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インド グローバル・サウスの超大国
 [社会・政治・時事]

インド―グローバル・サウスの超大国 (中公新書)
 
近藤正規/著
出版社名:中央公論新社(中公新書 2770)
出版年月:2023年9月
ISBNコード:978-4-12-102770-2
税込価格:1,078円
頁数・縦:302p・18cm
 
 政治、社会、経済、国際関係など、今のインドの全容を伝える。
 
【目次】
第1章 多様性のインド―世界最大の民主主義国家
第2章 モディ政権下のインド経済
第3章 経済の担い手―主要財閥、注目の産業
第4章 人口大国―若い人口構成、人材の宝庫
第5章 成長の陰に―貧困と格差、環境
第6章 インドの中立外交―中国、パキスタン、ロシア、米国とのはざまで
第7章 日印関係―現状と展望
 
【著者】
近藤 正規 (コンドウ マサノリ)
 1961年生。アジア開発銀行、世界銀行にてインドを担当した後、1998年より国際基督教大学教養学部助教授。現在、国際基督教大学教養学部上級准教授。2006年よりインド経済研究所主任客員研究員を兼務。そのほかに21世紀日印賢人委員会委員、日印共同研究会委員、日印協会理事などを歴任。東京大学学士、ロンドン大学修士、スタンフォード大学博士。インドの全ての州と連邦直轄領を訪れて論文を多数執筆。専門はインド経済、開発経済学。
 
【抜書】
●四つのアイデンティティ(p1)
 多様性の中の統一(Unity in Diversity)と呼ばれるインド、インド人の四つのアイデンティティ。
 出身地、言語、宗教、カースト。
 
●ガンディー家(p19)
 国民会議派を支配するガンディー家。「インド独立の父」マハトマ・ガンディーと直接の血縁関係はない。
 ジャワハルラル・ネルーの娘インディラが、ネルーに批判的な異教徒のジャーナリストと恋愛結婚し、そのジャーナリストがヒンドゥー教徒でなかったことを心配したマハトマ・ガンディーが、インディラ夫妻に「ガンディー」の姓を与えた。
 
●携帯電話(p31)
 製造業が弱いインドで、例外として注目されているのが、携帯電話の生産。
 2017年に、アップルの製造を請け負うEMS(電子機器の受託製造サービス)の世界最大手鴻海〈ホンハイ〉(ファックスコン。台湾)が、チェンナイの郊外でiPhoneの製造を開始。22年には輸出も念頭に置いて最新モデルiPhone14の生産が始まった。
 JPモルガンのアナリストは、2022年にはiPhone14製造全体の5%がインドにシフト、25年には最新モデルを含むiPhoneの25%がインドで製造されるであろうと予測。
 サムスンも、最大拠点ベトナムから一部の生産設備をインドへ移す計画がある。
 
●財閥(p58)
 インドの大半の財閥は、4つのコミュニティに属している。
 マルワリ……ビルラ財閥など。「インドのユダヤ人」とも言われる。マルワリのコミュニティに属する財閥が長らくインドの政財界を牛耳ってきた。〔英国の植民地時代に大英帝国との交易を支え、独立後はインド政府を金銭的に支援することで、ビジネスを保護され、利益率の高いビジネスを手広く営んできた。これは政府との癒着を一層深めることとなり、内外の競争から守られた財閥企業の経営は、きわめて非効率なものとなっていった。〕
 グジャラティ……リライアンス財閥など。
 パンジャビ……
 パールシー……タタ財閥など。イランから移住したゾロアスター教徒。
 
●AGEL(p79)
 アダニ・グリーン・エナジー(AGEL)、2020年に国営のインド太陽光発電公社(SECI)から太陽電池製造を含む太陽光発電事業の契約を獲得。この契約により、AGELが8ギガワットの太陽光発電施設を建設、アダニ・ソーラーが2ギガワットの太陽電池とモジュールの製造能力体制を確立。60億ドルの投資とともに40万人の雇用が創出され、稼働期間中900万トンの二酸化炭素が置き換えられることになる。
 AGELによって稼働中(または建設中・契約中)の太陽光発電量は15ギガワットとなり、2025年までに世界最大の再生可能エネルギー事業者になる予定。
 アダニ・グループ……グジャラート州アーメダバードで1988年創立。
 
●医薬品(p94)
 インドの医薬品産業は、低価格の後発医薬品を低所得国に提供するという点で、国際的な貢献をしてきた。
 2001年にインドの大手医薬品企業シプラは、国境なき医師団に対して、エイズ治療用の3種類の混合薬を一人当たり350ドルで供与。現在、国境なき医師団が30か国以上の国々で治療している人々の9割近くがインド製の後発薬を用いている。
 コロナ禍では、インドのワクチンが世界中に輸出され、多くの命を救った。
 
●ダイヤモンド(p102)
 ダイヤモンドは5000年前、南インドのハイデラバード郊外にあるゴルコンダで発見され、17世紀まではインドが世界最大の産出国だった。
しかし、インドのダイヤモンドの産出は徐々に枯渇。
 1725年にブラジルでダイヤモンドの鉱床が発見され、1866年にはボツワナや南アフリカで大鉱床が発見される。
 15世紀以来、世界のダイヤモンド取引を独占したきたのは、ユダヤ人商人。1930~40年代にグジャラート州パランプールのジャイナ教徒がベルギーのアントワープに送られ、それ以来、インド人商人によるダイヤモンドの取引が増加してきた。戦後、インドのダイヤモンド加工業は急成長。
 
●米、小麦(p147)
 インドの全労働人口の46%が農業だが、GDPに占める農業の比率は16%。生産性が極めて低い。
 農地面積は、国土全体の半分強を占める1億8000万ヘクタール。米国に次ぐ世界第2位の規模。
 作付面積の24%が米、14%が小麦。農産物生産量では、米、小麦、紅茶、サトウキビが世界2位となっている。輸出量は、米が世界第1位、小麦が世界第2位。
 
●佐々井秀嶺(p163)
 ささいしゅうれい。
 アンベードカルは、1956年10月に50万人におよぶダリットとともに仏教に改宗、その2か月後に病死した。その後、仏教復興運動を継いだのは、日本人僧侶の佐々井秀嶺。
 岡山県で生まれ、タイの寺院への留学を経て、1966年にインドの日本寺へ派遣された。その後、ナグプールへ移って布教と社会活動を続け、88年にインド国籍を得る。仏教の聖地ブッダガヤでは、大菩提寺の管理権をヒンドゥー教徒から仏教徒に変換させるための運動を組織。2003~06年には、仏教徒を代表してインド政府の少数派委員会のメンバーに。
 毎年10月頃、ナグプールで佐々井が中心となって開いている大改宗式には、今でも3日間で100万人にも及ぶ群衆が押し寄せる。
 
●テラ・モーターズ(p170)
 インドでは、四輪よりも二輪と三輪でEV化が進んでいる。
 近距離タクシーとして使われる三輪EVの年間生産台数は10万台。三輪車の販売台数のうち6台に1台はEV。インド政府は、2024年までに、三輪車をすべてEV化すると宣言している。
 日本のスタートアップ企業のテラ・モーターズは、インドの三輪EV市場に進出して成功を収めている。
 
●常任理事国(p184)
 初代首相のネルーは、中国共産党の周恩来と親交を深め、中国を「兄弟」とまで呼び、ともに第三世界のリーダーになることを目指した。1954年には、「平和5原則」を結んだ。
 インドがなる可能性もあった国連の常任理事国の座を、ネルーは中国に譲る姿勢を見せた、とも言われている。
 
●752年(p241)
 752年、インド人僧侶の菩提僊那が唐から来日、東大寺大仏殿の開眼供養を行った。日本とインドの交流の嚆矢。
 
●OKY(p262)
 O:お前が、K:ここへ来て、Y:やってみろ。
 日本人現地駐在員の間でよく聞かれる言葉。日本の企業では、トップは号令を下しても自らはビジネスにタッチしない。そんな姿勢を揶揄した言葉。
 大半の日本企業の駐在期間は3年。片道切符でやってくる韓国企業との大きな違い。「事なかれ主義」で過ごし、自分の駐在期間中にリスクを取ってビジネスを行うことはない。
 
【ツッコミ処】
・製造業(p106)
〔 自動車部品産業は、インドが製造業やダイヤモンド加工と並んで、国際競争力を有する数少ない製造業の一つである。〕
  ↓
 「製造業」が2か所に出てくるが、最初のは「製薬業」の間違いか?
 
(2023/12/22)NM
 
〈この本の詳細〉


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