SSブログ

見えない巨人――微生物
 [自然科学]

見えない巨人―微生物

別府輝彦/著
出版社名 : ベレ出版
出版年月 : 2015年11月
ISBNコード : 978-4-86064-450-5
税込価格 : 1,512円
頁数・縦 : 263p・19cm


 微生物について、発酵、病気、環境の三つのテーマに分けて解説する。

【目次】
1 微生物とは何だろう?
 微生物は見えない生き物
 微生物は巨大な生き物
 微生物は多様な生き物
 微生物と人間のかかわり
2 発酵する微生物
 発酵とは何だろう?
 発酵という文化
 新しい微生物、新しい発酵
 次の世代に向かって
3 病気を起こす微生物
 歴史の中の感染症
 病原体との戦い
 新しい感染症の姿
4 環境の中の微生物
 環境を支える微生物
 共生する微生物
 集団としての微生物
 地球環境と微生物

【著者】
別府 輝彦 (ベップ テルヒコ)
 1961年、東京大学大学院化学系研究科修了。1977年、東京大学大学院農学生命科学研究科教授。1994年、日本大学生物資源科学部教授。2006年、日本大学総合科学研究所教授。東京大学名誉教授。日本学士院会員。平成24年度文化功労者。

【抜書】
●生物の分類(p36)
 原核生物ーー細菌
      └古細菌
 真核生物ーー動物
      └真菌
      └植物
 古細菌……メタン生成菌、高度好塩菌、など。進化的には、細菌よりも真核生物に近い。

●ミミウイルス(p38)
 ミミウイルス……小型の細菌に匹敵するサイズの巨大ウイルス。遺伝子の配列を他の生物と比較すると、古細菌と真核生物の間で枝分かれしたと考えられる。

●大酸化イベント(p41)
 最も古い微生物の化石……約34億年前の西オーストラリアの地層から見つかった。当時、メタン生成菌によって、炭酸ガスからメタンが作られ、温室効果により、今より暗かった太陽の下で氷結から免れた。
 約25億年前、地球の大気に初めて分子状酸素(O2)が出現した。微生物の大部分を絶滅させ、酸素呼吸型の真核生物の誕生につながった。酸素を作り出した原因は、ストロマトライトを形成するシアノバクテリアが光合成を行ったため。
 約21億年前の米国ミシガン州の地層から、藻類の一種と考えられる真核微生物の微化石が見つかっている。

●酒作り(p56)
 単発酵酒……糖を含んでいる原料から、アルコール発酵だけの一段階でできる酒。ブドウ酒、蜂蜜酒、馬乳酒、ヤシ酒、プルケ(蒸留酒テキーラの元)、など。
 複発酵酒……穀物のデンプンを糖に分解(糖化)する過程とアルコール発酵の二段階を踏む酒。糖化に必要なアミラーゼを手に入れるには、①唾液のアミラーゼ(口噛み酒)、②麦芽に代表される発芽した穀物(穀芽)のアミラーゼ(ビール)、③カビのアミラーゼ(日本酒)、の三つの方法がある。
 単行複発酵酒……ビールのように、麦芽による糖化が終わった後に酵母単独で発酵させる。
 並行複発酵酒……中国や日本の酒のように、カビによる糖化と、酵母による発酵が一つの容器の中で同時に進む。

●抗生物質(p99)
 ペニシリン……細菌に固有の細胞壁合成を阻害する。
 ストレプトマイシン……タンパク合成にかかわるリボソームの細菌に固有の特徴を見分けて阻害する。
 どちらも、真核生物であるヒトの細胞にはない、原核生物固有の標的に作用することで、人体に副作用を及ぼさず、選択的に病原菌を殺すという、長年の医療の夢を実現した。

●ペスト(p128)
 ペスト菌の起源は中国。中国奥地からシルクロードを経て西アジア、ヨーロッパへ、鄭和の大船団(1405~33年)によって東南アジア、インド、アフリカ東海岸へ広がった。
 ペスト菌は、ノミを介してネズミ、リス、マーモットなどネズミ目の野生動物に感染する。ネズミからヒトに伝わる。

●バクテリアリーチング(p205)
 バクテリアリーチング……微生物による精錬。
 銅は、硫黄と化合した数種類の硫化銅の鉱石として産出。鉱石を野外に積み上げ、上から水を撒くだけで、鉱石に棲みついている硫黄酸化細菌、鉄酸化細菌という2種類に細菌が溶かしだした銅が、あらかじめ堆積の底に張り巡らせておいた配管を通って流れ出てくる。1950年代に米国の銅山で実用化された。
 硫黄酸化細菌、鉄酸化細菌……それぞれ、硫黄、二価鉄を酸化してエネルギーを得ると同時に、炭酸固定を行う。

●共生(p212)
 相利共生……どちらも得する共生。
 片利共生……片方だけが得をする共生。

●ブフネラ(p223)
 アブラムシは、「菌細胞」という特殊な細胞を持ち、その中にブフネラという共生細菌を多数持っている。
 アブラムシが栄養源としている植物の汁液はアミノ酸のバランスが著しく偏っている。ブフネラがこれを必須アミノ酸に合成しなおして宿主に補給している。
 ブフネラは、菌細胞の外では増殖できない、絶対共生菌。大腸菌に近縁だが、ゲノムの大きさは七分の一。独立して生きていく上で不可欠な遺伝子の多くを失っている一方、一部のアミノ酸の合成遺伝子などはしっかり残している。
 約2億年前に、アブラムシの祖先の細胞の中に入り込んだ。安定した環境で宿主との相互依存の関係を深めながら進化する間に、不要になった遺伝子を次々に捨て去った。ミトコンドリアがたどったのと同じ道中の途中にいる。

●バイオフィルム(p237)
 細菌などの単細胞の微生物は、通常、固体表面に多数が寄り集まって「バイオフィルム」をつくっている。
 バイオフィルム内部は、複数の種類の菌が互いに助け合いながら生きている、微生物の社会そのもの。メンバー同士が物質のやり取りをするのにも好都合。
 ある種の細菌がつくるバイオフィルムでは、菌の表面に生えている極細の線毛がたがいにつなぎとめられており、タンパク質でできたその線毛は導電性を持っている。「超微細電線(ナノワイヤー)」によるネットワーク。

(2016/1/4)KG

〈この本の詳細〉


nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

トラックバックの受付は締め切りました