もういいかいまあだだよ
[文芸]
小椋佳/著
出版社名:双葉社
出版年月:2021年12月
ISBNコード:978-4-575-31683-4
税込価格:1,650円
頁数・縦:275p・19cm
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小椋佳の自伝エッセー。シンガーソングライターにして大手銀行マン。銀行では規格外の活躍で、重役候補にまで上り詰めたらしい。
やっぱ、優秀な人は何をやらせても一流なんですね。
【目次】
第1章 「小椋佳」ができるまで
大当たりした祖母の予言
泣き虫のいじめられっ子
ほか
第2章 勧銀マンとして、夫として、父として
渾名は「デマラ」~自由すぎる新人時代
資生堂担当で開眼
ほか
第3章 歌、そして恋
「二足のわらじ」なんて履いた覚えがない
美空ひばりさんは稀有な声の持ち主
ほか
第4章 生きる
星しかない空
57歳でまさかの胃がん手術
ほか
第5章 人生の総仕上げ
年寄りじみず、若ぶらず
権力者なんぞしゃらくせえ
ほか
妻から夫へ~ずっと一緒にいてくれて、ありがとう。
【著者】
小椋 佳 (オグラ ケイ)
1944年1月、東京・上野生まれ。作詩作曲家・歌手。67年に東京大学法学部卒業後、日本勧業銀行(のちの第一勧業銀行・現みずほ銀行)に入行し、浜松支店長、本店財務サービス部長等を歴任する。音楽活動にも打ち込み、71年に初アルバム『青春‐砂漠の少年‐』を発表。3作目のアルバム『彷徨』は100万枚のセールスを突破した。『しおさいの詩』『さらば青春』などのヒット曲で知られ、多数のアーティストへ作品提供している。2021年、ラストアルバム『もういいかい』をリリース。
【抜書】
●東黒門町(p20)
神田紘爾(こうじ)、1944年1月18日、東京都下谷(したや)区東黒門町の生まれ。
黒門は、名刹・寛永寺の総門のこと。
●国際財務サービス室(p99)
第一勧業銀行時代の話。
〔 米国メリルリンチ証券やパリでの研修から帰国後は、本店勤務に。
証券部受託課を皮切りに、大企業相手の融資案件を審査する営業審査部、新設の国際財務サービス室を渡り歩きました。
特に86年に初代室長となった国際財務サービス室は非常に痛快でしたね。
スワップとか外国為替先物など様々なテクニックを組み合わせて、これまでになかった独自の金融商品をどんどん発売したんです。まさに、発想力・想像力勝負。自慢話みたいで恐縮ですが、取引総額として数兆円の新規ビジネスとなったはずです。〕
●重役拒否(p104)
〔 本店・事業情報部の次長だった91年、47歳のときに、ある人事の話が下りてきました。
香港の現地法人の社長をやるように。次は重役だ、と。
いわゆる出世人事でしょう。
だけど、断りました。今さら海外勤務なんてする気はサラサラなかったから。
重役の椅子が約束されているということは、頭取候補に入っているということでもあります。
何度も理由を聞かれたけれど、気持ちは変わりませんでした。
その頃から、「偉くなるってのはイヤなもんだな」と思ってたんですよね。
40代にもなってくると、頭取とか重役なんかとの付き合いもするようになって、僕なりに見えてくるものがあったんです。
上の人たちが、本当は何をやっているか、ね。
「もっと上に行きたい。もっと、もっと」って、もう必死。どの人に取り入って、どううまく立ち回ればいいのか。そんな腹の探り合いばかりに精を出している。醜いですよ。人生の貴重なエネルギーを、最後の出世のために使うなんて。頭取になったからって、だから何だっていうんだろう。
香港行きを拒んだ僕に、ある偉い人は言いました。
「愚かな選択だ」と。〕
●失恋(p178)
〔好きな人に飽きが来た時は、本当に切ない。フラれることだけが失恋じゃなくて、自分の恋がさめることもまた、失恋。僕自身はむしろ、後者のほうが本当の失恋のような気がしています。〕
●小半(p202)
こなから。半分の半分、つまり四分の一のこと。
〔では、どうすれば幸せになれるか。〕
〔どんな欲も、4分の1ぐらい。ほどほどに満たす暮らしが賢明な生き方ではないでしょうか。〕
【ツッコミ処】
・理(p250)
〔 20世紀は戦争の時代でしたね。
21世紀になったら平和な世界が訪れるという淡い期待を人類は持ったけれども、なんのことはない。今度は宗教戦争の時代になった。
そういう世界のなかで、日本はどんな位置づけで、どういう役割を担えるかということを考えると――。
幸い日本は無宗教ですよね。キリストも神もないまぜ、クリスマスの数日後に初詣に行くような(笑)。まことにいい加減だけれど、僕はそれを、ある意味よしとしていて。
日本は、信仰に依存しない国。だからこそ、信仰ではなく「理」で世の中を動かせる。
「理」とは“ことわり”、すなわち理性や理知、道理です。
日本は、理がきちんと大通りを行く社会になれるはずなんです。
理を重んじると同時に、産業経済にはこれまでと変わらず力を入れて、豊かな社会をつくっていく。「信仰なんかしなくても、人間は幸せに生きられますよ」というのを実証する社会ですね。
それが実現できて初めて、宗教対立を繰り返す世界に物が言えるのではないでしょうか。
そのためには、やはり言葉の復権がどうしても必要です。〕
↓
日本は、〔「理」で世の中を動かせる〕、とありますが、実際には「利」で世の中が動いているのかもしれませんね。
(2022/12/17)NM
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