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命の経済 パンデミック後、新しい世界が始まる
 [社会・政治・時事]

命の経済~パンデミック後、新しい世界が始まる
 
ジャック・アタリ/著 林昌宏/訳 坪子理美/訳
出版社名:プレジデント社
出版年月:2020年10月
ISBNコード:978-4-8334-2387-8
税込価格:2,970円
頁数・縦:307, 15p・20cm
 
 新型コロナのパンデミックが発生して半年の間に書かれた数本の論評をもとに、1冊の本に仕上げた。
 自宅待機を利用して考察した成果のようである。やや抽象的ではあるが、今後の理想的な社会の在り方を描いている。すべての人が、ウィズ・コロナ、コロナ後を生きる上での指針としたい内容である。
 
【目次】
第1章 命の値段が安かったとき
第2章 未曾有のパンデミック
第3章 一時停止した世界経済
第4章 国民を守り、死を悼む政治
第5章 最悪から最良の部分を引き出す
第6章 命の経済
第7章 パンデミック後の世界はどうなる?
結論 「闘う民主主義」のために
 
【著者】
アタリ,ジャック (Attali, Jacques)
 1943年アルジェリア生まれ。フランス国立行政学院(ENA)卒業、81年フランソワ・ミッテラン大統領顧問、91年欧州復興開発銀行の初代総裁などの要職を歴任。
 
林 昌宏 (ハヤシ マサヒロ)
 1965年名古屋市生まれ。翻訳家。立命館大学経済学部卒業。
 
坪子 理美 (ツボコ サトミ)
 1986年栃木県生まれ。翻訳者。博士(理学)。東京大学理学部生物学科卒業。同大学院理学系研究科生物科学専攻修了。
 
【抜書】
●封建制の崩壊(p40)
〔 ペストは収束に向かった。ヨーロッパでは、フランドルやイタリアなどのとくに豊かだった地域に農奴がいなくなり、賃金が上昇した。つまり、ペストにより、封建制は崩壊し、富は生き残った一部の者たちに集中し、裕福な商人が生まれたのだ。たとえば、メディチ家(フィレンツェの支配者)などの新たなエリートが台頭するようになった。こうしてジェノヴァとフィレンツェがヨーロッパの商業の中心地になった。宗教が死について説いても、真剣に耳を傾ける者はほとんどいなくなった。〕
 
●覇権国なき世界(p158)
 今回の危機(パンデミック)により、米国と中国が衰退し、覇権国なき世界に向かう変化が加速する。
 〔行き着く先は、どんな帝国に支配されるよりも危険な世界だろうか。ヨーロッパが自由、力、豊かさを実現する機会を取り戻す世界だろうか。〕
 
●中国のジレンマ(p163)
〔 中国を悩ませる永遠のジレンマとは、民主化すればペレストロイカ期のソ連のように自国が分裂する恐れがあり、民主化しなければ破綻へと突き進むことだ。〕
 
●EU(p165)
〔 世界はEUを中国やアメリカよりも優れた社会像と見なすようになるのではないか。EUの社会保障は充実している。生活水準は世界一だ。EUは民主国だけの集まりであり、世界に対して大きな影響力を持つ。批判者たちが何と言おうと、EUの結束力は危機時にさらに強固になる。先ほど述べたように、EUは経済および社会に関する共通の活動を強化するため、数多くの決定を下してきた。そして単位通貨ユーロは、さまざまな攻撃に遭いながらも、信頼性の高い世界的な準備通貨としての地位を揺るぎないものにしている。
 したがって、アメリカに代わって中国が覇権国になるという保証はまったくない。むしろ今回の危機によって両国が衰退すると見たほうがよいのではないか。〕
 
●死後の管理業務(p186)
 死後、その人のヴァーチャルな分身を維持し、いつでもアクセスできるようにするサービスが増えるかもしれない。
〔 死後の管理業務は独自の大市場を形成するようになるだろう。亡き者の存在は商売のネタの一つになる。死後の世界を準備するためにだけにこの世を過ごす者も現れる。彼らは自身のデータをホログラムに移し、エネルギーを浪費するだろう。〕
 
●非営利組織(p202)
 ヨーロッパの就業人口のうち、非営利組織で働く人の割合はおよそ10%。そのうちの四分の三は、教育、医療、社会サービスなどの分野。
 オランダでは、就業人口に占める割合は12.3%。人々がボランティア活動に費やす時間は、平均して週4時間超。フルタイム労働に費やす時間の8%に相当。オランダ経済への貢献はGDPの10.2%。国民の70%以上が毎年非営利組織に寄付するが、非営利組織の主な財源は公的資金である。
 
●命の経済(p214)
 今回の新型コロナによるパンデミックで、組織構造、消費、生産の形態を抜本的に見直す必要があることが明白になった。
 〔われわれの社会は、経済活動を新たな方向へと誘導しなければならない。すなわち、生産がこれまで著しく不足していたが、生活に必要不可欠だと判明した部門へと経済を導く必要があるのだ。〕 ⇒ 命の経済
 (1)パンデミックとの戦いに勝利するために必要な部門。
 (2)パンデミックによって必要性が明らかになった部門。
〔 「命の経済」の範囲はきわめて広い。健康、疾病予防、衛生、スポーツ、文化、都市インフラ、住宅、食糧、農業、国土保全だけでなく、さらには、民主主義の機能、安全、防衛、ごみ処理、リサイクル、水道配水、再生可能エネルギー、エコロジー、生物多様性の保護、教育、研究、イノベーション、デジタル通信技術、商取引、物流、商品配送、公共交通、情報とメディア、保険、貯蓄と融資などが含まれる。〕(p247)
 
●サッカー(p239)
〔 スポーツ、特にサッカーは、文化と娯楽の存続を考えるうえできわめて独特かつ模範的な例だ。
 深刻な出来事が続発しているときに、サッカーの話などどうでもよいと思われるかもしれない。しかしながら、サッカーという人気スポーツは、つねに世界の争点を映し出す鏡であり、一大経済活動であり、ルールが世界規模で決められる稀な活動の一つなのだ。サッカーのルール適用は、イギリスのプロの有名クラブであろうが、セネガルのアマチュアの小さなクラブであろうが、同じように変更される。また、今回のパンデミック期間中のサッカーのあり方の変化からは、その他の興行に待ち受けるものだけでなく、社会全体の未来も窺える。〕
 
●闘う民主主義(p285)
〔 七〇年間にわたるウルトラリベラル漬けにより、国が断固として行動し、計画を立てようとする意欲と手段はすべて失われた。そして数年来の監視テクノロジーの進化、ノマディズムの進行、不安定な生活を送る社会層の増加により、民主主義を保護する必要性、そして民主主義のもとで包括的な計画を立てようという動きが疑問視されるようになった。即時の成果、不安定な生活、利己主義がの世の中の規範になったのである。
 しかしながら、今は「生き残りの経済」から「命の経済」へと移行すべきときだ。今こそ、「放置された民主主義」から「闘う民主主義」へと移行すべきである。〕
 《「闘う民主主義」の五原則》
 1.代議制であること。……選出される議員と指導者は、国の社会層全体を反映。
 2.命を守ること。…… 「命の経済」への移行。
 3.謙虚であること。……当局は全知全能ではない。いかなる権威であっても分からないことはある。
 4.公平であること。……あらゆる危機は最貧層に最大の影響を及ぼす。超富裕層に重税を課す。
 5.将来世代の利益を民主的に考慮すること。
 
●危機後の世界(p290)
〔 危機後の世界を考えることは、俯瞰的に考察することであり、命について、そして人類の置かれている状況について思いを馳せることだ。かくも儚く脆弱であり、驚きに満ちた自分たちの人生をどのようにしたいのかを熟考することだ。人生はまた、稀有なものでもある。
 それは他者の命について考えることであり、人類と生きとし生けるものについて思考を巡らせることだ。
 死の恐怖ではなく、生きる喜びのなかでこれらのことを考える。一つ一つの瞬間を快活に生きる。我々は全員が死を宣告された存在である。その顔には死刑囚の笑みが浮かぶ。その心は、未来を可能にする人々への感謝に包まれ、惨事に対して充分な備えのある世界をつくろうとする大志に満たされる。間違いなく不可避であるこれらの惨事に対し、準備が万全あるがゆえに、事前の不安も、渦中での心配も必要がなくなる世界をつくるのだ。われわれ自身、われわれの子供たち、我々の孫たち、そしてその孫たちのために。
 もし、われわれが今、彼らに配慮するのなら、彼らには数多くのすばらしい出来事、胸躍る出来事が待っている。〕
 
(2022/10/8)NM
 
〈この本の詳細〉

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