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日本インテリジェンス史 旧日本軍から公安、内調、NSCまで
 [社会・政治・時事]

日本インテリジェンス史 旧日本軍から公安、内調、NSCまで (中公新書)
 
小谷賢/著
出版社名:中央公論新社(中公新書 2710)
出版年月:2022年8月
ISBNコード:978-4-12-102710-8
税込価格:990円
頁数・縦:279p・18cm
 
 日本におけるインテリジェンスについて、戦後の歴史をたどる。
 
【目次】
序章 インテリジェンスとは何か
第1章 占領期の組織再建
第2章 中央情報機構の創設
第3章 冷戦期の攻防
第4章 冷戦後のコミュニティの再編
第5章 第二次安倍政権時代の改革
終章 今後の課題
 
【著者】
小谷 賢 (コタニ ケン)
 1973年京都府生まれ。立命館大学卒業、ロンドン大学キングス・カレッジ大学院修士課程修了。京都大学大学院博士課程修了。博士(人間・環境学)。英国王立統合軍防衛安保問題研究所(RUSI)客員研究員、防衛省防衛研究所戦史研究センター主任研究官、防衛大学校兼任講師などを経て、2016年より日本大学危機管理学部教授。著書『日本軍のインテリジェンス』(講談社選書メチエ、第16回山本七平賞奨励賞)ほか。
 
【抜書】
●5~10%(p4)
 インテリジェンス・コミュニティの組織数は、国によってさまざま。米国では18、イスラエルでは4。
 コミュニティの規模は、その国の軍隊のおおよそ5~10%くらいの人員と予算が割り当てられている。
 米国は8兆円、20万人(米国防予算の約10%)、英国は4200億円、2万人(同7%)。
 日本は1500~2000億円、6000人程度(都道府県警察の公安部は含まず。防衛費の3~4%程度)。
 
●縦割り(p11)
 太平洋戦争中、日本陸軍は米軍の高度な暗号の一部を解読していたが、海軍は解読することができなかった。
 陸軍はそのことを知っていたにもかかわらず、自分たちの暗号解読情報が「陸軍の」機密事項にあたるとして、海軍に提供しなかった。
 米軍の矢面に立たされる海軍こそ、米軍の暗号解読情報が必要であるにもかかわらず。
 
●調査室(p34)
 1952年4月9日、吉田茂首相は総理府令第9号によって、総理府に内閣総理大臣官房調査室を設置した。村井順室長。10月1日の衆議院議員選挙によって、公職追放されていた緒方竹虎が復帰すると、吉田は緒方を官房長官に抜擢。旧軍部の影響力を極力排除した、吉田、緒方、村井のトラアングルを形成。
 定員は7名。その後、7月に31名に増員。
 
●内調(p53)
 1957年、調査室は総理府から内閣官房に移される。内閣調査室(内調)。官房長官に対して、毎週の報告を行うようになる。
 室長ポストは警察、次長ポストは外務、という慣例。
 国内部(第一部)、国際部(第二部)、報道調査部(第三部)、資料部(第四部)、研究部(第五部)、情勢判断会議(第六部)という構成。定員は36名から51名に増員。
 
●別室、調別(p73)
 1958年4月1日、陸上自衛隊幕僚監部第二部別室(別室、または仁別)を創設。通信の傍受、解読などのシギントを担う。
 ⇐陸上自衛隊第一幕僚監部暗号班⇐保安隊第一幕僚部第二部分遣隊(1952年7月)⇐警察予備隊総監部調査部暗号班(1950年7月)。
 1978年1月、陸上自衛隊幕僚監部調査部第二課別室(調別)に改編。
 
●サクラ、チヨダ(p82)
 1960年7月、最高裁判決によって、公安警察が新たな立法措置に寄らずに調査活動をすることが認められる。
 警察庁警備局は、一係が左翼、二係が右翼、三係が外事で、四係が「サクラ」と呼ばれる隠密組織だった。
 1986年、共産党国際部長を務めていた緒方靖夫宅の盗聴工作が明るみに出たため「サクラ」は廃止され、その後は「チヨダ」に受け継がれる。
 外事警察(三係?)の主務は国内の外国勢力の監視。中・ソ在京大使館、在日本朝鮮人総聯合会(朝鮮総連)の定点観測、尾行による接触者の洗い出し、など。
 
●MICEの原則(p103)
 インテリジェンスの世界において、協力者を獲得するための原則。
 Money(金)、Ideology(思想信条)、Coercion/Compromise(強要と妥協)、Ego(エゴ)。
 これらのうち、対象者に最も響くところを突くのがコツ。
 
●内調(p125)
 1986年7月1日、安全保障会議の設置に併せて、内閣調査室を「内閣情報調査室(内調)」に改編。
 さらに、合同情報会議を内閣官房に設置。内閣官房副長官(事務)が主催し、内調、外務省情報調査局、防衛庁防衛局、警察庁警備局、公安調査庁の五つの組織が集まってお互いの情報を共有する場とする。
 しかし、合同情報会議は、情報を共有してそれを官房長官に上げるまでしか想定されておらず、何のために情報を共有するのかという点が不明瞭だった。
 
●外務省のIAS(p147)
 1993年、外務省では情報調査局を改編し、国際情報局(国情)を設置。組織的にインテリジェンスを扱う体制を整える。
 2002年の政治スキャンダル「外務省のラスプーチン」事件の影響で、2004年、国情は「国際情報統括官組織(IAS)」へと改編され、事実上「局」から格下げされる。
 
●情報本部(p153)
 1997年1月20日、防衛庁統合幕僚会議下の組織として、情報本部設立。人員1700名。
 公安警察、公安調査庁に次ぐ、日本で三番目の規模のインテリジェンス機関の誕生。
 電波部……定員の三分の一を占める。
 画像部……現・画像・地理部。外国軍隊に関する衛星写真を収集・分析。
 分析部……公開情報の収集や分析。
 緊急・動態部……現・統合情報部。外国の軍隊に関する情報の収集・分析や、自衛隊各部隊の情報を集約。
 
●内閣衛星情報センター(p162)
 2001年4月、内閣情報調査室の下部組織として「内閣衛星情報センター」が設置される。
 2003年3月28日、種子島宇宙センターから、H-ⅡAロケットによって日本初の情報収集衛星が打ち上げられる。
 
●内閣情報官(p166)
 2001年1月、内閣情報調査室長が「内閣情報官」に格上げされる。(本書では20年1月となっているが……)
 各省庁の事務次官や、警察庁長官、統合幕僚長と同格。
 99年の内閣法改正により、内閣官房は内閣の総合戦略機能を担うとともに、最高かつ最終の調整機関と位置付けられたことによる。
 行政改革に伴う公安調査庁の人員削減により、その一部40名の定員が内調に移管、170人体制に。内閣衛星情報センターの定員は200名以上。
 
●インテリジェンス(p168)
 2005年、元内調室長の大森義夫が『日本のインテリジェンス機関』を発表。
 翌年、元NHKワシントン支局長の手嶋龍一と佐藤優の対談本『インテリジェンス 武器なき戦争』が発刊2か月足らずで23万部を超える。
 それまで「諜報」と翻訳されてきた「インテリジェンス」という言葉が市民権を得る。
 
●方針(p175)
 2008年2月14日、「官邸における情報機能の強化の方針」が公表された。
 〔本「方針」は、戦後日本のインテリジェンス史において、最も重要な文書の一つであるといってもよい。なぜなら同文書は、日本政府が公式にインテリジェンス強化の方針について定めた初めてのものであり、その後の政府によるインテリジェンス改革は「方針」に基づいている上、ほとんどの提言内容が実現しているからである。今から振り返ってみると、予言の書といっても良いような内容となっているため、少し具体的に見てみよう。〕
 ① 情報収集機能強化……情報収集機能の強化として、政策と情報の分離という原則がうたわれ、対外人的情報収集機能の強化、情報収集衛星の拡充、各省庁の情報収集体制の強化が目標に掲げられている。2015年12月に、国際テロ情報収集ユニット(CTU-J)として結実。情報収集衛星も、4機体制から8機体制に拡充。
 ② 情報集約・共有体制の強化……それまで5省庁に限定されていた情報コミュニティを拡充し、財務省、金融庁、経済産業省、海上保安庁等を加えた「拡大情報コミュニティ」の概念を提示。
 ③ 情報保全体制の強化……「セキュリティ・クリアランス制度(秘密取扱資格)」となる秘密取扱者適格性確認制度を導入。各省庁が共通の資格で一部の秘密を取り扱うことを目指す。また、共通のイントラネットの整備や、各省庁の情報担当者を集めて合同研修を行う制度によって、担当者間の人的交流を進める。
 
●北村滋(p192)
 2011年から8年近くも内閣情報官を務める。そのため、警察庁長官や危機管理監よりも年次が上になり、結果として内閣情報官の地位を高めた。その間に、内調を中央情報機関として定着させ、数々のインテリジェンス改革を断行した。
 外事警察のキャリアを持つ北村は、警察においてもインテリジェンスの第一人者として一目置かれていた。
 それまで週1度だった内閣情報官による総理ブリーフィングを週2回にし、うち1回はインテリジェンス・コミュニティを構成する、警視庁警備局、防衛省情報本部、外務省統括官組織、公安調査庁、内閣情報衛星センター等の各機関の担当者が直接総理にブリーフィングする形式をとった。
 2013年8月、自民党で町村信孝を座長とする「党インテリジェンス・秘密保全等検討プロジェクト」が立ち上がり、内調を事務局として法案の作成が行われた。党内には法案に反対する声も多かったが、北村が法案の必要性を説明して回った。10月25日に「特別秘密の保護に関する法律案」が閣議決定、翌月から衆議院「国家安全保障に関する特別委員会」で審議が開始される。12月6日に「特定秘密の保護に関する法律(特定秘密保護法)」として成立。2014年6月には、両院で情報監視審査会を規定するための情報監視審査会規程が議決された。同年12月10日、「情報監視審査会」と、内閣府に特定秘密の指定状況を監視するための「大臣官房独立公文書管理監」が設置された。(p200)
 
(2023/3/30)NM
 
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マイホーム山谷
 [社会・政治・時事]

マイホーム山谷
 
末並俊司/著
出版社名:小学館
出版年月:2022年5月
ISBNコード:978-4-09-388857-8
税込価格:1,650円
頁数・縦:245p・19cm
 
 山本雅基と「きぼうのいえ」を中心に、山谷の現状とその地域包括ケアシステムを描く。
 
【目次】
序章 山谷と介護と山本さん
第1章 よそ者たちの集まる街
第2章 「きぼうのいえ」ができるまで
第3章 壊した壁と壊れた心
第4章 「山谷システム」は理想か幻想か
第5章 山谷のマザー・テレサの告白
終章 マイホーム山谷
 
【著者】
末並 俊司 (スエナミ シュンジ)
 1968年、福岡県生まれ。介護ジャーナリスト。日本大学芸術学部を卒業後、97年からテレビ番組制作会社に所属し、報道番組制作に携わる。2006年からライターとして活動。両親の在宅介護を機に、17年に介護職員初任者研修(旧ヘルパー2級)を取得。『週刊ポスト』を中心として、介護・福祉分野を軸に取材・執筆を続ける。『マイホーム山谷』で第28回小学館ノンフィクション大賞受賞。
 
【抜書】
●三大寄せ場(p7)
 東京の山谷(東京都台東区)
 大阪の釜ヶ崎(大阪市西成区)
 神奈川の寿町(横浜市中区)
 
●山谷(p40)
 〈「山谷」という地名は、江戸時代から存在しており、昭和41年以前は現在の住居表示でいう清川一・二丁目、東浅草二丁目の一部を「浅草山谷一丁目から四丁目」としていた〉(東京都福祉保健局『山谷地域―宿泊者とその生活―』、平成31年3月)。
 現在も台東区と荒川区にまたがる1.7㎢ほどの地域に簡易宿所(いわゆるドヤ)が密集しており、山谷地区と総称している。
 江戸時代、この界隈には、吉原遊郭や小塚原刑場(地元の人は「こづかっぱら」と発音)などが置かれていた。また、日光街道や奥州街道の主要な宿場町だったこともあり、素泊まり専用で雑魚寝の木賃宿が軒を連ねた。
 明治通りと吉野通りの交差点「泪橋」は、かつてここに思川(おもいがわ)が流れており、橋を渡れば小塚原刑場だった。縛られた罪人は、橋を渡るときに江戸方面を振り返って涙を流した、ということから「泪橋」の名がついたとも。
 1896年(明治29年)、福島県の常磐炭田から石炭を運び込むため、泪橋交差点の荒川区側に隅田川駅が開業し、荷下ろしを請け負う人足が各地から大量に集まった。
 
(2023/3/25)NM
 
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秘録齋藤次郎 最後の大物官僚と戦後経済史
 [社会・政治・時事]

秘録 齋藤次郎 最後の大物官僚と戦後経済史
 
倉重篤郎/著
出版社名:光文社
出版年月:2022年7月
ISBNコード:978-4-334-95321-8
税込価格:1,650円
頁数・縦:248p・19cm
 
 10年に一人の逸材といわれた大蔵官僚の成果と蹉跌を、戦後経済史・政治史の裏面史として解き明かす。
 
【目次】
第1章 大連立 15年目の証言
 不決断ゆえの挫折
 トップ会談合意後の決裂
第2章 生い立ち・入省まで
 敗戦、そして引き揚げ
 戦後の混乱と成長
第3章 大蔵官僚として
 主計局若手時代
 主計局参謀入り
 財政規律改革
 主計本流コース
第4章 小沢一郎と二人三脚
 官房長時代―湾岸1兆ドル支援
 主計局長時代―国際貢献税の失敗
 事務次官時代 国民福祉税の失敗
第5章 退官後 郵政社長
 郵政社長以前
 郵政社長として
 
【著者】
倉重 篤郎 (クラシゲ アツロウ)
 1953年生まれ。東京都出身。毎日新聞客員編集委員。東京大学教育学部卒業後、毎日新聞社に入社。水戸支局、青森支局、東京本社整理部、政治部、経済部、千葉支局長などを経て、2004年に政治部長、11年に論説委員長を務める。
 
【抜書】
●満州生まれ(p72)
 1936年1月15日、齋藤次郎は、旧満州・大連で生まれた。兄の一郎(33年生まれ)はフランス文学、妹の鞆子(42年生まれ)は経済学で大学教授になっている。
 父親は東京出身、満鉄調査部に勤務していた。
 4歳で上海に転勤。その後、天津、北京、奉天を経て、敗戦は疎開先の営口で迎えた。
 
●主計局(p95)
 主計局……各省の予算を査定。
 主税局……税務行政を担う。
 理財局……国有財産を管理する。
 
●企画担当(p107)
 72年6月、主計局総務課課長補佐(企画担当補佐)に。2年間。
 企画担当は、大蔵省の作戦参謀本部。予算の骨格、フレームを作る。主計官僚たちの憧れのポスト。
 〔拡大型か緊縮型か。増税か経費削減か。時の政権がどういう思想、哲学に基づいて予算を組むか。政治の要請と主計官僚の蓄積されたノウハウが一体となって、国民生活の基本設計がここで決まることになる。〕
 
●下水道特例債(p115)
 74年7月、理財局資金第一課長補佐に就任。
 下水道特例債を発案。
 下水道事業は、初年度は自治体の負担が高く、後年度に行くほど国の補助率が高くなる。特例債で自治体支出を肩代わりすることにより、事業開始の障害を軽減する。一方で、国の負担を標準化させる仕組みでもあった。
 事業規模は維持・拡大できるし、初年度の国費は節約できる。したがって、国の一般会計そのものは緊縮の体制を維持できる。下水道事業費の一般会計歳出が半分になった。
 建設省下水道課長もこの案に飛びついた。反対はどこにもなく、理財局の仕事として全省的に評価された。制度はいまも続いている。齋藤自身にとっても「個人としてやった最初のヒット作だ」となっている。
 
●企画主計官(p119)
 79年、ドイツから帰国後、主計局企画担当主計官に就任。82年6月までの3年間。80年度予算「財政再建元年イブ予算」(竹下登蔵相)。齋藤改革四点セット。10年に一度の逸材のいわれ。
 歳出百科……財政ガイドブックの作成。担当主計官が歳出の内容を分かりやすく解説。80年7月に第一稿。原稿を出す現場の負担が強く、81年度は内部資料としてのみ作成。
 予算三分類・一般歳出創設……予算項目・分類の単純化・明確化。歳出分を国債費(元利払い)、地方交付税、一般歳出の三分類に。前二者の義務的経費とは異なり、それ以外の歳出を政策費の塊として「一般歳出」として新たな概念でくくり、努力次第で削減可能だと切り分け、財政再建のキーワードにした。
 公債減額フレーム……公債1兆円減額鍵掛け方式。公債発行額を歳出入の差額としてはじき出すのではなく、編成前に対前年比で1兆円減額することをあらかじめ宣言。
 主計官フレーム……財政規律強化のための組織内部の改革。ドイツの「回章」方式をまねて、情報の共有をはかる。各主計官ごとに次年度予算の上限をあらかじめ設定、主計局長名でその順守を指示。
 
●3年間の成果(p129)
〔 齋藤にとって、企画担当主計官の3年は「頭を使って予算改革をした。大蔵省時代の一番の華」だった。主計官フレームはいまだに使っているし、一般歳出という括り方も山口、吉野両主計局長時代にも踏襲された。シーリングの導入も加えるとその後の大蔵省の予算編成の基本的枠組みは齋藤主計企画官の3年間で作られた、ということになる。
 齋藤の後の次官篠沢恭助によるとこうなる。
 「マイナスシーリング、ゼロシーリング両方とも齋藤次郎が考え出した。予算フレームというのは予算編成段階での用語だ。シーリングは要求段階のテクニックだ。その両方式を彼が編み出した」〕
 
●近畿財務局長(p131)
 82年6月、公共事業担当の主計官。
 83年6月、主計局総務課長。
 84年6月、文書課長。
 85年、近畿財務局長。主計局エリートにとっての羽休めのご苦労さんポスト。
 86年6月、主計局次長。
 88年6月、経企庁官房長。
 90年6月、大蔵省官房長。
 
●小沢一郎との二人三脚(p190)
 91年6月、主計局長。
 93年6月~95年5月、事務次官。
 齋藤は、小沢(自民党幹事長)との二人三脚で、湾岸増税(91年4月)、国際貢献税(91年12月、廃案)、国民福祉税(91年4月、廃案)に注力してきた。
 
(2023/3/25)NM
 
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Forget it Not
 [文芸]

Forget it Not
 
阿部大樹/著
出版社名:作品社
出版年月:2022年11月
ISBNコード:978-4-86182-937-6
税込価格:2,420円
頁数・縦:201p・19cm
 
 精神科医であり翻訳家でもある阿部大樹の、雑誌に掲載された評論/エッセーや訳書のあとがきなどをまとめた小論集。
 
【目次】
妄想のもつ意味
八丈島にて
スキゾフレノジェニック・マザー
戦時下の松沢病院
登戸刺傷事件についての覚書き
『もう死んでいる十二人の女たちと』/『不安―ペナルティキックを受けるゴールキーパーの…』
ペンをとった理由
『精神病理学私記』について
対談:ゴンサロ・M・タヴァレス 小説『エルサレム』をめぐって
その警官、友人につき
アメリカと祖父のシベリア
 
【著者】
阿部 大樹 (アベ ダイジュ)
 1990年新潟県柏崎市生まれ。2014年に新潟大学医学部を卒業後、松沢病院、川崎市立多摩病院等に勤務する。訳書にH・S・サリヴァン『精神病理学私記』(須貝秀平と共訳、第6回日本翻訳大賞)ほか。
 
【抜書】
●布キャンバス(p17)
 16世紀に布キャンバスが開発され、絵画表現は建築とか衣類の添え物ではなくなっていく。
 
●観察の鋭い人間(p122)
 〔同時代を生きた人間は彼を煙たがったのではないか。観察の鋭い人間が他人に好かれることは少ない。〕
 ハリー・スタック・サリヴァンに関する記述。
 
【ツッコミ処】
・総武線?(p83)
〔 背景的な情報を付け加えると、事件現場は登戸駅のすぐ近く、新宿駅からおよそ一五分のところにあります。総武線と小田急線が交叉するところです。バス停は駅出口から少しだけ離れていますが、それでも朝の通勤時間帯でありますし、交通量も人通りもかなり多かったはずです。〕
  ↓
 「総武線と小田急線が交叉するところ」なんてあったっけ? 新宿駅では接続しているけど、小田急線の駅はJR山手線の外側にあって南進してるし、総武線は新宿駅から北進するので、交わらないはず……。そもそも新宿から「一五分」どころか十五秒の位置、などと思案していてふと思いついた。登戸あたりは立川から川崎に向かう「南武線」が通っている! 総武線とあるけど、南武線の誤植らしい。
 「あとがき」に、
〔 センシティブな内容も含む文章であって、投稿までに複数人にチェックしてもらった。中立的な立場から、掲載誌の編集者もゲラに赤字を入れている。それでも事件現場をあらわすところに基本的な誤植があって、それが誰の目の校正もすり抜けて活字になってしまったところに、今でも気味の悪い感触がある。〕
と書いてあった。このことか!
 誤植を修正しないで再活字化したんだね。
 
(2023/3./19)NM
 
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お金に頼らず生きたい君へ 廃村「自力」生活記
 [文芸]

お金に頼らず 生きたい君へ: 廃村「自力」生活記 (14歳の世渡り術)
 
服部文祥/著
出版社名:河出書房新社(14歳の世渡り術)
出版年月:2022年10月
ISBNコード:978-4-309-61745-9
税込価格:1,562円
頁数・縦:270p・19cm
 
 廃村の蕗沢集落小蕗地区(通称)に建つ古民家を20万円で購入し、自力生活を始めた著者による、お金に頼らない生活のノウハウを伝授するエッセー。
 とはいえ、本書で語られるのは、横浜で勤め人生活をしながら、有給休暇や在宅勤務を活用し、3時間かけて廃村に行き、生活を組み立て行くところまでの3年半の軌跡である。会社員をやめた後の本格的廃村生活がどうなったのか、続編が楽しみである。
 
【目次】
その1 田舎に住処を探す
その2 ちょっと寄り道(生きるとは)
その3 ケモノを狩る
その4 古民家を活用する
その5 沢の水を引く
その6 土間を活用する
その7 文化カマドで脱化石燃料
その8 犬と暮らす
その9 ソーラーで発電する
その10 畑で作物を育てる
その11 制約と妥協点
 
【著者】
服部 文祥 (ハットリ ブンショウ)
 1969年生まれ。登山家、作家。大学時代に登山を開始し、ヒマラヤにある世界第二の高峰K2に登頂。日本では剱岳や黒部で冬期初登攀を記録。やがて食料を現地調達する「サバイバル登山」に傾倒。現在は、生活の拠点を都会から山の廃村の古民家に移しつつ、狩猟、畑作の生活を送る。
 
【抜書】
●循環と代謝(p44)
 「生きていくとはどういうことなのだろう」という疑問に対する答え。
 「生きていくとは、循環と代謝を続けていくこと」。つまり、生きていくことを楽しむには、「循環と代謝を楽しむ」ことである。
 〔食べ物も水も燃料も排泄も、生きることそのものであるにもかかわらず、購入して生きているのだ。〕(p42)
 〔代謝や呼吸、血液の循環は、お金を払って人任せにすることはできないのだ。〕
 
●不耕起栽培(p221)
 自然農法とは、不耕起無肥料(無農薬)で野菜を育てる方法。
 野菜は肥料によってよく育つが、バランスがとれていれば、肥料を入れなくても育つ。
 野菜も雑草も同じ植物なので、雑草が大きくなるところでは、野菜も大きくなれる。植物の根についている菌類がカギで、根っこを掘り起こさずに、菌類ごと根っこを利用するのが不耕起栽培の考え方。雑草にも野菜と相性がいいものや、土壌を豊かにしてくれるものなどがあり、そういう雑草をバランスよく生やして利用する。緑肥、生きた肥料。
 雑草は刈ってそのまま畑に敷いておく。種を蒔くところだけ掘り返し、邪魔な根っこをどかす。土壌は、鍬などで掘り返さない。
 30年位前に思想家で農家の福岡正信によって、基本的な考え方と技術が提唱され、世界中に影響を与えた。『わら一本の革命』春秋社。
 
●廃村自力生活の値段(p254)
 食費……1日500円。米小麦、乳製品、卵、納豆など。月15,000円。
 家の修繕費・工具・衣類など……月3,000円。
 電気代……10アンペア、月2,000円。
 (ソーラーパネルの場合……バッテリーの消耗費が年間1万円、月1,000円。)
 狩猟……登録3万円(保険含む)、弾代2万円、銃の更新や維持費1万円、合計年6万円。月5,000円。
 バイク、チェーンソー、草刈り機などの全燃料費、月2,000円。
 予備費……月3,000円。
 合計月3万円、年間40万円程度。
 他に、通信費とPC、紙や郵便などを加えても、年間50万円強。 国民年金、健康保険料は除く。
 
●ベーシックインカム(p263)
〔 現在、先進国でベーシックインカム制度導入が検討され始めている。ベーシックインカムとは、全国民に毎月一定のお金を分配するいう制度である。日本のベーシックインカム推進派は支給金額を七万円前後で検討しているようだ。ここで検証したように田舎で自給生活をするならひと月七万円あれば充分生きていくことができる。国からお金をもらうのは、自力という点でちょっと気が引ける部分はあるものの、過密社会や競争社会、過剰な消費生活(エネルギーダダ漏れ生活)になじめない人が、現金入手法が少ない地方で暮らそうとするときには、大きな後押しになる素晴らしい制度といえる。家族が増えればベーシックで入る金額も増えるため、子育てもしやすい。子どもたちにとっても競争社会以外の選択肢ができるのは、大きな朗報だと思う。〕
 
(2023/3/19)NM
 
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グルメ警部の美食捜査 3 美味しい合コンパーティーの罠
 [文芸]

グルメ警部の美食捜査3 美味しい合コンパーティーの罠 (PHP文芸文庫)
 
斎藤千輪/著
出版社名:PHP研究所(PHP文芸文庫 さ6-3)
出版年月:2023年1月
ISBNコード:978-4-569-90266-1
税込価格:836円
頁数・縦:232p・5cm
 
 久留米斗真(通称グルメ警部)と助手で運転手の燕カエデによる事件簿。今回は、グルメなお店で依頼を受けた個人捜査3件の顛末を追う。
 
【目次】
1 美味しい合コンパーティの罠
2 老舗鰻屋から消えた秘宝
3 失踪事件はランチ会のあとで
 
【著者】
斎藤 千輪 (サイトウ チワ)
 東京都町田市出身。映像制作会社を経て、現在放送作家・ライター。2016年に『窓がない部屋のミス・マーシュ』で第2回角川文庫キャラクター小説大賞・優秀賞を受賞してデビュー。2020年、『だから僕は君をさらう』で第2回双葉文庫ルーキー大賞を受賞。
 
(2023/3/18)
 
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小さなことばたちの辞書

小さなことばたちの辞書
 
ピップ・ウィリアムズ/著 最所篤子/訳
出版社名:小学館
出版年月:2022年10月
ISBNコード:978-4-09-356735-0
税込価格:3,300円
頁数・縦:526p・19cm
 
 『オックスフォード英語大辞典』編纂に関わった実在の人物を主な登場人物に据え、架空の女性編纂助手エズメを主人公に配した「歴史小説」。ひと時代前の辞書作りの現場の様子が伝わってきて興味深い。
 友人に奨められた『博士と狂人 世界最高の辞書OEDの誕生秘話』(サイモン・ウィンチェスター著、日本語版はハヤカワ文庫)がきっかけとなったという。同書は、「ジェームズ・マレーと、とりわけ熱心な(そして悪名高い)協力者だったウィリアム・チェスター・マイナー博士の交流を描いた実話」(p.505、著者あとがき)とのことである。
 また、博士の孫娘K・M・エリザベス・マレーによる評伝『ことばへの情熱――ジェイムズ・マレーとオックスフォード英語大辞典』(加藤知己訳、三省堂)もあり、こちらにエズメの父親ヘンリー・ニコルも登場するのだとか(p.524、訳者あとがき)。ただし、35歳で夭逝するらしいので、名前だけの拝借だと思われる。
 
【主な登場人物】
 エズメ・ニコル……辞書編纂助手、ことばの蒐集家。リジーにはエッシーメイと呼ばれていた。
 ハリー・ニコル……エズメの父、辞書編輯者。
 リリー・ニコル……エズメの母、故人。
 ジェームズ・マレー博士……『オックスフォード英語大辞典』(OED)編纂主幹。
 リジー・レスター……マレー家の女中。
 イーディス(ディータ)・トンプソン……エズメの名付け親。
 ベス……ディータの妹。
 メイベル・オショーネシー……市場の老婆。
 ティルダ・テイラー……女優、サフラジェット。
 ビル・テイラー……ティルダの弟。
 ホレス・ハート……オックスフォード大学出版局経理部長、印刷所監督。
 ガレス・オーウェン……植字工。
 ヘンリー・ブラッドリー……OEDの第二編纂主幹。
 フレッド・スウェットマン……辞書編纂者。
 ダンクワース……辞書編纂者。
 ヒルダ、エルシー、ロスフリス……マレー博士の娘、助手。
 フィリップ・ブルックス、サラ・ブルックス……ディータの友人夫妻。
 
【著者】
Williams, Pip (ウィリアムズ,ピップ)
 ロンドンに生まれ、オーストラリア・シドニーで育つ。現在はアデレード在住。旅行記事や書評を手がけ、掌編小説、詩などの作品もある。『小さなことばたちの辞書』は、著者初の長編小説である。
 
最所 篤子 (サイショ アツコ)
 翻訳家。英国リーズ大学大学院卒業。
 
【抜書】
●おおざっぱな大意(p396)
 〔経験からいって、〈辞書〉が与えてくれるのは、おおざっぱな大意でしかなかった。“悲哀”も、そうした語のひとつであることをわたしは知っていた。〕
 
(2023/3/15)NM
 
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一生モノの物理学 文系でもわかるビジネスに効く教養
 [自然科学]

一生モノの物理学 文系でもわかるビジネスに効く教養 (単行本) 
鎌田浩毅/著 米田誠/著
出版社名:祥伝社
出版年月:2022年3月
ISBNコード:978-4-396-61741-7
税込価格:1,760円
頁数・縦:285p・19cm
 
 高校レベルの初級物理学を応用して、10の製品や自然現象について解説する、文系ビジネスパーソン向け物理学講座。
 私の場合、ma=F(ニュートンの運動の第2法則。m:物体の質量、a:物体に生じる加速度、F:物体に外部から作用する力)までは理解できた。しかし、その後に出てきた数式が複雑で、記号の意味とともにその数式を暗記することができず、物理は挫折した。
 
【目次】
医療の中の物理学)水晶体の再建
(医療の中の物理学)内視鏡
(医療の中の物理学)X線・CT・MRI
(医療の中の物理学)重粒子線によるがん治療
(日常の中にある物理学)万有引力と天体の不思議
(日常の中にある物理学)ジェットエンジンの推進力
(日常の中にある物理学)気象現象のメカニズム
(日常の中にある物理学)ノイズ・キャンセリング
(日常の中にある物理学)レーダー・ソナー
(日常の中にある物理学)リニアモーターカー
(日常の中にある物理学)赤外線カメラと電子顕微鏡
(特別講義)社会人のための物理の学び方
 
【著者】
鎌田 浩毅 (カマタ ヒロキ)
 1955年東京生まれ。東京大学理学部卒業。通産省主任研究官、京都大学大学院人間・環境学研究科教授を経て、現在京都大学レジリエンス実践ユニット特任教授・同名誉教授。専門は火山学、地球科学、科学教育。
 
米田 誠 (ヨネダ マコト)
 1977年生まれ。兵庫県西宮市出身。大阪大学大学院修了(修士(工学))。三菱重工業株式会社での設計業務を経て、現在関西の大学受験予備校「研伸館」にて物理の学習指導に携わる。東大・京大をはじめ、難関大学志望の高校生や灘中・灘高の学校準拠クラスを指導するなど、幅広いレベル・学年の講座を担当。
 
【抜書】
●白内障(p24)
 白内障は、太陽光中の紫外線によって水晶体が白く濁ることによって起こる。
 若いうちは体内の酵素によって水晶体の白濁を防いでいるが、加齢に伴い酵素の生産量がだんだん少なくなっていく。そのため水晶体が白濁し、視界の「もや」が徐々に濃くなっていく。
 
●島津源蔵(p58)
 1895年、ドイツの物理学者ヴィルヘルム・レントゲン(1845-1923年)がX線を発見。数日後、世界最初のX線写真を撮影。妻ベルタ夫人の手の骨と指輪。
 1896年、発明家の島津源蔵(1869-1951年)が、日本初のX線写真撮影に成功。島津製作所の二代目社長。島津製作所の初代社長は、父親の初代島津源蔵。1894年に急死し、長男の梅次郎が2代目源蔵を襲名した。
 
●陽イオン、陰イオン(p93)
 電気的に中性な原子から電子を取り去って正の電気を帯びたものを「陽イオン」という。英語でCation〈カチオン〉。
 電気的に中性な原子に電子を付与したものを「陰イオン」という。Anion〈アニオン〉。
 「マイナスイオン」という言葉は、自然科学の世界には存在しない。
 
●受用と試行錯誤(p242)
 〔ビジネスパーソンは何のために物理を学ぶのでしょうか。それは、「受用」と「試行錯誤」という2つの異なる姿勢を身につけるためです。
 なお、「受用」とは「受け入れて用いること」、そして、「試行錯誤」とは「いろいろ試してみて、失敗を重ねながらも完成に近づけていくこと」です。
 物理学の学習はまず、正しいとされている基本黄な法則(ルール)を受け入れ、正しく使いこなせるようになることから始まります。換言すると、「考え方の型(カタ)を身につけて使うこと」(受用)から始まるのです。そして、そこに主観や先入観を混ぜることは許されません。
 そうした先入観のない「型」を身につけた後で、次にやっと「なぜこういう現象が起こるのだろう」と考えます。つまり、習得した「型」に従って、ああでもないこうでもないといろいろと考えるのです。これが取りも直さず、「試行錯誤」なのです。
 ここで、ほとんどの場合には、納得できる結果を得て、「型」の素晴らしさを実感します。こうなると、「物理は面白い!」となるのです。〕
 社会の現場では、「受用と試行錯誤」の次に、「探究」の要素が加わる。
 〔社会はすでにわかっていることを習得し実践するだけの場ではなく、知られていないことを仕事にして探求《ママ》する場でもあります。したがって、探究の要素が強くなります。〕
 
(2023/3/14)NM
 
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「文章起業」で月100万円稼ぐ! 副業・在宅OK、未経験からはじめられる
 [経済・ビジネス]

副業・在宅OK、未経験からはじめられる 「文章起業」で月100万円稼ぐ!
 
藤原将/著
出版社名:大和出版
出版年月:2021年3月
ISBNコード:978-4-8047-1877-4
税込価格:1,650円
頁数・縦:277p・19cm
 
 Webライターを目指す人の指南書。
 Webライター、すなわち他人から依頼を受けてWebページに文章を投稿・掲載してお金を稼ぐライター稼業で、最も多い仕事は、SEO記事の制作らしい。「ネット上に公開する集客用の記事」のことである。全体の9割に当たるという。その他の仕事には、製品紹介ページ、YouTubeの演者が読み上げる台本、電子書籍、SNS投稿(アカウント運用者の代筆)などがあるらしい(pp.32-34)。
 これらの仕事を、主に「ランサーズ」や「クラウドワークス」などのクラウドソーシングに登録して獲得するのである。
 
【目次】
序章 Webライターで稼ぐ人になる
 稼げるWebライターは、こうしてスタートしている
第1章 月収5万円を稼ぐ―副業レベル
 Webライターの仕事のメリット
 Webライターの主な仕事内容
  ほか
第2章 月収15万円を稼ぐ―副業・専業レベル
 専業Webライターで月収15万円を稼ぐ
 副業Webライターで月収15万円を稼ぐ
  ほか
 
【著者】
藤原 将 (フジハラ ショウ)
 合同会社ユートミー代表。高校卒業後、専門学校を経て美容師となる。経済的な苦難を解消するため、美容師1年目から副業としてWebライターの仕事を開始。その後、Webライターの仕事に集中するため美容師を退職し、4カ月後に月収50万円、9カ月後に月収100万円を達成。独立2年目に法人を設立する。現在は、ライティング全般やサイト構築、ディレクション業を行う。また、自身と同じように在宅ワークで稼ぐことが必要な人、本気で書くことを仕事にしたい人へ、自らの経験を元にした「稼げるWebライターになる方法」を指導している。
 
【抜書】
●2円(p254)
 〔専業Webライターとして活躍している知人は、おおよそ文字単価2円前後のライティング案件を獲得できた段階で独立しているケースが多いように思います。
 副業Webライターからキャリアをスタートし、やがて独立を目指しているなら、文字単価2円を1つの指標としてみてください。〕
 
(2023/3/14)NM
 
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ウイルスとは何か 生物か無生物か、進化から捉える本当の姿
 [自然科学]

ウイルスとは何か 生物か無生物か、進化から捉える本当の姿 (中公新書)
 
長谷川政美/著
出版社名:中央公論新社(中公新書 2736)
出版年月:2023年1月
ISBNコード:978-4-12-102736-8
税込価格:990円
頁数・縦:266p・18cm
 
 ウイルスについて、これまでの研究で明らかになったことを総合的に論じる。
 
【目次】
第1章 ウイルスという存在
第2章 ウイルスの起源を探る
第3章 インフルエンザウイルスの進化
第4章 動物からもたらされる感染症
第5章 動物の行動を操るウイルス
第6章 進化の目で見るコロナウイルス
第7章 ヒトとともに進化するウイルス
 
【著者】
長谷川 政美 (ハセガワ マサミ)
 1944年(昭和19年)新潟県生まれ。進化生物学者。理学博士(東京大学)。統計数理研究所教授、復旦大学教授、国立遺伝学研究所客員教授などを歴任。統計数理研究所名誉教授、総合研究大学院大学名誉教授。日本科学読物賞(1993年)、日本遺伝学会木原賞(1999年)、日本統計学会賞(2003年)、日本進化学会賞・木村資生記念学術賞(2005年)など受賞歴多数。
 
【抜書】
●ウイルスの種類(p10)
 《RNAウイルス》
  ・マイナス鎖一本鎖RNA……(-)RNAゲノム。インフルエンザ、麻疹
  ・二本鎖RNA……dsRNA。レオ、ロタ
  ・プラス鎖一本鎖RNA……(+)RNAゲノム。コロナ、C型肝炎
 《レトロウイルス》
  ・一本鎖RNA逆転写……(+)RNAゲノム。HIVなどのレトロウイルス
  ・二本鎖DNA逆転写……dsDNAゲノム。B型肝炎、カリフラワーモザイク
 《DNAウイルス》
  ・一本鎖DNA……ssDNAゲノム。パルヴォ
  ・二本鎖DNA……dsDNAゲノム。ヘルペス、天然痘
 
●プラス鎖RNA(p20)
 ゲノムがそのままmRNAとして働くことができるもの。
 マイナス鎖RNAは、いったん相補的なRNAに転写された後にmRNAとして働く。そのために、あらかじめ転写のための酵素である「RNA合成酵素」を備えている。
 
●三つの起源説(p32)
 (1)「細胞前の世界」の名残。そのころのRNAやDNAなどの核酸が「カプシド」というタンパク質を獲得してウイルスになった。
 (2)ウイルスは細胞生成物の退化したもの。「細胞後の世界」の出来事。
 (3)細胞生物のゲノムの一部あるいはRNAが独立してウイルスになった。
 三つのうちどれが正しいというのではなく、さまざまな起源をもったウイルスがいる、ということかもしれない。
 カプシド……ウイルス粒子(細胞に感染する前のウイルス)は、通常、RNAまたはDNAのゲノムがカプシドで囲まれた状態にある。ウイルスが感染して細胞内に入ると、この構造は消えてしまう。その外側が、さらに脂質二重膜の「エンベロープ」と呼ばれる外皮に覆われているウイルス粒子もある。エンベロープを持たないウイルス粒子は、裸のウイルスまたは「ヌクレオカプシド」と呼ばれる。ポリオウイルスやノロウイルスなど。コロナウイルスやインフルエンザウイルスはエンベロープを持つ。
 
●25万都市(p112)
 麻疹ウイルスが牛疫ウイルスから分かれたのが2500年前。
 両ウイルスが小反芻獣疫ウイルスから分かれたのが5200年前。小反芻獣疫ウイルスは、ウシ、ヤギ、ヒツジなどの家畜化(約1万年前)の後に出現。
 ヒトに感染する麻疹ウイルスは、人口25万~40万人以上の規模の都市がないと感染が持続しないと言われている。麻疹は一度感染すると一生の間免疫が持続するようなので、これくらいの規模の都市がないと持続的に感染が保たれない。
 
●ファージ療法(p137)
 1917年、パリのパスツール研究所にいたカナダ人微生物学者フェリックス・デレーユ(1873-1949)は、細菌に感染するウイルス「ファージ」を発見した。細菌の細胞内に感染し、赤痢菌の増殖を抑える。「赤痢菌に拮抗する不可視微生物について」と題する短報。
 赤痢患者に投与されると、1日に10回以上も血便のあった症状が翌日には快癒した。ファージ療法。
 デレーユはノーベル賞候補にもなったが、その後、抗生物質が登場した結果、ファージ療法は廃れてしまった。
 しかし、抗生物質は抵抗性をもった細菌が出現しているし、人にとって有益な細菌も一緒に除去してしまうというデメリットもある。
 ファージは特定の細菌にしか感染しないので、ほかの細菌にはダメージを与えることなく病原菌を退治できる。最近、ファージ療法が再び脚光を浴びている。
 
●ウイルスの家畜化(p144)
 ヒメバチ科のベッコウアメバチモドキという寄生バチは、ヤママユという蛾の幼虫の体内に産卵し、そこで孵化した幼虫は、ヤママユの幼虫を内側から食べながら育つ。
 ベッコウアメバチモドキには、ポリドナウイルスの一種イクノウイルスが寄生(内在化)している。宿主の蛾の幼虫の生理状態をコントロールしている。まず、寄生バチの卵表面がメス蜂のカリックス細胞で増殖したポリドナウイルス粒子で覆われていることで、蛾の幼虫の免疫を回避することができる。さらに、蛾の幼虫のホルモン系を攪乱して、蛹化することを妨げる。蛹になると体表が硬くなって寄生バチの幼虫が体内から出られなくなる。
 宿主がウイルスを利用して自身の生き残りを図っているように見えることを、「ウイルスの家畜化(Viral domestication)」という。
 さらに、寄生バチの宿主となるカイコガなどの蛾のゲノムに、ポリドナウイルスの「配列」が組み込まれていることが発見された。「内在性ウイルス様配列」。幼虫に卵を産み付けるタイミングが遅れて、寄生が失敗し、ウイルスの配列が蛾のゲノムに組み込まれたと考えられる。蛾にとって、内在化された配列が何かの役に立っているのかどうかは分かっていない。
 
●ハリガネムシ(p147)
 類線形動物門に分類される寄生虫。水中で交尾産卵し、孵化した幼虫はカゲロウやユスリカなど水生昆虫の幼虫に捕食され、体内で成長し、「シスト」という休眠状態に入る。
 カゲロウやユスリカは成虫になるとカマキリなどに食べられる。ハリガネムシはカマキリなどの体内で大きく成長し、宿主の行動を操作して、入水自殺するように仕向ける。
 
●ボルバキア(p163)
 多くの節足動物の細胞内に共生する真正細菌。Wolbachia。
 ボルバキアの共生が、宿主のウイルス感染症に抵抗力を与える。共通の資源をめぐってウイルスと競い合うために、結果的に宿主にウイルスに対する抵抗性をもたらすのかもしれない。
 ヤブカ属のネッタイシマカにボルバキアを共生させると、デングウイルスやジカウイルスの増殖が抑えられる。蚊の卵にボルバキアを感染させて共生個体を作り出し、野外に放つことによってデング熱やジカ熱の流行を抑える試みが始まっている。ボルバキアは、母親から子どもに受け継がれる。
 不妊虫放飼法……似たような方法に、放射線などで不妊にしたオスを大量に放す「不妊虫放飼法」という方法がある。沖縄では、キュウリやゴーヤなどウリ類の害虫ウリミバエがこの方法で駆除された。
 
●プロウイルス(p214)
 宿主のゲノムに組み込まれた状態のレトロウイルス。
 プロウイルスから遺伝情報が発現され、ウイルスRNAやmRNAが合成される。mRNAからウイルスたんぱく質が合成され、それと新たに合成されたウイルスRNAから作られる新しいウイルスが宿主細胞から出ていく。
 
●レトロトランスポゾン(p216)
 ヒトゲノム30億塩基対のうちの98%が、たんぱく質をコードしない「非コードDNA領域」。
 その中で最も多かったのが「レトロトランスポゾン」というDNA。ゲノム全体の42%を占める。
 レトロトランスポゾンは、「DNA→RNA→DNA」と、転写と逆転写を繰り返してゲノム中で転移・増殖する。このような転移は遺伝的な変異であり、有害な影響を及ぼすこともある。
 LTR型レトロトランスポゾン……LTR=long terminal repeat。末端に長い反復配列を持つ。同じ配列を数百から数千回繰り返す。レトロウイルスのプロウイルスとそっくりだが、活性を保つために必須のエンベロープたんぱく質「env遺伝子」を失っている。他の細胞へ感染できなくなったプロウイルスが生殖細胞に残ったものに見える。
 非LTR型レトロトランスポゾン……逆転写酵素を使って増殖するが、ウイルスとは異なるもの。SINE(short interspersed elements:短い散在性反復配列。ヒトゲノムの13.5%)と、LINE(long interspersed elements:長い散在性反復配列)の2種類がある。
 哺乳類(もしくはヒト?)のAmn SINE1は124個ある。そのうちの一つは「SATB2」という遺伝子の上流にある。SATB2は、哺乳類の脳の形成に関わっており、Amn SINE1が発現量の上昇に役立っている。ゲノムへのSINEの挿入が、哺乳類の脳の進化に重要な働きをしてきたと考えれらえる。
 エンハンサー……遺伝子の発現量を上昇させる働きをする配列。
 Amn……Amniota(羊膜類)の略。
 
●ゲノム刷り込み(p222)
 ゲノム・インプリンティング。哺乳類は父親と母親とからゲノムをそれぞれ一揃いずつ受け継ぐが、いくつかの遺伝子は片方の親から受け継いだほうだけが発現する。このように、どちらの親から由来した遺伝子なのかが記録されていることを「ゲノム刷り込み」という。
 哺乳類の胎盤で発現するゲノム刷り込み遺伝子15個のうち、10個が父親由来。胎児の「母子の対立」(父母の対立)において、父親が勝利した結果。胎児の成長因子は父親由来のものが発現し、成長を抑制する因子は母親由来のものが発現するような選択圧がかかっていると考えられる。
  
(2023/3/10)NM
 
〈この本の詳細〉


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