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人新世の「資本論」
 [社会・政治・時事]

人新世の「資本論」 (集英社新書)
 
斎藤幸平/著
出版社名:集英社(集英社新書 1035)
出版年月:2020年9月
ISBNコード:978-4-08-721135-1
税込価格:1,122円
頁数・縦:375p・18cm
 
 マルクス『資本論』の新解釈(MEGA)をもとに、気候変動に直面する資本主義の問題点を論じ、社会システムの転換を問う。資本主義から抜け出し、脱成長を実現することで「ラディカルな潤沢さ」が得られると説く(p353)。
 
【目次】
はじめに―SDGsは「大衆のアヘン」である!
第1章 気候変動と帝国的生活様式
第2章 気候ケインズ主義の限界
第3章 資本主義システムでの脱成長を撃つ
第4章 「人新世」のマルクス
第5章 加速主義という現実逃避
第6章 欠乏の資本主義、潤沢なコミュニズム
第7章 脱成長コミュニズムが世界を救う
第8章 気候正義という「梃子」
おわりに―歴史を終わらせないために
 
【著者】
斎藤 幸平 (サイトウ コウヘイ)
 1987年生まれ。大阪市立大学大学院経済学研究科准教授。ベルリン・フンボルト大学哲学科博士課程修了。博士(哲学)。専門は経済思想、社会思想。Karl Marx's Ecosocialism: Capital, Nature, and the Unfinished Critique of Political Economy(邦訳『大洪水の前に』)によって、権威ある「ドイッチャー記念賞」を歴代最年少で受賞。
 
【抜書】
●帝国的生活様式(p27)
 ドイツの社会学者ウルリッヒ・ブラントとマルクス・ヴィッセン。
 グローバル・サウスからの資源やエネルギーの収奪に基づいた先進国のライフスタイルを「帝国的生活様式」(imperiale Lebensweise)と呼んでいる。
 
●オランダの誤謬(p36)
 国際的な環境破壊の転嫁を無視して、先進国が経済成長と技術開発によって環境問題を解決したと思い込むこと。
 
●経済学者(p38)
 「指数関数的な成長が、有限な世界において永遠に続くと信じているのは、正気を失っている人か、経済学者か、どちらかだ」。
 経済学者ケネス・E・ボールディング。
 
●ジェヴォンズのパラドックス(p75)
 世界中で再生可能エネルギーへの投資が増えている一方、化石燃料の消費は減っていない。
 19世紀の経済学者ウィリアム・スタンレー・ジェヴォンズ『石炭問題』(1865年)で提起された逆説。
 当時イギリスでは、技術革新によって石炭をより効率的に利用できるようになっていた。それでも石炭の使用量が減ることはなかった。むしろ、石炭の低廉化によって、それまで以上に様々な部門で石炭が使われるようになり、消費量が増加していった。
 効率化すれば環境負荷が減るという一般的な想定とは異なり、技術進歩が環境負荷を増やしてしまう。
 
●コバルト(p84)
 コバルトは、リチウムイオン電池に不可欠の物質。
 コバルトの約6割がコンゴ民主共和国で採掘されている。アフリカで最も貧しく、政治的・社会的にも不安定な国。
 採掘方法は、地層に埋まっているコバルトを重機や人力で掘り起こすという単純なもの。世界中の需要を賄うための大規模な発掘とそのさらなる拡大が、コンゴで、水質汚染や農作物汚染といった環境破壊、景観破壊を引き起こしている。
 さらに、奴隷労働や児童労働が問題となっている。
 
●NET(p91)
 ネガティブ・エミッション・テクノロジー。
 二酸化炭素の排出量の削減が難しいのなら、大気中から二酸化炭素を除去する技術を開発しようというもの。こうした技術は排出量をネガティブ(マイナス)にする。
 しかし、NETの実現可能性は不確かであり、実現しても大きな副作用が予想される。
 
●ドーナツ経済(p103)
 政治経済学者ケイト・ラワース。ドーナツの内縁は「社会的な土台」、外縁は「環境的な上限」。人間の活動をドーナツの幅の中で収めるのが、人類にとって安全で公正な状態。
 水や所得、教育などの「社会的な土台」が不十分な状態で生活をしている限り、人間は繫栄することができない。
 
●四つの選択肢(p113)
 権力の強い/弱い、平等/不平等を基準に、四つの未来の選択肢を設定。
 ① 気候ファシズム……権力 強い、不平等。資本主義と経済成長にしがみつく。一部の超富裕層のみが利益を得る。特権階級の利害関心を守ろうとし、その秩序を脅かす環境弱者・難民を厳しく取り締まろうとする。
 ② 野蛮状態……権力 弱い、不平等。環境難民が増え、超富裕層1%とその他99%の力の戦いで、強権的な統治体制が崩壊、世界は混乱に陥る。
 ③ 気候毛沢東主義……権力 強い、平等。野蛮状態を避けるために「1%対99%」の対立を緩和しながら、トップダウン型の気候変動対策を行う。自由市場や自由民主主義の概念を捨てて、中央集権的な独裁国家が成立。
 ④ X(エックス)……権力 弱い、平等。強い国家に依存しないで、民主主義的な相互扶助の実践を、人々が自発的に展開し、気候危機に取り組む。公正で、持続可能な未来社会。
 
●MEGA(p147)
 新しい『マルクス・エンゲルス全集』の刊行プロジェクト。国際的なプロジェクトで、世界各国の研究者たちが参加。最終的には100巻を超える。
 大月書店版には収録されなかった『資本論』の草稿やマルクスの書いた新聞記事、手紙なども収録。新資料も含めて、マルクスとエンゲルスが書き残したものを網羅して、すべてを出版することを目指している。
 注目すべきはマルクスの「研究ノート」。『資本論』に取り込まれなかったアイデアや葛藤も刻まれている。MEGAの第四部門として全32巻で初めて公開される。
 新しい『資本論』の解釈も可能に。
 
●定常型経済(p192)
 ゲルマン民族のマルク共同体や、ロシアのミール。これらの共同体では、同じような生産を伝統に基づいて繰り返している。つまり、経済成長をしない循環型の「定常型経済」であった。
 
●気候市民議会(p216)
 フランスのマクロン大統領は、2019年1月に「国民大論争」を実施することを発表。全国の自治体で1万ほどの集会が開かれ、16,000もの案が提出された。
 さらにマクロンは同年4月に、「気候市民会議」の開催を発表した。150人規模の市民会議。メンバーは、年齢・学歴・性別・居住地などを考慮してくじ引きで選ばれる。2030年までの温室効果ガス40%削減(1990年比)に向けての対策案の作成が、市民会議に任せられた。
 2020年6月21日、ボルヌ環境相に、気候変動防止対策として約150の案を提出した。
  
●本源的蓄積(p236)
 一般に、主に16世紀と18世紀にイングランドで行われた「囲い込み(エンクロージャー)」のことを指す。共同管理がなされていた農地などから農民を強制的に締め出した。
 
●世界第三の産業(p257)
 マーケティング産業は、食糧、エネルギーに次いで世界第三の産業になっている。
 〔商品価格に占めるパッケージングの費用は10~40%といわれており、化粧品の場合、商品そのものを作るよりも、3倍もの費用をかけている場合もあるという。そして、魅力的なパッケージ・デザインのために、大量のプラスチックが使い捨てられる。だが、商品そのものの「使用価値」は、結局、なにも変わらないのである。〕
 
●〈市民〉営化(p259)
 電力の管理を市民が取り戻す。市民が参加しやすく、持続可能なエネルギーの管理方法を生み出す実践が「コモン」。市民電力やエネルギー協同組合による再生可能エネルギーの普及。
 「民営化」をもじって「〈市民〉営化」と呼ぶ。
 
●ラディカルな潤沢さ(p269)
 経済人類学者ジェイソン・ヒッケル。
 「緊縮は成長を生み出すために希少性を求める一方で、脱成長は成長を不要にするために潤沢さを求める」。
〔 もう新自由主義には、終止符を打つべきだ。必要なのは、「反緊縮」である。だが、単に貨幣を撒くだけでは、新自由主義には対抗できても、資本主義に終止符を打つことはできない。
 資本主義の人工的希少性に対する対抗策が、〈コモン〉復権による「ラディカルな潤沢さ」の再建である。これこそ、脱成長コミュニズムが目指す「反緊縮」なのだ。〕
 
●エネルギー収支比(p305)
 EROEI。エネルギー投資比率。
 一単位のエネルギーを使って何単位のエネルギーが得られるかという指標。
 1930年代の原油は、1単位のエネルギーを使って100単位のエネルギーを得ることができた。その後、原油のエネルギー収支比は低下を続け、現在は10単位。採掘しやすい場所の原油を掘りつくしたため。
 ただし、太陽光は2.5~4.7、トウモロコシのエタノールは1に近い。
 
●排出の罠(p306)
 脱炭素社会に移行していく場合、エネルギー収支比の高い化石燃料を手放し、再生可能エネルギーに切り替えていくしかない。しかし、エネルギー収支比率の低下によって、経済成長は困難になる。これが、「排出の罠(emissions trap)」。
 
●ブルシット・ジョブ(p315)
 デヴィッド・グレーバーが指摘するように、世の中には無意味な「ブルシット・ジョブ(クソくだらない仕事)」が溢れている。
 仕事に従事している本人さえも、自分の仕事がなくなっても社会に何の問題もないと感じている。現在高給を取っている、マーケティングや広告、コンサルティング、金融業や保険業など。重要そうに見えても、社会の再生産そのものにはほとんど役に立っていない。「使用価値」をほとんど生み出さない。
 一方で、社会の再生産に必須な「エッセンシャル・ワーク」(「使用価値」が高いものを生み出す労働)が低賃金で、恒常的な人手不足になっている。
〔 だからこそ、「使用価値」を重視する社会への移行が必要となる。それは、エッセンシャル・ワークが、きちんと評価される社会である。
 これは、地球環境にとっても望ましい。ケア労働は社会的に有用なだけでなく、低炭素で、低資源使用なのだ。経済成長を至上目的にしないなら、男性中心型の製造業重視から脱却し、労働集約型のケア労働を重視する道が開ける。そして、これは、エネルギー収支比が低下していく時代にもふさわしい、労働のあり方である。〕
 
●フィアレス・シティ(p238)
 国家が押し付ける新自由主義的な政策に反旗を翻す革新的な地方自治。国家に対しても、グローバル企業に対しても恐れずに、住民のために行動することを目指す都市。
 「気候非常事態宣言」を出したバルセロナが先駆。Airbnbの営業日数を規制したアムステルダムやパリ、グローバル企業の製品を学校給食から閉め出したグルノーブル、など。様々な都市や市民が連携し、知恵を交換しながら新しい社会を作り出そうとしている。
 
●社会連帯経済(p334)
 スペインは、もともと協同組合が盛んな土地柄。とりわけバルセロナは、「ワーカーズ・コープ」、生活協同組合、共済組合、有機農産物消費グループなどが多数活動している。「社会連帯経済」の中心地として名高い。
 社会連帯経済が、同市内の雇用の8%にあたる5万3000人の雇用を生み出し、市内総生産の7%を占める。
 
●気候正義、食料主権(p336)
 気候正義(climate justice)……気候変動を引き起こしたのは先進国の富裕層だが、その被害を受けるのは化石燃料をあまり使ってこなかったグローバル・サウスの人々と将来世代。その不公正を解消し、気候変動を止めるべきだという認識。
 食料主権……農業を自分たちの手に取り戻し、自分たちで自治管理すること。これは生きるための当然の要求である。
 
●3.5%(p362)
 ハーヴァード大学の政治学者エリカ・チェノウェスらの研究。
 3.5%の人々が非暴力的な方法で、本気で立ち上がると、社会が大きく変わる。
 フィリピンのマルコス独裁を打破した「ピープルパワー革命」(1986年)、エドアルドオ・シュワルナゼ大統領を辞任に追い込んだグルジアの「バラ革命」(2003年)、など。
 
(2024/2/15)NM
 
〈この本の詳細〉


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