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フォン・ノイマンの哲学 人間のフリをした悪魔
 [コンピュータ・情報科学]

フォン・ノイマンの哲学 人間のフリをした悪魔 (講談社現代新書)
 
高橋昌一郎/著
出版社名:講談社(講談社現代新書 2608)
出版年月:2021年2月
ISBNコード:978-4-06-522440-3
税込価格:1,034円
頁数・縦:270p・18cm
 
 米国における「コンピュータの父」、ジョン・フォン・ノイマンの伝記。彼の足跡が分かりやすく書かれている。
 「哲学」と言われると難解に感じられが、そんな趣はなく、いろいろなエピソードを盛り込んだ、肩の凝らない読み物になっている。
 
【目次】
第1章 数学の天才
第2章 ヒルベルト学派の旗手
第3章 プリンストン高等研究所
第4章 私生活
第5章 第二次大戦と原子爆弾
第6章 コンピュータの父
第7章 フォン・ノイマン委員会
 
【著者】
高橋 昌一郎 (タカハシ ショウイチロウ)
 1959年生まれ。ミシガン大学大学院哲学研究科修了。現在は、國學院大學教授。専門は、論理学・科学哲学。
 
【抜書】
●皇居(p13)
 1945年5月10日の「標的委員会」で、米国空軍が原爆投下の目標リストとして、皇居、横浜、新潟、京都、広島、小倉を提案した。
 フォン・ノイマンは、戦後の占領統治まで見通しして、皇居への投下に反対した。もし空軍があくまで皇居への投下を主張する場合、「我々に差し戻せ」と書いたメモが残されている。一方、京都への原爆投下を強く主張した。「歴史的文化的価値が高いからこそ京都に投下すべきだ」。これに対し、ヘンリー・スチムソン陸軍長官が、「それでは戦後、ローマやアテネを破壊したのと同じ非難を世界中から浴びることになる」と強硬に反対。京都も却下された。
 すでに通常爆弾で破壊されていた横浜、情報が不足していた新潟がはずされ、最終的に広島、小倉、長崎の順に2発の原爆が投下されることになった。
 
●コンピュータの父(p188)
 ミシガン大学大学院のアーサー・バークス教授。フォン・ノイマンの下でコンピュータを開発した情報科学者。ノイマンの死後に彼の「自己増殖オートメタ理論」を展開し完成させた。
 「『コンピュータの父』といえば、もちろんアメリカではジョン・フォン・ノイマンですが、イギリスではアラン・チューリングになります。自分がどこの国で喋っているのか、くれぐれも忘れないように!」
 退官する最終年度の秋学期の講義で。
 
●コロッサス(p204)
 1943年12月、英国のブレッチリー・パークにて、世界最初の「全電子式暗号解読機」の試作品が完成した。「コロッサス(巨象)」。
 入出力は穿孔テープで、制御回路、並列処理、割り込み、ループ、クロックパルスといった、現代のコンピュータで用いられている基本構造が組み込まれていた。
 ウィンストン・チャーチルは、第二次世界大戦が終結すると、10機製造されたコロッサスのうち、2機だけを残して他をすべて解体するよう命令した。チャーチルは、「全電子式暗号解読機」の情報が他国(特にソ連)に流出することを極度に恐れていた。そのため、設計図や関連文書をはじめ、「残った部品は、それが何に使われたか分からないように徹底的に破壊せよ」と厳命した。
 
●スカート(p236)
 フォン・ノイマンには、秘書のスカートの中を覗き込む「癖」があった。そのため、机の前を段ボールで目張りする秘書もいた。
〔 彼の助手を務めたスタニスワフ・ウラムによれば、ノイマンは、スカートをはいた女性が通ると、放心したような表情でその姿を振り返って見つめるのが常であり、それは、誰の目にも明らかな彼特有の「癖」だったと述べている。
 常に頭脳を全力回転させていたノイマンの奇妙な「癖」は、彼の脳内に生じた唯一の「バグ」だったのかもしれない。〕
 
(2023/5/29)NM
 
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ロボットと人間 人とは何か
 [コンピュータ・情報科学]

ロボットと人間 人とは何か (岩波新書 新赤版 1901)
 
石黒浩/著
出版社名:岩波書店(岩波新書 新赤版 1901)
出版年月:2021年11月
ISBNコード:978-4-00-431901-6
税込価格:1,034円
頁数・縦:279p・18cm
 
 人間型ロボット研究の第一人者が、これまでの研究の成果と、将来のロボット共生社会の見通しを語る。
 
【目次】
1章 ロボット研究から学ぶ人間の本質
2章 対話ロボットとロボット社会
3章 アンドロイドの役割
4章 自律性とは何か
5章 心とは何か
6章 存在感とは何か
7章 対話とは何か
8章 体とは何か
9章 進化とは何か
10章 人間と共生するロボット
 
【著者】
石黒 浩 (イシグロ ヒロシ)
 ロボット工学者。大阪大学基礎工学研究科博士課程修了。工学博士。京都大学情報学研究科助教授、大阪大学工学研究科教授を経て、2009年より大阪大学基礎工学研究科教授(栄誉教授)。ATR石黒浩特別研究所客員所長(ATRフェロー)。遠隔操作ロボットや知能ロボットの研究開発に従事。人間酷似型ロボット(アンドロイド)研究の第一人者。2011年大阪文化賞受賞。2015年文部科学大臣表彰受賞およびシェイク・ムハンマド・ビン・ラーシド・アール・マクトゥーム知識賞受賞。2020年立石賞受賞。2021年オーフス大学名誉博士。
 
【抜書】
●リプリーQ1(p17)
 2000年頃からアンドロイドの研究開発に取り組み、2004年、世界初のアンドロイド「リプリーQ1」を開発し、2005年の愛知万博に展示。
 
●ジェミノイドHI-1(p17)
 2007年に開発した、遠隔操作アンドロイド。石黒がモデル。HIは、Hiroshi Ishiguroの頭文字。
 全身に約50本ものアクチュエータが使われており、腕を含め体のさまざまな部分が動く。(p164)
 ジェミノイド……人間と双子の遠隔操作アンドロイド。
 
●クリエイティブ(p26)
 パソコンの父と呼ばれるアラン・ケイ氏に言われた言葉。京都大学のプロジェクトで来日した際の講演にて。
 「パソコン社会の次には、ロボット社会が来ると思うのですが、あなたはどう思いますか?」という質問に対して。
 「君はクリエイティブな人間だろ。だったら未来は自分で実現するものだ。人に聞くものではない」。
 
●マルチ・モーダル(p42)
 複数のモダリティ(感覚)という意味。人間型ロボットの場合、視覚、聴覚、触覚、嗅覚、味覚など人間が持つ様々な知覚の統合という意味で用いられる。
 
●マルチモーダル・チューリングテスト(p55)
 従来のチューリングテストと異なり、多様なモダリティを通して人間らしさを表現しているロボットの人間らしさを評価するテスト。話す言葉、視線の動き、表情、ジェスチャーなど。人間型ロボット(ヒューマノイド)も対象となる。
 トータルチューリングテストは、人間と区別がつかないアンドロイドを目指すもの。
 
●目と口(p74)
 一般に、「目は自分の素直な感情を表し、口は意識して表現する感情を表す」と言われる。
 日本では、目を隠すサングラスはあまり好感を持たれないが、口を隠すマスクをすることに抵抗がない。
 欧米人は、マスクをすることに抵抗を感じる人が多いが、サングラスをすることに抵抗を感じる人は少ない。
 
●アンドロイド、ヒューマノイド(p87)
 アンドロイド……人間に酷似したロボット。
 ヒューマノイド……人間型ロボット。例えば、『スターウォーズ』のC-3PO。R2-D2は、単なるロボット。
 
●エリカ(p123)
 自律対話アンドロイド。大阪大学、京都大学、ATR(国際電気通信基礎技術研究所)に設置されている。ATRでは、1階の受付近くのロビーに常に座っており、来訪者に声をかけて対話をしている。
 科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究推進事業(ERATO)において、石黒共生ヒューマンロボットインタラクションプロジェクト(2014年7月~2021年3月)で開発された。
 自我を持つ大人に備わっていると思われる、比較的単純な意図や欲求の仕組みを採用した。
 
●内部パラメータ(p142)
 エリカは、相手との関係を五つの内部パラメータによって推定し、話題を選択する。
 自分の気分、対話相手への好感度、自己開示の度合い、わがまま度合い、相手との関係性。
 
●イブキ(p150)
 石黒共生ヒューマンロボットインタラクションプロジェクトでは、移動型子どもアンドロイド「イブキ」を2019年に開発した。
 子どもアンドロイドなので、知能も子ども並みと勘案し、大人も辛抱強く対応してくれる。
 社会養育ロボット学……最初から社会の中で受け入れられる子どもの姿形をロボットに与え、ロボットが社会の中で人と関わりながら、人や環境から知識を獲得して、成長していくという新しいロボット研究。
 
●ジェミノイドF(p164)
 ジェミノイドHI-1の後に製作された女性のアンドロイド。頭部に12本のアクチュエータを装備し、人と対話する。遠隔操作型ではない。
 平田オリザ(大阪大学コミュニケーションデザインセンター教授)が15分程度の脚本を書き、人とともにアンドロイド劇場「さよなら」を演じる。死にゆく女性を前に、最後に谷川俊太郎の詩「とおく」を読む。
 
●テレノイド(p180)
 ジェミノイドと同様の遠隔操作ロボット。性別も年齢も分からない人間としての最小限の見かけを持つ、人間のミニマルデザイン。動くのは口と手だけ。
 
●ハグビー(p184)
 テレノイドの形状をさらに単純化。人間型の抱き枕。頭の部分に携帯電話を挿入して、相手と話をする。
 ハグビーを使って相手と話をすると、相手を腕の中に抱きながら話しているように感じられ、相手の存在を強く感じる。
 以前に、ヴイストンや京都西川から開発販売。
 
●自分の体(p222)
 ジェミノイドを使って人としばらく話をすると、操作者はジェミノイドの体を自分の体のように感じ始める。5分~10分ほどジェミノイドを使って人と話をした後に、話し相手が急にジェミノイドに触ると、操作者はまるで自分の体が触られたように感じる。
 女性の操作者のほとんどが、男性の操作者の半数以上が、そうした感覚を感じた。
 
●第三の腕(p236)
 両手を使ってボードの上のボールが目的の位置に来るようにバランスをとりながら、脳波によってロボットの三本目の腕を操作する実験。第三の腕でペットボトルを受け取る。
 トレーニングをすれば、80%以上の成功率で第三の腕を制御できるようになる。
 
(2022/12/12)NM
 
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新しいアートのかたち NFTアートは何を変えるか
 [コンピュータ・情報科学]

新しいアートのかたち: NFTアートは何を変えるか (1012;1012) (平凡社新書 1012)
 
施井泰平/著
出版社名:平凡社(平凡社新書 1012)
出版年月:2022年9月
ISBNコード:978-4-582-86012-2
税込価格:1,056円
頁数・縦:267p・18cm
 
 未来のアートの形、NFTアートとは何か、アートにどんな革命をもたらすのかについて、詳しく、広汎に論じる。
 
【目次】
第1章 NFTは情報革命の「ラストパンチ」?
第2章 そもそもアートとは何か
第3章 NFTアートの「現在地」
第4章 未来をつくるインフラとしてのNFT
特別対談 アーカイブとシャンペン(坂井豊貴×施井泰平)
特別対談 文化的・社会的な価値を加える(山峰潤也×施井泰平)
特別対談 冒険者にインセンティブを(武田徹×施井泰平)
 
【著者】
施井 泰平 (シイ タイヘイ)
 1977年生まれ。現代美術家、起業家。2001年、多摩美術大学卒業後「インターネットの時代のアート」をテーマに美術制作を開始。14年、東京大学大学院在学中にスタートバーンを起業し、アート作品の信頼性担保と価値継承を支えるインフラを提供。事業の中心である「Startrail」は公共性が評価され、イーサリアム財団からグラントを受ける。東京大学生産技術研究所客員研究員、経済産業省「アートと経済社会について考える研究会」委員など歴任。
 
【抜書】
●ビープル(p12)
 Beeple。本名マイク・ウィンケルマン、米国のアーティスト。
 2021年3月12日に、NFTアートの「エブリデイズ:最初の5000日(Everydays: The First 5000 Days)」がクリスティーズのオークションにかけられ、6940万ドル(約75億円)で落札された。
 存命のアーティストとしては、ジェフ・クーンズやデービッド・ホックニーの作品に次ぐ歴代3位という落札額になった。
 
●イーサリアム(p33)
 ロシア系カナダ人のプログラマーであるヴィタリック・ブリテンが19歳の時、2013年に発表した構想をもとにつくられたブロックチェーン。「ワールド・コンピュータ」とも称される。送金機能に加えて、より複雑なプログラムも脱中心的な環境で実行・状態保存ができる世界を実現している。こうした環境で動くプログラムは、「スマート・コントラクト(契約の自動実行)」と呼ばれている。
 イーサリアムは誰もが参加できる、しかも隠し事のできない自由な広場のような場所を作り出した。人々はここに集まって独自の通貨を発行したり、ブロックチェーン上の組織を作って資金を集めたり、ほかにも様々な活動をすることができる。
 
●NFT(p34)
 Non Fungible Token。非代替性トークン。
 ブロックチェーン上に記録された売買可能な単位(トークン)だが、それぞれが代替不可能な別々の内容を持っている。
 〔NFTは、そこに紐づけられている作品などの真正性や由来(制作者やつくられた日時など)、そしてその後の流通や利用を示すための、偽造したり書き換えたりすることのできない「証明書」「公式記録」「鑑定書」のようなものとして、あるいは事前に入力した内容を自動執行できる「契約書」として大きな役割が期待されているのです。これをデータに紐づけることで、複製可能なデータに一意性を与え、真正な唯一無二のものとしての取り扱いを可能にするのが、NFTの大まかなコンセプトです。〕
 
●プライマリー、セカンダリー(p46)
 アート市場は、大きくプライマリー(一次市場)とセカンダリー(二次市場)に分かれてる。
 
●還元金(p55)
 NFTアートでは、セカンダリーで作品が売れた場合にも、作家に還元金が自動的に支払われる。
 
●オークションハウス(p64)
 サザビーズ……世界最古のオークションハウス(競売会社)と呼ばれている。1744年、古書の売買を目的として設立された。
 クリスティーズ……1766年、世界最古のアート専門のオークションハウスとして設立された。
 
●クリプト長者(p68)
 暗号資産を初期から買ったり、関連する事業で成功している人。最近のNFTアートを支えている層の中心にいる。
 
●フルオンチェーン(p86)
 作品のデータまで含めた形でNFTをつくること。
 ブロックチェーン上で一つだけしか存在しないNFTアートと呼ぶことができる。また、データが消失することも、改竄されることも起きない。
 
●BAYC(p97)
 Bored Ape Yacht Club。1万匹の異なる姿をした「退屈そうな顔をした類人猿」の絵。
 Yuga Labs社が企画し、2021年にOpenSeaで販売が始まった。コレクティブルとしての側面が強いNFTアート。NFT所有者がSNSのアバターとして使うことも想定し、画像の商用利用までも許可し、さらにはある種の特権性を持った「高級クラブ」のようなコミュニティとしてもデザインされている。
 
●ガバナンス・トークン(p154)
 アニメ系NFTコレクションの「Azuki」は、NFT作品を分割した「ガバナンストークン」をコレクターに販売した。
 たとえば今後の映画化を含めたIP展開の在り方といった運営方針を、ガバナンストークンをもった個人が話し合いや投票を行いながら決めていく。
 このようなブロックチェーンを使って運営する組織のことをDAO(Decentralized Autonomous Organization:分散型自律組織)という。
 
(2022/12/8)NM
 
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アルゴリズムの時代 機械が決定する世界をどう生きるか
 [コンピュータ・情報科学]

アルゴリズムの時代 機械が決定する世界をどう生きるか
 
ハンナ・フライ/著 森嶋マリ/訳
出版社名:文藝春秋
出版年月:2021年8月
ISBNコード:978-4-16-391422-0
税込価格:1,870円
頁数・縦:294p・19cm
 
 IT化が進む現代社会を支配しているのはアルゴリズム?
 様々な分野で幅を利かす「アルゴリズム」を詳述し、それでも人間は機会と共生できる、ヒトは機械をうまく利用しながら生きていくことができると説く。
 
【目次】
1章 影響力とアルゴリズム
2章 データとアルゴリズム
3章 正義とアルゴリズム
4章 医療とアルゴリズム
5章 車とアルゴリズム
6章 犯罪とアルゴリズム
7章 芸術とアルゴリズム
結論 機械とともに生きる時代に
 
【著者】
フライ,ハンナ (Fry, Hannah)
 1984年、イギリス生まれ。ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン高等空間解析センター准教授、数学者。数理モデルで人間の行動パターンを解析する研究をおこない、政府、警察、健康分析企業、スーパーマーケットなどとも協力している。TEDトークで人気を集め、BBCやPBSのドキュメンタリーの司会も務める。アダム・ラザフォードとのBBCの科学ポッドキャスト『The Curious Cases of Rutherford & Fry』は人気長寿番組になっている。
 
森嶋 マリ (モリシマ マリ)
翻訳家。
 
【抜書】
●感度、特異度(p117)
 乳がん検査アルゴリズムの場合、
 感度……問題のある組織を見逃さず、はっきりと教えてくれること。見逃し。
 特異度……正常な組織をがん細胞と間違えないこと。誤検知。
 多くの場合、アルゴリズムの精度を上げるには、感度と特異度のどちらかを優先させなければならない。
 
●プレッドポル(p197)
 予測警備。「プレディクティブ・ポリシング」の略。
 
(2022/1/28)NM
 
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デジタル・ミニマリスト スマホに依存しない生き方
 [コンピュータ・情報科学]

デジタル・ミニマリスト スマホに依存しない生き方 (ハヤカワ文庫 NF 573)
 
カル・ニューポート/著 池田真紀子/訳
出版社名:早川書房(ハヤカワ文庫 NF 573)
出版年月:2021年4月
ISBNコード:978-4-15-050573-8
税込価格:990円
頁数・縦:367p・16cm
 
 スマホ依存を最低限に抑え、価値の高い生活をするための指針を示す。
 本書の提案の根本にあるのは、これまで人類が進化によって得た「産物」を前提にしているということだ。面と向かってのコミュニケーションを基本とした社会性・社交である。それがデジタル依存によって損なわれることによる問題を提議している。デジタルの利用を最低限にとどめ、伝統的なコミュニケーションの枠から逸脱しないようにしよう、というのが著者の主張であるようだ。
 不安障害に陥る若者が増えているのも事実かもしれないが、将来、このネット接続の状態を疑問なく受け容れる状態が続いた場合、人類はどのように進化するのか(しないのか)。私は、そこに最大の興味がある。過去の価値観にとらわれず、新しい価値が人類をどう変えていくのか。ノスタルジックな良し悪しの判断はとりあえず脇に置いといて、というか、そんな判断を超越して、人も社会も変わっていくはずである。その先の将来の姿を知りたい。
 
【目次】
1 基礎
 スマホ依存の正体
 デジタル・ミニマリズム
 デジタル片づけ
2 演習
 一人で過ごす時間を持とう
 “いいね”をしない
 趣味を取り戻そう
 SNSアプリを全部消そう
 
【著者】
ニューポート,カル (Newport, Cal)
 ジョージタウン大学准教授(コンピューター科学)。1982年生まれ。ダートマス大学で学士号を、MIT(マサチューセッツ工科大学)で修士号と博士号を取得。2011年より現職。学業や仕事をうまくこなして生産性を上げ充実した人生を送るためのアドバイスをブログ「Study Hacks」で行なっており、年間アクセス数は300万を超える。
 
池田 真紀子 (イケダ マキコ)
 英米文学翻訳家、上智大学法学部国際関係法学科卒。
 
【抜書】
●間歇強化(p48)
 予想外のタイミングで報酬をもらったほうが、快感をつかさどる神経伝達物質ドーパミンの分泌量が多くなる。
 
●時刻の確認(p128)
 「非生産的なウサギ穴に吸い込まれてしまうきっかけの七五パーセントは、時刻を確かめたくて携帯電話を取り出すことだと気づいたんです」
 SNSにはまってしまうのは、時計代わりにスマホを使うのが原因?
 
●i世代(p157)
 物心ついたときにはiPhoneとソーシャルメディアが当たり前のように存在し、インターネットに常時つながるようになる前の時代を知らない世代。
 不安障害にかかる学生の割合が増えた。
 
●デフォルト・モード・ネットワーク(p193)
 PETスキャナーを使った脳の研究によると、それまで取り組んでいた課題を中断して休憩をとると、活発になる領域がある。「デフォルト・モード・ネットワーク」。社会的認知実験のさなかに活発な活動をする領域とほぼ一致している。
 休憩時間を与えられると、脳は自動的に社交生活について考え始める。
 
●低帯域幅(p205)
〔 オンラインでの交流より、リアルな世界での交流のほうが価値が高いという見解は、意外なものではない。私たちの脳は、オフラインで相手と顔を合わせてする交流が唯一のコミュニケーションだった時代の進化の産物だ。この章の前のほうで述べたように、オフラインでの交流は驚くほど豊かな経験だ。なぜなら、ボディーランゲージや表情の変化、声の調子など、微妙なアナログのヒントから得られる大量の情報を脳内で処理しなくてはならないからだ。一般的なデジタル・コミュニケーション・ツール上で行なわれる低帯域幅のおしゃべりは、オフラインでの豊かな交流の幻を作り出すことはできるかもしれないが、人間の脳に備わっている高性能な社交プロセス・ネットワークには物足りない。つまり、せっかくの性能を生かしきれず、人間のきわめて高い社交欲を満たすことができないのだ。だから、アナログな会話やリアルの世界での活動によって生まれる価値に比べると、フェイスブックのコメントやインスタグラムの“いいね”から生まれる価値は――その価値自体は幻ではなくても――低い。〕
 オンラインでのテキスト・コミュニケーションは、オフラインの面と向かってのコミュニケーションに比べ、情報量が少ないということ。それが「低帯域幅」の指す意味。
 
●会話中心コミュニケーション主義(p212)
 CCC(Conversation Centric Communication)主義。
 デジタル・ミニマリズムを成功させるために、自分なりの会話と接続(ネットでのコミュニケーション)のバランスを見つけること。
 
●FI(p240)
 経済的自立(Financial Independence)。
 資産から得られる収入だけで生活費をカバーできるような経済状況。
 インターネットの普及により、若年層を中心に、極端な倹約生活を維持することでこの経済的な自由への近道を探る人々が増えている。
 
●フィラデルフィア図書館(p287)
 ベンジャミン・フランクリンは、ジャントー・クラブのメンバーからの寄付金で書籍を共同購入し、メンバーなら誰でも利用できる仕組みを作った。
 その蔵書と仕組みを元に、1731年、フィラデルフィア図書館会社を設立した。米国初の会員制図書館。
 ジャントー・クラブ……1727年、フランクリンが創設した社交クラブ。「発想力に優れた知人の大方を集め、相互の向上を目的とするクラブを創設し、ジャントー・クラブと命名した。会合は毎週金曜の夜に開いた。私が起草した会則では、会員は持ち回りで道徳、政治、自然科学にまつわるトピックを最低でも一つ、会合に提出し、そこで討議にかけることになっていた。また三ヵ月に一本、自分で選んだテーマについて評論を執筆し、会合の場で朗読することと定められていた。」(フランクリンの自伝による)
 
●注意経済(p300)
 アテンション・エコノミー。
 消費者の注意を集め、それを使いやすい形に包装し直したものを広告業者に販売して金銭的利益を得ている企業。
 
●「神が造りたまいしもの」(p345)
 サミュエル・モールス、画家。
 1832年、ルアーヴルからニューヨークへの帰途、フランスの郵便船サリー号の船中で、ハーバード大学の地質学者チャールズ・ジャクソンと、電気という新しい媒体が持つ可能性についた話し合った。「電気の存在が回路のいずれかの部分で可視化できたら、電気を使って情報を伝達できるかもしれない」という着想を得る。
 ニューヨークのアトリエで、12年間、実験に没頭。
 1844年5月、米国最高裁の一室に集まった有力議員や政府高官の前で電鍵を操作。約60km離れたボルチモア郊外の鉄道駅で待機していた助手のアルフレッド・ヴェイルに電報を送信。
 「神が造りたまいしもの」(聖書の「民数記」の一節)。
 
(2021/7/28)NM
 
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でたらめの科学 サイコロから量子コンピューターまで
 [コンピュータ・情報科学]

でたらめの科学 サイコロから量子コンピューターまで (朝日新書)
 
勝田敏彦/著
出版社名:朝日新聞出版(朝日新書 796)
出版年月;2020年12月
ISBNコード:978-4-02-295104-4-5
税込価格:869円
頁数・縦:221p・18cm
 
 乱数に関して、その生成方法から性質、活用法まで、蘊蓄を語る。
 分かりきったことを妙に丁寧に解説したり、肝となる部分の説明が省略されていたり分かりづらかったり、全体にアンバランスな印象を受けた。
 
【目次】
第1章 でたらめをつくる
 でたらめづくりの歩み
 世界最速のサイコロ
 「1+1=0」の異世界にて
第2章 でたらめをつかう
 真実に迫るでたらめ
 情報を守る乱数
 乱数を売る・操る
第3章 でたらめの未来
 1000兆個の乱数で
 物理乱数の夢
 進化する乱数
 
【著者】
勝田 敏彦 (カツダ トシヒコ)
 1962年、兵庫県生まれ。朝日新聞東京本社科学医療部次長。京都大学理学部卒、同大学院工学研究科数理工学専攻修了。89年朝日新聞社入社、週刊朝日編集部、東京・大阪の旧科学部、米CNN派遣、アメリカ総局員、メディアラボ室長補佐、ソーシャルメディアエディターなどを経て現職。
 
【抜書】
●乱数の定義(p4)
 「その数字を並べる以上に短くその数列を記述できる方法がない」。
 何らかの規則性が見つかれば短く記述できて圧縮できるが、乱数とはそうしたルールや特徴がなくて圧縮できない。つまり、覚えるとしたら丸暗記するしか方法のない数の並び。
 「コルモゴロフ・チャイティンによる定義」。ロシアの数学者アンドレイ・コルモゴロフと、情報理論を研究しているアルゼンチンの数学者グレゴリー・チャイティンにちなむ。
 
●乱数本(p24)
 1955年、米国のランド研究所が「A Million Random Digits With 100,000 Normal Deviates」という本を刊行した。
 600ぺーじのうち、400ページにわたって100万個の乱数が並び、200ページにわたって統計でよく使われる「正規分布乱数」が並んでいる。
 
●世論調査(p111)
 朝日新聞による郵送調査のやり方。
 人口や産業構造を考慮しながら市区町村を選ぶ。
 市区町村から選挙の投票所を300ほど選ぶ(投票所は全国に約4万7000箇所ある)。
 各投票所からどれくらいサンプルを抽出するかを決める。
 市区町村の選挙管理委員会に行き、各投票所に投票に行く有権者の名簿から、ランダムに名前と住所を書き取っていく。例えば1,000人の名から10人を選ぶ場合、最初の人を乱数で決め、その人から100人おきに書き取っていく。
 
●モンテカルロ法(p161)
 豆落とし法で円の面積を求める。
 一辺2の正方形を作り、その中にすっぽり入るような半径1の円を描く。
 上から何度か豆を落とし、円の内側に豆が入る確率を計算する。その確率✕正方形の面積が、円の面積となる。
 この方法は、モンテカルロ法という。複雑な図形の面積を求めるときに役立つ。
 豆を落とす回数が増えれば、正確な面積に近づいていく。計算の誤差は、1/√N。Nは、豆を投げた回数。
 
●酔歩(p170)
 ブラウン運動は、「ランダム・ウォーク」または「酔歩」ともいう。
 
【ツッコミ処】
・タイヤ四つ=直方体?(p18)
〔 昔のサイコロは立方体とも限らない。アストラガルスといって、山羊など後ろ脚のくるぶしの近くにある距骨と呼ばれる骨もサイコロとして使われていた。大英博物館には、距骨のサイコロも収蔵されている。紀元前8世紀ごろから栄えた地中海のロドス島の都市、カメイロスで見つかったもので、見た目は立方体というより、ミニカーのタイヤを四つまとめて接着したような形だ。直方体に近い形なので4面サイコロとして利用されていたらしい。〕
  ↓
 丸いタイヤをどうやって四つつなげると直方体になるのだろうか? 不思議。写真か図版で見たかった。
 
(2021/4/16)NM
 
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機械翻訳 歴史・技術・産業
 [コンピュータ・情報科学]

機械翻訳:歴史・技術・産業
 
ティエリー・ポイボー/著 高橋聡/訳
出版社名:森北出版
出版年月:2020年9月
ISBNコード:978-4-627-85181-8
税込価格:2,860円
頁数・縦:187p・22cm
 
 機械翻訳はどのように発展してきたのか、その歴史と理論を概観する。
 機械翻訳は、コンピュータの登場とともに、1940年代後半から本格的に始まった。「直接翻訳方式」や「中間言語方式」などの「ルールベース翻訳」の実験が繰り返された。しかし、マシンの性能が貧弱だったこともあり、思うような成果が出ず、下火になっていった。
 息を吹き返したのは、1990年代、「統計的機械翻訳」の手法が提唱されてからだ。マシンの性能も向上し、それまでに蓄積されたコンピュータ言語学の成果も取り入れて大規模な対訳コーパスを分析できるようになったからである。そして現在の主流は、ディープラーニングの手法を取り入れた「ニューラル機械翻訳」となっている。
 本書の原著は2017年の刊行である。その後の3年間、AIの進歩に促された機械翻訳の発展には目覚ましいものがある。それを補うため、中澤敏明による最新の「ニューラル機械翻訳」に関する解説が加えられている。
 
【目次】
翻訳をめぐる諸問題
機械翻訳の歴史の概要
コンピューター登場以前
機械翻訳のはじまり:初期のルールベース翻訳
1966年のALPACレポートと、その影響
パラレルコーパスと文アラインメント
用例ベースの機械翻訳
統計的機械翻訳と単語アラインメント
セグメントベースの機械翻訳
統計的機械翻訳の課題と限界
ディープラーニングによる機械翻訳
機械翻訳の評価
産業としての機械翻訳:商用製品から無料サービスまで
結論として:機械翻訳の未来
解説:2020年時点でのニューラル機械翻訳(中澤敏明)
 
【著者】
ポイボー,ティエリー (Poibeau, Thiery)
 フランス国立科学研究センター(CNRS)研究部長、同センターLATTICE(Langues, Textes, Traitements informatiques et Cognition)研究所副所長。Ph.D.(計算機科学)。専門の自然言語処理のほか、言語獲得、認知科学、認識論、言語学の歴史を関心領域とする。
 
高橋 聡 (タカハシ アキラ)
 翻訳家。日本翻訳連盟副会長。共著書に『できる翻訳者になるために プロフェッショナル4人が本気で教える翻訳のレッスン』(講談社、2016年)などがある。
 
中澤 敏明 (ナカザワ トシアキ)
 東京大学大学院情報理工学系研究科特任講師。専門は自然言語処理、特に機械翻訳。共著書に『機械翻訳』(2014年、コロナ社)がある。
 
【抜書】
●バベルフィッシュ(p1)
 イギリスの作家ダグラス・アダムスのコメディSF『銀河ヒッチハイク・ガイド』シリーズに登場する万能翻訳機(通訳機)。
 片耳に小さな魚(バベルフィッシュ)を1匹押し込んだだけで、どんな言語でも理解できるようになる。
 
(2020/12/14)KG
 
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遅いインターネット
 [コンピュータ・情報科学]

遅いインターネット (NewsPicks Book)  
宇野常寛/著
出版社名:幻冬舎(NEWSPICKS BOOK)
出版年月:2020年2月
ISBNコード:978-4-344-03576-8
税込価格:1,760円
頁数・縦:239p・20cm
 
 民主主義と立憲主義の比重を後者にずらし、民主主義を半分諦めることで、自由と平等を守ろう、という提案である。
 民主主義がポピュリズムやファシズムに流されないよう、反射的に対応するインターネット上でのやり取りを自制し、じっくり読み、熟慮する習慣を取り戻そう(遅いインターネット)、と主張する。浅慮の「大衆」から脱し、自ら考える「市民」になろう、ということであろう。
 
【目次】
序章 オリンピック破壊計画
 TOKYO2020
 平成という「失敗したプロジェクト」
  ほか
第1章 民主主義を半分諦めることで、守る
 2016年の「敗北」
 「壁」としての民主主義
  ほか
第2章 拡張現実の時代
 エンドゲームと歌舞伎町のピカチュウ
 「他人の物語」から「自分の物語」へ
  ほか
第3章 21世紀の共同幻想論
 いま、吉本隆明を読み直す
 21世紀の共同幻想論
  ほか
第4章 遅いインターネット
 「遅いインターネット」宣言
 「速度」をめぐって
  ほか
 
【著者】
宇野 常寛 (ウノ ツネヒロ)
 評論家。批評誌『PLANETS』編集長。1978年生。著書多数。立教大学社会学部兼任講師。
 
【抜書】
●うっかり呼んでしまったオリンピック(p7)
〔 だが、来るべき2020年の東京オリンピックはどうだろうか。そこには基本的に何も、ない。そこに存在するのはせいぜい、もう一度東京にオリンピックがやってくれば、誰もが上を向いていた「あのころ」に戻れるのではないかというぼんやりとした(そしてまったく無根拠な)期待だけだ。実際に2020年の東京オリンピックに、1964年に存在したような半世紀先を見据えた都市改造や国土開発の青写真はまったく存在しない。消去法で選ばれてしまったこの2020年のオリンピックに対して、この国の人々はまったくビジョンをもっていないのだ。自治体間の予算の押し付け合いと、開催準備の混乱が体現する「うっかり呼んでしまったオリンピックのダメージコントロール」が、来るべき2020年の東京オリンピックの実体だ。〕
 
●素手(p51)
〔 ついこのあいだまで、今日のグローバルな経済とローカルな政治という関係がまだ存在せず、インターナショナルな政治にローカルな経済が従属していた時代まで、世界に素手で触れているという実感はむしろ政治的なアプローチの専売特許だった。だからこそ、20世紀の若者たちは革命に、反戦運動に、あるいはナショナリズムに夢中になったのだ。民主主義とは、このあいだ少なくともこれまで試みられてきたあらゆる制度よりも確実に、誰にでも世界に素手で触れられる実感を与えてくれるものだった。そして、少なくとも世界の半分ではこうしているいまもそうあり続けてしまっている。この1票で、世界が変わると信じられること。僕の考えでは民主主義の最大の価値はここにある。だが、皮肉なことだがこの強力な機能ために、いま、民主主義は巨大な暗礁に乗り上げてしまっている。〕
 
●クラウドロー(p69)
 近年、市民が情報技術を活用して社会の課題を解決するシビックテックと呼ばれる運動が現れている。
 クラウドローはその手段の一つ。インターネットによって市民が法律や条例などの公的なルールの設定に参加する。
 vTaiwan……台湾。オンラインとオフラインにまたがる官民連携のクラウドロー・プラットフォーム。市民間の協議によって、ライドシェアサービス(ウーバー)の参入と既存のタクシー業者との調整、リベンジポルノに対する罰則の規定、市街地におけるドローン活用を推進するための適切な規制などが提案され、行政に採用されている。
 
【ツッコミ処】
・書く(p198)
〔 そう「書く」こと、「発信する」ことはもはや僕たちの日常の生活の一部だ。この四半世紀で、「読む」ことと「書く」ことのパワーバランスは大きく変化した。前世紀まで「読む」ことと「書く」ことでは前者が基礎で後者が応用だった。「読む」ことが当たり前の日常の行為で「書く」というのは非日常の特別な行為だった。しかし現代では多くの人にとっては既にインターネットに文章を「書く」ことのほうが当たり前の日常になっている。そして(本などのまとまった文章を)「読む」ことのほうが特別な非日常になっている。これまで僕たちは「読む」ことの延長線上に「書く」ことを身につけてきた。しかし、これから社会に出る若い人々の多くはそうはならない。彼ら/彼女らの多くはおそらく「書く」ことに「読む」ことより慣れている。現代の情報環境下に生きる人々は、読むことから書くことを覚えるのではなく、書くことから読むことを覚えるほうが自然なのだ。これは現代の人類が十分に「読む」訓練をしないままに、「書く」環境を手に入れてしまっていることを意味する。だが、かつてのように「読む」から「書く」というルートをたどることは、もはや難しい。それは僕たちの生きているこの世界の「流れ」に逆らうことなのだ。〕
  ↓
 「若い人々」の間で、「書く」ことが「読む」ことに先行している、というより、「書く」ことが「話す」ことより優先している、という現象が起きていることのほうが重要なのではないだろうか。
 彼らはまるでしゃべるように書いている。それこそが「脊髄反射」的行動の実相なのであって、本質的な「書き」は行っていないように見える。本質的な「書き」とはすなわち、「読む」に対比される「書く」行為であり、思考し、頭の中で考えをまとめて表現することである。彼らが行っているのは、「話す」代わりに「書」いているにすぎない。
 (本などのまとまった文章を)読む機会は減っているかもしれないが、SNS上でかなりの量の「読み」を行っているようには見える。
 
(2020/8/25)KG
 
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相対化する知性 人工知能が世界の見方をどう変えるのか
 [コンピュータ・情報科学]

相対化する知性---人工知能が世界の見方をどう変えるのか  
西山圭太/著 松尾豊/著 小林慶一郎/著
出版社名:日本評論社
出版年月:2020年3月
ISBNコード:978-4-535-55907-3
税込価格:2,970円
頁数・縦:336, 8p・19cm
 
 人工知能に関して、ディープラーニングを中心としたその「技術」について解説し、強い同型論を手掛かりに普遍的な「知性」「認知構造」について論じ、人工知能が果たす近未来社会での役割と人間との関係を考察する。
 モヤっとした理解しか得られなかったが、いくつか類書を読んでいくうちに、頭の中ですっきりと整理されるようになるだろうか?
 
【目次】
第1部 人工知能―ディープラーニングの新展開……松尾豊
 人工知能のこれまで
 ディープラーニングとは何か
 ディープラーニングによる今後の技術進化
 消費インテリジェンス
 人間を超える人工知能
第2部 人工知能と世界の見方―強い同型論……西山圭太
 人工知能が「世界の見方」を変える
 認知構造はどう変わろうとしているのか
 強い同型論
 強い同型論で知能を説明する
 我々の「世界の見方」はどこからきてどこに向かうのか
第3部 人工知能と社会―可謬性の哲学……小林慶一郎
 人工知能と人間社会
 自由主義の政治哲学が直面する課題
 人工知能とイノベーションの正義論
 世代間資産としての正義システム
 自由の根拠としての可謬性
 
【著者】
西山 圭太 (ニシヤマ ケイタ)
 1963年、東京都生まれ。1985年、東京大学法学部卒業後、通商産業省入省。1992年、オックスフォード大学哲学・政治学・経済学コース修了。中央大学大学院公共政策研究科客員教授、株式会社産業革新機構執行役員、経済産業省大臣官房審議官、東京電力ホールディングス株式会社取締役などを経て、経済産業研究所コンサルティングフェロー、経済産業省商務情報政策局長。
 
松尾 豊 (マツオ ユタカ)
 1975年、香川県生まれ。1997年、東京大学工学部電子情報工学科卒業。2002年、東京大学大学院工学系研究科電子情報工学博士課程修了。博士(工学)。スタンフォード大学CSLI客員研究員、シンガポール国立大学(NUS)客員准教授などを経て、東京大学大学院工学系研究科教授。
 
小林 慶一郎 (コバヤシ ケイイチロウ)
 1966年、兵庫県生まれ。1991年、東京大学大学院計数工学科修士課程修了(工学修士)後、通商産業省入省。1998年8月シカゴ大学よりPh. D.(経済学)取得。経済産業研究所上席研究員、慶應義塾大学経済学部教授などを経て、公益財団法人東京財団政策研究所研究主幹。慶應義塾大学経済学部客員教授、キヤノングローバル戦略研究所研究主幹などを兼務。著書:『日本経済の罠』(共著、日経・経済図書文化賞受賞、2001年)ほか。
 
【抜書】
●マルコフ・ブランケット(p146)
 人工知能研究者ジュディア・バールによる。
 システムが相対的に局所的な作用関係を中心に構成される場合、「遠い」サブシステム同士は影響し合わないので、その結果として常に「内部」と「外部」との区分けが起こり、「内部」と「外部」との間に仕切り(マルコフ・ブランケット)が生じ、「内部」は「外部」の変化を推論して適応しようとするメカニズムが生成される。
 脳神経学者カール・フリストンは、細胞膜もマルコフ・ブランケットであると考えた。細胞はその周辺の環境から「サプライズ・ショック」受けないように周辺環境に働きかけ、その働きかけを通じて周辺環境を感知するという機能を果たしている。
 細胞は内部のエントロピーの拡大を防ぐために細胞膜が機能しているのではなく、細胞膜がマルコフ・ブランケットのように働くことにより、内部のエントロピーの拡大をおさえ、自由エネルギーを極小化しているように見える。
 
(2020/8/17)KG
 
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わが子をAIの奴隷にしないために
 [コンピュータ・情報科学]

わが子をAIの奴隷にしないために(新潮新書)
 
竹内薫/著
出版社名:新潮社(新潮新書 842)
出版年月:2019年12月
ISBNコード:978-4-10-610842-6
税込価格:814円
頁数・縦:205p・18cm
 
 やがてシンギュラリティを迎え、AIが支配する未来社会において、生き残る(必要される)人間とはどういうタイプか。そして、その時に必要とされる人間となるには、今からどのような準備をすればいいのか。
 そういったことを、なかば徒然なるままに綴ったエッセー。
 本当にシンギュラリティを迎え、意識を持った人工知能が出現するのか? 確かなことは分からないが、AIにあえて「心のモジュール」を植え付けない、AIを外部脳の地位のままにしておく、そういう選択肢もありではないかと提案する。
 その通りかもしれないが、私がAIを恐ろしいと思うのは、開発した人間にも、AIがどんな答えを出してくるのか分からない、という点である。つまり、究極のブラックボックスなのだ。AIが複雑になるのに伴なって開発単位が細分化され、多くのエンジニアが自分の専門分野に特化して開発に携わることになる。そうなると、全体を把握できる人間がいなくなる。
 悪意のプログラムを仕込むこともできるし、ちょっとしたバグで好ましくない答えを出すこともあり得る。実は、AIを全面的に信頼することは、とても危険なことなのである。
 となると、もし「善意の心のモジュール」というものが発明されたら、それを組み込んでおく、という方法もありかもしれない。AIの暴走を防ぐために。
 
【目次】
第1章 シンギュラリティと「人類」の終焉
 プロローグ 「チャップリンの不安」
 第一次産業革命とパンドラの筺
  ほか
第2章 AIと猫と神
 プロローグ AIは最適化する機械だ
 AIの世界一簡単な(そして、ちゃんとした)説明
  ほか
第3章 会社の消滅とAIノマドの時代
 プロローグ 会社員の終焉
 会社ってェ奴は
  ほか
第4章 残る職業、消える職業
 プロローグ プロジェの時代
 残る職業、消える職業
第5章 AI時代を生き延びる、たったひとつの冴えたやり方
 クラシック指揮者から学んだこと
 新たな成功への道
  ほか
 
【著者】
竹内 薫 (タケウチ カオル)
 1960(昭和35)年東京都生まれ。サイエンス作家。理学博士。東京大学教養学部、同理学部を卒業。カナダ・マギル大学大学院博士課程修了(高エネルギー物理学専攻)。科学や数学の案内人として活躍。
 
【抜書】
●数学(p59)
 〔真のプログラミング技能は高度な数学技能に裏打ちされたものであり、数学能力なしには、AIに仕える神官になることはできないのです。
 未来社会において、シンギュラリティを迎えたAIの神に仕え、なだめる役割は、人類の最高レベルの数学知識とプログラミング技能を持ち合わせた科学者・エンジニアが担うことになるのです。〕
 
●遊び(p134)
 第4次産業革命では、創造力を発揮できる「遊び」が必要になる。
〔 親が子を心配してかける言葉も、「遊んでばかりじゃなくて勉強しないさい!」から「勉強ばかりじゃなくて遊びなさい!」に変わる。そんな時代が到来しつつあるのかもしれません。〕
 
●心のモジュール(p160)
 AIをどこまで進化させるべきか?
 「AIを野放図に進化させるべきではない。仮にメカニズムが判明したとしても、あえてAIに心を植え付けず、人間の便利な外部脳として使い続ければいいのではないか」。
〔 あえてAIに心のモジュールを植え付けないという選択。それが、人間とAIが闘わずに共存する最良の方法なのではあるまいか。〕
 
(2020/8/2)KG
 
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