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日本のビールは世界一うまい! 酒場で語れる麦酒の話
 [経済・ビジネス]

日本のビールは世界一うまい! ――酒場で語れる麦酒の話 (ちくま新書 1737)
 
永井隆/著
出版社名:筑摩書房(ちくま新書 1737)
出版年月:2023年7月
ISBNコード:978-4-480-07562-8
税込価格:990円
頁数・縦:254p・18cm
 
 日本のビールメーカーの歴史を、明治維新の黎明化から現在までたどる。
 エピソード満載で、ビールの薀蓄を語るネタに事欠かない。
 
【目次】
第1章 日本「麦酒」事始め
第2章 大手四社の戦後
第3章 独自の方向性で、各社に人気商品誕生
第4章 ビール市場の転換点
第5章 量を追う時代の終焉
第6章 ビールのこれから
 
【著者】
永井 隆 (ナガイ タカシ)
 1958年群馬県生まれ。明治大学経営学部卒。東京タイムズ記者を経て、フリージャーナリスト。企業、組織と人、最新の技術から教育問題まで、幅広く取材・執筆。
 
【抜書】
●コープランド(p13)
 ウィリアム・コープランド。米国国籍のノルウェー人。
 1870年、横浜の山手でビール醸造を開始。スプリング・バレー・ブルワリー。
 外国人居留地となる以前は天沼と呼ばれており、ビール造りの適した湧水が豊富な土地で、湧水を動力として水車を回し、麦芽の粉砕に使った。
 1875年(明治8年)頃には、日本初のビアガーデンをブルワリーに併設してオープン。
 1884年、内紛により倒産。途中から共同経営者になったドイツ生まれの米国人醸造家エミール・ヴィ―ガントとコープランドが対立したため。
 
●キリンビール(p15)
 1885年8月、スプリング・バレーの蒸留所跡地に「ジャパン・ブルワリー」が設立される。英国人トマス・グラバー、三菱社長岩崎弥之助(弥太郎の弟)が出資。
 1888年5月、磯野計〈はかる〉の明治屋と総代理店契約を結び、ビールの販売を開始。名前は「キリンビール」に。「西洋のビールには狼や猫などの動物が用いられているので、東洋の聖獣[麒麟]を商標にしよう」との提案による(三菱の番頭・荘田平五郎の発案)。
 1898年にラベルを変更、現在とほとんど変わらないデザインに。
  
●渋谷ビール(p20)
 しぶたにびーる。
 1872年、豪商の渋谷庄三郎が大阪の堂島でビール醸造を開始、「渋谷ビール」として発売。日本人経営によるビール会社第一号。
 
●サッポロビール(p25)
 1882年、開拓使が廃止。
 1886年11月、官営ビール事業「開拓使麦酒醸造所」は大倉喜八郎に払い下げられ、「大倉組札幌麦酒醸造所」となる。芙蓉グループ。
 1887年12月、渋沢栄一、浅野総一郎らに事業譲渡、「札幌麦酒会社」設立。
 1888年8月、「札幌ラガービール」を発売。現存する最古のビールブランド。サッポロビール広報部は、開拓使麦酒醸造所が1877年に発売した「冷製札幌麦酒」を日本最初と解釈しているが……。
 「キリンビール」は1888年5月発売だが、1988年に名称が「キリンラガービール」に変更している。
 
●アサヒビール(p27)
 1889年11月、「有限責任大阪麦酒」設立。創立者で初代社長は鳥井駒吉。サントリーの鳥井信治郎と縁戚関係なし。
 大阪府島下郡吹田村に工場用地を取得。現在のアサヒビール吹田工場。
 1892年、「アサヒビール」発売。ラベルは「アサヒ」「ASAHI」だったが、あいさつ状などの文書には「旭」と表記。
 1903年、日本麦酒を抜いてシェアトップに。
 
●三大イノベーション(p30)
 ① リンデによるアンモニア式冷凍機の開発。
 ② パスツールによる低温殺菌法(パスチャライゼーション)の開発。
 ③ ハンセンによる酵母の純粋培養法の確立。
 それまでクラフト的に作られていたビールを、大量生産・大量販売が可能な近代産業へと押し上げた。
 
●エビスビール(p35)
 1887年(明治20年)、「日本麦酒醸造会社」設立。大株主は三井物産横浜支店長だった馬越恭平。
 1890年、「恵比寿ビール」発売。
 
●46年目の黒字化(p69)
 1961年、寿屋第二代社長の佐治敬三が、病気療養中の父・鳥井信治郎にビール事業参入の意思を伝える。
 「わてはこれまで、ウイスキーに命を賭けてきた。あんたはビールに賭けようというねんな。人生はとどのつまり賭や。わしは何も言わん。やってみなはれ」
 1963年、府中市に武蔵野工場を建設、ビール事業に参入。これを機に、寿屋からサントリーに社名変更。
 1967年4月、「純生」発売。
 ビール類事業が黒字化を果たしたのは2008年。参入から46年目。
 
●四隅作戦(p93)
 アサヒの営業担当者は、頻繁に酒販店を訪問していた。
 一般家庭に配達する20本入りのキリンのビールケースから、大瓶1本を抜き取り、アサヒビールに差し替えていた。時には2本、3本を入れ替え。大胆にも四隅をアサヒに替える「辣腕営業マン」もいた。アサヒ社内では、「四隅作戦」などと呼んでいた。
 
●ハートランド(p111)
 1986年秋、キリンが「ハートランド」を発売。麦芽100%の生ビール。専用ボトル(500ml)。キリンのロゴも聖獣「麒麟」のイラストもなし。
 量の「ラガー」に対して、質を追求。麦芽100%なのに、ドライタイプ。仕込みで得た糖の多く(9割以上)を酵母が食べ、発酵度を高くする(アルコールと炭酸ガスへの変換を多くし、糖などのエキスを残さない)。麦芽100%なのに飲みやすいビール。高度な発酵技術が発揮された。
 86年10月から90年12月まで、期間限定で六本木ヒルズ予定地に「ビアホール・ハートランド」を開店。当初は、ここのハウスビールとして商品化された。キリンの直営店と知らずに来店する人が大半だった。
 初代店長は前田仁〈ひとし〉(1950年2月生まれ)、マーケティング部。ビールとビアホールをセットにした「ハートランドプロジェクト」をゼロから企画して立ち上げた。
 ビール「ハートランド」は、87年4月に、缶ビールとして全国発売。
 
●エーデルピルス(p114)
 1987年4月、サッポロが「エーデルピルス」を発売。麦芽100%。現在でも販売、銀座ライオンなどで飲むことができる。
 サッポロは、複数の新製品を投入するが、大半は終売している。「エーデルピルス」は、あまりにも出来が良かったため、「せめて社員が飲む分だけは造り続けよう」と、試醸用のミニブルワリーで醸造を継続させた、という説がある。
〔 あくまで筆者個人の感想だが、「エーデルピルス」は、我が国ビール産業が生んだ最高傑作の一つ、といっていい。ふんだんに使われているホップの湧き立つような香り、そして最初にグラスに口をつけて飲んだときの絶妙なバランス感。麦芽一〇〇%が醸し出す、特有の芳醇さがベースにある。つまみなど必要とせず、グラスの一杯だけで飲食する時間を楽しめる逸品である。〕
 ホップは、チェコのザーツ産のファインアロマだけを使用し、使用量は通常のビールの3倍。
 「エーデルピルス」は、「高貴なピルス」という意味を持ち、商標権はミュンヘン工科大学が所有。サッポロの技術者は、同大学に商標使用の許可を求め、十数人の教授たちが試飲、いずれも高く評価した。
 
●キレ、コク(p122)
 キレ……仕込みの段階で、時間をかけて糖化を徹底し、糖が多くなるようにする。発酵の段階でたくさんの糖を食べる(9割以上)酵母を使い、アルコール度数もガス圧も高める。結果、爽快な味わいのビールができる。キレは、のどごしをもって評価される。飲み込む際の鼻を抜ける香りも影響。食前酒としても食中酒としても飲める。アメリカンタイプのビール。
 コク……麦芽100%のドイツタイプのビール。発酵を抑えて麦芽の旨味を残す。仕込みでも糖化を徹底せず、麦芽のエキス分を残す。発酵で酵母が食べる糖の割合は6~7割。芳醇な味わいが特徴で、ビールだけで楽しむのに向いている。
 1987年、関東限定でアサヒ「スーパードライ」が発売される。女性に人気が出る。「四隅作戦」で家庭に届けられた「スーパードライ」を飲み、ファンになった女性が多い。夫婦で飲むようになる。
 
●糖化スターチ(p173)
 1996年5月28日、サントリーが麦芽25%未満の「スーパーホップス」発売。突貫工事、武蔵野工場で生産。糖化スターチを受け入れる専用タンクの製造が間に合わず、糖化スターチを搬送してくるタンクローリーを工場内に横付けし、釜までホースで直接投入。
 酵母に食べさせる糖分として、「糖化スターチ」を採用。コーンを主原料とする水飴状の液糖。
 
●ウォッカ(p213)
 2001年、キリンは缶チューハイ「氷結」を発売。02年には缶酎ハイなどのRTD(Ready to Drink)のナンバーワン・ブランドに。
 ベース酒にウォッカを使用。それまでのRTDは、主に甲類焼酎が使われていた。氷結以降、他社のRTDの多くはウォッカベースに変わっていった。
 
●ソラチエース(p220)
 北海道空知郡上富良野町にあるサッポロの研究所にて、1974年、フレーバーホップのソラチエースの開発に着手。10年後に世に出たが、日本では評判にならなかった。
 サッポロの研究者・糸賀裕が、1994年、オレゴン州立大学に持ち込む。
 2002年、ホップ農家のマネージャー、ダレン・ガメッシュがソラチエースを見出し、07年頃から全米のクラフトビール・メーカーに紹介。上質な苦みと強い香りの高苦味アロマホップとして、有力なメーカーが次々に採用。その一つが、ニューヨークのブルックリン・ブルワリー。「ブルックリン ソラチエース」を発売(日本では、ブルックリンと資本提携したキリンより、2018年10月に発売)。伝説のブリューマスター(醸造責任者)、ギャレット・オリバーが、日本発・米国産のホップを世界へと広めた。
 米国産ソラチエース使用の国産ビール……「常陸野ネストビールNIPPONIA」(木内酒造合資会社、2010年6月)、「イノベーティブブリュワー ソラチ1984」(サッポロ、2019年4月)。
 
(2024/4/18)NM
 
〈この本の詳細〉


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