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渡り鳥たちが語る科学夜話 不在の月とブラックホール、魔物の心臓から最初の詩までの物語
 [自然科学]

渡り鳥たちが語る科学夜話
 
全卓樹/著
出版社名:朝日出版社
出版年月:2023年2月
ISBNコード:978-4-255-01324-4
税込価格:1,760円
頁数・縦:191p・19cm
 
 さまざまな分野に及ぶ、文学的科学エッセー20編。
【目次】
1 天体
 アステカの陰陽神
 フォンターナと金星の月
  ほか
2 極微
 シミュレーション仮説と無限連鎖世界
 デーモンコアと科学の原罪
  ほか
3 街
 帝国興亡方程式
 オマル・ハイヤームの墓
  ほか
4 生命
 石に刻まれた銀杏
 赤い砂漠の妖精の輪
  ほか
 
【著者】
全 卓樹 (ゼン タクジュ)
 京都生まれの東京育ち、米国ワシントンが第三の故郷。東京大学理学部物理学科卒、東京大学理学系大学院物理学専攻博士課程修了、博士論文は原子核反応の微視的理論についての研究。専攻は量子力学、数理物理学、社会物理学。量子グラフ理論本舗/新奇量子ホロノミ理論本家。ジョージア大、メリランド大、法政大等を経て、高知工科大学理論物理学教授。
 
【抜書】
●ネイト(p19)
 フランチェスコ・フォンターナ、17世紀ナポリの法律家。
 自ら磨いたレンズで高性能の望遠鏡を作り、法務の傍ら数年にわたる観測の末、月表面の詳細な地図を作りあげた。『新しい天界と地界の観測』。
 1645年、金星の月を発見した。金星の8分の1の大きさ。
 その後も100年以上の間、カッシーニやラグランジェなどの天文学者に追認され、「ネイト」の公称を与えられた。斃れた兵士を守る、古代エジプトの戦の女神。
 17世紀終盤には、ネイトの軌道要素も確定。直径は金星の4分の1、公転周期は11日、公転半径は金星半径の67倍、公転面は黄道面に対して64度傾いている。
 1760年代、ハーシェルが何度も試みたがネイトを一度も見つけられないと表明。
 1761年に5人の観測家による18例の観測。1764年、2名による8例。1768年、コペンハーゲンの1例のみ。その後、観測記録は途絶えた。
 1887年、ベルギー科学アカデミーが詳細な報告書を作成。これまでの観測記録は金星の近くの恒星の見間違い。現在では、金星には惑星が存在しないと確定。
 
●シロアリ(p157)
 シロアリはゴキブリの近縁種。アリはハチの近縁種。
 一つのシロアリの巣には、王と女王が1匹ずつ。次世代を担う王女たち、王子たち以外は、労働者または兵士。労働者にも兵士にもオスとメスの両方がいるが、不妊化されていて番うことはなく、働きぶりに男女の区別はない。
 シロアリは草食。労働シロアリは鋭い顎を持たない。兵シロアリは攻撃用の顎を持ち、別の巣の兵シロアリを攻撃する。
 
(2024/4/28)NM
 
〈この本の詳細〉


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まちがえる脳
 [自然科学]

まちがえる脳 (岩波新書)
 
櫻井芳雄/著
出版社名:岩波書店(岩波新書 新赤版 1972)
出版年月:2023年4月
ISBNコード:978-4-00-431972-6
税込価格:1,034円
頁数・縦:229, 7p・18cm
 
 これまでの研究の成果によって明らかになってきた脳の機能をもとに、脳が間違える仕組みとその意義を解説する。
 とは言え、脳について明らかになってきたことはごくわずかで、人工知能、人工脳などで人間の脳をシミュレーションするのはほぼ不可能である。
 
【目次】
序章 人は必ずまちがえる
 ヒューマンエラーの実態
 対策の限界
 脳の何が問題なのか?
第1章 サイコロを振って伝えている?―いい加減な信号伝達
 働いている脳の信号伝達
 どのように調べればわかるのか?
 ニューロンは協調して働くしかない
第2章 まちがえるから役に立つ―創造、高次機能、機能回復
 脳活動のゆらぎと創造
 記憶はまちがえてこそ有用である
 まちがえる神経回路だから回復できる
第3章 単なる精密機械ではない―変革をもたらす新事実
 ニューロンとシナプスがすべてではない
 心が脳の活動を変える
 「病は気から」は本当か?
 AIは脳になれない
第4章 迷信を超えて―脳の実態に迫るために
 脳は迷信の宝庫
 研究者の責任
 急速に解明されているのか?
 脳は手強い
 
【著者】
櫻井 芳雄 (サクライ ヨシオ)
 1953年生まれ。京都大学大学院文学研究科博士課程中退。広島大学助手、富山医科薬科大学助教授、京都大学霊長類研究所助教授、生命学研究所客員助教授、京都大学大学院文学研究科教授、同志社大学大学院脳科学研究科教授などを経て、京都大学名誉教授、同志社大学嘱託研究員、医学博士。専門は行動神経科学、実験心理学。
 
【抜書】
●医療ミス(p11)
 2016年に医学専門誌に掲載された論文。
 米国での医療ミスによる死者は年間25万人。全死因の第3位。
 年間の死者を5~20万人と見積もっている調査もある。
 
●800億(p26)
 ヒトの脳には約1,000億のニューロンがある。そのうち800憶は小脳にある。
 小脳のニューロンは、シナプスの数が比較的少ない。
 大脳には100~200億のニューロンがあり、そのほとんどは大脳皮質にある。シナプスの数が多く、一つのニューロンが数千以上のシナプスを持っている。
 
●デフォルト脳活動ネットワーク(p67)
 脳内では、ゆらぎを持つリズミカルな脳波が常に現れる。ニューロンの大集団の同期発火と、それを生み出す膜電位の同期的な変動が常に起きている。→ デフォルト脳活動。
 デフォルト脳活動を現す複数の脳部位は、互いに同期して活動することもある。→ デフォルト脳活動ネットワーク。
 
●30秒(p70)
 課題に対して間違った反応を示した場合、fMRIの結果を見ると、前頭前野や補足運動野などの広範な部位の活動が、その30秒以上前から変化していた。脳の活動を見ていれば、ボタンを押すほぼ30秒前からエラーを予測できた。
 そのようなエラーを予期する活動を示す脳部位は、自発的なゆらぎを一緒に示すデフォルト脳活動ネットワークの部位とほぼ重なっていた。
 自発的なゆらぎを含む特定の活動が現れているときに課題を行うと、エラーが起きやすい。
 
●脳トレ(p186)
 海外で実施された大規模調査。
 高齢者が脳トレを実施しても、認知機能や記憶機能が改善するという事実は確認されず、認知症の予防効果もなかった。
 脳トレを実施すると前頭葉の血流量が増えるというデータは事実であるが、脳の血流量の増大(ニューロン集団の活動量の増大)は、必ずしも機能の向上にはつながらない。
 
●アストロサイト(p190)
 血管の壁とニューロンの間には、グリア細胞のアストロサイトがある。これを通った物質だけが血液中からニューロンに届く。血液脳関門。
 この関門を通れる物質は、酸素、ホルモン、ブドウ糖、アミノ酸、アルコール、特殊な薬物、など。
 
(2024/4/28)NM
 
〈この本の詳細〉


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