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直立二足歩行の人類史 人間を生き残らせた出来の悪い足
 [自然科学]

直立二足歩行の人類史 人間を生き残らせた出来の悪い足 (文春e-book)
 
ジェレミー・デシルヴァ/著 赤根洋子/訳
出版社名:文藝春秋
出版年月:2022年8月
ISBNコード:978-4-16-391583-8
税込価格:2,860円
頁数・縦:437p・20cm
 
 直立歩行をテーマに人類の歴史およびホミニンの化石発掘史をたどる。その結果として、これまで定説となっていた人類史に異なる光を照らす。
 これまで必死に化石人類の名前を覚えようと努力してきたが、なかなか記憶できなかった。本書は、二足歩行を解明してきた歴史を系統立てて解説してくれるので、種の名前も比較的スムースに頭に入ってくる。さて、今度こそ、記憶に定着するだろうか?
 
【目次】
第1部 二足歩行の起源
 人間の歩き方
 Tレックスとカロライナの虐殺者と最初の二足歩行動物
 「人類が直立したわけ」と二足歩行に関するその他の「なぜなぜ物語」
  ほか
第2部 人間の特徴
 太古の足跡
 一マイル歩く方法は一つではない
 広がるホミニン
  ほか
第3部 人生の歩み
 最初の一歩
 出産と二足歩行
 歩き方はみな違う
  ほか
 
【著者】
デシルヴァ,ジェレミー (DeSilva, Jeremy)
 ダートマス大学人類学部准教授。最初期の類人猿や初期人類の移動方法と、彼らの足・足首を専門とする古人類学者である。人類史における直立二足歩行の起源と進化を研究し、アウストラロピテクス・セディバとホモ・ナレディの発見・調査にも参加した。コーネル大学卒業後、1998年から2003年にボストン科学博物館でサイエンス・エデュケーターとして勤務。その後ボストン大学、ミシガン大学などを経て現職に。『直立二足歩行の人類史―人間を生き残らせた出来の悪い足』が初の著書となる。
 
赤根 洋子 (アカネ ヨウコ)
 翻訳家。早稲田大学大学院修士課程修了(ドイツ文学)。
 
【抜書】
●タウング・チャイルド(p31)
 1925年、ウィットウォータースランド大学(南アフリカ)のレイモンド・ダートの研究室に届いた化石を「アウストラロピテクス・アフリカヌス」と命名。250万年前の子供の頭蓋骨。世界で初めて発見された二足歩行の初期人類の化石。
 
●アルコサウルス類(p46)
 鳥類とワニ類の共通祖先。初期のアルコサウルスの化石は、2億7000万~2億4500万年前(ペルム紀中期から三畳紀前期)のもの。
 アルコサウルスの系統は、2億4500万年前、ワニ類と恐竜(やがて鳥類に)に枝分かれして進化。
 「カロライナの虐殺者」と呼ばれたカルヌフェクス・カロリネンシスは、2億3000万年前のワニ類。体長9フィート(約2m74cm)、鋭くとがった歯が口いっぱいに生えていた。時に2本足で立ち上がって歩くこともあった。
 ワニの最初期の祖先は華奢な造りで、足の速い動物だった。
 
●ダチョウ、エミュー(p52)
 ダチョウやエミューなどの足や足首には筋肉がない。長い腱があるのみ。筋肉は腰に付いている。
 人間の足や脚の腱は、類人猿より長いが、足や脚の筋肉量がダチョウやエミューに比べて遥かに多い。そのため、彼らほど速く走れない。
 
●オロリン・トゥゲネンシス(p99)
 2000年末、フランスの古人類学者ブリジット・セヌとマーティン・ピックフォードが、ケニアのバリンゴ盆地のトゥゲンヒルズ地域で600万年前の地層からホミニンの化石を発見。2001年1月、「オロリン・トゥゲネンシス」と命名。
 腕の骨の筋付着部や湾曲した長い指は、樹上生活に適応。
 大腿骨頸部が長く、二足歩行していたと推測される。
 
●アルディピテクス・カダバ(p101)
 2002年、エチオピアの古人類学者ヨハネス・ハイレ=セラシエが、「アルディピテクス・カダバ」の化石を発見。エチオピアの600万~500万年前の地層。オロリン同様、中新世のホミニン。
 足の骨の親指が長く、湾曲していた。物がつかめる足。しかし、母指球と接続していた根元部分に対して上向きに傾斜。ヒトと同様、つま先で地面を蹴りだすとき、足首を反り返らすことができた。
 
●サヘラントロプス・チャデンシス(p101)
 2001年7月19日、フランス人古生物学者ミシェル・ブリュネのチームのチャド人大学院生ジムドウマルバイエ・アホウタが、チャドのジュラブ砂漠で発見。霊長類の下顎骨と数本の歯、押しつぶされて変形した頭骨。
 「サヘラントロプス・チャデンシス」(通称:トゥーマイ。現地のゴラン語で〈生命の希望〉の意味)と命名。700万~600万年前。人類の系統とチンパンジーの系統が分かれた頃。
 脳の大きさはチンパンジー程度。顔と後頭部はゴリラに酷似。犬歯は比較的小さい(ホミニンの特徴)。大後頭孔(脊髄の出口)は、頭蓋骨骨底部に位置。常に直立していた?
 
●アルディピテクス・ラミダス(p110)
 1994年9月、カリフォルニア大学バークレー校の古人類学者ティム・ホワイトと元教え子諏訪元(げん)およびベルハネ・アスフォーは、エチオピアのアファール州アラミスで440万年前の化石を発見。アルディピテクス・ラミダスと命名(「ラミド」は、アファール語で「根」の意味)。最初はアウストラロピテクス属と発表したが、半年後に訂正。ルーシーよりもはるかに類人猿に近かったため。ルーシーより100万年古い。
 2009年に「サイエンス」誌に論文を発表。大人の雌と思われる「アルディ」の骨の分析により、森林に生息していたと判明。樹上生活に適応していたが、少なくとも時折は二足歩行していた。
  二足歩行は森林で始まった。
 
●小指(p114)
 アルディの足の親指は、長く横に張り出していて、チンパンジーに似ている。小指側は、ヒトの足に似ている。ヒトの足は、小指側から親指側に向かって進化した。
 ヒトの足の親指は、最近のほんの200万年の間に短く、真っすぐになった。
 
●類人猿の共通祖先(p119)
 原生類人猿が共通祖先から枝分かれしたのは2000万年前。アフリカで進化した。カモヤピテクス、モロトピテクス、アフロピテクス、プロコンスル、エケンボ、ナコラピテクス、エクアトリウス、ケニアピテクス、など。
 1500万年前、アフリカの類人猿は減少し始めた。赤道直下にあった大森林が地中海岸へと北上したため。
 ヨーロッパの類人猿は多様化した。ドリオピテクス、ピエロラピテクス、アノイアピテクス、ルダピテクス、ヒスパノピテクス、オウラノピテクス、オレオピテクス、など。
 1500万年前、彼らは、尿酸を体外に排出する酵素ウリカーゼを作れなくなる。尿酸は、果糖が脂肪に変わるのを助ける。冬の日照不足によって食糧が乏しくなった時、脂肪を蓄えて生き延びた。
 また、エタノールを代謝できる酵素を手に入れ、高カロリーの熟れた果実を食べられるようになった。
 中新世末期、気候が寒冷化・乾燥化し、温帯の森では生きられなくなると絶滅したが、一部の種が南下してアフリカへ戻った。
 
●ダヌビウス・グッケンモシ(p123)
 2016年5月17日、チュービンゲン大学の古生物学者マデライネ・ベーメの教え子ヨッヘン・フスが、バイエルン州プフォルツェン郊外にあるハンマーシュミーデという粘土採掘場で発見した、1100万年以上前の類人猿の化石。
 脛骨、足首の骨が、ヒトに似ていた。それ以上に、ルーシーの足首に似ていた。「ダヌビウスは千百万年前、直立して(地面ではなく)木の上を歩いていた」と、ベーメとそのチームは結論付けた。
 
●オルドワン文化(p152)
 ルイス&メアリー・リーキー夫妻は、オルドバイ渓谷で数百個の石器を発見、石器を生み出した文化を「オルドワン」文化と名付けた。180万年前のものと判明。1964年には、その作り手として、アウストラロピテクスより少し大きな脳と少し小さな犬歯を持つホミニンの化石を発見。「ホモ・ハビリス」(「器用なヒト」の意味)。
 2011年には、ニューヨーク州立大学ストーニーブルック校の人類学准教授ソニア・ハーマンドが、ケニアのトゥルカナ湖西岸の凝灰岩層で、ホミニンが造った石器を150個発見。330万年前。オルドバイ渓谷の石器よりも大きく、ずっと単純だった。
 2009年には、シカゴ大学のゼレー・アレムセゲドがアワッシュ川流域のディキカという意地域で、340万年前の地層から、アウストラロピテクスの女児の部分骨格を発見。「ルーシーの赤ちゃん」。2018年に発表。レイヨウの骨の化石もあり、鋭い石で意図的に傷をつけた跡があった。
 石器づくりは、アウストラロピテクスが始めた?
 
●昼間の活動(p160)
〔 太陽が高く上り、暑くなると、ライオンもヒョウもチーターもハイエナも日陰に入って眠りにつく。レイヨウやシマウマなど、狩られる側も丈の高い草に隠れてうずくまり、暑さをしのごうとする。われわれの祖先が生き残るために選んだのは、肉食獣が活動的になる時間帯――夕暮れ時、夜、夜明け前――には地上に下りないようにすることだった。
 アウストラロピテクスはわれわれと同じように昼間活動していたに違いない。満腹したサーベルタイガーやハイエナが日陰で眠りにつくのを待って、アウストラロピテクスはねぐらの木から下り、食べ物を探した。見つけたものは何でも手当たり次第に食べたことだろう。発酵した果実、木の実、種子、塊茎、根、昆虫、若葉。ときには、ディノフェリスの前夜の食べ残しを口にすることもあっただろう。〕
 
●ナリオコトメ・ボーイ(p198)
 1984年、トゥルカナ湖西岸の干上がったナリオコトメ川の土手で、カモヤ・キメウによって発見された。149万年前、ホモ・エレクトスの少年のほぼ完全な骨格。まだ9歳だった。身長は5フィート(約152cm)、体重約45㎏。成人したら6フィートになっていた?
 上腕骨は、ルーシーより34%長かったが、大腿骨は、ルーシーより54%も長い。
 ホモ・エレクトスは脚が長くなり、長距離移動ができるようになり、全世界に広まった? 足には、現生人類と全く同じアーチがある。
 ジョージアのドマニシ原人も、身長は5フィート程度だったが脚が長かった。
 
●腰椎(p269)
 ヒトの腰椎は、男女ともに五つ。
 男性の腰椎は下の二つが楔形、女性は下の三つが楔形。脊柱はそこでカーブしている。
 女性のほうがカーブが大きい。そのおかげで、妊婦は前方にずれた重心を股関節の上に戻すことができ、歩行の際にバランスを保てる。
 200万年前のアウストラロピテクスにもこの男女差は現れている。
 
●1日当たりの許容エネルギー(p295)
 デューク大学の人類学者ハーマン・ポンツァー。「1日当たりの許容エネルギー消費量は世界中どこでも同じ」。
 この許容エネルギー量をどのように消費するかは、文化によって、また人によって違う。
 タンザニアのハッザ族は、徒歩で移動したり、食糧を採集したり、病気を撃退したり、赤ん坊や幼児を抱えて歩いたりするためにエネルギーを使う。
 アメリカ人は、彼らほど体を動かさないため、余ったエネルギーを別のこと、炎症反応を強化することに使う。
 
●マイオカイン(p298)
 運動中に筋肉が産生して血液中に放出する分子(タンパク質)。
 インターロイキン6には、抗炎症作用がある。また、腫瘍壊死因子(TNF)の産生を抑える作用もある。マウスによる実験では、がん性腫瘍を攻撃・破壊する「ナチュラル・キラー細胞」を動員する働きがある。
 
(2023/1/10)NM
 
〈この本の詳細〉



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