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人体大全 なぜ生まれ、死ぬその日まで無意識に動き続けられるのか
 [医学]

人体大全―なぜ生まれ、死ぬその日まで無意識に動き続けられるのか―
 
ビル・ブライソン/著 桐谷知未/訳
出版社名:新潮社
出版年月:2021年9月
ISBNコード:978-4-10-507231-5
税込価格:2,970円
頁数・縦:497, 8p・19cm
 
 最新の研究成果をもとに、ヒトの体について網羅的に記述したエッセー。これまでの常識や知見を覆す内容が満載である。
 それでも、人体は謎に満ちている。何も分かっていないと言っても過言ではない。睡眠についてさえ、「不可欠なことはわかっているが、なぜなのかはよくわからない」(p.335)。
 
【目次】
ベネディクト・カンバーバッチのつくりかた
わたしたちは毎日皮膚を脱ぎ捨てている
微生物との「甘い生活」
脳はあなたそのものである
頭のなかの不思議な世界
あなたの「入り口」は大忙し
ひたむきで慎み深い心臓
有能な「メッセンジャー」ホルモン
解剖室で骨と向き合う
二足歩行と運動
ヒトが生存可能な環境とは
危険な「守護神」免疫系
深く息を吸って
食事と栄養の進化論
全長九メートルの管で起こっていること
人生の三分の一を占める睡眠のこと
わたしたちの下半身で何が起こっているのか
命の始まり
みんな大嫌いだけど不可欠な「痛み」
まずい事態になったとき
もっとまずい事態(つまり、がん)になったとき
よい薬と悪い薬
命が終わるとはどういうことか
 
【著者】
ブライソン,ビル (Bryson, Bill)
 1951年、アイオワ州デモイン生れ。イギリス在住。幅広いテーマでベストセラーのあるノンフィクション・ライター。王立協会名誉会員。これまで大英帝国勲章、アヴェンティス賞(現・王立協会科学図書賞)、デカルト賞(欧州連合)、ジェイムズ・ジョイス賞(アイルランド国立大学ダブリン校)、ゴールデン・イーグル賞(アウトドア・ライターならびに写真家組合)などを授与されている。
 
桐谷 知未 (キリヤ トモミ)
 翻訳家。東京都出身、南イリノイ大学ジャーナリズム学科卒業。
 
【抜書】
●860億個(p81)
 ヒトの脳にある神経細胞(ニューロン)の数は860億個。2015年、ブラジルの神経科学者スザーナ・エルクラーノ=アウゼルが分析。
 それまでは、1千億個の神経細胞があるとされていた。
 
●脳の縮小(p103)
 今日のヒトの脳は、1万~1万2千年前より10%ほど縮んでいる。1,500㎤から1,350㎤へ。世界中で同時に起こっている。
 
●味覚地図(p140)
 長年の間、教科書などでも舌の味覚地図を載せていて、決まった領域がそれぞれ基本味を感じるとされていた。甘味は舌の先、酸味は舌の縁、苦みは舌の奥。
 原因は、1942年、ハーヴァード大学の心理学者だったエドウィン・G・ボーリングが、ドイツの研究者の論文を誤読して書いた教科書にさかのぼる。
 しかし、1万個の味蕾は舌のちょうど真ん中あたりの何もない場所を除いて、舌全体に分布している。ほかに口蓋と喉の奥にも見られる。そのため、飲んだ薬が喉の奥を降りていくときに苦みを感じる。
 
●脾臓(p169)
 一つ一つの赤血球は、約4カ月生きる。それぞれが約15万回も体を巡り、150kmあまり走行したあと、スカベンジャー細胞に回収され、脾臓に送られて処分される。毎日1千億個の赤血球が廃棄される。それが、便を茶色くしている主な成分。
 
●尿(p204)
 かつて、尿は無菌だと思われていた。最近の研究では、膨大な数ではないにせよ、尿の中にもいくらかの微生物がいることが分かっている。
 
●足の骨(p222)
 ヒトの足は、ものをつかむように設計された。そのため、多数の骨がある。
 あまり重いものを支えるようには設計されなかった。それが、立ったり歩いたりした長い一日の終わりに足が痛む理由の一つ。
 ダチョウは、足と足首の骨を融合させることでこの問題を解決した。直立歩行に適応するため、2億5千万年をかけている。ヒトの40倍。
 
●16億回(p243)
 ほぼすべての哺乳類は、平均寿命まで生きれば約8億回の心拍数を記録する。
 人間は、25年あまりで8億回の心拍数を数え、さらに50年進み続けておよそ16億回に達する。
 平均寿命が伸びたおかげで哺乳類の標準パターンから外れたのは、ここ10世代から12世代のこと。
 
●タバコのフィルター(p286)
 1950年代の初め、タバコの煙の害を減らすためにフィルターが導入された。
 フィルターのコストは置き換わった分のタバコより安いにもかかわらず、フィルター付きタバコに割増価格を付けた。
 しかし、ほとんどのフィルターはタバコそのものに比べてタールやニコチンを除去するわけでもなく、メーカーは味の低下を補うために強いタバコを使い始めた。結果として、1950年代後半には、平均的な喫煙者はフィルターが発明される前よりも多くのタールとニコチンを摂取することになった。この時点で、平均的なアメリカの成人は年間4千本のタバコを吸っていた。
 
●胃(p322)
 胃は、筋肉の収縮で内容物を押しつぶし、塩酸に浸すことで、科学的にも物理的にも少しばかり消化に貢献しているが、その貢献は不可欠というより、役に立っているという程度。多くの人は、胃を切除しても深刻な結果に陥ることはない。
 本当の消化と吸収は、ずっと下、つまり小腸で行われている。
 胃の重要な仕事のひとつは、多くの微生物を塩酸に浸して殺すこと。
 
●冬眠と睡眠(p336)
 冬眠と睡眠は、神経学と代謝の観点から見れば、まったく別のもの。
 冬眠は脳震盪を起こしたか麻酔をかけられた状態に近い。当事者は意識を失っているが、眠ってはいない。冬眠している動物は、長い無意識の中で毎日数時間、いつもの睡眠をとる必要がある。
 クマは、実際には冬眠していない。体温は正常近くにとどまり、簡単に目を覚ます。
 本当の冬眠は、深い無意識状態になり、体温が大幅に下がる(0度近くになることも多い)。
 
●視交叉上核(p341)
 ヒトの眼には、杆体と錐体に加えて、第三の光受容細胞がある。感光性網膜神経節細胞。視覚とは関係なく、明るさを感知する。昼か夜かを知るためだけに存在する。
 その情報は、脳内の視床下部に埋め込まれたピンの頭ほどの小さな二つの束になったニューロン(視交叉上核)に伝えられる。視交叉上核(各半球にひとつずつ)が、概日(がいじつ)リズムを制御している。
 1999年、インペリアル・カレッジ・ロンドンの研究者ラッセル・フォスターが発見。
 
●ヘイフリック限界(p471)
 1961年、フィラデルフィアのウィスター研究所の若き研究者レナード・ヘイフリックは、培養したヒトの幹細胞が約50回しか分裂できず、そのあとはなぜか生きる力を失ってしまうことを発見。
 ヘイフリック限界。細胞が老化して死ぬようにプログラムされている。
 培養した細胞を凍結して保存し、解凍すると中断されていたその時点から「老化」が再開された。
 10年後、カリフォルニア大学サンフランシスコ校の研究者チームが、「テロメア」を発見。ヘイフリック限界に根拠を与えた。
 しかし、テロメアの短縮は、老化の過程のほんの一部を占めるにすぎないことが明らかになった。老化には、テロメア以外にもずっと多くの要素が関わっている。
 
●アルツハイマー病(p480)
 アルツハイマー病に関係しているのは、βアミロイドとタウタンパク質。
 βアミロイドというタンパク質の断片がプラークと呼ばれる塊になって蓄積され、脳の正常な機能を停止する。
 タウタンパク質のもつれた小線維が蓄積し、「タウ・タングル」を形成する。
 
(2022/9/30)NM
 
〈この本の詳細〉


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