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日本インテリジェンス史 旧日本軍から公安、内調、NSCまで
 [社会・政治・時事]

日本インテリジェンス史 旧日本軍から公安、内調、NSCまで (中公新書)
 
小谷賢/著
出版社名:中央公論新社(中公新書 2710)
出版年月:2022年8月
ISBNコード:978-4-12-102710-8
税込価格:990円
頁数・縦:279p・18cm
 
 日本におけるインテリジェンスについて、戦後の歴史をたどる。
 
【目次】
序章 インテリジェンスとは何か
第1章 占領期の組織再建
第2章 中央情報機構の創設
第3章 冷戦期の攻防
第4章 冷戦後のコミュニティの再編
第5章 第二次安倍政権時代の改革
終章 今後の課題
 
【著者】
小谷 賢 (コタニ ケン)
 1973年京都府生まれ。立命館大学卒業、ロンドン大学キングス・カレッジ大学院修士課程修了。京都大学大学院博士課程修了。博士(人間・環境学)。英国王立統合軍防衛安保問題研究所(RUSI)客員研究員、防衛省防衛研究所戦史研究センター主任研究官、防衛大学校兼任講師などを経て、2016年より日本大学危機管理学部教授。著書『日本軍のインテリジェンス』(講談社選書メチエ、第16回山本七平賞奨励賞)ほか。
 
【抜書】
●5~10%(p4)
 インテリジェンス・コミュニティの組織数は、国によってさまざま。米国では18、イスラエルでは4。
 コミュニティの規模は、その国の軍隊のおおよそ5~10%くらいの人員と予算が割り当てられている。
 米国は8兆円、20万人(米国防予算の約10%)、英国は4200億円、2万人(同7%)。
 日本は1500~2000億円、6000人程度(都道府県警察の公安部は含まず。防衛費の3~4%程度)。
 
●縦割り(p11)
 太平洋戦争中、日本陸軍は米軍の高度な暗号の一部を解読していたが、海軍は解読することができなかった。
 陸軍はそのことを知っていたにもかかわらず、自分たちの暗号解読情報が「陸軍の」機密事項にあたるとして、海軍に提供しなかった。
 米軍の矢面に立たされる海軍こそ、米軍の暗号解読情報が必要であるにもかかわらず。
 
●調査室(p34)
 1952年4月9日、吉田茂首相は総理府令第9号によって、総理府に内閣総理大臣官房調査室を設置した。村井順室長。10月1日の衆議院議員選挙によって、公職追放されていた緒方竹虎が復帰すると、吉田は緒方を官房長官に抜擢。旧軍部の影響力を極力排除した、吉田、緒方、村井のトラアングルを形成。
 定員は7名。その後、7月に31名に増員。
 
●内調(p53)
 1957年、調査室は総理府から内閣官房に移される。内閣調査室(内調)。官房長官に対して、毎週の報告を行うようになる。
 室長ポストは警察、次長ポストは外務、という慣例。
 国内部(第一部)、国際部(第二部)、報道調査部(第三部)、資料部(第四部)、研究部(第五部)、情勢判断会議(第六部)という構成。定員は36名から51名に増員。
 
●別室、調別(p73)
 1958年4月1日、陸上自衛隊幕僚監部第二部別室(別室、または仁別)を創設。通信の傍受、解読などのシギントを担う。
 ⇐陸上自衛隊第一幕僚監部暗号班⇐保安隊第一幕僚部第二部分遣隊(1952年7月)⇐警察予備隊総監部調査部暗号班(1950年7月)。
 1978年1月、陸上自衛隊幕僚監部調査部第二課別室(調別)に改編。
 
●サクラ、チヨダ(p82)
 1960年7月、最高裁判決によって、公安警察が新たな立法措置に寄らずに調査活動をすることが認められる。
 警察庁警備局は、一係が左翼、二係が右翼、三係が外事で、四係が「サクラ」と呼ばれる隠密組織だった。
 1986年、共産党国際部長を務めていた緒方靖夫宅の盗聴工作が明るみに出たため「サクラ」は廃止され、その後は「チヨダ」に受け継がれる。
 外事警察(三係?)の主務は国内の外国勢力の監視。中・ソ在京大使館、在日本朝鮮人総聯合会(朝鮮総連)の定点観測、尾行による接触者の洗い出し、など。
 
●MICEの原則(p103)
 インテリジェンスの世界において、協力者を獲得するための原則。
 Money(金)、Ideology(思想信条)、Coercion/Compromise(強要と妥協)、Ego(エゴ)。
 これらのうち、対象者に最も響くところを突くのがコツ。
 
●内調(p125)
 1986年7月1日、安全保障会議の設置に併せて、内閣調査室を「内閣情報調査室(内調)」に改編。
 さらに、合同情報会議を内閣官房に設置。内閣官房副長官(事務)が主催し、内調、外務省情報調査局、防衛庁防衛局、警察庁警備局、公安調査庁の五つの組織が集まってお互いの情報を共有する場とする。
 しかし、合同情報会議は、情報を共有してそれを官房長官に上げるまでしか想定されておらず、何のために情報を共有するのかという点が不明瞭だった。
 
●外務省のIAS(p147)
 1993年、外務省では情報調査局を改編し、国際情報局(国情)を設置。組織的にインテリジェンスを扱う体制を整える。
 2002年の政治スキャンダル「外務省のラスプーチン」事件の影響で、2004年、国情は「国際情報統括官組織(IAS)」へと改編され、事実上「局」から格下げされる。
 
●情報本部(p153)
 1997年1月20日、防衛庁統合幕僚会議下の組織として、情報本部設立。人員1700名。
 公安警察、公安調査庁に次ぐ、日本で三番目の規模のインテリジェンス機関の誕生。
 電波部……定員の三分の一を占める。
 画像部……現・画像・地理部。外国軍隊に関する衛星写真を収集・分析。
 分析部……公開情報の収集や分析。
 緊急・動態部……現・統合情報部。外国の軍隊に関する情報の収集・分析や、自衛隊各部隊の情報を集約。
 
●内閣衛星情報センター(p162)
 2001年4月、内閣情報調査室の下部組織として「内閣衛星情報センター」が設置される。
 2003年3月28日、種子島宇宙センターから、H-ⅡAロケットによって日本初の情報収集衛星が打ち上げられる。
 
●内閣情報官(p166)
 2001年1月、内閣情報調査室長が「内閣情報官」に格上げされる。(本書では20年1月となっているが……)
 各省庁の事務次官や、警察庁長官、統合幕僚長と同格。
 99年の内閣法改正により、内閣官房は内閣の総合戦略機能を担うとともに、最高かつ最終の調整機関と位置付けられたことによる。
 行政改革に伴う公安調査庁の人員削減により、その一部40名の定員が内調に移管、170人体制に。内閣衛星情報センターの定員は200名以上。
 
●インテリジェンス(p168)
 2005年、元内調室長の大森義夫が『日本のインテリジェンス機関』を発表。
 翌年、元NHKワシントン支局長の手嶋龍一と佐藤優の対談本『インテリジェンス 武器なき戦争』が発刊2か月足らずで23万部を超える。
 それまで「諜報」と翻訳されてきた「インテリジェンス」という言葉が市民権を得る。
 
●方針(p175)
 2008年2月14日、「官邸における情報機能の強化の方針」が公表された。
 〔本「方針」は、戦後日本のインテリジェンス史において、最も重要な文書の一つであるといってもよい。なぜなら同文書は、日本政府が公式にインテリジェンス強化の方針について定めた初めてのものであり、その後の政府によるインテリジェンス改革は「方針」に基づいている上、ほとんどの提言内容が実現しているからである。今から振り返ってみると、予言の書といっても良いような内容となっているため、少し具体的に見てみよう。〕
 ① 情報収集機能強化……情報収集機能の強化として、政策と情報の分離という原則がうたわれ、対外人的情報収集機能の強化、情報収集衛星の拡充、各省庁の情報収集体制の強化が目標に掲げられている。2015年12月に、国際テロ情報収集ユニット(CTU-J)として結実。情報収集衛星も、4機体制から8機体制に拡充。
 ② 情報集約・共有体制の強化……それまで5省庁に限定されていた情報コミュニティを拡充し、財務省、金融庁、経済産業省、海上保安庁等を加えた「拡大情報コミュニティ」の概念を提示。
 ③ 情報保全体制の強化……「セキュリティ・クリアランス制度(秘密取扱資格)」となる秘密取扱者適格性確認制度を導入。各省庁が共通の資格で一部の秘密を取り扱うことを目指す。また、共通のイントラネットの整備や、各省庁の情報担当者を集めて合同研修を行う制度によって、担当者間の人的交流を進める。
 
●北村滋(p192)
 2011年から8年近くも内閣情報官を務める。そのため、警察庁長官や危機管理監よりも年次が上になり、結果として内閣情報官の地位を高めた。その間に、内調を中央情報機関として定着させ、数々のインテリジェンス改革を断行した。
 外事警察のキャリアを持つ北村は、警察においてもインテリジェンスの第一人者として一目置かれていた。
 それまで週1度だった内閣情報官による総理ブリーフィングを週2回にし、うち1回はインテリジェンス・コミュニティを構成する、警視庁警備局、防衛省情報本部、外務省統括官組織、公安調査庁、内閣情報衛星センター等の各機関の担当者が直接総理にブリーフィングする形式をとった。
 2013年8月、自民党で町村信孝を座長とする「党インテリジェンス・秘密保全等検討プロジェクト」が立ち上がり、内調を事務局として法案の作成が行われた。党内には法案に反対する声も多かったが、北村が法案の必要性を説明して回った。10月25日に「特別秘密の保護に関する法律案」が閣議決定、翌月から衆議院「国家安全保障に関する特別委員会」で審議が開始される。12月6日に「特定秘密の保護に関する法律(特定秘密保護法)」として成立。2014年6月には、両院で情報監視審査会を規定するための情報監視審査会規程が議決された。同年12月10日、「情報監視審査会」と、内閣府に特定秘密の指定状況を監視するための「大臣官房独立公文書管理監」が設置された。(p200)
 
(2023/3/30)NM
 
〈この本の詳細〉


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