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敵対的買収とアクティビスト
 [経済・ビジネス]

敵対的買収とアクティビスト (岩波新書)
 
太田洋/著
出版社名:岩波書店(岩波新書 新赤版 1973)
出版年月:2023年5月
ISBNコード:978-4-00-431973-3
税込価格:1,100円
頁数・縦:259p・18cm
 
 敵対的買収について、直近の実例を豊富に取り入れて論じる。日本と欧米との違いについても幅広く言及。
 ちなみにアクティビストとは、「その潜在的資産価値に比較して株価が割安な対象会社の株式の数%~数十%を取得して、対象会社に経営の効率化や株主還元の強化等の要求を行ってその株価を引き上げる等したうえで、数か月から数年後に保有株式を売却してリターンを上げる投資家」(p.50)とのことである。俗に、「物言う株主」とも。
 
【目次】
第1章 敵対的買収とは
第2章 アクティビストとは
第3章 敵対的買収の歴史―アクティビストの登場から隆盛まで
第4章 買収防衛策とはどのようなものか
第5章 各国は敵対的買収をどのように規制しようとしているか―法的規制と判例の動向
第6章 敵対的買収と株主アクティビズムの将来
 
【著者】
太田 洋 (オオタ ヨウ)
 弁護士・NY州弁護士(西村あさひ法律事務所パートナー)。1991年東京大学法学部第二類卒業、1993年弁護士登録、2000年米国ハーバード・ロースクールLL. M.(法学修士号)取得、2001年米国NY州弁護士登録。法務省民事局付(任期付任用公務員)、京都大学法科大学院非常勤講師、東京大学大学院法学政治学研究科教授などを歴任。金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」委員、経済産業省「最低税率課税制度及び外国子会社合算税制のあり方に関する研究会」委員、同「対日M&A課題と活用事例に関する研究会」委員、同「公正な買収の在り方に関する研究会」委員などもつとめる。日本経済新聞「2022年に活躍した弁護士ランキング」企業法務全般(会社法)分野第1位など受賞多数。
 
【抜書】
●閉鎖会社(p2)
 株式会社であっても、その株式全部について、その譲渡に会社の承認が必要とされている会社。全部譲渡制限会社ともいう。
 
●エージェンシー問題(p7)
 買収対象会社の取締役(株主からすれば会社の経営を委託している代理人=エージェント)が、株主とは異なる独自の利害(典型的には、取締役の職にとどまり続けたいという利益。このような利益を「保身の利益」という)を有しているため、株主の意思に反した行動をとる可能性があるという問題。
 
●グリーンメイリング(p28)
 真に会社経営に参加する意思がないにもかかわらず、ただ株価を釣り上げて高値で株式を会社関係者に引き取らせる目的で株式の買収を行うこと。ライブドア対ニッポン放送事件に関して東京高裁が示した、対象会社の中長期的な企業価値ないし株主共同の利益を毀損する四つの類型の一。
 恐喝を意味する「blackmail」のblackを、ドル札が緑色をしていることからgreenに入れ替えて作った造語。
 
●パブリック・ベネフィット・コーポレーション(p234)
 基本定款または付属定款に、通常の株式会社にみられる事業目的とともに、社会問題や環境問題への取り組みなどの公益的目的を記載した会社。
 取締役会は、そのような公益的目的の実現に取り組むべき信認義務を負っているものとされる。株主は、取締役がかかる公益的目的の実現に反する行動などをとった場合には、差し止め命令による救済を求めることができる。
 2010年のメリーランド州を皮切りに、米国各州の会社法において導入されている。2022年4月時点で全米40州およびコロンビア特別区。全米の上場会社の半数以上が設立準拠法として選択しているデラウェア州の会社法でも、13年7月に法制化されている。
 
(2023/10/31)NM
 
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データにのまれる経済学 薄れゆく理論信仰
 [経済・ビジネス]

データにのまれる経済学 薄れゆく理論信仰
 
前田裕之/著
出版社名:日本評論社
出版年月:2023年6月
ISBNコード:978-4-535-54038-5
税込価格:2,420円
頁数・縦:328, 14p・19cm
 
 経済学における理論と実証の相克を検証する。
 
【目次】
序章 データの波にのまれる経済学界
第1章 ノーベル経済学賞と計量経済学、つかず離れずの歴史
第2章 主役に躍り出た実証分析
第3章 因果推論の死角
第4章 RCTは「黄金律」なのか
第5章 EBPMの可能性と限界
第6章 消えゆくユートピア
 
【著者】
前田 裕之 (マエダ ヒロユキ)
 学習院大学客員研究員、川村学園女子大学非常勤講師、NIRA総合研究開発機構「政策共創の場」プロジェクト・パートナー。1986年東京大学経済学部卒、日本経済新聞社入社。東京経済部記者、経済解説部編集委員などを経て2021年に独立し、研究・教育や執筆活動に取り組む。
 
【抜書】
●150人(p16)
 アマゾンは、150人以上の経済学博士を雇用している(2019年)。チーフエコノミストはパトリック・バジャリ(1969年~)、ワシントン大学の経済学教授。
 IT企業で働く経済学の専門家集団を「デジタル経済学者」、「テック経済学者」と呼ぶ向きもある。
 
(2023/10/29)NM
 
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進化が同性愛を用意した ジェンダーの生物学
 [自然科学]

進化が同性愛を用意した: ジェンダーの生物学
 
坂口菊恵/著
出版社名:創元社
出版年月:2023年6月
ISBNコード:978-4-422-43046-1
税込価格:1,760円
頁数・縦:223p・19cm
 
 同性間性行動は、人間のみならず、他の生物の間でも例外的な行動ではないらしい。
 
【目次】
1 同性愛でいっぱいの地球
2 ヒトの同性愛を生物学から探る
3 生物学的説明の限界
4 ジェンダーの生物学
5 ヒューマン・ユニバーサルな同性愛
6 宗教戦争としてのホモフォビア・トランスフォビア
7 多様性は繁栄への途
 
【著者】
坂口 菊恵 (サカグチ キクエ)
 1973年、函館生まれ。函館中部高校卒業後、自宅での浪人生活を経て二十歳で家出、上京。数年のフリーター生活後、東京大学文科3類に入学し、東京大学総合文化研究科広域科学専攻で博士(学術)を取得。東京大学教養教育高度化機構での特任教員を経て、大学改革支援・学位授与機構研究開発部教授。専門は進化心理学、内分泌行動学、教育工学。
 
【抜書】
●一夫一妻(p20)
 哺乳類では、一夫一妻システムをとる種は3~9%しかない。雌雄が常時一緒にいる生物は少ないのである。
 
●コンパニオンシップ(p23)
 オスのゾウは、よく同性と「コンパニオンシップ」という長期的な関係を結ぶことが知られている。「同胞関係」?
 たいがいは1対1であるが、2頭の「若衆」を従えた年長者もいる。
 オスとメスがしばらく2頭限りの時を過ごすことを「コンソートシップ」と言う。ゾウでは、異性間のコンソートシップはせいぜい15分くらいしか続かない。
 
●ライオン(p36)
 ライオンでは、コンパニオンシップ関係にあるオス同士、メス同士の絆は長く、強い。彼らは性的な睦み合いはまずしないようだ。そして、6割のオスはメスと一緒の生活を経験することなく一生を終える。
 
●ハンメル(p39)
 ヨーロッパに生息するアカシカは、ほとんどのオスが枝角を持っているが、角を持たない少数のオスが存在する。ハンメル。
 ハンメルの外見はメスにそっくりだが、メスにとてもよくもてる。健康で戦いにも優れており、体格も一般のオスよりも良い。もっとも順位の高いオスになりやすい。
 「ペルーク」と呼ばれる、枝分かれしない袋角のままの雄ジカもいる。精巣が発達せず、概ね生殖能力がない。
 角を持つメスが見つかることもある。
 アカシカ、ムース、ワピチといったシカ類には、角に性感帯があるらしい。こすられると興奮して、射精に至ることもある。オス同士が角を互いにこすり合わせたり、自ら草むらにこすりつけたりしている。
 
●フランシス・ゴールトン(p56)
 チャールズ・ダーウィンのいとこ。
 個人の特性を形作るのは自然か環境か(Nature or Nurture)を調べた。天才はもともと才能豊かな家系に生まれやすい。
 優生学(eugenics)という言葉を作った。才能豊かな人間同士を結婚させ、さらに優秀な子孫を産ませることを提案した。
 
●パルテノジェネシス(p107)
 parthenogenesis。メスのみで子孫を残すことのできる単為生殖。ギリシャのパルテノン神殿の「パルテノン」。処女、未婚の乙女を指す。処女神のための神殿だったからとも、処女が仕えたからとも言われる。
 哺乳類以外の脊椎動物の中で、80種ほどが確認されている。コモドオオトカゲ、シュモクザメをはじめとするさまざまなサメ、など。
 米国のニューメキシコ州に生息するハシリトカゲ類のうち、三分の一の種はメスしか存在しない。女性ホルモンの周期に応じてメス役とオス役を交代して疑似的な交尾行動を行い、その刺激により産卵する。
 
●アマミトゲネズミ、トクノシマトゲネズミ(p116)
 Y染色体が消滅してしまった哺乳類は、南西諸島で2種、中東で1種見つかっている。
 アマミトゲネズミとトクノシマトゲネズミは、オスは存在し、精巣も発達する。通常の哺乳類でY染色体の上に載っている、精巣の発達を促す遺伝子はなくなっているが、その先の性分化に必要な遺伝子は保存されており、別の引き金によって発現を始める。
 一方、近くに棲むオキナワトゲネズミは、XX/XYの性決定方式のままである。
 
●サラマンダー、ギンブナ(p117)
 北米に棲むサラマンダー(トラフサンショウウオ属)は、雌雄が存在する集団とは別に、メスのみで繁殖する集団がいる。しかも、種として500万年以上存続してきた。平均的な有性生殖の種の寿命は100~200万年。
 自切から尾の再生スピードが、メスのみの集団のほうが雌雄で生殖した集団より1.5倍速い。単為生殖のほうが、生物として頑強。
 メスだけで繁殖するサラマンダーは、ときどき他種のオスが生息地に残していった精子からDNAを盗んで自分のゲノムに加える。遺伝子組み換え。結果、持っている染色体の数は個体によってまちまち。
 日本のギンブナもメスのみで繁殖する。ときどき近縁のフナと交雑することで、繁栄を続けてきたらしい。
 
●ブチハイエナ(p120)
 雌雄区別のつかない外性器を持っている。
 メスは胎児期から高濃度の男性ホルモンを分泌しており、偽ペニスと偽陰茎を持って生まれてくる。さらに、男性ホルモンの影響で膣の開口部がふさがっており、ペニスの先の尿道口が膣口を兼ねている。
 偽ペニスは勃起する。また、偽ペニスから赤ん坊を分娩するため、初産の際に少なからぬメスが偽ペニスが裂けて死んでしまう。偽ペニス内の産道はへその緒よりもずっと長いため、6割ほどの赤ん坊は生まれてくる際に窒息死してしまう。
 
●フリーマーチン(p125)
 羊や牛では、1~2%の割合で姓をはっきり区別できない個体が生まれてくる。
 胎盤を共有する双子で、オス・メスだと、メスのほうが「フリーマーチン」と呼ばれる状態となる。外性器がメスだが、内性器はオスとメスの両方を有し、不妊。
 双子は血管組織を共有しているために、オスのきょうだいの体内の精巣から分泌された男性ホルモンが、メスの体をオス化してしまう。
 
●直観像記憶(p186)
 一瞬見た情景をそのままイメージとして脳内に保存できる能力。
 三島由紀夫は、成人後も直観像記憶を持っていたとされる。
 
●過書字(p188)
 ハイパーグラフィア。極端に物書きに執着する認知の特異性。
 三島由紀夫は中学生くらいから驚異的な語彙力を持ち、大量の執筆活動をこなした。ハイパーグラフィアだったと思われる。
 
●双極性障害(p192)
 双極性障害では、本人および親兄弟、子が科学や芸術の職に就いている確率が全般として高い。親族内で比較すると、本人が科学の職に就いている可能性は若干低い。
 
【ツッコミ処】
・同性間性行為(p46)
〔 同性愛迫害の根拠はキリスト教だったのだが、18世紀啓蒙主義の影響で、宗教犯罪は法律の処罰対象から除かれていく。それに伴い、フランスでは同性間性行為は非犯罪化され、イギリスでも1861年に死刑から終身刑へと緩和されている。〕
  ↓
 「同性間性行為」という表現が使われたのはこの1か所のみ。他はすべて「同性間性行動」の語が使われている。この個所は法律に関することなので、行動の中身をはっきりさせるために「性行為」(つまり「セックス」)と表現しているのか??
 
(2023/10/29)NM
 
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桓武天皇 決断する君主
 [歴史・地理・民俗]

桓武天皇 決断する君主 (岩波新書 新赤版 1983)
 
瀧浪貞子/著
出版社名:岩波書店(岩波新書 新赤版 1983)
出版年月:2023年8月
ISBNコード:978-4-00-431983-2
税込価格:1,166円
頁数・縦:286, 4p・18cm
 
 桓武天皇の事績をたどりながら、平安京遷都前後の日本の歴史を綴る。
 
【目次】
第1章 ルーツ――白壁王の長男
第2章 皇位への道――「奇計」によって誕生した皇太子
第3章 桓武天皇の登場――「聖武系」の皇統意識
第4章 平安朝の“壬申の乱”――早良親王との確執
第5章 神になった光仁天皇――長岡京から平安京へ
第6章 帝王の都――平安新京の誕生
第7章 政治に励み、文華を好まず――計算された治政
終章 桓武天皇の原点――聖武天皇への回帰
  
【著者】
瀧浪 貞子 (タキナミ サダコ)
 1947年大阪府生まれ。京都女子大学大学院修士課程修了。京都女子大学文学部講師等を経て、1994年同大学教授。現在、京都女子大学名誉教授。文学博士(筑波大学)。専攻は日本古代史(飛鳥・奈良・平安時代)。
 
【抜書】
●親王禅師(p67)
 早良親王は、幼いころから仏道を志し、東大寺の等定〈とうじょう〉を師として11歳で出家、21歳(もしくは22歳)で受戒し、その年に東大寺から大安寺〈だいあんじ〉に移住した。東大寺では法華宗を極め、大安寺に移住後は華厳宗を広めることに尽力した。東大寺の開山・良弁〈ろうべん〉は、臨終に際して早良に華厳宗を伝授。
 宝亀元年(770年)、父の光仁の即位に伴い、「親王禅師〈しんのうぜんじ〉」と呼ばれることになる。僧籍を持ったまま親王号を称したため。正倉院文書に「親王禅師」「禅師親王」と見える。
 桓武天皇の即位とともに皇太子に立てられ、還俗した。
 
●宮内遷宮(p85)
 きゅうないせんぐう。
 飛鳥時代には、天皇ごとに宮殿が遷された。歴代遷宮。
 藤原京以後も、宮城内(大内裏内)に殿舎〈でんしゃ〉を建て替える「宮内遷宮(遷都)」という縮小形態で継承されてきた。
 桓武を継いだ平城天皇は、遷都せず、旧宮にとどまることを決定した。平安京造営や兵役のために民が疲弊していたため。
 
●不改常典(p127)
 天智天皇が定めたとする皇位継承法。それまでの慣例だった兄弟継承をやめ、直系(嫡系)への継承を原則とする。大海人皇子への皇位継承を反故にする手段として、直系(嫡系)への継承、すなわち大友即位の正当性を定めた。口勅〈こうちょく〉の類で、成文化されていない。
 慶雲4年(707年)、元明天皇即位の詔に出てくる、「天地と共に長く、日月と共に遠く、改まるまじき常の典〈のり〉と立て賜い、敷〈しき〉賜える法」。略して「不改常典」と称する。
 それ以前、持統女帝が、草壁皇太子の子の珂瑠皇子の即位を実現するために援用、依拠したのが最初。
 
●刪定(p230)
 さんてい。文章や語句を改正すること。
 延暦10年(791年)3月に『刪定律令』24条が施行されたが、これは『養老律令』を修正・補訂したもの。
 神護景雲3年(769年)、称徳天皇時代に吉備真備・大和長岡らが時代にそぐわない条文や不必要な語句を削り修正し、まとめていた。しかし、頒下〈はんか〉されず放置されたままになっていた。桓武がその施行を命じた。
 延暦16年6月には、大納言神王〈みわおう〉らが奏上した『刪定令格〈さんていりょうきゃく〉』45条を諸司に下し、遵用を命じている。
 格……律令の不備を補うための法令。
 
(2023/10/22)NM
 
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資本主義は私たちをなぜ幸せにしないのか
 [社会・政治・時事]

資本主義は私たちをなぜ幸せにしないのか (ちくま新書)
 
ナンシー・フレイザー/著 江口泰子/訳
出版社名:筑摩書房(ちくま新書 1740)
出版年月:2023年8月
ISBNコード:978-4-480-07565-9
税込価格:1,210円
頁数・縦:313p・18cm
 
 16世紀以来の資本主義の歴史を振り返りつつ、搾取と収奪、人種・ジェンダー差別、社会的再生産、環境破壊、などについて、資本主義の宿命と矛盾について論じる。
 人種差別とジェンダー差別がクローズアップされているが、今、最もホットなのは宗教対立ではないだろうか? これについも「共食い資本主義」という観点から論じることはできないだろうか。
 
【著者】
フレイザー,ナンシー (Fraser, Nancy)
 1947年生まれ。アメリカの政治学者。ニューヨーク市立大学大学院で博士号取得。ニュー・スクール・フォー・ソーシャル・リサーチの政治・社会科学教授。専門は、批判理論、ジェンダー論、現代フランス・ドイツ思想。
 
江口 泰子 (エグチ タイコ)
翻訳家。法政大学法学部卒業。
 
【抜書】
●共食い資本主義(p8)
 カニバル資本主義。
 (1)人間が人肉を食べる儀式。資本家階級は、自分たち以外のなにもかもを食い物にする。
 (2)動詞形「カニバライズ」には、装置や事業を作り出すか維持するために、別の装置や事業から重要な要素を抜き取るという意味がある。資本主義経済は、非経済分野の重要な要素をとことん食い尽くす。
 (3)「カニバライズ」は、天文分野で、天体が引力によって別の天体の質量を吞み込むときにも使う。世界システムの周辺に位置する自然と社会の富を、資本が自らの軌道に引きずり込む。
 (4)ウロボロス。己の尻尾を咥えて円環をなす蛇。己の存在を支える社会、政治、自然を貪り食う資本主義システム。
 〔資本主義社会とは、餌に喰いつき、喰い荒そうとする、制度化された狂乱状態だと捉えられる――そのメインディッシュは私たちだ。〕
 
●制度化された社会秩序(p43)
〔 もし資本主義が経済システムではなく、倫理的生活の物象化でもないとするならば、いったい何だろうか。たとえば封建制度と同じような「制度化された社会秩序」と捉えるのが適切だ、というのが私の答えである。資本主義をそのように理解すると、構造的な分離が、それも特に本書で突き止めてきた制度的な分離が浮かび上がる。〕
 
●資本主義の歴史、四つの体制(p80)
 (1)重商資本主義体制……16-18世紀。土地や財産の収奪。
 (2)リベラルな植民地資本主義体制。19世紀。中核で行われる「搾取」と、植民地での「収奪」。
 (3)国家管理型資本主義体制。両大戦間から20世紀中ごろ。
 (4)金融資本主義体制。現代。債務による蓄積。ブレトン・ウッズ体制の崩壊(1971年)(p217)。政府なき統治(p220)。
 
●インドセンダン(p178)
 常緑樹。南アジアで薬として使われてきた。
 最近、そのゲノムを解読したとして、ある大手製薬会社がインドセンダン由来の医薬品について特許を主張。
 
●生態学的社会主義(p195)
〔 どこかの目的地に本当にたどり着けるのか。それとも地球温暖化が進んで、もはや地球の気温は沸点に達してしまうのか。これについては、もちろん今後の課題だ。だが、その運命を回避するための最大の希望はやはり、反資本主義で環境という枠を超えた対抗ヘゲモニーのブロックを築くことにある。そのブロックが具体的に何を目指すべきかは、いまはまだわからない。だが、もしその目的地に名前をつけなければならないとすれば、私が選ぶのは「生態学的社会主義〈エコ・ソーシャリズム〉」である。〕
 
●政治的混乱(p200)
 資本主義のどの発展段階も、政治的混乱を引き起こし、政治的混乱によって変化してきた。
〔 重商資本主義を周期的に搔き乱し、最終的に破滅に導いたのは、周辺で多発した奴隷の反乱と本国で起きた民主化革命だった。次のレッセ・フェール(自由放任主義)のリベラルな植民地資本主義の時代には、丸一世紀のうちの半分の時期が、政治的な混乱続きだった。例えば社会主義者による革命の多発、ファシストのクーデター、二度にわたる世界大戦、植民地主義に抵抗する無数の蜂起。やがて二度の大戦と戦後を経て、国家管理型資本主義に道を譲った。この資本主義もまた政治的危機と無縁ではなかった。反植民地主義を掲げた大規模な反乱にさらされ、あちこちでニューレフトが台頭する。長引く冷戦を経験し、核兵器開発競争が勃発し、やがて新自由主義の攻撃に屈した。そして、グローバル化した現在の金融資本主義体制を迎えた。〕
 
(2023/10/19)NM
 
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ビジネスと空想 空想からとんでもないアイデアを生みだす思考法
 [経済・ビジネス]

ビジネスと空想 空想からとんでもないアイデアを生みだす思考法
 
田丸雅智/著
出版社名:クロスメディア・パブリッシング
出版年月:2023年3月
ISBNコード:978-4-295-40805-5
税込価格:1,738円
頁数・縦:260p・19cm
 
 著者は、ショートショート作家でありながら、妄想・空想力を鍛えるワークショップを開催している。そのワークショップの手法を公開し、空想力の育て方とそれをビジネスの発想力に変える方法を説く。
 妄想したことをショートショートにまで仕上げる意義は、言語化だという。何事も言語化し、意識にのぼらせて客観視できるようにすることが次のステップにつながる。
 また、面白かったのが入山章栄氏との対談。入山氏も「田丸めっそっど」によってショートショートを作ってみせる。豚大学という妄想なのだが、二人のやり取りがテンポよく展開し、トントン拍子で話が進んでいく
 
【目次】
第1章 誰にでも空想する力がある
第2章 プロの小説家は、いかにして空想やアイデアを生みだしているのか?
第3章 “ワークショップ”「ショートショート発想法」―執筆パート
第4章 “ワークショップ”「ショートショート発想法」―読み解きパート
第5章 ショートショートをさらに活用するために
第6章 “特別対談”全員に反対されるアイデアから、イノベーションは生まれる 田丸雅智×入山章栄
 
【著者】
田丸 雅智 (タマル マサトモ)
 1987年、愛媛県生まれ。東京大学工学部卒、同大学院工学系研究科修了。2011年、『物語のルミナリエ』に「桜」が掲載され作家デビュー。12年、樹立社ショートショートコンテストで「海酒」が最優秀賞受賞。「海酒」は、ピース・又吉直樹氏主演により短編映画化され、カンヌ国際映画祭などで上映された。坊っちゃん文学賞などにおいて審査員長を務め、また、全国各地でショートショートの書き方講座を開催するなど、現代ショートショートの旗手として幅広く活動している。
 
【抜書】
●入山章栄(p220)
 早稲田大学大学院(ビジネススクール)教授。慶應義塾大学経済学部卒業。三菱総合研究所などを経て、2008年に米国ピッツバーグ大学経営大学院よりPh.Dを取得。同年より、ニューヨーク州立大学バッファロー校ビジネススクール助教授。主な著書に『世界標準の経営理論』(ダイヤモンド社)。
 
●妄想の時代(p254)
 入山「大事なのは、自分の妄想力に自信を持つことです。少し前ですが、『最もクリエイティブな国はどこか?』という意識調査をアドビシステムズ社が行ったところ、1位はなんと、日本だったんですよ。逆に『自分の国、自分の国の国民はクリエイティブだと思いますか?』という質問では、日本は最下位だったんです。
 つまり、日本は本当は世界からクリエイティブと評価されているのに、自分たちに自信がないだけなのです。日本のどの部分が世界からクリエイティブだと評価されているかというと、マンガやアニメがメイン。だから、そういう心理的安全性があるところでは、日本人はすでに妄想を表現しているわけです。問題は、それ以外の、『妄想してはいけない』と勝手に思いこまれているテリトリーが多すぎることなのでしょう」
 田丸「ぼくも、講座やワークショップで、「日本人は空想ネイティブだ』と強く伝えています。ですから、いま入山さんがおっしゃったように、空想・妄想をしてはいけないという思いこみがなくなるといいなと思います」
 入山「はい、あとは自信を持って、のびのび妄想を習慣化しましょうよ。やはり、これからは妄想の時代です」
 
(2023/10/14)NM
 
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会話を哲学する コミュニケーションとマニピュレーション
 [言語・語学]

会話を哲学する~コミュニケーションとマニピュレーション~ (光文社新書)
 
三木那由他/著
出版社名:光文社(光文社新書 1215)
出版年月:2022年8月
ISBNコード:978-4-334-04622-4
税込価格:1,012円
頁数・縦:299p・18cm
 
 コミックや小説などの創作物内で語られた会話を題材に、「約束事」をキーワードにして会話のもつ様々な機能を探る。
 ボーイズ・ラブとか、レズビアンとか、引用される作品に性的マイノリティを扱ったものが多いなぁ、と思っていたら、著者自身がトランスジェンダーなのだそうだ。本人の弁。
 
【目次】
第1章 コミュニケーションとマニピュレーション
第2章 わかり切ったことをそれでも言う
第3章 間違っているとわかっていても
第4章 伝わらないからこそ言えること
第5章 すれ違うコミュニケーション
第6章 本心を潜ませる
第7章 操るための言葉
 
【著者】
三木 那由他 (ミキ ナユタ)
 1985年、神奈川県生まれ。大阪大学大学院人文学研究科講師。京都大学大学院文学研究科博士課程指導認定退学。博士(文学)。
 
【抜書】
●マニピュレーション(p30)
 会話を通じて誰かの心理や行動を操作しようとすること。
 
●意味の占有(p204)
 〔わたしは、こうした当事者間の力関係や社会的な力関係によって、会話参加者のいずれかが不利益を被るような仕方でコミュニケーションがなされることを、「コミュニケーション的暴力」と呼んだりしています。なかでも本書で取り上げたような、コミュニケーションによってつくられた約束事を一方にとって都合がいいように捻じ曲げてしまうようなコミュニケーション的暴力を、「意味の占有」と呼んでいます。発話がどのような意味を持っているのかの決定権を独り占めし、相手が口出しできないようにしたうえで、そのようにして自分に都合のよいように捻じ曲げた約束事に相手を服従させる、というイメージですね。〕
 
●『言語の七番目の機能』(p265)
 ローラン・ビネの小説。東京創元社。
 ロラン・バルトの事故死を題材にした風変わりなミステリ。言語学者ローマン・ヤコブソンは言語が持つ六つの機能を分類したが、それに収まらない七つ目の機能がテーマである。
 
●約束事(p290)
 コミュニケーションには、「約束事を形成する」という側面がある。これは、哲学者マーガレット・ギルバートが提唱する「共同的コミットメント」という概念に対応している。
 
(2023/10/12)NM
 
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海賊たちは黄金を目指す 日誌から見る海賊たちのリアルな生活、航海、そして戦闘
 [歴史・地理・民俗]

海賊たちは黄金を目指す: 日誌から見る海賊たちのリアルな生活、航海、そして戦闘
 
キース・トムスン/著 杉田七重/訳
出版社名:東京創元社
出版年月:2023年7月
ISBNコード:978-4-488-00398-2
税込価格:2,970円
頁数・縦:367, 13p・20cm
 
 1680年春、コロンビアとパナマの間に横たわる未開のジャングル、ダリエン地峡を越えて太平洋に躍り出たバッカニアたちの冒険の物語。無法者たちは、クナ族の王アンドレアスに頼まれ、スペイン人にさらわれた孫娘を救出するため、南海(太平洋)側要塞サンタ・マリアに進撃する。
 冒険に加わった7人の海賊たちの航海日誌をもとに綴ったノン・フィクションということである。バジル・リングローズ(『アメリカのバッカニアの歴史第2巻』、1685年)、バーソロミュー・シャープ、ウィリアム・ダンピア(『最新世界周航記』、1697年)、ライオネル・フェイファー、ジョン・コックス(『バーソロミュー・シャープ船長の航海日誌と冒険』、1684年:実際にはコックスの日誌)、ウィリアム・ディック、エドワード・ポウヴィー、の7人である。
 
【目次】
第1部 黄金への渇望
 プリンセス
 黄金の剣士
 地峡
 ゴールデン・キャップ
 決死隊
 西半球で二番目に大きい都市
 根っからの海賊
 気楽なカヌーの旅
 漂流者たち
 奇襲
 ドラゴン
 運任せの勝負
 甲板を流れる奔流のような血潮
 叛乱
第2部 南海
 我らが銃の銃口
 海に呑みこまれる
 高潔であっぱれな勇者
 ヘビの髪を持つ姉妹
 浮かれ野郎ども
 水、水
 代償金
 八十五人の屈強な仲間たち
 ロビンソン・クルーソー
 非常に美しく堂々とした町、セント・マーク・オブ・アリカ
 うずき
第3部 苦境
 射殺を覚悟する
 積み薪
 瀉血
 温められた甲板
 ホーン岬
 陸地初認
 銀のオール
 続編
 
【著者】
トムスン,キース (Thomson, Keith)
 セミプロの野球選手や風刺漫画家、脚本家などさまざまな職業を経て作家に。現在はアラバマ州バーミングハムに家族と暮らす。
 
杉田 七重 (スギタ ナナエ)
 東京都生まれ。東京学芸大学卒。英米文学翻訳家。
 
【抜書】
●プライベーティア(p24)
 私掠船。他国の船舶を略奪する免許を政府から公式に与えられた船。
 
●バッカニア(p24)
 海賊のこと。
 イスパニョーラ島やトルツガ島で猪や雄牛を狩るboucaniersとして知られる猟師たちに、イングランドやフランスの植民地長官が委任状や「他国籍商船拿捕免許状」を発行し始めた17世紀後半に端を発する。boucaniersとは、もともとブラジルの先住民トゥピ族が使っていた、木製のグリルを意味するフランス語のboucanに由来。猟師たちが好んで使っていた。
 ただし、「堕落した人間たちとつるむ」「下劣な雄山羊のような振る舞いをする」という意味のフランス語boucanerからきているという説もある。
 
●ワグナー(p350)
 海事用語。海図や地図を集めた本。
 1584年に、この種の収集物を初めて出版した、オランダ人の地図製作者ルーカス・ワグナーにちなんだ名前。
 
(2023/10/12)NM
 
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労働の思想史 哲学者は働くことをどう考えてきたのか
 [哲学・心理・宗教]

労働の思想史: 哲学者は働くことをどう考えてきたのか
 
中山元/著
出版社名:平凡社
出版年月:2023年2月
ISBNコード:978-4-582-70365-8
税込価格:3,300円
頁数・縦:326p・19cm
 
 「労働」について、古代から現代まで、人びとが思考を巡らしてきたその軌跡をたどる。
 
【目次】
序として 働くという営みの分類について
原初的な人間の労働
古代の労働観
中世の労働観
宗教改革と労働―近代の労働観の変革(一)
経済学の誕生―近代の労働観の変革(二)
近代哲学における労働
マルクスとエンゲルスの労働論
労働の喜びの哲学
労働の悲惨と怠惰の賛歌
労働論批判のさまざまな観点
グローバリゼーションの時代の労働
 
【著者】
中山 元 (ナカヤマ ゲン)
 哲学者・翻訳家。哲学サイト「ポリロゴス」主宰。1949年、東京生まれ。東京大学教養学部中退。
 
【抜書】
●労働、仕事、活動(p13)
 ハンナ・アーレントは、人間の行動の全体を三つの概念に分けて考察した。
 労働……人間が自分の生命を維持するために必要な苦しい営み。きわめて個人的なもの。労働は、個人の生活を支えた後には何も残らない。食事の用意、部屋の片づけ、掃除。労働は、人びとの生活を維持するためには不可欠であるが、後には何も残さず、何も生産しないので、時にむなしく感じられるもの。
 仕事……人々が自分の能力を発揮して社会のために何かを残そうとする営み。創造的な性格を備えている。この行動によって世界にさまざまな作品と道具が残される。この営みは、個人的な才能を発揮するという意味では個人的なものであるが、世界に産物を残すという意味では半ば公的な性格を帯びている。
 活動……人々が公的な場において自分の思想と行動の独自性を発揮しようとする営み。個人の生活の維持ではなく、公的な場において共同体の活動に参画するものであり、公共的な性格を帯びるものである。この思想と行動という活動の後には、眼に見える「作品」のようなものは残らないことが多い。
 アーレントは、「活動」という営みを、労働や仕事とは明確に異なる特別な次元の行為として捉えた。
 
●修道院、生活の規律化(p62)
 中世、修道院での労働には、労働の肯定的な価値の再発見以外に、幾つかの利点が備わっていた。
 (1)修道士たちに服従の精神によって労働させることで、修道院は自立した経済基盤を確保することができた。
 (2)修道士たちの労働は時計による一日の規則的な規律に従って遂行された。修道院で改良された時計は、外部に伝達されて日常的に使われるようになる。それだけではなく、「町全体が時計塔の音に活動を合わせる」ようになった。生活の規律化が、後の資本主義の社会における生活と労働の規律化の基礎となった。
 (3)修道院の規律化された労働は、それまでの労働に備わっていたさまざまな否定的な側面を解消するという効果を発揮した。「労働の細分化、階級的搾取、差別、大量強制と奴隷制、生涯に一つの職業や役割の固定化、中央集権的な制御」など、労働にまつわる様々な負の要素を取り除いた。
 (4)服従の精神と規律に従うものであっても、他者に強制されて行うという奴隷的な性格をもたない。そのため、修道士たちの生活そのものに規則正しさと均衡をもたらした。労働そのものの成果は、修道士たちの間で公平に分配された。
 さらに修道院には医療や看護などの手当ても完備しており、「修道院は〈福祉国家〉の初期の典型であった」。
 
●デイヴィッド・ヒューム(p132)
 1711-1776年。
〔 ロックは労働から権利が生まれると考えたが、ヒュームは労働の産物を安全に所有する目的から、ごく自然に所有と権利という観念が生まれたと考える。「他人の所有にたいしては、自分の欲望を控えるという黙約が結ばれて、各人が自己の所有の安定を獲得してしまうと、ここにただちに、正義と不正義の観念が起こり、また所有や権利や責務の観念が起こる」とヒュームは考える。ヒュームのこの考え方は、社会契約という観念を明確に否定するものである。社会が契約のような外的な手段によって形成されるのではなく、暗黙の了解という内的な同意に基づいて自然に生まれるものだという。これは思想的な僚友であったアダム・スミスが「見えざる手」を信じていたのと同じように、社会が契約などの超越的な手段によって形成されると考えるのではなく、その内部から内在的な方法によって社会が形成されることを主張するものであり、社会思想史のうえでもとくにユニークな考え方である。ただしどちらの考え方においても、社会の構築のために基軸となるのは、人間の労働とその産物である所有の保護であった。〕
 
●第三身分(p186)
 エマニュエル=ジョセフ・シエイス(1748-1836年)。フランスの思想家。「空想的社会主義者たち」の思想の前提となった第三身分の思想。
 第一身分が聖職者、第二身分が貴族(国王を含む)。
 社会を維持するために必要なのは、「民間の仕事と公共の職務である」。
 民間の仕事……農業、産業、商業、サービス業に分類される。これらの仕事をしているのはすべて第三身分の人々。
 公共の仕事……軍事(剣)、司法(法服)、宗教(教会)、公務員(行政)に分類される。第一身分と第二身分の人びともこれらの仕事に携わることもあるが、圧倒的な多数を占めるのが第三身分。
 「第三身分がいたるところでその二十分の十九を占めている」。
 第三身分が存在しなければ社会が維持できない。第三身分はその仕事の業務内容によって、さまざまな物事の管理や運営に長けており、そもそも第一身分と第二身分が存在しなければ、社会の運営はさらに円滑に進むはずである。「第三身分なしでは、何ごとも進まない。それ以外のものが存在しなければ、何もかもずっとうまくいくであろう」。
 
(2023/10/9)NM
 
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戦国日本を見た中国人 海の物語『日本一鑑』を読む
 [歴史・地理・民俗]

戦国日本を見た中国人 海の物語『日本一鑑』を読む (講談社選書メチエ)
 
上田信/著
出版社名:講談社(講談社選書メチエ 788)
出版年月:2023年7月
ISBNコード:978-4-06-532574-2
税込価格:1,870円
頁数・縦:245p・19cm
 
 16世紀に鄭舜功〈ていしゅんこう〉が著した『日本一鑑〈にほんいっかん〉』を紐解き、当時の日本と中国との関係を探る。
 鄭舜功は、「大倭寇」が頂点を極めた1556年に日本に渡り、大友義鎮〈よししげ〉(宗麟)のもとで日本の言語・地理・文物・文化について調査し、帰国後、『日本一鑑』にまとめた。
 
【目次】
はじめに―忘れられた訪日ルポには何が書かれているのか
序章 中世の日本を俯瞰する
第1章 荒ぶる渡海者
第2章 明の侠士、海を渡る
第3章 凶暴なるも秩序あり
第4章 海商と海賊たちの航路
終章 海に終わる戦国時代
 
【著者】
上田 信 (ウエダ マコト)
 1957年東京都生まれ。東京大学大学院人文科学研究科修士課程修了。現在、立教大学文学部特別専任教授。専攻は中国社会史。
 
【抜書】
●日本刀(p15)
 明朝は日本から大量の刀を輸入した。モンゴル高原に追いやった元朝の残党たちの軍事侵攻に対して、日本刀が有効な武器となったのである。
 元寇のとき、モンゴル兵と対峙した日本では、日本刀の改良が行われ、遊牧民が着込む皮革製の防護服を切り裂けるようになっていた。
 
●寄語(p24)
 『日本一鑑』巻五「寄語」は、一種の日本語辞典となっている。日本語の発音を漢字の音で表記。
  ア押 イ易 ウ烏 エ耶 オ堝
  カ佳 キ気 ク固 ケ杰 コ課
  サ腮 シ世 ス自 セ射 ソ梭
  タ太 チ致 ツ茲 テ迭 ト大
  ナ奈 ニ乂 ヌ怒 ネ業 ノ懦
  ハ法 ヒ沸 フ付 ヘ穴 ホ荷
  マ邁 ミ密 ム慕 メ蔑 モ目
  ヤ耀    ユ右    ヨ欲
  ラ剌 リ利 ル路 レ列 ロ六
  ワ歪 ヰ異    ヱ琊 ヲ阿
  ン乂
 
●倭寇(p28)
 「倭寇」という言葉は、もともと名詞ではなかった。13世紀に日本の方面から武装した一群の人びとが朝鮮半島沿岸で襲撃・略奪を繰り返した。これを「倭が寇〈あだ〉する」と記載したことにさかのぼる。
 記録に残る最初の事件は、1223年、朝鮮半島南部の金州(現在の金海)が襲われた出来事。『高麗史』世家、巻22、高宗10年5月甲子条。
 
●閩人三十六姓(p44)
 明朝が建国されると、朱元璋は積極的に周辺国に使節を送り、朝貢するよう求めた。
 沖縄本島の按司たちはその求めに応じた。明朝は、使節を無事に送り出せるよう、造船や航海の技術を持った職人や、外交文書を作成できる人材を琉球に派遣した。彼らは「閩人三十六姓」として伝説化された。交易に関する職能集団の子孫たちは、那覇港近くの久米村〈クニンダ〉に定住し、その後も明清時代を通じて中国との交流を支えた。
 
(2023/10/5)NM
 
〈この本の詳細〉


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