SSブログ

労働の思想史 哲学者は働くことをどう考えてきたのか
 [哲学・心理・宗教]

労働の思想史: 哲学者は働くことをどう考えてきたのか
 
中山元/著
出版社名:平凡社
出版年月:2023年2月
ISBNコード:978-4-582-70365-8
税込価格:3,300円
頁数・縦:326p・19cm
 
 「労働」について、古代から現代まで、人びとが思考を巡らしてきたその軌跡をたどる。
 
【目次】
序として 働くという営みの分類について
原初的な人間の労働
古代の労働観
中世の労働観
宗教改革と労働―近代の労働観の変革(一)
経済学の誕生―近代の労働観の変革(二)
近代哲学における労働
マルクスとエンゲルスの労働論
労働の喜びの哲学
労働の悲惨と怠惰の賛歌
労働論批判のさまざまな観点
グローバリゼーションの時代の労働
 
【著者】
中山 元 (ナカヤマ ゲン)
 哲学者・翻訳家。哲学サイト「ポリロゴス」主宰。1949年、東京生まれ。東京大学教養学部中退。
 
【抜書】
●労働、仕事、活動(p13)
 ハンナ・アーレントは、人間の行動の全体を三つの概念に分けて考察した。
 労働……人間が自分の生命を維持するために必要な苦しい営み。きわめて個人的なもの。労働は、個人の生活を支えた後には何も残らない。食事の用意、部屋の片づけ、掃除。労働は、人びとの生活を維持するためには不可欠であるが、後には何も残さず、何も生産しないので、時にむなしく感じられるもの。
 仕事……人々が自分の能力を発揮して社会のために何かを残そうとする営み。創造的な性格を備えている。この行動によって世界にさまざまな作品と道具が残される。この営みは、個人的な才能を発揮するという意味では個人的なものであるが、世界に産物を残すという意味では半ば公的な性格を帯びている。
 活動……人々が公的な場において自分の思想と行動の独自性を発揮しようとする営み。個人の生活の維持ではなく、公的な場において共同体の活動に参画するものであり、公共的な性格を帯びるものである。この思想と行動という活動の後には、眼に見える「作品」のようなものは残らないことが多い。
 アーレントは、「活動」という営みを、労働や仕事とは明確に異なる特別な次元の行為として捉えた。
 
●修道院、生活の規律化(p62)
 中世、修道院での労働には、労働の肯定的な価値の再発見以外に、幾つかの利点が備わっていた。
 (1)修道士たちに服従の精神によって労働させることで、修道院は自立した経済基盤を確保することができた。
 (2)修道士たちの労働は時計による一日の規則的な規律に従って遂行された。修道院で改良された時計は、外部に伝達されて日常的に使われるようになる。それだけではなく、「町全体が時計塔の音に活動を合わせる」ようになった。生活の規律化が、後の資本主義の社会における生活と労働の規律化の基礎となった。
 (3)修道院の規律化された労働は、それまでの労働に備わっていたさまざまな否定的な側面を解消するという効果を発揮した。「労働の細分化、階級的搾取、差別、大量強制と奴隷制、生涯に一つの職業や役割の固定化、中央集権的な制御」など、労働にまつわる様々な負の要素を取り除いた。
 (4)服従の精神と規律に従うものであっても、他者に強制されて行うという奴隷的な性格をもたない。そのため、修道士たちの生活そのものに規則正しさと均衡をもたらした。労働そのものの成果は、修道士たちの間で公平に分配された。
 さらに修道院には医療や看護などの手当ても完備しており、「修道院は〈福祉国家〉の初期の典型であった」。
 
●デイヴィッド・ヒューム(p132)
 1711-1776年。
〔 ロックは労働から権利が生まれると考えたが、ヒュームは労働の産物を安全に所有する目的から、ごく自然に所有と権利という観念が生まれたと考える。「他人の所有にたいしては、自分の欲望を控えるという黙約が結ばれて、各人が自己の所有の安定を獲得してしまうと、ここにただちに、正義と不正義の観念が起こり、また所有や権利や責務の観念が起こる」とヒュームは考える。ヒュームのこの考え方は、社会契約という観念を明確に否定するものである。社会が契約のような外的な手段によって形成されるのではなく、暗黙の了解という内的な同意に基づいて自然に生まれるものだという。これは思想的な僚友であったアダム・スミスが「見えざる手」を信じていたのと同じように、社会が契約などの超越的な手段によって形成されると考えるのではなく、その内部から内在的な方法によって社会が形成されることを主張するものであり、社会思想史のうえでもとくにユニークな考え方である。ただしどちらの考え方においても、社会の構築のために基軸となるのは、人間の労働とその産物である所有の保護であった。〕
 
●第三身分(p186)
 エマニュエル=ジョセフ・シエイス(1748-1836年)。フランスの思想家。「空想的社会主義者たち」の思想の前提となった第三身分の思想。
 第一身分が聖職者、第二身分が貴族(国王を含む)。
 社会を維持するために必要なのは、「民間の仕事と公共の職務である」。
 民間の仕事……農業、産業、商業、サービス業に分類される。これらの仕事をしているのはすべて第三身分の人々。
 公共の仕事……軍事(剣)、司法(法服)、宗教(教会)、公務員(行政)に分類される。第一身分と第二身分の人びともこれらの仕事に携わることもあるが、圧倒的な多数を占めるのが第三身分。
 「第三身分がいたるところでその二十分の十九を占めている」。
 第三身分が存在しなければ社会が維持できない。第三身分はその仕事の業務内容によって、さまざまな物事の管理や運営に長けており、そもそも第一身分と第二身分が存在しなければ、社会の運営はさらに円滑に進むはずである。「第三身分なしでは、何ごとも進まない。それ以外のものが存在しなければ、何もかもずっとうまくいくであろう」。
 
(2023/10/9)NM
 
〈この本の詳細〉


nice!(1)  コメント(0) 
共通テーマ:

nice! 1

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。