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中二階の原理 日本を支える社会システム
 [経済・ビジネス]

中二階の原理 日本を支える社会システム
 
伊丹敬之/著
出版社名:日経BP 日本経済新聞出版
出版年月:2022年8月
ISBNコード:978-4-296-11495-5
税込価格:1,980円
頁数・縦:292p・20cm
 
 二階の「原理原則」だけだと、一階の「現場」にはねじれが生じ、思うように成果が上がらないし、社会が不安定になる。そこで必要になってくるのが、二階と一階をつなぐ「中二階の原理」である……。
 
【目次】
序章 空間を豊かにする中二階
第1章 日本という国の中二階
第2章 革命と変動を受容する社会構造の中二階
第3章 現場の情報と感情へ配慮―経営戦略の中二階
第4章 タテ・ヨコともに距離を短く―組織マネジメントの中二階
第5章 現場のエネルギーを引き出す―企業統治の中二階
第6章 ヒトのネットワークの重視―市場経済システムの中二階
終章 中二階発想のすすめ
 
【著者】
伊丹 敬之 (イタミ ヒロユキ)
 国際大学学長、一橋大学名誉教授。1969年一橋大学大学院商学研究科修士課程修了、72年カーネギーメロン大学経営大学院博士課程修了(Ph.D.)、その後一橋大学商学部で教鞭をとり、85年教授。東京理科大学大学院イノベーション研究科教授を経て、2017年9月より現職。この間スタンフォード大学客員准教授等を務める。
 
【抜書】
●天皇の在位年数(p42)
 江戸幕府が天皇家に与えた経済的待遇は、2万石の大名相当の予算だった。
 戦国時代には在位期間が長い天皇が何人もいて、20年を超すのも珍しくなかった。譲位したくても次の天皇が即位の儀式を行う費用を出す人がいなかったため。そのため、先代の死によっていやおうなしに新しい天皇が皇位につくことになった。
 後柏原天皇(在位1500-1526年)の場合、後土御門天皇が崩御して即位したものの、将軍などの寄付によって即位の儀式をあげられたのは、即位の21年後だった。
 
●マクロとミクロの中二階の原理(p95)
 ・廃藩置県
  マクロの共同体の中二階:国家近代化への危機感
  ミクロ共同体の中二階:藩共同体の維持
 ・農地改革
  マクロ共同体の中二階:農業民主主義への理念
  ミクロ共同体の中二階:村落共同体の平和
 ・コロナ自粛
  マクロ共同体の中二階:国全体の感染拡大への危機感
  ミクロ共同体の中二階:周囲への一配慮・一手間
 
●神の隠す手(p112)
 アルバート・ハーシュマンの「神の隠す手の原理」、『development Projects Observed』(1967年)。普通の人間の困難予測能力と、自分たちが実は秘めている問題解決能力の間にはギャップがある。
〔 そのギャップとは、挑戦的な企てから「どんな困難が生まれるか」を予想する能力については多くの人がかなりすぐれているが、いったん困難に遭遇してしまった後の自分たちの問題解決能力をきちんと予測する能力は意外に小さい。つまり、困難だけは予測できるが、それを解決する知恵と努力が事後的に出てくることを事前には予測できない人が多い、というギャップである。〕
 「神の隠す手」とは、「想定外の困難の発生の可能性」と「その困難に対応する人間の解決能力の可能性」の二つをともに人間の目から隠している神の手。しかし、想定内の困難の発生の可能性については、人間の目から隠されないことが多いので、多くの人が挑戦的な企てがもたらす困難をあれこれと指摘できる。そのため、「危険なことが多いからそんな企てはやめよう」という結論になる。
 しかし、ハーシュマンが世界銀行が援助した経済発展プロジェクトを1960年代に現地調査。成功したプロジェクトの多くが、「想定外の困難にプロジェクト開始後にぶつかり、しかしそれを克服して事前の想定とは少し違う形で成功する」という共通のパターンを持っていた。
 
●シェアリングの平等(p142)
 デロイトトーマツが公表した2018年度のCEOの報酬の国際比較。中央値。
 米国15.7億円、日本1.4億円、英独仏8.8億円。
 日本企業のシェアリングは、「平等性」が米国よりかなり大きい。典型的な米国企業では、階層上位の人間にカネだけでなく権力も情報も集中することが多い。
 
●産業民主主義(p201)
 戦後の経済的混乱の中で必死に生き残りと復興を目指していた日本企業にとって、労使対立などしている余裕はなかった。労使協調路線が自然に生まれてきた。「現場の従業員の声を重視する経営」を実現させ、当時の時代の潮流であった「産業民主主義」の具体化でもあった。現場の声を民主的に経営に反映させる、ということ。
 
●三井組(p201)
 江戸末期の代表的商家であった三井組(越後屋呉服店を源流とする三井財閥の原点企業)が、明治初期に日本で2番目の株式会社として法人化された。
 その会社の株式の4分の1を番頭・手代が持つこととなった。かなりの比重の従業員持ち株会社が、日本の株式会社の出発点だった。
 〔従業員中二階は、日本企業の共同体意識の自然の発露ともいえそうである。〕
 
●ドイツの労働共同決定法(p196)
 1976年制定。
 株式会社で従業員2000人以上の企業は、監査役会と執行役会を設け、執行役会がマネジメントを担当し、その執行役の任免権と企業の基本方針の決定権を監査役会がもつ。監査役会のメンバー構成は、株主代表と従業員代表を同数にしなければならない。
 従業員2000人未満の企業では、従業委代表の比重は三分の一。
 
●参加と所属(p2127)
 日本の雇用は「組織への所属」。正確には、「組織への参加から始まり、多くの場合に所属に移行する」。
 米国の雇用は「仕事への参加」。
 参加……意図をもって(その意味で限定された目的を達成するために)起きる。関係の期間は長期になる必然性は小さく(目的を達成すれば参加をやめてもいい)、関係も浅い。
 所属……長い期間にわたる関係。目的は明確に意識された単一のものというわけではなく、関係は深くなり、組織に属する他の人びととの付き合いも深くなる。その結果、しがらみも生まれるが、その一方で人間的な居心地の良さも生まれやすい。
 日本の演劇は、「劇団に所属」。
米国の演劇は、「公演に参加」。プロデューサー方式。プロデューサー・演出家・作家というトップを構成する少数のメンバーが一つの演劇公演のために俳優やスタッフを採用する。
 
●人本主義(p234)
 日本の市場経済システムでは、三つの基礎概念で共同体的側面が色濃く存在する。
 1.企業の概念
 2.市場取引の概念
 3.企業内組織編成の概念
〔 共同体原理のエッセンスは、おそらく二つある。一つは、その共同体に属するヒトのネットワークの安定性が高いということ。そして第二に、そこでのヒトとヒトとの関係性のあり方がたんに個々の利害追求だけでなく、互恵的・利他的色彩がかなりあること。
 こうした日本の市場経済システムの原理を、私はあえて「人本主義」と呼んできた。資本主義に対比する意味の私の造語である。それは、ヒトのネットワークの関係性の安定という側面に注目して、ヒトのネットワークを共同体的につくるようにする、「人が本」という原理を大切にしてきた日本の市場経済システム、という意味での造語である。〕
 
●経営者(p239)
 二階のカネの原理と、中二階のヒトの原理、その二重がさねが人本主義市場経済の原理的特徴。
 そこには、「人間の顔をした資本主義」というメリットがある一方、「人間の弱さを秘める資本主義」になってしまうという危険性もある。
 副作用として、⓵ヒトのネットワークの安定がぬるま湯をもたらす、②二階の原理と中二階の原理の衝突、といった危険がある。
 人本主義の弱さを退治するための鍵は、「経営者の強さ」が握っている。人間関係のしがらみ、安住への願望、思考停止、決断の空白、後ろめたさ、などを断ち切る強さをトップが持たなければ、システム全体はきちんと動かない。
 
●人本主義市場経済の世界的意義(p247)
〔 人本主義の中二階をなぜ維持した方が望ましいかについての基本の論理は、すでに説明した経済合理性の論理であるが、もう少し視野を広げると、さらに二つの「世界的意義」が日本の人本主義市場経済にはあると私は思う。
 一つの世界的意義は、日本の人本主義市場経済モデルが「純粋な市場経済」の崩壊の危機への防波堤となりうる、という意義である。第二の世界的意義は、アメリカ型市場経済と中国型市場経済の間の第三の道を日本の人本主義経済モデルが提供できる、つまり世界的に市場経済の多様なありかたの候補の一つを日本が提供できる、という意義である。〕
 
(2023/11/30)NM
 
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青春をクビになって
 [文芸]

青春をクビになって (文春e-book) 
額賀澪/著
出版社名:文藝春秋
出版年月:2023年9月
ISBNコード:978-4-16-391746-7
税込価格:1,760円
頁数・縦:218p・19cm
 
 35歳で大学の非常勤講師を「雇い止め」になった瀬川朝彦(あさひこ)の心の葛藤を描く。大学時代からの友人栗山侑介、10歳年上の先輩研究者小柳博士(ひろし)、そして3人の指導教官だった貫地谷先生との交流を通じて、青春=研究生活からの離脱(クビ)を決断。
 
【目次】
 
【著者】
額賀 澪 (ヌカガ ミオ)
 1990年、茨城県生まれ。日本大学芸術学部文芸学科卒業後、広告代理店に勤務。2015年『ヒトリコ』で小学館文庫小説賞を、『ウインドノーツ』(単行本改題『屋上のウインドノーツ』)で松本清張賞を受賞。
 
(2023/11/27)NM
 
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校閲記者も迷う日本語表現
 [言語・語学]

校閲記者も迷う日本語表現
 
毎日新聞校閲センター/著
出版社名:毎日新聞出版
出版年月:2023年9月
ISBNコード:978-4-620-32790-7
税込価格:1,760円
頁数・縦:302p・19cm
 
 毎日新聞校閲センターが開設したWebサイト「毎日ことば」(現「毎日ことばplus」)の1コーナー「ことばの質問」の記事を1冊にまとめた単行本。日々、校閲の仕事において出会う、「悩ましい日本語」に関してサイト上でアンケートをとり、その結果について論評している。
 新聞社の校閲部だけに、まさに日本語の今の姿を伝える内容となっている。様々な辞書を引き比べてコメントする姿勢は、さすが校閲部。
 
【目次】
第1章 この言葉、使っていますか?
第2章 新たな言葉が定着していく
第3章 どこまで直す?「馬から落馬」的な言葉
第4章 表記に迷う―あなたならどう書きますか?
第5章 意味で書き分けてみましょう
第6章 どう数えますか?
第7章 コロナ下の言葉
 
【著者】
毎日新聞校閲センター
 毎日新聞東京本社に東京グループ、大阪本社に大坂グループがあり、計80人余りが在籍している。紙面やサイトの記事について、字句だけでなく事実関係も調べて誤りを正す仕事が校閲。日々の校閲作業の傍ら、2011年にツイッターアカウントを、2012年にはサイト「毎日ことば」を開設し、使い方に悩む言葉など、校閲記者の視点で発信する。サイトは2023年1月に「毎日ことばplus」としてリニューアル。会員向けに有名校正者や辞書編集者らの寄稿を載せたりイベントを開催したり、自ら制作した動画「校閲力講座」入門編をリリースするなど新たな取り組みを始めた。著書に『新聞に見る日本語の大疑問』(東京書籍)、『読めば読むほど』(同)、『校閲記者の目 あらゆるミスを見逃さないプロの技術』(毎日新聞出版)、『校閲至極』(同)。
 
(2023/11/27)NM
 
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サイボーグになる テクノロジーと障害、わたしたちの不完全さについて
 [社会・政治・時事]

サイボーグになる テクノロジーと障害,わたしたちの不完全さについて
 
キム・チョヨプ/〔著〕 キム・ウォニョン/〔著〕 牧野美加/訳
出版社名:岩波書店
出版年月:2022年11月
ISBNコード:978-4-00-061567-9
税込価格:2,970円
頁数・縦:299p・19cm
 
 後天的な聴覚障害者であるSF作家と、骨形成不全症という難病を抱えながら弁護士・作家・パフォーマーとして活躍するキム・ウォニョンの二人による、非障害者に向けた評論集。
 考えてみれば、「サイボーグ」のような「完全な人間」なんて、この世には存在しないだろう。皆どこか、わずかながらでも「障害」を抱えているはずだ。目が悪い、耳が遠い、慢性鼻炎、アトピー性皮膚炎、花粉症、胃潰瘍、足が遅い、などなど。そんな「ふつうの人」と、二人の著者との間に、人間としてどれほどの「差」があるというのだろう。補綴物によって「ふつう」になるのではなく、障害を抱えたままで「ふつう」に社会に存在することはできないのだろうか。非障害者が「ふつう」に彼らを受け入れられる社会というものを夢想する。障害者がサイボーグになる必要もなしに。
 
【目次】
1 われわれはサイボーグなのか
 サイボーグになる
 宇宙での車椅子のステータス
 障害とテクノロジー、約束と現実のはざま
  ほか
2 ケアと修繕の想像力
 衝突するサイボーグ
 「障害とサイボーグ」のデザイン
 世界を再設計するサイボーグ
  ほか
3 連立と歓待の未来論
 障害の未来を想像する
 つながって存在するサイボーグ
対談 キム・チョヨプ×キム・ウォニョン
 
【著者】
キム チョヨプ (キム チョヨプ)
 本名、金草葉。1993年生まれ。2017年に「館内紛失」と「わたしたちが光の速さで進めないなら」で第2回韓国科学文学賞中短編部門の大賞と佳作をそれぞれ受賞し、文壇デビュー。後天性聴覚障害者。短編集『わたしたちが光の速さで進めないなら』(カン・バンファ、ユン・ジヨン訳、早川書房)は日本でもベストセラーとなり注目を集めた。2019年「今日の作家賞」、2020年「若い作家賞」を受賞。
 
キム ウォニョン (キム ウォニョン)
 本名、金源永。1982年生まれ。大学で社会学と法学を学び、ロースクールを卒業したあと国家人権委員会で働いた。現在は作家、弁護士、パフォーマーとして活動している。車椅子ユーザー。
 
牧野 美加 (マキノ ミカ)
 1968年大阪生まれ。釜慶大学言語教育院で韓国語を学んだあと、新聞記事や広報誌の翻訳に携わる。第1回「日本語で読みたい韓国の本翻訳コンクール」最優秀賞受賞。
 
【抜書】
●最初のサイボーグ(p13、キム・チョヨプ)
〔 最初のサイボーグは人間を宇宙に送るために考案された。アメリカのマンフレッド・クラインズ(Manfred Clynes)とネイザン・クライン(Nathan Kline)は一九六〇年、アメリカ航空宇宙局(NASA)の学術会議に提出する論文の執筆過程で、「サイバネティック(cybernetic)」と「有機体(organism)」を合わせた「サイボーグ(cyborg)」という造語を生み出した。サイボーグはテクノロジーによって改造された新しい形態の人間で、臓器移植や薬物の注入、機械との結合などによって、極限の宇宙環境でも生存できるよう増強された人間を意味する。このようにサイボーグという概念は、今すぐに実現可能な技術というより、遠い未来の、いつか開発されるべき技術に関する抽象的なアイデアからスタートした。それが文化や芸術、学問の領域へと徐々に広がっていき、具体的な形象を持ちはじめたのだ。〕
 
●弱い人たちが存在できる世界(p224、キム・チョヨプ)
〔 身体や能力の序列がなくなった世界を想像するのは容易ではない。正常ではない身体を持つ人が差別から解放される世界を思い描くことすら、漠然としていて難しい。むしろ、人間が死や老い、病気から解放された世界をイメージするほうが簡単かもしれない。けれど、たとえどんなに想像するのが難しくても、すべての人が「有能な」世界よりも、弱い人たちが平穏に、ありのままに存在する未来のほうが解放的だと、わたしは信じる。損傷など一切存在しないように見える未来よりも、苦痛の中にある身体、損傷した身体、何もできない身体を世界の構成員として歓待する未来のほうが、より開かれていると信じる。〕
 
●神の存在証明(p229、キム・ウォニョン)
 神が「いないことが立証されない限りわたしたちは(神を)信じる」ということ。
 ソウル大学のチョン・ハギュン教授は、ヒト胚性幹細胞複製に成功したという研究成果が、捏造であると断定された2006年の時点でも、「今すぐ証明されないからといって幹細胞がないとは考えない」と述べていた。まるで、神の存在の証明とそっくり。
 
(2023/11/25)NM
 
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誰が農業を殺すのか
 [社会・政治・時事]

誰が農業を殺すのか (新潮新書)
 
窪田新之助/著 山口亮子/著
出版社名:新潮社(新潮新書 976)
出版年月:2022年12月
ISBNコード:978-4-10-610976-8
税込価格:946円
頁数・縦:266p・18cm
 
 日本農業を殺したのは誰か?
 ずばり、農水省というのが本書の主張である。農水省の保護政策が農業をダメにした。その実例を、育種、零細農家、コメ先物市場、有機農法などで示しながら論じる。
 
【目次】
第1章 中韓に略奪されっぱなしの知的財産
第2章 「農産物輸出5兆円」の幻想
第3章 農家と農地はこれ以上いらない
第4章 「過剰な安心」が農業をダメにする
第5章 日本のコメの値段が中国で決まる日
第6章 弄ばれる種子
第7章 農業政策のブーム「園芸振興」の落とし穴
第8章 「スマート農業」はスマートに進まない
 
【著者】
窪田 新之助 (クボタ シンノスケ)
 農業ジャーナリスト。日本農業新聞記者を経て、2012年よりフリー。
 
山口 亮子 (ヤマグチ リョウコ)
 ジャーナリスト。京都大学文学部卒、中国・北京大学修士課程(歴史学)修了。時事通信記者を経てフリー。執筆テーマは農業や中国。
 
【抜書】
●サカタのタネ、タキイ種苗(p41)
 (株)サカタのタネとタキイ種苗(株)は、野菜種子のシェアが世界的に高く、世界の種苗会社の売り上げランキングでトップ10に入っている。
 
●Oishii Farm(p82)
 日本人の古賀大貴が2016年に創業。米国ニュージャージー州で、完全閉鎖型の植物工場を運営する。
 2022年6月から、米国の高級スーパーWhole Foods Marketのニューヨーク・ノマド店でイチゴの販売が始まった。
 完全閉鎖型……室内の環境が外界から完全に隔離された状態を保てる施設。人工光を利用し、温度や湿度も自動で調整。
 米国のイチゴ生産は、9割以上がカリフォルニア州。消費地の近くに植物工場を建てて生産すれば、鮮度のいいイチゴを供給できる。
 
●スリランカ(p120)
 スリランカ政府(ラジャパクサ大統領)は、2021年、「国内全土で有機農業を100%にする」という目標を打ち出した。5月から、化学的に合成された農薬と肥料の輸入を禁止した。
 コメの生産量が半年で20%減少し、米価は50%値上がり。食糧不足に陥り、それまで自給率100%超だったコメを大量に輸入する破目に。
 外貨を獲得できる茶は品質と収量が下がり、4億2500万ドルの損失を出した。
 かねてからの経済危機が一層深まる。
 11月には、農薬と肥料の輸入禁止は解除された。
 身の危険を感じた大統領は、2022年7月に国外脱出、辞任。
 
●みどり戦略(p122)
 日本でも、2021年5月、農水省が「みどりの食料システム戦略(みどり戦略)」を策定。2050年までに化学農薬の使用量50%減、化学肥料の使用量30%減、有機農業の面積を農地全体の25%に。
 2018年時点での有機農業の割合は0.5%だった。
 慣行農業……有機農業に対して、既定の範囲内で農薬や化学肥料を使う農法。
 
●トウモロコシ、ダイズ(p144)
 日本で栽培が認可されている「遺伝子組み換え作物」は、トウモロコシ、ダイズ、西洋ナタネなど、149品種。2022年8月時点。
 いずれも、世界共通の指針に基づき、食品と飼料、環境(生物多様性への影響)という三つの点で安全が担保されたもの。食品は食品衛生法と食品安全基本法、飼料は飼料安全法と食品安全基本法、生物多様性はカルタヘナ法に依拠。
 しかし、実際に日本で商業的に栽培されているのは、青いバラのみ。サントリー(株)が世界で初めて開発。バラの花弁には存在しない、青色の色素を作るのに必要な酵素の遺伝子を組み込む。
 
●キモシン(p150)
 牛乳を凝固させる作用を持つ酵素。子牛の4番目の胃から、少量しか取れない。チーズ作りに欠かせない。
 遺伝子組み換え技術を活用し、微生物にキモシンを作る遺伝子を組み込んで大量生産できるようになった。現在、世界におけるチーズの製造量の約6割が遺伝子組み換えキモシンを使用。一般社団法人Jミルクによる。
 
●堂島米会所(p157)
 1730年、大坂堂島米会所でコメの先物市場が開設された。世界初の先物取引?
 200年余り続いたが、1918年に富山県で起こった米騒動の影響で全面停止となった。
 2011年、大坂堂島商品取引所(現在は、堂島取引所)が72年ぶりに復活。試験的に始め、4回延長されたが、2021年に農水省により、本上場が不認可となった。
 
●中粒米(p184)
 中粒米……アジアの熱帯高地や米国、ブラジル、イタリア、スペインなどで栽培。リゾットやサラダ。
 長粒米……中国の中南部や東南アジア、米国南部などで栽培。ピラフ、カレーなど。
 日本では短粒米が一般的。
 
●とねのめぐみ(p196)
 直播用のコメの品種。日本モンサント(株)が、2005年に品種登録。
 農研機構が育成した「どんとこい」と、福井県が育成した「コシヒカリ」をかけ合わせて開発した。
 2018年、日本モンサントが製薬王手のバイエルに買収されたのを機に、茨城県稲敷郡河内町にある第三セクターの(株)ふるさとかわちに譲渡された。
 県が育成した品種は種子代が1㎏あたり400~500円。とねのめぐみは1,000円。しかし、多収性のため、コシヒカリに比べても利益が出る。
 
(2023/11/20)NM
 
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女ことばってなんなのかしら? 「性別の美学」の日本語
 [社会・政治・時事]

女ことばってなんなのかしら?: 「性別の美学」の日本語 (河出新書 063)
 
平野卿子/著
出版社名:河出書房新社(河出新書063)
出版年月:2023年5月
ISBNコード:978-4-309-63162-2
税込価格:946円
頁数・縦:213p・18cm
 
 日本語特有の「女言葉」を通して、日本のジェンダー格差を考える。
 
【目次】
第1章 女ことばは「性別の美学」の申し子
第2章 人称と性
第3章 日本語ってどんなことば?
第4章 西洋語の場合
第5章 日本語にちりばめられた性差別
第6章 女を縛る魔法のことば
第7章 女ことばは生き残るか
 
【著者】
平野 卿子 (ヒラノ キョウコ)
 1945年、横浜に生まれ、東京で育つ。翻訳家として小説、児童書、ノンフィクションなど幅広い分野で活躍。お茶の水女子大学卒業後、ドイツのテュービンゲン大学、アメリカのニューヨーク大学に留学。ヴァルター・メアス『キャプテン・ブルーベアの13と1/2の人生』で第9回レッシング翻訳賞を受賞。
 
【抜書】
●明治時代(p18)
〔 いま、私たちが「女言葉」と認識している「だわ」「のよ」といった言葉づかいの起源は、明治時代の女学生の話し言葉です。ただ、当時は正しい日本語とは扱われず「良妻賢母には似合わない」「下品で乱れた言葉」だと、さんざん非難されていたのです。女言葉が正当な日本語に位置づけられたのは、朝鮮半島や台湾などの植民地でとられた同化政策の中でのことです。「女と男で異なる言葉遣いをする」のが日本語のすばらしさであるとされ、多様な言葉づかいの一部だけを「女言葉として語る」ことで、概念が生み出されました。
 戦後は日本のプライドを取り戻すため、女言葉はさらに称賛されるようになります。その中で、「女学生の流行り言葉」だったはずが、起源を捏造され、「山の手の中流以上の良家のお嬢様の言葉」だったと喧伝されるようになります。日本女性は丁寧で控えめで、上品だという「女らしさ」と結びつけられ、「女ならば女言葉を使うはずだ」という意識も生まれました。〕
 言語学者の中村桃子、『朝日新聞』(2021年11月13日)より。
 
●男女棲み分け社会(p42)
〔 西洋諸国が「カップル社会」なら、日本はさしずめ「男女棲み分け社会」といえるでしょう。けれども根底にある考えは同じです。どちらにも「女は愚かで弱い」という大前提があり、それが西洋では「だから、俺のそばを離れるな」となり、日本では「だから、引っ込んでろ」となっただけのこと。〕
 
●日本のジェンダー格差(p110)
 日本にジェンダー格差がなくならない理由。
 (1)人生のあらゆる局面において、日本人には日本独自の「性別の美学」が深く刷り込まれている。
 (2)参政権や婚姻の自由をはじめ、70年以上前から名目の上では両性がいちおう平等である。ただし、戦後の民主憲法によって与えられたもので、女性たちが勝ち取ったものではない。
 (3)日本の女性には、西洋の女性にはない「自由」があったこと。
  1.行動の自由……カップル社会の西洋とは異なり、日本では女性が一人で、あるいは「女子会」など複数で自由に行動できる。
  2.お金を使う自由……家計を管理しているのは、多くが妻であった。
 日本の女性は、日々の暮らしにおいて「そこそこ」自由だった。西洋の女性たちのような、平等に対する切羽詰まった欲求を感じることが少なかった。
 しかし、日本の男女格差がなくならない最大の理由は、既得権益をがっちり握ったまま手放さないホモソーシャルな社会構造にある。
 
●声の性差(p168)
〔 男の子は自分より年長の男性を真似ようとして、無意識に必要以上に低い声を出す。同様に女の子は、生物学的に決まっている以上に高い音域で話をする、そのほうが女性らしいと無意識に学習しているのだ。〕
 米国の神経科学者リーズ・エリオット『女の子の脳 男の子の脳』より。
 
(2023/11/18)NM
 
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デオナール アジア最大最古のごみ山 くず拾いたちの愛と哀しみの物語
 [社会・政治・時事]

デオナール アジア最大最古のごみ山――くず拾いたちの愛と哀しみの物語
 
ソーミャ・ロイ/著 山田美明/訳
出版社名:柏書房
出版年月:2023年9月
ISBNコード 978-4-7601-5530-9
税込価格:2,860円
頁数・縦:372, 10p・19cm
 
 120年前から存在する、インドの大都市ムンバイのゴミ集積所、デオナール。ゴミ山の面積は1.32㎢、高さは36mにも達するという(p.22)。
 8年におよぶ取材と交流をもとに、ゴミ山で生活の糧を得て暮らす「くず拾い」の人びとの生活を、10代の少女ファルザーナー・アリ・シェイクとその家族を中心に活写する。並行して、遅々として進まない行政の対応についても描く。
 
【目次】
ファルザーナー
最初の住民
子どもたち
管理不能
ギャング
不運
火災
裁判
立入禁止
シャイターン
十八歳
闇ビジネス
理想
惨事
ナディーム
約束
カネ
選挙
〔ほか〕
 
【著者】
ロイ,ソーミャ (Roy, Saumya)
 ムンバイを拠点とするジャーナリストで活動家。2010年、ムンバイの最も貧しい零細企業家の生活を支援するヴァンダナ財団を共同設立し、デオナールに依存するコミュニティに出会う。『フォーブス・インディア』『ウォール・ストリート・ジャーナル』『ブルームバーグ』などに寄稿。アジア最大のスラム街に関するエッセイ集Dharavi: The Cities Within(harperCollins, 2013)にも原稿を寄せている。
 
山田 美明 (ヤマダ ヨシアキ)
 英語・フランス語翻訳家。
 
【抜書】
●愛(p242)
 〔手術を続けるため、ジャハーンギールは自分の貯金にも手をつけた。自分のごみビジネス、自分の縄張りでの稼ぎ、ジャーヴェード・クレーシーの仕事などで数年にわたり少しずつ貯めたお金である。それでもお金が足りなくなると、路地での成功の証でもあるモーターバイクを売った。あっという間に生活は苦しくなったが、ファルザーナーのことしか考えられなかった。これは、私がごみ山の周囲の路地を歩くようになって以来、何度も目にしてきた光景である。ごみ山の麓では、ごみが提供する気まぐれな幸運以外に頼るものが何もないなか、愛だけは強烈な輝きを放っていた。くず拾いたちの不安定な生活のなかでも、愛だけはほぼ不変だった。〕
 ジャハーンギール……ファルザーナーの長兄。
 
(2023/11/13)NM
 
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気候崩壊後の人類大移動
 [社会・政治・時事]

気候崩壊後の人類大移動
 
ガイア・ヴィンス/著 小坂恵理/訳
出版社名:河出書房新社
出版年月:2023年8月
ISBNコード:978-4-309-25461-6
税込価格:2,970円
頁数・縦:298, 18p・19cm
 
 待ったなしの地球温暖化、気候崩壊。その対策として、高緯度地方への移住を提案する。また同時に、ジオエンジニアリングによる寒冷化対策についても言及。
 温暖化によって住みやすくなる寒冷地に新しい都市を建設し、そこに人類大移動を促す。しかし、食糧供給地となる農村はどのように維持されていくのだろうか。また、移住先や食糧生産地として想定される高緯度地方は、冬の日照時間が短い。人々の健康や食糧生産に関して、不都合な点もあるだろう。これに関してあまり触れていないが、いろいろと大丈夫なのだろうか。
 
【目次】
第1章 嵐
第2章 人新世の四騎士
第3章 故郷を離れる
第4章 移民を締め出す愚行
第5章 移民は富をもたらす
第6章 新しいコスモポリタン
第7章 安息の地、地球
第8章 移民の家
第9章 人新世の居住地
第10章 食料
第11章 エネルギー、水、材料
第12章 回復
 
【著者】
ヴィンス,ガイア (Vince, Gaia)
 サイエンス・ライター。ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン人新世研究所名誉シニア・リサーチ・フェロー。『ネイチャー』誌や『ニュー・サイエンティスト』誌の元シニア・エディター。関心の対象は、人類と地球環境の相互作用。2015年、初の著書『人類が変えた地球―新時代アントロポセンに生きる』(化学同人)で、英国王立協会科学図書賞を女性ではじめて受賞。2020年、第二作『進化を超える進化―サピエンスに人類を超越させた4つの秘密』(文藝春秋)も、同賞の最終候補に選出。
 
小坂 恵理 (コサカ エリ)
 翻訳家。
 
【抜書】
●人類アイデンティティ(p18)
 限られた都市に人口を集中させて、人類運命共同体を構築するために、人口過密に伴うリスクの軽減に努めることが課題になる。停電、衛生問題、息苦しいほどの暑さ、汚染、伝染病の問題に取り組む必要がある。
〔 そしてもうひとつ、少なくともそれと同程度に難しい問題が残っている。それは地政学的なマインドセットの克服で、自分は特定の場所に帰属しており、そこが自分の居場所だという発想を手放さなければならない。要するに、住み慣れた国を追われた難民として、誰もが地球市民という自覚を持つのだ。種族としてのアイデンティティの代わりに、人類という生物種としてのアイデンティティを持つべきだ。これからは国境に制約されない多様な社会への同化が必要で、極地に新たに建設された都市に住む可能性もある。必要とあれば、いつまでも再び移動する準備を整えておかなければならない。〕
 
●世界を一変させる四つの問題(p35)
 火事……人々が立ち退きを迫れる。
 猛暑……熱波が人命を奪う。
 旱魃……農業が不可能になる。
 洪水……人類の大部分の生活が脅かされる。
 
●3200年前(p70)
 およそ3200年前、中東が異常気候に見舞われて旱魃が300年間続いた結果、文明のネットワーク全体が崩壊した。
 エジプト新王国時代の最後の偉大なファラオ、ラムセス3世の埋葬殿の壁には、陸からも海からも大移動の波が押し寄せ、遠方からの謎の侵略者と武力衝突があったことが記されている。
 シュメール人は、気候難民の侵入を防ぐために全長100kmに及ぶ壁を設けるが、効果はなかった。難民の一部はさらに北の地域に定住し、バビロンという都市を建設し、新しい文明を生み出した。
 数十年のうちに、青銅器文化を持つ世界全体が崩壊した。この崩壊の恩恵を受けたのが、平原を移動して暮らす遊牧民だった。
 
●パレオ・エスキモー(p76)
 パレオ・エスキモーは、6000年前に、厚い氷に覆われた荒海を越えてシベリアから北米まで航海し、カナダに定住した。
 カナダ南部で高度に発達した文化を持つアメリカ・インディアンの先住民と縄張りを共有したが、意識的に孤立状態を選んだ。やがて、時間の経過とともに困難に見舞われ、絶滅した。
 近親相姦のせいで健康が悪化した可能性があり、文化も退化した。よその集団とのコミュニケーションが不足したため、跡形もなく消えてしまった。
 
●15億人(p103)
 国際移住機関によると、気候変動などの影響で、2050年までに最大で15億人が住み慣れた家を離れなければならないと推計。
 別の科学者チームによる最近の分析では、2070年までに最大で30億人に達すると予想。
 
●格上げ(p117)
 移民の未熟練労働者が肉体労働に従事するようになると、現地の言葉を話して経験の豊かな現地の労働者は、優れたコミュニケーション能力が必要とされる職種に格上げされ、賃金も上昇する。
 こうした職業のグレードアップはデンマークの研究でも確認された。20世紀初めにヨーロッパから移民が米国に押し寄せたときにも見られた現象である。
 移民が加われば能力やスキルや知識の多様性が高まるので、労働力全般の生産性が向上し、すべての人が恩恵にあずかる。
 
●ナンセン・パスポート(p129)
 無国籍の難民に発行されたパスポート。実現に貢献したノルウェーの探検家フリチョフ・ナンセンにちなむ。
 第一次世界大戦後の1922年から38年にかけて50万通発行された。その大半はアルメニアとロシアの難民が対象だった。ハンガリー出身のロバート・キャパもその一人。
 ナンセン・パスポートの有効期限は最大で1年だが、更新も可能だった。所持していれば別の国に移住しても仕事を探すことができ、難民は狭い場所に押し込められる境遇から解放され、当時の国際連盟の加盟国の間で「公平に」割り当てられるようになった。
 受入国は、国境からの避難民の出入りの追跡が可能。
 難民は、保護を受ける亡命先の当局から新しい市民権を与えられるまでの間、新しい形で国際的に身分が保証された。
 
●6%(p131)
 EU域内の移動の自由が保障されたおかげで、ヨーロッパの平均失業率は6%低下した。
 
●ヌサンタラ(p202)
 1年に25cm、地面が沈み込んでいるジャカルタでは、集団での移動を目指している。何十億ドルものを資金を費やし、ジャカルタ市民(2050年までに1,600万人になると推定)を波の被害から守る。
 インドネシア政府は、熱帯雨林が生い茂るカリマンタン島の高台に新しい都市を建設し、そこを新たな首都に定めることにした。ヌサンタラと名付けた。
 しかし、今後数十年を費やす建設工事は、地球で最も重要な生態系の一つに深刻な被害をもたらす。しかも、完成しても市民は熱波や火災の影響を受けやすい。
 
●キリバス(p205)
 経済は漁業とココナツ生産に依存。海抜が低く、水没の危険がある。
 アノテ・トン大統領は、フィジーに土地を購入し、危機が訪れたときには国民を移住させる計画。10年前から、「尊厳ある移住」プログラムを始め、まずは就労目的で国民を徐々に海外へ送り出した。ニュージーランドには看護師を派遣。国民が大量の難民となって人道支援に頼る事態を避けるため。
 
●20%(p208)
 冷房は、現在、世界のエネルギー生成の20%を占める。
 2050年までには3倍に増えると予想される。
 
●海洋肥沃化(p269)
 海は砂漠の土壌から運ばれてきたミネラルによって、自然に肥沃化する。こうして獲得された栄養素のおかげで、植物プランクトンの生長が促される。光合成の過程で、二酸化炭素全体の40%を吸収すると推測される(アマゾン熱帯雨林の吸収量の4倍)。
 海洋肥沃化によって植物プランクトンが増えれば、クジラの生息数も回復する。クジラは、深海で餌を食べてから、呼吸するために海面に戻って排泄する。そこには鉄分が多く含まれているので、植物プランクトンが増える。植物プランクトンを餌にするオキアミが増え、オキアミを食べるクジラの生息数も回復する。
 
●太陽放射(p276)
 2021年の研究によれば、炭素排出量を減らすより、ジオエンジニアリングで太陽放射を管理するほうが、作物の収穫に良い効果がもたらされる。二酸化炭素は、光合成の過程で植物が利用しているため。
 たとえば、硫酸塩を成層圏に噴霧すれば、冷却効果はすぐに現れる。ただし、長続きしないので、継続的に行う。
 ただし、ジオエンジニアリングと二酸化炭素削減は同時に実施すべき。
 
【ツッコミ処】
・社会的包容力(p138)
〔 ヨーロッパのニ十カ国を対象にした調査によれば、移民を受け入れる規模と移民への好意的な態度のあいだには、相関関係が成り立つ。「移民の割合がごくわずかな国は最も敵対的で、移民の存在が社会で大きな国は最も寛容である」ことを研究者は明らかにした。
 一方、移民危機は、移民とは無関係な要因から生まれることが確認されている。制度への信頼が揺らいでいるとき、社会が閉鎖的なとき、政治への不満が募ったときなどに発生する。制度への信用や社会的包容力のレベルが低い国は、移民への不安が最も大きいことを研究者は明らかにした。極右のポピュリスト集団は、従来は左派が掲げてきた経済的・社会的政策――雇用維持や福祉国家への支持――を反移民のレトリックで脚色する。そこからは、労働者階級のコミュニティが直面する社会的問題の責任は移民にあるという認識が育まれる。「移民への敵対的な態度は、移民本人とはほとんど無関係だ」と研究は結論している。〕
  ↓
 移民・難民の受け入れに消極的な日本は、社会的包容力のレベルが低い??
 
(2023/11/10)NM
 
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科学でかなえる世界征服
 [自然科学]

科学でかなえる世界征服
 
ライアン・ノース/著 吉田三知世/訳
出版社名:早川書房
出版年月:2023年7月
ISBNコード:978-4-15-210255-3
税込価格:2,420円
頁数・縦:443p・19cm
 
 現代科学の粋を尽くして世界征服を目指すスーバー・ヴィランになるための取説。
 
【目次】
第1部 スーパーヴィランの超基本
 スーパーヴィランには秘密基地が必要だ
 自分自身の国を始めるには
第2部 世界征服について語るときに我々の語ること
 恐竜のクローン作成と、それに反対するすべての人への恐ろしいニュース
 完全犯罪のために気候をコントロールする
 地球の中心まで穴を掘って、地球のコアを人質にする方法
 タイムトラベル
 私たち全員を救うためにインターネットを破壊する
第3部 犯罪が罰せられなければ、犯人はそれを犯したことを決して悔いない
 不死身となり、文字通り永遠に生きるには
 あなたが決して忘れられないようにするために
 
【著者】ノース,ライアン (North, Ryan)
 作家。コミック作家としての顔ももち「ADVENTURE TIME」シリーズは漫画のアカデミー賞と呼ばれるアイズナー賞とハーヴェイ賞を受賞、マーベルの「絶対無敵スクイレルガール」シリーズの原作も担当している。
 
吉田 三知世 (ヨシダ ミチヨ)
 京都大学理学部物理系卒業。英日・日英の翻訳業。
 
【抜書】
●ビル・タウィール(p99)
 1899年、エジプトを占領していたイギリス軍が、スーダンも手に入れた。この2国の間に、直線的な国境線を引いた。
 1902年、イギリスはこの土地を住民たちにどのように使われているかを反映させるため、新たに行政区分を決める境界線を引いた。
 イギリスはこの地域から手を引き、1956年、スーダンがエジプトから独立した。エジプトとスーダンは、イギリスが引いた境界線のうち、自分たちに都合のよいほうを採用した。その結果、紅海に面するハラーイブ・トライアングル(広大で資源豊富な2万580㎢)をどちらの国も領土と主張。しかし、内陸部のビル・タウィール(2060㎢)は、どちらの国も領有を拒否した。
 
●521年(p121)
 DNAの半減期は、521年。最近の研究による推測。6500万年前に絶滅した非鳥類型恐竜のDNAは残っていないことになる。
 
(2023/11/6)NM
 
〈この本の詳細〉


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