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流れとかたち 万物のデザインを決める新たな物理法則
 [自然科学]

流れとかたち――万物のデザインを決める新たな物理法則
 
エイドリアン・ベジャン/著 J.ペダー・ゼイン/著 柴田裕之/訳
出版社名:紀伊國屋書店
出版年月:2013年9月
ISBNコード:978-4-314-01109-9
税込価格:2,530円
頁数・縦:425p・20cm
 
 コンストラクタル法則は物理法則の統一理論なのか?
 世界の進化を予測する、流動系に共通する法則について多角的に論じる。
 
【目次】
第1章 流れの誕生
第2章 デザインの誕生
第3章 動物の移動
第4章 進化を目撃する
第5章 樹木や森林の背後を見通す
第6章 階層制が支配力を揮う理由
第7章 「遠距離を高速で」と「近距離を低速で」
第8章 学究の世界のデザイン
第9章 黄金比、視覚、認識作用、文化
第10章 歴史のデザイン
 
【著者】
ベジャン,エイドリアン (Bejan, Adrian)
 1948年ルーマニア生まれ。デューク大学特別教授(distignuished professor)。マサチューセッツ工科大学にて博士号(工学)取得後、カリフォルニア大学バークレー校研究員、コロラド大学准教授を経て、1984年からデューク大学教授。24冊の専門書と540以上の論文を発表しており、「世界の最も論文が引用されている工学系の学者100名(故人を含む)」に入っている。1999年に米国機械学会と米国化学工学会が共同で授与する「マックス・ヤコブ賞」を受賞。2006年、「ルイコフメダル」を授賞。
 
ゼイン,J.ペダー (Zane, J. Peder)
 ジャーナリスト。セントオーガスティン・カレッジ准教授(ジャーナリズム)。『ニューヨークタイムズ』などへコラムを寄稿する。
 
柴田 裕之 (シバタ ヤスシ)
 1959年生まれ。翻訳家。早稲田大学理工学部、アーラム大学卒。
 
木村 繁男 (キムラ シゲオ)
 1950年生まれ。金沢大学環日本海域環境研究センター教授。早稲田大学理工学部機械工学科卒業後、一般企業勤務ののち、コロラド大学大学院工学研究科においてエイドリアン・ベジャンを指導教授として博士号取得(工学)。カリフォルニア大学ロサンゼルス校、通商産業省工業技術院を経て現職。専門は熱流体工学。
 
【抜書】
●流動系(p11)
 〔生物・無生物の別なく、動くものはすべて流動系である。流動系はみな、抵抗(たとえば摩擦)に満ちた地表を通過するこの動きを促進するために、時とともに形と構造を生み出す。自然界で目にするデザインは偶然の所産ではない。それは自然に自発的に現れる。そのデザインが、時とともに流れを良くするからだ。〕
 
●予測(p56)
〔 コンストラクタル法則は、宇宙そのものと同じだけ古いのにもかかわらず今まで認識されていなかった現象の存在を明らかにする。コンストラクタル法則の力と正しさを支えているのは、この法則があらゆる流動系の進化を記述するだけではなく、予測することを可能にするという事実だ。コンストラクタル法則を使えば、自然界で何の観察も行なわないうちから予測ができる。もし時がたつにつれて流れやすくなるように変化する自由があれば、肺や血管、樹木、河川、稲妻がどのような外見になるはずかが推測できるのだ。そして、私たちが描き出した図面を、実世界に見られるものと比べると、両者は一致する。
 コンストラクタル法則によれば、以下のことが予測される。河川がより効率的に流れるためには、幅は深さと比例していなければならない。人体の循環系は、水分や酸素、有効エネルギーをすべての細胞に送り届けるために、少数の本流(動脈と静脈)と無数の支流(毛細血管)という、断面が円形の管から成る樹状構造になるはずだ。また、私たちの心臓は断続的な搏動(ドキッ、休止、ドキッ、休止)をすることになる。生体に酸素などの物質を送り届けるためには、それが効率的な方法だからだ。〕
 
●層流、乱流(p79)
 あらゆる流体は、流れを良くするために「層流」と「乱流」のどちらかのデザインを選び取る。
 層流……流れが十分薄く/細く、速度も十分に遅いときの流動のデザイン。層状の動きとなる。
 乱流……流れが十分厚く/太く、速くなるとデザインは乱流に変わる。
 
●河川流域の出現(p104)
 地表に降った雨によって河川流域が出現するまでの過程。
 まず、大地への浸透。
 抵抗がある大きさに達すると、最初の細流が形成される。→ 基本的構成体
 水量が増すにつれ、細流同士が合わさり、もっと大きな流路を形成する。→ 第一構成体
 この過程が繰り返されてより大きな構成体が次々に作り出され、ついには河川流域が出現し、適切な均衡を保つ様々なスケールの流路を通して全領域に水の流れを行き渡らせる。
 
●4対1(p116)
 全体的に流動抵抗を減らすための河川流域の形状は、支流と本流の数の比が4対1。
 川幅と水深が比例する。本流の長さを支流の長さで割ると2になる。
 
●偶然(p125)
 〔「偶然」とは、矛盾するデータがあまりにも多く、変数も多過ぎて、私たちには全体が理解できないと暗に述べる言葉だ。それは、ランダム性やノイズとは正反対のものであるパターンが、私たちには見えないと認めることだ。〕
 
●エクセルギー(p132)
 燃料(あるいは食物)は熱を生み出す。この熱のかなりの部分は、原理上仕事に変えられ、それは有効エネルギーもしくは「エクセルギー」と呼ばれる。
 
●泳ぎ(p145)
 泳ぐものは、前に進むために自分の前方にある水をどけなければならない。
 水平方向に体長分だけ進むためには、自分の大きさと等しい量の水を、自分の体長とほぼ等しい高さまで持ち上げる必要がある。
 
●L₁+L₂(p172)
 人において、L₁が骨盤(重心)までの高さ、L₂を骨盤(重心)から頭頂までの高さとする。
 同身長の場合、走るときは、L₁が高い(足が長い)ほうが有利。体重がより高いところから落ちてくるため、より速く走る力が得られる。
 泳ぐときは、L₂が長いほうが有利。泳ぐとき、水面から出るのは上半身(「波」)である。泳ぐことによって波が生じる。水泳は、その波に乗る技を競うもの。波が大きければ大きいほど(上半身L₂が長ければ長いほど、水面から高く体を出せる)、波も泳者も速く進む。
 
●コンストラクタル法則(p194)
 〔第一に、自然界にはこれほど素晴らしい多様性が見られるとはいえ、動くものはすべて流動系であることをこの法則は明らかにする。次に、流動系は自由を与えられれば、時がたつにつれてしだいに流れやすくなるように進化することを予測する。第三に、この普遍的な傾向で、私たちが自然界のデザインと呼ぶパターンを説明できることを、この法則は示す。最後に、あらゆる流動系が地球規模の流動のタペストリーの中で他の流動系とつながっており、それらに形作られているという事実をこの法則ははっきりさせる。〕
 
●進化(p222)
〔 私たちは、コンストラクタル法則に基づいて取り組めば、植物のデザインの本質的な特徴を予測できることを示した。もし進化のテープを巻き戻して最初からやり直したら、そしてもし植物のデザインが再び現れたら、進化の過程は同じ種類の根や幹や外形、つまり今日私たちが目にする林床のデザインとスケーリング則を一貫して生み出すはずだ。進化には方向性があるということがここからわかる。進化はランダムな出来事の物語ではなく、時とともにしだいに良くなっていく流れのデザインの出現と進化を巡って展開し続ける大河小説なのだ。
 コンストラクタル法則は、進化についてのダーウィンの考えに物理的原理の後ろ盾を与える。この法則は、特定の変化が他の変化よりも良い理由を説明し、そうした変化は偶然ではなく、より良いデザインの生成を通じて現れることを示してくれる。コンストラクタル法則はまた、進化についての私たちの理解を拡げ、生物学的変化という自然の傾向が、無生物の世界を形作るものと同じ傾向であることを示してくれる。〕
 
●脈管生成(p233)
 樹状構造よりコンストラクタル法則にふさわしい言葉は脈管生成(ヴァスキュラライゼーション)。
 この単語のほうがコミュニケーションの流路として優れている。生命の相互依存性という主要な考えを捉えているから。
 樹木は一点と一平面あるいは一立体領域との間のつながりを示唆するのに対し、「ヴァスキュラライゼーション」は生命を与える流動と、生命に満ちた塊(空間領域あるいは平面領域)という枢要な考えも含んでいる。
 
●バイオミメティクス(p300)
〔 したがって、本書はバイオミメティクスを時代遅れにする。コンストラクタル法則のおかげで、私たちは自然に現れるデザインを予測し、説明できるからだ。デザイン入門書の図面を眺めるのが最も一般的な取り組み方だが、それでは足踏み状態に陥り、飛躍には結びつかない。発明者の革命的デザインを真似るほうがずっと効率的だが、そうした模倣は高くつくか、あるいは違法だ。だが、コンストラクタル法則を使えば、誰もが発明家になれるのだ。〕
 
●生物(p376)
〔 このようにコンストラクタル法則は、地球の歴史を貫く予測可能な筋書きの存在を、初めて明らかにしてくれる。この歴史物語の各段階(岩石圏の出現、気圏の出現、水圏の出現、生物圏の出現)で、自然は地球上でより多くの質量の移動を促進するために進化した。コンストラクタル法則は生き物を、生態的地位を見つけて自らの生存を確実にしようと試みる、ただの孤立した存在とみなすかわりに、それらが熱力学の法則とコンストラクタル法則に従って、地球規模の混合と攪拌を高めるというあらゆるものの傾向の現れとして進化してきたことを教えてくれる。生物圏の生物のデザインは新しく、無生物のデザインによる混合活動を補足する――良くする――から現れた。〕
 
●未来の予測(p386)
〔 コンストラクタル法則は過去を説明してくれるだけでなく、未来の予測も可能にしてくれる。この先、何が待ち受けているのか。ここまでくれば、短い答えは明白だろう。より多くの質量をより良く、つまり安く遠くまで速く動かす多数の流れのデザインだ。世界という舞台では、地球全体が、法の支配や自由貿易、人権、国際化、その他、より多くの人やものの動きを保証するあらゆるデザインの特徴を行き渡らせ続けると、自信をもって言うことができる。もちろん、障害はある。独裁者たちはこの予測が気に入らないだろう。だが、膨大な数の個人から成る流動系が、その性質上、全体とすればそうした独裁者の支配を短命に終わらせる。それが物理の法則だからだ。
 さらに、私たちはすでに人間と機械が一体化した種になっており、この種は、私たちの目の前で進化し続けるだろう。地球上での情報や人やものの流れを加速させた、携帯電話や携帯型のコンピューターなどの比較的新しい科学技術は、さらなる発明によって補足され、私たちの流れは、より容易により安く地球上を席捲できるだろう。こうした自然な展開の及ぼす、「人間性を奪う」影響を嘆く現代のソローたちは、歴史を取り違えているばかりか、物理学も誤解している。〕
 
●消費(p387)
〔 それは、世界のエネルギーの使用量を減らすように要求する人たちにしても同じだ。動力を使う科学技術は効率を高め、より少なくではなく、より多くの動力を生産して消費する方向に進化し続けるだろう。高い効率を追い求めても、燃料消費の低下にはつながらない。それを裏付ける証拠には事欠かない。この傾向は、これまでずっと変わらなかった。より広い領域で、より多くの人のために、より多くの動力が生み出され、個々の人が使う動力も増え続けるのだ。〕
 
(2022/12/24)NM
 
〈この本の詳細〉


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