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職業としての官僚
 [社会・政治・時事]

職業としての官僚 (岩波新書)
 
嶋田博子/著
出版社名:岩波書店(岩波新書 新赤版 1927)
出版年月:2022年5月
ISBNコード:978-4-00-431927-6
税込価格:1,034円
頁数・縦:246p, 20p・18cm
 
 自身の国家公務員としての経験や各省現役・OBへの聞き取り調査も取り入れ、先進4か国(英米独仏)との比較も交えつつ、日本の官僚の現状と理想像を論じる。
 さまざまな論考が参照されているが、肝になっているのはマックス・ウェーバーの『職業としての政治』『職業としての学問』であろうか。随所で言及されている。
 
【目次】
第1章 日本の官僚の実像―どこが昭和末期から変化したのか
 職業の外面的事情
 仕事の内容
 各省当局の工夫
 小括―合理性や官民均衡が強まった半面、政治的応答は聖域化
第2章 平成期公務員制度改革―何が変化をもたらしたのか
 近代官僚制の創設から昭和末期まで
 改革を考える枠組み
 時系列れみる改革
 平成期改革の帰結
 小括―改革項目のつまみ食いによって、官僚が「家臣」に回帰
第3章 英米独仏4か国からの示唆―日本はどこが違うのか
 4か国の官僚の実像
 4か国の政官関係
 近年の変化
 小括―日本の特徴は、①政治的応答の突出、②無定量な働き方、③人事一任慣行
第4章 官僚論から現代への示唆―どうすれば理念に近づけるのか
 官僚制改善に向けた手がかり
 感情を排した執行か、思考停止の回避か(ドイツ)
 政治の遮断か、専門家の自律か、それとも政治への従属か(米国)
 企業経営型改革か、国家固有の現代化か
 「民主的統制」への新たな視線
 小括―「あるべき官僚」を実現させるためには、自分ごとでとらえる必要
結び―天職としての官僚
 
【著者】
嶋田 博子 (シマダ ヒロコ)
 1964年生まれ。1986年京都大学法学部卒、人事院入庁。英オックスフォード大学長期在外研究員(哲学・政治・経済MA)、総務庁(現・総務省)、外務省在ジュネーブ日本政府代表部、人事院事務総局総務課長、同給与局次長、同人材局審議官等を経て、京都大学公共政策大学院教授(人事政策論)。博士(政策科学)。
 
【抜書】
●日本の公務員の内訳2021年度(p4)
 地方公務員 274.3万人(82.3%)
 国家公務員 58.8万人(17.7%)
  特別職 29.8万人
   大臣、副大臣、大臣政務官、大公使等 500人
   裁判官、裁判所職員 2.6万人
   国会職員 4千人
   防衛省職員 26.8万人
   行政執行法人役員 30人
  一般職 29.0万人……国家公務員法適用対象
   給与法適用職員 28.0万人
   検察官 3千人
   行政執行法人職員 7千人
 
●公務員の数(p129)
 人口1,000人当たり。
 フランス 90.1人(中央政府25.2人、地方政府41.7人)
 イギリス 67.8人(中央政府5.4人、地方政府23.4人)
 アメリカ 64.1人(中央政府4.4人、地方政府51.0人)
 ドイツ 59.7人(中央政府2.7人、地方政府46.7人)
 日本 36.9人(中央政府2.7人、地方政府26.8人)
 
●本人応募(p131)
 英米独仏とも、政治任用部分を除き、官僚の異動・昇進は、空席に対する本人の応募が原則となっている。本人応募を経た競争と選考。
 内部限定と、外部公募まで含める場合とがある。
 
●政治的官吏(p134)
 ドイツでは、事務次官・局長は「政治的官吏」と呼ばれる。通常の人事と同じく、成績主義に基づき内部昇進していく。
 ただし、大臣は、政治的官吏が信頼できないと感じた場合には、理由を明示せずに更迭(一時退職)できる。更迭された後も、7割を超える給与(恩給)が最長3年間支給される。
 幹部官僚は、自分や家族の生活のために大臣に阿る必要がない。
 近年は、政権交代があると相当数の更迭者が出るが、新旧幹部への二重払いが生ずるため、大臣には世論を納得させるだけの理由が必要となる。
 幹部ポストに昇進するのはその時点の与党に所属している者が多い。与党支持者でない場合、官吏としての身分は基本的に州政府と共通なので、人脈があれば州の幹部に転じることもでき、大学教員等の途もある。
 
●異議申し立て(p231)
 ドイツでは、官僚の義務規定に「上司に対し助言し補佐する義務を負う」(官吏法第62条)とある。一方的に命令を受ける関係ではなく、上司の命令に従った場合でも、違法な職務行為には個人として全面的に責任を負う。
 免責されるには、上司あるいはその上の上司に「命令の適法性に疑義がある」と異議申し立てをして、その命令が改めて追認されることが必要となる。
 さらに1957年には、「命令の内容が人間の尊厳を傷つけるものであるとき」には免責されないという規定(現行第63条)が加えられた。
 ナチス政権という経験が、「選良たちが尊厳を傷つける命令を出すことはあり得ない」という性善説の放棄、人倫は官僚の命令順守義務に勝ることの明文化をもたらした。生(なま)の力が支配する状況にあっても、「人間の尊厳を傷つける」ことは絶対悪であるという価値判断の宣言。
 
●臨床医(p236)
〔 このように考えていくと、官僚の役割は、専門知識に支えられた冷徹さと同時に人々への熱い思いを要する医師、とりわけ現場で診断や執刀に当たる臨床医の仕事にどこか似ている。意欲だけで役割を果たすことはできず、、長期の厳しい知的訓練を要する。目先の感情に溺れることは許されないが、「人のため」という情熱なしには職責に耐え続けることはできない。善意や愛想も大事だが、それよりも結果によって判断される。官僚に必要なのは、「良き社会のための臨床医」に徹する覚悟であると集約できるかもしれない。〕
 
(2022/8/13)NM
 
〈この本の詳細〉


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