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神楽坂つきみ茶屋 4 頂上決戦の七夕料理
 [文芸]

神楽坂つきみ茶屋4 頂上決戦の七夕料理 (講談社文庫)
 
斎藤千輪/〔著〕
出版社名:講談社(講談社文庫 さ123-4)
出版年月:2022年5月
ISBNコード:978-4-06-527991-5
税込価格:726円
頁数・縦:270p・15cm
 
 黒内武弘との対決やいかに? 予想外の結末に、ハラハラドキドキ。
 
【目次】
プロローグ 不安を誘う近隣の新店舗
第1章 盗まれた献立“桜の花見膳”
第2章 献立泥棒の正体が発覚!
第3章 ライバル店と屋台で対決
第4章 頂上決戦の七夕料理
第5章 迫りくる邪悪な気配
第6章 遠い記憶の仕出し料理
エピローグ 取り戻した日常の朝餉
 
【著者】
斎藤 千輪 (サイトウ チワ)
 東京都町田市出身。映像制作会社を経て、現在放送作家・ライター。2016年に「窓がない部屋のミス・マーシュ」で第2回角川文庫キャラクター小説大賞・優秀賞を受賞しデビュー。 
 
(2022/10/31)
 
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日本語の大疑問 眠れなくなるほど面白い ことばの世界
 [言語・語学]

日本語の大疑問 眠れなくなるほど面白い ことばの世界 (幻冬舎新書)
 
国立国語研究所/編
出版社名:幻冬舎(幻冬舎新書 こ-26-1)
出版年月:2021年11月
ISBNコード:978-4-344-98637-4
税込価格:1,012円
頁数・縦:262p・18cm
 
 大学共同利用機関法人人間文化研究機構国立国語研究所(略称:国語研)に寄せられた、日本語に関する疑問に日本語学・言語学の専門家が回答。なお、回答集はホームページにも掲載されているという。
 
【目次】
第1章 どうも気になる最近の日本語
第2章 過剰か無礼か?敬語と接客ことばの謎
第3章 世界のことばと日本のことば
第4章 どちらを選ぶ?迷う日本語
第5章 便利で奇妙な外来語
第6章 歴史で読み解く日本語のフシギ
 
【抜書】
●ーみ(p22)
 「ーさ」による名詞化は、「その状態の程度」(勝利の嬉しさは計り知れない)か、「その状態である様子」(彼は嬉しさを隠さなかった)という単純な意味の名詞を作る。
 「ーみ」による名詞化は、「甘み」(=甘い味)、「丸み」(=丸い形)、「かゆみ」(=かゆいという感覚)といった特別な意味を表す名詞を作る。「ーみ」形は「(具体的な)感覚」を表す。単なる名詞化ではなく、実感を伴った名詞化。
 
●下駄(p172)
 「下駄」は、フランス語に借用された。
 しかし、男性名詞か女性名詞か、共通認識はまだ得られていない。
 男性の履物だから男性名詞?
 -aで終わるから女性名詞?
 
(2022/10/31)NM
 
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ピダハン 「言語本能」を超える文化と世界観
 [歴史・地理・民俗]

ピダハン――「言語本能」を超える文化と世界観
 
ダニエル・L・エヴェレット/〔著〕 屋代通子/訳
出版社名:みすず書房
出版年月:2012年3月
ISBNコード:978-4-622-07653-7
税込価格:3,740円
頁数・縦:390, 8p・20cm
 
 キリスト教の伝道のため、聖書をピダハン語に翻訳するため、アマゾンの奥地に入り込んでピダハンの言語を研究し、生活をつぶさに見てきたアメリカ人による、ピダハンの世界の紹介。
 ピダハンの文化、世界観を知るにつれ、著者は自身のイエス信仰と決別することになる。
 
【目次】
第1部 生活
 第1章 ピダハンの世界を発見
 第2章 アマゾン
 第3章 伝道の代償
 第4章 ときには間違いを犯す
 第5章 物質文化と儀式の欠如
 第6章 家族と集団
 第7章 自然と直接体験
 第8章 一〇代のトゥーカアガ―殺人と社会
 第9章 自由に生きる土地
 第10章 カボクロ―ブラジル、アマゾン地方の暮らしの構図
第2部 言語
 第11章 ピダハン語の音
 第12章 ピダハンの単語
 第13章 文法はどれだけ必要か
 第14章 価値と語り―言語と文化の協調
 第15章 再帰(リカージョン)―言葉の入れ子人形(マトリョーシカ)
 第16章 曲がった頭とまっすぐな頭
第3章 結び
 第17章 伝道師を無神論に導く
エピローグ 文化と言語を気遺う理由
 
【著者】
エヴェレット,ダニエル・L. (Everett, Daniel L.)
 1951年生まれ。言語人類学者。ベントレー大学Arts and Sciences部門長。1975年にムーディー聖書学院を卒業後、あらゆる言語への聖書の翻訳と伝説を趣旨とする夏期言語協会(現・国際SIL)に入会、1977年にピダハン族およびその周辺の部族への布教の任務を与えられ、伝道師兼言語学者としてブラジルに渡り調査を始める。以来30年以上のピダハン研究歴をもつ第一人者(その間、1985年ごろにキリスト教信仰を捨てている)。1983年にブラジルのカンピーナス大学でPh.D.を取得(博士論文のテーマは生成文法の理論にもとづくピダハン語の分析)。
 
屋代 通子 (ヤシロ ミチコ)
翻訳家。
 
【抜書】
●交感的言語使用(p22)
 主として社会や人間同士の関係を維持したり、対話の相手を認めたり和ませたりするといった働きをする。
 「こんにちは」「さようなら」「ご機嫌いかが」「すみません」「どういたしまして」「ありがとう」など。新しい情報を提供するものではなく、善意を示したり敬意を表したりするもの。
 ピダハン語には、交感的言語使用がみられない。ピダハンの文化は、こうしたコミュニケーションを必要としない。
 
●42時間(p112)
 ピダハンは、1日4~6時間漁をすれば、24時間、一家4人を食べさせるのに十分なたんぱく質が取れる。一家に一人前の息子がいる場合、男たちは漁の仕事を交代で行う。
 朝の3時に誰かが魚を獲ってきたら、家族の全員が起きてすぐさま魚を食べにかかる。
 収穫や採集は女の仕事。1週間に12時間くらいをこの仕事に充てる。
 漁や採集に費やされる時間は1週間当たり42時間。これを父親と母親、子供たち(時には祖父母)が分担し、誰もが1週間に15時間から20時間程度「働」けばいいということになる。
 ピダハンにとっては漁も採集も楽しい活動で、西洋文化でいう労働の概念とは相容れない。
 
●現在を楽しむ(p113)
〔 わたしは次第に、ピダハンは未来を描くよりも一日一日をあるがままに楽しむ傾向にあると考えるようになっていったが、ピダハンの物質文化には、その説を裏づけてくれる特徴がほかにも数々見られる。将来よりも現在を大切にするため、ピダハンは何をするにも、最低限必要とされる以上のエネルギーをひとつことに注いだりしない。〕
 
●村八分と聖霊(p159)
 いわゆる「公的な」強制力というものはピダハン社会には存在しない。主な強制力は、村八分と聖霊。
 ある人物の行動が多数者にとって害を及ぼすほど常軌を逸してくると、その人物は程度の差こそあれ、社会から追放される。村八分。
 聖霊は、ああいうことはしてはいけなかったとか、こういうことをしてはいけない、と村人に告げる。村の中の誰か一人を名指しすることもあれば、全体に話しかけることもある。ピダハンは、おおむねkaoáíbógíカオアーイーボーギー(「早口」という名の聖霊)の忠告に従う。
 
●数(p167)
 ピダハンには、数がないらしい。ものを数えたり、計算したりしない。
 一、二、「たくさん」といった数え方もない。数と思っていたものは、相対的な量を示しているに過ぎない。
 (著者が)ピダハン語の「二」に当たると思っていた「hoiホイ」は、小さな魚二尾にも、もう少し大きな魚一尾を指すのにも使われる。
 
●色(p169)
 ピダハンには色名がない。
 前任者のスティーブ・シェルドンが作成した色名の一覧で、それぞれの色は、色そのものを指すのではなく、句だった。
 黒……血が汚い
 白……それは見える/それは透ける
 赤……それは血
 緑……今のところ未熟
 
●マイシ川(p216)
 ピダハンの母なる川マイシ。著者が多くの時間を過ごしたピダハンの村はポスト・ノヴァにあった。マイシ川とマルメロス川の合流点に近い場所。
 マイシ川は、アマゾン川の支流の支流の支流。アマゾンは上流でマデイラ川と名を変え、マニコレという都市を過ぎたあたりで支流がいくつか分かれるが、そのうちの一つがマルメロス川。(p388、訳者あとがき)
 
カボクロ(p224)
 アマゾン先住民の末裔。
 いまではポルトガル語しか話さず、地域経済に根を張って自分たちをブラジル人だと思っている。
 ピダハンはカボクロをアウウーイ・ギーイ(真正の外国人)と呼ぶ。アメリカ人や都市在住のブラジル人を含めた外国人のことは単に「アウウーイ」と呼ぶ。
 ピダハンとカボクロの関係は深い。出会う頻度が高く、同じ環境を共有していて、狩りや漁、カヌー、ジャングルの知識など、おおむね似通った技術を持っている。外の世界に関するピダハンの知識は、ほとんどカボクロから仕入れたもの。
 
●ピダハン語(p250)
 ピダハン語の音素は、男性の場合、母音が三つ(i、a、o)、子音が八つ(p、t、k、s、h、b、g、x〈声門閉鎖音〉)。
 女性は、子音が七つ。hがなく、sで代用する。
 音素の少なさを補うため、声調で単語の区別をしている。
 音素が11しかないのは、他にハワイ語とニューギニアのロトカ語だけ。
 
●ディスコースのチャンネル(p260)
 ピダハン語には、「ディスコースのチャンネル」(社会言語学者デル・ハイムズの用語)が五つある。
 口笛語り、ハミング語り、音楽語り、叫び語り、通常の語り。
 
●方向(p301)
 ピダハンには、右、左という語がない。
 方向は、川(マイシ川)を基準にしている。上流、下流、川に向かって、ジャングルの中に。彼らは、川がどの方向にあるかということを常に意識している。
 街へ出かけたとき、彼らは最初に「川はどこだ?」と尋ねてきた。
 
●リカージョン(p318)
 ピダハン語にはリカージョンがない。常に単文で構成される。形容詞も、一つの名詞に一つしか付かない。
 リカージョン……文のある構成要素を同種の構成要素に入れ込む力。名詞句や節など。
 チョムスキーの変形生成文法への反証。
 
(2022/10/26)NM
 
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アルキメデスの驚異の発想法 数学と軍事
 [歴史・地理・民俗]

アルキメデスの驚異の発想法 数学と軍事 (インターナショナル新書)
 
上垣渉/著
出版社名:集英社インターナショナル(インターナショナル新書 077)
出版年月:2021年8月
ISBNコード:978-4-7976-8077-5
税込価格:946円
頁数・縦:237p・18cm
 
 アルキメデスの数学的・軍事的功績を解説。
 
【目次】
プロローグ なぜ、今、アルキメデスなのか?―現代の課題を先取りしたアルキメデス
第1章 その男の名は「アルキメデス」―アルキメデスの生きた時代とは?
第2章 アルキメデスは何を発見したのか?―アルキメデスの反ギリシア的思考法
第3章 究極の「軍事兵器」―アルキメデスの数学・物理学の知識がローマを苦しめた!
第4章 究極の「数学兵器」―アルキメデスの「直観、発想」の原点に迫る!
第5章 アルキメデスが最後に解こうとしたもの―スーパー数学兵器は何であったか?
 
【著者】
上垣 渉 (ウエガキ ワタル)
 三重大学名誉教授、全国珠算教育連盟学術顧問。1948年、兵庫県生まれ。神戸大学教育学部数学科を卒業し、東京学芸大学大学院修士課程を修了。
 
【抜書】
●三大数学者(p16)
 アルキメデス(BC287頃-BC212)
 ニュートン(1642-1727)
 ガウス(1777-1856)
 
●天秤(p66)
 アルキメデスは、ヒエロン2世(シラクサの支配者)からの難題(王冠が純金製かどうか調べる)に対して、天秤を使って解決したのではないか? 著者の推理。
 単に水槽で体積を測るだけでは、王冠の体積が小さすぎ、表面張力もあってその差が分かりづらい。
 水槽の中に天秤で吊るせば、受ける浮力の違いによる差が出やすい。
 
●パリンプセスト(p72)
 羊皮紙が使われていた時代、羊皮紙は貴重品であった。そこで、真新しい羊皮紙を使わず、既に書かれた文字を消して「再利用」していた。これをパリンプセスト(palimpsest)という。
 palin=再び、psestos=こすられた。ギリシャ語。
 
●アルキメデスの三つの軍事兵器(p110)
 アルキメデスの鉤爪……敵の船を転覆させるクレーン。
 アルキメデスの投石機……遠距離用の「カタパルト」と、近距離用で小型化・携帯もできる「スコルピオン」。80㎏の石を発射できた?
 アルキメデスの熱光線……巨大な鏡で太陽光を反射させた。
 
●シュラコシア号(p142)
 古代ギリシャ・ローマ時代を通じて最大の巨船。ヒエロン2世がアルキメデスに建造を命じた巨大豪華船。
 搭乗員600人以上、船内には競技施設、庭園、神殿まで備えていた。
 ギリシャ語散文作家アテナイオス(2世紀後半~3世紀)による。
 
●アルキメディアン・スクリュー(p146)
 アルキメデスが考案した排水ポンプ。シュラコシア号の排水にも利用された。
 日本でも、江戸時代前期の寛永17年(1640年)頃の佐渡金山で構内排水(揚水)に使われた。水上輪、龍尾車とも呼ばれた。
 
(2022/10/20)NM
 
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FOOTPRINTS 未来から見た私たちの痕跡
 [社会・政治・時事]

FOOTPRINTS(フットプリント) 未来から見た私たちの痕跡
 
デイビッド・ファリアー/著 東郷えりか/訳
出版社名:東洋経済新報社
出版年月:2021年6月
ISBNコード:978-4-492-80091-1
税込価格:2,640円
頁数・縦: 315, 15p・20cm
 
 未来の地球に残されるであろう人新世の化石、すなわち人類による環境破壊の痕跡について論じる。
 英文学の教授だけあって、内容が文学的。第4章「氷床のコアの記録」での、図書館と氷床のコア(「柱状試料」というらしい)のアナロジーはさすがである。一方は人類の記録、他方は地球の記録を保存している。つまり、氷床は「氷の世界図書館」(p.152)というわけだ。
 
【目次】
序章 呪われた未来の痕跡
第1章 飽くことなく延びる道路
第2章 薄い都市
第3章 ペットボトルの行方
第3章 氷床コアの記録
第5章 失われつつあるサンゴ礁
第6章 残りつづける核廃棄物
第7章 脅かされる生物多様性
第8章 微生物の撹乱
終章 未来の化石が示すもの
 
【著者】
ファリアー,デイビッド (Farrier, David)
 イギリス・エディンバラ大学の英文学と環境学の教授。『FOOTPRINTS―未来から見た私たちの痕跡』で英国王立文学協会のジャイルズ・セントオービン賞を受賞。デジタル・マガジンの「イーオン」や、『アトランティック』誌に寄稿している。
 
東郷 えりか (トウゴウ エリカ)  
翻訳者。上智大学外国語学部フランス語学科卒業。
 
【抜書】
●鮮新世(p14)
 鮮新世(第三紀の最後の時代)中期(350万年前)の間、大気中の二酸化炭素の濃度は280ppmを超えていた。
 19世紀半ばまでの80万年間は、氷期と間氷期を繰り返す中で、180~280ppmの間を揺れ動いていた。
 2013年5月、ハワイのマウナロア観測所の気候科学者たちは、人類史上初めて400ppmに達したと発表した。
 人新世は、鮮新世の気候に近づきつつある。
 間もなく、400ppm以下に減少したが、今日の大気中の二酸化炭素の濃度は、410ppm前後。年間約2ppm増えている。人間の活動は、地球システムを自然のプロセスより170倍の速度で変化させている。私たちは、1万年におよぶ環境の変化を、58年間で達成している。(p22)
 
●船舶解体業(p61)
 バングラデシュ沿岸部のチッタゴン市。
 1990年代末から2000年初めにかけて重油タンカーの危険な事故が相次いだため、船体が一重構造のタンカーが使用禁止となった。そのため、船舶解体という新しい産業が生まれ、チッタゴン市で解体場が繁盛している。
 チッタゴンでは遠浅の砂浜に何十隻もの船が乗り上げ、解体されるのを待っている。
 
●極地(p68)
 温暖化で極地の氷河や氷床が解けると、海岸線の95%ほどは海面が上昇する。
 極地、とりわけ北半球では、海面は下がることになる。陸塊はまだ最終氷期の終わりに失われた氷床の重みから回復しつつあるため。
 
●キャンプ・センチュリー(p136)
 1950年、米国軍がグリーンランドに作った地下都市。カーナークにある軍事基地から140km離れた氷の下に都市の建設を始めた。
 200人以上の兵士が寝起きする場所、大通り、病院、礼拝堂、郵便局、実験所、ラジオ局、暗室、映画館、スケートリンクを完備。電力は出力1.5キロワットの原子炉から供給。
 600基の中距離弾道ミサイルを格納できるトンネル網が建設可能かどうかを確かめるミサイル・プログラムの実験場でもあった。プロジェクト・アイスワーム。「アイスワーム」は、キャンプ・センチュリーを建設し、そこで暮らした兵士たちによって採用された愛称。
 キャンプ・センチュリーは、1969年以降、放置されたままである。(p153)
 
●炭酸カルシウム(p172)
 サンゴの骨格や、オキアミなどの甲殻類の殻を作るのに炭酸カルシウムが必要となる。
 海洋に多くの二酸化炭素が溶け込むと、海水内の水素イオン濃度が上がり、骨格や殻の形成に必要な炭酸イオン濃度が下がってしまう。
 
●オンカロ(p220)
 フィンランドの核廃棄物処理施設。この先120年間、地下450メールの基盤岩の中に核廃棄物を保管する。
 
●5度の大量絶滅(p242)
 (1)O-S境界……オルドビス紀とシルル紀の境目
 (2)デボン紀後期
 (3)ペルム紀……2億2,500万年前。大絶滅。
 (4)T-J境界……三畳紀とジュラ紀の境目
 (5)K-T境界……白亜紀と第三紀の境目
 
●10分の1(p244)
 すべての野生動物の生物量は、いまやヒト1種の10分の1。
 家畜とペットを含めると、陸上の哺乳類の全生物量の97%を占める。
 
●チチュウカイベニクラゲ(p267)
 Turritopsis dohrnii。
 直径が数ミリしかなく、糸のような触手が何百本もあり、透明な傘からは鮮やかな真紅色の胃が見える。
 死ぬと何百もの細胞が死骸から分解され、どうにかしてお互いを見つけ出し、極小のコロニーの中に集まり、新しいポリプを作り出す。
 
●プラスティグロメリット(p308)
 人新世の新種の石。
 通常は、海岸で生じた火災でプラスティックごみが岩石や堆積物の粒子とともに溶けて生成される。
 最初のプラスティグロメリットは2006年にハワイで見つかった。その後、世界各地の海岸に出現している。
 
【ツッコミ処】
・氾濫(p65)
 〔アサド・カーンとエレーニ=イラ・パヌルジアによるこのインスタレーションは、ニューオーリンズ市の位置座標にちなんで、29.9511°N, 90.0715°Wと名づけられた。これは2005年8月29日にハリケーン・カトリーナで同市が氾濫したのち、アメリカ地質調査所とNASA、アメリカ陸軍工兵隊が、光探知と測距技術(LIDAR)を使って集めたデータからなる3次元動画だった。〕
  ↓
 「氾濫する」のは河川などであって、主語が「ニューオーリンズ市」となっているのは違和感あり。
 
(2022/10/17)NM
 
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古代中国の24時間 秦漢時代の衣食住から性愛まで
 [歴史・地理・民俗]

古代中国の24時間 秦漢時代の衣食住から性愛まで (中公新書)
 
柿沼陽平/著
出版社名:中央公論新社(中公新書 2669)
出版年月:2021年11月
ISBNコード:978-4-12-102669-9
税込価格:1,056円
頁数・縦:324p・18cm
 
 アルベルト・アンジェラ『古代ローマ人の24時間』に触発され、10年間、文献その他多様な資料を読み解いて考察した、古代中国の日常生活。主に秦漢時代。
 
【目次】
プロローグ 冒険の書を開く
序章 古代中国を歩くまえに
第1章 夜明けの風景―午前四~五時頃
第2章 口をすすぎ、髪をととのえる―午前六時頃
第3章 身支度をととのえる―午前七時頃
第4章 朝食をとる―午前八時頃
第5章 ムラや都市を歩く―午前九時頃
第6章 役所にゆく―午前十時頃
第7章 市場で買い物を楽しむ―午前十一時頃から正午すぎまで
第8章 農作業の風景―午後一時頃
第9章 恋愛、結婚、そして子育て―午後二時頃から四時頃まで
第10章 宴会で酔っ払う―午後四時頃
第11章 歓楽街の悲喜こもごも―午後五時頃
第12章 身近な人びとのつながりとイザコザ―午後六時頃
第13章 寝る準備―午後七時頃〕
エピローグ 一日二四時間史への道
 
【著者】
柿沼 陽平 (カキヌマ ヨウヘイ)
 1980年、東京都生まれ。早稲田大学卒業。University of Birminghamに留学。早稲田大学大学院文学研究科に進学し、2009年に博士(文学)学位取得。中国社会科学院歴史研究所訪問学者、早稲田大学助教、帝京大学専任講師、同准教授などを経て、早稲田大学文学学術院教授・長江流域文化研究所所長。専門は中国古代史・経済史・貨幣史。2006年に小野梓記念学術賞、16年に櫻井徳太郎賞大賞、17年に冲永荘一学術文化奨励賞を受賞。
 
【抜書】
●明器(p13)
 めいき。墳墓の副葬品の一種。古代中国では、人間、動植物、家屋、調度品などのミニチュアをつくって副葬した。日本でいう埴輪か?
 
●姓・名・字(p15)
 秦漢時代の人々の名前は、ふつう、姓・名・字(あざな)よりなる。
 姓……太古の昔より存在する種族名。その一部は種族の居住地名に由来する。紀元前10世紀に殷を倒した西周王朝は、各地に家臣を封建し、一定の自治権を与える一方で、彼らに姓を与えなおし、彼らとの関係を強化・整備していった。
 氏……君主が同姓の者同士を区別するために支配階級に与えた。戦国時代頃からは支配階級以外も持つようになり、「姓は○○氏」などと名乗るようになり、姓と氏の区別がごちゃ混ぜになっていく。
 名……大体、親がつける。古代の常識として、親が子の、君主が配下の名を呼ぶのはよいが、民同士が名を呼びあうのは失礼であった。友人同士は字や姓+字で呼び合う。亡くなった者の名は諱(いみな)とも呼ばれる。
 字……親、親族、近親者、もしくは自分がつける。ふつう、成人につけられる。女性も字を持った。
 
●ゾウ(p35)
 長江流域には、漢代になってもゾウが生息していた。
 前900年~580年……淮河以南に生息。
 580年~1050年……主に長江より南に生息。
 
●百漏刻制(p38)
 秦漢時代の時刻は、1日を百分割する百漏刻制だった。1刻の時間は均等。
 日の出を基準に数える。前漢時代には、冬至の時に昼漏(ちゅうろう)40刻・夜漏(やろう)60刻、夏至の時に昼漏60刻・夜漏40刻とされ、9日間に1刻ずつ、昼と夜の長さが変化する仕組みだった。
 水時計(漏刻)は当時の精密機械で、せいぜい都市やムラに1台あればよいほう。役人が日の出に太鼓をたたいて朝を告げ、日没時に鐘を鳴らして夜を告げた。
 十二時辰制……1日を、子丑寅卯辰巳午未申酉戌亥と十二等分にする。その起源は、南北朝期に制度化され、唐宋時代に普及した。漢代には、1日を十六分割もしくは二八分割しており、時刻名にはさまざまなバリエーションがあった。
 
●杜若、鶏舌香(p61)
 歯磨きが徹底されていなかった古代、口臭は切実な問題だった。皇帝の側近ともなれば、杜若(とじゃく)、鶏舌香(けいぜつこう)といういブレスケアを服用していた。貴重なものだった。
 鶏舌香は、曹操が諸葛亮孔明に贈ったこともある珍品。「孔明よ、おれのそばでささやいておくれ」(助言をしておくれ)という意味の贈り物。
 
●美女(p78)
 美女といえば鄭(てい)、衛、燕、趙。都市単位では潁川、新市、河間(かかん)、観津(かんしん)。黄河中下流域ということになる。
 
●食事の回数(p88)
 王侯は、1日3回。淮南王劉長は、謀反を企てた廉で左遷されたが、特別に1日3回の食事を許されたという故事による類推。(『漢書』巻四四淮南王伝)
 王は1日4回、諸侯は3回、卿・大夫は2回。(『白虎通』巻三礼楽篇)
 庶民は、せいぜい1日2回前後?
 
●移牧(p191)
 冬は暖かい低地で、夏は涼しい高地で過ごす牧畜。
 牧草を探して広大な草原地帯を平行に移動するタイプの遊牧とは異なり、山地などで標高差を利用し、狭い範囲で行う。
 長江上流域では、山地民が移牧を営んでいた。
 
●慰安施設(p243)
 春秋時代末期、越王句践(こうせん)は軍隊内に慰安施設を作った。売春施設の起源?(『越絶書』外伝記越地伝)
 
●房中術(p247)
 漢代。セックスを通じて不老長寿、健康維持を図る技法・思想。
 『十問(じゅうもん)』『合陰陽』『天下至道談(てんかしどうだん)』『胎産書』『養生法(ようせいほう)』『雑療法(ざつりょうほう)』という書籍が、馬王堆漢墓から出土している。
 
●棄妻(p263)
 離婚は、法律上「棄妻」と呼ばれた。バツイチの女性も「棄妻」と呼ばれた。
 ひとたび離婚が成立すれば、二人は赤の他人。仮にその夜に元夫が元妻を襲えば強姦罪として扱われる。
《三不去(妻と離婚できない三条件)》
 ・舅・姑が亡くなった時に妻がしっかり喪に服した場合。
 ・かつて苦労を共にした(その結果、現在は裕福になっている)場合。
 ・すでに実家を失っている(そのため帰る家がない)場合。
《七去(妻と離婚できる七条件)》
 ① 子供ができない。
 ②  妻が淫乱である。
 ③ 妻が舅・姑に従順でない。
 ④ 妻がおしゃべりである。
 ⑤ 妻に盗み癖がある。
 ⑥ 妻がすぐに嫉妬する。
 ⑦ 妻が病気持ちである。
 
●単(p270)
 女性たちが任意に作る互助組織。それぞれにお金を出し合って葬儀代などに充てる。現代日本の互助会費、町内会費。
 必ずしも宗族や里人などときれいに重なるグループではない。
 
●休沐・洗沐(p273)
 キャリアの官吏は、官舎に泊まり、おおよそ五日に一度、休日をとって実家に帰った。
 自宅に帰って身体を洗うための日であるとされ、「休沐(洗沐)の日」と呼ばれていた。
 実際には、休みを数十日まとめて与えられている者もおり、休日のとり方は人によってさまざまだった。
 
●三本足のカラス(p276)
 死者の魂は伝説の崑崙山を終着点とし、もしくは崑崙山からさらに天界へ向かうとされていた。崑崙山には西王母という仙人がおり、青い鳥(もしくは三本足のカラス)を使役しているとも言われている。
 また、太陽には三本足のカラスが、月にはウサギとヒキガエルが住んでいるとみなされていた。
 
(2022/10/11)NM
 
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命の経済 パンデミック後、新しい世界が始まる
 [社会・政治・時事]

命の経済~パンデミック後、新しい世界が始まる
 
ジャック・アタリ/著 林昌宏/訳 坪子理美/訳
出版社名:プレジデント社
出版年月:2020年10月
ISBNコード:978-4-8334-2387-8
税込価格:2,970円
頁数・縦:307, 15p・20cm
 
 新型コロナのパンデミックが発生して半年の間に書かれた数本の論評をもとに、1冊の本に仕上げた。
 自宅待機を利用して考察した成果のようである。やや抽象的ではあるが、今後の理想的な社会の在り方を描いている。すべての人が、ウィズ・コロナ、コロナ後を生きる上での指針としたい内容である。
 
【目次】
第1章 命の値段が安かったとき
第2章 未曾有のパンデミック
第3章 一時停止した世界経済
第4章 国民を守り、死を悼む政治
第5章 最悪から最良の部分を引き出す
第6章 命の経済
第7章 パンデミック後の世界はどうなる?
結論 「闘う民主主義」のために
 
【著者】
アタリ,ジャック (Attali, Jacques)
 1943年アルジェリア生まれ。フランス国立行政学院(ENA)卒業、81年フランソワ・ミッテラン大統領顧問、91年欧州復興開発銀行の初代総裁などの要職を歴任。
 
林 昌宏 (ハヤシ マサヒロ)
 1965年名古屋市生まれ。翻訳家。立命館大学経済学部卒業。
 
坪子 理美 (ツボコ サトミ)
 1986年栃木県生まれ。翻訳者。博士(理学)。東京大学理学部生物学科卒業。同大学院理学系研究科生物科学専攻修了。
 
【抜書】
●封建制の崩壊(p40)
〔 ペストは収束に向かった。ヨーロッパでは、フランドルやイタリアなどのとくに豊かだった地域に農奴がいなくなり、賃金が上昇した。つまり、ペストにより、封建制は崩壊し、富は生き残った一部の者たちに集中し、裕福な商人が生まれたのだ。たとえば、メディチ家(フィレンツェの支配者)などの新たなエリートが台頭するようになった。こうしてジェノヴァとフィレンツェがヨーロッパの商業の中心地になった。宗教が死について説いても、真剣に耳を傾ける者はほとんどいなくなった。〕
 
●覇権国なき世界(p158)
 今回の危機(パンデミック)により、米国と中国が衰退し、覇権国なき世界に向かう変化が加速する。
 〔行き着く先は、どんな帝国に支配されるよりも危険な世界だろうか。ヨーロッパが自由、力、豊かさを実現する機会を取り戻す世界だろうか。〕
 
●中国のジレンマ(p163)
〔 中国を悩ませる永遠のジレンマとは、民主化すればペレストロイカ期のソ連のように自国が分裂する恐れがあり、民主化しなければ破綻へと突き進むことだ。〕
 
●EU(p165)
〔 世界はEUを中国やアメリカよりも優れた社会像と見なすようになるのではないか。EUの社会保障は充実している。生活水準は世界一だ。EUは民主国だけの集まりであり、世界に対して大きな影響力を持つ。批判者たちが何と言おうと、EUの結束力は危機時にさらに強固になる。先ほど述べたように、EUは経済および社会に関する共通の活動を強化するため、数多くの決定を下してきた。そして単位通貨ユーロは、さまざまな攻撃に遭いながらも、信頼性の高い世界的な準備通貨としての地位を揺るぎないものにしている。
 したがって、アメリカに代わって中国が覇権国になるという保証はまったくない。むしろ今回の危機によって両国が衰退すると見たほうがよいのではないか。〕
 
●死後の管理業務(p186)
 死後、その人のヴァーチャルな分身を維持し、いつでもアクセスできるようにするサービスが増えるかもしれない。
〔 死後の管理業務は独自の大市場を形成するようになるだろう。亡き者の存在は商売のネタの一つになる。死後の世界を準備するためにだけにこの世を過ごす者も現れる。彼らは自身のデータをホログラムに移し、エネルギーを浪費するだろう。〕
 
●非営利組織(p202)
 ヨーロッパの就業人口のうち、非営利組織で働く人の割合はおよそ10%。そのうちの四分の三は、教育、医療、社会サービスなどの分野。
 オランダでは、就業人口に占める割合は12.3%。人々がボランティア活動に費やす時間は、平均して週4時間超。フルタイム労働に費やす時間の8%に相当。オランダ経済への貢献はGDPの10.2%。国民の70%以上が毎年非営利組織に寄付するが、非営利組織の主な財源は公的資金である。
 
●命の経済(p214)
 今回の新型コロナによるパンデミックで、組織構造、消費、生産の形態を抜本的に見直す必要があることが明白になった。
 〔われわれの社会は、経済活動を新たな方向へと誘導しなければならない。すなわち、生産がこれまで著しく不足していたが、生活に必要不可欠だと判明した部門へと経済を導く必要があるのだ。〕 ⇒ 命の経済
 (1)パンデミックとの戦いに勝利するために必要な部門。
 (2)パンデミックによって必要性が明らかになった部門。
〔 「命の経済」の範囲はきわめて広い。健康、疾病予防、衛生、スポーツ、文化、都市インフラ、住宅、食糧、農業、国土保全だけでなく、さらには、民主主義の機能、安全、防衛、ごみ処理、リサイクル、水道配水、再生可能エネルギー、エコロジー、生物多様性の保護、教育、研究、イノベーション、デジタル通信技術、商取引、物流、商品配送、公共交通、情報とメディア、保険、貯蓄と融資などが含まれる。〕(p247)
 
●サッカー(p239)
〔 スポーツ、特にサッカーは、文化と娯楽の存続を考えるうえできわめて独特かつ模範的な例だ。
 深刻な出来事が続発しているときに、サッカーの話などどうでもよいと思われるかもしれない。しかしながら、サッカーという人気スポーツは、つねに世界の争点を映し出す鏡であり、一大経済活動であり、ルールが世界規模で決められる稀な活動の一つなのだ。サッカーのルール適用は、イギリスのプロの有名クラブであろうが、セネガルのアマチュアの小さなクラブであろうが、同じように変更される。また、今回のパンデミック期間中のサッカーのあり方の変化からは、その他の興行に待ち受けるものだけでなく、社会全体の未来も窺える。〕
 
●闘う民主主義(p285)
〔 七〇年間にわたるウルトラリベラル漬けにより、国が断固として行動し、計画を立てようとする意欲と手段はすべて失われた。そして数年来の監視テクノロジーの進化、ノマディズムの進行、不安定な生活を送る社会層の増加により、民主主義を保護する必要性、そして民主主義のもとで包括的な計画を立てようという動きが疑問視されるようになった。即時の成果、不安定な生活、利己主義がの世の中の規範になったのである。
 しかしながら、今は「生き残りの経済」から「命の経済」へと移行すべきときだ。今こそ、「放置された民主主義」から「闘う民主主義」へと移行すべきである。〕
 《「闘う民主主義」の五原則》
 1.代議制であること。……選出される議員と指導者は、国の社会層全体を反映。
 2.命を守ること。…… 「命の経済」への移行。
 3.謙虚であること。……当局は全知全能ではない。いかなる権威であっても分からないことはある。
 4.公平であること。……あらゆる危機は最貧層に最大の影響を及ぼす。超富裕層に重税を課す。
 5.将来世代の利益を民主的に考慮すること。
 
●危機後の世界(p290)
〔 危機後の世界を考えることは、俯瞰的に考察することであり、命について、そして人類の置かれている状況について思いを馳せることだ。かくも儚く脆弱であり、驚きに満ちた自分たちの人生をどのようにしたいのかを熟考することだ。人生はまた、稀有なものでもある。
 それは他者の命について考えることであり、人類と生きとし生けるものについて思考を巡らせることだ。
 死の恐怖ではなく、生きる喜びのなかでこれらのことを考える。一つ一つの瞬間を快活に生きる。我々は全員が死を宣告された存在である。その顔には死刑囚の笑みが浮かぶ。その心は、未来を可能にする人々への感謝に包まれ、惨事に対して充分な備えのある世界をつくろうとする大志に満たされる。間違いなく不可避であるこれらの惨事に対し、準備が万全あるがゆえに、事前の不安も、渦中での心配も必要がなくなる世界をつくるのだ。われわれ自身、われわれの子供たち、我々の孫たち、そしてその孫たちのために。
 もし、われわれが今、彼らに配慮するのなら、彼らには数多くのすばらしい出来事、胸躍る出来事が待っている。〕
 
(2022/10/8)NM
 
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猫が30歳まで生きる日 治せなかった病気に打ち克つタンパク質「AIM」の発見
 [医学]

猫が30歳まで生きる日 治せなかった病気に打ち克つタンパク質「AIM」の発見
 
宮崎徹/著
出版社名:時事通信出版局
出版年月:2021年8月
ISBNコード:978-4-7887-1755-8
税込価格:1,980円
頁数・縦:242p・19cm
 
 「治せない病気」をなくしたいと、臨床医から基礎医学に転身した研究者が、AIM発見のエピソードと、その後の研究の成果を披露。
 あちこち研究の手を広げて節操がないように見えるが、基礎にある志は「治せない病気」を治したい、という医者の使命感。そして、その時々の成果と発想の転換をもとに、様々なことに挑戦する心意気がすがすがしい。
 
【目次】
序章 「余命1週間」からの復活
第1章 臨床から基礎医学の世界へ
第2章 研究の修業時代
第3章 謎のタンパク質「AIM」との出会い
第4章 “治せない病気”とAIM
第5章 AIMによる“ゴミ掃除”と腎臓病
第6章 ネコの腎臓病とAIM
第7章 腎臓病のネコにAIMを投与
第8章 ネコ薬の開発
第9章 臨床試験に向けて
第10章 新型コロナウイルスとAIM
 
【著者】
宮崎 徹 (ミヤザキ トオル)
 東京大学大学院医学系研究科疾患生命工学センター分子病態医科学教授。長崎県生まれ。1986年東大医学部卒。同大病院第三内科に入局。熊本大大学院を経て、1992年より仏ルイ・パスツール大学で研究員、1995年よりスイス・バーゼル免疫学研究所で研究室を持ち、2000年より米テキサス大学免疫学准教授。2006年より現職。タンパク質「AIM」の研究を通じてさまざまな現代病を統一的に理解し、新しい診断・治療法を開発することをめざしている。
 
【抜書】
●AIM(p72)
 Apoptosis Inhibitor of Macrophage。マクロファージを長生きさせる(死ににくくする)タンパク質。
 
●動脈硬化(p82)
 動脈硬化は、悪玉コレステロール「LDLコレステロール」が血管壁に付着することで発症する。
 血管壁の内側に飛び出している動脈硬化巣に、泡状になったマクロファージが集まり、そのために動脈硬化巣は硬くなり、血液を流れにくくする。そのマクロファージがAIMをたくさん生成し、マクロファージを長生きさせ、動脈硬化巣の壁がどんどん厚くなっていく。
 つまり、AIMが動脈硬化を悪化させている。
 
●体の中にたまったゴミ(p102)
 腎臓病、自己免疫疾患、アルツハイマー型認知症などの「治せない病気」の共通点は、「体から出たなんらかのゴミが溜まった結果、発症する」ということ。感染症のように体外から病原体が侵入して起こる病気とは異なる。
 腎臓病は、尿細管に死んだ細胞の破片(デブリ)がたまって尿細管が詰まり、百万個あるネフロン(糸球体+尿細管)の大半が死ぬことで発症する。ネフロンは再生しない。
 デブリは、もともと自分自身の細胞だったものなので、免疫系が正常に働かない。攻撃も中途半端で、炎症も弱い。細菌相手の場合と異なり、攻撃の狙いが定まらず、流れ弾が当たるような形で周囲の正常な組織も傷つけてしまう。「慢性的に続く炎症」という異常な状況が成立する。
 
●ゴミ掃除能力(p107)
〔 現代社会で、〈治せない病気〉が多様化し、患者の数が増えているのは、おそらく急激な社会環境や生活スタイルの変化、高齢化社会、ストレス社会などの理由によって、体の中でゴミが発生しやすくなり、従来私たちが持っている“ゴミ掃除能力”を超えているのではないか。私はそのように考えた。〕
 
●抗肥満(p115)
 AIMは、脂肪細胞の中にたまった余分な脂肪を取り除く。
 脂肪細胞にAIMを振りかけると、AIMが細胞にたまった脂肪を分解し、細胞の外に流れ出る。
 脂肪肝が原因となる肝臓癌を、AIMによって抑制できる。
 
●腎臓病(p128)
 急性腎障害を発症したマウスを調べると、尿細管に詰まっているデブリの表面にべったりとAIMがくっついている。
 腎臓の中の貪食細胞が、AIMを目印にしてデブリに到達し、AIMごとデブリを食べてしまう。デブリとAIMは貪食細胞の中で消化され、跡形もなく消えてしまう。
 
●IgM五量体(p145)
 IgMで正六角形の六量体をまず作り、1個のIgMを引き抜き、その空いたスペースにAIMが1個はまり込む。AIMがゴミとくっつくときに結合する部分が、IgM五量体との結合に利用されている。
 病気になると五量体からAIMがはずれてフリーになる。
 
●ネコのAIM(p159)
 ネコは、IgMとくっつく部分のアミノ酸配列が、ヒトやマウスとは異なっている。IgMから離れにくい形になっている。そのため、すべてのネコが腎臓病を発症する。
 
(2022/10/4)NM
 
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教科書には載っていない維新直後の日本
 [歴史・地理・民俗]

教科書には載っていない 維新直後の日本
 
安藤優一郎/著
出版社名:彩図社
出版年月:2022年4月
ISBNコード:978-4-8013-0596-0
税込価格:1,430円
頁数・縦:221p・19cm
 
 幕末の動乱の影響で、明治維新政府が誕生してもすんなりと安定した国家建設とはならなかった。そんな維新直後の混乱した社会を考察する。
 
【目次】
第1章 維新直後の新首都は大混乱
第2章 天皇が消えて衰退する京の都
第3章 日本全国で不平不満が爆発
第4章 新政府はいきなり崩壊寸前
第5章 文明開化の光と影
第6章 新時代の生活がはじまったものの……
 
【著者】
安藤 優一郎 (アンドウ ユウイチロウ)
 1965年千葉県生まれ。早稲田大学教育学部卒業、同大学大学院文学研究科博士後期課程満期退学。文学博士。JR東日本「大人の休日倶楽部」など生涯学習講座の講師を務める。
 
【抜書】
●三田(p40)
 明治4年(1871年)3月、慶應義塾は、芝新銭座から三田に移転する。敷地は1万1856坪で、新銭座の30倍の広さに。
 肥前島原藩松平家の中屋敷だった場所。維新後、政府に没収されていた。
 福沢諭吉が政府や東京府に運動し、拝借地とした。
 明治5年、福沢は、東京市中の拝借地を拝借人もしくは縁故ある者に払い下げるという政府の方針をいち早く察知し、公示されたその日に東京府庁に代理人を出頭させる。払い下げを希望する者や地所を記帳する書類など、役所では何も準備できていなかったが、無理やり上納金を受け取らせる。代価は500円、現在の価値では500万円ほど。
 その後、松平家が福沢に対して三田中屋敷の譲渡を強く求めてきたが、「島原藩の屋敷だったことなど自分は知らない。東京府からの拝借地を払い下げられただけのことであり、この件は東京府に掛け合ってほしい」と突っぱねた。松平家は、地所を折半しようとまで申し出てきたが、福沢は取り合わなかった。
 廃藩置県により、旧藩主の諸大名は東京在住が義務付けられた。そのため、松平家も東京に住居を探さねばならなかったのである。
 『慶應義塾百年史』上巻(慶應義塾)による。
 
●静岡学問所(p138)
 徳川宗家の静岡藩には、静岡学問所と沼津兵学校という、他藩から注目された2つの教育機関があった。
 両機関とも、洋行経験のある藩士(元幕臣)が教授陣に名を連ね、時代の最先端を行く教育機関として全国から熱い視線が注がれた。たとえば静岡学問所では、英語、フランス語、オランダ語、ドイツ語の学習コースが設けられていた。
 元幕臣の子弟を優秀な藩士に育て上げるとともに、諸藩からの留学希望者も殺到した。また、諸藩の求めに応じて、英学や洋算、フランス式の軍事調練を教授する藩士が派遣された。その数は256人に達する。
 「天朝御雇(てんちょうおやとい)」と称して、政府からの出仕要請を受けることもあった。静岡学問所の運営に当たった津田真道や、沼津兵学校で頭取を務めた西周など。両名とも2年以上のオランダ留学経験があった。ライデン大学で法律学や経済学を学び、帰国すると開成所で最新の知識を教授した。維新後、静岡に転身。
 
●人力車(p162)
 人力車の登場は、明治3年(1870年)3月。和泉要助・鈴木徳次郎・高山幸助のグループが人力車の営業を東京府から許可され、日本橋の高札場前に人力車を置いて営業を開始。
 翌4年末には東京府下で1万820輌の人力車があった。明治9年には2万5000輌。
 当初は、日本橋から両国まで2キロ弱で12〜13銭。明治5年4月には、東京府が1里6銭2厘と定める。その後も、人力車の数が増えて料金は下落。
 幕末には、大八車のような荷車に人を載せて運ぶ事例が出てくるが、椅子に座ったスタイルの人力車は明治に入ってから。
 人を車に乗せて引くという人力車は日本独自のものと言われれるが、フランスに類似する先例があった。しかし、日本ほど普及した国はない。
 車夫には、士族からの転身も少なくなかった。秩禄処分により、手に職のない士族が車夫になる。
 
●清水喜助(p183)
 現在の清水建設の2代目にあたる大工。
 横浜でアメリカ人建築家ブリジェンスに西洋建築を学ぶ。日本の伝統的建築技術を基礎に和洋折衷の擬洋風建築を誕生させた。木骨石造、ヴェランダ、ナマコ壁、日本屋根の4要素が特徴。
 最初の作品は、明治元年、築地居留地内に造られた築地ホテル館。基本設計はブリジェンス、実施設計と施工は喜助が手掛けた。
 明治5年、第一国立銀行(日本橋兜町)。
 明治7年、為替バンク三井組(日本橋駿河町)。
 
●テニス(p216)
 明治3年(1870年)、横浜居留地に住む外国人の手で山手公園が整備された。日本初の洋式公園。
 日本で初めてテニスがプレーされたテニス発祥の地。
 
(2022/10/3)NM
 
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