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闇に堕ちる君をすくう僕の嘘
 [文芸]

闇に堕ちる君をすくう僕の嘘 (双葉文庫 さ 47-02)
 
斎藤千輪/著
出版社名:双葉社(双葉文庫 さ-47-02)
出版年月:2022年11月
ISBNコード:978-4-575-52618-9
税込価格:792円
頁数・縦:361p・15cm
 
 渓谷のある町、世田谷区多々木(たたき)町を舞台にした、「魔女」と呼ばれる少女をめぐるミステリー。
 
【登場人物】
・鏡太輝(かがみ たいき)……主人公。20歳、福島県出身。故郷には、ク「ジラの森」と呼ばれる森林があり、太古の海が隆起した場所で、巨大のクジラの骨が発見された。
・天原巫香(あまはら みか)……引きこもりの謎の少女。元子役俳優、中卒17歳。
・天原凪(あまはら なぎ)……巫香の母親で、元モデル。沖縄出身。失踪中。
・須佐野月人(すさの つきと)……太輝の弟。二卵性双生児。
・八坂鈴女(やさか すずめ)……凪と巫香の元マネージャー。平日の午後は巫香の家で家政婦を務める。
・戸塚陸(とつか りく)……THE DAHLIAの経営者。
・岩野和馬(いわの かずま)……THE DHLIAnの従業員。年上の小学校教諭ジュンと同棲していた。 
 
【目次】
第1章 純白の花束と黒い魔女
第2章 謎の依頼とガールズバー
第3章 罠にかかった消えた獲物
第4章 誰かの正義は誰かの不義
第5章 唄を忘れた炭鉱のカナリア
第6章 開かれた窓と呪われた少女
第7章 クジラの泳ぐ神秘の森
 
【著者】
斎藤 千輪 (サイトウ チワ)
 映像制作会社を経て、放送作家、ライターに。2016年『窓がない部屋のミス・マーシュ』で第2回角川文庫キャラクター小説大賞の優秀賞を受賞しデビュー。
 
(2023/1/30)
 
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大久保利通 「知」を結ぶ指導者
 [歴史・地理・民俗]

大久保利通: 「知」を結ぶ指導者 (新潮選書)
 
瀧井一博/著
出版社名:新潮社(新潮選書)
出版年月:2022年7月
ISBNコード:978-4-10-603885-3
税込価格:2,420円
頁数・縦:521, 5p・20cm
 
 従来の専制主義政治家とは異なる、「羊飼いとしての指導者」大久保利通を論証する。大久保は「理」を追求した政治家であり、「知」を結集して新たな国家を建設しようしたのである。
 志半ばで斃れたが、「内治を整え、殖産を行う」べき維新第二期(明治11~20年)の礎を築くことはできたのではないだろうか。
 
【目次】
第1章 理の人
 志士への道
 弛緩する朝幕体制
 好敵手・慶喜
 連携する薩長―「共和」の国へ
 倒幕、そして王政復古
第2章 建てる人
 東京遷都―一君万民の国造りへ
 廃藩置県
 政体調査としての欧米回覧の旅
第3章 断つ人
 征韓論政変
 立憲政体の構想と内務省の設立
 佐賀の乱
 台湾出兵と北京談判
第4章 結ぶ人
 立憲政体の漸次樹立
 衆智としての殖産興業―東北への勧業の旅
 西南戦争
 勧業の夢―第一回内国勧業博覧会
終章
 大久保の思想
 大久保が蒔いた種
 二つの政治指導
 見果てぬ夢
 
【著者】
瀧井 一博 (タキイ カズヒロ)
 1967年福岡県生まれ。京都大学大学院法学研究科博士後期課程を単位取得のうえ退学。博士(法学)。神戸商科大学商経学部助教授、兵庫県立大学経営学部教授などを経て、国際日本文化研究センター教授。専門は国制史、比較法史。角川財団学芸賞、大佛次郎論壇賞(ともに2004)、サントリー学芸賞(2010)、フィリップ・フランツ・フォン・シーボルト賞(2015)受賞。
 
【抜書】
●羊飼い(p6)
 「羊飼いは群れの後ろにいて、賢い羊を先頭に行かせる。あとの羊たちはそれについていくが、全体の動きに目を配っているのは、後ろにいる羊飼いなのだ。」ネルソン・マンデラ(東江一紀訳)『自由への長い道』上巻(日本放送出版協会、1996年、p42)。
 大久保の指導力は、「羊飼いとしての指導者」。
 
●知の政治家(p9)
〔 大久保は決して、強権的なリーダーシップでもって果断に国家経営を行おうとしたのではなく、むしろ人々を結び合わせ、その連結のなかから国民国家というものを立ち上げようとした。そのようにして人々を結び合わせようとするための媒体が、「知識」であった。知識が交流しあう公明な政治を大久保は希求し、そのために権力を行使しようとした。〕
 
●加治屋町(p24)
 文政3年(1830年)8月10日、大久保は現在の鹿児島市高麗町で生まれた(生地)。生誕の碑が建っている。
 生誕の碑より堂々とした「大久保利通君誕生之地」と記された碑は、400m離れた加治屋町に。幼少時に一家で同町に移り住んだ。
 加治屋町では、西郷隆盛、税所篤、吉井友実、伊地知正治、大山巌、東郷平八郎、山本権兵衛なども生まれ育った。
 
●非義の勅命は勅命にあらず(p98)
 慶応元年(1865年)9月20日深夜から翌朝にかけて御所内で行われた長州再征をめぐる御前会議で、長州征伐の勅許が再び下された。
 朝議に列席した近衛忠房から会議の模様を聞いた大久保は、朝彦親王の元へ駆けつけ、長州再征勅許の非を説いた。
 「非義の勅命は勅命にあらず」
〔 至高の筋を得て、天下万人が納得してこそ勅命たり得る。そうでない勅命は義を欠いた勅命であって、勅命とは言えない。そう大久保は啖呵を切った。〕
 23日付の西郷隆盛宛の書簡にある。
 
●府藩県三治同規(p184)
 明治元年閏4月、府県を創置して藩とともに三治の制度とした。
 旧幕府領を府・県と改め、元将軍家を含む旧大名の領分が藩とされた。
 藩が制度の名称として公認されたのは、この時が初めて。
 
●君民共治(p286)
 明治6年11月、征韓論政変後に、政府の制度取調局の伊藤博文に「立憲政体に関する意見書」を提出した。
 「わが国の政体は、旧来からの装いを踏襲し、君主専制の体制を存している。この体裁は、今日適用すべきものである。」
 「民主制はもとより適用すべきでない。君主制もまた固守すべきでない。わが国の土地風俗人情時勢に従ってわが国の政体を樹立すること。定律国法〔憲法〕をもって、その目的を定めるべきである。」
 「〔君民共治とは〕君主と民がともに協議して確固不抜の憲法を制定し、万機をこれにしたがって決するものである。これを国家の根本法と言ったり、政治規範と言ったりする。すなわち政体であり、国家全体の最高規範である。この制がひとたび確立すれば、官吏や閣僚はほしいままに臆断をもって事務を処したりせず、彼らの施政には一貫した準拠があり、ご都合主義というような患いも無く、民力と政府は並走して開化を遂げ、虚構に陥ったりはしない。これは国家建設の根軸であり、施政の本源なのであって、今日国家の様々な事務に従事している者は、徐々にこのことに注意しなければならない。」
 
●明治10年の別離(p396)
 明治10年、大久保は重要な人物3名を失った。
 5月26日、木戸孝允。
 8月22日、杉浦譲。内務省で大久保を支えていた。
 9月24日、西郷隆盛。
 
●知のセンター、上野公園(p410)
 明治9年(1876年)5月9日、上野公園開園。太政官布告によって定められた公園の中で、唯一内務省所管の公園。
 博物館、博覧会、図書館、動物園、植物園が混在する、知のセンター。
 明治10年8月21日~11月30日に、第1回内国勧業博覧会が開催された。
 
●シンポジウム(p424)
 内国勧業博覧会は、〔富国化のために何が必要で何が可能かを皆で考え、討究するシンポジウムだったと言えようか。国内の人知を結集して、地に足着いた産業化を実践していくための知識の交換と創発の場であることが期待されたのである。付言すれば、その際に基調とされたのは、漸進主義であった。〕
 
●理の国制化(p431)
 大久保は、理に基づく新たな国家の体制(国制)を希求していた。尊王のさらに上位に君臨する天下国家(公的なもの)の原理を体現したもの。
 数による勢いに恃んだ公議や衆論は、決して理に基づく公論を担保するものではない。
〔 維新なったその後、大久保は何度も、制度、制度と唱えていた。大久保といえば、専制主義の政治家というイメージがつきまとうが、彼は彼なりの公論に立脚した国制を希求していた。それは、佐藤(誠三郎)氏が剔抉されるように、勢いに駆られた激情の暴発に流された衆議であってはならない。その代わりに、彼が新しい国制を支える人として見出したのが、知識をもった有徳の士であった。彼は、自らの統治の府としての内務省に、旧幕臣や佐幕派からも広く人を募った。それが知識の持ち主であるならば、かつての来歴は不問に付された。国家を成り立たせる有益な知を糾合しつなぎ合わせることがこころがけられたのである。〕
 
●島田一郎(p433)
 明治11年(1878年)5月14日、午前8時ごろ、麹町紀尾井町で大久保利通を暗殺。
 1848-1878年。加賀藩士。足軽の家に生まれ、第一次長州征伐、戊辰戦争にも参加。新政府下においては陸軍に入り中尉まで昇進するが、征韓論者のため明治六年の政変で帰郷。神風連の乱、秋月の乱等に呼応して挙兵を企てるも失敗。方針を要人暗殺に切り替える。加賀士族四人と島根士族一人とともに利通暗殺を決行。大逆罪により斬首。(注による)
 
●羊飼いと前衛(p442)
〔 大久保は、通常は羊飼いとして民の後についていこうとしながらも、必要な場合には前衛に立って民を導こうとした。その両面性こそ彼の政治指導の真価と言える。民の後についていこうとしたのが、各地の知の発掘とそれらの交換を通じての新たな知識の誘発であるが、それとは別個に、没落する士族たちの救済という喫緊課題があった。そのために彼が次に着手しようとしていたのが、安積開墾事業であった。〕
 
(2023/1/29)NM
 
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ロシア点描 まちかどから見るプーチン帝国の素顔
 [社会・政治・時事]

ロシア点描 まちかどから見るプーチン帝国の素顔
 
小泉悠/著
出版社名:PHP研究所
出版年月:2022年5月
ISBNコード:978-4-569-85185-3
税込価格:1,760円
頁数・縦:185p・19cm
 
 2022年2月のウクライナ侵攻以来、世界を騒がせているロシア。
 それにしても、ロシアってどんな国? 知ってるようで知らないロシアの社会や生活について、住んでみた実感をもとに紹介する。軍事や政治には深入りしない書きぶりは、等身大のロシアの人々を見せてくれる。
 
【目次】
第1章 ロシアに暮らす人々編
第2章 ロシア人の住まい編
第3章 魅惑の地下空間編
第4章 変貌する街並み編
第5章 食生活編
第6章 「大国」ロシアと国際関係編
第7章 権力編
 
【著者】
小泉 悠 (コイズミ ユウ)
 東京大学先端科学技術研究センター専任講師。1982年、千葉県生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了。ロシア科学アカデミー世界経済国際関係研究所客員研究員、未来工学研究所客員研究員などを経て、2022年1月より現職。ロシアの軍事・安全保障政策が専門。著書に『「帝国」ロシアの地政学』(東京堂出版、サントリー学芸賞)などがある。
 
【抜書】
●タタール人(p32)
 ロシアで最多の人口を占めるのは、正教徒のロシア人。
 第2位はタタール人。見た目は白人だが、イスラム教徒が多数を占める。
 民族としてのロシア人(ルースキー)であることと、ロシア国民(ロシヤーニン)であることはイコールではない。
 
●入れ墨(p35)
 ロシアのマフィアは、刑務所に入れられるたび、正教の象徴である玉ねぎ屋根の聖堂の図を入れ墨する。
 玉ねぎ屋根の数が多いほど、何度も「ムショ入り」したことになり、彼らの勲章であり、箔付けにもなる。
 
●カスペルスキー(p38)
 エフゲニー・カスペルスキーは、子供のころから数学が好きで、数学雑誌に掲載されるパズルを解いては投稿していた。そこから才能を見出されて、数学専門学校へ、さらにはKGBの暗号学校へと進み、サイバー分野の世界的大家とみなされるようになった。
 モスクワ大学の向かいには広大な空き地があり、そこに隣接する区画にはずっと「建設中」のまま放置されている謎のビル群がある。骨組みまでは完成しているけど、それ以上、工事が進む様子はない。しかし、夜には工事用の灯りがついている。この区画の中にはKGB第四学校と呼ばれる教育施設が存在し、情報機関が暗号を生成・解読するために必要な大量の数学者を養成していた。ここが、カスペルスキーの母校。(p79)
 
●KGB博物館(p59)
 エストニアの首都タリンに、旧国営旅行社(インツーリスト)ホテルがある。このホテルは、「マイクロクリート」と呼ばれていた。コンクリートが半分、マイクが半分、という意味。最上階に「KGB博物館」がある。「存在しない23階」。しかし、窓のない盗聴部屋とは別に、大きな窓のあるオフィスもあり、外から見ると23階があることは明白。
 ソ連時代、ここでKGBの盗聴要員が外国の訪問者たちの会話に隈なく耳をそばだてていた。
 ソ連崩壊直後、内部は盗聴機材ごと手つかずで残っており、それが博物館となった。
 
●ダーチャ(p66)
 ロシア式の別荘。
 当初は金持ちだけのものだったが、19世紀になると庶民も小さな土地と家を郊外に持つことが一般的になった。第二次世界大戦後にはフルシチョフ政権下で郊外の土地が労働者にも配分されるようになり、週末には森の中で暮らす習慣がさらに広がった。
 しかし、一般庶民に配分されたダーチャは都心から遠く、駅からも離れた場所だったので、行くのに苦労した。マイカーなど手に入らない時代。それでも、「森の民」ロシア人にとっては重要な存在だった。ログハウスのキットを買って自分で建てる人も。マイカー時代になり、週末には「ダーチャ渋滞」も。
 定年退職後、都会の家を引き払ってダーチャに永住する人もいる。
 別荘地を囲い、組合をつくって管理人を雇い、ゲーテッド・タウン化する例もある。ダーチャのコミュニティ(人脈)もでき、一緒に食事や飲酒。
 プーチンも、KGBを退職後、サンクトペテルブルクの郊外に「オーゼラ」という別荘組合を作ったと言われている。この組合のメンバーには、のちのロシア国鉄(RZnD)総裁となるウラジミール・ヤクーニン、TV局「第一チャンネル」や大手紙『イズヴェスチヤ』などを傘下に収めることになるユーリー・コヴァリチューク、教育・科学大臣となるアンドレイ・フルセンコなど、初期プーチン政権を支えた重要人物が含まれていた。プーチンには、KGB時代やサンクトペテルブルク副市長時代の同僚ととともに、「ダーチャ人脈」もあった。
 
●野良犬(p111)
〔 最近はすっかり見なくなりましたが、二〇一〇年頃までモスクワの地下鉄では、イヌも一緒に乗るのが当たり前でした。ペットとして飼い主と一緒に乗るのではありません。野良犬が勝手に乗り込み、椅子の上に寝そべっていたりするのです。
 郊外に住む野良犬が餌を求めて都心行きの地下鉄に乗り、夕方になるとまた地下鉄に乗って寝床に戻るのだといいます。駅員も乗客も追い出したりせず、イヌたちの“通勤”を自然に受け入れていました。寝そべる野良犬の横で、派手なメイクのOLが何でもない顔をして座っていたりしたのです。〕
 
●靴を脱ぐ(p126)
 ロシア人は、家に上がるときに靴を脱ぎ、部屋履きに履き替える。
 真冬なら靴底にびっしり雪がつくし、雪解けの時期には地面がぬかるんで泥だらけになるため。
 
●大国(p146)
 ロシアの国土は日本の45倍。人口は1億4400万人程度だが、GDPは日本の三分の一で、2020年の国別ランキングでは11位。韓国と同程度。
 にもかかわらず、ロシアは大国として振舞う。
 (1)ソ連から受け継いだ国連安保理常任理事国である。
 (2)国土大国である。
 (3)世界最大級の核戦力を保有する軍事力がある。総兵力は、約101万人、実勢で約90万人(世界第5位)。
〔 言い換えるならば、ロシアを「大国」たらしめているのは意志の力、つまり自国を「大国」であると強く信じ、周囲にもそれを認めさせようとするところにあるといえるでしょう。〕
 
●正教会(p164)
 通常、正教では一民族につき一教会が設置される。アルメニア、ジョージア、ブルガリアなどは独自の正教会を持っている。
 しかし、ベラルーシ、ウクライナ、モルドヴァ、バルト三国は、いずれもロシア正教会(モスクワ総主教庁)の一部とされてきた。
 ウクライナ正教会は、突出して信徒の数も多く、「自主管理教会」というかなり高度な自治権を持つとされてきた。
 このほかにも、モスクワ総主教庁に属さない「キエフ総主教庁・ウクライナ正教会」(信者700万人)、ロシア革命当時に創設された「ウクライナ独立正教会」も存在している。一国に正教会が三つ併存。
 2014年、ロシアの侵攻を受けたウクライナで正教会の統一と独立に向けた機運が高まり、2016年に、クレタでの正教公会議でウクライナ正教会の独立問題が正式に取り上げられた。
 2018年には、コンスタンチノープル総主教庁が、ウクライナ正教会の独立に関する連絡要員として2名の総主教代理をウクライナに派遣。また、キエフ総主教庁・ウクライナ正教会とウクライナ独立正教会が統一される。
 2019年1月、コンスタンチノープル総主教がウクライナ正教会に独立の地位を認める決定を下す。
 モスクワ総主教庁は、コンスタンチノープル総主教庁との断交を発表。
 
(2023/1/24)NM
 
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文にあたる
 [ 読書・出版・書店]

文にあたる
 
牟田都子/著
出版社名:亜紀書房
出版年月:2022年8月
ISBNコード:978-4-7505-1754-4
税込価格:1,760円
頁数・縦:255p・19cm
 
 プロの校閲者による、校正・校閲に関するエッセー。
 校閲者になったいきさつや、心構え、仕事の内容から、校閲の具体例など、幅広いテーマを平易な文書で綴る。
 
【目次】
1 赤鉛筆ではなく鉛筆で
 そんなことはない
 サバをめぐる冒険
 文章の強靱さ
  ほか
2 常に失敗している仕事
 上手い人を見る
 失敗のあとに
 かんなをかけすぎてはいけない
  ほか
3 探し続ける日々
 辞書の買い方がわからなかった
 タフでなければ
 疑う力
  ほか
 
【著者】
牟田 都子 (ムタ サトコ)
 1977年、東京都生まれ。図書館員を経て出版社の校閲部に勤務。2018年より個人で書籍・雑誌の校正を行う。
 
【抜書】
●新人(p128)
〔 この仕事のいいところは二年目の新人も三十七年目のベテランも関係ないところです。新人だろうがベテランだろうが落とすときには落とすかわり、拾えるかどうかも案外経験の長さとは関係ないように思います。ベテランの落としたところを新人が拾うこともあるし、新人が落としたところをベテランならかならず拾えるかといえばそうとも限らない、その意味では誰もが平等で、ひとしく必死にならざるを得ません。〕
 
●掃葉(p151)
 校正のこと。
 〔校正を「掃葉」と呼ぶのは、掃けども掃けども散りしきる落ち葉に誤植をなぞらえたのだと考えれば腑に落ちます。〕
 
●辞書アプリ(p157)
〔 スマートフォン用辞書アプリを導入したのは五年くらい前のことです。最初は仕事で必要になり購入したのですが、使ってみると思いのほか便利で、どんどん増えていきました。いちばん多いのは国語辞典で十種類ほど、漢和辞典や古語辞典、人名辞典も見つけると買ってしまいます。
 仕事で主に使うのはPCからアクセスするオンラインデータベース「ジャパンナレッジ」ですが、辞書アプリはインターネット接続なしに動作する点ですぐれています。バッテリーさえ気を付ければ、電波の届かない図書館の地下書庫でも旅先でも使える。紙の辞書と比べてオンラインデータベースやアプリには全文検索ができる、複数の辞書をいちどきにまとめて検索する「串刺し検索」が可能などの利点がありますが、アプリの携帯性の高さは図抜けていると感じます。辞書を持ち歩こうと意識することさえなく辞書を持ち歩くことがあたりまえになった。これは革命です。〕
 
●新潮社(p165)
 『村上海賊の娘』では、編集者ないし校閲部が「段ボール1箱はゆうにある史料の山」とゲラを引き合わせ、確認にあたった。
 〔『村上海賊の娘』の版元は創業者が校正者の経験を持ち、伝統的に校閲部の存在感が大きいことで有名な出版社です。〕
 ※版元=新潮社。
 
●疑う力(p199)
〔 調べることには段階があります。ゲラを読んでいて疑問が生まれ、何を使って調べるか考える。しかし「調べる」始まりはそこではなくて、まず「疑う」ことなのです。「パンダの尻尾は白い」という典拠を示すことは、これまで書いてきたようにそれほど難しくありません。でも、尻尾の黒いパンダを見たときに「パンダの尻尾の色は黒でよかった?」と思えなければ、そもそも調べることもできない。校正の技術として「調べる力」があるならば、さらに求められるのは「疑う力」であるともいえます。〕
 
(2023/1/23)NM
 
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100万回死んだねこ 覚え違いタイトル集
 [ 読書・出版・書店]

100万回死んだねこ 覚え違いタイトル集
 
福井県立図書館/編著
出版社名:講談社
出版年月:2021年10月
ISBNコード:978-4-06-525892-7
税込価格:1,320円
頁数・縦:189p・19cm
 
 読んで笑える書籍のタイトル覚え違い集。
 2007年に、レファレンス・サービスの認知と利用促進のために、「覚え違いタイトル集」としてサイトでの公開を開始。図書館のカウンターで採集した(もしくはサイトに投稿された)傑作の中から厳選した90の「覚え違い」を書籍化した。
 それぞれに司書の気の利いたコメントが楽しめる。さらに扉には、今では懐かしい「貸出カード」の付録(?)付きです。
 
【目次】
厳選!覚え違いタイトル集
 おしい!
 それはタイヘン!
 気持ちはわかるけど…
 ん?
 なんかまざってます!
  ほか
そもそもレファレンスって?司書の仕事って?
 レファレンスってどういうサービス?
 検索は「全文ひらがな」と「助詞抜き」がオススメです
 ぼんやりうろ覚えでも大丈夫!お話ししながら見つけましょう
 「ドッジボールの“ドッジ”って何?」と聞かれたら
 旅行をすれば図書館に立ち寄る、それが司書!
  ほか
 
(2023/1/21)NM
 
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エビはすごいカニもすごい 体のしくみ、行動から食文化まで
 [自然科学]

エビはすごい カニもすごい-体のしくみ、行動から食文化まで (中公新書 2677)
 
矢野勲/著
出版社名:中央公論新社(中公新書 2677)
出版年月:2021年12月
ISBNコード:978-4-12-102677-4
税込価格:990円
頁数・縦:264p・18cm
 
 エビ・カニに魅せられた生物学者が、生態から料理まで、エビ・カニの百科を語る。
 読めばエビ・カニが好きになる。
 
【目次】
第1章 エビ・カニとはどのような生き物なのか?
第2章 エビ・カニの五感と生殖
第3章 さまざまなエビたちの生態と不思議な行動
第4章 さまざまなカニたちの生態と不思議な行動
第5章 エビ・カニの外骨格の秘密
第6章 エビ研究の最前線から―交尾と生殖の解明
第7章 赤い色を隠すエビ・カニたち
第8章 私が愛したエビ・カニたち
第9章 エビ・カニの肉質の特徴と食文化
 
【著者】
矢野 勲 (ヤノ イサオ)
 1943年、大分県生まれ。1965年、農林省水産大学校卒業、1972年、北海道大学大学院水産学研究科博士課程修了。農林省水産庁真珠研究所研究員、海洋研究所(米国)訪問研究員、農林水産省水産庁養殖研究所室長、福井県立大学海洋生物資源学科教授等を経て、同大学名誉教授。専攻、海洋動物培養学、動物生理学。水産学博士。
 
【抜書】
●十脚目(p2)
 エビとカニの共通点は、胸脚(鋏脚と歩脚)を左右5対合計10本持つこと。
 違いは、エビが腹部の下に遊泳肢を5対、尾節に尾肢が備わっていること。カニは腹節と尾節が背甲(甲羅)で覆われた頭胸部の下に折りたたたまれ、遊泳肢を持たないこと。
 動物界 ― 節足動物門 ― 甲殻亜門 ― 軟甲綱 ― 真軟甲亜綱 ― ホンエビ上目
   ― 十脚目 ― 根鰓亜目(こんさいあもく)
       └ 抱卵亜目
《根鰓亜目》 約550種
 クルマエビ科……クルマエビ、コウライエビ、ホワイトシュリンプ
 サクラエビ
《抱卵亜目》 約1万4720種
 短尾下目……ズワイガニ、ガザミ、ブルークラブ、モクズガニ、サワガニ、キンチャクガニ 
 異尾下目……タラバガニ、ヤシガニ、ヤドカリ
 イセエビ下目……イセエビ、フロリダロブスター
 センジュエビ下目……センジュエビ
 アナジャコ下目……アナジャコ
 ザリガニ下目……ニホンザリガニ、アメリカザリガニ、アメリカンロブスター
 ムカシエビ下目……ムカシエビ
 コエビ下目……テッポウエビ、クリーナーシュリンプ
 オトヒメエビ下目……オトヒメエビ
 
●平衡胞(p35)
 へいこうほう。第一触覚の基部にある、外に向かって開口している小さな袋状のもの。開口部は粗い剛毛と、キチンの薄い層によって保護されているため、平衡胞は外部環境に対して効果的に閉じられている。内部は、楕円形で湾曲しており、その壁面に感覚毛を持つ感覚細胞が数十個並び、その上にエビ・カニが自身でハサミを使って挿入した数個の砂粒が置かれている。
 脱皮すると砂粒がなくなるため、新たに砂粒を挿入する。〔この習性を利用して、あらかじめ飼育容器の底に鉄の粒を敷いておくと、エビ・カニは脱皮後、砂粒の代わりに鉄の粒を平衡胞の内部に挿入する。この後、磁石を使って鉄の粒を動かすと、エビ・カニは逆さまなどさまざまな姿勢をとる。さらに平衡胞の内部に微量の水を流し、感覚毛を揺れ動かすと、さまざまな姿勢をとることから、この器官が体のバランスをとるための平衡器官として機能していることが明らかになった。〕
 
●ヘモシアニン(p38)
 エビ・カニの血液は、採取直後は無色透明。空気中の酸素に触れてしだいに青い色に変わっていく。
 鉄と結合したヘモグロビンを持たず、銅と結合したヘモシアニンを持っているため。ヘモシアニンは赤血球中ではなく、血漿中に存在する。ヘモシアニンが酸素を運ぶ。
 
●性転換(p91)
 エビの中には、成長の途中で性転換する種が30種ほどいる。すべてオスからメスに性転換する。ほとんどがタラバエビ科。ホッコクアカエビ、ボタンエビ、トヤマエビ、ホッカイエビ、など。
 ホッコクアカエビ(甘えび)は、体長およそ9cm。富山以北の日本海や北海道沿岸の水深100~600mの砂泥底に棲息。寿命は長くて9~10年。孵化後4~5年たつとすべてオスからメスに性転換する。精巣を卵巣へと変化させる。
 
●松葉ガニ(p103)
 ズワイガニは、雄と雌で呼び名が異なる。
 大きな雄は、兵庫県の日本海側や鳥取県などの山陰で「松葉ガニ」と呼ぶ。
 福井県では越前ガニ、石川県では加能ガニ、京都府では間人ガニ(間人〈たいざ〉漁港から水揚げ)と呼ぶ。
 小さな雌ガニは、福井県ではセコガニ(勢いよく子どもを産む「勢子」に由来)、石川県では香箱ガニ(お茶の道具でお香を入れる「香箱」に由来)、京都府丹後地方ではコッペガニ。
 雄は甲羅の横幅が15cm、雌は7~8cmほど。雌は、棲息する水深200~600mの海底が水温1~3℃と低いため、腹節に抱卵した卵が孵化するのに1年~1年6か月と長くかかり、その間まったく脱皮できず、成長できない。
 
●キチン分解細菌(p127)
 水底には、生物の死骸などが堆積するため、水中よりはるかに多くの従属栄養細菌がいる。
 その中には、エビ・カニの外骨格を形成しているキチンを最終的にグルコースにまで分解するキチン分解細菌や、タンパク質を最終的にアミノ酸にまで分解する細菌などがいる。
 キチン分解細菌の攻撃から守るため、エビ・カニは最表層の表クチクラの構成成分を、キチンではなくリポタンパク質にしている。しかし、擦れや傷によってリポタンパク質の表クチクラが傷つき、キチンからできている外クチクラが露出すると細菌にやられてしまう。地面と接触する歩脚の表面積を最小にするため、歩脚の先端は棘のように尖った形状をしている。さらに、尖った爪先の部分は、際立って外骨格が厚くなっている。
 
●外骨格(p141)
〔 エビ・カニは、体を守るために外骨格を硬く堅固な組織にしただけでなく、比重を高くするために石灰化し、しばしば起きる飢餓に備えての栄養物質を貯蔵し供給する機能を持たせ、さらに外骨格に沈着したカルシウムを自由に出し入れするという、まさにすごいと思うほどのダイナミックな組織にしているのである。〕
 
●石干見(p147)
 いしひみ、いしひび。古代の人々が漁をするために作った人工的な潮溜まり。
 干潟に半円形などさまざまな形になるよう、無数の大小の石を高さ0.6~1.5mほどに積み重ね、隙間に水が漏れないように泥や海藻などを詰めて、潮が引くと内側に海水が溜まるようにした。
 全長は数百mから数kmにもなった。
 昭和の中ごろまで、遠浅の海を持つ長崎や大分、奄美大島、沖縄などの海岸に数多く残っていた。現在は、近代的な漁法の導入と干潟での海苔養殖の発展、さらに干潟の埋め立てに伴って減少した。幻の漁法となりつつある。
 
●50%(p232)
 エビ・カニは、脱皮時に古い殻を破って出てくるときに、体重の50%ほどの海水を飲み、古い殻の下にできた皺のよった新しい殻を風船のように膨らませる。
 脱皮直後のエビ・カニは、可食部の水分が多く、身が詰まっていない。
 
●華屋与兵衛(p243)
 にぎりずしを考案。
 すしの起源は川魚の保存食。米などの穀類を炊いたものと魚を塩で一緒に漬け、乳酸菌による米の発酵が酸度のある乳酸を生み出す結果、pHが低下し抗菌性が増すことを利用して魚を保存した。BC4世紀ごろに東南アジアの山地民族の間で生まれ、日本には奈良時代のころに入ってきた。アユやフナなどの「なれずし」。1年ほど乳酸発酵させた。
 延宝年間(1673-1681年)に、飯に酢と塩で味付けした「早ずし」ができた。飯に酢をならすのに一晩置かなくてはならなかったことから、「一夜ずし」とも呼ばれた。
 田沼時代には、料理茶屋が流行し、それまでの上方風の調理法から江戸前の高級な魚介類を使った江戸風の調理法が考案され、文化・文政期に両国の華屋与兵衛によってにぎりずしが考案された。
 すしは、保存食から酢を加えた飯と江戸前の新鮮な魚介類を使った嗜好品に変わった。
 
●蟹(p252)
 漢字の「蟹」の成り立ち。4000年ほど前、長江の治水工事のために朝廷より派遣された巴解(はかい)という役人が故あって最初にチュウゴクモクズガニを食べたことに由来。「解さんに踏みつけられた虫」という意味で「蟹」という感じが生まれた。
 「虫」は、一般に無脊椎動物全般を意味する。
 
●えびいろ(p253)
 日本語の「えび」の語源。エビの体色が山葡萄(やまぶどう)の熟した赤紫色の「葡萄色(えびいろ)」に似ているから、という説がある。
 
(2023/1/21)NM
 
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プリズン・サークル
 [社会・政治・時事]

プリズン・サークル
 
坂上香/著
出版社名:岩波書店
出版年月:2022年3月
ISBNコード:978-4-00-061526-6
税込価格:2,200円
頁数・縦:278p・19cm
 
 ドキュメンタリー映画『プリズン・サークル』の監督が、雑誌『世界』で2020年1月号から1年間にわたって連載した記事を大幅に加筆修正して書籍化。
 「島根あさひ」での撮影は2014年夏から2年間続いた。その後3年間の追加取材を経て、2020年1月に公開された。
 
【目次】
プロローグ「新しい刑務所」
ある傍観者の物語
感情を見つめる―四人の物語
隠さずに生きたい
暴力を学び落とす
聴かれる体験と証人―サンクチュアリをつくる
いじめという囚われ
性暴力 光のまだ当たらない場所
排除よりも包摂
助けを諦めさせる社会
二つの椅子から見えたもの
被害者と加害者のあいだ
サンクチュアリを手わたす
罰の文化を再考する
エピローグ「嘘つきの少年」のその後
 
【著者】
坂上 香 (サカガミ カオリ)
 ドキュメンタリー映像作家。1965年生まれ。1992年ピッツバーグ大学社会経済開発学修士課程修了。2001年までテレビディレクター。京都文教大学助教授、津田塾大学准教授を経て、2012年より映像作家の活動に専念。2004年にドキュメンタリー作品『Lifersライファーズ 終身刑を超えて』を自主製作。ニューヨーク国際インディペンデント映画祭で海外ドキュメンタリー部門最優秀賞を受賞した。
 
【抜書】
●島根あさひ(p.ix)
 正式名称は、島根あさひ社会復帰促進センター。
 2007年から2008年にかけて開設されたPFI刑務所。最大収容数2,000人。初犯で刑期8年までの男性が対象。
 PFI刑務所は、その他に美祢(山口県美祢市)、喜連川(栃木県さくら市)、播磨(兵庫県加古川市)の三つ。いずれも「社会復帰促進センター」という施設名。
 こうした新しい刑務所が生まれた背景には、1990年代半ばの行政改革(肥大化・硬直化した戦後の行政制度を根本的に見直す)、過剰収容問題(2000年には収容率が100%を超えた)、さらに、名古屋刑務所の受刑者死亡事件などに顕著な、「懲らしめて反省を促す」懲罰的な処遇に対する批判があったことが挙げられる。
 
●TC(p12)
 Therapeutic Community。回復共同体。
 コミュニティの力を使って問題からの回復を促し、人間的な成長を実現しようとするアプローチ。欧米を中心として世界のあちこちで実践されている。
 1981年に米国アリゾナ州ツーソンに誕生した「アミティ(Amity: 友愛の意)」でも取り入れられた方法。
 アミティは、薬物やアルコール依存、暴力の問題を抱える人々の回復祉施設。共同生活を通して、各々に備わった能力やお互いの関係性を生かし、全人的な成長を目指す場。創設者三人のうち二人が薬物や刑務所服役体験のある当事者。TCユニットの開設や指導に当たってきたのは、10代の頃、米国とメキシコの刑務所に収容されたことのあるナヤ・アービターと、公民権運動の活動家だったロッド・ムレン。
 
●修復的司法(p200)
 Restorative Justice。修復的正義、修復的対話、などの訳もある。
 犯罪を、加害者によって被害者にもたらされた「ダメージ(損害)」、あるいは関係性を壊す行為ととらえ、損害や関係性の「修復」を対話によって探る取り組み。
 TCは、処罰から、加害者自身の回復へと発想を転換した。修復的司法では、事件当時者の関係性を修復させるという発想へ転換させる。
 
●刑務所(p230)
 「日本はケアの必要な人こそ、ケアしない。問題のある人ほど満期釈放で矯正施設から追い出す。福祉も彼らを蹴飛ばす。だから再犯する。刑務所だけが唯一断らないんです」
 翔が暮らしていた保護会の施設長の弁。
 保護会とは、保護観察所の管轄にある更生保護施設。刑務所や少年院などの矯正施設から出所したり、保護観察に付された人が、身寄りなど帰る先がない場合に一定期間生活できる住居。全国に103か所あり、年間8,000人ほどが利用する。半年までの滞在が可能。55日間は無料で食事も提供される。
 
●開放型刑務所(p243)
〔 開放型刑務所は、社会的リスクが低い受刑者と出所が近い人に限定されているが、それでも、当然、様々なトラブルが起こる。問題がないことを前提とした「リスク回避型」の日本との決定的な差は、「問題が起こる」ことを前提として、一つひとつの課題に向き合っていることだ。〕
 フィンランドの「バンヤ女子刑務所」では、大学の寮のような建物(ふつうのアパート)に、女性の受刑者が収容されている。出入り自由で、受刑者たちは仕事や学校に通い、買い物に行き、子どもとは3歳になるまで一緒に暮らすことができる。食事は各自が作って食べる。刑務所の職員は、大学や研究機関で法学、犯罪学、心理学、福祉に加え社会学や公衆衛生学など様々な領域の学問を学ぶ。ドキュメンタリー映画『矯正施設を矯正する(Correcting Correctional Centers:日本未公開)』より。
 
●アボリション運動(p246)
 Abolition Movement。
 abolition=廃止。「刑務所に代わるもの」を模索しようと呼びかける運動が、米国を中心に広まりつつある。その中心にあるのが「アボリション運動」。
 差別に基づく非人間的な制度――レイシズム、刑務所、死刑、警察、刑罰制度など――の廃止を求める。『監獄ビジネス』の著者アンジェラ・デイヴィスらが1960年代から牽引してきた息の長い運動。免罪で投獄された経験を持つ。
 
(2023/1/16)NM
 
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原発事故最悪のシナリオ
 [社会・政治・時事]

原発事故 最悪のシナリオ
 
石原大史/著
出版社名:NHK出版
出版年月:2022年2月
ISBNコード:978-4-14-081897-8
税込価格:1,870円
頁数・縦:310p・19cm
 
 2011年3月11日14時46分、東北地方太平洋沖地震発生。直後に、福島第一原子力発電所が機能停止に陥り、日本政府はその対策に追われることになる。
 10年を経て、その事故対応の教訓を残すべく、「最悪のシナリオ」をめぐって当時の危機管理の在り方を問う。
 日本の政治家の方々はみな、優しいなと思った。「撤退やむなし」という、事故原発の現場作業員への思いやり。「英雄的行為」を強要する米国とは対照的である。
 
【目次】
プロローグ 「最悪のシナリオ」の謎
第1章 沈黙
 Too Late―遅すぎたシナリオ
 3月12日、1号機水素爆発の衝撃
  ほか
第2章 責任と判断
 怖れていた連鎖―3月14日、3号機水素爆発
 東電本店の危機感
  ほか
第3章 反転攻勢
 関東圏に到達した放射能
 それは“誤認”だった
  ほか
第4章 終結
 吉田所長の“遺言”
 東電―自衛隊、非公式会談
  ほか
エピローグ 「最悪のシナリオ」が残したもの
 
【著者】
石原 大史 (イシハラ ヒロシ)
 2003年NHK入局。長崎放送局、大型企画開発センターなどを経て現在、制作局ETV特集班ディレクター。担当した番組にETV特集「ネットワークでつくる放射能汚染地図」(第66回文化庁芸術祭大賞)、「薬禍の歳月 サリドマイド事件50年」(第70回文化庁芸術祭大賞、第41回放送文化基金賞・最優秀賞)、「お父さんに会いたい“じゃぱゆきさん”の子どもたち」、NHKスペシャル「空白の初期被爆 消えたヨウ素131を追う」(第56回JCJ賞)など。
 
【抜書】
●チャールズ・カストー(p20)
 米国のNRC(原子力規制委員会)から、事故収束支援のために日本に派遣された。米国側責任者の一人。
 3月16日に来日。その後1年にわたって日本の官邸中枢や関係省庁、東電と様々な折衝を繰り返した。
 
●想定外(p26)
〔 日本では、東電が、事故の原因について「想定外」と繰り返し、被災者の怒りをかった。カストーの語るアメリカの“哲学”は、そうした危機を前にした“無力”とはまったく別の考え方だった。客観的なデータを集めた上で想像力を駆使して、あらゆる事態を想定し備えを怠らないこと。「想定外」などという言いわけは通用しない。それが、アメリカが「最悪のシナリオ」を用意する“哲学”だったのだ。〕
 
●玄葉光一郎(p29)
 国家戦略担当大臣。内閣で唯一、福島県からの選出。田村市周辺が地盤。
 原子力災害対策本部会議にて、3月12日、「最悪の事態想定を」と発言。1号機の水素爆発から7時間後。政府関係者が公式の場で「最悪のシナリオ」の検討を要請した初めての発言。
 
●五重の壁(p35)
 放射能の塊である核燃料は、五重の壁によって防護されている。
 (1)燃料ペレット……核燃料を焼き固めたもの。
 (2)被覆管……ペレットをジルコニウム合金で覆ったもの。
 (3)原子炉圧力容器……核燃料を反応させる。
 (4)原子炉格納容器……(3)を収納。鋼鉄製。
 (5)原子炉建屋……格納容器を取り囲む。分厚いコンクリート製。
 
●廣中雅之(p93)
 自衛隊統合幕僚監部運用部長。自衛隊最高位である統合幕僚長(当時は折木)を補佐し、各部隊の作戦行動を指導する役割を担う。「旧帝国軍の大本営作戦部長」にあたる。
 
●スティーブ・タウン(p101)
 在日米軍の首席連絡将校。3月11日から約4か月間、市ヶ谷に設置された日米調整所に詰め、50名のスタッフを率いて、自衛隊と米軍の連絡調整に当たった。
 父親が牧師。2歳から小学生まで神戸で過ごす。日本語が堪能で、キャンプ座間の渉外部長および情報部隊の連絡将校、沖縄で海兵隊の外交政策部長、在日米国大使館付武官を経て、震災時は横田基地でミサイル部隊の将校。
 取材時には、古いチャペルを改装した瀟洒な洋館で、ティーハウスを経営。JR青梅駅からタクシーで国道411号線を西へ行ったところ。
 
●寺田学(p116)
 事故発生当時、最年少の首相補佐官。34歳。
 事故から5年後、自らの原発事故とのかかわりを詳細な手記にまとめて公表。2012~14年の議員浪人中に書き始めた。「官邸や自分に不利なことも正直に話す」と宣言したうえで、当時の官邸内部の混乱や、それに対する寺田自身の所感などが生々しく記されている。
 
●伊藤哲朗(p121)
 いとうてつろう。内閣危機管理監。国防を除く国内の危機管理対策の司令塔。1998年に設置。
 警察庁出身。2008年、自民党・福田康夫内閣時に内閣危機管理官に就任。その後、「余人をもって代えがたい」とされ、鳩山内閣、菅内閣でも職に留まり続けた。
 事故当時の出来事を詳細な手記にまとめていたが、未公表だった。
 
●細野豪志(p181)
 ほそのごうし。首相補佐官。
 統合対策本部事務局長。のちに、原発事故担当大臣。
 廣中とは旧知の仲だった。安全保障についての勉強会などで知り合い、携帯電話の番号を交換していた。廣中を東電の幹部につなぐ。(p245)
 
●北澤俊美(p184)
 防衛大臣。
 
●戒能一成(p190)
 かいのうかずなり。防衛省・自衛隊が助言を求めた外部の専門家。
 東京大学工学部卒業後、1987年に通産省に技官として入省。資源エネルギー庁の原子力産業課、本省自動車課、中小企業庁などを経て、2002年以降は外郭研究機関である経済産業研究所に所属。
 2009年、論文「原子力発電所の稼働率・トラブル発生率に関する日米比較分析」を公開。原子力安全・保安院の幹部から依頼されて執筆。そのころ、東電は国内のほかの電力会社と比べても突出してトラブルが多かった。保安院の内部ではそれを是正させる必要が議論されていた。しかし、東電は自分たちの技術力を過信し、保安院等の指導に応じないことが多々あった。
 
●近藤駿介(p297)
 原子力委員会委員長。細野の要請に応じ、3月20日から25日の間に「最悪のシナリオ」を作成。
 
(2023/1/12)NM
 
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直立二足歩行の人類史 人間を生き残らせた出来の悪い足
 [自然科学]

直立二足歩行の人類史 人間を生き残らせた出来の悪い足 (文春e-book)
 
ジェレミー・デシルヴァ/著 赤根洋子/訳
出版社名:文藝春秋
出版年月:2022年8月
ISBNコード:978-4-16-391583-8
税込価格:2,860円
頁数・縦:437p・20cm
 
 直立歩行をテーマに人類の歴史およびホミニンの化石発掘史をたどる。その結果として、これまで定説となっていた人類史に異なる光を照らす。
 これまで必死に化石人類の名前を覚えようと努力してきたが、なかなか記憶できなかった。本書は、二足歩行を解明してきた歴史を系統立てて解説してくれるので、種の名前も比較的スムースに頭に入ってくる。さて、今度こそ、記憶に定着するだろうか?
 
【目次】
第1部 二足歩行の起源
 人間の歩き方
 Tレックスとカロライナの虐殺者と最初の二足歩行動物
 「人類が直立したわけ」と二足歩行に関するその他の「なぜなぜ物語」
  ほか
第2部 人間の特徴
 太古の足跡
 一マイル歩く方法は一つではない
 広がるホミニン
  ほか
第3部 人生の歩み
 最初の一歩
 出産と二足歩行
 歩き方はみな違う
  ほか
 
【著者】
デシルヴァ,ジェレミー (DeSilva, Jeremy)
 ダートマス大学人類学部准教授。最初期の類人猿や初期人類の移動方法と、彼らの足・足首を専門とする古人類学者である。人類史における直立二足歩行の起源と進化を研究し、アウストラロピテクス・セディバとホモ・ナレディの発見・調査にも参加した。コーネル大学卒業後、1998年から2003年にボストン科学博物館でサイエンス・エデュケーターとして勤務。その後ボストン大学、ミシガン大学などを経て現職に。『直立二足歩行の人類史―人間を生き残らせた出来の悪い足』が初の著書となる。
 
赤根 洋子 (アカネ ヨウコ)
 翻訳家。早稲田大学大学院修士課程修了(ドイツ文学)。
 
【抜書】
●タウング・チャイルド(p31)
 1925年、ウィットウォータースランド大学(南アフリカ)のレイモンド・ダートの研究室に届いた化石を「アウストラロピテクス・アフリカヌス」と命名。250万年前の子供の頭蓋骨。世界で初めて発見された二足歩行の初期人類の化石。
 
●アルコサウルス類(p46)
 鳥類とワニ類の共通祖先。初期のアルコサウルスの化石は、2億7000万~2億4500万年前(ペルム紀中期から三畳紀前期)のもの。
 アルコサウルスの系統は、2億4500万年前、ワニ類と恐竜(やがて鳥類に)に枝分かれして進化。
 「カロライナの虐殺者」と呼ばれたカルヌフェクス・カロリネンシスは、2億3000万年前のワニ類。体長9フィート(約2m74cm)、鋭くとがった歯が口いっぱいに生えていた。時に2本足で立ち上がって歩くこともあった。
 ワニの最初期の祖先は華奢な造りで、足の速い動物だった。
 
●ダチョウ、エミュー(p52)
 ダチョウやエミューなどの足や足首には筋肉がない。長い腱があるのみ。筋肉は腰に付いている。
 人間の足や脚の腱は、類人猿より長いが、足や脚の筋肉量がダチョウやエミューに比べて遥かに多い。そのため、彼らほど速く走れない。
 
●オロリン・トゥゲネンシス(p99)
 2000年末、フランスの古人類学者ブリジット・セヌとマーティン・ピックフォードが、ケニアのバリンゴ盆地のトゥゲンヒルズ地域で600万年前の地層からホミニンの化石を発見。2001年1月、「オロリン・トゥゲネンシス」と命名。
 腕の骨の筋付着部や湾曲した長い指は、樹上生活に適応。
 大腿骨頸部が長く、二足歩行していたと推測される。
 
●アルディピテクス・カダバ(p101)
 2002年、エチオピアの古人類学者ヨハネス・ハイレ=セラシエが、「アルディピテクス・カダバ」の化石を発見。エチオピアの600万~500万年前の地層。オロリン同様、中新世のホミニン。
 足の骨の親指が長く、湾曲していた。物がつかめる足。しかし、母指球と接続していた根元部分に対して上向きに傾斜。ヒトと同様、つま先で地面を蹴りだすとき、足首を反り返らすことができた。
 
●サヘラントロプス・チャデンシス(p101)
 2001年7月19日、フランス人古生物学者ミシェル・ブリュネのチームのチャド人大学院生ジムドウマルバイエ・アホウタが、チャドのジュラブ砂漠で発見。霊長類の下顎骨と数本の歯、押しつぶされて変形した頭骨。
 「サヘラントロプス・チャデンシス」(通称:トゥーマイ。現地のゴラン語で〈生命の希望〉の意味)と命名。700万~600万年前。人類の系統とチンパンジーの系統が分かれた頃。
 脳の大きさはチンパンジー程度。顔と後頭部はゴリラに酷似。犬歯は比較的小さい(ホミニンの特徴)。大後頭孔(脊髄の出口)は、頭蓋骨骨底部に位置。常に直立していた?
 
●アルディピテクス・ラミダス(p110)
 1994年9月、カリフォルニア大学バークレー校の古人類学者ティム・ホワイトと元教え子諏訪元(げん)およびベルハネ・アスフォーは、エチオピアのアファール州アラミスで440万年前の化石を発見。アルディピテクス・ラミダスと命名(「ラミド」は、アファール語で「根」の意味)。最初はアウストラロピテクス属と発表したが、半年後に訂正。ルーシーよりもはるかに類人猿に近かったため。ルーシーより100万年古い。
 2009年に「サイエンス」誌に論文を発表。大人の雌と思われる「アルディ」の骨の分析により、森林に生息していたと判明。樹上生活に適応していたが、少なくとも時折は二足歩行していた。
  二足歩行は森林で始まった。
 
●小指(p114)
 アルディの足の親指は、長く横に張り出していて、チンパンジーに似ている。小指側は、ヒトの足に似ている。ヒトの足は、小指側から親指側に向かって進化した。
 ヒトの足の親指は、最近のほんの200万年の間に短く、真っすぐになった。
 
●類人猿の共通祖先(p119)
 原生類人猿が共通祖先から枝分かれしたのは2000万年前。アフリカで進化した。カモヤピテクス、モロトピテクス、アフロピテクス、プロコンスル、エケンボ、ナコラピテクス、エクアトリウス、ケニアピテクス、など。
 1500万年前、アフリカの類人猿は減少し始めた。赤道直下にあった大森林が地中海岸へと北上したため。
 ヨーロッパの類人猿は多様化した。ドリオピテクス、ピエロラピテクス、アノイアピテクス、ルダピテクス、ヒスパノピテクス、オウラノピテクス、オレオピテクス、など。
 1500万年前、彼らは、尿酸を体外に排出する酵素ウリカーゼを作れなくなる。尿酸は、果糖が脂肪に変わるのを助ける。冬の日照不足によって食糧が乏しくなった時、脂肪を蓄えて生き延びた。
 また、エタノールを代謝できる酵素を手に入れ、高カロリーの熟れた果実を食べられるようになった。
 中新世末期、気候が寒冷化・乾燥化し、温帯の森では生きられなくなると絶滅したが、一部の種が南下してアフリカへ戻った。
 
●ダヌビウス・グッケンモシ(p123)
 2016年5月17日、チュービンゲン大学の古生物学者マデライネ・ベーメの教え子ヨッヘン・フスが、バイエルン州プフォルツェン郊外にあるハンマーシュミーデという粘土採掘場で発見した、1100万年以上前の類人猿の化石。
 脛骨、足首の骨が、ヒトに似ていた。それ以上に、ルーシーの足首に似ていた。「ダヌビウスは千百万年前、直立して(地面ではなく)木の上を歩いていた」と、ベーメとそのチームは結論付けた。
 
●オルドワン文化(p152)
 ルイス&メアリー・リーキー夫妻は、オルドバイ渓谷で数百個の石器を発見、石器を生み出した文化を「オルドワン」文化と名付けた。180万年前のものと判明。1964年には、その作り手として、アウストラロピテクスより少し大きな脳と少し小さな犬歯を持つホミニンの化石を発見。「ホモ・ハビリス」(「器用なヒト」の意味)。
 2011年には、ニューヨーク州立大学ストーニーブルック校の人類学准教授ソニア・ハーマンドが、ケニアのトゥルカナ湖西岸の凝灰岩層で、ホミニンが造った石器を150個発見。330万年前。オルドバイ渓谷の石器よりも大きく、ずっと単純だった。
 2009年には、シカゴ大学のゼレー・アレムセゲドがアワッシュ川流域のディキカという意地域で、340万年前の地層から、アウストラロピテクスの女児の部分骨格を発見。「ルーシーの赤ちゃん」。2018年に発表。レイヨウの骨の化石もあり、鋭い石で意図的に傷をつけた跡があった。
 石器づくりは、アウストラロピテクスが始めた?
 
●昼間の活動(p160)
〔 太陽が高く上り、暑くなると、ライオンもヒョウもチーターもハイエナも日陰に入って眠りにつく。レイヨウやシマウマなど、狩られる側も丈の高い草に隠れてうずくまり、暑さをしのごうとする。われわれの祖先が生き残るために選んだのは、肉食獣が活動的になる時間帯――夕暮れ時、夜、夜明け前――には地上に下りないようにすることだった。
 アウストラロピテクスはわれわれと同じように昼間活動していたに違いない。満腹したサーベルタイガーやハイエナが日陰で眠りにつくのを待って、アウストラロピテクスはねぐらの木から下り、食べ物を探した。見つけたものは何でも手当たり次第に食べたことだろう。発酵した果実、木の実、種子、塊茎、根、昆虫、若葉。ときには、ディノフェリスの前夜の食べ残しを口にすることもあっただろう。〕
 
●ナリオコトメ・ボーイ(p198)
 1984年、トゥルカナ湖西岸の干上がったナリオコトメ川の土手で、カモヤ・キメウによって発見された。149万年前、ホモ・エレクトスの少年のほぼ完全な骨格。まだ9歳だった。身長は5フィート(約152cm)、体重約45㎏。成人したら6フィートになっていた?
 上腕骨は、ルーシーより34%長かったが、大腿骨は、ルーシーより54%も長い。
 ホモ・エレクトスは脚が長くなり、長距離移動ができるようになり、全世界に広まった? 足には、現生人類と全く同じアーチがある。
 ジョージアのドマニシ原人も、身長は5フィート程度だったが脚が長かった。
 
●腰椎(p269)
 ヒトの腰椎は、男女ともに五つ。
 男性の腰椎は下の二つが楔形、女性は下の三つが楔形。脊柱はそこでカーブしている。
 女性のほうがカーブが大きい。そのおかげで、妊婦は前方にずれた重心を股関節の上に戻すことができ、歩行の際にバランスを保てる。
 200万年前のアウストラロピテクスにもこの男女差は現れている。
 
●1日当たりの許容エネルギー(p295)
 デューク大学の人類学者ハーマン・ポンツァー。「1日当たりの許容エネルギー消費量は世界中どこでも同じ」。
 この許容エネルギー量をどのように消費するかは、文化によって、また人によって違う。
 タンザニアのハッザ族は、徒歩で移動したり、食糧を採集したり、病気を撃退したり、赤ん坊や幼児を抱えて歩いたりするためにエネルギーを使う。
 アメリカ人は、彼らほど体を動かさないため、余ったエネルギーを別のこと、炎症反応を強化することに使う。
 
●マイオカイン(p298)
 運動中に筋肉が産生して血液中に放出する分子(タンパク質)。
 インターロイキン6には、抗炎症作用がある。また、腫瘍壊死因子(TNF)の産生を抑える作用もある。マウスによる実験では、がん性腫瘍を攻撃・破壊する「ナチュラル・キラー細胞」を動員する働きがある。
 
(2023/1/10)NM
 
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オシント新時代 ルポ・情報戦争
 [社会・政治・時事]

オシント新時代 ルポ・情報戦争
 
毎日新聞取材班/著
出版社名:毎日新聞出版
出版年月:2022年9月
ISBNコード:978-4-620-32750-1
税込価格:1,760円
頁数・縦:239p・19cm
 
 SNSが普及し、誰もがネットで発信できるようになって、オシント(open-source intelligence)が幅広く効率的に行えるようになった。今では、専門家でなくてもネットで収集できる情報をもとに「探偵」ができる。
 そんな時代を反映した世界の情報戦争(国家間の争いとは限らない)をレポートする。
 
【目次】
序章 ウクライナ侵攻とSNS時代の「情報戦」
第1章 ベリングキャットの衝撃―「気持ちいい情報は危うい感情の世紀、どう生きるか」
 インタビュー:中西輝政さん
第2章 「隠れ株主」中国を探せ―「サプライチェーンのAI解析で見えた『無責任企業のつながり』」
 インタビュー:水野貴之さん
第3章 市民もオシント―「グローバル企業の監視をあきらめるな」
 インタビュー:林香里さん
第4章 ワクチンめぐるデマも拡散
第5章 迫る「ディープフェイク」の脅威―「ディープフェイク最大の脅威は『うそつきの配当』」
 インタビュー:ニーナ・シックさん
第6章 公開情報を分析せよ 動き出した政府―「日本のインテリジェンスは米の周回遅れ」
 インタビュー:兼原信克さん
 
【抜書】
●4分の1(p100)
 売り上げベースで見たとき、中国政府は国有企業を通じて、間接的に香港全体で約4分の1の企業に影響力を持っている。
 インフラ関連では全体の6割、採掘業にいたっては9割以上に及んでいる。
 1997年の返還当時、人口約650万人だった香港の域内総生産(GDP)は、約12億人の中国本土の約18%相当あった。2021年には2%に下がった。
 
●水際の画像(p142)
 2018年7月7日(土)、岡山県倉敷市真備(まび)町で高梁川支流の小田川水系が氾濫した際、国土地理院地理情報処理課所属の古田一希(31歳)は、即座に自宅で浸水マップを作製した。ツイッターに投降された水際の画像などを参考にして浸水地域をマップに落とし込んでいった。
 翌日曜日、自主出勤してそのマップを上司に見せると、ほぼそのままの形で国土地理院ホームページに公開された。
 通常は、高度約2300mから撮影した航空写真を手掛かりに浸水マップを作成している。しかし、悪天候の中では専用の航空機を飛ばすことは難しく、撮影しても雨雲に隠れてうまくいかないことも多い。
 
●シビックテック(p147)
 国や自治体が公開する統計などの「オープンデータ」を市民が活用し、様々な社会課題を解決すること。
 2020年、東京都は、コロナ情報を伝える専用HPを、一般社団法人コード・フォー・ジャパン(CfJ)に依頼して作った。CfJは、都の入札に参加する段階でHP製作の下準備をはじめ、3月2日に正式に契約を結ぶと、都職員とも協力しながら一気にプログラムを組み上げ、翌3日深夜に公開した。
 ただし、「完成品」とは言えないサイト。HPのプログラム(ソースコード)をGitHubというウェブサービス上に無料公開し、そこに改善点や要望を誰でも書き込めるようにした。全国のIT技術者らから、プログラムの改善点や様々な提案が寄せられた。台湾デジタル担当相オードリー・タン氏から、「繁体字」の表記を現地で使われる「繁體字」に改めることはできないかという要望も寄せられた。
 
●4chan(p205)
 英語圏最大規模の掲示板。2ちゃんねる(現・5ちゃんねる)を開設したひろゆき(本名・西村博之)が運営。
 Qアノンの発信元「Q」が、2017年10月に最初に投降したとされる掲示板。Qの投稿は4chanから8chan(現・8kun)に移ったと言われている。
 8chanは、ロン・ワトキンスが管理人を務めていた。2020年11月3日に辞任を表明。父親のジム・ワトキンスは、米国の8kunと日本の5ちゃんねるの両方を運営している。
 
(2023/1/7)NM
 
〈この本の詳細〉


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