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人体大全 なぜ生まれ、死ぬその日まで無意識に動き続けられるのか
 [医学]

人体大全―なぜ生まれ、死ぬその日まで無意識に動き続けられるのか―
 
ビル・ブライソン/著 桐谷知未/訳
出版社名:新潮社
出版年月:2021年9月
ISBNコード:978-4-10-507231-5
税込価格:2,970円
頁数・縦:497, 8p・19cm
 
 最新の研究成果をもとに、ヒトの体について網羅的に記述したエッセー。これまでの常識や知見を覆す内容が満載である。
 それでも、人体は謎に満ちている。何も分かっていないと言っても過言ではない。睡眠についてさえ、「不可欠なことはわかっているが、なぜなのかはよくわからない」(p.335)。
 
【目次】
ベネディクト・カンバーバッチのつくりかた
わたしたちは毎日皮膚を脱ぎ捨てている
微生物との「甘い生活」
脳はあなたそのものである
頭のなかの不思議な世界
あなたの「入り口」は大忙し
ひたむきで慎み深い心臓
有能な「メッセンジャー」ホルモン
解剖室で骨と向き合う
二足歩行と運動
ヒトが生存可能な環境とは
危険な「守護神」免疫系
深く息を吸って
食事と栄養の進化論
全長九メートルの管で起こっていること
人生の三分の一を占める睡眠のこと
わたしたちの下半身で何が起こっているのか
命の始まり
みんな大嫌いだけど不可欠な「痛み」
まずい事態になったとき
もっとまずい事態(つまり、がん)になったとき
よい薬と悪い薬
命が終わるとはどういうことか
 
【著者】
ブライソン,ビル (Bryson, Bill)
 1951年、アイオワ州デモイン生れ。イギリス在住。幅広いテーマでベストセラーのあるノンフィクション・ライター。王立協会名誉会員。これまで大英帝国勲章、アヴェンティス賞(現・王立協会科学図書賞)、デカルト賞(欧州連合)、ジェイムズ・ジョイス賞(アイルランド国立大学ダブリン校)、ゴールデン・イーグル賞(アウトドア・ライターならびに写真家組合)などを授与されている。
 
桐谷 知未 (キリヤ トモミ)
 翻訳家。東京都出身、南イリノイ大学ジャーナリズム学科卒業。
 
【抜書】
●860億個(p81)
 ヒトの脳にある神経細胞(ニューロン)の数は860億個。2015年、ブラジルの神経科学者スザーナ・エルクラーノ=アウゼルが分析。
 それまでは、1千億個の神経細胞があるとされていた。
 
●脳の縮小(p103)
 今日のヒトの脳は、1万~1万2千年前より10%ほど縮んでいる。1,500㎤から1,350㎤へ。世界中で同時に起こっている。
 
●味覚地図(p140)
 長年の間、教科書などでも舌の味覚地図を載せていて、決まった領域がそれぞれ基本味を感じるとされていた。甘味は舌の先、酸味は舌の縁、苦みは舌の奥。
 原因は、1942年、ハーヴァード大学の心理学者だったエドウィン・G・ボーリングが、ドイツの研究者の論文を誤読して書いた教科書にさかのぼる。
 しかし、1万個の味蕾は舌のちょうど真ん中あたりの何もない場所を除いて、舌全体に分布している。ほかに口蓋と喉の奥にも見られる。そのため、飲んだ薬が喉の奥を降りていくときに苦みを感じる。
 
●脾臓(p169)
 一つ一つの赤血球は、約4カ月生きる。それぞれが約15万回も体を巡り、150kmあまり走行したあと、スカベンジャー細胞に回収され、脾臓に送られて処分される。毎日1千億個の赤血球が廃棄される。それが、便を茶色くしている主な成分。
 
●尿(p204)
 かつて、尿は無菌だと思われていた。最近の研究では、膨大な数ではないにせよ、尿の中にもいくらかの微生物がいることが分かっている。
 
●足の骨(p222)
 ヒトの足は、ものをつかむように設計された。そのため、多数の骨がある。
 あまり重いものを支えるようには設計されなかった。それが、立ったり歩いたりした長い一日の終わりに足が痛む理由の一つ。
 ダチョウは、足と足首の骨を融合させることでこの問題を解決した。直立歩行に適応するため、2億5千万年をかけている。ヒトの40倍。
 
●16億回(p243)
 ほぼすべての哺乳類は、平均寿命まで生きれば約8億回の心拍数を記録する。
 人間は、25年あまりで8億回の心拍数を数え、さらに50年進み続けておよそ16億回に達する。
 平均寿命が伸びたおかげで哺乳類の標準パターンから外れたのは、ここ10世代から12世代のこと。
 
●タバコのフィルター(p286)
 1950年代の初め、タバコの煙の害を減らすためにフィルターが導入された。
 フィルターのコストは置き換わった分のタバコより安いにもかかわらず、フィルター付きタバコに割増価格を付けた。
 しかし、ほとんどのフィルターはタバコそのものに比べてタールやニコチンを除去するわけでもなく、メーカーは味の低下を補うために強いタバコを使い始めた。結果として、1950年代後半には、平均的な喫煙者はフィルターが発明される前よりも多くのタールとニコチンを摂取することになった。この時点で、平均的なアメリカの成人は年間4千本のタバコを吸っていた。
 
●胃(p322)
 胃は、筋肉の収縮で内容物を押しつぶし、塩酸に浸すことで、科学的にも物理的にも少しばかり消化に貢献しているが、その貢献は不可欠というより、役に立っているという程度。多くの人は、胃を切除しても深刻な結果に陥ることはない。
 本当の消化と吸収は、ずっと下、つまり小腸で行われている。
 胃の重要な仕事のひとつは、多くの微生物を塩酸に浸して殺すこと。
 
●冬眠と睡眠(p336)
 冬眠と睡眠は、神経学と代謝の観点から見れば、まったく別のもの。
 冬眠は脳震盪を起こしたか麻酔をかけられた状態に近い。当事者は意識を失っているが、眠ってはいない。冬眠している動物は、長い無意識の中で毎日数時間、いつもの睡眠をとる必要がある。
 クマは、実際には冬眠していない。体温は正常近くにとどまり、簡単に目を覚ます。
 本当の冬眠は、深い無意識状態になり、体温が大幅に下がる(0度近くになることも多い)。
 
●視交叉上核(p341)
 ヒトの眼には、杆体と錐体に加えて、第三の光受容細胞がある。感光性網膜神経節細胞。視覚とは関係なく、明るさを感知する。昼か夜かを知るためだけに存在する。
 その情報は、脳内の視床下部に埋め込まれたピンの頭ほどの小さな二つの束になったニューロン(視交叉上核)に伝えられる。視交叉上核(各半球にひとつずつ)が、概日(がいじつ)リズムを制御している。
 1999年、インペリアル・カレッジ・ロンドンの研究者ラッセル・フォスターが発見。
 
●ヘイフリック限界(p471)
 1961年、フィラデルフィアのウィスター研究所の若き研究者レナード・ヘイフリックは、培養したヒトの幹細胞が約50回しか分裂できず、そのあとはなぜか生きる力を失ってしまうことを発見。
 ヘイフリック限界。細胞が老化して死ぬようにプログラムされている。
 培養した細胞を凍結して保存し、解凍すると中断されていたその時点から「老化」が再開された。
 10年後、カリフォルニア大学サンフランシスコ校の研究者チームが、「テロメア」を発見。ヘイフリック限界に根拠を与えた。
 しかし、テロメアの短縮は、老化の過程のほんの一部を占めるにすぎないことが明らかになった。老化には、テロメア以外にもずっと多くの要素が関わっている。
 
●アルツハイマー病(p480)
 アルツハイマー病に関係しているのは、βアミロイドとタウタンパク質。
 βアミロイドというタンパク質の断片がプラークと呼ばれる塊になって蓄積され、脳の正常な機能を停止する。
 タウタンパク質のもつれた小線維が蓄積し、「タウ・タングル」を形成する。
 
(2022/9/30)NM
 
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バルサ・コンプレックス “ドリームチーム”から“FCメッシ”までの栄光と凋落
 [スポーツ]

バルサ・コンプレックス “ドリームチーム
 
サイモン・クーパー/著 山中忍/訳
出版社名:ソル・メディア(footballista)
出版年月:2022年4月
ISBNコード:978-4-905349-62-4
税込価格:2,200円
頁数・縦:522p・19cm
 
 クライフから現在のメッシにつながる、バルサ流―サッカーの遷移を語る。
 クライフに対してもメッシに対しても、辛口な筆致が印象的である。
 
【目次】
第1部 大聖堂の裏側
 バルサに触れ、バルサを知る
 「バルサの館」名士録
第2部 ザ・創造者
 足で語った男
 FCバルセロナ(教祖ヨハン・クライフ作)
  ほか
第3部 黄金期2008-2015
 身長不問の寄宿学校、アカデミー以上の存在
 リオネル・メッシの摩訶不思議
  ほか
第4部 ザ・タレント
 “タレント”とは
 “絶対才人制”
  ほか
第5部 大聖堂の崩壊
 移籍市場の悲喜劇
 盗まれたマシア
  ほか
 
【著者】
クーパー,サイモン (Kuper, Simon)
 ベストセラー『Soccernomics』の共著者。ウィリアム・ヒル主催の年間スポーツ本大賞を受賞した処女作『サッカーの敵』(白水社)は、サッカー関連書籍の名著として広く知られる。かつては英国の『タイムズ』紙と『オブザーバー』紙でフットボールコラムを担当し、現在は英紙『フィナンシャル・タイムズ』のコラムニスト。
 
山中 忍 (ヤマナカ シノブ)
 1966年生まれ。青山学院大学卒。94年に渡欧し、駐在員からフリーライターに。第二の故郷である西ロンドンのチェルシーをはじめ、「サッカーの母国」におけるピッチ内外での関心事を、時には自らの言葉で、時には訳文として綴る。英国スポーツ記者協会およびフットボールライター協会会員。
 
【抜書】
●クライフ対クライフ(p156)
〔 そして、サッカーそのものをも変えた。以前、ファビオ・カペッロは「フットボールの近代史における3大レガシー」として、「ダッチ・スクール(オランダの“トータルフットボール”)、サッキ時代(於ミラン)、バルサの一時代(グアルディオラ体制下)」を挙げている。いずれも、素早くパスを繋いで攻め、ハイプレスでボールを奪う特徴を持つ、クライフに触発されたチームだ。2010年のワールドカップ決勝は、クライフ個人にとっての栄光の瞬間でもあった。「クライフ対クライフ」とも言われたスペインとオランダの一騎打ちでは、ピッチに立ったスペイン代表選手のうち7名が、クライフ流の育成組織であるマシアで教育を受けた背景を持ち、オランダ代表にも、アヤックスのクライフ流アカデミー卒業生が7名いた。ちなみに本人は、自身のスタイルにより忠実であるとしてスペインを応援していた。〕
 
●カンテラ(p163)
 スペイン語で「石切り場」を意味する。cantera。
 
●マシア(p177)
 カタルーニャ語で「農家」の意味。masia。
 
●15本、4秒(p267)
 グアルディオラがバルサのチームに課したルール。
 パス15本……ビルドアップに最低でもパスを15本つないだうえで相手ゴールに襲いかかる。
 4秒ルール……バルサがボールを失った瞬間、群れを成してボール奪取を狙う4秒間。
 
●第一夜効果(p379)
 普段とは異なる睡眠環境での1泊目は、脳の半分(主に左脳)が起きたままの異常な状態にある。脳の半球間における信号のやり取りも通常の睡眠中とは違って活発。
 アメリカのブラウン大学による研究結果。
 おそらく、サバイバルモードの脳が見知らぬ環境での安全性を確認しようとしている。
 
(2022/9/28)NM
 
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物価とは何か
 [経済・ビジネス]

物価とは何か (講談社選書メチエ)
 
渡辺努/著
出版社名講談社(講談社選書メチエ 758)
出版年月:2022年1月
ISBNコード:978-4-06-526714-1
税込価格:2,145円
頁数・縦:333p・19cm
 
 物価が上下する仕組みと、経済についてやさしく解説する。
 
【目次】
第1章 物価から何がわかるのか
 それは何の値段なのか
 物価はこうして「作られる」
 物価は誰のものか―企業の物価・地域の物価・個人の物価
第2章 何が物価を動かすのか
 インフレもデフレも気分次第
 ハイパーインフレが教えてくれる物価の本質
 予想との格闘
第3章 物価は制御できるのか―進化する理論、変化する政策
 フィリップス曲線という発見
 信認と独立
 おしゃべりな中央銀行
 予想は操作できるか
 予想は測ることができるか
第4章 なぜデフレから抜け出せないのか―動かぬ物価の謎
 価格はなぜ毎日変わらないのか?
 ミクロとマクロの辻褄が合わない!
 価格を変えない日本企業
 デフレで何が困るのか
 商品の新陳代謝と企業の価格更新
第5章 物価理論はどうなっていくのか―インフレもデフレもない社会を目指して
 
【著者】
渡辺 努 (ワタナベ ツトム)
 1959年生まれ。東京大学経済学部卒業。日本銀行勤務、一橋大学経済研究所教授等を経て、東京大学大学院経済学研究科教授。株式会社ナウキャスト創業者・技術顧問。キヤノングローバル戦略研究所研究主幹。ハーバード大学Ph.D.。専攻は、マクロ経済学。
 
【抜書】
●ノルム(p87)
 社会の人々が共有する相場観。デフォルト。
 物価や賃金について、「毎年これくらいの引き上げ」というノルムがあり、社会で共有されている。
 
●自然失業率仮説(p127」)
 インフレ率=インフレ予想ーa×失業率+b
 aとbは正の定数。国によって異なる値を取る。
 
●コールレート(p158)
 日本銀行は、かつては公定歩合の上げ下げで景気のコントロールをしていた。
 現在は、コールレートについて日銀が目標値を決め、その水準が実現できるように、資金量を調整している。
 公定歩合……日銀が銀行などにおカネを貸すときに適用される金利。
 コールレート……金融機関が相互に資金を融通するときに適用される金利。
 
●商品開発(p282)
 日本では、物価上昇局面で、商品の値上げをするのではなく、内容量を減らして価格を据え置きにすることがしばしば。
 しかし、そのための新しい容器を開発したり、商品開発の手間がかかる。
〔 残業してまで「商品開発」に取り組む技術者に頭が下がるなあと思いつつ、しかし、これは異様な光景だと感じました。原価の上昇分を価格に転嫁するというのは、通常の社会であれば、フェアな行為です。恥ずるところは何ひとつありません。しかし価格据え置きが常態化し、消費者もそれが当然と考える社会では、フェアな転嫁も許されず、その結果、深夜の「商品開発」が行われているのです。しかも、その「商品開発」は、消費者が決して喜ぶことのない類のものです。それどころかSNSは消費者の怒りで満ちています。表面価格の引き上げも小型化も、どちらも消費者を怒らせるだけです。
 あれだけの労力を本物の商品開発に使えば、これまで見たことのない新商品が生まれ、多くの消費者を喜ばせることができるはずなのにと悔しく思うと同時に、現場の方々の悔しさは私の比ではないだろうと想像しました。価格据え置きの常態化は、現場の技術者から前向きな商品開発に取り組む機会を奪うというかたちで、社会に歪みを生んでいるのです。〕
 
(2022/9/23)NM
 
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科学は「ツキ」を証明できるか 「ホットハンド」をめぐる大論争
 [スポーツ]

科学は「ツキ」を証明できるか――「ホットハンド」をめぐる大論争
 
ベン・コーエン/著 丸山将也/訳
出版社名:白揚社
出版年月:2022年6月
ISBNコード:978-4-8269-0238-0
税込価格:2,970円
頁数・縦:325, 9p・19cm
 
 バスケットボールでよく話題になる「ホットハンド」(ツキ)について、それが存在するのかどうか、科学的な研究・論文を逍遥するエッセー。
  バスケットボールにこだわらず(中心に据えつつ)、様々な分野について、「ツキ」について考察した末に、「ホットハンド」は存在する、という結論に至る。
 
【目次】
第1章 ホットハンドとバスケットボール
第2章 ホットハンドを生む環境とは
第3章 ホットハンドを研究する
第4章 ホットハンドを信じない人々
第5章 ギャンブラーの誤謬とホットハンド
第6章 データによって明らかになった事実
第7章 意外な真実
 
【著者】
Cohen, Ben (コーエン,ベン)
 スポーツジャーナリスト。『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙の記者として、バスケットボールやオリンピックをはじめとするスポーツに関する記事を多数執筆。ニューヨーク在住。
 
丸山 将也 (マルヤマ マサヤ)
 翻訳家。国際基督教大学教養学部卒業。
 
【抜書】
●ネイスミス(p126)
 バスケットボールは、1891年、マサチューセッツ州スプリングフィールドの国際YMCA(キリスト教青年会)にて、冬に行うスポーツとして生まれた。春は野球、秋はフットボールだった。
 発案者は、ジェームズ・ネイスミス。ルーサー・ギューリックというい学部長が、学生たちが冬にできる面白いスポーツを求めていた。
 
●ギャンブラーの誤謬(p178)
 同じ色が続くより、続かないほうに賭ける人が多い。確率は五分五分?
 
(2022/9/21)NM
 
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世界はさわらないとわからない 「ユニバーサル・ミュージアム」とは何か
 [社会・政治・時事]

世界はさわらないとわからない: 「ユニバーサル・ミュージアム」とは何か (1008;1008) (平凡社新書 1008)
 
広瀬浩二郎/著
出版社名:平凡社(平凡社新書 1008)
出版年月:2022年7月
ISBNコード:978-4-582-86008-5
税込価格:1,034円
頁数・縦:269p・18cm
 
 全盲の「触常者」から「見常者」へのメッセージ。健常者を見えないゆえの新たな世界に導く。
 
【目次】
はじめに 「さわれない」時代の「さわらない」人々へ
第1部 書く―手と頭を動かす
 失明得暗―新たな「ユニバーサル」論の構築に向けて
 コロナ禍と特別展―二〇二一年を振り返る
 踊るようにさわる、さわるように躍る
 二一世紀版「耳なし芳一」
 障害当事者発のソーシャル・インクルージョンの実現に向けて―誰もが楽しめる「さわる写真」の制作と鑑賞
  ほか
第2部 話す―口と体を動かす
 暮らしと文化の役割―服部しほり、マクヴェイ山田久仁子、安井順一郎との対話
 障害/健常境界はあるか―高橋政代との対話
 他者理解の先にあるもの―岩崎奈緒子との対話
 スポーツの楽しみ―竹下義樹との対話
 古典芸能ルーツと未来―味方玄との対話
  ほか
おわりに 「誰一人取り残さない社会」は幸せなのか
 
【著者】
広瀬 浩二郎 (ヒロセ コウジロウ)
 1967年、東京都生まれ。国立民族学博物館准教授。自称「座頭市流フィールドワーカー」「琵琶を持たない琵琶法師」。13歳の時に失明。筑波大学附属盲学校から京都大学に進学。2000年、同大学院にて文学博士号取得。専門は日本宗教史、触文化論。「ユニバーサル・ミュージアム」(誰もが楽しめる博物館)の実践的研究に取り組み、“触”をテーマとするイベントを全国で実施。21年、国立民族学博物館において特別展「ユニバーサル・ミュージアム―さわる!“触”の大博覧会」を担当。
 
【抜書】
●視覚特別支援学校(p20)
 昨今、各地の盲学校の名称が「視覚特別支援学校」に変更されている。
 
●高揚感(p68)
〔 そんな僕にとって、コロナ禍はピンチである。二〇二〇年以降、自宅や研究室から、オンラインの会議、シンポジウムに参加する機会が増えている。オンラインでの講演、研究発表も度々経験した。オンラインでは、さわる資料を回覧することができない。普段は会場の雰囲気を感じ、聴衆を意識しながら話をするが、オンラインではそれも難しい。パソコンやタブレットに向かって喋ると、どうしても話が単調となり、高揚感・達成感もない。オンラインにも慣れなければと思う一方、講演会や研究会が早く対面でできるようになることを願っている。〕
 
●マスク(p220)
〔 さわること一つを取っても、いろいろな仕方があります。多くの人は、どうしても手でさわることばかり思い浮かべがちですが、触覚が他の感覚と違う最大の特徴は、特定の器官に限らず全身に分布している点でしょう。椅子に座って背中やお尻で感じる心地よさも触覚ですし、顔だってそうです。たとえば僕はコロナ禍でマスクをするようになって、二〇年間歩き続けてきた通勤路で迷ってしまうことが何度かありました。その時に気づいたのは、自分は風の流れや太陽の熱、植物の匂いなど、普段からいろいろなものを顔で感じながら歩いていたんだということです。顔というのはその全体が「センサー」なのであって、それがマスクの布一枚で隔てられるだけで、感覚が狂ってしまうというのは貴重な発見でした。〕
 
(2022/9/19)NM
 
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新疆ウイグル自治区 中国共産党支配の70年
 [社会・政治・時事]

新疆ウイグル自治区-中国共産党支配の70年 (中公新書 2700)
 
熊倉潤/著
出版社名:中央公論新社(中公新書 2700)
出版年月:2022年6月
ISBNコード:978-4-12-102700-9
税込価格:946円
頁数・縦:252p・18cm
 
 中国の新疆ウイグル自治区の歴史を、漢代までさかのぼって概観した後、ジェノサイドや強制労働が疑われる現状に至った経緯を、中国共産党のふるまいをとおして詳述する。
 2021年6月、欧米諸国を中心に44か国が、新疆、香港、チベットの人権状況を懸念する共同声明を発表した際、69か国が中国擁護の声明に署名したという(p.216)。アジア、アフリカで中国への支持が目立つ。民主主義という「共通の価値観」は、全世界が共有するものではないらしい。
 
【目次】
序章 新疆あるいは東トルキスタンの二千年
第1章 中国共産党による統治の始まり 1949~1955年
第2章 中ソ対立の最前線として 1956~1977年
第3章 「改革開放」の光と影 1978~1995年
第4章 抑圧と開発の同時進行 1996~2011年
第5章 反テロ人民戦争へ 2012~2016年
第6章 大規模収容の衝撃 2016~2021年
終章 新疆政策はジェノサイドなのか
 
【著者】
熊倉 潤 (クマクラ ジュン)
 1986年、茨城県生まれ。2009年、東京大学文学部・歴史文化学科(東洋史)卒業。2011年、東京大学大学院法学政治学研究科(旧ソ連政治史)修士課程修了。同研究科(国際政治)博士課程在学中の2012年から2016年にかけて、イェール大学、ロシア人文大学、北京大学に留学。2016年、同博士課程修了。日本学術振興会海外特別研究員・政治大学(台湾)客座助研究員、アジア経済研究所研究員を経て、2021年から法政大学法学部国際政治学科准教授。
 
【抜書】
●新疆(pⅱ)
 新疆……清朝の支配下で、新しい疆域(領域)という意味でつけられた名称。
 
●新疆生産建設兵団(p48)
 1954年創設。
 平時には農業生産を行い、戦時には「国土防衛」にあたる一種の屯田兵。1950年の段階で新疆に駐留する解放軍部隊のうち、11万人が農業生産への従事を命じられていた。この部門と帰順した旧国民党軍が合併して兵団が発足した。さらに、旧東トルキスタン共和国の民族軍が改組された第五軍の一部も吸収したが、大部分は漢人からなる。
 
●上海ファイブ(p140)
 中国、ロシア、カザフスタン、キルギス、タジキスタンが参加する、国境地帯における信頼醸成と国境策定のための首脳会合。
 1999年には、分離主義、イスラーム原理主義と並んで、「テロリズム」を共通の敵とみなすようになった。
 2001年6月には、ウズベキスタンも加わって上海協力機構が成立。テロ活動、民族分離主義、宗教過激派に共同対処することが表明され、「反テロ」協力の枠組みとしての性質を強めた。
 
●タリム川(p150)
 タリム盆地西部で崑崙、天山の雪解け水を集めた後、タリム盆地の北縁を西から東に横断。海に到達せずに砂漠に消える。その末端は、「さまよえる湖」として有名なロプノール湖がかつて存在し、流路が変わることで消長を繰り返してきた。 
 20世紀後半になると開発の進展によって水量の減少が深刻になった。80年代、上流域のダムの建設、兵団による取水量の増加に対し、下流のロプノール県などでは、現地の農民の抗議が起こるようになった。90年代には、いよいよ下流の農牧業が立ち行かなくなった。
 
●共同体意識(p177)
 第二回中央新疆工作座談会(2014年5月28~29日)における習近平の重要講話。
 「各民族大団結の旗を高く掲げ、各民族のなかに国家意識、公民意識、中華民族共同体意識をしっかりと打ち立て、できるだけ各民族大衆に拠って立って団結し、中華民族の偉大なる復興を実現する中国の夢のために、あらゆる民族、公民が貢献し、祖国の繁栄、発展の成果を共に味わえるようにしなければならない」。
 「中華民族共同体意識」「中国の夢」という言葉が新たに登場。
 
●親戚制度(p187)
 漢人を主とする公務員を「親戚」と称させて、現地ムスリムの各家庭に割り当てる仕組み。中国語では「結対認親」などと言う。制度として確立されたものではない。
 ウイグル人の監視システム。「親戚」たちの集めた情報が、顔認証システムやスパイウェア・アプリなどの情報とともに「一体化統合作戦プラットフォーム」(IJOP)と呼ばれるシステムに集積された。「親戚」の振る舞いに反対したり、抵抗したりすれば「テロリスト」として報告され、痛い仕打ちを受ける。「職業技能教育訓練センター」行きも?
 親戚制度は、「親戚」を通じて民族団結の理念を現地住民に広めること、貧困家庭の就業を支援することなどを目的としていたといわれる。しかし現場では、「親戚」の傍若無人ぶりが、民族間の憎悪を生む悪循環が生じた。「親戚」の作った豚肉料理を食べさせられる、酒を飲まされる、「親戚」に同衾を迫られる、など。孫娘を守るために老人が「親戚」を殺したという事件も、枚挙にいとまがない。
 もともと、高齢者、障碍者など社会的弱者が公務員の「親戚」ということになり、支援を受ける取り組みとして知られていた。それを、陳全国がチベット自治区の書記をしていた時にチベット人を監視するために応用し、新疆にもたらした。2016年10月の「民族団結ひとつの家」活動動員大会を機に、親戚制度が大々的に展開されるようになった。
 陳全国……ウイグル自治区の党委員会書記。
 
●ディルラバ・ディルムラト(p233)
 ウイグル人女優。2021年に配信された「あなたは私の誇り」というドラマのヒロイン。ウイグル人としての属性を何ら示すことなく、中国語を話し、中国航天科技集団のエンジニアと恋愛し、結婚する、普通の中国人(漢人)女性を演じている。
 
(2022/9/12)NM
 
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トランプ信者」潜入一年 私の目の前で民主主義が死んだ
 [社会・政治・時事]

「トランプ信者」潜入一年 ~私の目の前で民主主義が死んだ~
 
横田増生/著
出版社名:小学館
出版年月:2022年3月
ISBNコード:978-4-09-388852-3
税込価格:2,200円
頁数・縦:463p・19cm
 
 2019年12月から1年間、米国の中西部ミシガン州にアパートを借り、共和党の事務所にボランティアとして登録して潜入取材を敢行し、ドナルド・トランプ大統領の選挙活動から落選までをレポートする。
 ミシガンではボランティアとして戸別訪問を行い、トランプの支援者集会やデモがあれば現地に行って取材する。身分を隠すために、ボランティア登録用に運転免許証を取得したとのことだが(パスポートだとジャーナリストだとバレる心配あり)、それでなくても目立つ東洋人の風貌、面が割れないかとヒヤヒヤものである。なんとか無事に「職務」を全うできたようである。
 大統領として、人間として、トランプのダメさ加減が徹底的にあぶり出される。副題の「私の目の前で民主主義が死んだ」とは、2021年1月6日の連邦議事堂襲撃事件に際しての著者の感想だが、トランプを支持する人間が7,100万人もいるという事実は、米国の民主主義に対する疑問を生じさせるに十分である。
 
【目次】
プロローグ アメリカの民主主義が死んだ日
第1章 トランプ劇場に魅せられて
第2章 冴えないバイデンが大統領候補になるまで
第3章 「共和党選挙ボランティア」潜入記(前編)
第4章 新型コロナVSトランプの泥仕合
第5章 BLM暴動で闇に響いた銃声
第6章 そして大統領は感染した
第7章 ウソと陰謀論の亡者を生んだ「屈辱の夜」
第8章 「共和党選挙ボランティア」潜入記(後編)
第9章 勝利を信じて疑わない“トランプ信者”の誕生
第10章 Qアノンと行く「連邦議事堂襲撃」への道
エピローグ 民主主義の守り方
 
【著者】
横田 増生 (ヨコタ マスオ)
 1965年、福岡県生まれ。関西学院大学を卒業後、予備校講師を経て、アメリカ・アイオワ大学ジャーナリズム学部で修士号を取得。93年に帰国後、物流業界紙『輸送経済』の記者、編集長を務める。99年よりフリーランスとして活躍。2020年、『潜入ルポ amazon帝国』で第19回新潮ドキュメント賞を受賞。
 
【抜書】
●大統領日報(p226)
 PDR。過去24時間にCIA(中央情報局)やFBI(連邦捜査局)などの情報機関が集めた機密情報。毎朝、大統領の執務机に置かれる。
 米国大統領の1日は、大統領日報を読むことから始まる。
 トランプは、ホワイトハウスで半世紀以上続くこの伝統を蔑ろにしてきた。大統領日報を読むことはほとんどなかった。国内外の危機について文書で報告しても、トランプに伝わる可能性は低い。トランプには文書を読む忍耐力がない?(ワシントン・ポスト紙、2018年2月9日)
 トランプは、1日の大半を、「重役時間」と称して、テレビを見たり、ツイッターに投稿したり、手当たり次第に政界の友人や知人などに電話をかけて話にふけって過ごす。「重役時間」は、8時から17時までの6割以上にのぼる。(アクシオス、19年2月3日)
 
●真実の誇張(p271)
〔 トランプにとって事実かどうかは重要ではなく、自分がよくみられるのなら多少のウソは許される。ウソも繰り返し言えば、人びとはそれを信じるようになる、と考える。〕
 
●Qアノン(p384)
 小児性愛者と闘う極右の陰謀論集団。2017年後半に始まった。米公共宗教研究所が21年にまとめた調査結果によると、全米に3,000万人以上の信奉者がいる。共和党や右派メディアの支持者に際立って多い。
 FBIは、Qアノンが国内テロの脅威になり得ると捉えている。
 Qとは、集団の主宰者を指す。プレイング・メディックとも。
 Qが出す質問に対し、匿名(アノニマス)の信者がその答えを探し出す。「ビル・クリントンとアル・ゴアの名前が入った南部連邦旗に1992年の文字が入った写真を提示して、これを調べよ」とか、「ジョン・F・ケネディの息子(1999年に飛行機事故で死亡)が、まだ生きていると思うか」等のようなお題。信者に向けた掲示板に、こうした投稿が5,000近くある?
〔 政界やメディア、金融界のエリートが、児童の性的な人身売買を行う悪魔崇拝者に操られている」など、Qアノンの基本的な陰謀論に同意する信奉者がアメリカ全体の14%に達した。彼らは同時に、トランプを悪魔崇拝者と闘う英雄として位置付ける。〕
 
(2022/9/9)NM
 
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すごい物理学講義
 [自然科学]

すごい物理学講義 (河出文庫)
 
カルロ・ロヴェッリ/著 竹内薫/監訳 栗原俊秀/訳
出版社名:河出書房新社(河出文庫 ロ3-1)
出版年月:2019年12月
ISBNコード:978-4-309-46705-4
税込価格:1,078円
頁数・縦:361, 18p・15cm
 
 物理学の発展の歴史と、現代物理学の理論について論考する。
 ニュートンは、「空間」と「時間」と「粒子」をまったく別のものとして理解していた。ファラデーとマクスウェルが「場」を発見し、粒子を場と粒子に分けた。アインシュタインは、特殊相対性理論(1905年)によって空間と時間を統合した「時空間」を提示し、一般相対性理論(1915年)によってさらに時空間と場を統合した「共変的な場」を示した。
 さらに量子力学では世界の事象(素材?)を「時空間」と「量子場」(粒子を統合)の二つにまとめ上げ、量子重力理論ではそれを「共変的量子場」に大統一しようとしている……。分かりますか?
 
【目次】
はじめに―海辺を歩きながら
第1部 起源
 第1章 粒―古代ギリシアの偉大な発見
 第2章 古典―ニュートンとファラデー
第2部 革命の始まり
 第3章 アルベルト―曲がる時空間
 第4章 量子―複雑怪奇な現実の幕開け
第3部 量子的な空間と相関的な時間
 第5章 時空間は量子的である
 第6章 空間の量子
 第7章 時間は存在しない
第4部 空間と時間を越えて
 第8章 ビッグバンの先にあるもの
 第9章 実験による裏づけとは?
 第10章 ブラックホールの熱
 第11章 無限の終わり
 第12章 情報―熱、時間、関係の網
 第13章 神秘―不確かだが最良の答え
 
【著者】
ロヴェッリ,カルロ (Rovelli, Carlo)
 1956年、イタリアのヴェローナ生まれ。ボローニャ大学で物理学を専攻、パドヴァ大学大学院へ進む。その後、ローマ大学、イェール大学、トレント大学などを経て、ピッツバーグ大学で教鞭をとる。現在は、エクス=マルセイユ大学の理論物理学研究室で、量子重力理論の研究チームを率いる。専門は「ループ量子重力理論」で、世界の第一人者。
 
竹内 薫 (タケウチ カオル)
 東京大学理学部物理学科、マギル大学大学院博士課程修了。NHK番組「サイエンスZERO」など、サイエンス作家として科学の面白さを伝え続ける。
 
栗原 俊秀 (クリハラ トシヒデ)
 翻訳家。京都大学総合人間学部、同大学院人間・環境学研究科修士課程を経て、イタリアに留学。カラブリア大学卒業。
 
【抜書】
●知の発展の阻害――プラトンとアリストテレス(p30)
〔 プラトンとアリストテレスはデモクリトスについてよく知っており、彼の思想に異議を申し立てた。デモクリトスとは相容れないこの二人の思想家が、それからの何世紀にもわたって、知の発展を阻害しつづけることになる。プラトンとアリストテレスは、デモクリトスの自然科学的な説明を退け、目的論的な見方から世界を理解しようとした。つまり、あらゆる事象の背景には、なんらかの目的があるという考え方である。それは後に、自然を理解するにはきわめて実効性に欠ける考え方であることが明らかになる。プラトンとアリストテレスは、善悪の観点から世界を理解しようとしたために、人間に関係する問題とそうでない問題を混同してしまったのである。〕
 
●より良い知の歴史――デモクリトス(p43)
〔 残念ながら、わたしたちに残されたのはアリストテレスばかりである。西欧の思想はアリストテレスを基礎に再建された。そこにデモクリトスの居場所はない。おそらく、デモクリトスの著作がすべて残り、アリストテレスの著作がすべて散逸した方が、わたしたちの文明はより良い知の歴史を築けただろう。〕
 
●三次元球面(p125)
 アインシュタインは、1917年に、宇宙の果てをめぐる問題に対して、三次元球面という解答を提示した。この指摘をもって、現代の宇宙論は幕を開ける。
 三次元球面……有限な容積(二つの球体の容積の和)をもちながら、「果て」のない存在。二つの球体は互いを取り巻き、しかも同時に、互いに取り巻かれている。一方の球体の外に出れば、必ずもう一方の球体の中に入る。
 
●詩と科学(p136)
〔 イタリアで知的放浪の日々を送っていた時期に、アインシュタインは『神曲』の天国篇に出会っただろうか? 至高の詩人の限りない想像力は、「宇宙は有限であるが果てはない」とするアインシュタインの直観に影響を与えただろうか? わたしはいずれの問いにも答えられない。しかしこの事例は、直接的な影響の有無よりも、もっと別の事柄を示唆しているように思われる。つまり、偉大な科学と偉大な詩は類似の世界観をもっており、時として同一の直観にいたりさえするということである。わたしたちの文化は、科学と詩を別個のものと見なしているが、こうした捉え方はばかげている。世界の複雑さと美しさは、詩と科学の双方によって明らかにされる。この二つを切り離して考えるかぎり、世界を曇りない目で見つめることはできない。〕
 
●普遍的な傑作(p139)
 〔この世には、わたしたちの心を深く揺さぶる、普遍的な傑作というものがある。〕
 モーツァルト『レクイエム』、『オデュッセイア』、システィーナ礼拝堂、『リア王』……。
 
●プランク長(p198)
 マトヴェイ・ブロンスタインが導き出した、世界に存在する最小の長さ。
 10のマイナス33乗センチメートル。1センチの10億分の一の10億分の一の100万分の一。
 
●現時点での最良の解(p341)
〔 なにひとつ確信がもてないなら、科学が語る言葉をどうやって信用したらいいのだろう? 答えは単純である。科学が信用に値するのは、科学が「確実な答え」を教えてくれるからではなく、「現時点における最良の答え」を教えてくれるからである。わたしたちは科学をとおして、差し当たっての最適解を手に入れる。科学という鏡には、さまざまな問題と向き合うための最良の方法が映し出されている。科学はつねに、知に再検討を加え、知を更新していこうとする。こうした性格があるからこそ、私たちは科学を信じ、科学が「目下のところ利用可能な最良の解」を示していると判断できる。もし、それよりさらに優れた解が見つかれば、その新しい解が科学になる。より良い解を発見したアインシュタインが、ニュートンの誤りを明らかにしたときも、科学に備わる「考えうる最良の解を提供する能力」に疑義が呈されたわけではない。むしろ、アインシュタインの仕事によって、この能力はさらに強化されたのである。
 したがって、科学が提示する解答は、決定的であるから信用に値するのではない。わたしたちがそれを信用するのは、その時点で利用できる最良の解だからである。科学の解は常に更新の対象であり、私たちはいまだそれを決定的と見なしていない。だからこそ、わたしたちは科学の答えを、「現時点での最良の解」と表現する。科学に確固たる信頼を与えているのは、わたしたちの無知の自覚である。
 わたしたちに必要なのは、確実性ではなく、信頼性である。目を閉じて、どんなものでも信じることを受け入れるなら、確実性を手に入れた気分になるかもしれない。だが真の確実性は、今までも、これからも、わたしたちにはけっして手の届かないところにある。科学のもたらす解答は、ほかのなりよりも信頼の置ける解答である。なぜなら科学は、確実な解答ではなく、もっとも信頼の置ける解答を追求する営みだから。〕
 
(2022/9/7)NM
 
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中国減速の深層 「共同富裕」時代のリスクとチャンス
 [経済・ビジネス]

中国減速の深層 「共同富裕」時代のリスクとチャンス (日本経済新聞出版)
 
福本智之/著
出版社名:日経BP日本経済新聞出版
出版年月:2022年6月
ISBNコード:978-4-296-11378-1
税込価格:2,420円
頁数・縦:375p・19cm
 
 2050年ごろまでの中国の経済を、さまざまな観点から精緻に予測する。
 中国の経済規模は、基本的には減速する(すでに、減速している)が、経済成長がマイナスになることはなく、低位で発展し続け、米国と肩を並べるところまで行く、と予想する。
 ただ、習近平政権が続くことを前提としているので、政権交代があるのか、また、その際に新政権が習近平の政策を踏襲するのかどうかによっても大きく変わるだろう。
 
【目次】
はじめに―中国経済を等身大に評価する
第1章 2035年までのGDP倍増構想
第2章 共同富裕と改革開放・イノベーションの行方
第3章 人口動態と経済成長
第4章 デジタル化の伸長と成長への貢献
第5章 脱炭素と経済成長は両立するか?
第6章 金融と不動産のリスクの在処
第7章 米中対立とデカップリングの懸念
第8章 中長期成長に関する三つのシナリオ
おわりに―日本企業の取るべき戦略、スタンス
 
【著者】
福本 智之 (フクモト トモユキ)
 大阪経済大学経済学部教授。1989年京都大学法学部卒業、同年日本銀行入行。2000年在中国大使館一等書記官、2010年日本銀行国際局総務課長、2011年国際局参事役(IMF世界銀行東京総会準備を担当)、2012年北京事務所長、2015年北九州支店長、2018年国際局審議役(アジア担当総括)、2020年国際局長を歴任、2021年日本銀行退職。同年4月より現職。経営共創基盤シニアフェロー、東京財団政策研究所研究員。
 
【抜書】
●第二次産業(p36)
 ぺティ=クラークの法則。
 一国の経済が発展する過程で、経済の中心となる産業が第一次産業から第二次産業、第三次産業へとシフトしていく。
 それぞれの産業の労働生産性は、第一次産業より第二次産業のほうが高く、第三次産業は第二次産業より低い。このため、第一次産業から第二次産業へのシフトが中心の間は経済成長率は上昇するが、第二次産業から第三次産業へのシフトに伴い、経済成長率は鈍化する。
 
●共同富裕(p43)
 〔習近平政権の最も重要な政策の一つが共同富裕だ。従来の成長重視によりもたらされた歪みを是正し、イノベーション、調和、グリーン、開放、分配の公平性などにより重点を置いた持続可能な成長を通じて、皆で豊かになる共同富裕を実現しようとしているのだ。これは中国式のSDGs(Sustainable Development Goals)を掲げた、と言ってもよいだろう。〕
 
●都市人口(p55)
 中国の都市人口比率は、1982年の21%から2021年の65%にまで上昇した。国連の予想では、2050年に80%までしか上昇しない。
 国連によると、2020年時点の日本の都市人口比率は92%、2050年には95%まで上昇すると予想。
 
●出生率1.1(p122)
 10年に一度の人口センサス(日本の国勢調査に該当)によると、2020年の合計特殊出生率が1.3だった。
 2021年には、1.1程度にまで低下したと見込まれる。韓国は、2021年、0.81だった。
 国連が2019年に発表した世界人口予測によれば、これまで20年間、中国の合計特殊出生率は1.6~1.7で安定的に推移していた。
 中国では、一人っ子政策を見直し、2015年には夫婦両方とも一人っ子だった場合は子二人を生むことを認め、2016年には条件を設けずに子二人を認める「二人っ子政策」に転換した。
 2021年には夫婦一組当たり三人まで出産可能とする「三人っ子政策」に移行した。
 
●2023年(p126)
 2020年の総人口は14.1億人。2010年対比0.7億人の増加。
 2022年1月の国家統計局の発表によれば、2021年の総人口は、わずかに48万人の増加にとどまった。
 この傾向が続けば、2022年もしくは2023年には、中国の総人口は減少に転じる。
 2100年には、5.73億人(育禍人口研究の低位予想)~10.65億人(国連予測2019の中位予測)になると見られる。インドは15億人になると予想されている(国連予測2019年)。
 
●農民工(p143)
 中国の都市人口比率(2021年)は65%だが、都市戸籍を持つ人の比率は45%。20%2.6億人は、都市戸籍を持たない出稼ぎ労働者(農民工)。
 都市戸籍を持たない農民工は、公的な教育、医療、年金などの公的サービスを十分に受けられない。たとえば、子供を公立の学校に就学させられないので、農民工向けの非公式な私立の学校に通わせることが多い。もしくは、子供を農村に残し、祖父母に世話を任せて出稼ぎに来る夫婦も。
 
●灰色のサイ(p279)
 高い確率で大きな問題が起こると認識されているにもかかわらず、軽視されがちなリスク。
 「不動産は我が国の金融リスクに関する最大の灰色のサイだ」(2021年12月、郭樹清中国銀行保険監督管理委員会主席)。
ブラックスワン……事前にほとんど予測できず、起きた時の衝撃が大きいリスク。
 
●2035年(p339)
 福本による基本シナリオでは、2035年、中国のGDP規模は米国の0.96倍となり、その後2050年頃まで米中の経済規模はほぼ同程度で推移する。おそらく、米中の経済規模が似たようなレベルで推移する時代が長く続く。
 この程度の差は、為替レートの違いでいくらでも変わる。
 
(2022/9/5)NM
 
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