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人新世の「資本論」
 [社会・政治・時事]

人新世の「資本論」 (集英社新書)
 
斎藤幸平/著
出版社名:集英社(集英社新書 1035)
出版年月:2020年9月
ISBNコード:978-4-08-721135-1
税込価格:1,122円
頁数・縦:375p・18cm
 
 マルクス『資本論』の新解釈(MEGA)をもとに、気候変動に直面する資本主義の問題点を論じ、社会システムの転換を問う。資本主義から抜け出し、脱成長を実現することで「ラディカルな潤沢さ」が得られると説く(p353)。
 
【目次】
はじめに―SDGsは「大衆のアヘン」である!
第1章 気候変動と帝国的生活様式
第2章 気候ケインズ主義の限界
第3章 資本主義システムでの脱成長を撃つ
第4章 「人新世」のマルクス
第5章 加速主義という現実逃避
第6章 欠乏の資本主義、潤沢なコミュニズム
第7章 脱成長コミュニズムが世界を救う
第8章 気候正義という「梃子」
おわりに―歴史を終わらせないために
 
【著者】
斎藤 幸平 (サイトウ コウヘイ)
 1987年生まれ。大阪市立大学大学院経済学研究科准教授。ベルリン・フンボルト大学哲学科博士課程修了。博士(哲学)。専門は経済思想、社会思想。Karl Marx's Ecosocialism: Capital, Nature, and the Unfinished Critique of Political Economy(邦訳『大洪水の前に』)によって、権威ある「ドイッチャー記念賞」を歴代最年少で受賞。
 
【抜書】
●帝国的生活様式(p27)
 ドイツの社会学者ウルリッヒ・ブラントとマルクス・ヴィッセン。
 グローバル・サウスからの資源やエネルギーの収奪に基づいた先進国のライフスタイルを「帝国的生活様式」(imperiale Lebensweise)と呼んでいる。
 
●オランダの誤謬(p36)
 国際的な環境破壊の転嫁を無視して、先進国が経済成長と技術開発によって環境問題を解決したと思い込むこと。
 
●経済学者(p38)
 「指数関数的な成長が、有限な世界において永遠に続くと信じているのは、正気を失っている人か、経済学者か、どちらかだ」。
 経済学者ケネス・E・ボールディング。
 
●ジェヴォンズのパラドックス(p75)
 世界中で再生可能エネルギーへの投資が増えている一方、化石燃料の消費は減っていない。
 19世紀の経済学者ウィリアム・スタンレー・ジェヴォンズ『石炭問題』(1865年)で提起された逆説。
 当時イギリスでは、技術革新によって石炭をより効率的に利用できるようになっていた。それでも石炭の使用量が減ることはなかった。むしろ、石炭の低廉化によって、それまで以上に様々な部門で石炭が使われるようになり、消費量が増加していった。
 効率化すれば環境負荷が減るという一般的な想定とは異なり、技術進歩が環境負荷を増やしてしまう。
 
●コバルト(p84)
 コバルトは、リチウムイオン電池に不可欠の物質。
 コバルトの約6割がコンゴ民主共和国で採掘されている。アフリカで最も貧しく、政治的・社会的にも不安定な国。
 採掘方法は、地層に埋まっているコバルトを重機や人力で掘り起こすという単純なもの。世界中の需要を賄うための大規模な発掘とそのさらなる拡大が、コンゴで、水質汚染や農作物汚染といった環境破壊、景観破壊を引き起こしている。
 さらに、奴隷労働や児童労働が問題となっている。
 
●NET(p91)
 ネガティブ・エミッション・テクノロジー。
 二酸化炭素の排出量の削減が難しいのなら、大気中から二酸化炭素を除去する技術を開発しようというもの。こうした技術は排出量をネガティブ(マイナス)にする。
 しかし、NETの実現可能性は不確かであり、実現しても大きな副作用が予想される。
 
●ドーナツ経済(p103)
 政治経済学者ケイト・ラワース。ドーナツの内縁は「社会的な土台」、外縁は「環境的な上限」。人間の活動をドーナツの幅の中で収めるのが、人類にとって安全で公正な状態。
 水や所得、教育などの「社会的な土台」が不十分な状態で生活をしている限り、人間は繫栄することができない。
 
●四つの選択肢(p113)
 権力の強い/弱い、平等/不平等を基準に、四つの未来の選択肢を設定。
 ① 気候ファシズム……権力 強い、不平等。資本主義と経済成長にしがみつく。一部の超富裕層のみが利益を得る。特権階級の利害関心を守ろうとし、その秩序を脅かす環境弱者・難民を厳しく取り締まろうとする。
 ② 野蛮状態……権力 弱い、不平等。環境難民が増え、超富裕層1%とその他99%の力の戦いで、強権的な統治体制が崩壊、世界は混乱に陥る。
 ③ 気候毛沢東主義……権力 強い、平等。野蛮状態を避けるために「1%対99%」の対立を緩和しながら、トップダウン型の気候変動対策を行う。自由市場や自由民主主義の概念を捨てて、中央集権的な独裁国家が成立。
 ④ X(エックス)……権力 弱い、平等。強い国家に依存しないで、民主主義的な相互扶助の実践を、人々が自発的に展開し、気候危機に取り組む。公正で、持続可能な未来社会。
 
●MEGA(p147)
 新しい『マルクス・エンゲルス全集』の刊行プロジェクト。国際的なプロジェクトで、世界各国の研究者たちが参加。最終的には100巻を超える。
 大月書店版には収録されなかった『資本論』の草稿やマルクスの書いた新聞記事、手紙なども収録。新資料も含めて、マルクスとエンゲルスが書き残したものを網羅して、すべてを出版することを目指している。
 注目すべきはマルクスの「研究ノート」。『資本論』に取り込まれなかったアイデアや葛藤も刻まれている。MEGAの第四部門として全32巻で初めて公開される。
 新しい『資本論』の解釈も可能に。
 
●定常型経済(p192)
 ゲルマン民族のマルク共同体や、ロシアのミール。これらの共同体では、同じような生産を伝統に基づいて繰り返している。つまり、経済成長をしない循環型の「定常型経済」であった。
 
●気候市民議会(p216)
 フランスのマクロン大統領は、2019年1月に「国民大論争」を実施することを発表。全国の自治体で1万ほどの集会が開かれ、16,000もの案が提出された。
 さらにマクロンは同年4月に、「気候市民会議」の開催を発表した。150人規模の市民会議。メンバーは、年齢・学歴・性別・居住地などを考慮してくじ引きで選ばれる。2030年までの温室効果ガス40%削減(1990年比)に向けての対策案の作成が、市民会議に任せられた。
 2020年6月21日、ボルヌ環境相に、気候変動防止対策として約150の案を提出した。
  
●本源的蓄積(p236)
 一般に、主に16世紀と18世紀にイングランドで行われた「囲い込み(エンクロージャー)」のことを指す。共同管理がなされていた農地などから農民を強制的に締め出した。
 
●世界第三の産業(p257)
 マーケティング産業は、食糧、エネルギーに次いで世界第三の産業になっている。
 〔商品価格に占めるパッケージングの費用は10~40%といわれており、化粧品の場合、商品そのものを作るよりも、3倍もの費用をかけている場合もあるという。そして、魅力的なパッケージ・デザインのために、大量のプラスチックが使い捨てられる。だが、商品そのものの「使用価値」は、結局、なにも変わらないのである。〕
 
●〈市民〉営化(p259)
 電力の管理を市民が取り戻す。市民が参加しやすく、持続可能なエネルギーの管理方法を生み出す実践が「コモン」。市民電力やエネルギー協同組合による再生可能エネルギーの普及。
 「民営化」をもじって「〈市民〉営化」と呼ぶ。
 
●ラディカルな潤沢さ(p269)
 経済人類学者ジェイソン・ヒッケル。
 「緊縮は成長を生み出すために希少性を求める一方で、脱成長は成長を不要にするために潤沢さを求める」。
〔 もう新自由主義には、終止符を打つべきだ。必要なのは、「反緊縮」である。だが、単に貨幣を撒くだけでは、新自由主義には対抗できても、資本主義に終止符を打つことはできない。
 資本主義の人工的希少性に対する対抗策が、〈コモン〉復権による「ラディカルな潤沢さ」の再建である。これこそ、脱成長コミュニズムが目指す「反緊縮」なのだ。〕
 
●エネルギー収支比(p305)
 EROEI。エネルギー投資比率。
 一単位のエネルギーを使って何単位のエネルギーが得られるかという指標。
 1930年代の原油は、1単位のエネルギーを使って100単位のエネルギーを得ることができた。その後、原油のエネルギー収支比は低下を続け、現在は10単位。採掘しやすい場所の原油を掘りつくしたため。
 ただし、太陽光は2.5~4.7、トウモロコシのエタノールは1に近い。
 
●排出の罠(p306)
 脱炭素社会に移行していく場合、エネルギー収支比の高い化石燃料を手放し、再生可能エネルギーに切り替えていくしかない。しかし、エネルギー収支比率の低下によって、経済成長は困難になる。これが、「排出の罠(emissions trap)」。
 
●ブルシット・ジョブ(p315)
 デヴィッド・グレーバーが指摘するように、世の中には無意味な「ブルシット・ジョブ(クソくだらない仕事)」が溢れている。
 仕事に従事している本人さえも、自分の仕事がなくなっても社会に何の問題もないと感じている。現在高給を取っている、マーケティングや広告、コンサルティング、金融業や保険業など。重要そうに見えても、社会の再生産そのものにはほとんど役に立っていない。「使用価値」をほとんど生み出さない。
 一方で、社会の再生産に必須な「エッセンシャル・ワーク」(「使用価値」が高いものを生み出す労働)が低賃金で、恒常的な人手不足になっている。
〔 だからこそ、「使用価値」を重視する社会への移行が必要となる。それは、エッセンシャル・ワークが、きちんと評価される社会である。
 これは、地球環境にとっても望ましい。ケア労働は社会的に有用なだけでなく、低炭素で、低資源使用なのだ。経済成長を至上目的にしないなら、男性中心型の製造業重視から脱却し、労働集約型のケア労働を重視する道が開ける。そして、これは、エネルギー収支比が低下していく時代にもふさわしい、労働のあり方である。〕
 
●フィアレス・シティ(p238)
 国家が押し付ける新自由主義的な政策に反旗を翻す革新的な地方自治。国家に対しても、グローバル企業に対しても恐れずに、住民のために行動することを目指す都市。
 「気候非常事態宣言」を出したバルセロナが先駆。Airbnbの営業日数を規制したアムステルダムやパリ、グローバル企業の製品を学校給食から閉め出したグルノーブル、など。様々な都市や市民が連携し、知恵を交換しながら新しい社会を作り出そうとしている。
 
●社会連帯経済(p334)
 スペインは、もともと協同組合が盛んな土地柄。とりわけバルセロナは、「ワーカーズ・コープ」、生活協同組合、共済組合、有機農産物消費グループなどが多数活動している。「社会連帯経済」の中心地として名高い。
 社会連帯経済が、同市内の雇用の8%にあたる5万3000人の雇用を生み出し、市内総生産の7%を占める。
 
●気候正義、食料主権(p336)
 気候正義(climate justice)……気候変動を引き起こしたのは先進国の富裕層だが、その被害を受けるのは化石燃料をあまり使ってこなかったグローバル・サウスの人々と将来世代。その不公正を解消し、気候変動を止めるべきだという認識。
 食料主権……農業を自分たちの手に取り戻し、自分たちで自治管理すること。これは生きるための当然の要求である。
 
●3.5%(p362)
 ハーヴァード大学の政治学者エリカ・チェノウェスらの研究。
 3.5%の人々が非暴力的な方法で、本気で立ち上がると、社会が大きく変わる。
 フィリピンのマルコス独裁を打破した「ピープルパワー革命」(1986年)、エドアルドオ・シュワルナゼ大統領を辞任に追い込んだグルジアの「バラ革命」(2003年)、など。
 
(2024/2/15)NM
 
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なぜ中国は台湾を併合できないのか
 [社会・政治・時事]

なぜ中国は台湾を併合できないのか
 
福島香織/著
出版社名:PHP研究所
出版年月:2023年9月
ISBNコード:978-4-569-85554-7
税込価格:1,870円
頁数・縦:388p・19cm
 
 大陸中国との関係を中心に、台湾の現代政治史を綴る。
 2024年台湾総統選挙の背景に関する理解が進む1冊。
 
【目次】
序章 台湾のコロナ対策はなぜ成功したのか
第1章 台湾民主化という「奇跡」
第2章 民進党政権が定着させた「台湾アイデンティティ」
第3章 蔡英文政権の変貌
第4章 2024年の総統選挙と台湾の未来
第5章 習近平「一つの中国」の失敗
 
【著者】
福島 香織 (フクシマ カオリ)
 ジャーナリスト・中国ウォッチャー・文筆家。1967年、奈良市生まれ。大阪大学文学部卒業後、産経新聞社に入社。上海・復旦大学に業務留学後、香港支局長、中国総局(北京)駐在記者、政治部記者などを経て2009年に退社。以降はフリージャーナリストとして活躍。ラジオ、テレビでのコメンテーターも務める。
 
【抜書】
●野百合学生運動(p106)
 1990年3月16日、台湾大学の周克任、何宗憲、楊弘任ら9人の学生たちが、集会やデモを禁止されている博愛特区、中正祈念堂前の広場で、万年国会(国民大会)の解散を求める座り込みを始めた。
 17日夕には、座り込みが200人に達した。18日には、全国から学生たちが集まり、数千人の規模に。
 
●独裁から民主化(p117)
〔 台湾の民主化はいくつもの奇跡が重なっている。だが、最大の奇跡は、専制体制の中で順調に出世し、ついに独裁的権力を手に入れた男が、自らの独裁的権力を使い、独裁体制を打ち壊し民主化を進めようとしたことだろう。〕
 李登輝のこと。
 
●TAIWAN(p140)
 2002年、台湾正名運動が起こる。中華民国ではなく台湾を正名とする運動。在日台湾人の外国登録証明書の記載も、中国(昭和27年以来)から「台湾」に変更させることを目指した。
 2003年9月1日より、中華民国パスポートにTAIWANと付記されるようになった。台湾アイデンティティ、台湾ナショナリズムが広く浸透。
 2009年7月、日本も在日台湾人の外国人登録証明書の記載を「中国」から「台湾」に変更。
 
●92年コンセンサス(p180)
 1992年、共産党と国民党双方の中台窓口で非公式に口頭で確認された「一つの中国」原則。
 それぞれが「一つの中国」の解釈を述べることができるという認識を共有しているということで、これを中国語で「一中各表」と表現している。
 
●歴史教科書(p190)
〔 陳水扁政権時時代の歴史教科書では、台湾の日本統治時代については、日本が台湾の近代化に取り組んだ事業については肯定的な評価が行われている。ちなみに戒厳令下の国民党独裁政権時代の歴史教科書では中華民国の歴史によって万里の長城や長江については教えられても、17世紀初頭にスペインが建てた紅毛城の成り立ちは教えられなかった。日本統治時代の歴史が義務教育で教えられるようになったのは李登輝政権誕生以降だ。陳水扁政権8年の間に、チャイニーズでなくタイワニーズという意識は大きく広まった。〕
 
●産経新聞台北支局(p196)
〔 文化大革命のときに、世界中の新聞社が文革は素晴らしい革命であると絶賛していた中で、『産経新聞』が文革の本質は権力闘争であると報じたために、特派員・柴田穂〈みのる〉は強制退去処分となり、以降、産経新聞記者は中国入国禁止となった。代わりに台湾・台北に支局を置くことができた。中国は北京に支局を置いている新聞・通信社に対し、同時に台湾に支局を置くことは許さなかったので、産経は長らく台北に存在する唯一の日本新聞社だった。〕
 
●天然独立(p370)
 独立宣言などしなくても、独立した民主主義国、台湾人のアイデンティティを持つタイワニーズの国となること。
 
●統一の大義(p371)
 中華民国を樹立した国民党が消滅したり、党是から92年コンセンサスや一中原理を消してしまったら、中華民国の意味も変わる。
 中国にとっては、国共内戦の相手がいなくなり、和平統一の選択肢、統一の大義がなくなる。
〔 統一の大義がないならば、中国の選択肢としては統一を放棄するか、武力統一という名の侵略を行うかの二択しかない。中国・習近平政権が統一の選択肢を放棄すれば、それは体制の崩壊につながりかねないのだから、武力統一、台湾侵攻の選択肢しか残されない。〕 
 
●中国朋友圏(p374)
〔 好むと好まざるとにかかわらず、今後の国際社会は、よりはっきりと西側自由主義陣営と中国朋友圏陣営の対立という新冷戦構造のかたちになっていくだろう。〕
 
●日本に統一(p377)
 米軍事顧問団で資材管理をしていた台湾人の「黄」老人の意見。
 「台湾は日本に統一されるべきだ。日本はそうする責任があるはずだ」
 「馬関条約(下関条約)ではっきりと台湾、澎湖諸島は日本に割譲された。だがサンフランシスコ条約で日本国は、台湾および澎湖諸島に対するすべての権利、権限及び請求権を放棄する、としたが、では台湾がどこに帰属するかは明確にしていない」
 「日本は台湾の主権を放棄したが、誰に譲るとは決めていない。宙ぶらりんのままだ。だから台湾の帰属問題に関してまだ日本には発言権があるはずだ。日本が放棄した権利を取り戻すことだってできるはずだ」 
 
(2024/1/22)NM
 
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サピエンス減少 縮減する未来の課題を探る
 [社会・政治・時事]

サピエンス減少 縮減する未来の課題を探る (岩波新書)
 
原俊彦/著
出版社名:岩波書店(岩波新書 新赤版 1965)
出版年月:2023年3月
ISBNコード:978-4-00-431965-8
税込価格:968円
頁数・縦:167p・18cm
 
 これまで、人口転換は、高動揺期(多産多死)→初期膨張期(多産中死)→後期膨張期(中産少死)→低動揺期(少産少死)という推移をたどり、最終的に世界の人口は安定する、と考えられてきた(p.59)。しかし、ここにきて第二の人口転換ともいうべき状況が生まれ、出生率と死亡率が逆転し、世界全体の人口減少が始まろうとしている。すでに日本や先進諸国では経験中の現象である。
 将来の人口縮減に備え、人類はどうするべきなのか。
 本書では、人口学の基礎的な知見を披露しつつ、将来のあるべき姿を模索する。
 
【目次】
序 世界人口の増加と日本の人口減少をどう考えるべきか?
第1章 縮減に向かう世界人口
第2章 持続可能な人口の原理
第3章 多産多死から少産少死へ
第4章 人口が減ると何が問題なのか?
第5章 サピエンス減少の未来
 
【著者】
原 俊彦 (ハラ トシヒコ)
 1953年東京都生まれ。人口学者。早稲田大学政治経済学部卒、フライブルク大学博士(Ph.D.)。(財)エネルギー総合工学研究所、北海道東海大学、札幌市立大学を経て札幌市立大学名誉教授。日本人口学会理事、国立社会保障・人口問題研究所研究評価委員などを歴任。
 
【抜書】
●平均寿命(p12)
 世界全体の平均寿命。
 1950年46.5歳、2022年71.7歳、2100年82.1歳?
日本は、
 1950年59.2歳、2022年84.8歳、2100年94.2歳?
 
●移民(p96)
〔 したがって、日本に代表される人口転換の先発地域が人口の持続可能性を維持し社会システムの崩壊を防ぐには、生産年齢人口の爆発的な増加が期待されるサブサハラ・アフリカなどへの経済支援、投資を積極的に進めるとともに、その旺盛な需要に応えることで経済成長を続け、国際人口移動(移民)の受け入れを通じ、少子高齢・人口減少のスピードを緩和するしかないと考える。〕
 
●生き残りゲーム(p104)
〔 これに対し人口が急激に減少する場合にも様々な問題が発生するが、人口減少では人口の縮減自体が生産年齢人口の減少を通じ、社会資本の蓄積や社会的生産の拡大を困難にする。また人口減少では社会経済システムを縮んでゆく人口規模に合わせ、常に縮減再編し続けなければならないという問題が発生する。パイの縮小、ストロー(吸い上げ)効果(straw effect)などと呼ばれるが、縮減する社会資本や社会的生産のもとでは就業機会が減り、分け前にあずかれる人が減る一方、わずかな余剰も削減され、吸い上げられることになる。また人口減少に合わせ組織の無駄を省きスリム化することが常に求められるため、人口増加時のような、全員参加型の前向きの競争はなくなるが、ギスギスして陰湿な生き残りゲームのような競争が生じる傾向が強い。このような状況が社会全体に浸透していけば社会的不満や不安が鬱積し、集団として組織化することはあまりないとしても、突然、個人的に爆発したり暴走する危険性が強い。〕
 
【ツッコミ処】
・数百万人(p1)
 〔世界人口については、現在までのところ地球外との人の出入りはほとんどないので(航空機で大気圏内を移動中の数百万人は地球にいると見なす)、人口の増減は自然動態(出生と死亡)のみで決まるが、世界の様々な地域や国の間では人の移動があるので、自然動態に加え社会動態(転入と転出)も影響する。〕
  ↓
 数百万人! そんなにたくさんの人が同時に飛行機で空を飛んでいるのか!?
 
(2023/12/26)NM
 
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インド グローバル・サウスの超大国
 [社会・政治・時事]

インド―グローバル・サウスの超大国 (中公新書)
 
近藤正規/著
出版社名:中央公論新社(中公新書 2770)
出版年月:2023年9月
ISBNコード:978-4-12-102770-2
税込価格:1,078円
頁数・縦:302p・18cm
 
 政治、社会、経済、国際関係など、今のインドの全容を伝える。
 
【目次】
第1章 多様性のインド―世界最大の民主主義国家
第2章 モディ政権下のインド経済
第3章 経済の担い手―主要財閥、注目の産業
第4章 人口大国―若い人口構成、人材の宝庫
第5章 成長の陰に―貧困と格差、環境
第6章 インドの中立外交―中国、パキスタン、ロシア、米国とのはざまで
第7章 日印関係―現状と展望
 
【著者】
近藤 正規 (コンドウ マサノリ)
 1961年生。アジア開発銀行、世界銀行にてインドを担当した後、1998年より国際基督教大学教養学部助教授。現在、国際基督教大学教養学部上級准教授。2006年よりインド経済研究所主任客員研究員を兼務。そのほかに21世紀日印賢人委員会委員、日印共同研究会委員、日印協会理事などを歴任。東京大学学士、ロンドン大学修士、スタンフォード大学博士。インドの全ての州と連邦直轄領を訪れて論文を多数執筆。専門はインド経済、開発経済学。
 
【抜書】
●四つのアイデンティティ(p1)
 多様性の中の統一(Unity in Diversity)と呼ばれるインド、インド人の四つのアイデンティティ。
 出身地、言語、宗教、カースト。
 
●ガンディー家(p19)
 国民会議派を支配するガンディー家。「インド独立の父」マハトマ・ガンディーと直接の血縁関係はない。
 ジャワハルラル・ネルーの娘インディラが、ネルーに批判的な異教徒のジャーナリストと恋愛結婚し、そのジャーナリストがヒンドゥー教徒でなかったことを心配したマハトマ・ガンディーが、インディラ夫妻に「ガンディー」の姓を与えた。
 
●携帯電話(p31)
 製造業が弱いインドで、例外として注目されているのが、携帯電話の生産。
 2017年に、アップルの製造を請け負うEMS(電子機器の受託製造サービス)の世界最大手鴻海〈ホンハイ〉(ファックスコン。台湾)が、チェンナイの郊外でiPhoneの製造を開始。22年には輸出も念頭に置いて最新モデルiPhone14の生産が始まった。
 JPモルガンのアナリストは、2022年にはiPhone14製造全体の5%がインドにシフト、25年には最新モデルを含むiPhoneの25%がインドで製造されるであろうと予測。
 サムスンも、最大拠点ベトナムから一部の生産設備をインドへ移す計画がある。
 
●財閥(p58)
 インドの大半の財閥は、4つのコミュニティに属している。
 マルワリ……ビルラ財閥など。「インドのユダヤ人」とも言われる。マルワリのコミュニティに属する財閥が長らくインドの政財界を牛耳ってきた。〔英国の植民地時代に大英帝国との交易を支え、独立後はインド政府を金銭的に支援することで、ビジネスを保護され、利益率の高いビジネスを手広く営んできた。これは政府との癒着を一層深めることとなり、内外の競争から守られた財閥企業の経営は、きわめて非効率なものとなっていった。〕
 グジャラティ……リライアンス財閥など。
 パンジャビ……
 パールシー……タタ財閥など。イランから移住したゾロアスター教徒。
 
●AGEL(p79)
 アダニ・グリーン・エナジー(AGEL)、2020年に国営のインド太陽光発電公社(SECI)から太陽電池製造を含む太陽光発電事業の契約を獲得。この契約により、AGELが8ギガワットの太陽光発電施設を建設、アダニ・ソーラーが2ギガワットの太陽電池とモジュールの製造能力体制を確立。60億ドルの投資とともに40万人の雇用が創出され、稼働期間中900万トンの二酸化炭素が置き換えられることになる。
 AGELによって稼働中(または建設中・契約中)の太陽光発電量は15ギガワットとなり、2025年までに世界最大の再生可能エネルギー事業者になる予定。
 アダニ・グループ……グジャラート州アーメダバードで1988年創立。
 
●医薬品(p94)
 インドの医薬品産業は、低価格の後発医薬品を低所得国に提供するという点で、国際的な貢献をしてきた。
 2001年にインドの大手医薬品企業シプラは、国境なき医師団に対して、エイズ治療用の3種類の混合薬を一人当たり350ドルで供与。現在、国境なき医師団が30か国以上の国々で治療している人々の9割近くがインド製の後発薬を用いている。
 コロナ禍では、インドのワクチンが世界中に輸出され、多くの命を救った。
 
●ダイヤモンド(p102)
 ダイヤモンドは5000年前、南インドのハイデラバード郊外にあるゴルコンダで発見され、17世紀まではインドが世界最大の産出国だった。
しかし、インドのダイヤモンドの産出は徐々に枯渇。
 1725年にブラジルでダイヤモンドの鉱床が発見され、1866年にはボツワナや南アフリカで大鉱床が発見される。
 15世紀以来、世界のダイヤモンド取引を独占したきたのは、ユダヤ人商人。1930~40年代にグジャラート州パランプールのジャイナ教徒がベルギーのアントワープに送られ、それ以来、インド人商人によるダイヤモンドの取引が増加してきた。戦後、インドのダイヤモンド加工業は急成長。
 
●米、小麦(p147)
 インドの全労働人口の46%が農業だが、GDPに占める農業の比率は16%。生産性が極めて低い。
 農地面積は、国土全体の半分強を占める1億8000万ヘクタール。米国に次ぐ世界第2位の規模。
 作付面積の24%が米、14%が小麦。農産物生産量では、米、小麦、紅茶、サトウキビが世界2位となっている。輸出量は、米が世界第1位、小麦が世界第2位。
 
●佐々井秀嶺(p163)
 ささいしゅうれい。
 アンベードカルは、1956年10月に50万人におよぶダリットとともに仏教に改宗、その2か月後に病死した。その後、仏教復興運動を継いだのは、日本人僧侶の佐々井秀嶺。
 岡山県で生まれ、タイの寺院への留学を経て、1966年にインドの日本寺へ派遣された。その後、ナグプールへ移って布教と社会活動を続け、88年にインド国籍を得る。仏教の聖地ブッダガヤでは、大菩提寺の管理権をヒンドゥー教徒から仏教徒に変換させるための運動を組織。2003~06年には、仏教徒を代表してインド政府の少数派委員会のメンバーに。
 毎年10月頃、ナグプールで佐々井が中心となって開いている大改宗式には、今でも3日間で100万人にも及ぶ群衆が押し寄せる。
 
●テラ・モーターズ(p170)
 インドでは、四輪よりも二輪と三輪でEV化が進んでいる。
 近距離タクシーとして使われる三輪EVの年間生産台数は10万台。三輪車の販売台数のうち6台に1台はEV。インド政府は、2024年までに、三輪車をすべてEV化すると宣言している。
 日本のスタートアップ企業のテラ・モーターズは、インドの三輪EV市場に進出して成功を収めている。
 
●常任理事国(p184)
 初代首相のネルーは、中国共産党の周恩来と親交を深め、中国を「兄弟」とまで呼び、ともに第三世界のリーダーになることを目指した。1954年には、「平和5原則」を結んだ。
 インドがなる可能性もあった国連の常任理事国の座を、ネルーは中国に譲る姿勢を見せた、とも言われている。
 
●752年(p241)
 752年、インド人僧侶の菩提僊那が唐から来日、東大寺大仏殿の開眼供養を行った。日本とインドの交流の嚆矢。
 
●OKY(p262)
 O:お前が、K:ここへ来て、Y:やってみろ。
 日本人現地駐在員の間でよく聞かれる言葉。日本の企業では、トップは号令を下しても自らはビジネスにタッチしない。そんな姿勢を揶揄した言葉。
 大半の日本企業の駐在期間は3年。片道切符でやってくる韓国企業との大きな違い。「事なかれ主義」で過ごし、自分の駐在期間中にリスクを取ってビジネスを行うことはない。
 
【ツッコミ処】
・製造業(p106)
〔 自動車部品産業は、インドが製造業やダイヤモンド加工と並んで、国際競争力を有する数少ない製造業の一つである。〕
  ↓
 「製造業」が2か所に出てくるが、最初のは「製薬業」の間違いか?
 
(2023/12/22)NM
 
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#Z世代的価値観
 [社会・政治・時事]

#Z世代的価値観
 
竹田ダニエル/著
出版社名:講談社
出版年月:2023年9月
ISBNコード:978-4-06-532945-0
税込価格:1,650円
頁数・縦:204p・19cm
 
 Z世代の旗手(?)、竹田ダニエルによる「Z世代論」。ただし、Z世代といっても米国の話。日本は、ひと世代(10~15年スパン)遅れているらしい。
 
【目次】
はじめに 日本とアメリカのZ世代の違いの話
STYLE―「ホットガール」はセルフラブがつくる
HEALTH―セラピーは心の必需品
FOOD―「リアル&楽しい」食に夢中
MOVIES―エブエブ旋風の奇跡
SNS―さよなら「インフルエンサー」消費
BOOKS―つながりが広げる読書
MONEY―ブランド価値より「今」の価値
WORK―「仕事≠人生」的な働き方
対談―#Z世代的価値観を考える
おわりに 自分は「Z世代の代弁者」ではない
 
【著者】
竹田 ダニエル (タケダ ダニエル)
 1997年生まれ、カリフォルニア州出身。「カルチャー×アイデンティティ×社会」をテーマに執筆し、リアルな発言と視点が注目されるZ世代ライター・研究者。「音楽と社会」を結びつける活動を行い、日本と海外のアーティストを繋げるエージェントとしても活躍。著書に『世界と私のA to Z』。「Forbes JAPAN 30 under 30 2023」受賞。カリフォルニア大学バークレー校大学院在学中。
 
【抜書】
●ブーマー世代(p7)
 米国における世代区分。
 ブーマー世代……1946~64年生まれ。
 X世代……1965~79年生まれ。
 ミレニアル世代……1981~95年生まれ。
 Z世代……1990年中頃~2000年代生まれ。
 
●メンタルヘルス(p46)
〔 今まで社会が頑なに維持してきた有害なサイクルを断ち切る鍵を持っているのは、Z世代だ。セラピーに通うことが一般的になり、メンタルヘルスについて発信し、親しい人と強固な信頼関係を築くことでお互いにかつてはタブーだったような対話を行い、セルフケアを優先できるような世界を、Z世代は作っている。
 「毎日を楽しく生きなくても良い。たとえ社会に希望が感じられなくて生きることが辛かったとしても、未来への希望を持ち続ける、ただそれだけのことが必要なのです」。私がセラピストに言われたことで、強く印象に残っている言葉だ。「幸せ」や「完ぺき」を求めなくても、少しでも今より良い未来が来ると希望を持って自分と向き合っていけたら、自分にも、そして周りの人々に対しても優しくなれるかもしれない。〕
 
●10分の1(p90)
 2020年、プリンストン大学の報告書。
 工場の操業や製品の洗浄に使用する水のうち、アパレル産業がその10分の1を占め、廃棄される衣服のうち、57%が埋め立て地へ向かう。
 Nature Reviews Earth & Environmentに掲載された研究では、アパレル産業は毎年9200万トンの廃棄物を出し、79兆リットルもの水を消費している。
 
●dupe(p111)
 いま米国では、Z世代の間で「dupe」の革命が起きている。
 dupe……duplicateを略したスラング。正規品に似せている低価格商品。模倣品(counterfeit)とは意味合いが異なり、化粧品であれば発色が似ているもの、電化製品であれば機能が似ているもの、服であればデザインが似ているもの、を指す。
 〔dupeという語が安価な代替品という意味で一般的に使われるようになったのは、2008年の不況の頃だと言われている。一昔前は「ホンモノ」でないものを買うことに躊躇や羞恥心があったかもしれないが、大手インフルエンサーや一般人がことごとくdupeを買って紹介したり、dupeを見つけたことをポジティブにひけらかすところを見ると、もはやそれは「悪いこと、恥ずかしいこと」ではなく、むしろ「ストリートスマート」であると受け止められるのは当然のことだろう。〕
 
●Dupe Swap(p118)
 2023年5月、人気アスレチックブランドのLululemonが、「コピー商品を持ち込んでくれたら本物と交換する」という「Dupe Swap」をロサンゼルスのセンチュリーシティで開催し、9万8000ドル分の商品を無料で配った。
 〔素晴らしい品質でありながら、高くてなかなか手が出ないというAlignレギンスを実際に客に穿いてもらうことで、dupe商品との質の違いを体感させる、という試みだ。〕
 スワップに来た1000人のうち、50%は新規顧客で、その半数は30歳未満だったという。
 
●矛盾の世代(p135)
〔 いろいろなところで述べているが、Z世代は「矛盾の世代」とも言える。環境問題に配慮したいけれど、ファストファッションブランドで買い物もする。資本主義には反対だけれど、毎日頑張っている自分に「ご褒美」を買ってあげたくもなる。多様なバックグラウンドを持つ人々が集まっている世代だからこそ、価値観も非常に多様で、一括りにすることは不可能だ。しかしその多様性の中でも、一貫して「もっと生きやすい世界になってほしい」という思いが強く存在しているように、私には感じられる。自分が生きやすい世界にしたいという気持ちは、今の社会が生きづらいことの裏返しでもあるとも捉えられる。Z世代は、自分で簡単にこのトロールできる「身の回りのこと」だけに集中しよう、という「丁寧な暮らし」や「自分のことだけをする」といった試みによって「個人の力で気分良く過ごす」だけではない。
 そこから目を転じて大きなシステムの枠組みにまで疑いを持ち、なぜ自分の生活が豊かにならないのか、前の世代のように恩恵を受けるのが難しいのか、なぜ自分が好きなように生きられないのか、苦労をしなければならないのかを繰り返し問うてきた。だからこそ、その理由をZ世代は若い頃からどこかで悟っている。誰かが大いに得をし、誰かが搾取される格差社会が悪化しており、根幹に後期資本主義の問題があることを。
 「大人に任せておけばいい」という時代は、もうすでに終わっている。自分たちの手で、「昔からそうだったから変わらない」という前提ごと覆してしまう。どんどん「変化の前例」を作っていくことで、自分たちの手で腐った社会を少しずつ変えられることを証明している。我慢していても誰の得にもならない、という「絶望」と「希望」を抱えながら、「生きているという手応え」を感じるために、彼らは行動しているのだ。〕
 
●正解はないけど間違いはある(p191、永井玲衣)
 〔ある哲学対話の際に学生がぽつりと漏らしたひと言が忘れられないんです。「社会に“正解はない”っていうのはわかりました。でも正解はないけど“間違い”はありますよね」と。だから、声を上げると「それは違う」と叩かれたり、誰かを傷つけたりしてしまうんじゃないかと言うんです。正解はないのに間違いだけがある社会って、どれだけ苦しいんだろうと思います。その学生の、怒りをはらんだ悲しげな雰囲気が忘れられないです。〕
 
【ツッコミ処】
・女性らしい男性(p23)
〔 「Bimbo」という言葉は、元々はイタリア語の「bambino」に由来し、1800年代には女性らしい男性を揶揄するために使われたという。〕
  ↓
 女性らしい男性?? 女なのか、男なのか……。
 普通、「男らしい男」という言い方はするが、「女らしい男」とは言わないだろう。「女性っぽい男性」もしくは「女性みたいな男性」か?
 
(2023/12/18)NM
 
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ぼくはウーバーで捻挫し、山でシカと闘い、水俣で泣いた
 [社会・政治・時事]

ぼくはウーバーで捻挫し、山でシカと闘い、水俣で泣いた
 
斎藤幸平/著
出版社名:KADOKAWA
出版年月:2022年11月
ISBNコード:978-4-04-400715-7
税込価格:1,650円
頁数・縦:220p・19cm
 
 「毎日新聞」文化面に、2020年4月から2022年3月まで連載された「斎藤幸平の分岐点ニッポン」に、「特別回 アイヌの今」を加えて書籍化した。哲学者が「現場」に行って様々なことを経験し、いまのニッポンに関する感想を綴る。
 
【目次】
第1章 社会の変化や違和感に向き合う 
 ウーバーイーツで配達してみた―自由と、自己責任と
 どうなのテレワーク―見直せ、大切な「無駄」
 京大タテカン文化考―表現の自由の原体験
  ほか
第2章 気候変動の地球で
 電力を考える―1人の力が大きな波に
 世界を救う?昆虫食―価値観の壁を越えれば
 未来の「切り札」?培養肉―食のかたちをどう変えるか
  ほか
第3章 偏見を見直し公正な社会へ
 差別にあえぐ外国人労働者たち―自分事として
 ミャンマーのためにできること―知ることが第一歩
 釜ケ崎で考える野宿者への差別―内なる偏見に目を
  ほか
 
【著者】
斎藤 幸平 (サイトウ コウヘイ)
 1987年生まれ。東京大学大学院総合文化研究科准教授。ベルリン・フンボルト大学哲学科博士課程修了。博士(哲学)。専門は経済思想、社会思想。『Karl Marx’s Ecosocialism』(邦訳『大洪水の前に マルクスと惑星の物質代謝』角川ソフィア文庫)によって権威あるドイッチャー記念賞を日本人初、歴代最年少で受賞。同書は世界9ケ国語で翻訳刊行されている。日本国内では、晩期マルクスをめぐる先駆的な研究によって日本学術振興会賞受賞。『人新世の「資本論」』(集英社新書)で新書大賞2021を受賞。
 
【抜書】
●ミナペルホネン(p116)
 1995年にデザイナーの皆川明が設立したファッションブランド。エシカルなファッションを実践している。
 皆川明「結局はリサイクルされないものの方がサステナブル(持続可能)です。」
 「最新のテクノロジーや機械を使わなくても、解決できることがある。それは手間をかけるということだったりする。」
 ミナは、縫製工場で出た余り布をすべて回収し、別のものづくりに生かす。
 ミナは、広告をほとんど打たず、ショーもセールもしない。長く使ってもらえるように修理にも応じる。
〔 アパレル業界は「トレンド」を後追いし、「新作」と「旧作」の見分けもつかないような似た服を毎シーズン大々的に売り出している。生産現場のコストカットを断行する一方、コラボや広告費だけは膨れ上がる。その結果、消費者が要らないものを買わされるなら、誰も幸せにならない。〕
 
【ツッコミ処】
・虚無感(p19)
 ウーバーイーツの配達員。
〔 それに、配達員はアプリの指示を追っている分にはサイクリング気分だと言ったが、裏を返せばただスマホの指示をぼーっと追っているだけで、創造性を発揮する余地は少ない。「誰にでも」「空いた時間」でできる仕事は低賃金だ。それ以上のやりがいがあればいいかもしれない。お金もうけではなく、人との繋がりがシェアリング・エコノミーの醍醐味のはずだから。だが、他者と触れ合う時間は一瞬で、「お疲れ様、ありがとう」もない。何もシェアしていないのだ。ギグワークはAIやロボットにやらせるとコストが高過ぎる作業を人間が埋めているような虚無感が残る。〕
  ↓
 配達員のやりがいとは、他者との触れ合いより、暇な時間を自転車に乗ることで運動ができる、ということかなと思う。はなから創造性なんか求めてないし。
 引退して年金生活になった時の無聊を解消し、身体を動かす機会として、配達員は相応しいのではないか。お小遣い稼ぎにもなるし。
 自転車に乗るのは好きなのだが、どこかに行く目的もなく乗るのは、飽きてしまって続かない。ウーバーイーツでその目的地ができればちょうどいい。
 引退して暇になったら配達員をやってみようかな、とひそかに思っている。
 
(2023/12/4)NM
 
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サイボーグになる テクノロジーと障害、わたしたちの不完全さについて
 [社会・政治・時事]

サイボーグになる テクノロジーと障害,わたしたちの不完全さについて
 
キム・チョヨプ/〔著〕 キム・ウォニョン/〔著〕 牧野美加/訳
出版社名:岩波書店
出版年月:2022年11月
ISBNコード:978-4-00-061567-9
税込価格:2,970円
頁数・縦:299p・19cm
 
 後天的な聴覚障害者であるSF作家と、骨形成不全症という難病を抱えながら弁護士・作家・パフォーマーとして活躍するキム・ウォニョンの二人による、非障害者に向けた評論集。
 考えてみれば、「サイボーグ」のような「完全な人間」なんて、この世には存在しないだろう。皆どこか、わずかながらでも「障害」を抱えているはずだ。目が悪い、耳が遠い、慢性鼻炎、アトピー性皮膚炎、花粉症、胃潰瘍、足が遅い、などなど。そんな「ふつうの人」と、二人の著者との間に、人間としてどれほどの「差」があるというのだろう。補綴物によって「ふつう」になるのではなく、障害を抱えたままで「ふつう」に社会に存在することはできないのだろうか。非障害者が「ふつう」に彼らを受け入れられる社会というものを夢想する。障害者がサイボーグになる必要もなしに。
 
【目次】
1 われわれはサイボーグなのか
 サイボーグになる
 宇宙での車椅子のステータス
 障害とテクノロジー、約束と現実のはざま
  ほか
2 ケアと修繕の想像力
 衝突するサイボーグ
 「障害とサイボーグ」のデザイン
 世界を再設計するサイボーグ
  ほか
3 連立と歓待の未来論
 障害の未来を想像する
 つながって存在するサイボーグ
対談 キム・チョヨプ×キム・ウォニョン
 
【著者】
キム チョヨプ (キム チョヨプ)
 本名、金草葉。1993年生まれ。2017年に「館内紛失」と「わたしたちが光の速さで進めないなら」で第2回韓国科学文学賞中短編部門の大賞と佳作をそれぞれ受賞し、文壇デビュー。後天性聴覚障害者。短編集『わたしたちが光の速さで進めないなら』(カン・バンファ、ユン・ジヨン訳、早川書房)は日本でもベストセラーとなり注目を集めた。2019年「今日の作家賞」、2020年「若い作家賞」を受賞。
 
キム ウォニョン (キム ウォニョン)
 本名、金源永。1982年生まれ。大学で社会学と法学を学び、ロースクールを卒業したあと国家人権委員会で働いた。現在は作家、弁護士、パフォーマーとして活動している。車椅子ユーザー。
 
牧野 美加 (マキノ ミカ)
 1968年大阪生まれ。釜慶大学言語教育院で韓国語を学んだあと、新聞記事や広報誌の翻訳に携わる。第1回「日本語で読みたい韓国の本翻訳コンクール」最優秀賞受賞。
 
【抜書】
●最初のサイボーグ(p13、キム・チョヨプ)
〔 最初のサイボーグは人間を宇宙に送るために考案された。アメリカのマンフレッド・クラインズ(Manfred Clynes)とネイザン・クライン(Nathan Kline)は一九六〇年、アメリカ航空宇宙局(NASA)の学術会議に提出する論文の執筆過程で、「サイバネティック(cybernetic)」と「有機体(organism)」を合わせた「サイボーグ(cyborg)」という造語を生み出した。サイボーグはテクノロジーによって改造された新しい形態の人間で、臓器移植や薬物の注入、機械との結合などによって、極限の宇宙環境でも生存できるよう増強された人間を意味する。このようにサイボーグという概念は、今すぐに実現可能な技術というより、遠い未来の、いつか開発されるべき技術に関する抽象的なアイデアからスタートした。それが文化や芸術、学問の領域へと徐々に広がっていき、具体的な形象を持ちはじめたのだ。〕
 
●弱い人たちが存在できる世界(p224、キム・チョヨプ)
〔 身体や能力の序列がなくなった世界を想像するのは容易ではない。正常ではない身体を持つ人が差別から解放される世界を思い描くことすら、漠然としていて難しい。むしろ、人間が死や老い、病気から解放された世界をイメージするほうが簡単かもしれない。けれど、たとえどんなに想像するのが難しくても、すべての人が「有能な」世界よりも、弱い人たちが平穏に、ありのままに存在する未来のほうが解放的だと、わたしは信じる。損傷など一切存在しないように見える未来よりも、苦痛の中にある身体、損傷した身体、何もできない身体を世界の構成員として歓待する未来のほうが、より開かれていると信じる。〕
 
●神の存在証明(p229、キム・ウォニョン)
 神が「いないことが立証されない限りわたしたちは(神を)信じる」ということ。
 ソウル大学のチョン・ハギュン教授は、ヒト胚性幹細胞複製に成功したという研究成果が、捏造であると断定された2006年の時点でも、「今すぐ証明されないからといって幹細胞がないとは考えない」と述べていた。まるで、神の存在の証明とそっくり。
 
(2023/11/25)NM
 
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誰が農業を殺すのか
 [社会・政治・時事]

誰が農業を殺すのか (新潮新書)
 
窪田新之助/著 山口亮子/著
出版社名:新潮社(新潮新書 976)
出版年月:2022年12月
ISBNコード:978-4-10-610976-8
税込価格:946円
頁数・縦:266p・18cm
 
 日本農業を殺したのは誰か?
 ずばり、農水省というのが本書の主張である。農水省の保護政策が農業をダメにした。その実例を、育種、零細農家、コメ先物市場、有機農法などで示しながら論じる。
 
【目次】
第1章 中韓に略奪されっぱなしの知的財産
第2章 「農産物輸出5兆円」の幻想
第3章 農家と農地はこれ以上いらない
第4章 「過剰な安心」が農業をダメにする
第5章 日本のコメの値段が中国で決まる日
第6章 弄ばれる種子
第7章 農業政策のブーム「園芸振興」の落とし穴
第8章 「スマート農業」はスマートに進まない
 
【著者】
窪田 新之助 (クボタ シンノスケ)
 農業ジャーナリスト。日本農業新聞記者を経て、2012年よりフリー。
 
山口 亮子 (ヤマグチ リョウコ)
 ジャーナリスト。京都大学文学部卒、中国・北京大学修士課程(歴史学)修了。時事通信記者を経てフリー。執筆テーマは農業や中国。
 
【抜書】
●サカタのタネ、タキイ種苗(p41)
 (株)サカタのタネとタキイ種苗(株)は、野菜種子のシェアが世界的に高く、世界の種苗会社の売り上げランキングでトップ10に入っている。
 
●Oishii Farm(p82)
 日本人の古賀大貴が2016年に創業。米国ニュージャージー州で、完全閉鎖型の植物工場を運営する。
 2022年6月から、米国の高級スーパーWhole Foods Marketのニューヨーク・ノマド店でイチゴの販売が始まった。
 完全閉鎖型……室内の環境が外界から完全に隔離された状態を保てる施設。人工光を利用し、温度や湿度も自動で調整。
 米国のイチゴ生産は、9割以上がカリフォルニア州。消費地の近くに植物工場を建てて生産すれば、鮮度のいいイチゴを供給できる。
 
●スリランカ(p120)
 スリランカ政府(ラジャパクサ大統領)は、2021年、「国内全土で有機農業を100%にする」という目標を打ち出した。5月から、化学的に合成された農薬と肥料の輸入を禁止した。
 コメの生産量が半年で20%減少し、米価は50%値上がり。食糧不足に陥り、それまで自給率100%超だったコメを大量に輸入する破目に。
 外貨を獲得できる茶は品質と収量が下がり、4億2500万ドルの損失を出した。
 かねてからの経済危機が一層深まる。
 11月には、農薬と肥料の輸入禁止は解除された。
 身の危険を感じた大統領は、2022年7月に国外脱出、辞任。
 
●みどり戦略(p122)
 日本でも、2021年5月、農水省が「みどりの食料システム戦略(みどり戦略)」を策定。2050年までに化学農薬の使用量50%減、化学肥料の使用量30%減、有機農業の面積を農地全体の25%に。
 2018年時点での有機農業の割合は0.5%だった。
 慣行農業……有機農業に対して、既定の範囲内で農薬や化学肥料を使う農法。
 
●トウモロコシ、ダイズ(p144)
 日本で栽培が認可されている「遺伝子組み換え作物」は、トウモロコシ、ダイズ、西洋ナタネなど、149品種。2022年8月時点。
 いずれも、世界共通の指針に基づき、食品と飼料、環境(生物多様性への影響)という三つの点で安全が担保されたもの。食品は食品衛生法と食品安全基本法、飼料は飼料安全法と食品安全基本法、生物多様性はカルタヘナ法に依拠。
 しかし、実際に日本で商業的に栽培されているのは、青いバラのみ。サントリー(株)が世界で初めて開発。バラの花弁には存在しない、青色の色素を作るのに必要な酵素の遺伝子を組み込む。
 
●キモシン(p150)
 牛乳を凝固させる作用を持つ酵素。子牛の4番目の胃から、少量しか取れない。チーズ作りに欠かせない。
 遺伝子組み換え技術を活用し、微生物にキモシンを作る遺伝子を組み込んで大量生産できるようになった。現在、世界におけるチーズの製造量の約6割が遺伝子組み換えキモシンを使用。一般社団法人Jミルクによる。
 
●堂島米会所(p157)
 1730年、大坂堂島米会所でコメの先物市場が開設された。世界初の先物取引?
 200年余り続いたが、1918年に富山県で起こった米騒動の影響で全面停止となった。
 2011年、大坂堂島商品取引所(現在は、堂島取引所)が72年ぶりに復活。試験的に始め、4回延長されたが、2021年に農水省により、本上場が不認可となった。
 
●中粒米(p184)
 中粒米……アジアの熱帯高地や米国、ブラジル、イタリア、スペインなどで栽培。リゾットやサラダ。
 長粒米……中国の中南部や東南アジア、米国南部などで栽培。ピラフ、カレーなど。
 日本では短粒米が一般的。
 
●とねのめぐみ(p196)
 直播用のコメの品種。日本モンサント(株)が、2005年に品種登録。
 農研機構が育成した「どんとこい」と、福井県が育成した「コシヒカリ」をかけ合わせて開発した。
 2018年、日本モンサントが製薬王手のバイエルに買収されたのを機に、茨城県稲敷郡河内町にある第三セクターの(株)ふるさとかわちに譲渡された。
 県が育成した品種は種子代が1㎏あたり400~500円。とねのめぐみは1,000円。しかし、多収性のため、コシヒカリに比べても利益が出る。
 
(2023/11/20)NM
 
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女ことばってなんなのかしら? 「性別の美学」の日本語
 [社会・政治・時事]

女ことばってなんなのかしら?: 「性別の美学」の日本語 (河出新書 063)
 
平野卿子/著
出版社名:河出書房新社(河出新書063)
出版年月:2023年5月
ISBNコード:978-4-309-63162-2
税込価格:946円
頁数・縦:213p・18cm
 
 日本語特有の「女言葉」を通して、日本のジェンダー格差を考える。
 
【目次】
第1章 女ことばは「性別の美学」の申し子
第2章 人称と性
第3章 日本語ってどんなことば?
第4章 西洋語の場合
第5章 日本語にちりばめられた性差別
第6章 女を縛る魔法のことば
第7章 女ことばは生き残るか
 
【著者】
平野 卿子 (ヒラノ キョウコ)
 1945年、横浜に生まれ、東京で育つ。翻訳家として小説、児童書、ノンフィクションなど幅広い分野で活躍。お茶の水女子大学卒業後、ドイツのテュービンゲン大学、アメリカのニューヨーク大学に留学。ヴァルター・メアス『キャプテン・ブルーベアの13と1/2の人生』で第9回レッシング翻訳賞を受賞。
 
【抜書】
●明治時代(p18)
〔 いま、私たちが「女言葉」と認識している「だわ」「のよ」といった言葉づかいの起源は、明治時代の女学生の話し言葉です。ただ、当時は正しい日本語とは扱われず「良妻賢母には似合わない」「下品で乱れた言葉」だと、さんざん非難されていたのです。女言葉が正当な日本語に位置づけられたのは、朝鮮半島や台湾などの植民地でとられた同化政策の中でのことです。「女と男で異なる言葉遣いをする」のが日本語のすばらしさであるとされ、多様な言葉づかいの一部だけを「女言葉として語る」ことで、概念が生み出されました。
 戦後は日本のプライドを取り戻すため、女言葉はさらに称賛されるようになります。その中で、「女学生の流行り言葉」だったはずが、起源を捏造され、「山の手の中流以上の良家のお嬢様の言葉」だったと喧伝されるようになります。日本女性は丁寧で控えめで、上品だという「女らしさ」と結びつけられ、「女ならば女言葉を使うはずだ」という意識も生まれました。〕
 言語学者の中村桃子、『朝日新聞』(2021年11月13日)より。
 
●男女棲み分け社会(p42)
〔 西洋諸国が「カップル社会」なら、日本はさしずめ「男女棲み分け社会」といえるでしょう。けれども根底にある考えは同じです。どちらにも「女は愚かで弱い」という大前提があり、それが西洋では「だから、俺のそばを離れるな」となり、日本では「だから、引っ込んでろ」となっただけのこと。〕
 
●日本のジェンダー格差(p110)
 日本にジェンダー格差がなくならない理由。
 (1)人生のあらゆる局面において、日本人には日本独自の「性別の美学」が深く刷り込まれている。
 (2)参政権や婚姻の自由をはじめ、70年以上前から名目の上では両性がいちおう平等である。ただし、戦後の民主憲法によって与えられたもので、女性たちが勝ち取ったものではない。
 (3)日本の女性には、西洋の女性にはない「自由」があったこと。
  1.行動の自由……カップル社会の西洋とは異なり、日本では女性が一人で、あるいは「女子会」など複数で自由に行動できる。
  2.お金を使う自由……家計を管理しているのは、多くが妻であった。
 日本の女性は、日々の暮らしにおいて「そこそこ」自由だった。西洋の女性たちのような、平等に対する切羽詰まった欲求を感じることが少なかった。
 しかし、日本の男女格差がなくならない最大の理由は、既得権益をがっちり握ったまま手放さないホモソーシャルな社会構造にある。
 
●声の性差(p168)
〔 男の子は自分より年長の男性を真似ようとして、無意識に必要以上に低い声を出す。同様に女の子は、生物学的に決まっている以上に高い音域で話をする、そのほうが女性らしいと無意識に学習しているのだ。〕
 米国の神経科学者リーズ・エリオット『女の子の脳 男の子の脳』より。
 
(2023/11/18)NM
 
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デオナール アジア最大最古のごみ山 くず拾いたちの愛と哀しみの物語
 [社会・政治・時事]

デオナール アジア最大最古のごみ山――くず拾いたちの愛と哀しみの物語
 
ソーミャ・ロイ/著 山田美明/訳
出版社名:柏書房
出版年月:2023年9月
ISBNコード 978-4-7601-5530-9
税込価格:2,860円
頁数・縦:372, 10p・19cm
 
 120年前から存在する、インドの大都市ムンバイのゴミ集積所、デオナール。ゴミ山の面積は1.32㎢、高さは36mにも達するという(p.22)。
 8年におよぶ取材と交流をもとに、ゴミ山で生活の糧を得て暮らす「くず拾い」の人びとの生活を、10代の少女ファルザーナー・アリ・シェイクとその家族を中心に活写する。並行して、遅々として進まない行政の対応についても描く。
 
【目次】
ファルザーナー
最初の住民
子どもたち
管理不能
ギャング
不運
火災
裁判
立入禁止
シャイターン
十八歳
闇ビジネス
理想
惨事
ナディーム
約束
カネ
選挙
〔ほか〕
 
【著者】
ロイ,ソーミャ (Roy, Saumya)
 ムンバイを拠点とするジャーナリストで活動家。2010年、ムンバイの最も貧しい零細企業家の生活を支援するヴァンダナ財団を共同設立し、デオナールに依存するコミュニティに出会う。『フォーブス・インディア』『ウォール・ストリート・ジャーナル』『ブルームバーグ』などに寄稿。アジア最大のスラム街に関するエッセイ集Dharavi: The Cities Within(harperCollins, 2013)にも原稿を寄せている。
 
山田 美明 (ヤマダ ヨシアキ)
 英語・フランス語翻訳家。
 
【抜書】
●愛(p242)
 〔手術を続けるため、ジャハーンギールは自分の貯金にも手をつけた。自分のごみビジネス、自分の縄張りでの稼ぎ、ジャーヴェード・クレーシーの仕事などで数年にわたり少しずつ貯めたお金である。それでもお金が足りなくなると、路地での成功の証でもあるモーターバイクを売った。あっという間に生活は苦しくなったが、ファルザーナーのことしか考えられなかった。これは、私がごみ山の周囲の路地を歩くようになって以来、何度も目にしてきた光景である。ごみ山の麓では、ごみが提供する気まぐれな幸運以外に頼るものが何もないなか、愛だけは強烈な輝きを放っていた。くず拾いたちの不安定な生活のなかでも、愛だけはほぼ不変だった。〕
 ジャハーンギール……ファルザーナーの長兄。
 
(2023/11/13)NM
 
〈この本の詳細〉


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