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宇宙を動かしているものは何か
 [自然科学]

宇宙を動かしているものは何か (光文社新書 1218)
 
谷口義明/著
出版社名:光文社(光文社新書 1218)
出版年月:2022年9月
ISBNコード:978-4-334-04625-5
税込価格:1,078円
頁数・縦:244・18cm
 
 宇宙にある力は、すべて遠隔力である。重力、電磁力、強い力、弱い力……。
 宇宙に満ち溢れ、宇宙を形成している「力」について、その発見の歴史を通じて解説。
 
【目次】
第1章 宇宙を動かすもの
第2章 宇宙にあるエネルギー
第3章 重力と電磁気力
第4章 接触力よ、さようなら
第5章 原子の世界の力
第6章 星のエンジン
第7章 暗躍するブラックホール
第8章 宇宙を動かすエンジン
第9章 進化する宇宙のエンジン
第10章 ダークな宇宙とその未来
 
【著者】
谷口 義明 (タニグチ ヨシアキ)
 1954年北海道生まれ。東北大学理学部卒業。同大学院理学研究科天文学専攻博士課程修了。理学博士。東京大学東京天文台助手などを経て、放送大学教授。専門は銀河天文学、観測的宇宙論。すばる望遠鏡を用いた深宇宙探査で、128億光年彼方にある銀河の発見で当時の世界記録を樹立。ハッブル宇宙望遠鏡の基幹プログラム「宇宙進化サーベイ」では宇宙のダークマター(暗黒物質)の3次元地図を作成し、ダークマターによる銀河形成論を初めて観測的に立証した。
 
【抜書】
●1兆個(p28)
 宇宙には、美しい渦巻銀河や円盤を持たない楕円銀河(三次元形状は回転楕円体)など、1兆個もの銀河がある。
 一つの銀河には、数百億から数千億個もの星々がある。
 
●ウロボロスのヘビ(p93)
  古代ギリシャ時代の象徴の一つ。ウロボロスは自分自身の尾を噛んで輪の形をしているヘビ。語源はまさに「尾を飲み込むヘビ」。
 米国の素粒子物理学者のシェルドン・グラショー(1932-)が自然の階層構造を示すのに用いてから、科学の世界でよく使われるようになった。
 
●クォーク(p104)
 私たちのよく知っている核子である陽子と中性子は、第一世代のクォーク(アップ・クォークとダウン・クォーク)のみで構成されている。
 しかし、核子や中間子の中には第二世代や第三世代のクォークを含むものもある。
  世代  | 名称  | 記号 | 電荷 | 質量(MeV/c²)
  第一世代  アップ    u  +2/3   3
        ダウン    d   -1/3   7
  第二世代  チャーム   c   +2/3   1,290
        ストレンジ   s   -1/3   100
  第三世代  トップ    t   +2/3    172,000
        ボトム    b   -1/3  4,190
 
●量子トンネル効果(p208)
 日常の世界では、ボールを壁に向かって投げると壁にぶつかり、跳ね返ってくる。
 ミクロの世界では、粒子の物理量は揺らいでいるため、ある確率で壁をすり抜けることができる。
 量子トンネル効果により、「無」は有限の大きさを持つ宇宙に変貌を遂げることができる。宇宙は「無」(エネルギーゼロ)から始まった。
 
●ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(p222)
 2022年に稼働。ハッブル宇宙望遠鏡の後継機。
 
(2024/3/29)NM
 
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生き物の「居場所」はどう決まるか 攻める、逃げる、生き残るためのすごい知恵
 [自然科学]

生き物の「居場所」はどう決まるか-攻める、逃げる、生き残るためのすごい知恵 (中公新書 2788)
 
大崎直太/著
出版社名:中央公論新社(中公新書 2788)
出版年月:2024年1月
ISBNコード:978-4-12-102788-7
税込価格:1,155円
頁数・縦:282p・18cm
 
 生き物がいかにして自らの「居場所」を確保するのか、生存競争のさまを、これまでに提唱された研究成果と考察を参照しながら解説。
 
【目次】
第1章 「種」とは何か
第2章 生き物の居場所ニッチ
第3章 ニッチと種間競争
第4章 競争は存在しない
第5章 天敵不在空間というニッチ
第6章 繁殖干渉という競争
終章 たどり来し道
 
【著者】
大崎 直太 (オオサキ ナオタ)
 1947年、千葉県館山市生まれ。鹿児島大学農学部卒業。名古屋大学大学院農学研究科博士課程後期課程中退。京都大学農学部助手、米国デューク大学動物学部客員助教授、京都大学大学院農学研究科講師、准教授、国際昆虫生理学生態学研究センター(ICIPE、ケニア)研究員、山形大学学術研究院教授を歴任。農学博士。専門・昆虫生態学。
 
【抜書】
●リンネの使徒(p15)
 カール・フォン・リンネ(1707-78年)は、当時の強国スウェーデン・バルト帝国の版図全域を4度に分けて探検調査旅行を実施した。海外は、オランダとその周辺のフランスやイギリスの研究者を訪れただけだった。
 しかし、17人の弟子たちを世界各地に派遣して、動物・植物・鉱物、三界の標本収集に努めた。
 その一人がカール・ツンベルク(1743-1828年)で、日本にもやって来た。スウェーデン人のツンベルクはオランダ人に成りすまし、出島のオランダ商館医師として1775年8月から1年4カ月間滞在した。『日本植物誌』(1784年)、『日本植物図譜』(1794年)などの著書がある。日本滞在中は、将軍徳川家治に拝謁し、幕府医官桂川甫周、小浜藩医中川淳庵と交わり、医学だけでなく、植物学、物理学、地理学、経済学の知識を伝えた。
 
●ラマルク(p16)
 ジャン=バティスト・ラマルク(1744-1829年)は、1793年、50歳にして植物分類学から動物分類学に転じた。フランスの国立自然史博物館にて、昆虫と蠕虫の担当になった。そして、動物を脊椎動物と無脊椎動物に分けた。動物界の分類単位の上位に「門」を置き、脊椎動物門と無脊椎動物門としたのである。
 また、『水理地質学』(1802年)では、動物と植物を一つにまとめ、「生物」という語を作った。物質というものは元素の集まりであり、動物も植物も生命を維持するために外界から元素でできている物質を得ている。それを体内で新たな物質に変えて生きている。やがて生命活動を終えれば、動物も植物も分解されて元の元素に返っていく同じ生物という存在だと考えた。だからこそ、ラマルクは、生物は常に自然に単純な構造で発生すると考えた。
 『動物哲学』(1809年)では、「用不用説」「獲得形質の遺伝説」を説いた。ダーウィン以前に説かれた最初の本格的な進化論。現在では否定されている。
 
●テルナテ論文(p46)
 1858年、ダーウィンはウォーレスから2度目の封書を受け取った。インドネシアのモルッカ諸島にある小さな火山島テルナテ島からの投稿。
 「変種が元の型から限りなく遠ざかる傾向について」という論文。マルサス『人口論』にヒントを得ていた。人間だけでなく生物一般も、生き残れる以上の子どもを残し、生存のためにわずかでも有利な変異が起こったなら、その個体はそれだけ生き残る可能性が高く、子孫を残すために、有利な形質が淘汰され進化する。
 ダーウィンはライエルとフッカーに相談し、リンネ協会の直近の会議でダーウィンの進化論の概要と「テルナテ論文」を同時に紹介することにした。その講演の紀要は、ダーウィンとウォーレスの共著という形になった。
 
●ロジスティック曲線(p51)
 環境収容力に至るまでの生物の個体数の推移を描いた曲線。ベルギー陸軍大学の数学教授ピエール=フランソワ・フェルフルスト(1804-49年)による。
 マルサス『人口論』から示唆を得る。個体数は等比級数的に増加するが、食糧は等差級数的にしか増加しない。人口と食糧は伸び率が異なっても結果的にバランスが取れるに違いない、というもの。
 曲線は、はじめは徐々に増加するが、次第に急激な増加に転じ、その後、増加が漸減して上限に達し、飽和状態になる。
 dN/dt=rN(1-N/K):ロジスティック方程式。
  N:個体数 t:時間 dN/dt:時間tにおける個体数の増加率
  r:自然増加率 K:環境収容力
 
●密度依存要因(p53)
 個体数が環境収容力(K値)に達すると、1メスあたりの産卵数が減る。
 レイモンド・パール(1879-1940年)が、キイロショウジョウバエで実験。餌量を常に一定に保つと、個体数は一定に保たれ、メスの産卵量が減った。
 
●食物網(p64)
 現在では、「食物連鎖」のことを「食物網」と言い換えている。
 
●ガウゼの競争排除則(p68)
 1934年、ゲオルギ・ガウゼ(1910-86年)が論文を発表。
 大型のゾウリムシと小型のヒメゾウリムシを混ぜて飼育する。ヒメゾウリムシは、1種で飼育したときよりもやや低い量でロジスティック曲線を描いて平衡状態に達した。ゾウリムシは、最初のうちは増殖したが、やがて減少に転じ、絶滅した。
 2種の生き物が同じニッチを利用した場合、一方の種は絶滅し、他方の種だけが生き残る。
 
●ハッチンソンの比(p74)
 ニッチの近い生物が1:3。共存可能なサイズの比。ジョージ・ハッチンソン(1903-91年)。
 ニッチの近い鳥の体長、ニッチの近い動物の頭骨の長さを測って共存の有無を調査。
 たとえば、同じ池の中で水生昆虫を食べているニッチの近い2種の魚がいたとする。もし魚の口のサイズが等しいなら、同じサイズの水生昆虫を巡って競争が生じ、共存が困難になる。口のサイズが異なると、大きさの異なる昆虫を餌とするので、競争は緩和され、共存が可能となる。
 
●マネシツグミ(p79)
 ダーウィンがガラパゴス諸島で関心を持ったのは、3種のマネシツグミだった。
 最初、3種の鳥は、形態は少しずつ異なるが、変種に過ぎないと考えた。
 イギリス帰国後、標本の調査を鳥類画家グールドに依頼。3種の鳥はきわめて近縁な同じグループの別種で、ガラパゴス諸島の固有種だと言われた。その結果をもとに『種の起源』を執筆。
 
●中規模攪乱説(p147)
 1978年、カリフォルニア大学サンタ・バーバラ校のジョセフ・コネル(1923-2020年)が「熱帯降雨林とサンゴ礁の多様性」という論文を『サイエンス』に発表。
 熱帯降雨林は、暴風、地滑り、落雷、昆虫の食害などによって樹木が折れたり枯れたりして攪乱されている。サンゴ礁は、嵐の波、陸地の洪水による淡水の流入や堆積物の流入、捕食者の群れの出現などの要因によって絶えず攪乱されている。この攪乱が中規模に続く限り、種の多様性が最大に維持される。
 攪乱が少ないと、極相林が形成される。
 
●緑の世界仮説(p159)
 1960年、ミシガン大学の3人の生態学者が提唱。
 地球は緑の植物に溢れている。植物を餌資源としている昆虫や動物などの植食者には餌資源をめぐっての競争はない。野外での研究を通して、植食者の密度は、競争が起きるような高密度にはなり得ないと主張された。
 密度を抑える最大の要因は、捕食者や捕食寄生者や病原菌など、天敵類の存在。
 
●天敵不在空間(p160)
 1984年、ジョン・ロートン(1943年~)とマイケル・ジェフェリーズが、イギリス・リンネ協会の『生物学誌』に「天敵不在空間と生態的群集の構造」という論文を発表。ロートンは、植食性昆虫に競争はないと主張した『植物を食べる昆虫』の著者の一人。
 生き物のニッチは、生き物と天敵の相互作用により、天敵からの被害を少しでも軽減できる空間、すなわち「天敵不在空間」として占められている。
 天敵不在空間は、天敵の全くいない空間を指す語ではない。天敵に囲まれていても絶滅せずに、生き延びることができるニッチのこと。
 
(2024/3/27)NM
 
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動物感覚 アニマル・マインドを読み解く
 [自然科学]

動物感覚 アニマル・マインドを読み解く
 
テンプル・グランディン/著 キャサリン・ジョンソン/著 中尾ゆかり/訳
出版社名:NHK出版
出版年月:2006年5月
ISBNコード :978-4-14-081115-3
税込価格:3,520円
頁数・縦:443, 17p・20cm
 
 自閉症の動物学者が、動物の知性と意識に関して考察し、動物との正しい関わり方を教示する。
 
【目次】
第1章 私の動物歴
第2章 動物はこんなふうに世界を知覚する
第3章 動物の気持ち
第4章 動物の攻撃性
第5章 痛みと苦しみ
第6章 動物はこんなふうに考える
第7章 動物の天才、驚異的な才能
動物の行動と訓練の仕方の問題点を解決する
 
【著者】
グランディン,テンプル (Grandin, Temple)
 コロラド州立大学准教授。イリノイ大学で動物科学博士号を取得。自ら経営する会社、グランディン・ライヴストック・システムズを通じて、アメリカ国内のファーストフードの指定業者と提携し、世界中の動物施設の状況を監査する。動物科学と自閉症について講演を行い、多くの自閉症の人々とその家族の模範となっている。
 
ジョンソン,キャサリン (Johnson, Catherine)
 脳と神経精神病学を専門とする著述家。全米自閉症研究連盟会理事を7年間務めた。夫と子どもたちとともにニューヨーク州アーヴィントン在住。
 
中尾 ゆかり (ナカオ ユカリ)
 1950年生まれ。西南学院大学文学部卒業、現在翻訳業。
 
【抜書】
●ふつうの人(p39)
〔 ふつうの人が自閉症の子どもを「自分の狭い世界に閉じこもっている」と判で押したようにいうのを聞いて、いつも何となくおかしくなる。動物を相手にしばらく仕事をしていると、ふつうの人にも同じことがいえるのが分かってくる。彼らがほとんど受け入れていない広大な世界があるのだ。たとえば、犬は私たちには聞こえない音域の音を聞いている。自閉症の人と動物は、ふつうの人には見えない、あるいは見ていない視覚の世界を見ている。〕
 
●抽象思考人間(p43)
〔 ふつうの人が大脳に頼りすぎるのは困ったことだ。私はこれを思考が抽象化されているという。〕
 〔この手の計画をまとめるには、優秀な専任の現地調査員が必要だ。ところが、当節は抽象思考人間が担当していて、現実にもとづかない抽象的な議論や論争にしばられる。これは、政府内に派閥抗争が多い理由にもなっているのだろう。私の経験では、人は抽象的に考えると、ますます過激になる。いつまでたっても終わらない論争の泥沼にはまり、現実の世界からかけはなれていく。唯一すべてに片がつくのは、緊急事態の場合のみだ。そうなると、たちまち、だれもが行動せざるをえない。〕
 
●犬の近視(p61)
 犬の視力は、犬種によっても違う。
 ジャーマンシェパードとロットワイラーは近視が多い。前者は53%、後者は64%が近視。
 近視の犬は、正常な犬に輪をかけて視力が悪い。
 
●意識(p71)
 定位反応……動物が生まれながらに持っている反応。初めて聞いたり見たりするものに、自動的に反応を示す。
 〔動物は、音にどう対処するか意識的に決断しなければならないのだから、定位反応は意識のはじまりだと私は考える。被食動物であれば、逃げなければならないのか。捕食動物なら、なにかを追う必要があるのか。捕食動物も逃げなければならない場合がもちろんあるだろうから、ふたとおりの決断に迫られることになる。〕
 
●TRP2(p87)
 ヒトを含めた旧世界霊長類は、フェロモン系が退化した。TRP2と呼ばれる遺伝子に、多数の突然変異を持っている。TRP2は、「フェロモンの情報を伝える経路」。
 旧世界霊長類のTRP2遺伝子が劣化しはじめた時期は、三色型色覚を発達させた2,300万年前ごろ。ミシガン大学の進化生物学者ジャンツィ・ジョージ・ツァンによる。
 三色で見えるようになると、嗅覚の代わりに視覚を使って連れ合いを見つけるようになった?
 
●探索システム(p130)
 ドーパミンは、脳内の快楽物質と考えられてきた。快楽中枢(報酬中枢)を刺激する。コカイン、ニコチンなどの刺激物は脳内のドーパミン値を上昇させる。
 探索回路にかかわる主要な神経伝達物質もドーパミンである。
 新しい説では、コカインのような薬物が快感を与えるのは快楽中枢ではなく、脳内の探索システムを激しく刺激するからだと考える。好奇心/関心/期待回路が刺激され、それが快く感じられる。
 (1)脳のこの部分を刺激されている動物が、強い好奇心があるように行動する。
 (2)脳のこの部分を刺激されている人間が、楽しくて興味津々だと述べる。
 (3)脳のこの部分は、動物が近くに食べ物がありそうな気配を感じると活発になり、実際に食べ物を見ると活動が止まる。
 
●痛みを隠す(p240)
 動物は、痛みを隠す。
 自然界では、傷ついた動物は捕食動物に殺される可能性が高いので、どこも悪くないようにふるまう習性を生まれつき持っている。
 ヒツジやヤギやレイヨウなど小型のか弱い被食動物はとりわけ我慢強い。捕食動物はそうでもない。猫は怪我をすると脳天を突き抜けるような声で鳴きわめき、犬は人に足を踏んづけただけでも殺されかけているような悲鳴を上げる。
 
●恐怖、不安(p254)
 恐怖……外からの脅威に対する反応。
 不安……心の中の脅威に対する反応。
 恐怖と不安の根底にある脳のシステムが同じものかどうかは、明らかになっていない。ウィスコンシン大学の精神科医ネッド・カリンの調査では、「恐怖の刺激に対する最初の反応」と「心配性」に違いがあることが分かった。恐怖の刺激を司るのは偏桃体。心配性にかかわるのは前頭前野。
 
●AOS、MOS(p268)
 どの動物にも、二通りの嗅覚系統がある。
 近距離のにおい感知システム(副嗅覚系AOS)と、遠距離のにおい感知システム(主嗅覚系MOS)。
 AOSは、脳内の恐怖中枢と結びついているが、MOSはそうではない。
 
●プレーリードッグの言語(p359)
 北アリゾナ大学のコン・スロバチコフの研究。
 米国およびメキシコに生息するガニソン・プレーリードッグの危険を知らせる鳴き声を分析して、名詞、動詞、形容詞を備えた意思伝達システムがあることを発見した。
 どんな種類の捕食者(人間、タカ、コヨーテ、犬:名詞)が接近しているのか、どんな速度で移動しているのか(動詞)を教えあう。また、身体の大きさや形ばかりではなく、服の色(形容詞)まで教えあっている。さらに、いきなり襲うコヨーテなのか、巣穴の前で辛抱強く待つコヨーテなのか、コヨーテを一匹ずつ識別している。
 これらの鳴き方を、学習によって身につけている。群れによってそれぞれの方言がある。
《言語の定義》
 ・意味。
 ・生産性……同じ言葉を使って無限の数の意思伝達が新たにできる。
 ・超越性……言葉を使って、目の前にないものについて話すことができる。
 プレーリードッグの『言語」の超越性に関しては、まだわかなっていない。
 
●シーザーアラート(p378)
 シーザー・レスポンス……発作反応。犬が、人間の発作に反応してサポートすること。ケガをしないように体の上に覆いかぶさる、薬や電話機を持ってくる、家族に知らせる、など。
 シーザー・アラート……発作感知。発作を予測して、本人に警告してくれる。
 ある調査では、シーザー・レスポンス犬からシーザー・アラート犬に進歩したのは10%。犬が自ら学習した。
 
●オオカミ(p398)
 人間はオオカミのおかげで進歩した。
〔 人間が動物を飼いならした話や、オオカミを犬に変えたという話はつねに耳にする。ところが新しい研究では、オオカミのほうが人間を飼いならしたかもしれないということもあきらかになっている。人間はオオカミとともに進化したのだ。〕
 最初に埋葬された犬は、1万4千年前。
 DNA調査では、犬がオオカミから分離したのは13万5千年前。10万年前より、人骨の付近にオオカミの骨がたくさん見つかる。
 オーストラリアの考古学者のチームは、原始人はオオカミと仲間だった時代に「オオカミのように行動して考えることを学んだ」と確信している。
 オオカミは集団で狩りをし、複雑な社会構造があり、同性の非血縁者との間で誠実な友情がある。さらに縄張り意識も強い。これらは、現生人類では認められるが、どの霊長類にもないことである。チンパンジーにも。
 
●脳の大きさ(p400)
 動物は、飼いならされると脳が小さくなる。
 馬の脳は16%、豚の脳は34%、犬の脳は10~30%、小さくなった。前頭葉がある前脳と、左右の脳を繋ぐ脳梁が小さくなった。
 人間の脳は、10%小さくなった。情動と知覚情報を司る中脳と、嗅覚を司る嗅球が小さくなり、脳梁と前脳の大きさは変わらない。
 犬と人間の脳は専門化された。人間は仕事の計画と組織化を引き受け、犬は知覚の仕事を引き受けた。犬と人間はともに進化して、よき伴侶、よき友達になった。
 
【ツッコミ処】
・チャット生成AI(p350)
 ディスプレイ画面の上半分に小さな点が現れたらレバーを押さなければならない実験。点が画面の上部に現れる時間の割合を70%に設定。
 罰がないので、ネズミは実験時間の100%、レバーを押した。ヒトは、出現パターンをあれこれ考え、ネズミほど頻繁にレバーを押さなかった。
〔 ネズミが人間よりも成績がよかったのは、前頭葉の能力が低いか、あるいは言語がないせいか、あるいはその両方だったのだろう。人間についてひとつわかっているのは、意識的な言語をつかさどる左脳が、状況を説明する話をつねにつくりあげていることだ。ふつうの人の左脳の中には「通訳」がいて、なにかをしているときや思い出しているときはいつも、それについてでたらめでこまかな情報をかたっぱしから取り入れて、すべてをすじの通るひとつの話にまとめあげる。つじつまの合わない情報があるときには、たいていの場合、削除するか書きかえる。左脳がつくる話の中には、いちじるしく現実離れしていて、創作と思えるものもある。〕
  ↓
 人間の頭のなかも、ChatGPTなどのチャット生成AIと同じことをやっている、ということか??
 
(2024/3/7)NM
 
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メタゾアの心身問題 動物の生活と心の誕生
 [自然科学]

メタゾアの心身問題――動物の生活と心の誕生
 
ピーター・ゴドフリー=スミス/〔著〕 塩崎香織/訳
出版社名:みすず書房
出版年月:2023年12月
ISBNコード 978-4-622-09662-7
税込価格:3,520円
頁数・縦:291, 60p・20cm
 
 動物(多細胞動物:メタゾア)の意識がどのように生まれ、形成されていったかを、進化の系統樹をさかのぼって考察。
 
【目次】
1 原生動物
2 ガラスカイメン
3 サンゴの新たな一手
4 一本腕のエビ
5 主観の起源
6 タコたち
7 キングフィッシュ
8 陸上の生活
9 鰭、脚、翼
10 徐々にかたちに
 
【著者】
ゴドフリー=スミス,ピーター (Godfrey-Smith, Peter)
 1965年、シドニー生まれ。シドニー大学教授、およびニューヨーク市立大学大学院センター兼任教授。専門は哲学(科学哲学/生物哲学、プラグマティズム/ジョン・デューイ)。練達のスキューバ・ダイバーでもある。スタンフォード大学助教授(1991-1998)、同・准教授(1998-2003)、オーストラリア国立大学およびハーバード大学兼任教授(2003-2005)、ハーバード大学教授(2006-2011)、ニューヨーク市立大学大学院センター教授(2011-2017)などを経て、現職。
 
塩﨑 香織 (シオザキ カオリ)
 翻訳者。オランダ語からの翻訳・通訳を中心に活動。英日翻訳も手掛ける。
 
【抜書】
●メタゾア(p36)
 Metazoa。後生生物。多細胞の動物。19世紀末、ドイツの生物学者エルンスト・ヘッケルによって導入された。
 Protozoa(単細胞の原生動物)との対比によって生まれた言葉。metaは「あとに」「そばに」の意味、zoaは「動物」を意味する。
 
●右脳、左脳(p133)
 さまざまな脊椎動物において、同じ種の仲間との社会的交流には右脳(左眼)を、食物に関係することには左脳(右眼)を好んで用いる。
 タコと同じ頭足類に属するコウイカは、視交叉がないので、餌を摂取することに関しては右眼を、捕食者に対処する場合は左眼を優先的に使う。
 
●WADAテスト(p155)
 日本出身でカナダに移住した医師の和田淳が発明したテスト。左右どちら側の脳が言語を司っているかを同定するテスト。
 麻酔薬を注入して左右いずれかの脳を眠らせ、言語機能の課題を与えられる。脳の半分が眠った状態で何ができるかを確認。
 左右どちらに脳にも別個に意識があると考えられる結果が得られた。
 
●ヒヨコ、ヒキガエル(p242)
 ジョルジオ・ヴァロルティガラとルカ・トマシは、孵化直後のヒヨコに一時的に眼帯を付け、脳の左右いずれかの側で課題の処理をさせた。
 まず、眼帯を付けない状態で餌場の位置を学習する。この場所は、空間中の位置関係に加えて目印を付けた。次に、一方の眼を眼帯で覆い、同じ空間に戻す。この時、目印の位置が変わっている。左眼(右脳)が使えたヒヨコは目印を無視して空間の位置関係から餌場を探したが、右眼(左脳)が使えたヒヨコは目印が新たに置かれた場所に向かった。
 眼帯を付けていないヒヨコも目印を無視した。つまり、右脳が優位に働いた。左脳が適切な情報を持っていたとしても、右脳が機能しない状態にならなければ処理には割り込めない。
 ヒキガエルは、獲物が視野の外から左視野に入ってきても、ふつう、その獲物が右視野(左脳に関わる側)に移動するまで襲いかかろうとしない。ライバルのヒキガエルが視野に入る時は、逆のことが起こる。
 
(2024/2/27)NM
 
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ビジネス教養としての最新科学トピックス
 [自然科学]

ビジネス教養としての最新科学トピックス(インターナショナル新書) (集英社インターナショナル)
 
茜灯里/著
出版社名:集英社インターナショナル(インターナショナル新書 130)
出版年月:2023年10月
ISBNコード:978-4-7976-8130-7
税込価格:968円
頁数・縦:221p・18cm
 
 目次で紹介した以外の主なトピックは……。
《第1章》
 太陽フレア対策/アポロ計画・アルテミス計画/中国が月の新鉱物を発見/確認された太陽系外惑星が5000個超に
《第2]章》
 日本人の睡眠傾向とリスク/がん細胞だけ攻撃する免疫細胞/世界で進む「糞便移植」/ブタからヒトへの心臓移植《第3章》
 世界最大「謎」のカットダイヤモンド/飽和潜水法とはなにか/花見に迫る危機/国内唯一の地質時代名「チバニアン」
《第4章》
 生魚の寄生虫アニサキスの対策法/サイボーグ・ゴキブリが災害救助?/イルカの知られざる一面/『鬼滅の刃』に登場する「青い彼岸花」の秘密
《第5章》
 AI鑑定とルーベンス作品の真贋論争/音楽と科学の深い関係/核融合エネルギーの開発状況/未来予想図の答え合わせ
 
【目次】
第1章 宇宙
 スペシャル・インタビュー 宇宙飛行士・若田光一さんに聞く宇宙視点のSDGs「宇宙船地球号は大きくて、我々は楽観視してきた」
 「最悪シナリオ」を検討
 太陽フレア対策に日本政府も本腰
  ほか
第2章 医療
 5類引き下げになった新型コロナウイルス感染症のこれまでとこれから
 コロナワクチンと同じmRNA技術を用いたインフルエンザワクチンが開発される
  ほか
第3章 地球・環境
 「ガイア理論」のラブロック博士が死去―改めて功績を振り返る
 地球内核の回転スピードが落ちている?自転と「うるう秒」の謎にも関連
  ほか
第4章 生物
 両親がオスの赤ちゃんマウス誕生 幅広い応用と研究の意義、問題点を整理する
 オスだけ殺すタンパク質「Oscar(オス狩る)」のメカニズムが解明される
  ほか
第5章 アートとテクノロジー
 誤情報も流暢に作成する対話型AI「ChatGPT」の科学への応用と危険性
 人類滅亡まであと90秒!「世界終末時計」の歴史と問題点
  ほか
 
【著者】
茜 灯里 (アカネ アカリ)
 作家・科学ジャーナリスト/博士(理学)・獣医師。東京生まれ。東京大学理学部地球惑星物理学科卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。東京大学農学部獣医学課程卒業。朝日新聞記者を経て、東京大学、立命館大学などで教鞭をとる。著書に第24回日本ミステリー文学大賞新人賞受賞作『馬疫』(2021年、光文社)など。
 
【抜書】
●鉱物(p39)
 鉱物とは、大雑把に言えば「1種類だけでできている石」。自然界に存在する物質のうち地質作用で作られるもので、ほぼ一定の化学組成と結晶構造を持つ無生物の均一物質。国際鉱物学連合(IMA)の新鉱物・命名・分類委員会(CNMNC)に申請を行い、審査を通過したもの。申請の内容は、世界各地から選ばれた約40名の鉱物学者が2カ月ほどかけて厳しい審査を行う。最終的に、過半数の委員が参加した投票で三分の二以上の賛成を得られると新鉱物として認定される。
 現在、5,000種以上が知られている。「石ころ」は、通常は複数の種類の鉱物でできていて、「岩石」と呼ばれる。
 新鉱物の名前は、多くの場合、過去の著名な鉱物学者や申請者の恩師、最初に見つかった場所の地名に由来する。1974年に新鉱物として認定された「杉石(Sugilite)」は、分析した山口大学名誉教授の村上允英博士らの恩師の杉健一博士に由来。
 「鉱物学者の夢の一つは、優秀な弟子を育てて新鉱物に自分の名前を付けてもらうこと」。
 
●FMT(p84)
 糞便微生物移植(Fecal Microbiota Transplantation)。腸内細菌叢移植とも。
 2022年11月、オーストラリアの医薬品・医療機器の管轄機関である保健省薬品・医薬品行政局が承認。
 日本でも、保険適用外(自由診療)で臨床応用が始まっている。「便バンク」の整備も進んでいる。
 
●UTC(p107)
 うるう秒は、1972年第1回から2017年の第27回までは、1月1日か7月1日の午前9時(日本時間)の前に午前8時60秒を特別に設けて、1秒足して行われた。
 うるう秒……地球の回転速度にはムラがあり、1日の長さは一定ではない。「地球が1回転するのにかかる時間(1日)」について、原子時計を基準とする高精度な測定時間(協定世界時:UTC)と、天体観測による従来の24時間(世界時、UT1)の差が、0.9秒を上回ったり下回ったりした際に、協定世界時にプラス/マイナス1秒して補正する。
 
●大気圧潜水服(p122)
 飽和潜水より安全と考えられる「次世代潜水」。
 身体を1気圧に保てる金属製の装甲服で覆い、推進装置のついた「コンパクトな一人用潜水艦」。最大700mまでの深さに何時間も潜れる。
 減圧する必要もなく、飽和潜水で用いる呼吸用の混合ガスも使用しないため、窒素中毒、酸素中毒、減圧症、高圧神経症候群などの危険性はほとんどない。
 飽和潜水……体内への気体の溶け込みは、ある一定量(飽和)を超えるとそれ以上は行われない。あらかじめ体内にヘリウムなどの不活性ガスを飽和状態になるまで吸収させておく。水深100m以深でも安全に潜水できる(スクーバダイビングの潜水限界は50~60m)。潜水前に船上にある加圧タンクに入り、深海の高い圧力をかけた状態で一定時間を過ごす。次に潜水用のカプセル(水中エレベータ)で加圧したまま降下し、目的の深さで外に出る。作業後は再び加圧タンクに入り、水深120mなら1週間ほどかけて少しずつ圧力を減らして身体をもとの状態に戻す。(p120)
 
●染井吉野(p126)
 染井吉野は、日本全国に接ぎ木で広がった特定の栽培品種の名前。成長が速いため、年輪が疎になりがちで、樹木の強度が低い。
 染井吉野60年説……樹齢30~40年が樹勢のピークで、50年を超えると幹の内側が腐り、約60年で寿命を迎える、という説。もともと病気に弱い品種。
 ソメイヨシノは、オオシマザクラとエドヒガンの種間雑種全体の名称。花とともに赤色の葉をつけるヤマザクラとは異なり、花の時期には葉を付けない。花は大きく、成長スピードは速く、枝が横に広がる。明治以降に急速に広まる。
 
●休眠打破(p128)
 桜の花芽(蕾)は、前年の夏に作られ、冬の前に成長を止めて休眠状態になる。その後、冬に一定期間の低温(概ね3~10℃)にさらされると休眠から目覚め(休眠打破)、そこからは気温の上昇とともに成長する。
 休眠打破のために必要な低温期間が足りないと、開花は遅れる。そのため、2020年以降、九州では4年連続で北部から南部に桜前線が進む逆転現象が起きている。
 2100年には、東北地方では染井吉野の開花が2~3週間早まり、九州などでは1~2週間遅くなる。すなわち、3月末ごろに九州から東北まで、「染井吉野」が一斉に開花する? さらに種子島や鹿児島の一部では開花しない。
 
●別府湾(p133)
 地質年代表に、「アキタニアン」がある。新生代新第三紀中新世、2303~2044万年前。秋田県ではなく、フランスのアキテーヌ地方にちなむ命名。
 国際地質科学連合は、20世紀半ば以降を「人新世」とすることを検討中。別府湾(ベップワニアン)がGSSP(国際標準模式地)の候補になっていたが、2023年7月、落選。
 
●黄色い花(p173)
 ミツバチは、紫外線からオレンジ色まで見ることができるが、赤は見えない。最も見やすい色は黄色。
 赤い花にはアゲハチョウが集まりやすく、白い花は多くの昆虫に見えやすい。
 植物の花の色は、3種類の色素の組み合わせ。
 フラボン類……無色から薄い黄色。
 カロチン類……黄色やオレンジ色。
 アントシアニン類……赤色や青色、紫色。
 白い花は本来無色。花びらのなかに空気の小さな泡をたくさん含んでいて、光が当たると散乱してビールの泡のように白く見える。
 
(2024/2/26)NM
 
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超遺伝子(スーパージーン)
 [自然科学]

超遺伝子(スーパージーン) (光文社新書)
 
藤原晴彦/著
出版社名光文社(光文社新書 1257)
出版年月:2023年5月
ISBNコード:978-4-334-04664-4
税込価格:924円
頁数・縦:222p・18cm
 
 Y染色体もスーパージーンかもしれない。では、スーパージーンとは何なのだろうか。
 最近、明らかになりつつあるスーパージーン(超遺伝子)について、総合的に解説する。
 
【目次】
第1章 スーパージーン物語のはじまり
第2章 スーパージーンに迫るための基礎知識
第3章 天才たちによるスーパージーンの予測
第4章 加速するスーパージーン研究
第5章 スーパージーンは生き物の不思議の源
第6章 スーパージーンはヒトにもあるか
第7章 アゲハの擬態とスーパージーン
第8章 スーパージーン物語の過去・現在・未来
 
【著者】
藤原 晴彦 (フジワラ ハルヒコ)
 1957年兵庫県生まれ。東京大学大学院理学系研究科生物化学専攻博士課程修了(理学博士)。その後、国立予防衛生研究所(現・国立感染症研究所)研究員、東京大学理学部生物学科動物学教室講師、ワシントン大学(シアトル)動物学部リサーチアソシエートなどを経て、東京大学大学院新領域創成科学研究科先端生命科学専攻助教授、同教授などを歴任。専門は擬態・変態・染色体。
 
【抜書】
●ベイツ型擬態(p24)
 無毒な種(擬態種と呼ぶ)が、系統的に離れた有毒な種(モデル種と呼ぶ)に似せるタイプの擬態。
 アルフレッド・ウォレスの同僚ヘンリー・ベイツ(1825-1892)が発見。
 
●ミューラー型擬態(p24)
 系統的に離れた有毒な蝶の間でも、紋様や形が似ているものがいる。このタイプをミューラー型擬態という。毒のあるハチやカエル、ヘビでも見られる。
 ドイツのフリッツ・ミューラー(1821-1897)が発見。
 
●フィッシャー(p74)
 統計学者のロナルド・エイマー・フィッシャー(1890-1962)が、ダーウィンの進化論と、メンデルの遺伝学の対立を解消。
 〔学術的には、進化は小さな連続的な変化(多数の遺伝子が関与する)と大きな不連続な変化(単一遺伝子が関与する)のどちらで起こるのか、という問題〕。フィッシャーは「どちらも正しい」と考えた。
 〔フィッシャーは、複雑で多様な形質も数多くの要素(遺伝子)の突然変異によって制御され、それらも組み合わせによって作り出される可能性を、統計学的な手法を用いて指摘した。ABO式血液型もヒトの身長も、関与している遺伝子の数は大きく異なるが、メンデルの法則にしたがうことには違いない。つまり、自然選択の対象となる形質は、単一の遺伝子の突然変異でも多数の遺伝子の小さな突然変異の蓄積によっても変化し、場合によっては別の種(新種の創成:種分化)を作り出す可能性を指摘したのだ。〕
 
●スーパージーン仮説(p77)
 ウォレスは、ナガサキアゲハの擬態について観察したところ、オス、擬態型メス、非擬態型メスは全く違う姿形をしているが(種内多型)、中間型のものは見当たらないことを発見した。
〔 フィッシャーは、シロオビアゲハの擬態型メスには、さまざまな毒蝶に似せた(地域によって異なる)いくつかのタイプがあり、色、形、模様などが複雑に組み合わさった形質は、さながら1個の遺伝子のように、染色体の1カ所に集まった複数の遺伝子が関与しているはずだと考えた。また、性染色体と擬態を比較しながら、「ヒトの性染色体X・Yと同じように、相同染色体の間で構造が大きく異なっているため、擬態を制御する領域では組換えが起こらないようになっている」という斬新なアイデアを考えた。実際にフィッシャーは、この著書で「このような多型の形質は、一つもしくは少数のメンデルファクターによって制御されている」と述べ、「複数の遺伝子があたかも一つの遺伝子として挙動し、組換えが抑制されることがベイツ型擬態の多型性の維持には重要なのだ」と説いている。〕
 フィッシャー『自然選択の遺伝学的理論』。
 
●ドブジャンスキー(p81)
 テオドシウス・ドブジャンスキー(1900-1975)が、染色体逆位(染色体の一部がひっくり返った状態)が起きると、相同染色体の対合が抑制されることを発見。
 フィッシャーの組換え抑制のアイデアとドブジャンスキーの逆位の発見が結びついて、スーパージーンはより具体的な仮説になった。
 
●赤の女王仮説(p110)
 『鏡の国のアリス』より。
 赤の女王(チェスの駒の一つ)がいつも走り回っているのを見て、アリスがなぜそんなに走っているのかを尋ねたところ、彼女は「その場にとどまるためには、全力で駆けなければならない(It takes all the running you can do, to keep in the same place.)」と答えた。
 進化学者たちが、細菌やウイルスに対抗するために、生物が有性生殖を行う理由を説明するための仮説。
 ウィリアム・ドナルド・ハミルトン(1936-2000)。
 
●緑髭効果(p111)
 動物が利他的行動を行う原理を説明するための仮説。
 「同じ遺伝子を持つものは緑色の髭をしている」ということが分かっていれば、そのような個体に利他的行動をとっても、遺伝子にとっては有利になる。つまり、自分と似た形質を持つものに対して利他的行動をとるようになる。
 ハミルトンが提唱し、リチャード・ドーキンス(1941-)が「緑髭効果」と名付けた(『利己的な遺伝子』日本語訳では「緑ひげ利他主義効果」と訳されている)。
 
●ヒアリ(p117)
 ヒアリの女王は数年生きるが、ワーカーは数カ月しか生きない。
 ヒアリのコロニーには、女王が1匹の単女王制コロニーと、2匹以上の多女王制コロニーがある。
 どちらのコロニーになるかは、フェロモンが関係している。フェロモンにより、働きアリは女王を受け入れたり、殺したりして女王の数を調整している。
 フェロモンに結合するたんぱく質Gp-9という遺伝子があり、これが「緑髭遺伝子」。Bとbという2種類の対立遺伝子があり、BBという遺伝子からなるコロニーの女王は、必ず単女王コロニーになる。Bbやbbでは多女王コロニーになる。
 Bとbでは塩基配列に9個の違いがある。逆位が起こった。
 単独の女王は、古い巣から新しい巣を作るために飛行して生息範囲を広げる。
 多数の女王がいるコロニーでは、その一帯を独占して、他系統のコロニーの女王を排除しながら、巣を大きく広げる。
 
●自家不和合性(p125)
 多くの植物では、自分の花粉には受精せず、他者の花粉でのみ受精して種子を作る。
 
●四つの性(p135)
 ノドジロシトドという鳥は、頭に白いストライプのあるタイプ(WS:White-Stripe)と、褐色のストライプがあるタイプ(TS:Tan-Stripe)の2種類が存在する。スーパージーン。逆位が2回起こった。
 WSは、歌はうまいが攻撃的で子育てが下手。TSは歌は下手だが子育てが上手。
 オスとメスという性以外に、WSとTSという性がある。WSのメスはTSのオスとしかつがいにならず、TSのメスはWSのオスとしかつがいにならない。
 
●H2(p143)
 ヒトにおけるスーパージーン。第17染色体の17q21.31という150万塩基対ほどの領域。この領域には、逆位の有無からH1とH2という二つのタイプが見つかった。霊長類のゲノムとの比較から、もともとはH2が祖先型で、現生人類の中で徐々にH1型が広がってきた。逆位が起こったのは200万~300万年前という説と、10万年前という説がある。
 H2タイプはアジア人には見当たらず、アフリカ人ではわずか6%ほど。ヨーロッパ人は20~37%。
 この領域が子供の数に関連しているかもしれない。アイスランドのデータから、H2を持つ母親は子だくさんの傾向が見られた。
 その後、ヨーロッパ人の様々な「現象」と結びついている可能性が報告されている。パーキンソン病や大脳皮質基底核変性症といった神経変性を伴った脳の病気になりにくい傾向、など。
 
●蛹の色(p164)
 アゲハの幼虫は、鳥の糞型から柑橘系型に自動的に切り替わる。
 蛹は、周囲の環境によって緑色か茶色になる。葉や細い枝についている蛹は緑色、太い幹についているのは茶色。ざらざらしたところにいると、蛹の体色を茶色に変えるホルモンが分泌される。
 
●キューティクル(p166)
 昆虫の体色は、たんぱく質やキチンなどの物質からなるクチクラが主に色づく。
 クチクラは、英語で髪の毛のキューティクル(cuticle)と同じ単語。
 
(2023/12/24)NM
 
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ネコはここまで考えている 動物心理学から読み解く心の進化
 [自然科学]

ネコはここまで考えている:動物心理学から読み解く心の進化
 
髙木佐保/著
出版社名:慶應義塾大学出版会
出版年月:2022年9月
ISBNコード:978-4-7664-2843-8
税込価格:2,200円
頁数・縦:116, 60p・20cm
 
 さまざまな動物心理学的実験を通して、猫の知性について分析する。
 
【目次】
第1章 動物はどのように考えるのか
 考えるのに言葉はいらない
 動物の思考研究3つの推論能力
  ほか
第2章 ネコはどこまで物理法則を理解しているのか
 動物はどのように“物理的に考える”のか
 ネコは本当に物理的な推論が苦手なのか
  ほか
第3章 ネコは“声”から“顔”を思い浮かべるのか
 ヒトと動物のクロスモーダルな推論能力
 ネコは“声”からあなたの“顔”を思い浮かべるのか
  ほか
第4章 ネコは“どこに”“何が”を思い出せるのか
 動物はどのように記憶するのか
 動物の“記憶”を探る方法
  ほか
終章 ネコの思考能力はどのように進化したのか
 ネコ研究の最前線
 ネコの思考能力はなぜ進化したのか
  ほか
 
【著者】髙木 佐保 (タカギ サホ)
 ネコ心理学者。日本学術振興会特別研究員(RPD)、麻布大学特別研究員。1991年生。2013年同志社大学心理学部卒業。2018年京都大学大学院文学研究科行動文化学専攻心理学専修博士課程修了。博士(文学)。本書の一部を成す業績により2017年度京都大学総長賞を受賞。
 
【抜書】
●物体の永続性(p44)
 目前にない物体の表象を持ち続けること。言葉を持たない動物の心を解き明かすうえで、重要な指標になる。
 ヒトは、生後4か月から8か月頃に、物体の永続性の能力が芽生える。
 物体の永続性は、いくつかの段階に分かれて発達するが、最終段階では、「見えないところで物体が移動したこと(invisible displacement)」を理解できるようになる。ヒトでは、生後18か月から24か月頃。
 
●ネオフィリア(p102)
 新しいことに興味を示すこと。
 家畜化によって現れる行動特性の変化の一つ。動物が家畜化され、食べ物や住居の安定した供給が保証されることで、生存に必要な情報以外に注意を向ける“余裕”が生まれたこと、成体になっても飼い主に甘えるといった子供のような性質を持ち続けること、などと関連する。
 
(2023/12/14)NM
 
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生き物の死にざま はかない命の物語
 [自然科学]

生き物の死にざま はかない命の物語
 
稲垣栄洋/著
出版社名:草思社(草思社文庫 い5-3)
出版年月:2022年2月
ISBNコード:978-4-7942-2563-4
税込価格:825円
頁数・縦:258p・16㎝
 
 さまざまな生物の死と生態を集めたエッセー集。
 
【目次】
1 愛か、本能か
 コウテイペンギン―氷の世界で数か月絶食して卵を守り続ける父
 コチドリ―子を守るための「擬傷」と遺伝子の謎
  ほか
2 生き物と人
 セミ―羽化をはばまれた夏
 シラスとイワシ―大回遊の末にたどりついたどんぶり
  ほか
3 摂理と残酷
 カエル―モズに串刺しにされたものたちの声なき声
 クジラ―深海の生態系を育む「母」 ほか
4 生命の神秘
 雑草―なぜ千年の命を捨てて短い命を選択したのか
 樹木―「生と死」をまとって生き続ける
  ほか
 
【著者】
稲垣 栄洋 (イナガキ ヒデヒロ)
 1968年静岡県生まれ。静岡大学大学院農学研究科教授。農学博士。専門は雑草生態学。岡山大学大学院農学研究科修了後、農林水産省に入省、静岡県農林技術研究所上席研究員などを経て、現職。
 
【抜書】
●プランクトン(p37)
 鮭の稚魚が孵ったばかりの場所は、川の上流部で栄養分が少なく、餌になるプランクトンが少ない。
 しかし、サケが卵を産んだ場所には、不思議とプランクトンが豊富に湧き上がる。産卵を終えて息絶えたサケたちの死骸は、多くの生き物の餌となる。生き物たちの営みによって分解された有機物が餌となり、プランクトンが発生するのである。
 
●亜成虫(p54)
 カゲロウは、幼虫から羽化して「亜成虫」となる。翅があって空を飛べる。亜成虫の姿で移動し、再び脱皮をして成虫となる。
 カゲロウは、昆虫の進化の過程ではかなり原始的なタイプ。初期の昆虫は翅がなかったと考えられる。翅を発達させて空中を飛んだ最初の昆虫であると推察されている。3億年前。現在と変わらない姿をしていた。
 
●アンテキヌス(p71)
 体長10cm程度、ネズミに似た有袋類。
 寿命は、メスが2年程度、オスが1年未満。生まれて10カ月で成熟し、冬の終わりの2週間程度が繁殖期となる。成熟したオスは、不眠不休でメスを探し続け、見つけては次々と交尾を繰り返す。
 メスは、選り好みせず、どんなオスでも受け入れる。
 
●ベニクラゲ(p103)
 クラゲは、プラヌラ → ポリプ(分裂して増殖) → ストロビラ → エフィラ → 成体(体内で卵をかえし) → プラヌラ ……、という生活史を送る。
 ベニクラゲの場合、成体へと成長し、死んだ後(?)、小さく丸まって新たなポリプとなる。何度も若返ってポリプになり、生涯をやり直すことができる。
 クラゲが地球に出現したのは5億年前。5億年間、ずっと生き続けているベニクラゲがいる?
 
●シロアリ(p136)
 ゴキブリ目に分類されている。
 王である雄1匹と女王のつがいと、雄と雌からなる働きアリや兵隊アリでコロニーを作る。種類にもよるが、コロニーは10万匹から100万匹を超える巨大な集団となる。
 働きアリは数年の寿命だが、女王アリは10年以上も生きる。長いものでは数十年。多くの卵を産むために腹部を発達させている。
 巣にしている腐った木を食べつくすと、他の木に移る。この時、繁殖能力の衰えた女王アリは置き去りにされ、代わりに「副女王アリ」が新居に運ばれていく。
 
●ハダカデバネズミのフェロモンと糞(p162)
 ハダカデバネズミは、20世紀後半、東アフリカの乾燥地帯で発見された。子どもを産むたった一匹の繁殖メスの女王と、少数の繁殖オスの他は、オスもメスも生殖器官が未発達。子孫を残すことのないソルジャーとワーカーとに役割分担されている。
 ハダカデバネズミは、アリやシロアリのようには明確な階級がない。どのメスも女王になり、どのオスも王になる資格がある。
 そのため、女王は群れの秩序を守るために常に巣の中を回りながら、フェロモンを分泌してワーカーたちの繁殖行動を抑えている。
 ワーカーは、女王の糞を食べることで初めて母性を獲得し、女王の産んだ子供を育てるようになる。
 
●スプーン1杯(p173)
〔 ミツバチは、その一生をかけて、働きづめに働いて、やっとスプーン一杯の蜂蜜を集めるのだという。〕
 女王バチは数年生きるが、働きバチの寿命は1カ月余り。最後の2週間、花を回って蜜を集めるという危険な仕事に就く。
 
●蝦蟇(p182)
 ヒキガエルは、昔は「蝦蟇〈がま〉」と呼ばれ、「蛙」と区別されていた。他のカエルのようにピョンピョンと跳ねることがなく、地面の上をのそのそと動いて移動するため。
 
●狂犬病(p236)
 かつてオオカミは、「大神」に由来し、神と崇められていた。人を襲うことはめったになく、畑を荒らすシカやイノシシを退治してくれる役に立つ動物だった。
 オオカミは、明治時代になると人間を襲い、危害を加えるようなった。
 江戸時代中期、西洋から長崎に狂犬病が持ち込まれた。明治期になるとしばしば狂犬病が流行するようになり、野生のオオカミにも蔓延していった。狂暴になったオオカミが人間を襲うようになり、人間に狂犬病を感染させた。
 こうして人々はオオカミを憎むようになり、全国で駆除されていく。
 
(2023/12/7)NM
 
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科学でかなえる世界征服
 [自然科学]

科学でかなえる世界征服
 
ライアン・ノース/著 吉田三知世/訳
出版社名:早川書房
出版年月:2023年7月
ISBNコード:978-4-15-210255-3
税込価格:2,420円
頁数・縦:443p・19cm
 
 現代科学の粋を尽くして世界征服を目指すスーバー・ヴィランになるための取説。
 
【目次】
第1部 スーパーヴィランの超基本
 スーパーヴィランには秘密基地が必要だ
 自分自身の国を始めるには
第2部 世界征服について語るときに我々の語ること
 恐竜のクローン作成と、それに反対するすべての人への恐ろしいニュース
 完全犯罪のために気候をコントロールする
 地球の中心まで穴を掘って、地球のコアを人質にする方法
 タイムトラベル
 私たち全員を救うためにインターネットを破壊する
第3部 犯罪が罰せられなければ、犯人はそれを犯したことを決して悔いない
 不死身となり、文字通り永遠に生きるには
 あなたが決して忘れられないようにするために
 
【著者】ノース,ライアン (North, Ryan)
 作家。コミック作家としての顔ももち「ADVENTURE TIME」シリーズは漫画のアカデミー賞と呼ばれるアイズナー賞とハーヴェイ賞を受賞、マーベルの「絶対無敵スクイレルガール」シリーズの原作も担当している。
 
吉田 三知世 (ヨシダ ミチヨ)
 京都大学理学部物理系卒業。英日・日英の翻訳業。
 
【抜書】
●ビル・タウィール(p99)
 1899年、エジプトを占領していたイギリス軍が、スーダンも手に入れた。この2国の間に、直線的な国境線を引いた。
 1902年、イギリスはこの土地を住民たちにどのように使われているかを反映させるため、新たに行政区分を決める境界線を引いた。
 イギリスはこの地域から手を引き、1956年、スーダンがエジプトから独立した。エジプトとスーダンは、イギリスが引いた境界線のうち、自分たちに都合のよいほうを採用した。その結果、紅海に面するハラーイブ・トライアングル(広大で資源豊富な2万580㎢)をどちらの国も領土と主張。しかし、内陸部のビル・タウィール(2060㎢)は、どちらの国も領有を拒否した。
 
●521年(p121)
 DNAの半減期は、521年。最近の研究による推測。6500万年前に絶滅した非鳥類型恐竜のDNAは残っていないことになる。
 
(2023/11/6)NM
 
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進化が同性愛を用意した ジェンダーの生物学
 [自然科学]

進化が同性愛を用意した: ジェンダーの生物学
 
坂口菊恵/著
出版社名:創元社
出版年月:2023年6月
ISBNコード:978-4-422-43046-1
税込価格:1,760円
頁数・縦:223p・19cm
 
 同性間性行動は、人間のみならず、他の生物の間でも例外的な行動ではないらしい。
 
【目次】
1 同性愛でいっぱいの地球
2 ヒトの同性愛を生物学から探る
3 生物学的説明の限界
4 ジェンダーの生物学
5 ヒューマン・ユニバーサルな同性愛
6 宗教戦争としてのホモフォビア・トランスフォビア
7 多様性は繁栄への途
 
【著者】
坂口 菊恵 (サカグチ キクエ)
 1973年、函館生まれ。函館中部高校卒業後、自宅での浪人生活を経て二十歳で家出、上京。数年のフリーター生活後、東京大学文科3類に入学し、東京大学総合文化研究科広域科学専攻で博士(学術)を取得。東京大学教養教育高度化機構での特任教員を経て、大学改革支援・学位授与機構研究開発部教授。専門は進化心理学、内分泌行動学、教育工学。
 
【抜書】
●一夫一妻(p20)
 哺乳類では、一夫一妻システムをとる種は3~9%しかない。雌雄が常時一緒にいる生物は少ないのである。
 
●コンパニオンシップ(p23)
 オスのゾウは、よく同性と「コンパニオンシップ」という長期的な関係を結ぶことが知られている。「同胞関係」?
 たいがいは1対1であるが、2頭の「若衆」を従えた年長者もいる。
 オスとメスがしばらく2頭限りの時を過ごすことを「コンソートシップ」と言う。ゾウでは、異性間のコンソートシップはせいぜい15分くらいしか続かない。
 
●ライオン(p36)
 ライオンでは、コンパニオンシップ関係にあるオス同士、メス同士の絆は長く、強い。彼らは性的な睦み合いはまずしないようだ。そして、6割のオスはメスと一緒の生活を経験することなく一生を終える。
 
●ハンメル(p39)
 ヨーロッパに生息するアカシカは、ほとんどのオスが枝角を持っているが、角を持たない少数のオスが存在する。ハンメル。
 ハンメルの外見はメスにそっくりだが、メスにとてもよくもてる。健康で戦いにも優れており、体格も一般のオスよりも良い。もっとも順位の高いオスになりやすい。
 「ペルーク」と呼ばれる、枝分かれしない袋角のままの雄ジカもいる。精巣が発達せず、概ね生殖能力がない。
 角を持つメスが見つかることもある。
 アカシカ、ムース、ワピチといったシカ類には、角に性感帯があるらしい。こすられると興奮して、射精に至ることもある。オス同士が角を互いにこすり合わせたり、自ら草むらにこすりつけたりしている。
 
●フランシス・ゴールトン(p56)
 チャールズ・ダーウィンのいとこ。
 個人の特性を形作るのは自然か環境か(Nature or Nurture)を調べた。天才はもともと才能豊かな家系に生まれやすい。
 優生学(eugenics)という言葉を作った。才能豊かな人間同士を結婚させ、さらに優秀な子孫を産ませることを提案した。
 
●パルテノジェネシス(p107)
 parthenogenesis。メスのみで子孫を残すことのできる単為生殖。ギリシャのパルテノン神殿の「パルテノン」。処女、未婚の乙女を指す。処女神のための神殿だったからとも、処女が仕えたからとも言われる。
 哺乳類以外の脊椎動物の中で、80種ほどが確認されている。コモドオオトカゲ、シュモクザメをはじめとするさまざまなサメ、など。
 米国のニューメキシコ州に生息するハシリトカゲ類のうち、三分の一の種はメスしか存在しない。女性ホルモンの周期に応じてメス役とオス役を交代して疑似的な交尾行動を行い、その刺激により産卵する。
 
●アマミトゲネズミ、トクノシマトゲネズミ(p116)
 Y染色体が消滅してしまった哺乳類は、南西諸島で2種、中東で1種見つかっている。
 アマミトゲネズミとトクノシマトゲネズミは、オスは存在し、精巣も発達する。通常の哺乳類でY染色体の上に載っている、精巣の発達を促す遺伝子はなくなっているが、その先の性分化に必要な遺伝子は保存されており、別の引き金によって発現を始める。
 一方、近くに棲むオキナワトゲネズミは、XX/XYの性決定方式のままである。
 
●サラマンダー、ギンブナ(p117)
 北米に棲むサラマンダー(トラフサンショウウオ属)は、雌雄が存在する集団とは別に、メスのみで繁殖する集団がいる。しかも、種として500万年以上存続してきた。平均的な有性生殖の種の寿命は100~200万年。
 自切から尾の再生スピードが、メスのみの集団のほうが雌雄で生殖した集団より1.5倍速い。単為生殖のほうが、生物として頑強。
 メスだけで繁殖するサラマンダーは、ときどき他種のオスが生息地に残していった精子からDNAを盗んで自分のゲノムに加える。遺伝子組み換え。結果、持っている染色体の数は個体によってまちまち。
 日本のギンブナもメスのみで繁殖する。ときどき近縁のフナと交雑することで、繁栄を続けてきたらしい。
 
●ブチハイエナ(p120)
 雌雄区別のつかない外性器を持っている。
 メスは胎児期から高濃度の男性ホルモンを分泌しており、偽ペニスと偽陰茎を持って生まれてくる。さらに、男性ホルモンの影響で膣の開口部がふさがっており、ペニスの先の尿道口が膣口を兼ねている。
 偽ペニスは勃起する。また、偽ペニスから赤ん坊を分娩するため、初産の際に少なからぬメスが偽ペニスが裂けて死んでしまう。偽ペニス内の産道はへその緒よりもずっと長いため、6割ほどの赤ん坊は生まれてくる際に窒息死してしまう。
 
●フリーマーチン(p125)
 羊や牛では、1~2%の割合で姓をはっきり区別できない個体が生まれてくる。
 胎盤を共有する双子で、オス・メスだと、メスのほうが「フリーマーチン」と呼ばれる状態となる。外性器がメスだが、内性器はオスとメスの両方を有し、不妊。
 双子は血管組織を共有しているために、オスのきょうだいの体内の精巣から分泌された男性ホルモンが、メスの体をオス化してしまう。
 
●直観像記憶(p186)
 一瞬見た情景をそのままイメージとして脳内に保存できる能力。
 三島由紀夫は、成人後も直観像記憶を持っていたとされる。
 
●過書字(p188)
 ハイパーグラフィア。極端に物書きに執着する認知の特異性。
 三島由紀夫は中学生くらいから驚異的な語彙力を持ち、大量の執筆活動をこなした。ハイパーグラフィアだったと思われる。
 
●双極性障害(p192)
 双極性障害では、本人および親兄弟、子が科学や芸術の職に就いている確率が全般として高い。親族内で比較すると、本人が科学の職に就いている可能性は若干低い。
 
【ツッコミ処】
・同性間性行為(p46)
〔 同性愛迫害の根拠はキリスト教だったのだが、18世紀啓蒙主義の影響で、宗教犯罪は法律の処罰対象から除かれていく。それに伴い、フランスでは同性間性行為は非犯罪化され、イギリスでも1861年に死刑から終身刑へと緩和されている。〕
  ↓
 「同性間性行為」という表現が使われたのはこの1か所のみ。他はすべて「同性間性行動」の語が使われている。この個所は法律に関することなので、行動の中身をはっきりさせるために「性行為」(つまり「セックス」)と表現しているのか??
 
(2023/10/29)NM
 
〈この本の詳細〉


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