SSブログ

エビはすごいカニもすごい 体のしくみ、行動から食文化まで
 [自然科学]

エビはすごい カニもすごい-体のしくみ、行動から食文化まで (中公新書 2677)
 
矢野勲/著
出版社名:中央公論新社(中公新書 2677)
出版年月:2021年12月
ISBNコード:978-4-12-102677-4
税込価格:990円
頁数・縦:264p・18cm
 
 エビ・カニに魅せられた生物学者が、生態から料理まで、エビ・カニの百科を語る。
 読めばエビ・カニが好きになる。
 
【目次】
第1章 エビ・カニとはどのような生き物なのか?
第2章 エビ・カニの五感と生殖
第3章 さまざまなエビたちの生態と不思議な行動
第4章 さまざまなカニたちの生態と不思議な行動
第5章 エビ・カニの外骨格の秘密
第6章 エビ研究の最前線から―交尾と生殖の解明
第7章 赤い色を隠すエビ・カニたち
第8章 私が愛したエビ・カニたち
第9章 エビ・カニの肉質の特徴と食文化
 
【著者】
矢野 勲 (ヤノ イサオ)
 1943年、大分県生まれ。1965年、農林省水産大学校卒業、1972年、北海道大学大学院水産学研究科博士課程修了。農林省水産庁真珠研究所研究員、海洋研究所(米国)訪問研究員、農林水産省水産庁養殖研究所室長、福井県立大学海洋生物資源学科教授等を経て、同大学名誉教授。専攻、海洋動物培養学、動物生理学。水産学博士。
 
【抜書】
●十脚目(p2)
 エビとカニの共通点は、胸脚(鋏脚と歩脚)を左右5対合計10本持つこと。
 違いは、エビが腹部の下に遊泳肢を5対、尾節に尾肢が備わっていること。カニは腹節と尾節が背甲(甲羅)で覆われた頭胸部の下に折りたたたまれ、遊泳肢を持たないこと。
 動物界 ― 節足動物門 ― 甲殻亜門 ― 軟甲綱 ― 真軟甲亜綱 ― ホンエビ上目
   ― 十脚目 ― 根鰓亜目(こんさいあもく)
       └ 抱卵亜目
《根鰓亜目》 約550種
 クルマエビ科……クルマエビ、コウライエビ、ホワイトシュリンプ
 サクラエビ
《抱卵亜目》 約1万4720種
 短尾下目……ズワイガニ、ガザミ、ブルークラブ、モクズガニ、サワガニ、キンチャクガニ 
 異尾下目……タラバガニ、ヤシガニ、ヤドカリ
 イセエビ下目……イセエビ、フロリダロブスター
 センジュエビ下目……センジュエビ
 アナジャコ下目……アナジャコ
 ザリガニ下目……ニホンザリガニ、アメリカザリガニ、アメリカンロブスター
 ムカシエビ下目……ムカシエビ
 コエビ下目……テッポウエビ、クリーナーシュリンプ
 オトヒメエビ下目……オトヒメエビ
 
●平衡胞(p35)
 へいこうほう。第一触覚の基部にある、外に向かって開口している小さな袋状のもの。開口部は粗い剛毛と、キチンの薄い層によって保護されているため、平衡胞は外部環境に対して効果的に閉じられている。内部は、楕円形で湾曲しており、その壁面に感覚毛を持つ感覚細胞が数十個並び、その上にエビ・カニが自身でハサミを使って挿入した数個の砂粒が置かれている。
 脱皮すると砂粒がなくなるため、新たに砂粒を挿入する。〔この習性を利用して、あらかじめ飼育容器の底に鉄の粒を敷いておくと、エビ・カニは脱皮後、砂粒の代わりに鉄の粒を平衡胞の内部に挿入する。この後、磁石を使って鉄の粒を動かすと、エビ・カニは逆さまなどさまざまな姿勢をとる。さらに平衡胞の内部に微量の水を流し、感覚毛を揺れ動かすと、さまざまな姿勢をとることから、この器官が体のバランスをとるための平衡器官として機能していることが明らかになった。〕
 
●ヘモシアニン(p38)
 エビ・カニの血液は、採取直後は無色透明。空気中の酸素に触れてしだいに青い色に変わっていく。
 鉄と結合したヘモグロビンを持たず、銅と結合したヘモシアニンを持っているため。ヘモシアニンは赤血球中ではなく、血漿中に存在する。ヘモシアニンが酸素を運ぶ。
 
●性転換(p91)
 エビの中には、成長の途中で性転換する種が30種ほどいる。すべてオスからメスに性転換する。ほとんどがタラバエビ科。ホッコクアカエビ、ボタンエビ、トヤマエビ、ホッカイエビ、など。
 ホッコクアカエビ(甘えび)は、体長およそ9cm。富山以北の日本海や北海道沿岸の水深100~600mの砂泥底に棲息。寿命は長くて9~10年。孵化後4~5年たつとすべてオスからメスに性転換する。精巣を卵巣へと変化させる。
 
●松葉ガニ(p103)
 ズワイガニは、雄と雌で呼び名が異なる。
 大きな雄は、兵庫県の日本海側や鳥取県などの山陰で「松葉ガニ」と呼ぶ。
 福井県では越前ガニ、石川県では加能ガニ、京都府では間人ガニ(間人〈たいざ〉漁港から水揚げ)と呼ぶ。
 小さな雌ガニは、福井県ではセコガニ(勢いよく子どもを産む「勢子」に由来)、石川県では香箱ガニ(お茶の道具でお香を入れる「香箱」に由来)、京都府丹後地方ではコッペガニ。
 雄は甲羅の横幅が15cm、雌は7~8cmほど。雌は、棲息する水深200~600mの海底が水温1~3℃と低いため、腹節に抱卵した卵が孵化するのに1年~1年6か月と長くかかり、その間まったく脱皮できず、成長できない。
 
●キチン分解細菌(p127)
 水底には、生物の死骸などが堆積するため、水中よりはるかに多くの従属栄養細菌がいる。
 その中には、エビ・カニの外骨格を形成しているキチンを最終的にグルコースにまで分解するキチン分解細菌や、タンパク質を最終的にアミノ酸にまで分解する細菌などがいる。
 キチン分解細菌の攻撃から守るため、エビ・カニは最表層の表クチクラの構成成分を、キチンではなくリポタンパク質にしている。しかし、擦れや傷によってリポタンパク質の表クチクラが傷つき、キチンからできている外クチクラが露出すると細菌にやられてしまう。地面と接触する歩脚の表面積を最小にするため、歩脚の先端は棘のように尖った形状をしている。さらに、尖った爪先の部分は、際立って外骨格が厚くなっている。
 
●外骨格(p141)
〔 エビ・カニは、体を守るために外骨格を硬く堅固な組織にしただけでなく、比重を高くするために石灰化し、しばしば起きる飢餓に備えての栄養物質を貯蔵し供給する機能を持たせ、さらに外骨格に沈着したカルシウムを自由に出し入れするという、まさにすごいと思うほどのダイナミックな組織にしているのである。〕
 
●石干見(p147)
 いしひみ、いしひび。古代の人々が漁をするために作った人工的な潮溜まり。
 干潟に半円形などさまざまな形になるよう、無数の大小の石を高さ0.6~1.5mほどに積み重ね、隙間に水が漏れないように泥や海藻などを詰めて、潮が引くと内側に海水が溜まるようにした。
 全長は数百mから数kmにもなった。
 昭和の中ごろまで、遠浅の海を持つ長崎や大分、奄美大島、沖縄などの海岸に数多く残っていた。現在は、近代的な漁法の導入と干潟での海苔養殖の発展、さらに干潟の埋め立てに伴って減少した。幻の漁法となりつつある。
 
●50%(p232)
 エビ・カニは、脱皮時に古い殻を破って出てくるときに、体重の50%ほどの海水を飲み、古い殻の下にできた皺のよった新しい殻を風船のように膨らませる。
 脱皮直後のエビ・カニは、可食部の水分が多く、身が詰まっていない。
 
●華屋与兵衛(p243)
 にぎりずしを考案。
 すしの起源は川魚の保存食。米などの穀類を炊いたものと魚を塩で一緒に漬け、乳酸菌による米の発酵が酸度のある乳酸を生み出す結果、pHが低下し抗菌性が増すことを利用して魚を保存した。BC4世紀ごろに東南アジアの山地民族の間で生まれ、日本には奈良時代のころに入ってきた。アユやフナなどの「なれずし」。1年ほど乳酸発酵させた。
 延宝年間(1673-1681年)に、飯に酢と塩で味付けした「早ずし」ができた。飯に酢をならすのに一晩置かなくてはならなかったことから、「一夜ずし」とも呼ばれた。
 田沼時代には、料理茶屋が流行し、それまでの上方風の調理法から江戸前の高級な魚介類を使った江戸風の調理法が考案され、文化・文政期に両国の華屋与兵衛によってにぎりずしが考案された。
 すしは、保存食から酢を加えた飯と江戸前の新鮮な魚介類を使った嗜好品に変わった。
 
●蟹(p252)
 漢字の「蟹」の成り立ち。4000年ほど前、長江の治水工事のために朝廷より派遣された巴解(はかい)という役人が故あって最初にチュウゴクモクズガニを食べたことに由来。「解さんに踏みつけられた虫」という意味で「蟹」という感じが生まれた。
 「虫」は、一般に無脊椎動物全般を意味する。
 
●えびいろ(p253)
 日本語の「えび」の語源。エビの体色が山葡萄(やまぶどう)の熟した赤紫色の「葡萄色(えびいろ)」に似ているから、という説がある。
 
(2023/1/21)NM
 
〈この本の詳細〉

nice!(1)  コメント(0) 
共通テーマ:

nice! 1

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。