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新疆ウイグル自治区 中国共産党支配の70年
 [社会・政治・時事]

新疆ウイグル自治区-中国共産党支配の70年 (中公新書 2700)
 
熊倉潤/著
出版社名:中央公論新社(中公新書 2700)
出版年月:2022年6月
ISBNコード:978-4-12-102700-9
税込価格:946円
頁数・縦:252p・18cm
 
 中国の新疆ウイグル自治区の歴史を、漢代までさかのぼって概観した後、ジェノサイドや強制労働が疑われる現状に至った経緯を、中国共産党のふるまいをとおして詳述する。
 2021年6月、欧米諸国を中心に44か国が、新疆、香港、チベットの人権状況を懸念する共同声明を発表した際、69か国が中国擁護の声明に署名したという(p.216)。アジア、アフリカで中国への支持が目立つ。民主主義という「共通の価値観」は、全世界が共有するものではないらしい。
 
【目次】
序章 新疆あるいは東トルキスタンの二千年
第1章 中国共産党による統治の始まり 1949~1955年
第2章 中ソ対立の最前線として 1956~1977年
第3章 「改革開放」の光と影 1978~1995年
第4章 抑圧と開発の同時進行 1996~2011年
第5章 反テロ人民戦争へ 2012~2016年
第6章 大規模収容の衝撃 2016~2021年
終章 新疆政策はジェノサイドなのか
 
【著者】
熊倉 潤 (クマクラ ジュン)
 1986年、茨城県生まれ。2009年、東京大学文学部・歴史文化学科(東洋史)卒業。2011年、東京大学大学院法学政治学研究科(旧ソ連政治史)修士課程修了。同研究科(国際政治)博士課程在学中の2012年から2016年にかけて、イェール大学、ロシア人文大学、北京大学に留学。2016年、同博士課程修了。日本学術振興会海外特別研究員・政治大学(台湾)客座助研究員、アジア経済研究所研究員を経て、2021年から法政大学法学部国際政治学科准教授。
 
【抜書】
●新疆(pⅱ)
 新疆……清朝の支配下で、新しい疆域(領域)という意味でつけられた名称。
 
●新疆生産建設兵団(p48)
 1954年創設。
 平時には農業生産を行い、戦時には「国土防衛」にあたる一種の屯田兵。1950年の段階で新疆に駐留する解放軍部隊のうち、11万人が農業生産への従事を命じられていた。この部門と帰順した旧国民党軍が合併して兵団が発足した。さらに、旧東トルキスタン共和国の民族軍が改組された第五軍の一部も吸収したが、大部分は漢人からなる。
 
●上海ファイブ(p140)
 中国、ロシア、カザフスタン、キルギス、タジキスタンが参加する、国境地帯における信頼醸成と国境策定のための首脳会合。
 1999年には、分離主義、イスラーム原理主義と並んで、「テロリズム」を共通の敵とみなすようになった。
 2001年6月には、ウズベキスタンも加わって上海協力機構が成立。テロ活動、民族分離主義、宗教過激派に共同対処することが表明され、「反テロ」協力の枠組みとしての性質を強めた。
 
●タリム川(p150)
 タリム盆地西部で崑崙、天山の雪解け水を集めた後、タリム盆地の北縁を西から東に横断。海に到達せずに砂漠に消える。その末端は、「さまよえる湖」として有名なロプノール湖がかつて存在し、流路が変わることで消長を繰り返してきた。 
 20世紀後半になると開発の進展によって水量の減少が深刻になった。80年代、上流域のダムの建設、兵団による取水量の増加に対し、下流のロプノール県などでは、現地の農民の抗議が起こるようになった。90年代には、いよいよ下流の農牧業が立ち行かなくなった。
 
●共同体意識(p177)
 第二回中央新疆工作座談会(2014年5月28~29日)における習近平の重要講話。
 「各民族大団結の旗を高く掲げ、各民族のなかに国家意識、公民意識、中華民族共同体意識をしっかりと打ち立て、できるだけ各民族大衆に拠って立って団結し、中華民族の偉大なる復興を実現する中国の夢のために、あらゆる民族、公民が貢献し、祖国の繁栄、発展の成果を共に味わえるようにしなければならない」。
 「中華民族共同体意識」「中国の夢」という言葉が新たに登場。
 
●親戚制度(p187)
 漢人を主とする公務員を「親戚」と称させて、現地ムスリムの各家庭に割り当てる仕組み。中国語では「結対認親」などと言う。制度として確立されたものではない。
 ウイグル人の監視システム。「親戚」たちの集めた情報が、顔認証システムやスパイウェア・アプリなどの情報とともに「一体化統合作戦プラットフォーム」(IJOP)と呼ばれるシステムに集積された。「親戚」の振る舞いに反対したり、抵抗したりすれば「テロリスト」として報告され、痛い仕打ちを受ける。「職業技能教育訓練センター」行きも?
 親戚制度は、「親戚」を通じて民族団結の理念を現地住民に広めること、貧困家庭の就業を支援することなどを目的としていたといわれる。しかし現場では、「親戚」の傍若無人ぶりが、民族間の憎悪を生む悪循環が生じた。「親戚」の作った豚肉料理を食べさせられる、酒を飲まされる、「親戚」に同衾を迫られる、など。孫娘を守るために老人が「親戚」を殺したという事件も、枚挙にいとまがない。
 もともと、高齢者、障碍者など社会的弱者が公務員の「親戚」ということになり、支援を受ける取り組みとして知られていた。それを、陳全国がチベット自治区の書記をしていた時にチベット人を監視するために応用し、新疆にもたらした。2016年10月の「民族団結ひとつの家」活動動員大会を機に、親戚制度が大々的に展開されるようになった。
 陳全国……ウイグル自治区の党委員会書記。
 
●ディルラバ・ディルムラト(p233)
 ウイグル人女優。2021年に配信された「あなたは私の誇り」というドラマのヒロイン。ウイグル人としての属性を何ら示すことなく、中国語を話し、中国航天科技集団のエンジニアと恋愛し、結婚する、普通の中国人(漢人)女性を演じている。
 
(2022/9/12)NM
 
〈この本の詳細〉


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