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世界を変えた建築構造の物語
 [自然科学]

世界を変えた建築構造の物語
 
ロマ・アグラワル/著 牧尾晴喜/訳
出版社名:草思社
出版年月:2022年9月
ISBNコード:978-4-7942-2604-4
税込価格:2,420円
頁数・縦:311, 6p・19cm
 
 「少しの間、エンジニアのいない世界を想像していただきたい。」「エンジニアリングがあるからこそ、人間は人間らしくいられるのだ。」(p.298)
 古今東西のエピソードを渉猟し、素晴らしきエンジニアたちを称えた書。
 
【目次】
STORY エンジニアの/としての物語
FORCE 建物が支える力
FIRE 炎を防ぐ
CLAY 土を建材にする
MMETAL 鉄を使いこなす
ROCK 石を生み出す
SKY 空を目指す
EARTH 地面を飼いならす
HOLLOW 空洞を利用する
PURE 水を手に入れる
CLEAN 衛生のために
IDOL 理想の存在
BRIDGE 最高の橋たち
DREAM 夢のような構造を実現する
 
【著者】
アグラワル,ロマ (Agrawal, Roma)
 構造エンジニア。インド系イギリス系アメリカ人。オックスフォード大学で物理学の学士号を取得した後、インペリアル・カレッジ・ロンドンで構造工学の修士号を取得。西ヨーロッパ―の高さを誇るビル「ザ・シャード」やノーザンブリア大学歩道橋をはじめとして、数々の有名な建造物の構造設計に関わる。英国王立工学アカデミーのルーク賞を含む数々の国際的な賞を受賞している。
 
牧尾 晴喜 (マキオ ハルキ)
 株式会社フレーズクレーズ代表。建築やデザイン分野において、翻訳や記事制作を手がけている。1974年、大阪生まれ。メルボルン大学での客員研究員などを経て独立。一級建築士、博士(工学)。
 
【抜書】
●ウィトルウィウス(p36)
 マルクス・ウィトルウィウス・ポリオ(p12)。BC80年生まれ。古代ローマのマスタービルダー、「最初の建築家」。
 『建築について』を執筆。建造物の設計に関する10巻の論文。
 古代煉瓦のレシピも掲載している。完全に乾くまで、最大2年かかった。(p78)
 
●動吸振器(p47)
 超高層ビルの揺れを緩和するために設置する振り子。ビルが揺れると反対側に動く。
 ビルの固有振動数を計算し、周波数の近い振り子をビルの上部に取り付ける。
 
●4:2:1(p75)
 モヘンジョ・ダロ遺跡とハラッパ遺跡で発見されたすべての煉瓦は、大きさに関係なく、4:2:1の比率を持つ。
 均一な乾燥、作業しやすサイズ、接着剤やモルタルの種類にかかわらず、ほかの煉瓦と接着する面積が大きいという観点から、今日でもエンジニアが多くの場面でこの比率を使用している。
 インダス文明とほぼ同時期に、中国でも煉瓦の大規模な生産が行われていた。
 西洋文明で煉瓦が最も使用される材料の仲間入りを果たすのは、ローマ時代。
 
●西洋の煉瓦(p81)
 476年、西ローマ帝国が崩壊したのに伴い、西洋では数百年にわたり煉瓦造りの技法が失われた。
 中世初期(6~10世紀)の城郭の建設で復活。
 ルネッサンス期やバロック期(14~18世紀)においては、建物で煉瓦を露出することは時代遅れになり、複雑な形の漆喰や絵画の後ろに隠されることになった。
 
●西洋のコンクリート(p120)
 コンクリートは、水+セメント粉末+骨材(小さくて不揃いな石と砂)によって作られる。
 西ローマ帝国崩壊後、コンクリートのレシピは約1,000年間、失われたままだった。1300年代になってようやく復活。
 
●自己治癒コンクリート(p125)
 乳酸カルシウムの小さなカプセルを液状のコンクリートに混ぜる。カプセルの中には、酸素や食物がなくても50年間生き延びることができるバクテリアの一種(通常は火山の近くの強アルカリ性の湖に生息)が入っている。コンクリートが硬化した後、コンクリートに亀裂が生じると、そこから水が浸透し、水によって活性化されたカプセルからバクテリアが放出される。バクテリアは、アルカリ性の環境に順応しているため、強アルカリ性のコンクリートのなかでも死なない。バクテリアはカプセルを食べて、カルシウムに酸素と二酸化炭素を結合させる。つまり、純粋な石灰岩である方解石を作り出す。この方解石がコンクリートのひび割れを埋めることで、構造体は自らを治癒する。
 
●5%(p125)
 人類が作り出す二酸化炭素の5%は、コンクリートの製造に由来している。
 二酸化炭素の一部は石灰石を焼成してセメントを生成するときに発生し、残りは水和反応によって発生する。
 水和反応……石灰石と粘土の混合物を約1450℃の窯で焼くと、小さな塊になる。この塊を粉末にするとセメント粉末ができる。この粉末に水を加えると、水は石灰や粘土に含まれるカルシウムやケイ酸塩の分子と反応して、棒状または繊維状の結晶を作り出す(水和反応)。この繊維により、材料にゼリー状の柔らかくて安定した構造(配列)が生まれる。反応が進むにつれて、繊維は成長し結合する。混合物はますます濃くなり、最終的に固化する。水+セメント粉末=セメントペースト。(p112)
 
●ブルネレスキの卵(p145)
 フィリッポ・ブルネレスキ(1377-1446年)。ルネッサンス期の建築家。フィレンツェのサンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂のドームを建設した。
 ドーム設計の入札の際、工法を明かすよう、審査員団から何度も要求されたが拒否。審査会で皆に卵を持ってくるよう求めた。競合相手の中で卵を縦に立てることができる者がいれば、その人が受注すべきだと主張。しかし、成功するものはいなかった。ブルネレスキは、卵をテーブルに強く打ち付けると、その場に立てた(殻は部分的に割れていた)。
 殻を割っていいことが分かっていれば、誰でもできた、と他の者たちが抗議。「その通りです。そして、私がドームの工法を教えても、あなた方は同じことを言うでしょう」。
 
●500m(p155)
 500mを超える距離を移動するエレベータは作れない。エレベータを上げ下げするスチール製のケーブルが重くなり過ぎるため、機械が効率的に機能しない。
 
●メキシコシティ(p166)
 メキシコシティは湖の上に立てられた。はじめは小さな島だったが、徐々に拡大していった。
 街の中心部は、28m下の地盤は強固であるが、その上は脆い。過去150年間で10m以上も沈下している。
 アステカ人は、彼らの神ウィツィロポチトリ(戦争と平和の神)から、新しい首都を高原から「ノパルサボテンの上でくちばしに蛇をくわえているワシを見つけた場所(現在の国旗のエンブレムのイメージ)に移す必要があると告げられ、250年後に発見した。それが、テスココ湖の真ん中にある小さな島だった。
 「ノパルサボテンのある場所」を意味するテノチティトランは、1325年に建設された。肥沃な庭園、運河、巨大な寺院があった。
 1521年、スペイン人はテノチティトランを占領し、完全に破壊。アステカのピラミッドの神殿の基礎の上に都市を再建した。
 都市を拡大する目的で湖は埋め立てられた。もともと存在する地下水の水位が高いため、定期的に洪水が起こった。
 
●カレーズ(p208)
 古代ペルシャ人は、カレーズ(アラビア語で「カナート」)をつくって水を得た。
 丘の斜面に直線上に何本も井戸を掘り、それを地下でつなげて水路を作り、丘の底辺で水を排出するシステム。
 イランには35,000以上のカレーズがある。現代でも重要な水源として、数十万本の地下トンネルからなるネットワークとして機能している。
 国内最古にして最大のものは2700年前に作られた45kmのトンネル。ゴナーバード市にある。
 
●センナケリブ(p212)
 世界最古の水道橋を建設。アッシリアの王、在位BC705-681。
 首都のニネベから50km離れたアトラッシュ川流域を起点とし、そこからテビツ川の源流につながる運河を建設する。途中、小さな谷を越えるために水道橋を設置した。
 長さ27m、幅15m、高さ9mを超える先の尖った持ち送りアーチ(突き出た石に支持された曲線状のアーチ)からできており、建設には約0.5mの立方体の石が200万個以上使われた。水路の表面は、水漏れを防ぐためにコンクリートで仕上げられていた。BC690年に、16か月間で完成した。
 水道橋が完成した時、センナケリブ王は二人の司祭を運河の起点に呼び、宗教的儀式を行わせようとした。しかし、水を止めていた門が式典の時間よりも前に突然開き、川の水が運河に放出されてしまった。エンジニアと司祭たちは、王の意に反して自然が行ったことに対して、王が怒るのではないかと恐れた。しかしセンナケリブ王は、神々が偉業の達成を待ちきれずに門を開けてしまったのだから、これは実は良い兆候ではないかと解釈した。彼は運河の起点に行って損傷を確認し修理させ、エンジニアと作業員たちには、鮮やかな色の布、金の指輪、短剣を与えた。
 
●四つの蛇口(p220)
 シンガポール公益事業庁(PUB)は、「四つの蛇口」と呼ばれる戦略を策定している。
 シンガポールには自然の帯水層や湖がなく、水は貴重な資源。水の自給率を確保するため、できる限り効率的に国が利用すべき四つの水源を意味している。
 (1)雨水。貯水池を各地に作り、汚染から法的に保護する。雨水は、島の面積の3分の2のエリアで集められている。
 (2)マレーシアからの水。2061年まで、水を輸入する協定を結んでいる。
 (3)再生水。下水の再利用。3段階の浄化プロセスで処理される。「精密ろ過」で、半透性の膜によって固形物、細菌、ウイルス、原生動物の嚢胞を除去。固体は残るが液体は通過。「逆浸透」で、塩分や有機分子を除去。紫外線で水を消毒、残りの微生物をすべて死滅させる。NEWaterは、飲料水よりもさらに高品質の水を必要とする工業団地や製造拠点で使われている。
 (4)海水。最初に海水をろ過して大きい粒子を取り除き、次にNEWaterと同様の方法で逆浸透を行う。さらに、健康を考慮して必要なミネラルが添加される。
 (3)と(4)で必要とする水の50%以上がすでに作られており、2060年を迎えるころには、この方式で約85%がまかなわれると予測されている。
 
●ファルカーク・ホイール(p283)
 スコットランド。20世紀終盤、グラスゴーとエジンバラの間(フォース・クライド運河とユニオン運河の間)をつなぐ新しい水路を計画。
 ユニオン運河の最終地点に、ケルト族の双頭斧に似た巨大なアームを2本設置。180度回転し、船を持ち上げて下のフォース・クライド運河に下ろす。
 
(2023/1/4)NM
 
〈この本の詳細〉


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