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進化が同性愛を用意した ジェンダーの生物学
 [自然科学]

進化が同性愛を用意した: ジェンダーの生物学
 
坂口菊恵/著
出版社名:創元社
出版年月:2023年6月
ISBNコード:978-4-422-43046-1
税込価格:1,760円
頁数・縦:223p・19cm
 
 同性間性行動は、人間のみならず、他の生物の間でも例外的な行動ではないらしい。
 
【目次】
1 同性愛でいっぱいの地球
2 ヒトの同性愛を生物学から探る
3 生物学的説明の限界
4 ジェンダーの生物学
5 ヒューマン・ユニバーサルな同性愛
6 宗教戦争としてのホモフォビア・トランスフォビア
7 多様性は繁栄への途
 
【著者】
坂口 菊恵 (サカグチ キクエ)
 1973年、函館生まれ。函館中部高校卒業後、自宅での浪人生活を経て二十歳で家出、上京。数年のフリーター生活後、東京大学文科3類に入学し、東京大学総合文化研究科広域科学専攻で博士(学術)を取得。東京大学教養教育高度化機構での特任教員を経て、大学改革支援・学位授与機構研究開発部教授。専門は進化心理学、内分泌行動学、教育工学。
 
【抜書】
●一夫一妻(p20)
 哺乳類では、一夫一妻システムをとる種は3~9%しかない。雌雄が常時一緒にいる生物は少ないのである。
 
●コンパニオンシップ(p23)
 オスのゾウは、よく同性と「コンパニオンシップ」という長期的な関係を結ぶことが知られている。「同胞関係」?
 たいがいは1対1であるが、2頭の「若衆」を従えた年長者もいる。
 オスとメスがしばらく2頭限りの時を過ごすことを「コンソートシップ」と言う。ゾウでは、異性間のコンソートシップはせいぜい15分くらいしか続かない。
 
●ライオン(p36)
 ライオンでは、コンパニオンシップ関係にあるオス同士、メス同士の絆は長く、強い。彼らは性的な睦み合いはまずしないようだ。そして、6割のオスはメスと一緒の生活を経験することなく一生を終える。
 
●ハンメル(p39)
 ヨーロッパに生息するアカシカは、ほとんどのオスが枝角を持っているが、角を持たない少数のオスが存在する。ハンメル。
 ハンメルの外見はメスにそっくりだが、メスにとてもよくもてる。健康で戦いにも優れており、体格も一般のオスよりも良い。もっとも順位の高いオスになりやすい。
 「ペルーク」と呼ばれる、枝分かれしない袋角のままの雄ジカもいる。精巣が発達せず、概ね生殖能力がない。
 角を持つメスが見つかることもある。
 アカシカ、ムース、ワピチといったシカ類には、角に性感帯があるらしい。こすられると興奮して、射精に至ることもある。オス同士が角を互いにこすり合わせたり、自ら草むらにこすりつけたりしている。
 
●フランシス・ゴールトン(p56)
 チャールズ・ダーウィンのいとこ。
 個人の特性を形作るのは自然か環境か(Nature or Nurture)を調べた。天才はもともと才能豊かな家系に生まれやすい。
 優生学(eugenics)という言葉を作った。才能豊かな人間同士を結婚させ、さらに優秀な子孫を産ませることを提案した。
 
●パルテノジェネシス(p107)
 parthenogenesis。メスのみで子孫を残すことのできる単為生殖。ギリシャのパルテノン神殿の「パルテノン」。処女、未婚の乙女を指す。処女神のための神殿だったからとも、処女が仕えたからとも言われる。
 哺乳類以外の脊椎動物の中で、80種ほどが確認されている。コモドオオトカゲ、シュモクザメをはじめとするさまざまなサメ、など。
 米国のニューメキシコ州に生息するハシリトカゲ類のうち、三分の一の種はメスしか存在しない。女性ホルモンの周期に応じてメス役とオス役を交代して疑似的な交尾行動を行い、その刺激により産卵する。
 
●アマミトゲネズミ、トクノシマトゲネズミ(p116)
 Y染色体が消滅してしまった哺乳類は、南西諸島で2種、中東で1種見つかっている。
 アマミトゲネズミとトクノシマトゲネズミは、オスは存在し、精巣も発達する。通常の哺乳類でY染色体の上に載っている、精巣の発達を促す遺伝子はなくなっているが、その先の性分化に必要な遺伝子は保存されており、別の引き金によって発現を始める。
 一方、近くに棲むオキナワトゲネズミは、XX/XYの性決定方式のままである。
 
●サラマンダー、ギンブナ(p117)
 北米に棲むサラマンダー(トラフサンショウウオ属)は、雌雄が存在する集団とは別に、メスのみで繁殖する集団がいる。しかも、種として500万年以上存続してきた。平均的な有性生殖の種の寿命は100~200万年。
 自切から尾の再生スピードが、メスのみの集団のほうが雌雄で生殖した集団より1.5倍速い。単為生殖のほうが、生物として頑強。
 メスだけで繁殖するサラマンダーは、ときどき他種のオスが生息地に残していった精子からDNAを盗んで自分のゲノムに加える。遺伝子組み換え。結果、持っている染色体の数は個体によってまちまち。
 日本のギンブナもメスのみで繁殖する。ときどき近縁のフナと交雑することで、繁栄を続けてきたらしい。
 
●ブチハイエナ(p120)
 雌雄区別のつかない外性器を持っている。
 メスは胎児期から高濃度の男性ホルモンを分泌しており、偽ペニスと偽陰茎を持って生まれてくる。さらに、男性ホルモンの影響で膣の開口部がふさがっており、ペニスの先の尿道口が膣口を兼ねている。
 偽ペニスは勃起する。また、偽ペニスから赤ん坊を分娩するため、初産の際に少なからぬメスが偽ペニスが裂けて死んでしまう。偽ペニス内の産道はへその緒よりもずっと長いため、6割ほどの赤ん坊は生まれてくる際に窒息死してしまう。
 
●フリーマーチン(p125)
 羊や牛では、1~2%の割合で姓をはっきり区別できない個体が生まれてくる。
 胎盤を共有する双子で、オス・メスだと、メスのほうが「フリーマーチン」と呼ばれる状態となる。外性器がメスだが、内性器はオスとメスの両方を有し、不妊。
 双子は血管組織を共有しているために、オスのきょうだいの体内の精巣から分泌された男性ホルモンが、メスの体をオス化してしまう。
 
●直観像記憶(p186)
 一瞬見た情景をそのままイメージとして脳内に保存できる能力。
 三島由紀夫は、成人後も直観像記憶を持っていたとされる。
 
●過書字(p188)
 ハイパーグラフィア。極端に物書きに執着する認知の特異性。
 三島由紀夫は中学生くらいから驚異的な語彙力を持ち、大量の執筆活動をこなした。ハイパーグラフィアだったと思われる。
 
●双極性障害(p192)
 双極性障害では、本人および親兄弟、子が科学や芸術の職に就いている確率が全般として高い。親族内で比較すると、本人が科学の職に就いている可能性は若干低い。
 
【ツッコミ処】
・同性間性行為(p46)
〔 同性愛迫害の根拠はキリスト教だったのだが、18世紀啓蒙主義の影響で、宗教犯罪は法律の処罰対象から除かれていく。それに伴い、フランスでは同性間性行為は非犯罪化され、イギリスでも1861年に死刑から終身刑へと緩和されている。〕
  ↓
 「同性間性行為」という表現が使われたのはこの1か所のみ。他はすべて「同性間性行動」の語が使われている。この個所は法律に関することなので、行動の中身をはっきりさせるために「性行為」(つまり「セックス」)と表現しているのか??
 
(2023/10/29)NM
 
〈この本の詳細〉


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