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奇跡のフォント 教科書が読めない子どもを知って-UDデジタル教科書体開発物語
 [ 読書・出版・書店]

奇跡のフォント   教科書が読めない子どもを知って―UDデジタル教科書体 開発物語
 
高田裕美/著
出版社名:時事通信出版局
出版年月:2023年4月
ISBNコード:978-4-7887-1871-5
税込価格:1,980円
頁数・縦:237p・19cm
 
 教育現場などで文字を読むのが苦手な子たちに好評な書体、「UDデジタル教科書体」を開発した著者による、半生記と開発秘話。書体の開発という、特殊な世界の様子がよく分かる。
 「この本はどんな書体を使っているのだろう」と、ふと疑問に思って奥付を見たら、しっかりと書かれていました。
 本文書体は、和文がUDデジタル教科書体R/B、欧文がUD DigiKyo Latin R/B。ノンブルがUDデジタル教科書体R。キャプションがTBカリグラゴシックR。採用書体まで載せる、珍しい奥付でした。最初手に取った時、見慣れない書体だなぁと感じたゆえんがここにありました。
 
【目次】
第1章 私が書体デザイナーになるまで
第2章 写植からデジタルの時代へ―師・林隆男氏のもとでの修行と突然の別れ
第3章 「社会の穴」を埋めるフォントを作れ!―TBUDフォントの完成と会社の解散
コラム1 誰一人取り残さない学校や社会を実現するために
第4章 教育現場で使いやすいフォントを追求する―UDデジタル教科書体リリースまでの長い道のり
コラム2 UDデジタル教科書体が切り拓いた新しいフォントの可能性
第5章 フォントで誰もが学習できる環境を作る―読み書き障害の子どもたちにUDデジタル教科書体を届ける
コラム3 “できない子”と勘違いされる子どもたちを減らしたい
特別章 フォントができること―UDデジタル教科書体の活用現場から
 
【著者】
高田 裕美 (タカタ ユミ)
 女子美術大学短期大学グラフィックデザイン科卒業後、ビットマップフォントの草分けである林隆男氏が創立したタイプバンクに入社。書体デザイナーとして「TBUD書体シリーズ」「UDデジタル教科書体」などをはじめとし、様々な分野のフォントの企画・制作を手掛ける。32年間、タイプバンクでの書体デザイナーの経験を活かし、2017年よりモリサワにて教育現場における書体の重要性や役割を普及、推進する部署に所属し、セミナーやワークショップ、執筆、取材など広く活動中。
 
【抜書】
●タイポス(p31)
 武蔵野美術学校(現・武蔵野美術大学)の学生だった桑山弥三郎と伊藤勝一が卒業制作用にデザインした書体。それを見た林隆男が、「これは世にない斬新な書体だから、写植で使える文字盤にしよう」と提案。長田克己を加えた4名で書体デザイナー集団の「グループ・タイポ」を結成。開発した書体は、「タイポの書体」を意味する「タイポス」と命名。株式会社写研に売り込んだところ、採用され、1969年に文字盤としてリリースされた。
 リリース当時は平仮名とカタカナだけだった。文字を12のエレメント(てん、よこせん、たてせん、むすび、さげ、わ、まわり、あげ、はね、かえり、かぎ、まる)に分け、そのエレメントを組み合わせて各文字を構成。かな特有の曲線はできるだけ水平・垂直になるように整えられ、ふところを広くとることで明るい印象になっている。
 かなをタイポスに変えるだけで、紙面の雰囲気ががらりと変わり、モダンで垢抜けた印象になる。『an・an』や『non-no』で本文書体に採用されると、一躍話題となり爆発的なヒットを記録した。
 タイポスは、「デザイナーがデザインした書体」という点でも画期的だった。それまでは、書体といえば活字書体を指し、「職人が作るもの」だった。
 タイポスが大きな注目を集めたことで、「日本語でも新しい書体をデザインできるのだ」という意識が社会に形成され、次々に新しい書体がデザインされて、社会に流通するようになる。
 
●カリグラゴシック(p75)
 まるで手書きのカリグラフィーペンで書いたようなシャープさと、上品な優しさが共存したフォント。TBカリグラゴシックの名で、モリサワから販売されている。UDデジタル教科書体は、このフォントの骨格をベースとして開発された。
 林隆男の盟友であった島野猛という写植の原字のデザイナーが、タイプバンクに持ち込んだもの。タイプバンクのオリジナルフォントとして開発。
 メインとなる文字は、島野のデザイン・コンセプトがメンバーに伝わるよう、最初は、1文字ずつ手書きでスケッチを起こした。合理的に漢字を作るため、まずはモデルとなる100字程度の文字を作り、その文字を手本としてパーツの元となる1,500字を作り、その文字からパーツを抽出して、さらに何千字へと増やしていく。
 林の死後、1997年に「TBカリグラゴシックR」が完成。のちに、「E」「U」もリリースする。
 
●書体のデザイン(p184)
 活版印刷の活字の文字は、ハンコのように圧をかけて紙に写すので、線が太くなることを想定して、あらかじめ種字は細く作られている。
 同じ種字をそのまま写真植字にすると、細すぎて読みづらい。
 写真植字のために書かれた原字をそのままフォントデータにしてデジタル・デバイスで表示させると、解像度によってラスタライズのときにジャギーがでたり、汚れになったりする。
 このように、文字が表示される技術や方法によって、適切な書体デザインも変わっていく。
 
(2024/5/4)NM
 
〈この本の詳細〉
 

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