SSブログ

超遺伝子(スーパージーン)
 [自然科学]

超遺伝子(スーパージーン) (光文社新書)
 
藤原晴彦/著
出版社名光文社(光文社新書 1257)
出版年月:2023年5月
ISBNコード:978-4-334-04664-4
税込価格:924円
頁数・縦:222p・18cm
 
 Y染色体もスーパージーンかもしれない。では、スーパージーンとは何なのだろうか。
 最近、明らかになりつつあるスーパージーン(超遺伝子)について、総合的に解説する。
 
【目次】
第1章 スーパージーン物語のはじまり
第2章 スーパージーンに迫るための基礎知識
第3章 天才たちによるスーパージーンの予測
第4章 加速するスーパージーン研究
第5章 スーパージーンは生き物の不思議の源
第6章 スーパージーンはヒトにもあるか
第7章 アゲハの擬態とスーパージーン
第8章 スーパージーン物語の過去・現在・未来
 
【著者】
藤原 晴彦 (フジワラ ハルヒコ)
 1957年兵庫県生まれ。東京大学大学院理学系研究科生物化学専攻博士課程修了(理学博士)。その後、国立予防衛生研究所(現・国立感染症研究所)研究員、東京大学理学部生物学科動物学教室講師、ワシントン大学(シアトル)動物学部リサーチアソシエートなどを経て、東京大学大学院新領域創成科学研究科先端生命科学専攻助教授、同教授などを歴任。専門は擬態・変態・染色体。
 
【抜書】
●ベイツ型擬態(p24)
 無毒な種(擬態種と呼ぶ)が、系統的に離れた有毒な種(モデル種と呼ぶ)に似せるタイプの擬態。
 アルフレッド・ウォレスの同僚ヘンリー・ベイツ(1825-1892)が発見。
 
●ミューラー型擬態(p24)
 系統的に離れた有毒な蝶の間でも、紋様や形が似ているものがいる。このタイプをミューラー型擬態という。毒のあるハチやカエル、ヘビでも見られる。
 ドイツのフリッツ・ミューラー(1821-1897)が発見。
 
●フィッシャー(p74)
 統計学者のロナルド・エイマー・フィッシャー(1890-1962)が、ダーウィンの進化論と、メンデルの遺伝学の対立を解消。
 〔学術的には、進化は小さな連続的な変化(多数の遺伝子が関与する)と大きな不連続な変化(単一遺伝子が関与する)のどちらで起こるのか、という問題〕。フィッシャーは「どちらも正しい」と考えた。
 〔フィッシャーは、複雑で多様な形質も数多くの要素(遺伝子)の突然変異によって制御され、それらも組み合わせによって作り出される可能性を、統計学的な手法を用いて指摘した。ABO式血液型もヒトの身長も、関与している遺伝子の数は大きく異なるが、メンデルの法則にしたがうことには違いない。つまり、自然選択の対象となる形質は、単一の遺伝子の突然変異でも多数の遺伝子の小さな突然変異の蓄積によっても変化し、場合によっては別の種(新種の創成:種分化)を作り出す可能性を指摘したのだ。〕
 
●スーパージーン仮説(p77)
 ウォレスは、ナガサキアゲハの擬態について観察したところ、オス、擬態型メス、非擬態型メスは全く違う姿形をしているが(種内多型)、中間型のものは見当たらないことを発見した。
〔 フィッシャーは、シロオビアゲハの擬態型メスには、さまざまな毒蝶に似せた(地域によって異なる)いくつかのタイプがあり、色、形、模様などが複雑に組み合わさった形質は、さながら1個の遺伝子のように、染色体の1カ所に集まった複数の遺伝子が関与しているはずだと考えた。また、性染色体と擬態を比較しながら、「ヒトの性染色体X・Yと同じように、相同染色体の間で構造が大きく異なっているため、擬態を制御する領域では組換えが起こらないようになっている」という斬新なアイデアを考えた。実際にフィッシャーは、この著書で「このような多型の形質は、一つもしくは少数のメンデルファクターによって制御されている」と述べ、「複数の遺伝子があたかも一つの遺伝子として挙動し、組換えが抑制されることがベイツ型擬態の多型性の維持には重要なのだ」と説いている。〕
 フィッシャー『自然選択の遺伝学的理論』。
 
●ドブジャンスキー(p81)
 テオドシウス・ドブジャンスキー(1900-1975)が、染色体逆位(染色体の一部がひっくり返った状態)が起きると、相同染色体の対合が抑制されることを発見。
 フィッシャーの組換え抑制のアイデアとドブジャンスキーの逆位の発見が結びついて、スーパージーンはより具体的な仮説になった。
 
●赤の女王仮説(p110)
 『鏡の国のアリス』より。
 赤の女王(チェスの駒の一つ)がいつも走り回っているのを見て、アリスがなぜそんなに走っているのかを尋ねたところ、彼女は「その場にとどまるためには、全力で駆けなければならない(It takes all the running you can do, to keep in the same place.)」と答えた。
 進化学者たちが、細菌やウイルスに対抗するために、生物が有性生殖を行う理由を説明するための仮説。
 ウィリアム・ドナルド・ハミルトン(1936-2000)。
 
●緑髭効果(p111)
 動物が利他的行動を行う原理を説明するための仮説。
 「同じ遺伝子を持つものは緑色の髭をしている」ということが分かっていれば、そのような個体に利他的行動をとっても、遺伝子にとっては有利になる。つまり、自分と似た形質を持つものに対して利他的行動をとるようになる。
 ハミルトンが提唱し、リチャード・ドーキンス(1941-)が「緑髭効果」と名付けた(『利己的な遺伝子』日本語訳では「緑ひげ利他主義効果」と訳されている)。
 
●ヒアリ(p117)
 ヒアリの女王は数年生きるが、ワーカーは数カ月しか生きない。
 ヒアリのコロニーには、女王が1匹の単女王制コロニーと、2匹以上の多女王制コロニーがある。
 どちらのコロニーになるかは、フェロモンが関係している。フェロモンにより、働きアリは女王を受け入れたり、殺したりして女王の数を調整している。
 フェロモンに結合するたんぱく質Gp-9という遺伝子があり、これが「緑髭遺伝子」。Bとbという2種類の対立遺伝子があり、BBという遺伝子からなるコロニーの女王は、必ず単女王コロニーになる。Bbやbbでは多女王コロニーになる。
 Bとbでは塩基配列に9個の違いがある。逆位が起こった。
 単独の女王は、古い巣から新しい巣を作るために飛行して生息範囲を広げる。
 多数の女王がいるコロニーでは、その一帯を独占して、他系統のコロニーの女王を排除しながら、巣を大きく広げる。
 
●自家不和合性(p125)
 多くの植物では、自分の花粉には受精せず、他者の花粉でのみ受精して種子を作る。
 
●四つの性(p135)
 ノドジロシトドという鳥は、頭に白いストライプのあるタイプ(WS:White-Stripe)と、褐色のストライプがあるタイプ(TS:Tan-Stripe)の2種類が存在する。スーパージーン。逆位が2回起こった。
 WSは、歌はうまいが攻撃的で子育てが下手。TSは歌は下手だが子育てが上手。
 オスとメスという性以外に、WSとTSという性がある。WSのメスはTSのオスとしかつがいにならず、TSのメスはWSのオスとしかつがいにならない。
 
●H2(p143)
 ヒトにおけるスーパージーン。第17染色体の17q21.31という150万塩基対ほどの領域。この領域には、逆位の有無からH1とH2という二つのタイプが見つかった。霊長類のゲノムとの比較から、もともとはH2が祖先型で、現生人類の中で徐々にH1型が広がってきた。逆位が起こったのは200万~300万年前という説と、10万年前という説がある。
 H2タイプはアジア人には見当たらず、アフリカ人ではわずか6%ほど。ヨーロッパ人は20~37%。
 この領域が子供の数に関連しているかもしれない。アイスランドのデータから、H2を持つ母親は子だくさんの傾向が見られた。
 その後、ヨーロッパ人の様々な「現象」と結びついている可能性が報告されている。パーキンソン病や大脳皮質基底核変性症といった神経変性を伴った脳の病気になりにくい傾向、など。
 
●蛹の色(p164)
 アゲハの幼虫は、鳥の糞型から柑橘系型に自動的に切り替わる。
 蛹は、周囲の環境によって緑色か茶色になる。葉や細い枝についている蛹は緑色、太い幹についているのは茶色。ざらざらしたところにいると、蛹の体色を茶色に変えるホルモンが分泌される。
 
●キューティクル(p166)
 昆虫の体色は、たんぱく質やキチンなどの物質からなるクチクラが主に色づく。
 クチクラは、英語で髪の毛のキューティクル(cuticle)と同じ単語。
 
(2023/12/24)NM
 
〈この本の詳細〉


nice!(1)  コメント(0) 
共通テーマ:

nice! 1

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。