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FOOTPRINTS 未来から見た私たちの痕跡
 [社会・政治・時事]

FOOTPRINTS(フットプリント) 未来から見た私たちの痕跡
 
デイビッド・ファリアー/著 東郷えりか/訳
出版社名:東洋経済新報社
出版年月:2021年6月
ISBNコード:978-4-492-80091-1
税込価格:2,640円
頁数・縦: 315, 15p・20cm
 
 未来の地球に残されるであろう人新世の化石、すなわち人類による環境破壊の痕跡について論じる。
 英文学の教授だけあって、内容が文学的。第4章「氷床のコアの記録」での、図書館と氷床のコア(「柱状試料」というらしい)のアナロジーはさすがである。一方は人類の記録、他方は地球の記録を保存している。つまり、氷床は「氷の世界図書館」(p.152)というわけだ。
 
【目次】
序章 呪われた未来の痕跡
第1章 飽くことなく延びる道路
第2章 薄い都市
第3章 ペットボトルの行方
第3章 氷床コアの記録
第5章 失われつつあるサンゴ礁
第6章 残りつづける核廃棄物
第7章 脅かされる生物多様性
第8章 微生物の撹乱
終章 未来の化石が示すもの
 
【著者】
ファリアー,デイビッド (Farrier, David)
 イギリス・エディンバラ大学の英文学と環境学の教授。『FOOTPRINTS―未来から見た私たちの痕跡』で英国王立文学協会のジャイルズ・セントオービン賞を受賞。デジタル・マガジンの「イーオン」や、『アトランティック』誌に寄稿している。
 
東郷 えりか (トウゴウ エリカ)  
翻訳者。上智大学外国語学部フランス語学科卒業。
 
【抜書】
●鮮新世(p14)
 鮮新世(第三紀の最後の時代)中期(350万年前)の間、大気中の二酸化炭素の濃度は280ppmを超えていた。
 19世紀半ばまでの80万年間は、氷期と間氷期を繰り返す中で、180~280ppmの間を揺れ動いていた。
 2013年5月、ハワイのマウナロア観測所の気候科学者たちは、人類史上初めて400ppmに達したと発表した。
 人新世は、鮮新世の気候に近づきつつある。
 間もなく、400ppm以下に減少したが、今日の大気中の二酸化炭素の濃度は、410ppm前後。年間約2ppm増えている。人間の活動は、地球システムを自然のプロセスより170倍の速度で変化させている。私たちは、1万年におよぶ環境の変化を、58年間で達成している。(p22)
 
●船舶解体業(p61)
 バングラデシュ沿岸部のチッタゴン市。
 1990年代末から2000年初めにかけて重油タンカーの危険な事故が相次いだため、船体が一重構造のタンカーが使用禁止となった。そのため、船舶解体という新しい産業が生まれ、チッタゴン市で解体場が繁盛している。
 チッタゴンでは遠浅の砂浜に何十隻もの船が乗り上げ、解体されるのを待っている。
 
●極地(p68)
 温暖化で極地の氷河や氷床が解けると、海岸線の95%ほどは海面が上昇する。
 極地、とりわけ北半球では、海面は下がることになる。陸塊はまだ最終氷期の終わりに失われた氷床の重みから回復しつつあるため。
 
●キャンプ・センチュリー(p136)
 1950年、米国軍がグリーンランドに作った地下都市。カーナークにある軍事基地から140km離れた氷の下に都市の建設を始めた。
 200人以上の兵士が寝起きする場所、大通り、病院、礼拝堂、郵便局、実験所、ラジオ局、暗室、映画館、スケートリンクを完備。電力は出力1.5キロワットの原子炉から供給。
 600基の中距離弾道ミサイルを格納できるトンネル網が建設可能かどうかを確かめるミサイル・プログラムの実験場でもあった。プロジェクト・アイスワーム。「アイスワーム」は、キャンプ・センチュリーを建設し、そこで暮らした兵士たちによって採用された愛称。
 キャンプ・センチュリーは、1969年以降、放置されたままである。(p153)
 
●炭酸カルシウム(p172)
 サンゴの骨格や、オキアミなどの甲殻類の殻を作るのに炭酸カルシウムが必要となる。
 海洋に多くの二酸化炭素が溶け込むと、海水内の水素イオン濃度が上がり、骨格や殻の形成に必要な炭酸イオン濃度が下がってしまう。
 
●オンカロ(p220)
 フィンランドの核廃棄物処理施設。この先120年間、地下450メールの基盤岩の中に核廃棄物を保管する。
 
●5度の大量絶滅(p242)
 (1)O-S境界……オルドビス紀とシルル紀の境目
 (2)デボン紀後期
 (3)ペルム紀……2億2,500万年前。大絶滅。
 (4)T-J境界……三畳紀とジュラ紀の境目
 (5)K-T境界……白亜紀と第三紀の境目
 
●10分の1(p244)
 すべての野生動物の生物量は、いまやヒト1種の10分の1。
 家畜とペットを含めると、陸上の哺乳類の全生物量の97%を占める。
 
●チチュウカイベニクラゲ(p267)
 Turritopsis dohrnii。
 直径が数ミリしかなく、糸のような触手が何百本もあり、透明な傘からは鮮やかな真紅色の胃が見える。
 死ぬと何百もの細胞が死骸から分解され、どうにかしてお互いを見つけ出し、極小のコロニーの中に集まり、新しいポリプを作り出す。
 
●プラスティグロメリット(p308)
 人新世の新種の石。
 通常は、海岸で生じた火災でプラスティックごみが岩石や堆積物の粒子とともに溶けて生成される。
 最初のプラスティグロメリットは2006年にハワイで見つかった。その後、世界各地の海岸に出現している。
 
【ツッコミ処】
・氾濫(p65)
 〔アサド・カーンとエレーニ=イラ・パヌルジアによるこのインスタレーションは、ニューオーリンズ市の位置座標にちなんで、29.9511°N, 90.0715°Wと名づけられた。これは2005年8月29日にハリケーン・カトリーナで同市が氾濫したのち、アメリカ地質調査所とNASA、アメリカ陸軍工兵隊が、光探知と測距技術(LIDAR)を使って集めたデータからなる3次元動画だった。〕
  ↓
 「氾濫する」のは河川などであって、主語が「ニューオーリンズ市」となっているのは違和感あり。
 
(2022/10/17)NM
 
〈この本の詳細〉

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