SSブログ

資本主義は私たちをなぜ幸せにしないのか
 [社会・政治・時事]

資本主義は私たちをなぜ幸せにしないのか (ちくま新書)
 
ナンシー・フレイザー/著 江口泰子/訳
出版社名:筑摩書房(ちくま新書 1740)
出版年月:2023年8月
ISBNコード:978-4-480-07565-9
税込価格:1,210円
頁数・縦:313p・18cm
 
 16世紀以来の資本主義の歴史を振り返りつつ、搾取と収奪、人種・ジェンダー差別、社会的再生産、環境破壊、などについて、資本主義の宿命と矛盾について論じる。
 人種差別とジェンダー差別がクローズアップされているが、今、最もホットなのは宗教対立ではないだろうか? これについも「共食い資本主義」という観点から論じることはできないだろうか。
 
【著者】
フレイザー,ナンシー (Fraser, Nancy)
 1947年生まれ。アメリカの政治学者。ニューヨーク市立大学大学院で博士号取得。ニュー・スクール・フォー・ソーシャル・リサーチの政治・社会科学教授。専門は、批判理論、ジェンダー論、現代フランス・ドイツ思想。
 
江口 泰子 (エグチ タイコ)
翻訳家。法政大学法学部卒業。
 
【抜書】
●共食い資本主義(p8)
 カニバル資本主義。
 (1)人間が人肉を食べる儀式。資本家階級は、自分たち以外のなにもかもを食い物にする。
 (2)動詞形「カニバライズ」には、装置や事業を作り出すか維持するために、別の装置や事業から重要な要素を抜き取るという意味がある。資本主義経済は、非経済分野の重要な要素をとことん食い尽くす。
 (3)「カニバライズ」は、天文分野で、天体が引力によって別の天体の質量を吞み込むときにも使う。世界システムの周辺に位置する自然と社会の富を、資本が自らの軌道に引きずり込む。
 (4)ウロボロス。己の尻尾を咥えて円環をなす蛇。己の存在を支える社会、政治、自然を貪り食う資本主義システム。
 〔資本主義社会とは、餌に喰いつき、喰い荒そうとする、制度化された狂乱状態だと捉えられる――そのメインディッシュは私たちだ。〕
 
●制度化された社会秩序(p43)
〔 もし資本主義が経済システムではなく、倫理的生活の物象化でもないとするならば、いったい何だろうか。たとえば封建制度と同じような「制度化された社会秩序」と捉えるのが適切だ、というのが私の答えである。資本主義をそのように理解すると、構造的な分離が、それも特に本書で突き止めてきた制度的な分離が浮かび上がる。〕
 
●資本主義の歴史、四つの体制(p80)
 (1)重商資本主義体制……16-18世紀。土地や財産の収奪。
 (2)リベラルな植民地資本主義体制。19世紀。中核で行われる「搾取」と、植民地での「収奪」。
 (3)国家管理型資本主義体制。両大戦間から20世紀中ごろ。
 (4)金融資本主義体制。現代。債務による蓄積。ブレトン・ウッズ体制の崩壊(1971年)(p217)。政府なき統治(p220)。
 
●インドセンダン(p178)
 常緑樹。南アジアで薬として使われてきた。
 最近、そのゲノムを解読したとして、ある大手製薬会社がインドセンダン由来の医薬品について特許を主張。
 
●生態学的社会主義(p195)
〔 どこかの目的地に本当にたどり着けるのか。それとも地球温暖化が進んで、もはや地球の気温は沸点に達してしまうのか。これについては、もちろん今後の課題だ。だが、その運命を回避するための最大の希望はやはり、反資本主義で環境という枠を超えた対抗ヘゲモニーのブロックを築くことにある。そのブロックが具体的に何を目指すべきかは、いまはまだわからない。だが、もしその目的地に名前をつけなければならないとすれば、私が選ぶのは「生態学的社会主義〈エコ・ソーシャリズム〉」である。〕
 
●政治的混乱(p200)
 資本主義のどの発展段階も、政治的混乱を引き起こし、政治的混乱によって変化してきた。
〔 重商資本主義を周期的に搔き乱し、最終的に破滅に導いたのは、周辺で多発した奴隷の反乱と本国で起きた民主化革命だった。次のレッセ・フェール(自由放任主義)のリベラルな植民地資本主義の時代には、丸一世紀のうちの半分の時期が、政治的な混乱続きだった。例えば社会主義者による革命の多発、ファシストのクーデター、二度にわたる世界大戦、植民地主義に抵抗する無数の蜂起。やがて二度の大戦と戦後を経て、国家管理型資本主義に道を譲った。この資本主義もまた政治的危機と無縁ではなかった。反植民地主義を掲げた大規模な反乱にさらされ、あちこちでニューレフトが台頭する。長引く冷戦を経験し、核兵器開発競争が勃発し、やがて新自由主義の攻撃に屈した。そして、グローバル化した現在の金融資本主義体制を迎えた。〕
 
(2023/10/19)NM
 
〈この本の詳細〉


nice!(2)  コメント(0) 
共通テーマ:

nice! 2

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。