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ロシア点描 まちかどから見るプーチン帝国の素顔
 [社会・政治・時事]

ロシア点描 まちかどから見るプーチン帝国の素顔
 
小泉悠/著
出版社名:PHP研究所
出版年月:2022年5月
ISBNコード:978-4-569-85185-3
税込価格:1,760円
頁数・縦:185p・19cm
 
 2022年2月のウクライナ侵攻以来、世界を騒がせているロシア。
 それにしても、ロシアってどんな国? 知ってるようで知らないロシアの社会や生活について、住んでみた実感をもとに紹介する。軍事や政治には深入りしない書きぶりは、等身大のロシアの人々を見せてくれる。
 
【目次】
第1章 ロシアに暮らす人々編
第2章 ロシア人の住まい編
第3章 魅惑の地下空間編
第4章 変貌する街並み編
第5章 食生活編
第6章 「大国」ロシアと国際関係編
第7章 権力編
 
【著者】
小泉 悠 (コイズミ ユウ)
 東京大学先端科学技術研究センター専任講師。1982年、千葉県生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了。ロシア科学アカデミー世界経済国際関係研究所客員研究員、未来工学研究所客員研究員などを経て、2022年1月より現職。ロシアの軍事・安全保障政策が専門。著書に『「帝国」ロシアの地政学』(東京堂出版、サントリー学芸賞)などがある。
 
【抜書】
●タタール人(p32)
 ロシアで最多の人口を占めるのは、正教徒のロシア人。
 第2位はタタール人。見た目は白人だが、イスラム教徒が多数を占める。
 民族としてのロシア人(ルースキー)であることと、ロシア国民(ロシヤーニン)であることはイコールではない。
 
●入れ墨(p35)
 ロシアのマフィアは、刑務所に入れられるたび、正教の象徴である玉ねぎ屋根の聖堂の図を入れ墨する。
 玉ねぎ屋根の数が多いほど、何度も「ムショ入り」したことになり、彼らの勲章であり、箔付けにもなる。
 
●カスペルスキー(p38)
 エフゲニー・カスペルスキーは、子供のころから数学が好きで、数学雑誌に掲載されるパズルを解いては投稿していた。そこから才能を見出されて、数学専門学校へ、さらにはKGBの暗号学校へと進み、サイバー分野の世界的大家とみなされるようになった。
 モスクワ大学の向かいには広大な空き地があり、そこに隣接する区画にはずっと「建設中」のまま放置されている謎のビル群がある。骨組みまでは完成しているけど、それ以上、工事が進む様子はない。しかし、夜には工事用の灯りがついている。この区画の中にはKGB第四学校と呼ばれる教育施設が存在し、情報機関が暗号を生成・解読するために必要な大量の数学者を養成していた。ここが、カスペルスキーの母校。(p79)
 
●KGB博物館(p59)
 エストニアの首都タリンに、旧国営旅行社(インツーリスト)ホテルがある。このホテルは、「マイクロクリート」と呼ばれていた。コンクリートが半分、マイクが半分、という意味。最上階に「KGB博物館」がある。「存在しない23階」。しかし、窓のない盗聴部屋とは別に、大きな窓のあるオフィスもあり、外から見ると23階があることは明白。
 ソ連時代、ここでKGBの盗聴要員が外国の訪問者たちの会話に隈なく耳をそばだてていた。
 ソ連崩壊直後、内部は盗聴機材ごと手つかずで残っており、それが博物館となった。
 
●ダーチャ(p66)
 ロシア式の別荘。
 当初は金持ちだけのものだったが、19世紀になると庶民も小さな土地と家を郊外に持つことが一般的になった。第二次世界大戦後にはフルシチョフ政権下で郊外の土地が労働者にも配分されるようになり、週末には森の中で暮らす習慣がさらに広がった。
 しかし、一般庶民に配分されたダーチャは都心から遠く、駅からも離れた場所だったので、行くのに苦労した。マイカーなど手に入らない時代。それでも、「森の民」ロシア人にとっては重要な存在だった。ログハウスのキットを買って自分で建てる人も。マイカー時代になり、週末には「ダーチャ渋滞」も。
 定年退職後、都会の家を引き払ってダーチャに永住する人もいる。
 別荘地を囲い、組合をつくって管理人を雇い、ゲーテッド・タウン化する例もある。ダーチャのコミュニティ(人脈)もでき、一緒に食事や飲酒。
 プーチンも、KGBを退職後、サンクトペテルブルクの郊外に「オーゼラ」という別荘組合を作ったと言われている。この組合のメンバーには、のちのロシア国鉄(RZnD)総裁となるウラジミール・ヤクーニン、TV局「第一チャンネル」や大手紙『イズヴェスチヤ』などを傘下に収めることになるユーリー・コヴァリチューク、教育・科学大臣となるアンドレイ・フルセンコなど、初期プーチン政権を支えた重要人物が含まれていた。プーチンには、KGB時代やサンクトペテルブルク副市長時代の同僚ととともに、「ダーチャ人脈」もあった。
 
●野良犬(p111)
〔 最近はすっかり見なくなりましたが、二〇一〇年頃までモスクワの地下鉄では、イヌも一緒に乗るのが当たり前でした。ペットとして飼い主と一緒に乗るのではありません。野良犬が勝手に乗り込み、椅子の上に寝そべっていたりするのです。
 郊外に住む野良犬が餌を求めて都心行きの地下鉄に乗り、夕方になるとまた地下鉄に乗って寝床に戻るのだといいます。駅員も乗客も追い出したりせず、イヌたちの“通勤”を自然に受け入れていました。寝そべる野良犬の横で、派手なメイクのOLが何でもない顔をして座っていたりしたのです。〕
 
●靴を脱ぐ(p126)
 ロシア人は、家に上がるときに靴を脱ぎ、部屋履きに履き替える。
 真冬なら靴底にびっしり雪がつくし、雪解けの時期には地面がぬかるんで泥だらけになるため。
 
●大国(p146)
 ロシアの国土は日本の45倍。人口は1億4400万人程度だが、GDPは日本の三分の一で、2020年の国別ランキングでは11位。韓国と同程度。
 にもかかわらず、ロシアは大国として振舞う。
 (1)ソ連から受け継いだ国連安保理常任理事国である。
 (2)国土大国である。
 (3)世界最大級の核戦力を保有する軍事力がある。総兵力は、約101万人、実勢で約90万人(世界第5位)。
〔 言い換えるならば、ロシアを「大国」たらしめているのは意志の力、つまり自国を「大国」であると強く信じ、周囲にもそれを認めさせようとするところにあるといえるでしょう。〕
 
●正教会(p164)
 通常、正教では一民族につき一教会が設置される。アルメニア、ジョージア、ブルガリアなどは独自の正教会を持っている。
 しかし、ベラルーシ、ウクライナ、モルドヴァ、バルト三国は、いずれもロシア正教会(モスクワ総主教庁)の一部とされてきた。
 ウクライナ正教会は、突出して信徒の数も多く、「自主管理教会」というかなり高度な自治権を持つとされてきた。
 このほかにも、モスクワ総主教庁に属さない「キエフ総主教庁・ウクライナ正教会」(信者700万人)、ロシア革命当時に創設された「ウクライナ独立正教会」も存在している。一国に正教会が三つ併存。
 2014年、ロシアの侵攻を受けたウクライナで正教会の統一と独立に向けた機運が高まり、2016年に、クレタでの正教公会議でウクライナ正教会の独立問題が正式に取り上げられた。
 2018年には、コンスタンチノープル総主教庁が、ウクライナ正教会の独立に関する連絡要員として2名の総主教代理をウクライナに派遣。また、キエフ総主教庁・ウクライナ正教会とウクライナ独立正教会が統一される。
 2019年1月、コンスタンチノープル総主教がウクライナ正教会に独立の地位を認める決定を下す。
 モスクワ総主教庁は、コンスタンチノープル総主教庁との断交を発表。
 
(2023/1/24)NM
 
〈この本の詳細〉

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