアイルランド人「紅蘭」とスペイン人「幽蘭」という二人の佳人と出会う。「幽蘭」は、スペイン王室の後継者争いに端を発したカルリスタ戦争に関わった父の跡を継いだ女志士として描かれている。
 
【ツッコミ処】
・教派新党(p155)
〔 扶桑教は現在も続く教派新党の一派である。宍野半(ししのなかば)が各地にあった富士講をまとめ明治六年に富士一山講社としたことが始まりである。二年後に扶桑教と改称、明治一五年に教派神道として独立した。その教えは、天御中主神を一真神とし、男女(父母)の二神をそれぞれ高皇産霊神(たかみむすびのかみ)、神皇産霊神(かみむすびのかみ)としてそれら三神が富士山に御座すと説いたもので、幽蘭がどこに共鳴したのか神風会のときほどわかりやすくはない。いずれにしても、この時点で神風会から離れていたと考えるのが自然だろう。〕
  ↓
 1行目の「教派新党」とあるが、扶桑教は政治結社なのか?? 明らかに「教派神道」だろうな。
 
・明治6年満州事変(p309)
〔 李(李善洪)は明治二八(一八九五)年全羅南道務安郡生まれ。二二歳のときに来阪して、飴売り、郵便局事務員、朝鮮人参商などで糊口をしのいだ苦労人だが、二七歳で「朝鮮人協会」を発起して大阪における朝鮮人の代表的存在になる。日本人の妻と娘二人を持つ李のテーマは「内鮮融和」で、朝鮮人差別や朝鮮人労働者の境遇の向上に奔走した。日本のアナキストたちから支援され『新鮮日報』発刊を敢行(のちに発刊停止)。明治六年に満州事変、七年一月に桜田門事件(李奉昌が天皇の乗った馬車に手榴弾を投げた事件)が起こると天皇への「赤誠」を誓う声明書を宮内省や警視庁に持参し親日をアピールした。〕
  ↓
 満州事変が起きたのは、昭和6年。明治6年ではない。まだ、李善洪は生まれていない!
 
(2022/2/3)NM
 
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オスマンvs.ヨーロッパ 〈トルコの脅威〉とは何だったのか
 [歴史・地理・民俗]

オスマンvs.ヨーロッパ 〈トルコの脅威〉とは何だったのか (講談社学術文庫)
 
新井政美/〔著〕
出版社名:講談社(講談社学術文庫 2664)
出版年月:2021年3月
ISBNコード:978-4-06-522845-6
税込価格:1,155円
頁数・縦:261p・15cm
 
 オスマン・トルコ(オスマン帝国)の歴史を、ヨーロッパとの関係を軸に通観する。
 「この本があつかう時代は、見事にすべて、僕の『専門外』」と語る著者であるが(p.245、あとがき)、それゆえに微細に陥ることなく、俯瞰的にトルコ史を眺めることができ、参考になった。
 『オスマンvs.ヨーロッパ』(講談社・選書メチエ、2002年)の文庫化。
 
【目次】
プロローグ―「トルコ行進曲」の起源
第1章 オスマン帝国の起源
 ユーラシア草原を西へ―トルコ系遊牧民の西漸
 トルコ族のイスラム化とアナトリアのトルコ化
  ほか
第2章 ヨーロッパが震えた日々―オスマン帝国の発展
 オスマン朝の興隆―ムラト一世とバヤズィト一世の時代
 世界帝国への道―メフメット二世とコンスタンティノープル征服
  ほか
第3章 近代ヨーロッパの形成とオスマン帝国
 普遍帝国オスマン―「壮麗者」スレイマン一世とウィーン包囲
 オスマン対ハプスブルク
  ほか
第4章 逆転―ヨーロッパの拡張とオスマン帝国
 最初の暗雲―スレイマン一世の死
 変化の兆し―一六世紀後半のヨーロッパ
  ほか
エピローグ―「トルコ軍楽」の変容
 
【著者】
新井 政美 (アライ マサミ)
 1953年生まれ。東京大学大学院東洋史専攻博士課程単位取得退学。東京外国語大学名誉教授。トルコ歴史協会名誉会員。専攻はオスマン帝国史、トルコ近代史。
 
【抜書】
●突厥、ウイグル(p32)
 突厥は、744年、同じトルコ系のウイグルに滅ばされる。
 そのウイグル国家も840年に崩壊。その残党が西に走って、やがてトルコ族のイスラム受容となる。
 
●トルコ族のイスラム化(p49)
 トルコ族は、元来、シャーマニズムの信奉者だった。
 かつてトルコ系遊牧国家の軍事力と提携して東西貿易に従事していたソグド人は、いち早くイスラム教を受容し、交易活動を進め、シル川以北のトルコ族の世界にも入り込んできた。
 伝説によれば、950年代の中ごろ、カラハン朝の君主サトゥク・ボグラ・ハーンが、イスラム教に改宗し、イスラム教徒が支配するトルコ系の国家が誕生した。
 イスラム側の資料には、次の君主の時代の960年に、テントの数およそ20万張の遊牧トルコがイスラムに改宗したと記録されている。
 
●テュルクメン(p52)
 10世紀末、オグズ族のトルコ系遊牧集団が、族長セルジュクに率いられてアラル海北方からシル川河口地方へ移住した。
 イスラムに改宗した彼らは、カラハン朝、ガズナ朝の両トルコ王朝勢力の間隙を突くようにして勢力を伸ばしていった。
 彼らのように、部族組織を維持したまま改宗してイスラム世界に進出したオグズの集団は、トゥルクマーンあるいはテュルクメンと呼ばれる。
 
●ペルシャ語(p55)
 セルジュク朝は、1040年にはガズナ朝の軍隊を撃破し、ホラーサーンにおける支配権を確実なものにした。
  「公用語」としてペルシャ語を用い、ペルシャ語で作品を著す多くの文人を保護して、ペルシャ文化の発展にも大きく寄与することになった。
 1070年にはエルサレムを占領。
 1071年には、大軍を率いて遠征してきたビザンツ皇帝を東部アナトリアのマンズィケルト(マラーズギルト)で撃破、アナトリアのイスラム化、トルコ化を大きく進展させた。
 
●ガーズィー(p71)
 11世紀末からアナトリアを荒らしまわったテュルクメン兵士は「ガーズィー」と呼ばれていた。イスラムの信仰のために戦う兵士のこと。
 
●ウルバン(p106)
 ウルバンというハンガリー人の技術者がコンスタンティノープルを訪れ、大砲製造技術を売り込んでいた。皇帝は、ウルバンの申し出を受け入れなかった。
 ウルバンは、エディルネへ向かい、スルタン(メフメット2世)に同様の申し出をした。スルタンは彼に十分すぎるほどの援助を与えて大砲を製造させた。数か月後にオスマン軍は、「バビロンの城壁でも爆破できる」巨砲を手に入れた。
 1453年5月29日、コンスタンティノープルは陥落した。
 
●オランダ共和国の成立(p165)
 スペイン(フェリペ2世)とオスマン帝国とのレパント海戦(1571年)は、スペインがネーデルランド鎮圧に向けるべき資金と人員を大幅に削減させることになった。
 オスマン帝国の存在が、主権国家オランダ共和国の成立に大きな役割を果たした。
 
●自足(p232)
 〔オスマン帝国はイスラムの担い手として発展してきた。そしてそこでイスラムは、人々を縛っていなかった。さらにオスマン帝国の経済政策は、利潤の追求や国富の集積をめざしてはいなかった。それはスルタンの臣民に、物資が安定して供給されることを目的としていた。それを妨げる形で不当な利益を上げるものを、スルタンの政府は厳しく取り締まろうとした。つまりあえて言えば、この社会は自足を知る社会だったのである。少なくともこの社会を律していた倫理は、資本主義の精神を生み出したりするものではなかった。こうした状況を「停滞」と評価する人々に、この国が押されてゆくことはほとんど自明だったように思われるのである。〕
 
(2022/2/2)NM
 
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