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「死んだふり」で生きのびる 生き物たちの奇妙な戦略
 [自然科学]

「死んだふり」で生きのびる: 生き物たちの奇妙な戦略 (岩波科学ライブラリー 314)
 
宮竹貴久/著
出版社名:岩波書店(岩波科学ライブラリー 314)
出版年月:2022年9月
ISBNコード:978-4-00-029714-1
税込価格:1,430円
頁数・縦:132p・19cm
 
 世界的に希少な研究テーマである生物の「死んだふり」に魅せられた著者が、これまでの研究の成果と今後のテーマについて分かりやすく論じる。
 途中から、用語が「死んだふり」から「死にまね」に変化。
 
【目次】
1 世界はなぜ死んだふりで溢れているのか?
2 死んだふりを科学する
3 死んだふりの損と得―生と性のトレードオフ
4 利己的な餌―他者を犠牲にして自分が生き残る術
5 体のなかで何が起こっているのか
6 いつ目覚めるべきか?
 
【著者】
宮竹 貴久 (ミヤタケ タカヒサ)
 1962年生まれ。1986年琉球大学大学院修士課程修了。1996年博士(理学)取得(九州大学大学院理学研究院生物学科)。沖縄県職員、ロンドン大学生物学部客員研究員を経て、2008年より岡山大学教授。2002年に日本生態学会宮地賞、2010年に日本応用動物昆虫学会賞、2016年に日本動物行動学会日高賞受賞。
 
【抜書】
●死んだふり(p7)
 「死んだふり」に対しては、様々な用語が与えられた。
 緊張性不動、カタレプシー(硬直)……昆虫生理学者による命名。体の末端部分の神経や筋肉の動きのメカニズムに注目。昆虫では、意識(脳)の研究まで踏み込めなかった。
 フリーズ現象……動物行動心理学者。死んだふり行動とは別の不動現象としてフリーズに注目。「わざと(意識的行動)」なのか、単なる無意識の結果なのか。
 突如の不動(tonic immobility)、サナトシス(thanatosis)……生理学の研究者。
 不動(freezing)、死んだふり(death feigning)……動物行動学者。
 
●シクリッド(p12)
 アフリカのマラウイ湖に生息するカワスズメの一種。
 湖底の砂地と藻の境目で死んだふりをして動かない。ときには腹面を湖底につけてじっとしている。
 小型のカワスズメが近寄ってくると、急に動き出して襲って食べる。
 
●トンボ(p14)
 トンボの性差はオスに偏っている。数少ないメスたちは、交尾しようとするオスたちの執拗はハラスメントに出会う。
 メスは必死に逃げようとするが、オスがメスの頭をつかんで、尾にある把握器でメスの胸部を挟んで連れ去ろうとすることがある。そんな時メスは、急に自ら水中にダイブして動かなくなる。ペアーハイジャック(オスを道連れにして水中落下する)と呼ばれている。
 驚いたオスはそのまま飛び去り、メスはオスが逃げた後に、やっと産卵する。
 観察した結果、16例中14例で水中落下した。
 
●活動モード、静止モード(p29)
 昆虫には活動モードと静止モードがあり、敵に襲われそうになった時、活動モード(歩いているときなど)ではそのまま走って逃げ、静止モード(止まっている)にある時にはそのまま死んだふりをする。
 
●アリモドキゾウムシ(p21)
 サツマイモの害虫。この幼虫はサツマイモやノアサガオなどヒルガオ科植物の茎や根っこを食べて成長する。食われたサツマイモはイポメアマロンと呼ばれる物質を放出する。本来はゾウムシではなく、加害する菌類に対抗するための自己防衛物質。とても苦く、人どころか家畜も食べないようになる。
 外来種。1903年に初めて沖縄で確認され、1950年代には南西諸島に蔓延。この害虫の蔓延を防ぐため、サツマイモやアサガオを南西諸島から持ち出すことが禁止されている。
 著者が、沖縄県農業試験場で研究職員として働いていたころ、このゾウムシの「死んだふり」の研究を、アフター5と休日を利用して始めた。
 
●アズキゾウムシ(p35)
 秋に実をつけるアズキやササゲといった豆類に卵を産み、幼虫は豆の中に侵入して豆を食い進んで成長する。
 岡山大学に転職後、沖縄でペット代わりに飼っていたアズキゾウムシを使って死んだふりの研究を開始。
 体重の大きな個体ほど、死んだふりの時間が長い。
 温度が高くなると虫の動きが活発になり、死んだふりができなくなる。15℃と20℃では100%の成虫が死んだふりをしたが、30℃と35℃では半数程度のゾウムシしか死んだふりができなかった。
 
●コクヌストモドキ(p44)
 体長3mm程度の甲虫。世界中に生息。コメや小麦などの穀類を食べて繁殖。数が増え、いつの間にか穀物がなくなってしまうほどの被害を与えることから、「穀盗人のようだ」という意味で付いた名前。
 卵が成虫になって次世代の卵を産むまでの期間が約1カ月半。モデル生物として、2008年に全ゲノム配列が公開された。
 ロング系統(長い時間死んだふりをする系統)と、ショート系統(死んだふりができない系統)の2系統に育種。10世代で達成。
 
●交尾率(p56)
 ロング系統、ショート系統それぞれ5匹の交尾未経験のメスと、1匹のオスを直径9cmのシャーレに入れて観察。
 15分の間に、ショート系統のオスは平均3.5匹のメスと交尾。ロング系統のオスは2匹のメスとしか交尾できなかった。
 ハエトリグモと同居させた実験では、ロング系統はショート系統に比べて有意に長く生存できた。
 
●集団(p82)
 死んだふりをする個体は、近くにいて動き回る個体がいてこそ、生き残ることができる。
 〔死んだふりをする虫は、「利己的に死んだふりをして隣の虫の犠牲の上に生き残っているずるい奴」と言うことができる。死んだふりは、集団で暮らす生物こそその威力を最大限に発揮できるわけだ。〕
 
●パーキンソン症候群(p109)
 コクヌストモドキのロング系統は、普段から脳の中のドーパミンがとても少ない。ドーパミンを投与すると死にまね時間が短くなり、歩き出す。さらに、歩き方に異常が見られ、うまく曲がることができない。
 これらの症状は、パーキンソン症候群の症状と似ている。
 人のパーキンソン疾患の関連遺伝子のホモログをコクヌストモドキと比べたところ、うまく歩けないロング系統では、パーキンソン疾患の関連遺伝子に多くの変異が見つかった。
 
●死にまねシンドローム(p111)
 「死んだふり⇐⇒活動量⇐⇒脳内ドーパミン発現量⇐⇒ドーパミンで目覚める⇐⇒チロシン代謝系⇐⇒パーキンソン疾患の関連遺伝子とのホモログ」という関連が見つかった。
〔 死んだふりを遺伝的に操作すると、生物の動きが連動して変化し、成長や繁殖など目に見える行動も同時に変化が生じ、さらにそのメカニズムとしてドーパミンやパーキンソン疾患の関連遺伝子が同時進行的に変化したと言える。そこで僕は、この一連の行動変化を「死にまねシンドローム」と名付けてはどうか、と提案した。〕
 
(2022/12/30)NM
 
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ベリングキャット デジタルハンター、国家の嘘を暴く
 [社会・政治・時事]

ベリングキャット ――デジタルハンター、国家の嘘を暴く (単行本)
 
エリオット・ヒギンズ/著 安原和見/訳
出版社名:筑摩書房
出版年月:2022年3月
ISBNコード:978-4-480-83722-6
税込価格:2,090円
頁数・縦:366p・19cm
 
 デジタル探偵、ネット探偵、オープンソース探偵。要は、SNSなどに掲載された画像や動画を丹念に調べ、隠された真実を暴く活動である。その手法を細かく紐解きながら、べリングキャット立ち上げの経緯とその活動を報告する。
 
【目次】
1 ラップトップ上の革命―ネット調査の可能性に気づく
2 “ベリングキャット”の誕生―探偵チームの形が整う
3 事実のファイアウォール―デジタル・ディストピアへの反撃
4 ネズミが猫をつかまえる―スパイ事件が時代を画する事例に
5 次なるステップ―正義の未来とAIのパワー
補遺 暗殺者と対決―“ベリングキャット”、暗殺団に電話する
 
【著者】
ヒギンズ,エリオット (Higgins, Eliot)
 オープンソース調査集団として何度も表彰された“ベリングキャット”の創設者。カリフォルニア大学バークレー校の“ヒューマン・ライツ・センター”の研究員で、国際刑事裁判所の技術顧問委員会のメンバーでもある。2019年、『プロスペクト』誌によって世界最高の思想家50人のひとりに選ばれた。
 
安原 和見 (ヤスハラ カズミ)
 翻訳家。
 
【抜書】
●ブラウン・モーゼス(p30)
 エリオット・ヒギンズが始めたブログ。2011年頃か?
 フランク・ザッパという米国のシンガーソングライター(1940-93)の歌の題名からとった。
 
●見えてしまうもの(p48)
 ネットに公開されている画像、動画には、〔人が見せたいもの以外にも、見えてしまうものがある。〕
 
●RT(p58)
 ロシアの英語ニュース専門局。最初は「ロシア・トゥデアイ」だったが、出自をごまかすために「RT」に改称した。
 
●グータ(p74)
 シリアの首都ダマスカスの郊外。
 反政府勢力の支配地域で、2013年8月21日、ロケット弾による化学兵器が使用され、死者1,000人、被害者数千人を出した。
 
●特定し、検証し、拡散する(p90)
 べリングキャットのモットー。
 特定……見過ごされている問題、発見されていない問題をネット上で特定する。
 検証……あらゆる証拠を検証し、けっして推測に頼らない。
 拡散……わかったことを拡散し、同時にこの分野を全体として広く知らしめる。
 
●べリングキャット(p94)
 創設は、2014年7月14日。
 マレーシア航空17便の墜落事故の3日前。ウクライナ東部上空6マイルの地点を飛行中、何者かに撃墜された。乗員乗客298人が犠牲になった。
 
●サンカルク(p104)
 写真のなかの影を測定し、時刻を特定するアプリ。
 
●デツィンフォルマチヤ(p110)
 偽情報。ロシア語。
 フランス語に聞こえるようにスターリンがつくった造語。
 
●反・事実コミュニティ(p161)
 陰謀論者が言い出した主張が国のプロパガンダに使われ、非主流のメディアで取りあげられ、それがまた陰謀論者に還流する、という生態系。
 
●フル・ファクト(p210)
 英国のファクトチェック組織。
 フル・ファクトが発表した評論によると、ネットのファクトチェッカーの第一世代は「発表して放置」という手法をとっており、今も広く用いられている。
 第二世代になると、もっと直接的に一般の議論に影響を及ぼそうとし、捏造の発信元と対決し、訂正の発表を求め、倫理基準団体に苦情を訴え、当局の対応を求めるようになる。
 さらに第三世代は、インターネットの規模に対応することが必要となる。国境にこだわらず、大規模な協力関係を通じて対処しなければならないだろう。
 
(2022/12/29)NM
 
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日本の国会議員 政治改革後の限界と可能性
 [社会・政治・時事]

日本の国会議員-政治改革後の限界と可能性 (中公新書, 2691)
 
濱本真輔/著(中公新書 2691)
出版社名:中央公論新社
出版年月:2022年4月
ISBNコード:978-4-12-102691-0
税込価格:990円
頁数・縦:282p・18cm
 
 日本の国会議員の実態を、論文や記事、インタビューを参考に多角的に紹介する。
 
【目次】
第1章 誰が政治家になるのか
第2章 当選に向けた活動とは
第3章 立法過程への参画――議員の仕事
第4章 不安定な議員――政党制の問題
第5章 政治資金――政治家とカネの問題
終章 政治改革後の国会議員とは
 
【著者】
濱本 真輔 (ハマモト シンスケ)
 1982兵庫県生まれ。筑波大学大学院人文社会科学研究科博士課程修了。博士(政治学)。大阪大学大学院法学研究科准教授。著書に「現代日本の政党政治」など。
 
【抜書】
●供託金(p7)
 衆議院の小選挙区は300万円、比例代表は600万円(重複立候補は300万円)。
 米国、フランスには供託金がない。
 イギリス、カナダは10万円以下。
 ドイツ(小選挙区比例代表併用制)は、政党の比例代表候補になるために、選挙区で前回選挙での有権者数の1000分の1(最低2000名)の署名が必要。小選挙区のみでの立候補は、200名の署名。
 
●女性議員(p36)
 日本の衆議院議員のうち、女性は9.9%。世界全体の下院議員の平均は25.5%。列国議会同盟(IPU)調べ。
 ただし、参議院では2016年以降、20%以上。(p23)
 
●選挙公営制度(p51)
 国や地方自治体が選挙費用の一部を負担する制度。選挙費用の抑制、経済力による選挙の不公平を防ぐ目的で実施される。
 日本では1925年に導入され、徐々に拡大してきた。
 
●政策担当秘書(p68)
 「3人目」の公設秘書。1993年に創設された。1990年の第八次選挙制度審議会の第二次答申で「国会議員の政策活動が充実し、国民の負託にこたえるよう、政策スタッフとしての議員秘書の増員」が提言された。
 資格要件は4つ。
 (1)国が実施する国会議員政策担当秘書試験に合格した者。合格率10%程度。合格者670名中、採用されたのは85名(2019年度までの累計)。
 (2)司法試験や国家公務員(一種・総合職)試験などの高度な国家試験の合格者や博士号取得者。
 (3)3冊以上の著作を出版し、専門知識を持つ者。
 (4)公設秘書などを一定期間以上務めた者が研修を受講し、修了すること。研修を受けた者のほとんどが資格を得た。
 政策担当秘書の多くは、(4)の要件を満たした者。
 現職議員は、一人当たり平均7人の秘書を抱えている(公設秘書+私設秘書。2012年、東京大学谷口研究室・朝日新聞共同政治家調査)。自民党が8.6人、民主党6.6人、公明党4.4人、共産党4.0人。
 公設秘書の給料は、第一秘書34~53万円、第二秘書27~39万円、政策担当秘書43万円(1級2号給)以上。2020年。「国会議員の秘書の給与等に関する法律」で定められている。
 
●金権民主主義(p224)
 プルトデモクラシー。「プルトス(富)」と「デモス(人民)」。選挙民の支持と経済権力の圧力の両面がある体制。
 政治資金が政治参加の手段となり、富を持っている者が影響力を行使できる程度が高まる。
(2022/12/26)NM
 
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流れとかたち 万物のデザインを決める新たな物理法則
 [自然科学]

流れとかたち――万物のデザインを決める新たな物理法則
 
エイドリアン・ベジャン/著 J.ペダー・ゼイン/著 柴田裕之/訳
出版社名:紀伊國屋書店
出版年月:2013年9月
ISBNコード:978-4-314-01109-9
税込価格:2,530円
頁数・縦:425p・20cm
 
 コンストラクタル法則は物理法則の統一理論なのか?
 世界の進化を予測する、流動系に共通する法則について多角的に論じる。
 
【目次】
第1章 流れの誕生
第2章 デザインの誕生
第3章 動物の移動
第4章 進化を目撃する
第5章 樹木や森林の背後を見通す
第6章 階層制が支配力を揮う理由
第7章 「遠距離を高速で」と「近距離を低速で」
第8章 学究の世界のデザイン
第9章 黄金比、視覚、認識作用、文化
第10章 歴史のデザイン
 
【著者】
ベジャン,エイドリアン (Bejan, Adrian)
 1948年ルーマニア生まれ。デューク大学特別教授(distignuished professor)。マサチューセッツ工科大学にて博士号(工学)取得後、カリフォルニア大学バークレー校研究員、コロラド大学准教授を経て、1984年からデューク大学教授。24冊の専門書と540以上の論文を発表しており、「世界の最も論文が引用されている工学系の学者100名(故人を含む)」に入っている。1999年に米国機械学会と米国化学工学会が共同で授与する「マックス・ヤコブ賞」を受賞。2006年、「ルイコフメダル」を授賞。
 
ゼイン,J.ペダー (Zane, J. Peder)
 ジャーナリスト。セントオーガスティン・カレッジ准教授(ジャーナリズム)。『ニューヨークタイムズ』などへコラムを寄稿する。
 
柴田 裕之 (シバタ ヤスシ)
 1959年生まれ。翻訳家。早稲田大学理工学部、アーラム大学卒。
 
木村 繁男 (キムラ シゲオ)
 1950年生まれ。金沢大学環日本海域環境研究センター教授。早稲田大学理工学部機械工学科卒業後、一般企業勤務ののち、コロラド大学大学院工学研究科においてエイドリアン・ベジャンを指導教授として博士号取得(工学)。カリフォルニア大学ロサンゼルス校、通商産業省工業技術院を経て現職。専門は熱流体工学。
 
【抜書】
●流動系(p11)
 〔生物・無生物の別なく、動くものはすべて流動系である。流動系はみな、抵抗(たとえば摩擦)に満ちた地表を通過するこの動きを促進するために、時とともに形と構造を生み出す。自然界で目にするデザインは偶然の所産ではない。それは自然に自発的に現れる。そのデザインが、時とともに流れを良くするからだ。〕
 
●予測(p56)
〔 コンストラクタル法則は、宇宙そのものと同じだけ古いのにもかかわらず今まで認識されていなかった現象の存在を明らかにする。コンストラクタル法則の力と正しさを支えているのは、この法則があらゆる流動系の進化を記述するだけではなく、予測することを可能にするという事実だ。コンストラクタル法則を使えば、自然界で何の観察も行なわないうちから予測ができる。もし時がたつにつれて流れやすくなるように変化する自由があれば、肺や血管、樹木、河川、稲妻がどのような外見になるはずかが推測できるのだ。そして、私たちが描き出した図面を、実世界に見られるものと比べると、両者は一致する。
 コンストラクタル法則によれば、以下のことが予測される。河川がより効率的に流れるためには、幅は深さと比例していなければならない。人体の循環系は、水分や酸素、有効エネルギーをすべての細胞に送り届けるために、少数の本流(動脈と静脈)と無数の支流(毛細血管)という、断面が円形の管から成る樹状構造になるはずだ。また、私たちの心臓は断続的な搏動(ドキッ、休止、ドキッ、休止)をすることになる。生体に酸素などの物質を送り届けるためには、それが効率的な方法だからだ。〕
 
●層流、乱流(p79)
 あらゆる流体は、流れを良くするために「層流」と「乱流」のどちらかのデザインを選び取る。
 層流……流れが十分薄く/細く、速度も十分に遅いときの流動のデザイン。層状の動きとなる。
 乱流……流れが十分厚く/太く、速くなるとデザインは乱流に変わる。
 
●河川流域の出現(p104)
 地表に降った雨によって河川流域が出現するまでの過程。
 まず、大地への浸透。
 抵抗がある大きさに達すると、最初の細流が形成される。→ 基本的構成体
 水量が増すにつれ、細流同士が合わさり、もっと大きな流路を形成する。→ 第一構成体
 この過程が繰り返されてより大きな構成体が次々に作り出され、ついには河川流域が出現し、適切な均衡を保つ様々なスケールの流路を通して全領域に水の流れを行き渡らせる。
 
●4対1(p116)
 全体的に流動抵抗を減らすための河川流域の形状は、支流と本流の数の比が4対1。
 川幅と水深が比例する。本流の長さを支流の長さで割ると2になる。
 
●偶然(p125)
 〔「偶然」とは、矛盾するデータがあまりにも多く、変数も多過ぎて、私たちには全体が理解できないと暗に述べる言葉だ。それは、ランダム性やノイズとは正反対のものであるパターンが、私たちには見えないと認めることだ。〕
 
●エクセルギー(p132)
 燃料(あるいは食物)は熱を生み出す。この熱のかなりの部分は、原理上仕事に変えられ、それは有効エネルギーもしくは「エクセルギー」と呼ばれる。
 
●泳ぎ(p145)
 泳ぐものは、前に進むために自分の前方にある水をどけなければならない。
 水平方向に体長分だけ進むためには、自分の大きさと等しい量の水を、自分の体長とほぼ等しい高さまで持ち上げる必要がある。
 
●L₁+L₂(p172)
 人において、L₁が骨盤(重心)までの高さ、L₂を骨盤(重心)から頭頂までの高さとする。
 同身長の場合、走るときは、L₁が高い(足が長い)ほうが有利。体重がより高いところから落ちてくるため、より速く走る力が得られる。
 泳ぐときは、L₂が長いほうが有利。泳ぐとき、水面から出るのは上半身(「波」)である。泳ぐことによって波が生じる。水泳は、その波に乗る技を競うもの。波が大きければ大きいほど(上半身L₂が長ければ長いほど、水面から高く体を出せる)、波も泳者も速く進む。
 
●コンストラクタル法則(p194)
 〔第一に、自然界にはこれほど素晴らしい多様性が見られるとはいえ、動くものはすべて流動系であることをこの法則は明らかにする。次に、流動系は自由を与えられれば、時がたつにつれてしだいに流れやすくなるように進化することを予測する。第三に、この普遍的な傾向で、私たちが自然界のデザインと呼ぶパターンを説明できることを、この法則は示す。最後に、あらゆる流動系が地球規模の流動のタペストリーの中で他の流動系とつながっており、それらに形作られているという事実をこの法則ははっきりさせる。〕
 
●進化(p222)
〔 私たちは、コンストラクタル法則に基づいて取り組めば、植物のデザインの本質的な特徴を予測できることを示した。もし進化のテープを巻き戻して最初からやり直したら、そしてもし植物のデザインが再び現れたら、進化の過程は同じ種類の根や幹や外形、つまり今日私たちが目にする林床のデザインとスケーリング則を一貫して生み出すはずだ。進化には方向性があるということがここからわかる。進化はランダムな出来事の物語ではなく、時とともにしだいに良くなっていく流れのデザインの出現と進化を巡って展開し続ける大河小説なのだ。
 コンストラクタル法則は、進化についてのダーウィンの考えに物理的原理の後ろ盾を与える。この法則は、特定の変化が他の変化よりも良い理由を説明し、そうした変化は偶然ではなく、より良いデザインの生成を通じて現れることを示してくれる。コンストラクタル法則はまた、進化についての私たちの理解を拡げ、生物学的変化という自然の傾向が、無生物の世界を形作るものと同じ傾向であることを示してくれる。〕
 
●脈管生成(p233)
 樹状構造よりコンストラクタル法則にふさわしい言葉は脈管生成(ヴァスキュラライゼーション)。
 この単語のほうがコミュニケーションの流路として優れている。生命の相互依存性という主要な考えを捉えているから。
 樹木は一点と一平面あるいは一立体領域との間のつながりを示唆するのに対し、「ヴァスキュラライゼーション」は生命を与える流動と、生命に満ちた塊(空間領域あるいは平面領域)という枢要な考えも含んでいる。
 
●バイオミメティクス(p300)
〔 したがって、本書はバイオミメティクスを時代遅れにする。コンストラクタル法則のおかげで、私たちは自然に現れるデザインを予測し、説明できるからだ。デザイン入門書の図面を眺めるのが最も一般的な取り組み方だが、それでは足踏み状態に陥り、飛躍には結びつかない。発明者の革命的デザインを真似るほうがずっと効率的だが、そうした模倣は高くつくか、あるいは違法だ。だが、コンストラクタル法則を使えば、誰もが発明家になれるのだ。〕
 
●生物(p376)
〔 このようにコンストラクタル法則は、地球の歴史を貫く予測可能な筋書きの存在を、初めて明らかにしてくれる。この歴史物語の各段階(岩石圏の出現、気圏の出現、水圏の出現、生物圏の出現)で、自然は地球上でより多くの質量の移動を促進するために進化した。コンストラクタル法則は生き物を、生態的地位を見つけて自らの生存を確実にしようと試みる、ただの孤立した存在とみなすかわりに、それらが熱力学の法則とコンストラクタル法則に従って、地球規模の混合と攪拌を高めるというあらゆるものの傾向の現れとして進化してきたことを教えてくれる。生物圏の生物のデザインは新しく、無生物のデザインによる混合活動を補足する――良くする――から現れた。〕
 
●未来の予測(p386)
〔 コンストラクタル法則は過去を説明してくれるだけでなく、未来の予測も可能にしてくれる。この先、何が待ち受けているのか。ここまでくれば、短い答えは明白だろう。より多くの質量をより良く、つまり安く遠くまで速く動かす多数の流れのデザインだ。世界という舞台では、地球全体が、法の支配や自由貿易、人権、国際化、その他、より多くの人やものの動きを保証するあらゆるデザインの特徴を行き渡らせ続けると、自信をもって言うことができる。もちろん、障害はある。独裁者たちはこの予測が気に入らないだろう。だが、膨大な数の個人から成る流動系が、その性質上、全体とすればそうした独裁者の支配を短命に終わらせる。それが物理の法則だからだ。
 さらに、私たちはすでに人間と機械が一体化した種になっており、この種は、私たちの目の前で進化し続けるだろう。地球上での情報や人やものの流れを加速させた、携帯電話や携帯型のコンピューターなどの比較的新しい科学技術は、さらなる発明によって補足され、私たちの流れは、より容易により安く地球上を席捲できるだろう。こうした自然な展開の及ぼす、「人間性を奪う」影響を嘆く現代のソローたちは、歴史を取り違えているばかりか、物理学も誤解している。〕
 
●消費(p387)
〔 それは、世界のエネルギーの使用量を減らすように要求する人たちにしても同じだ。動力を使う科学技術は効率を高め、より少なくではなく、より多くの動力を生産して消費する方向に進化し続けるだろう。高い効率を追い求めても、燃料消費の低下にはつながらない。それを裏付ける証拠には事欠かない。この傾向は、これまでずっと変わらなかった。より広い領域で、より多くの人のために、より多くの動力が生み出され、個々の人が使う動力も増え続けるのだ。〕
 
(2022/12/24)NM
 
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ペンギンもつらいよ ペンギン神話解体新書
 [自然科学]

ペンギンもつらいよ: ペンギン神話解体新書
 
ロイド・スペンサー・デイヴィス/著 上田一生/訳・解説 沼田美穂子/訳・解説
出版社名:青土社
出版年月:2022年8月
ISBNコード:978-4-7917-7477-7
税込価格:2,640円
頁数・縦:223p・19cm
 
 ペンギン研究の第一人者が、豊富な写真、イラストとともにペンギンの生態を網羅して解説。
  ニュージーランドで児童書の賞を受けているというのだが……。かの国の子供たちは相当にませているようだ。知的にも。
 原題は“The Plight of the Penguin"。
 
【目次】
1 歴史
 ペンギン「あるある」8つの誤解
 鳥類
  ほか
2 水中生活に向けた大変身
 収れん進化
3 性生活
 性淘汰
 親から子への投資
  ほか
4 愛の結晶
 パパが作るミルク
 体内時計
  ほか
5 さまよえる魂?
 世界最大の海鳥救出活動の実情
 地球温暖化とオキアミ
  
【著者】
デイヴィス,ロイド・スペンサー (Davis, Lloyd Spencer)
 生物学者、サイエンスコミュニケーター。現在ニュージーランドのオタゴ大学で教鞭をとる。ペンギンを40年以上にわたり研究し、ペンギンに関する著書多数。
 
上田 一生 (ウエダ カズオキ)
 東京都出身、ペンギン会議(PCJ)研究員、国際自然保護連合(IUCN)・種の保存委員会(SSC)・ペンギンスペシャリストグループ(PSG)メンバー。
 
沼田 美穂子 (ヌマタ ミホコ)
 東京都出身のフリーランス翻訳者(英日・日英)、日本翻訳連盟認定一級翻訳士(日英、医学・薬学分野)。6年間の会社勤めを経てオタゴ大学へ大学院留学し修士・博士課程を修了、ポスドクも同大で経験した。ロイド・デイヴィスは修士課程の指導教官であり、コガタペンギンの繁殖行動について共著論文を発表した経歴を持つ。
 
【抜書】
●オオウミガラス(p63)
 Pinguinus impennis。ウミスズメ科の飛べない鳥。1844年6月4日、最後の2羽が叩き殺されて絶滅。北半球に生息していた。
 南半球でペンギンに遭遇したヨーロッパンの船員たちは、オオウミガラスに似ていることからこの鳥を「ペンギン」と名付けた。
 
●塩類腺(p81、注)
 ペンギンは、非常に大きな塩類腺をもっている。頭部の両眼の上にある一対の器官。体内に採り込んだ塩分を漉しとって排泄する。口から入った海水から塩分を除去する。ドロドロした塩水が鼻孔から垂れ流され、くちばしの先端に流れ着く。塩水はそのまま流れ落ちるか、ペンギンが頭を左右に振ると、大量のつばのごとく前後左右に飛び散る。
 
●エンペラーペンギン(p86)
 キングペンギンとエンペラーペンギンは、卵を1個だけ生む。
 エンペラーペンギンは、海氷の上で繁殖するので、両足の上に卵を載せて抱卵する。
 キングペンギンは、小石も植物も豊富にある亜南極地域で繁殖するが、1個の卵を両足に載せて抱卵する。キングペンギンとエンペラーペンギンは、共通の祖先を有するのかもしれない。
 
●オスの作るミルク(p157)
 エンペラーペンギンは、海氷(パックアイス)の上で繁殖する。小石も草もないので巣作りができず、オスが両足の上に卵を載せて、2カ月間、絶食して抱卵する(求愛期間も含めると3か月間の絶食)。絶食期間中、体重の三分の一を失う。メスは、卵を産むと海に採餌に出かけ、雛が孵化した頃に戻ってくる。
 メスが戻ってくるまでの間、オスは体内組織を分解して一種のミルクを作り出し、雛に与える。
 
●14か月(p146)
 キングペンギンの雛は育つまでに14カ月ほどかかる。
 親鳥は、3年間に2回ずつの頻度でしか子育てができない。
 
●クレイシ(p169)
 3羽以上の雛の集まりこのこと。
 ペンギンの多くの種では、ある程度雛が育ち、自力で体温を維持できるようになると(2週齢ほど)、雛に大量のえさを与えるため、両親とも採餌に出かけて雛だけ取り残される。
 その雛たちが体を寄せ合ってクレイシを形作る。
 親たちは、雛に給餌するために鳴き声を上げて雛に呼び掛け、雛は親の元へと駆け寄る。
 
●マカロニペンギン(p164)
 マカロニペンギン属……マカロニペンギン、フィヨルドランドペンギン、スネアーズペンギン、イワトビペンギン、シュレーターペンギン、ロイヤルペンギン(マカロニペンギンの亜種)。立派な眉毛をもつ。
 卵を2個産むが、雛は1羽だけしか育たない。
 第一卵より第二卵のほうが大きい(最大で2倍にも)。6日ほど後に産み落とされた第二卵のほうが先に孵化する。
 フィヨルドランド、スネアーズ、イワトビでは、通常、2個とも孵化するが、孵化の遅い第一卵の小さいほうの雛は競争に勝つことができず、餓死してしまう。
 シュレーター、マカロニ/ロイヤルは、第二卵の産卵当日もしくはそれ以前に、第一卵をなくしてしまう。
 マカロニペンギン属のこの現象は、一腹卵数を1個に減らそうとしてる進化の最中?
 
(2022/12/21)NM
 
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てんまる 日本語に革命をもたらした句読点
 [言語・語学]

てんまる 日本語に革命をもたらした句読点 (PHP新書)
 
山口謠司/著
出版社名:PHP研究所(PHP新書 1305)
出版年月:2022年4月
ISBNコード:978-4-569-85182-2
税込価格:1,056円
頁数・縦:238p・18cm
 
 「てんまる」すなわち日本語の句読点について、その歴史を振り返り、時代により人により異なるその使用法を論じる。
 句読法の原則を論じるのかと思って読み始めたが、そうでもなかった。「細かく規則を決めようとして、無駄な時間と無駄な労力を使わないのが一番です。」(p.221)
 
【目次】
第1章 本の読み方と「てんまる」の関係
第2章 「てんまる」はいつから始まったか
第3章 明治時代以降の「てんまる」
第4章 現代文学の「てんまる」
第5章 マンガの「てんまる」
 
【著者】
山口 謠司 (ヤマグチ ヨウジ)
 1963年長崎県生まれ。大東文化大学文学部教授。博士(中国学)。大東文化大学大学院、フランス国立高等研究院大学院に学ぶ。英国ケンブリッジ大学東洋学部共同研究員などを経て現職。専門は書誌学、音韻学、文献学(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)。
 
【抜書】
●「、」は奈良時代(p42)
 『文選李善注』、天平17年(745年)以前に筆写された。「、」の記号が使われた、現存する最古の資料。
 『成実論(じょうじつろん)』天長5年(828年)筆写。カタカナが使われた最古の資料。文末には右下に「、」、区末には左下に「、」が付けられていた。
 ひらがなは、900年頃に生まれた。
 
●「・」は鎌倉時代(p43)
 『浄土三経往生文類(広本)』は、漢字カタカナ交じりの文章だが、文の区切れに朱墨で「・」が施されている。振り仮名も丁寧にふられていて、とても読みやすい。
 室町時代の『花上集鈔(かじょうしゅうしょう)』(1489年ごろ)にも、「てんまる」として「・」が使用されている。
 
●空白(p44)
 南北朝時代には空白を使って「句読」を示している。『一流相承系図(いちりゅうそうじょうけいず)』など。
 
●キリシタン版(p46)
 天文18年(1549年)、フランシスコ・ザビエルの来日以来、寛永16年(1639年)の鎖国まで、天草や長崎などで、イエズス会士たちによって、キリシタン版と呼ばれる書物が西洋の印刷技術によって出版された。金属活字を使用。
 キリシタン版の影響を受けて、木片を利用してひらがな、カタカナ、漢字の活字(木活字:もっかつじ)を作って組版にした印刷が行われるようになった。古活字版。
 古活字版がつくられたのは、慶長勅版(1590年頃、後陽成天皇)から、正保(1644-48年)・慶安(1648-52年)頃まで。
 
●揺籃(p48)
 古活字本が普及して読者層が拡大。庶民が本を読むようになり、庶民の中から学者が誕生。
 それまで、貴族と僧侶が知識階級だった。庶民の言葉が分からなかった。
 庶民の学者が加わることで、〔ゆっくりとテキストを揺らしながら、貴族・庶民の両方に分かるような折衷した言葉を使うことによって、テキストの揺れをなくして定着させること、これが揺籃」なのです。これはヨーロッパも同じでした。」〕
 
●製版本(p49)
 古活字本がなくなると同時に「製版本」が現れた。
 1枚の版木に版下を貼り付け、それを彫刻刀で彫ったもの。それに墨を塗って印刷する。
 固い版木で作っておけば、数千枚刷っても版面が磨滅しない。いちいち活字を組みなおさなくても再版が可能。
 
●権田直助(p53)
 1809-1887年。国学者。江戸時代末期から明治時代前期にかけて国学の研究を行う。平田篤胤の弟子。相模大山阿夫利(あふり)神社、皇典講究所文学部長、静岡県神道事務所分局長などを歴任。
 日本語の「句読」について初めて言及した人物。
 『国文句読法』、1895年(明治28年)。
 
●大東文化大学(p72)
 大正12年(1923年)、「漢学(特に儒教)を中心として東洋の文化を教授・研究することを通じて、その振興を図るとともに儒教に基づく道義の確立を期し、更に東洋の文化を基盤として西洋の文化を摂取吸収し、東西文化を融合して新しい文化の創造を目指す」という建学の精神によって、大東文化学院が設立された。
 特定の創立者がいるわけではなく、大正10年3月の第44回帝国議会衆議院本会議「漢学振興に関する建議書」に基づき創設された。
 国立大学で授業料は無料、給料をもらって和学、漢学、経済学を学べた。全国から優秀な学生が集まった。
 当時の所在地は九段(現・東京都千代田区富士見)。初代総長は平沼騏一郎。
 現在の私立・大東文化大学。
 
●国語調査委員会(p127)
 明治35年(1902年)、文部省に「国語調査委員会」が設けられた。
 委員長・加藤弘之、主事・上田万年。委員として、加納治五郎、井上哲次郎、徳富蘆花、大槻文彦、前島密、芳賀矢一、など。
 国語調査の方針、方言、文法、漢字の省滅、送り仮名、音韻、ローマ字と仮名の比較、仮名遣いについて、議論を重ね、およそ20点に及ぶ書籍を出版した。「てんまる」については、記事が残っていない。
 
●句読法案(p129)
 明治39年(1906年)2月、文部大臣官房図書課から『句読法案』が出版された。
 「てんまる」の規則が示される。
 
●『?』(p169)
 長谷川如是閑の小説『?』、1909年(明治42年)。
 翌年8月、『額の男』に改題。
 主人公の羽仁正雄は、親の財産を相続して、好きな勉強を続けていくことができる青年。百科全書的な知識で、登場人物と「資本と労働」「キリスト教と仏教の優劣」「読書論」「芸術論」などについて、古今東西の書物を引用しながら議論。〔この小説は筋があるのかないのか分からない、何を目的にして書かれたのかも分からない、まさに『?』に相応しい内容〕。
 
●言文一致運動(p191)
 〔「話すように書く」、そうすることによってリアルさを伝えることができるといういうことに、明治時代に行なわれた言文一致運動の理想があるとすれば、江戸っ子でなおかつ洗練された俳句と戯曲の才を持った久保田万太郎や安藤鶴夫の「てんまる」の多い文章は、多くの読者から広く受け入れられたのではないかと思います。〕
 
●中国語(p215)
 中国語もかつては縦書きだった。
 1911年(明治44年)、辛亥革命に伴う清朝政府の崩壊、毛沢東による大革命によってあっという間に縦書きの本はなくなる。
 現在の中国語の本は横書きで、ほとんど「,」「◦」の組み合わせになっている。
 
●小学館(p228)
 小学館の少年・青年コミックでは、吹き出しのセリフに「てんまる」を付ける。少女マンガなど、他のジャンルでは「てんまる」を付けない。他の出版社も、ほとんどが「てんまる」を付けていない。
 『小学一年生』などを発行している出版社としての教育的配慮? 「マンガは悪書」という批判に対抗するため。
 青年コミックは、少年コミックから派生して出てきたので、「てんまる」も踏襲した。
 
(2022/12/19)NM
 
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もういいかいまあだだよ
 [文芸]

もういいかい まあだだよ
 
小椋佳/著
出版社名:双葉社
出版年月:2021年12月
ISBNコード:978-4-575-31683-4
税込価格:1,650円
頁数・縦:275p・19cm
 
 小椋佳の自伝エッセー。シンガーソングライターにして大手銀行マン。銀行では規格外の活躍で、重役候補にまで上り詰めたらしい。
 やっぱ、優秀な人は何をやらせても一流なんですね。
 
【目次】
第1章 「小椋佳」ができるまで
 大当たりした祖母の予言
 泣き虫のいじめられっ子
  ほか
第2章 勧銀マンとして、夫として、父として
 渾名は「デマラ」~自由すぎる新人時代
 資生堂担当で開眼
  ほか
第3章 歌、そして恋
 「二足のわらじ」なんて履いた覚えがない
 美空ひばりさんは稀有な声の持ち主
  ほか
第4章 生きる
 星しかない空
 57歳でまさかの胃がん手術
  ほか
第5章 人生の総仕上げ
 年寄りじみず、若ぶらず
 権力者なんぞしゃらくせえ
  ほか
妻から夫へ~ずっと一緒にいてくれて、ありがとう。
 
【著者】
小椋 佳 (オグラ ケイ)
 1944年1月、東京・上野生まれ。作詩作曲家・歌手。67年に東京大学法学部卒業後、日本勧業銀行(のちの第一勧業銀行・現みずほ銀行)に入行し、浜松支店長、本店財務サービス部長等を歴任する。音楽活動にも打ち込み、71年に初アルバム『青春‐砂漠の少年‐』を発表。3作目のアルバム『彷徨』は100万枚のセールスを突破した。『しおさいの詩』『さらば青春』などのヒット曲で知られ、多数のアーティストへ作品提供している。2021年、ラストアルバム『もういいかい』をリリース。
 
【抜書】
●東黒門町(p20)
 神田紘爾(こうじ)、1944年1月18日、東京都下谷(したや)区東黒門町の生まれ。
 黒門は、名刹・寛永寺の総門のこと。
 
●国際財務サービス室(p99)
 第一勧業銀行時代の話。
〔 米国メリルリンチ証券やパリでの研修から帰国後は、本店勤務に。
 証券部受託課を皮切りに、大企業相手の融資案件を審査する営業審査部、新設の国際財務サービス室を渡り歩きました。
 特に86年に初代室長となった国際財務サービス室は非常に痛快でしたね。
 スワップとか外国為替先物など様々なテクニックを組み合わせて、これまでになかった独自の金融商品をどんどん発売したんです。まさに、発想力・想像力勝負。自慢話みたいで恐縮ですが、取引総額として数兆円の新規ビジネスとなったはずです。〕
 
●重役拒否(p104)
〔 本店・事業情報部の次長だった91年、47歳のときに、ある人事の話が下りてきました。
 香港の現地法人の社長をやるように。次は重役だ、と。
 いわゆる出世人事でしょう。
 だけど、断りました。今さら海外勤務なんてする気はサラサラなかったから。
 重役の椅子が約束されているということは、頭取候補に入っているということでもあります。
 何度も理由を聞かれたけれど、気持ちは変わりませんでした。
 
 その頃から、「偉くなるってのはイヤなもんだな」と思ってたんですよね。
 40代にもなってくると、頭取とか重役なんかとの付き合いもするようになって、僕なりに見えてくるものがあったんです。
 上の人たちが、本当は何をやっているか、ね。
 「もっと上に行きたい。もっと、もっと」って、もう必死。どの人に取り入って、どううまく立ち回ればいいのか。そんな腹の探り合いばかりに精を出している。醜いですよ。人生の貴重なエネルギーを、最後の出世のために使うなんて。頭取になったからって、だから何だっていうんだろう。
 香港行きを拒んだ僕に、ある偉い人は言いました。
 「愚かな選択だ」と。〕
 
●失恋(p178)
 〔好きな人に飽きが来た時は、本当に切ない。フラれることだけが失恋じゃなくて、自分の恋がさめることもまた、失恋。僕自身はむしろ、後者のほうが本当の失恋のような気がしています。〕
 
●小半(p202)
 こなから。半分の半分、つまり四分の一のこと。
 〔では、どうすれば幸せになれるか。〕
 〔どんな欲も、4分の1ぐらい。ほどほどに満たす暮らしが賢明な生き方ではないでしょうか。〕
 
【ツッコミ処】
・理(p250)
〔 20世紀は戦争の時代でしたね。
 21世紀になったら平和な世界が訪れるという淡い期待を人類は持ったけれども、なんのことはない。今度は宗教戦争の時代になった。
 そういう世界のなかで、日本はどんな位置づけで、どういう役割を担えるかということを考えると――。
 幸い日本は無宗教ですよね。キリストも神もないまぜ、クリスマスの数日後に初詣に行くような(笑)。まことにいい加減だけれど、僕はそれを、ある意味よしとしていて。
 日本は、信仰に依存しない国。だからこそ、信仰ではなく「理」で世の中を動かせる。
 「理」とは“ことわり”、すなわち理性や理知、道理です。
 日本は、理がきちんと大通りを行く社会になれるはずなんです。
 理を重んじると同時に、産業経済にはこれまでと変わらず力を入れて、豊かな社会をつくっていく。「信仰なんかしなくても、人間は幸せに生きられますよ」というのを実証する社会ですね。
 それが実現できて初めて、宗教対立を繰り返す世界に物が言えるのではないでしょうか。
 そのためには、やはり言葉の復権がどうしても必要です。〕
  ↓
 日本は、〔「理」で世の中を動かせる〕、とありますが、実際には「利」で世の中が動いているのかもしれませんね。
 
(2022/12/17)NM
 
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ロボットと人間 人とは何か
 [コンピュータ・情報科学]

ロボットと人間 人とは何か (岩波新書 新赤版 1901)
 
石黒浩/著
出版社名:岩波書店(岩波新書 新赤版 1901)
出版年月:2021年11月
ISBNコード:978-4-00-431901-6
税込価格:1,034円
頁数・縦:279p・18cm
 
 人間型ロボット研究の第一人者が、これまでの研究の成果と、将来のロボット共生社会の見通しを語る。
 
【目次】
1章 ロボット研究から学ぶ人間の本質
2章 対話ロボットとロボット社会
3章 アンドロイドの役割
4章 自律性とは何か
5章 心とは何か
6章 存在感とは何か
7章 対話とは何か
8章 体とは何か
9章 進化とは何か
10章 人間と共生するロボット
 
【著者】
石黒 浩 (イシグロ ヒロシ)
 ロボット工学者。大阪大学基礎工学研究科博士課程修了。工学博士。京都大学情報学研究科助教授、大阪大学工学研究科教授を経て、2009年より大阪大学基礎工学研究科教授(栄誉教授)。ATR石黒浩特別研究所客員所長(ATRフェロー)。遠隔操作ロボットや知能ロボットの研究開発に従事。人間酷似型ロボット(アンドロイド)研究の第一人者。2011年大阪文化賞受賞。2015年文部科学大臣表彰受賞およびシェイク・ムハンマド・ビン・ラーシド・アール・マクトゥーム知識賞受賞。2020年立石賞受賞。2021年オーフス大学名誉博士。
 
【抜書】
●リプリーQ1(p17)
 2000年頃からアンドロイドの研究開発に取り組み、2004年、世界初のアンドロイド「リプリーQ1」を開発し、2005年の愛知万博に展示。
 
●ジェミノイドHI-1(p17)
 2007年に開発した、遠隔操作アンドロイド。石黒がモデル。HIは、Hiroshi Ishiguroの頭文字。
 全身に約50本ものアクチュエータが使われており、腕を含め体のさまざまな部分が動く。(p164)
 ジェミノイド……人間と双子の遠隔操作アンドロイド。
 
●クリエイティブ(p26)
 パソコンの父と呼ばれるアラン・ケイ氏に言われた言葉。京都大学のプロジェクトで来日した際の講演にて。
 「パソコン社会の次には、ロボット社会が来ると思うのですが、あなたはどう思いますか?」という質問に対して。
 「君はクリエイティブな人間だろ。だったら未来は自分で実現するものだ。人に聞くものではない」。
 
●マルチ・モーダル(p42)
 複数のモダリティ(感覚)という意味。人間型ロボットの場合、視覚、聴覚、触覚、嗅覚、味覚など人間が持つ様々な知覚の統合という意味で用いられる。
 
●マルチモーダル・チューリングテスト(p55)
 従来のチューリングテストと異なり、多様なモダリティを通して人間らしさを表現しているロボットの人間らしさを評価するテスト。話す言葉、視線の動き、表情、ジェスチャーなど。人間型ロボット(ヒューマノイド)も対象となる。
 トータルチューリングテストは、人間と区別がつかないアンドロイドを目指すもの。
 
●目と口(p74)
 一般に、「目は自分の素直な感情を表し、口は意識して表現する感情を表す」と言われる。
 日本では、目を隠すサングラスはあまり好感を持たれないが、口を隠すマスクをすることに抵抗がない。
 欧米人は、マスクをすることに抵抗を感じる人が多いが、サングラスをすることに抵抗を感じる人は少ない。
 
●アンドロイド、ヒューマノイド(p87)
 アンドロイド……人間に酷似したロボット。
 ヒューマノイド……人間型ロボット。例えば、『スターウォーズ』のC-3PO。R2-D2は、単なるロボット。
 
●エリカ(p123)
 自律対話アンドロイド。大阪大学、京都大学、ATR(国際電気通信基礎技術研究所)に設置されている。ATRでは、1階の受付近くのロビーに常に座っており、来訪者に声をかけて対話をしている。
 科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究推進事業(ERATO)において、石黒共生ヒューマンロボットインタラクションプロジェクト(2014年7月~2021年3月)で開発された。
 自我を持つ大人に備わっていると思われる、比較的単純な意図や欲求の仕組みを採用した。
 
●内部パラメータ(p142)
 エリカは、相手との関係を五つの内部パラメータによって推定し、話題を選択する。
 自分の気分、対話相手への好感度、自己開示の度合い、わがまま度合い、相手との関係性。
 
●イブキ(p150)
 石黒共生ヒューマンロボットインタラクションプロジェクトでは、移動型子どもアンドロイド「イブキ」を2019年に開発した。
 子どもアンドロイドなので、知能も子ども並みと勘案し、大人も辛抱強く対応してくれる。
 社会養育ロボット学……最初から社会の中で受け入れられる子どもの姿形をロボットに与え、ロボットが社会の中で人と関わりながら、人や環境から知識を獲得して、成長していくという新しいロボット研究。
 
●ジェミノイドF(p164)
 ジェミノイドHI-1の後に製作された女性のアンドロイド。頭部に12本のアクチュエータを装備し、人と対話する。遠隔操作型ではない。
 平田オリザ(大阪大学コミュニケーションデザインセンター教授)が15分程度の脚本を書き、人とともにアンドロイド劇場「さよなら」を演じる。死にゆく女性を前に、最後に谷川俊太郎の詩「とおく」を読む。
 
●テレノイド(p180)
 ジェミノイドと同様の遠隔操作ロボット。性別も年齢も分からない人間としての最小限の見かけを持つ、人間のミニマルデザイン。動くのは口と手だけ。
 
●ハグビー(p184)
 テレノイドの形状をさらに単純化。人間型の抱き枕。頭の部分に携帯電話を挿入して、相手と話をする。
 ハグビーを使って相手と話をすると、相手を腕の中に抱きながら話しているように感じられ、相手の存在を強く感じる。
 以前に、ヴイストンや京都西川から開発販売。
 
●自分の体(p222)
 ジェミノイドを使って人としばらく話をすると、操作者はジェミノイドの体を自分の体のように感じ始める。5分~10分ほどジェミノイドを使って人と話をした後に、話し相手が急にジェミノイドに触ると、操作者はまるで自分の体が触られたように感じる。
 女性の操作者のほとんどが、男性の操作者の半数以上が、そうした感覚を感じた。
 
●第三の腕(p236)
 両手を使ってボードの上のボールが目的の位置に来るようにバランスをとりながら、脳波によってロボットの三本目の腕を操作する実験。第三の腕でペットボトルを受け取る。
 トレーニングをすれば、80%以上の成功率で第三の腕を制御できるようになる。
 
(2022/12/12)NM
 
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日本語はこわくない
 [言語・語学]

日本語はこわくない
 
飯間浩明/著
出版社名:PHP研究所
出版年月:2021年12月
ISBNコード:978-4-569-85097-9
税込価格:1,595円
頁数・縦:189p・19cm
 
 国語辞典編纂者による日本語エッセー。みんなが日頃感じている日本語の使い方に関する疑問に、ゆるーく答えてくれる。
 「日本語警察」を気にせず、日本語をもっと楽に使いこなそう。言語は揺らぎ、自由なものなのだから。意思が通じればそれでオッケー!
 
【目次】
第1章 敬う日本語―敬語だって変化する
 「ご質問」が失礼ならどう言えばいい?
 「ご」も「お」も両方使えることば
 丁寧すぎる「お」と、ないと困る「お」
 「申し上げます」か、「いたします」か?
 「様」はなるべく隠すのがエレガント
 「参る」と「伺う」の微妙な関係
 「ご自愛」は目上に使いにくいのか?
 「いいですよ」と上司に言いたいとき
 「ご苦労さま」「お疲れさま」の心構え
 何人も登場すると敬語はややこしい
 「なるほど」に関する謎のマナー
 買ってきてくれて、とてもうれしい
 相手の配偶者はどう呼んだらいい?
 
第2章 書き分けたい日本語―ルールはあるけれど
 漢字で書くか、仮名で書くか?
 「受け付け」の「け」はいる?いらない?
 「工事をおこなう」の送り仮名はどうする?
 「指指す」なんて、書いてもいいの?
 モノには「出合う」、人には「出会う」か?
 「分かる」と書かない教科書の不思議
 「こんにちわ」は認められているか?
 読点は、数よりも打つ位置が大事
 
第3章 似ている日本語―どこか違うらしい
 「おざなり」「なおざり」はどう違う?
 「重い」「重たい」1字の有無で違いは?
 「到着次第」か「到着し次第」か?
 「当面の間」か「当面」か?
 「あと」「のち」どっちを使うか?
 「以後気をつける」? 「以降気をつける」?
 「苦笑」「失笑」「爆笑」……笑いって難しい
 「景色」「風景」「光景」似ているようで違う
 「3階」の「階」は清音か濁音か?
 日本は「ニッポン」? 「ニホン」?
 
第4章 こわくない日本語―正しさはあなたが決める
 「ら抜きことば」を見分けるには?
 「全然」の下は肯定も否定も「アリ」
 何でも1個、数え方は単純化する?
 ことばを重ねた重言、楽に考えよう
 「普通においしい」って、どんな意味?
 「大丈夫です」は新しい婉曲表現
 「よろしかったでしょうか」と言うわけは?
 「塩コショウしてあげる」は丁寧すぎ?
 「早く言えば」「要は」をうまく使うには
 「正しい日本語」は誰が決めるのか?
 
【著者】
飯間 浩明 (イイマ ヒロアキ)
 1967年、香川県高松市生まれ。国語辞典編纂者。早稲田大学第一文学部卒業、同大学院博士課程単位取得。2005年、『三省堂国語辞典』編集委員に就任、国語辞典編纂のために、さまざまなメディアや、日常生活の中などから現代語の用例を採集し、説明を書く毎日。
 
(2022/12/8)NM
 
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新しいアートのかたち NFTアートは何を変えるか
 [コンピュータ・情報科学]

新しいアートのかたち: NFTアートは何を変えるか (1012;1012) (平凡社新書 1012)
 
施井泰平/著
出版社名:平凡社(平凡社新書 1012)
出版年月:2022年9月
ISBNコード:978-4-582-86012-2
税込価格:1,056円
頁数・縦:267p・18cm
 
 未来のアートの形、NFTアートとは何か、アートにどんな革命をもたらすのかについて、詳しく、広汎に論じる。
 
【目次】
第1章 NFTは情報革命の「ラストパンチ」?
第2章 そもそもアートとは何か
第3章 NFTアートの「現在地」
第4章 未来をつくるインフラとしてのNFT
特別対談 アーカイブとシャンペン(坂井豊貴×施井泰平)
特別対談 文化的・社会的な価値を加える(山峰潤也×施井泰平)
特別対談 冒険者にインセンティブを(武田徹×施井泰平)
 
【著者】
施井 泰平 (シイ タイヘイ)
 1977年生まれ。現代美術家、起業家。2001年、多摩美術大学卒業後「インターネットの時代のアート」をテーマに美術制作を開始。14年、東京大学大学院在学中にスタートバーンを起業し、アート作品の信頼性担保と価値継承を支えるインフラを提供。事業の中心である「Startrail」は公共性が評価され、イーサリアム財団からグラントを受ける。東京大学生産技術研究所客員研究員、経済産業省「アートと経済社会について考える研究会」委員など歴任。
 
【抜書】
●ビープル(p12)
 Beeple。本名マイク・ウィンケルマン、米国のアーティスト。
 2021年3月12日に、NFTアートの「エブリデイズ:最初の5000日(Everydays: The First 5000 Days)」がクリスティーズのオークションにかけられ、6940万ドル(約75億円)で落札された。
 存命のアーティストとしては、ジェフ・クーンズやデービッド・ホックニーの作品に次ぐ歴代3位という落札額になった。
 
●イーサリアム(p33)
 ロシア系カナダ人のプログラマーであるヴィタリック・ブリテンが19歳の時、2013年に発表した構想をもとにつくられたブロックチェーン。「ワールド・コンピュータ」とも称される。送金機能に加えて、より複雑なプログラムも脱中心的な環境で実行・状態保存ができる世界を実現している。こうした環境で動くプログラムは、「スマート・コントラクト(契約の自動実行)」と呼ばれている。
 イーサリアムは誰もが参加できる、しかも隠し事のできない自由な広場のような場所を作り出した。人々はここに集まって独自の通貨を発行したり、ブロックチェーン上の組織を作って資金を集めたり、ほかにも様々な活動をすることができる。
 
●NFT(p34)
 Non Fungible Token。非代替性トークン。
 ブロックチェーン上に記録された売買可能な単位(トークン)だが、それぞれが代替不可能な別々の内容を持っている。
 〔NFTは、そこに紐づけられている作品などの真正性や由来(制作者やつくられた日時など)、そしてその後の流通や利用を示すための、偽造したり書き換えたりすることのできない「証明書」「公式記録」「鑑定書」のようなものとして、あるいは事前に入力した内容を自動執行できる「契約書」として大きな役割が期待されているのです。これをデータに紐づけることで、複製可能なデータに一意性を与え、真正な唯一無二のものとしての取り扱いを可能にするのが、NFTの大まかなコンセプトです。〕
 
●プライマリー、セカンダリー(p46)
 アート市場は、大きくプライマリー(一次市場)とセカンダリー(二次市場)に分かれてる。
 
●還元金(p55)
 NFTアートでは、セカンダリーで作品が売れた場合にも、作家に還元金が自動的に支払われる。
 
●オークションハウス(p64)
 サザビーズ……世界最古のオークションハウス(競売会社)と呼ばれている。1744年、古書の売買を目的として設立された。
 クリスティーズ……1766年、世界最古のアート専門のオークションハウスとして設立された。
 
●クリプト長者(p68)
 暗号資産を初期から買ったり、関連する事業で成功している人。最近のNFTアートを支えている層の中心にいる。
 
●フルオンチェーン(p86)
 作品のデータまで含めた形でNFTをつくること。
 ブロックチェーン上で一つだけしか存在しないNFTアートと呼ぶことができる。また、データが消失することも、改竄されることも起きない。
 
●BAYC(p97)
 Bored Ape Yacht Club。1万匹の異なる姿をした「退屈そうな顔をした類人猿」の絵。
 Yuga Labs社が企画し、2021年にOpenSeaで販売が始まった。コレクティブルとしての側面が強いNFTアート。NFT所有者がSNSのアバターとして使うことも想定し、画像の商用利用までも許可し、さらにはある種の特権性を持った「高級クラブ」のようなコミュニティとしてもデザインされている。
 
●ガバナンス・トークン(p154)
 アニメ系NFTコレクションの「Azuki」は、NFT作品を分割した「ガバナンストークン」をコレクターに販売した。
 たとえば今後の映画化を含めたIP展開の在り方といった運営方針を、ガバナンストークンをもった個人が話し合いや投票を行いながら決めていく。
 このようなブロックチェーンを使って運営する組織のことをDAO(Decentralized Autonomous Organization:分散型自律組織)という。
 
(2022/12/8)NM
 
〈この本の詳細〉


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