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索引 ~の歴史 書物史を変えた大発明
 [ 読書・出版・書店]

索引 ~の歴史 書物史を変えた大発明
 
デニス・ダンカン/著 小野木明恵/訳
出版社名:光文社
出版年月:2023年8月
ISBNコード:978-4-334-10031-5
税込価格:3,520円
頁数・縦:429p・22㎝
 
 索引についての歴史と薀蓄を語る。
 よくぞこれだけ、索引に関するネタを集められたものだ。博覧強記に脱帽。
 そもそも日本の書籍には索引がついていないものが多い。もともと、索引を作る習慣がないのだろう。
 翻って、翻訳書を読みあさり始めたころ、だいたい索引がついていることに驚いた。それに加えて注釈も詳細だ。西欧の本には他の著者からの引用が多いのも、索引のおかげか? 索引学の成果??
  日本にはプロの索引家がいないのかもしれない。いてもごく少数か。なにしろ、「さくいんか」で日本語変換しても、「索引か」は出てきても、「索引家」が出てこない。
 
【目次】
第1章 順序について―アルファベット順の配列
第2章 索引の誕生―説教と教育
第3章 もしそれがなければ、どうなるのだろうか?―ページ番号の奇跡
第4章 地図もしくは領土―試される索引
第5章 いまいましいトーリー党員にわたしの『歴史』の索引を作らせるな!―巻末での小競り合い
第6章 フィクションに索引をつける―ネーミングはいつだって難しかった
第7章 「すべての知識に通ずる鍵」―普遍的な索引
第8章 ルドミッラとロターリア―検索時代における本の索引
結び 読書のアーカイヴ
 
【著者】
ダンカン,デニス (Duncan, Denis)
 マンチェスター大学で英文学を学ぶ。ロンドン大学バークベック校で博士号を取得。2019年より同校の講師。専門は書物史、翻訳、とくにフランス系のアヴァンギャルド作家の研究。フーコー、ボリス・ヴィアン、アルフレッド・ジャリの翻訳もある。
 
小野木明恵 (オノキ アキエ)
 翻訳家。大阪外国語大学英語学科卒業。
 
【抜書】
●カリマコス(p43)
 詩人として有名なカリマコスは、『ピナケス』をつくった。パピルス文書120巻。アレクサンドリア図書館が所蔵するギリシア語文献の大目録。
 ただし、図書館長ではなかったらしい。
 
●末っ子(p70)
 〔結局のところ索引は、単独で登場したのではなく、一三世紀初頭を挟んで前後二、三〇年のあいだに現れた読書のためのさまざまなツールという一家のなかの末っ子なのだ。そして、それらのツールのすべてにはひとつの共通点がある。読書のプロセスを合理化し、本の使い方に新たな効率性をもたらすために作られたという点である。〕
 
●索引の位置(p149)
 15世紀と16世紀の印刷本の多くは、作品本体の前に索引が置かれていた。
 本の後ろの位置への移動が完了したのは、18世紀初頭。
 索引は一般的に、本のほかの部分とは別の折丁に印刷され、通常のアルファベット順の折記号とは異なる記号(アスタリスクなど)が付けられることも多かった。
 
●索引家協会(p163)
 〔歴史や伝記など、近ごろ主流のノンフィクションの本には、ほぼもれなく索引がついている。そしてきちんとした出版社なら、専門家が索引作りをする可能性がとても高い。アメリカ索引協会や、オランダ索引家ネットワーク、オーストラリアおよびニュージーランド索引家協会、カナダ索引協会などの業界団体のメンバーである場合が多いだろう。これらの団体のうちもっとも長い歴史をもつのが一九五七年にイギリスで創設された索引家協会である。設立後まもなく、協会にハロルド・マクミラン首相から手紙が届いた。そこには、協会の発展を祈念する言葉と、索引にかかわるお気に入りの逸話がいくつか記されていた。〕
 マクミランには出版業者の血が流れている。彼の祖父ダニエルは出版社を興した。家名を冠した同社は今でも健在。ハロルド自身も、国会議員になる前も後も、同社に勤務していた。
 
●『ラテン教父全集』(p236)
 1841~1855年、全217巻。3世紀のテルトゥリアヌスから、13世紀初頭の教皇インノケンティウス3世まで、広範囲にわたる数百名の教父たちの著作を収録。
 司祭で出版者でもあるジャック=ポール・ミーニュが、1865年に索引プロジェクトを開始(完成?)、218~221巻の4巻を加える。「50名以上が10年以上にわたり、ひとり当たり年1000フランという低報酬で作業をした」。
 索引目録は231個。作者、題名、出身国、世紀、階層、ジャンル(教訓、聖書解釈、道徳哲学、教会法)、など。
 
●1320年代(p266)
 カトリック教会の記録によれば、1320年代から索引制作に報酬が支払われている。
 
●無名の索引家(p294)
〔 博識で注意深いプロの索引家はわたしたちの前を行き、ヤマをならし地面をふみ固めて道を作り、道しるべに立つ時間の余裕のないわたしたち学徒が、求める一節――引用句やデータ、すなわち知識――へと混乱せずすみやかに到達できるようにしてくれる。一八九〇年代に秘書斡旋所ができてから二〇世紀をつうじて、女性が索引を作成する例がますます増え、今や圧倒的多数を占めている。そして、その前の何世代もの索引家と同様に、こうした女性たちはたいてい無名で、その業績への正当な評価を受けていない。少なくとも本書が、こうした知られざる読者たちの墓にたむける花輪となることを願う。〕
 
(2024/2/7)NM
 
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図書館逍遙 新版
 [ 読書・出版・書店]

新版 図書館逍遙
 
小田光雄/著
出版社名:論創社
出版年月:2023年6月
ISBNコード:978-4-8460-2286-0
税込価格:2,200円
頁数・縦:228p・19cm
 
 図書館に関する論考を集めたエッセー集。2001年発行の旧版に、単行本未収録の3編を追加した。
 
【目次】
図書館大会の風景
ある国書館長の死
悪魔とよばれた図書館長
コミックのなかの図書館
発禁本図書館
亡命者と図書館
CIE図書館
山中共古と図書館
燃える図書館
円本と図書館
古本屋、限定本、図書館
大橋図書館
江戸時代の文庫
貸本屋と図書館
図書館員と批評家
菊池寛と図書館
私立図書館の時代
永井荷風と南葵文庫
砂漠の図書館
贈与としての図書館
財閥と図書館
ネモ船長と図書室
死者のための図書館
戦争と図書館
地震と図書館
図書館長とアメリカ社会学
SFと図書館
アニメーションのなかの図書館
図書館での暗殺計画
ハードボイルドと図書館
出版社と図書館
現代風俗の場所としての図書館
図書館の出版物1
図書館の出版物2
悪魔学と図書館
黒死館と図書室
探偵小説のなかの図書室
『嘔吐』と図書館
小学校と図書室
写真のなかの文学館
不思議図書館と幻想図書館の司書
図書館で書かれた小説
古書目録と図書館
移民の町の図書館
ホラー小説と図書館
実用書と図書館
図書館員の生涯を賭けた一冊
植民地と図書館
詩人と図書館
盲学校と点字図書館
松本清張と図書館
大きな図書館から小さな図書館へ
対談・昭和二〇年代生まれの回想―『古本屋散策』刊行を記念して
 
【著者】
小田 光雄 (オダ ミツオ)
 1951年、静岡県生まれ。早稲田大学卒業。出版業に携わる。『古本屋散策』(論創社)で第29回Bunkamuraドゥマゴ文学賞受賞。
 
【抜書】
●地獄棚(p14)
 澁澤龍彦「『地獄』棚の魅力」(『澁澤龍彦集成』第Ⅶ巻、桃源社)収録のエッセー。
 パリ国立図書館には公開禁止のエロティックな文学の並んでいる棚を「地獄」棚と称している。欧米の図書館には、「地獄」棚に類する書物がかなり所蔵されていて、それぞれ「アルカナ」(秘密の棚)、「デルタ」、「地獄の穴」、「宝物庫」と呼ばれているという。
 
●集古会(p24)
 「組織的研究を目的とする学会では無くして趣味を生命とする好事家の寄合」。明治29年に会誌『集古』を創刊、約50年、189冊が発行された。山中共古の主たる寄稿雑誌であった。
 山中共古……1850年生まれ。旧幕臣でメソジスト教会の牧師であり、牧師を引退してから青山学院の図書館に勤務し、図書館長として晩年を終えた。柳田國男によって日本民俗学の祖と仰がれ、柳田國男の初期の著作『石神問答』は山中共古との共著といってもいい。
 
●大惣(p47)
 尾張名古屋で明和4年創業、約150年間、明治32年廃業。
 全国一の貸本屋。名古屋府下の武士階級はもとより、町人の文庫として一般庶民にまで親しまれた。
 文化文政期の江戸の文人たちも出入りした。滝沢馬琴や十返舎一九もしばしば大惣を訪ねた。
 坪内逍遥も、少年時代に「恰も図書館代わりに」利用し、弁当持ちで通い、その蔵書をすべて読んでしまった。日本近代文学の揺籃の地?
 「ニ三代前から貸本を始め、家の掟として買ふことはあるも、決して売らぬ」ことによって、2万部以上に及んだ蔵書は、廃業後、その大部分は国会図書館、東大、京大図書館に納められた。
 
●上質な図書館員の知識(p49)
〔 図書館員、あるいは図書館司書であった経歴を持つ作家や批評家がいる。管理職としての図書館長ではなく、実際に現場の図書館員であったという体験は、彼らの小説や批評にどのように反映されているのだろうか。
 ひとつ例をあげれば、国会図書館員だった阿刀田高は、新書版のコラムニストとして出発した。その広範な雑学コラムはジャーナリズムにも、アカデミズムにもない上質な図書館員の知識の香りがあった。その後短編作家に転身し、ゲーテ文献収集家で粉川ゲーテ文庫の館長であった粉川忠をモデルにした『夜の旅人』(文春文庫)を書いた。元図書館員が収集家の私立図書館長を描いたことになる。〕
 
●私立図書館1,385館(p57)
 坪内善四郎『大橋図書館四十年史』によると、昭和13年、全国に私立図書館が1,385館あった。昭和17年頃には、官立、公立、私立を合わせて4千館の図書館があった(p41)。
 最大の成田図書館(明治34年創立、千葉市)には、11万冊を超える蔵書。
 南葵文庫は、紀州徳川家の蔵書を麻布飯倉の徳川頼倫の私邸に移して、明治35年に開庫、明治40年に新館を建設して一般への公開を開始。蔵書数は13万冊を超えていた。大正末期に東大図書館に蔵書を移贈し、その活動を閉じた。
 徳川頼倫……明治5年生まれ。紀州徳川家を継ぎ、学習院を卒業後、ケンブリッジ大学に留学、欧米の手図書館をつぶさに視察して帰国。明治41年に日本図書館協会初代総裁に就任、図書館事業に多大の貢献をなす。
 
●カーネギー(p68)
 鉄鋼王カーネギーは、米国全土に2,800余、米国以外の英語圏に300、図書館の建物と図書を寄贈した。特にピッツバーグはカーネギーの事業の発祥の地。
 1875年に、米国に公共図書館は188しかなかった。
 
●レーベンスボルン(p100)
 ドイツ語の「レーベン=生命」と、中世語の「ボルン=泉」の合成語。
 1931年、ナチスは純粋なアーリア系ドイツ人のために、ユダヤ人種族との混血から国民を守るというスローガンのもとに、「種族、植民総局(RuSHA)」を創設した。種族の健康、選別という手段による種族の改良、純血な人間のための結婚コントロール、国家施設内での子供の養育を目的としたレーベンスボルンを設置、を行った。
 レーベンスボルンは、ドイツだけでなく、ヨーロッパ各地に設置された。未婚の母たちが収容され、多くの子供たちが誕生し、育てられた。また、ヨーロッパ各地から何十万人もの子供たちが誘拐され、レーベンスボルンに収容された。
 〔人種改造の名のもとに、国を、親を、過去を失った子供たちは、戦後になってもヨーロッパをさまよっている。〕
 
●東京堂(p149)
 明治初年の出版業界は、江戸時代から続く書林組合によって形成されていた。
 書林組合仲間は、出版、仲間の出版の取次、小売り、古書の取り扱いも行っていた。出版、取次、新刊小売、古書売買の四つを兼ねていた。著者もまた兼業であり、著者、出版社、取次、書店、古本屋は分業化していなかった。
 明治20年代になって、博文館が取次の東京堂を設立。出版社・取次・書店という、近代出版流通システムを誕生させた。
 明治30年代になると、通称上野図書館が帝国図書館として開館、府立図書館として日比谷図書館が設立される。一方、南葵文庫、大橋図書館が開館し、私立図書館の時代を迎える。
 
(2024/1/8)NM
 
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校閲至極
 [ 読書・出版・書店]

校閲至極   
毎日新聞校閲センター/著
出版社名:毎日新聞出版
出版年月:2023年8月
ISBNコード:978-4-620-32787-7
税込価格:1,760円
頁数・縦:253p・19cm
 
 新聞校閲の現場で直面した問題を、校閲記者が解き明かしたエッセー集。『サンデー毎日』連載コラム「校閲至極」(2018年6月10日発行号より)を書籍化した。
 校閲とは、文字の間違いや言葉遣いを正すだけではなく、事実確認も重要な仕事の一つ。映画「男はつらいよ」シリーズの内容までチェックしなければならない! 新潟の駅で寅さんに行き先を聞かれ、「東京」と答えたのは男の子だったのか、女の子だったのか?(p.235)
 
【目次】
第1章 校閲って何?
第2章 同音の語があふれている
第3章 カタカナ語の落とし穴
第4章 「いかにもありそう」が命取り
第5章 問題は言い回しにあり!?
第6章 辞書の中の奥深い世界
第7章 ところ変われば…
第8章 名前は唯一無二のもの
第9章 確認は文字だけ?いえ無限です
 
【著者】
毎日新聞校閲センター
 2023年現在、東京本社に東京グループ、大阪本社に大阪グループと分かれ、新聞校閲作業を分担している。校閲部→編集総センター校閲グループ→校閲センターと名称変更を経たが、その間、紙面やウェブサイト「毎日ことば」(現・毎日ことばplus)、雑誌など多様な媒体で情報を発信。ツイッターのフォロワーは11万を超える(2023年7月現在)。著書に『新聞に見る日本語の大疑問』(東京書籍)、『読めば読むほど』(同)、『校閲記者の目 あらゆるミスを見逃さないプロの技術』(毎日新聞出版)。2023年に始めたオンライン講座「校閲力講座」も好評。
 
【抜書】
●品川駅(p110、新野信)
 「鉄道の日」は10月14日。鉄道の開業日1872年(明治5年)9月12日が新暦の10月14日にあたることから。
 しかし、先に工事が完了していた品川と横浜の間で仮開業して運行を始めたのは1872年5月7日(新暦では6月12日)。
 鉄道が開通した当時、新橋駅は現在の汐留シオサイトあたりにあった。横浜駅は、現在は桜木町駅と名前を変えている。
 品川駅は、当時とほぼ変わらない場所にあり、名前も変わっていない。つまり、品川駅は日本最古の駅と言える。
 品川駅の所在地は、品川区ではなく港区。駅名の由来は東海道の宿場「品川宿」だが、駅の所在地は品川宿より北になる。当初は品川宿に駅を設けることも考えられていたが、駅ができると宿場が廃れるとの反対意見が強く、いまは港区である高輪になった。鉄道開設の計画時には、高輪は「品川県」だった。
 所在地が駅名と異なる自治体になっている駅……目黒駅(品川区)、南新宿駅(渋谷区)、下板橋駅(豊島区)、厚木駅(神奈川県海老名市)、四条畷駅(大阪府大東市)。JR新宿駅は、所在地は新宿だが、駅構内は新宿区と渋谷区にまたがっている。南口側にあるバスタ新宿や新宿高島屋の所在地は渋谷区千駄ヶ谷。
 
●障害(p140、水上由布)
 障がい者、障碍者、障害者などと書かれるが、本来は「障碍」。常用漢字外なので書き替えられた。
 「障害」の真の意味は、動かない足や見えない目ではなく、車椅子では移動できない建物や、見えない目では危険なホームのほう。「障害者」とは、「身の回りに障害の多い人」なのである。
 
●字解き(p215、平山泉)
 類似した文字の違いを言葉で説明すること。
 熊「動物のクマ」、萌「くさかんむりに明るい」、竹「バンブーのたけ」、など。
 
(2023/12/14)NM
 
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調べる技術 国会図書館秘伝のレファレンス・チップス
 [ 読書・出版・書店]

調べる技術 国会図書館秘伝のレファレンス・チップス
 
小林昌樹/著
出版社名:皓星社
出版年月:2022年12月
ISBNコード:978-4-7744-0776-0
税込価格:2,200円
頁数・縦:183p・21cm
 
 今は亡き国立国会図書館主題情報部。元NDL職員が、秘伝のレファレンス術を披露する。
 
【目次】
「ググる」ことで、我々がやっていること―世界総索引でアタリをつける
答えを出す手間ヒマを事前に予測する―日本語ドキュバースの三区分
現に今、使えるネット情報源の置き場―NDL人文リンク集
ネット上で確からしい人物情報を拾うワザ―人物調査は三類型で
見たことも、聞いたこともない本を見つけるワザ
明治期からの新聞記事を「合理的に」ざっと調べる方法
その調べ物に最適の雑誌記事索引を選ぶには
索引などの見出し語排列で落とし穴を避ける
Googleブックスの本当の使い方
NDL次世代デジタルライブラリーは「使える」―その注意点とともに
「として法」―目的外利用こそ玄人への道
答えから引く法
パスファインダー(調べ方案内)の見つけ方
レファ協DBの読み方―レファレンス記録を自分に役立つよう読み替える
 
【著者】
小林 昌樹 (コバヤシ マサキ)
 1967年東京生まれ。1992年慶應義塾大学文学部卒業。同年国立国会図書館入館。2005年からレファレンス業務に従事。2021年退官し慶應義塾大学でレファレンスサービス論を講じる傍ら、近代出版研究所を設立して同所長。2022年同研究所から年刊研究誌『近代出版研究』を創刊。専門は図書館史、近代出版史、読書史。
 
【抜書】
●主題情報部(p32)
 2011年、国立国会図書館(NDL)の国民向けレファレンス部局(最後は「主題情報部」)が廃止された。
 
●次デジ(p127)
 ツギデジ。NDL次世代デジタルライブラリー。2019年から部分公開。
 NDLデジタル・コレクション(デジコレ)全文検索とは異なるOCRシステムを使用。明治期から戦争直後までの本を収録。全文検索できる。
 『日本国語大辞典』の用例がほとんど全部、繰り上がるかもしれない。
 
●として法(p138)
 または、「として使う法」。
 レファ本(レファレンスブック)を、本来の開発意図と違うかたちで使う活用法。
 たとえば、『延喜式』の注釈本つまり古代の六法全書注釈を古代百科事典として引く、など。
 
●パスファインダー(p149)
 2011年に廃止されたNDL主題情報部の「遺産」として、パスファインダーが公開されている。
 米国の図書館では、1960年代末から紙で作られていた。
 日本の図書館では20年位前から流行り始め、現在では大きな図書館は結構作って時間HPで公開している。
 
【ツッコミ処】
・ジャパンナレッジ(p168)
 大明堂に関するレファレンス回答文に載っている、「その他調査済み資料」に関する説明。「レファレンス協同データベース(レファ協)」の一例。
〔 また、いわゆる「人物文献」の索引類は一通り引きましたよ、ということが書かれているように読める。有名な『日本人物文献目録』(平凡社、1993、これはジャパンナレッジでも引ける)をはじめ、人物文献索引なのか、人名事典の改題書誌なのかイマイチ性格付けがはっきりしない「日本人名情報索引(人文分野)データベース」も検索されている。〕
 
(2023/12/9)NM
 
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モンテレッジォ小さな村の旅する本屋の物語
 [ 読書・出版・書店]

モンテレッジォ 小さな村の旅する本屋の物語 (文春文庫 う 30-3)
 
内田洋子/著
出版社名:文藝春秋(文春文庫 う30-3)
出版年月:2021年11月
ISBNコード:978-4-16-791787-6
税込価格:935円
頁数・縦:330p・16㎝
 
 「本の行商」という、現在の日本では全くなじみのない商売に従事した「村」が、イタリア北部の山の中に存在した(する)。そんなモンテレッジォとイタリアの本屋、出版にまつわるエッセー。
 イタリアの山奥の村の伝統と、家族経営の奥深さに触れることができる。
 
【目次】
1 それはヴェネツィアの古書店から始まった
2 海の神、山の神
3 ここはいったいどこなのだ
4 石の声
5 貧しさのおかげ
6 行け、我が想いへ
7 中世は輝いていたのか!
8 ゆっくり急げ
9 夏のない年
10 ナポレオンと文化の密売人
11 新世界に旧世界を伝えて
12 ヴェネチアの行商人たち
13 五人組が時代を開く
14 町と本と露天商賞と
15 ページに挟まれた物語
16 窓の向こうに
 
【著者】
内田 洋子 (ウチダ ヨウコ)
 1959年兵庫県神戸市生まれ。東京外国語大学イタリア語学科卒。通信社ウーノアソシエイツ代表。欧州と日本間でマスメディアに向けて情報を配信。2011年、『ジーノの家 イタリア10景』で日本エッセイスト・クラブ賞、講談社エッセイ賞を同時受賞。2019年、ウンベルト・アニェッリ記念ジャーナリスト賞、2020年、イタリア版の本屋大賞・第68回露天商賞受賞式にて、外国人として初めて“金の籠賞(GERLA D'ORO)”を受賞。
 
【抜書】
●マラスピーナ家(p132)
 中世、10世紀以来、モンテレッジォおよび周辺の山や村を支配した領主。出自はフランク族。
 13世紀になると、「花咲くイバラ」「枯れたイバラ」の二つの閥に分かれた。モンテレッジォは、直系「花咲くイバラ」閥に統治された。
 分家「枯れたイバラ」閥の本城を置いたのは、ムラッツォ村。そこでダンテをもてなした。「ダンテの家」がある。
 
●イタリア語(p143)
 神聖ローマ帝国の皇帝フリードリヒ2世は、シチリア王国に家来たちを集め、机上で「イタリア語」を創ろうと試みた。「教皇は、キリスト教布教のためにラテン語を持つ。ならば、自分も皇帝としての考えを広めるために、独自の言語を持とうではないか。その言語による文学と教養も必要だ。」
 自分の創った言語で、ばらばらの領土を統一しようと試みたのである。
 フリードリヒ2世は詩の形式まで創った。13世紀初めに生まれたソネット。トルバドゥールの詩を参考にして、家来たちは必死で詩作練習を重ねた。
 
●フィヴィッツァーノ村(p161)
 モンテレッジォから見て、フィレンツェ寄りの山奥にある。八十余ある分村を合わせると人口は8,000人ほど。
 ヤコポは、1471年に村からヴェネツィアに移住、本づくりを習得した。
 村に帰ると印刷・出版業を始めた。鋳造活字から印刷機まで、オリジナルを開発。イタリア製の活版印刷機の第一号?
 1年で閉業。しかし、ヴェネツィアに戻ってしばらく働いた後、1477年に再び村で印刷・出版業を開始。しかし、低迷。廃業した翌年を最後に、彼の足跡はぱたりと途絶えている。
 
●ニコラウス5世(p186)
 アペニン山脈からリグリア海への一帯の出身の教皇。大理石の採石地カルラーラと隣接するサルザーナという町の生まれ。1447年、教皇に登位。
 ローマ復興計画のため、故郷から莫大な量の大理石を運んだ。在位8年だったため、工事は完成せずに中断。
 1448年には、パチカン図書館を創設。代々の教皇から引き継がれたラテン語や古代ギリシャ語、ヘブライ語の古写本350点で開館。蔵書を増やすため、ヨーロッパ中の富裕者や教会、知識人たちから希少な本を買い集める。
 
●ポントレモリ(p250)
 モンテレッジォの行商仲間5人が、1908年、ピアチェンツァで会社を設立。ポントレモリの本屋の出版社。
 ベルト―二家、二つのタラントラ家、ゲルフィ家、リンフレスキ家。
 仕入れ、配本、在庫管理。取次業務。委託販売の始まり。
 
●生き方のいろは(p253)
 タラントラ家の人の言葉。
 「本屋をしていると、知らず知らずのうちにたくさんのことを覚えます。知識だけではありません。信用を得るということ。誰にでも礼儀正しく親切であること。本を売ることは、生き方のいろはです。」
 
【ツッコミ処】
・人口32人(p172)
〔 現在(二〇一八年時)モンテレッジォの人口は三十二人である。男性十四人、女性十八人。そのうちの四人が九十歳代だ。就学児童も六人いるものの、村に幼稚園や小・中学校はない。
 食料品や日用雑貨を扱う店もない。薬局や診療所もない。銀行もない。郵便局は、三十年ほど前に閉鎖されてしまった。鉄道は通っていない。山の上まで行くバスもない。
 村は老いて、枯れている。〕
  ↓
 しかし、バールはある!
 
(2023/9/25)NM
 
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編集者の読書論 面白い本の見つけ方、教えます
 [ 読書・出版・書店]

編集者の読書論~面白い本の見つけ方、教えます (光文社新書)
 
駒井稔/著
出版社名:光文社(光文社新書 1256)
出版年月:2023年5月
ISBNコード:978-4-334-04663-7
税込価格:1,034円
頁数・縦:339p・18cm
 
 「読書論」というより、編集者による「読書案内」。海外の名物編集者の自伝や読書論が多く乗っているのが特徴であり、本書の表題の由来とも言える。
 しかしながら全体を通して「光文社古典新訳文庫」の宣伝となっている点が、本書を特徴づける最大の要素であろう。
 
【目次】
1 世界の“編集者の”読書論
2 世界の魅力的な読書論
3 世界の書店と図書館を巡る旅
4 「短編小説」から始める世界の古典文学
5 自伝文学の読書論
6 児童文学のすすめ
 
【著者】
駒井 稔 (コマイ ミノル)
 1956年神奈川県横浜市生まれ。慶應義塾大学文学部卒。’79年光文社入社。広告部勤務を経て、’81年『週刊宝石』創刊に参加。ニュースから連載物まで、さまざまなジャンルの記事を担当する。’97年に翻訳編集部に異動。2004年に編集長。2年の準備期間を経て、’06年9月に光文社古典新訳文庫を創刊。10年にわたり編集長を務めた。現在、ひとり出版社「合同会社駒井組」代表。
 
【抜書】
●アンドレ・シフリン(p128)
 「 出版の仕事に起こった変化は、その他のリベラルな職業にもみられる変化とさして変わるものではない。しかし出版の変化には、それらとは比較にならない決定的な意味がある。問題を徹底して論じ、考察する手段は、書籍にしか求めることができないのだ。従来、書籍というものは、著者と編集者という二人の人間が主張すべき大切な意見があることに合意し、比較的少ない資金でそれを大衆に伝え広める手段だったのである。書籍はほかのメディアとは、はっきり異なる性格を持つ。」
 アンドレ・シフリン『理想なき出版』(2000年。日本語訳は2002年)の最後に書かれた文章。
 米国。1962年、ランダムハウスに吸収合併された後のパンセオン・ブックスに就職。1990年、パンセオンを集団退職、「ニュープレス」を立ち上げる。
 
●ヘイ・オン・ワイ(p205)
 ウェールズの田舎町。
 リチャード・ブース(1938年生まれ)という人物が、「本の王国」として1977年4月1日に独立宣言を行った。
 消防署だった建物を買い取り、1662年に古書店を開いた。古書の保管場所確保のためにお城も買う。さらに食糧倉庫を購入し、2店目を開く。やがて映画館だった建物も買い取り、シネマ書店とする。
 観光名所とするために、「古書の町」計画を立て、ウェールズ観光局長の応援を取り付けた。サンデーミラーの記者の取材に応じ、突然、ヘイのイギリスからの独立を発表する。
 リチャードは、世界で最も多くの本を持つ「リチャード書籍王」となる。
 『本の国の王様』より。
 兼高かおるの取材を受けたこともある。リチャードから公爵の称号を授与された。1979年には、兼高の番組に招待されて来日、古書街神保町を歩き、丸善にも足を運んだ。
 
●千部振舞(p332)
 せんぶふるまい。ベストセラーのこと。
 江戸時代には、発行部数が千部になると、書店主と従業員がうち揃って氏神様にお詣りに行った。そしてお祝いの宴を開いた。
 武田勝彦『アメリカのベストセラー』より。
 ちなみに「ベストセラー」という言葉が生まれたのは1903年。1895年2月に「ブックマン(The Bookman)」が創刊された時、「求められている本(Books in Demand)』というリストを載せることにした。その後、1903年に表題が「6冊のベストセラー」と改題された。「タイム」誌、「ニューヨーク・タイムズ」紙などの今週のベストセラーの原形。
 
【ツッコミ処】
・古典新訳文庫(p174)
〔 別に古典新訳文庫の宣伝をしたいわけではありませんが、ヘッセの主張は古典を読むことに向かいます。〕
  ↓
 いやいや、本書は間違いなく全編「光文社古典新訳文庫」の宣伝です!
 
(2023/7/25)NM
 
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再読だけが創造的な読書術である
 [ 読書・出版・書店]

再読だけが創造的な読書術である
 
永田希/著
出版社名:筑摩書房
出版年月:2023年3月
ISBNコード:978-4-480-81682-5
税込価格:1,980円
頁数・縦:222p・19cm
 
 再読に関しては、うすうすその価値に気づいていたが、本書は改めてその効用を理論構築してくれる。
 
【目次】
第1章 再読で「自分の時間」を生きる
 「自分の時間」が買いたたかれている
 あなたにとって「良い本との出会い」とは何か
  ほか
第2章 本を読むことは困難である
 読書スランプに陥るとき
 読書のためらい
  ほか
第3章 ネットワークとテラフォーミング
 バーンアウトする現代人
 ネットワークとしての人間・言葉・書物
  ほか
第4章 再読だけが創造的な読書術である
 読書の創造性と不可能性
 古典を再読する
  ほか
第5章 創造的になることは孤独になることである
 「読むこと」と「読み直すこと」には違いがない
 魔法としての文学
  ほか
 
【著者】
永田 希 (ナガタ ノゾミ)
 著述家、書評家。1979年、アメリカ合衆国コネチカット州生まれ。書評サイト「Book News」主宰。
 
【抜書】
●他人の頭で考える(p22)
 ショウペンハウアー『読書について』。
 読書とは、「他人が書いたものを読むことで、自分の頭で考える代わりに他人の頭で考えること」だと説いた。
 
●誤読、読み捨て(p32)
〔 読んでいる最中の本に何が書かれているのかわからないとき、ふとそこで立ち止まってよくよく吟味するのも大事なのですが、わからない部分を読み飛ばし、誤読したままでも仕方がないと割り切ることも重要です。何かの機会にまたその本を手にとるとき、その誤読を本の側が気づかせてくれるかもしれません。読者がその内容を忘れてしまっても消え去りはしないという書物の特性(物質性)が、読者に誤読や読み飛ばしを許しているからです。その寛容さに甘えて初めて、一冊一冊を少なくとも部分的には誤読しながら、内容を忘れながら、多読することが可能となるのです。
 一冊一冊を大切に読まない態度は「読み捨て」と呼べるでしょう。しかし「読み捨て」が必ずしも悪である、というわけではありません。先述のとおり、良い本に出会うためには「読み捨て」を大量におこなうのが効率的です。ただひたすら「読み捨て」を続けていくのも悪くはないかもしれません。
 読み捨てられた側の本は、こう書くとどこか残酷に思われてしまうかもしれませんが、再び読まれることをじっと、何も言わずに待ち続けているのです。たくさんの他の本を読んでからまたその本に戻ってきた読者を、その本は、そこに書かれている以上のことは何も言わず、再び迎えてくれます。そのとき、うまくすれば読者は自分が忘れていた内容に再び出会い、誤読や勘違いをただされ、そして新しい読書をすることができます。こうして読書は深められていくのです。〕
 
●読書スランプ(p45)
 読書とは、いったん抽象化されてつくられた「言葉」を現実の体験のように解きほぐしていく行為。
 読書スランプとは、「言葉の解きほぐし」という行為がやすやすとこなせないとき。
 〔目を落とした紙の上に、または電子デバイスの上に表示されているものが見えているのに頭に入ってこない状態。目に見えているのであれば、その視覚情報は視覚神経を通して脳に届いてはいるので、文字通りには「頭に入っている」のに、その文字や言葉をかみ砕くことができない状態。〕
 
●読書好き(p72)
〔 ここに書いてあることがわかるのは自分だけだという実感はとても気持ちのいいものですが、客観的には単に「そうではない」ことが多いので程々にしておくのがいいでしょう。仮に本当に自分しか「わかる」ひとがいなかったとしても、それを証明するのはかなり難しいことになります。
 それはさておき、読者に「自分しかわからない」と思わせるような絶妙な理解困難さというものがあるのです。困難には、パズルのように知的に作り出すことができるものだったり、ウェブサイトのリンクや辞書の項目の参照先のように枝分かれが多すぎて追いきれなかったり、プラトンにとっての「魂」のように信じるか信じないかの問題になったりといったいくつかの種類があります。
 こうした複雑な困難を楽しめるようになったら、立派な面倒臭い読書好きの出来上がりです。もちろん読書好きが全員この種の厄介なタイプではないのでご安心ください。繰り返しますが、わからない記述に出会ったときに、その本を閉じて放り出すのは誰にでも許された自由なのですから。〕
 
●急がば回れ(p128)
 新しいジャンルに挑戦するときこそ、これまで読んだ本を再読する。「急がば回れ」を採用し、迷宮の輪郭を眺めてみる。
 これまで読んできたものの中でそれらしきことが書かれていたものが何だったのかを棚卸する。
 
●ルネッサンス(p142)
 〔東方と南方からイスラム勢力の圧迫を受けつつ、自分たちヨーロッパ(キリスト教)の勢力は足並みが揃わず互いに争っているという情勢下で、キリスト教よりも古く、かつ東方に拮抗していた時代の哲学を「再読」しようとしたのがルネッサンスだったのです。〕
 ルネッサンス期のイタリアは、半島を統一する国家が存在しなかった。さながら戦国時代。カトリック教会の中心バチカンがあったにもかかわらず。
 
●古典とベストセラー(p158)
 古典の再読は、「知っている言葉」の棚卸と再構成。
 ベストセラーから始まる再読は、「読んだことのある本」のネットワークをその都度ごとに再構築すること。
 
(2023/5/29)NM
 
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書籍修繕という仕事 刻まれた記憶、思い出、物語の守り手として生きる
 [ 読書・出版・書店]

書籍修繕という仕事: 刻まれた記憶、思い出、物語の守り手として生きる
 
ジェヨン/著 牧野美加/訳
出版社名:原書房
出版年月:2022年12月
ISBNコード:978-4-562-07243-9
税込価格:2,200円
頁数・縦:232p、図版48p・20cm
 
 韓国人書籍修繕家によるエッセー。本に対する愛情、仕事に対する自負にあふれている。2018年2月に工房を開いてから、本書執擱筆までの間に149冊の本や紙類を修繕してきたという。
 
【目次】
生き残る本『’89施行 改正ハングル正書法収録国語大辞典(上下)』
落書きという記憶装置『ガラスのくつ』
「修繕」と「復元」の違い『Great Short Stories of Detection, Mystery and Horror』
代々受け継がれる本、その思いを込めて『韓英聖教全書 改訳ハングル版』
亡きあとに残された本『カット図案集』
テーラーになった気持ちで『Breadfast at Tiffany’s』
時間の痕跡を観察する仕事『FOYERS ET COULISSES - OPÉRA Vol.1-3』
バターと小麦粉の跡が増えていきますように『Recipes from Scotland』
あなたの破れた一センチはどこですか?『Lego Hidden Side Issue 2』
ここはもうすぐサンシュユの花咲く季節です おばあちゃんの日記帳
〔ほか〕
 
【著者】
ジェヨン (ジェヨン)
 傷んだ本を修繕する「ジェヨン書籍修繕」作業室代表。書籍修繕家、ブックアート専門家。韓国の美術大学で純粋美術とグラフィックデザインを学ぶ。2014年、アメリカの大学院に進学しブックアートと製紙を専攻する。指導教授の勧めで、大学図書館付属の「書籍保存研究室」で働きながら書籍修繕のノウハウを一から学ぶ。3年半で1800冊の蔵書の修繕を担当した。帰国後、ソウル市内に「ジェヨン書籍修繕」を2018年2月にオープン。書籍修繕家として本だけでなく紙類(しおり、フォトスタンド、ポスター、LPジャケットなど)全般の修繕に携わっている。
 
牧野 美加 (マキノ ミカ)
 韓国語翻訳家。
 
【抜書】
●かばん(p22)
〔 今あの本を読まないといけないのだけど、読みたいのだけど、どうにも手に取るのがためらわれるほどきれいな新しい本。実際に読みはじめるまで、新しい本と私の関係はいつも少々ぎこちない。いい物を買ったのに、傷をつけていまいそうで使うに使えずただ眺めているばかり、というときの感じに似ている。だから一時は、読みたい本があれば中古で買う、という時期もあった。
 そんなわけで、本を買うと最初の何日かは、読まなくてもかばんに入れて持ち歩くことにしている。かばんの中であっちに転がりこっちに転がりしているうちに表紙が少しずつ汚れ、角が擦れてきたら、そのときこそ、気楽に読める私にとってのベストタイミングだ。こういうプレッシャーは、「読みたい本」ではなく「読まなければならない本」であるほど強くなる。そういうときはいっそう気合を入れて「親しくなろう」と努力する。
 下線をがんがん引き、落書きもたくさんして、菓子の油のついた指でページをめくる。するとある瞬間からそういう落書きや目を通して本と対話するようになり、急ぐときは鍋敷きにもしながら親しみを覚えていく。どうやらわたしは、自分の痕跡をたくさん残すほどその本と親しくなれると考えるタイプらしい。〕
 
●『The Manchester United Opus』(p144)
 1878年に鉄道員の組織からスタートした「マンチェスター・ユナイテッド」128年の歴史を1冊にまとめた豪華本。2006年刊行。
 縦横60cm、厚さ14cm、重さ37㎏。厚さ8mmの木製のケース付き。
 850ページ、6色カラー印刷、人の手による製本、革の表紙、シルクコーティングされた200gの本文用紙。光沢コーティングが個別に施された2000枚以上の写真。
 9,500部限定、5,870ドル。刊行当時の監督アレックス・ファーガソンと、ボビー・チャールトンの直筆サイン入り。9,500冊すべてにサインするのに2、3カ月かかった。
 
●チョコレートクリームパイ(p162)
〔 わたしの大好きな映画「ジュリー&ジュリア」にこういう台詞が登場する。ついてない一日を過ごして帰宅した主人公ジュリーがチョコレートクリームパイを作りながら、いかにひどい一日だったかを夫の愚痴りつつ自分がなぜ料理が好きなのかを語るシーンだ。「何もうまくいかない日ってあるでしょ? 虚しい日が。そんな日でも家に帰って、チョコと砂糖とミルクと卵の黄身を混ぜると、確実にクリームになってホッとするの」という台詞だ。わたしもその気持ちが手に取るようにわかる。
 紙のしわを伸ばしたり、外れたページをくっつけたり、本を解体したりするのはとても慣れた作業なので、わたしにとっては一番手っ取り早く確実に満足感を得られる方法だ。緊張感の高い作業をしていて不安が大きくなると作る、わたしのチョコレートクリームパイだ。これを読んでいるみなさんの中にも、もし仕事中にふと言いようのない不安に襲われてつらいという人がいるなら、自分にとってのチョコレートクリームパイを見つけられますように。一番手っ取り早くて確実な慰めを得られますように。〕
 
(2023/2/12)NM
 
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文にあたる
 [ 読書・出版・書店]

文にあたる
 
牟田都子/著
出版社名:亜紀書房
出版年月:2022年8月
ISBNコード:978-4-7505-1754-4
税込価格:1,760円
頁数・縦:255p・19cm
 
 プロの校閲者による、校正・校閲に関するエッセー。
 校閲者になったいきさつや、心構え、仕事の内容から、校閲の具体例など、幅広いテーマを平易な文書で綴る。
 
【目次】
1 赤鉛筆ではなく鉛筆で
 そんなことはない
 サバをめぐる冒険
 文章の強靱さ
  ほか
2 常に失敗している仕事
 上手い人を見る
 失敗のあとに
 かんなをかけすぎてはいけない
  ほか
3 探し続ける日々
 辞書の買い方がわからなかった
 タフでなければ
 疑う力
  ほか
 
【著者】
牟田 都子 (ムタ サトコ)
 1977年、東京都生まれ。図書館員を経て出版社の校閲部に勤務。2018年より個人で書籍・雑誌の校正を行う。
 
【抜書】
●新人(p128)
〔 この仕事のいいところは二年目の新人も三十七年目のベテランも関係ないところです。新人だろうがベテランだろうが落とすときには落とすかわり、拾えるかどうかも案外経験の長さとは関係ないように思います。ベテランの落としたところを新人が拾うこともあるし、新人が落としたところをベテランならかならず拾えるかといえばそうとも限らない、その意味では誰もが平等で、ひとしく必死にならざるを得ません。〕
 
●掃葉(p151)
 校正のこと。
 〔校正を「掃葉」と呼ぶのは、掃けども掃けども散りしきる落ち葉に誤植をなぞらえたのだと考えれば腑に落ちます。〕
 
●辞書アプリ(p157)
〔 スマートフォン用辞書アプリを導入したのは五年くらい前のことです。最初は仕事で必要になり購入したのですが、使ってみると思いのほか便利で、どんどん増えていきました。いちばん多いのは国語辞典で十種類ほど、漢和辞典や古語辞典、人名辞典も見つけると買ってしまいます。
 仕事で主に使うのはPCからアクセスするオンラインデータベース「ジャパンナレッジ」ですが、辞書アプリはインターネット接続なしに動作する点ですぐれています。バッテリーさえ気を付ければ、電波の届かない図書館の地下書庫でも旅先でも使える。紙の辞書と比べてオンラインデータベースやアプリには全文検索ができる、複数の辞書をいちどきにまとめて検索する「串刺し検索」が可能などの利点がありますが、アプリの携帯性の高さは図抜けていると感じます。辞書を持ち歩こうと意識することさえなく辞書を持ち歩くことがあたりまえになった。これは革命です。〕
 
●新潮社(p165)
 『村上海賊の娘』では、編集者ないし校閲部が「段ボール1箱はゆうにある史料の山」とゲラを引き合わせ、確認にあたった。
 〔『村上海賊の娘』の版元は創業者が校正者の経験を持ち、伝統的に校閲部の存在感が大きいことで有名な出版社です。〕
 ※版元=新潮社。
 
●疑う力(p199)
〔 調べることには段階があります。ゲラを読んでいて疑問が生まれ、何を使って調べるか考える。しかし「調べる」始まりはそこではなくて、まず「疑う」ことなのです。「パンダの尻尾は白い」という典拠を示すことは、これまで書いてきたようにそれほど難しくありません。でも、尻尾の黒いパンダを見たときに「パンダの尻尾の色は黒でよかった?」と思えなければ、そもそも調べることもできない。校正の技術として「調べる力」があるならば、さらに求められるのは「疑う力」であるともいえます。〕
 
(2023/1/23)NM
 
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100万回死んだねこ 覚え違いタイトル集
 [ 読書・出版・書店]

100万回死んだねこ 覚え違いタイトル集
 
福井県立図書館/編著
出版社名:講談社
出版年月:2021年10月
ISBNコード:978-4-06-525892-7
税込価格:1,320円
頁数・縦:189p・19cm
 
 読んで笑える書籍のタイトル覚え違い集。
 2007年に、レファレンス・サービスの認知と利用促進のために、「覚え違いタイトル集」としてサイトでの公開を開始。図書館のカウンターで採集した(もしくはサイトに投稿された)傑作の中から厳選した90の「覚え違い」を書籍化した。
 それぞれに司書の気の利いたコメントが楽しめる。さらに扉には、今では懐かしい「貸出カード」の付録(?)付きです。
 
【目次】
厳選!覚え違いタイトル集
 おしい!
 それはタイヘン!
 気持ちはわかるけど…
 ん?
 なんかまざってます!
  ほか
そもそもレファレンスって?司書の仕事って?
 レファレンスってどういうサービス?
 検索は「全文ひらがな」と「助詞抜き」がオススメです
 ぼんやりうろ覚えでも大丈夫!お話ししながら見つけましょう
 「ドッジボールの“ドッジ”って何?」と聞かれたら
 旅行をすれば図書館に立ち寄る、それが司書!
  ほか
 
(2023/1/21)NM
 
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