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働かないアリに意義がある
 [自然科学]

ヤマケイ文庫 働かないアリに意義がある
 
長谷川英祐/著
出版社名:山と溪谷社(ヤマケイ文庫)
出版年月:2021年9月
ISBNコード:978-4-635-04920-7
税込価格:935円
頁数・縦:220p・15cm
 
 すでに読んだことのある本を、そうとは知らずに手に取ってしまった。前回読んだのは10年以上前である。まったく既視感がなかった! 忘れっぽいのである。
 しかしながら、本書には「ヤマケイ文庫版あとがき」があって、著者の人生観がにじみ出ていて面白かった。そこからと、本文からも、前回に素通りしてしまった部分のみを抜き書きした。
 
【目次】
序章 ヒトの社会、ムシの社会
第1章 7割のアリは休んでる
第2章 働かないアリはなぜ存在するのか?
第3章 なんで他人のために働くの?
第4章 自分がよければ
第5章 「群れ」か「個」か、それが問題だ
終章 その進化はなんのため?
 
【著者】
長谷川 英祐 (ハセガワ エイスケ)
 進化生物学者。北海道大学大学院農学研究院准教授。動物生態学研究室所属。1961年生まれ。大学時代から社会性昆虫を研究。卒業後、民間企業に5年間勤務したのち、東京都立大学大学院で生態学を学ぶ。主な研究分野は社会性の進化や、集団を作る動物の行動など。特に働かないハタラキアリの研究は大きく注目を集めた。
 
【抜書】
●熟練(p41)
 あるアリでは、生涯の初期に出会った仕事をずっとやり続けるということを示した研究がある。
 アリでは、一つの仕事ばかりやり続けても、仕事の効率が上がるわけではない。熟練はない。アリゾナ大学のドーンハウス博士らがムネボソアリで実験。
 ある仕事への偏向は、初期に何を経験したか、だけで決まっているのかもしれない。
〔 もし、社会性昆虫の個体のあいだに特定の仕事に対する「才能」の違いがあるとすると、才能のある者を向いた仕事に振り向ける別のメカニズムがあったほうが、有利になるはずです。しかしムシの場合はこのような複雑な制御をするよりも、能力差のない個体の集まりとしてコロニーがあり、誰がどの仕事をやろうともコロニーとしての効率に差が出ないようなシステムのほうが、コストがかさまないのかもしれません。〕
 
●うっかり者(p45)
 1匹のアリAが餌を見つけると、巣までのフェロモンの道をつくる。他のアリたちは、その道に沿って餌にたどり着く。
 しかし、中には「うっかり者」のアリがいて、道をそれてしまう。
 コンピュータ・シミュレーションによって、うっかり者をある割合で混ぜ、餌の持ち帰り効率がどう変わるかを調べた。正確にAを追尾するものばかりがいる場合よりも、間違える個体がある程度存在する場合のほうが、餌持ち帰りの効率があがった。
 「間違える個体による効率的ルートの発見」という効果がある。最初に餌を発見したAの曲がりくねったルートよりも、うっかり者によって、ショートカットするような効率のいいルートが発見されることがある。うっかり者のフェロモンを追って、新ルートが使われるようになる。
 
●オス20~30匹(p67)
 ミツバチのコロニーには、女王は1匹しかいないが、その女王は20~30匹くらいのオスと交尾している。
 反応閾値の違いは、父系の遺伝子型によって決まっている。
 
●コカミアリ(p144)
 コカミアリと、ウメマツアリというアリの女王は、ワーカーを作る時には有性生殖を行ってオスの精子を入れるが、次世代の女王を作る時だけ自分のクローンを生む。
 オスを生む時には、父親の遺伝子のみが入っている。つまり、父親のクローン。
 
●イノベーション(p204)
〔 他にも、雑誌の記事やインタビューの依頼が増えた中で特に印象に残ったのはあるインタビューです。科学雑誌に、学者にインタビューした内容をコラムとして書いている記者から取材を受け、インタビュー後の雑談で、「長谷川先生は今後どういう研究をしていきたいと思っていますか?」と聞かれたので、「誰も知らないことを見つけて、それが本当だと証明したい」と答えたら、「私は、100人以上の日本の科学者にこの質問をしましたが、そんなことを言った人はいません」と言われました。
 愕然として、「じゃあ、なんと言うのですか?」と聞いたら「理屈なんか向こう(=欧米)のやつらが考えるから、それが本当だと示していれば飯が食える、と言いますよ」と言われ、心底驚きました。日本からなかなかイノベーションが出ないのも、むべなるかな、です。〕
 
●教師とつきあわない(p205)
〔 子供の頃から個性的な人間を矯正しようとする日本の同調圧力社会では、人と違う考え方をする人間は潰されます。幸い私は、小学校3年生くらいの時に「教師とつきあわないのがベスト」と悟って実行したので、ここまで生き延びてこられましたが。〕
 
(2024/5/9)NM
 
〈この本の詳細〉


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