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プリズン・サークル
 [社会・政治・時事]

プリズン・サークル
 
坂上香/著
出版社名:岩波書店
出版年月:2022年3月
ISBNコード:978-4-00-061526-6
税込価格:2,200円
頁数・縦:278p・19cm
 
 ドキュメンタリー映画『プリズン・サークル』の監督が、雑誌『世界』で2020年1月号から1年間にわたって連載した記事を大幅に加筆修正して書籍化。
 「島根あさひ」での撮影は2014年夏から2年間続いた。その後3年間の追加取材を経て、2020年1月に公開された。
 
【目次】
プロローグ「新しい刑務所」
ある傍観者の物語
感情を見つめる―四人の物語
隠さずに生きたい
暴力を学び落とす
聴かれる体験と証人―サンクチュアリをつくる
いじめという囚われ
性暴力 光のまだ当たらない場所
排除よりも包摂
助けを諦めさせる社会
二つの椅子から見えたもの
被害者と加害者のあいだ
サンクチュアリを手わたす
罰の文化を再考する
エピローグ「嘘つきの少年」のその後
 
【著者】
坂上 香 (サカガミ カオリ)
 ドキュメンタリー映像作家。1965年生まれ。1992年ピッツバーグ大学社会経済開発学修士課程修了。2001年までテレビディレクター。京都文教大学助教授、津田塾大学准教授を経て、2012年より映像作家の活動に専念。2004年にドキュメンタリー作品『Lifersライファーズ 終身刑を超えて』を自主製作。ニューヨーク国際インディペンデント映画祭で海外ドキュメンタリー部門最優秀賞を受賞した。
 
【抜書】
●島根あさひ(p.ix)
 正式名称は、島根あさひ社会復帰促進センター。
 2007年から2008年にかけて開設されたPFI刑務所。最大収容数2,000人。初犯で刑期8年までの男性が対象。
 PFI刑務所は、その他に美祢(山口県美祢市)、喜連川(栃木県さくら市)、播磨(兵庫県加古川市)の三つ。いずれも「社会復帰促進センター」という施設名。
 こうした新しい刑務所が生まれた背景には、1990年代半ばの行政改革(肥大化・硬直化した戦後の行政制度を根本的に見直す)、過剰収容問題(2000年には収容率が100%を超えた)、さらに、名古屋刑務所の受刑者死亡事件などに顕著な、「懲らしめて反省を促す」懲罰的な処遇に対する批判があったことが挙げられる。
 
●TC(p12)
 Therapeutic Community。回復共同体。
 コミュニティの力を使って問題からの回復を促し、人間的な成長を実現しようとするアプローチ。欧米を中心として世界のあちこちで実践されている。
 1981年に米国アリゾナ州ツーソンに誕生した「アミティ(Amity: 友愛の意)」でも取り入れられた方法。
 アミティは、薬物やアルコール依存、暴力の問題を抱える人々の回復祉施設。共同生活を通して、各々に備わった能力やお互いの関係性を生かし、全人的な成長を目指す場。創設者三人のうち二人が薬物や刑務所服役体験のある当事者。TCユニットの開設や指導に当たってきたのは、10代の頃、米国とメキシコの刑務所に収容されたことのあるナヤ・アービターと、公民権運動の活動家だったロッド・ムレン。
 
●修復的司法(p200)
 Restorative Justice。修復的正義、修復的対話、などの訳もある。
 犯罪を、加害者によって被害者にもたらされた「ダメージ(損害)」、あるいは関係性を壊す行為ととらえ、損害や関係性の「修復」を対話によって探る取り組み。
 TCは、処罰から、加害者自身の回復へと発想を転換した。修復的司法では、事件当時者の関係性を修復させるという発想へ転換させる。
 
●刑務所(p230)
 「日本はケアの必要な人こそ、ケアしない。問題のある人ほど満期釈放で矯正施設から追い出す。福祉も彼らを蹴飛ばす。だから再犯する。刑務所だけが唯一断らないんです」
 翔が暮らしていた保護会の施設長の弁。
 保護会とは、保護観察所の管轄にある更生保護施設。刑務所や少年院などの矯正施設から出所したり、保護観察に付された人が、身寄りなど帰る先がない場合に一定期間生活できる住居。全国に103か所あり、年間8,000人ほどが利用する。半年までの滞在が可能。55日間は無料で食事も提供される。
 
●開放型刑務所(p243)
〔 開放型刑務所は、社会的リスクが低い受刑者と出所が近い人に限定されているが、それでも、当然、様々なトラブルが起こる。問題がないことを前提とした「リスク回避型」の日本との決定的な差は、「問題が起こる」ことを前提として、一つひとつの課題に向き合っていることだ。〕
 フィンランドの「バンヤ女子刑務所」では、大学の寮のような建物(ふつうのアパート)に、女性の受刑者が収容されている。出入り自由で、受刑者たちは仕事や学校に通い、買い物に行き、子どもとは3歳になるまで一緒に暮らすことができる。食事は各自が作って食べる。刑務所の職員は、大学や研究機関で法学、犯罪学、心理学、福祉に加え社会学や公衆衛生学など様々な領域の学問を学ぶ。ドキュメンタリー映画『矯正施設を矯正する(Correcting Correctional Centers:日本未公開)』より。
 
●アボリション運動(p246)
 Abolition Movement。
 abolition=廃止。「刑務所に代わるもの」を模索しようと呼びかける運動が、米国を中心に広まりつつある。その中心にあるのが「アボリション運動」。
 差別に基づく非人間的な制度――レイシズム、刑務所、死刑、警察、刑罰制度など――の廃止を求める。『監獄ビジネス』の著者アンジェラ・デイヴィスらが1960年代から牽引してきた息の長い運動。免罪で投獄された経験を持つ。
 
(2023/1/16)NM
 
〈この本の詳細〉

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