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科学でかなえる世界征服
 [自然科学]

科学でかなえる世界征服
 
ライアン・ノース/著 吉田三知世/訳
出版社名:早川書房
出版年月:2023年7月
ISBNコード:978-4-15-210255-3
税込価格:2,420円
頁数・縦:443p・19cm
 
 現代科学の粋を尽くして世界征服を目指すスーバー・ヴィランになるための取説。
 
【目次】
第1部 スーパーヴィランの超基本
 スーパーヴィランには秘密基地が必要だ
 自分自身の国を始めるには
第2部 世界征服について語るときに我々の語ること
 恐竜のクローン作成と、それに反対するすべての人への恐ろしいニュース
 完全犯罪のために気候をコントロールする
 地球の中心まで穴を掘って、地球のコアを人質にする方法
 タイムトラベル
 私たち全員を救うためにインターネットを破壊する
第3部 犯罪が罰せられなければ、犯人はそれを犯したことを決して悔いない
 不死身となり、文字通り永遠に生きるには
 あなたが決して忘れられないようにするために
 
【著者】ノース,ライアン (North, Ryan)
 作家。コミック作家としての顔ももち「ADVENTURE TIME」シリーズは漫画のアカデミー賞と呼ばれるアイズナー賞とハーヴェイ賞を受賞、マーベルの「絶対無敵スクイレルガール」シリーズの原作も担当している。
 
吉田 三知世 (ヨシダ ミチヨ)
 京都大学理学部物理系卒業。英日・日英の翻訳業。
 
【抜書】
●ビル・タウィール(p99)
 1899年、エジプトを占領していたイギリス軍が、スーダンも手に入れた。この2国の間に、直線的な国境線を引いた。
 1902年、イギリスはこの土地を住民たちにどのように使われているかを反映させるため、新たに行政区分を決める境界線を引いた。
 イギリスはこの地域から手を引き、1956年、スーダンがエジプトから独立した。エジプトとスーダンは、イギリスが引いた境界線のうち、自分たちに都合のよいほうを採用した。その結果、紅海に面するハラーイブ・トライアングル(広大で資源豊富な2万580㎢)をどちらの国も領土と主張。しかし、内陸部のビル・タウィール(2060㎢)は、どちらの国も領有を拒否した。
 
●521年(p121)
 DNAの半減期は、521年。最近の研究による推測。6500万年前に絶滅した非鳥類型恐竜のDNAは残っていないことになる。
 
(2023/11/6)NM
 
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進化が同性愛を用意した ジェンダーの生物学
 [自然科学]

進化が同性愛を用意した: ジェンダーの生物学
 
坂口菊恵/著
出版社名:創元社
出版年月:2023年6月
ISBNコード:978-4-422-43046-1
税込価格:1,760円
頁数・縦:223p・19cm
 
 同性間性行動は、人間のみならず、他の生物の間でも例外的な行動ではないらしい。
 
【目次】
1 同性愛でいっぱいの地球
2 ヒトの同性愛を生物学から探る
3 生物学的説明の限界
4 ジェンダーの生物学
5 ヒューマン・ユニバーサルな同性愛
6 宗教戦争としてのホモフォビア・トランスフォビア
7 多様性は繁栄への途
 
【著者】
坂口 菊恵 (サカグチ キクエ)
 1973年、函館生まれ。函館中部高校卒業後、自宅での浪人生活を経て二十歳で家出、上京。数年のフリーター生活後、東京大学文科3類に入学し、東京大学総合文化研究科広域科学専攻で博士(学術)を取得。東京大学教養教育高度化機構での特任教員を経て、大学改革支援・学位授与機構研究開発部教授。専門は進化心理学、内分泌行動学、教育工学。
 
【抜書】
●一夫一妻(p20)
 哺乳類では、一夫一妻システムをとる種は3~9%しかない。雌雄が常時一緒にいる生物は少ないのである。
 
●コンパニオンシップ(p23)
 オスのゾウは、よく同性と「コンパニオンシップ」という長期的な関係を結ぶことが知られている。「同胞関係」?
 たいがいは1対1であるが、2頭の「若衆」を従えた年長者もいる。
 オスとメスがしばらく2頭限りの時を過ごすことを「コンソートシップ」と言う。ゾウでは、異性間のコンソートシップはせいぜい15分くらいしか続かない。
 
●ライオン(p36)
 ライオンでは、コンパニオンシップ関係にあるオス同士、メス同士の絆は長く、強い。彼らは性的な睦み合いはまずしないようだ。そして、6割のオスはメスと一緒の生活を経験することなく一生を終える。
 
●ハンメル(p39)
 ヨーロッパに生息するアカシカは、ほとんどのオスが枝角を持っているが、角を持たない少数のオスが存在する。ハンメル。
 ハンメルの外見はメスにそっくりだが、メスにとてもよくもてる。健康で戦いにも優れており、体格も一般のオスよりも良い。もっとも順位の高いオスになりやすい。
 「ペルーク」と呼ばれる、枝分かれしない袋角のままの雄ジカもいる。精巣が発達せず、概ね生殖能力がない。
 角を持つメスが見つかることもある。
 アカシカ、ムース、ワピチといったシカ類には、角に性感帯があるらしい。こすられると興奮して、射精に至ることもある。オス同士が角を互いにこすり合わせたり、自ら草むらにこすりつけたりしている。
 
●フランシス・ゴールトン(p56)
 チャールズ・ダーウィンのいとこ。
 個人の特性を形作るのは自然か環境か(Nature or Nurture)を調べた。天才はもともと才能豊かな家系に生まれやすい。
 優生学(eugenics)という言葉を作った。才能豊かな人間同士を結婚させ、さらに優秀な子孫を産ませることを提案した。
 
●パルテノジェネシス(p107)
 parthenogenesis。メスのみで子孫を残すことのできる単為生殖。ギリシャのパルテノン神殿の「パルテノン」。処女、未婚の乙女を指す。処女神のための神殿だったからとも、処女が仕えたからとも言われる。
 哺乳類以外の脊椎動物の中で、80種ほどが確認されている。コモドオオトカゲ、シュモクザメをはじめとするさまざまなサメ、など。
 米国のニューメキシコ州に生息するハシリトカゲ類のうち、三分の一の種はメスしか存在しない。女性ホルモンの周期に応じてメス役とオス役を交代して疑似的な交尾行動を行い、その刺激により産卵する。
 
●アマミトゲネズミ、トクノシマトゲネズミ(p116)
 Y染色体が消滅してしまった哺乳類は、南西諸島で2種、中東で1種見つかっている。
 アマミトゲネズミとトクノシマトゲネズミは、オスは存在し、精巣も発達する。通常の哺乳類でY染色体の上に載っている、精巣の発達を促す遺伝子はなくなっているが、その先の性分化に必要な遺伝子は保存されており、別の引き金によって発現を始める。
 一方、近くに棲むオキナワトゲネズミは、XX/XYの性決定方式のままである。
 
●サラマンダー、ギンブナ(p117)
 北米に棲むサラマンダー(トラフサンショウウオ属)は、雌雄が存在する集団とは別に、メスのみで繁殖する集団がいる。しかも、種として500万年以上存続してきた。平均的な有性生殖の種の寿命は100~200万年。
 自切から尾の再生スピードが、メスのみの集団のほうが雌雄で生殖した集団より1.5倍速い。単為生殖のほうが、生物として頑強。
 メスだけで繁殖するサラマンダーは、ときどき他種のオスが生息地に残していった精子からDNAを盗んで自分のゲノムに加える。遺伝子組み換え。結果、持っている染色体の数は個体によってまちまち。
 日本のギンブナもメスのみで繁殖する。ときどき近縁のフナと交雑することで、繁栄を続けてきたらしい。
 
●ブチハイエナ(p120)
 雌雄区別のつかない外性器を持っている。
 メスは胎児期から高濃度の男性ホルモンを分泌しており、偽ペニスと偽陰茎を持って生まれてくる。さらに、男性ホルモンの影響で膣の開口部がふさがっており、ペニスの先の尿道口が膣口を兼ねている。
 偽ペニスは勃起する。また、偽ペニスから赤ん坊を分娩するため、初産の際に少なからぬメスが偽ペニスが裂けて死んでしまう。偽ペニス内の産道はへその緒よりもずっと長いため、6割ほどの赤ん坊は生まれてくる際に窒息死してしまう。
 
●フリーマーチン(p125)
 羊や牛では、1~2%の割合で姓をはっきり区別できない個体が生まれてくる。
 胎盤を共有する双子で、オス・メスだと、メスのほうが「フリーマーチン」と呼ばれる状態となる。外性器がメスだが、内性器はオスとメスの両方を有し、不妊。
 双子は血管組織を共有しているために、オスのきょうだいの体内の精巣から分泌された男性ホルモンが、メスの体をオス化してしまう。
 
●直観像記憶(p186)
 一瞬見た情景をそのままイメージとして脳内に保存できる能力。
 三島由紀夫は、成人後も直観像記憶を持っていたとされる。
 
●過書字(p188)
 ハイパーグラフィア。極端に物書きに執着する認知の特異性。
 三島由紀夫は中学生くらいから驚異的な語彙力を持ち、大量の執筆活動をこなした。ハイパーグラフィアだったと思われる。
 
●双極性障害(p192)
 双極性障害では、本人および親兄弟、子が科学や芸術の職に就いている確率が全般として高い。親族内で比較すると、本人が科学の職に就いている可能性は若干低い。
 
【ツッコミ処】
・同性間性行為(p46)
〔 同性愛迫害の根拠はキリスト教だったのだが、18世紀啓蒙主義の影響で、宗教犯罪は法律の処罰対象から除かれていく。それに伴い、フランスでは同性間性行為は非犯罪化され、イギリスでも1861年に死刑から終身刑へと緩和されている。〕
  ↓
 「同性間性行為」という表現が使われたのはこの1か所のみ。他はすべて「同性間性行動」の語が使われている。この個所は法律に関することなので、行動の中身をはっきりさせるために「性行為」(つまり「セックス」)と表現しているのか??
 
(2023/10/29)NM
 
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宇宙・0・無限大
 [自然科学]

宇宙・0・無限大 (光文社新書)
 
谷口義明/著
出版社名:光文社(光文社新書 1261)
出版年月:2023年6月
ISBNコード:978-4-334-04668-2
税込価格:902円
頁数・縦:194p・18cm
 
 宇宙には0(ゼロ)はなく、無限大もない、ということを比較的分かりやすく解説。
 
【目次】
第1章 不可思議なゼロと無限大
 厄介なゼロ
 ややこしい無限
第2章 宇宙に無限はあるか
 これまでの宇宙観
 夜空と無限を巡る謎
 オルバースのパラドックスを解く
 大きな世界と小さな世界
第3章 宇宙にゼロはあるか
 宇宙の誕生
 原のその先へ
 遠隔力しかない宇宙
 自然はゼロを嫌う
第4章 宇宙に永遠はあるか
 有限な宇宙で育まれる命
 
【著者】
谷口 義明 (タニグチ ヨシアキ)
 1954年北海道生まれ。東北大学理学部卒業。同大学院理学研究科天文学専攻博士課程修了。理学博士。東京大学東京天文台助手などを経て、放送大学教授。専門は銀河天文学、観測的宇宙論。すばる望遠鏡を用いた深宇宙探査で128億光年彼方にある銀河を発見、当時の世界記録を樹立。ハッブル宇宙望遠鏡の基幹プログラム「宇宙進化サーベイ」では宇宙のダークマター(暗黒物質)の3次元地図を作成し、ダークマターによる銀河形成論を初めて観測的に立証した。
 
【抜書】
●ビッグバン宇宙論(p105)
 宇宙の誕生と進化のシナリオ。
(1)無からの宇宙誕生
 138億年前、「無」からこの宇宙が生まれた。ミクロの世界では、すべての物質が揺らいでいる(正確な値が分からない状態)。位置や速度、時間やエネルギーなども揺らいでいる。「無」そのものも揺らいでおり、粒子やその反対の性質をもつ粒子(反粒子)が生まれたり、消えたりしている。「対生成」と「対消滅」と呼ばれる現象。揺らいだ「無」から、ある有限の確率で、宇宙が誕生することがある。その確率がゼロでないため、宇宙が誕生してもよいと考える。誕生したばかりの宇宙のサイズは10-36メートルだったと考えられている。プランク・スケールと呼ばれる値。
(2)急激な膨張
 誕生した宇宙はエネルギーをもっていたので、急激に膨張し始めた。そのため温度がどんどん下がり、宇宙の状態も大きな変化を経験しながら進化した。「相転移」と呼ばれる。相転移によってインフレーションと呼ばれる指数関数的な宇宙膨張が起こった。宇宙の誕生から10-36後にスタートし、10-34秒に終わってしまう。その間に宇宙の大きさは1043倍に膨れ上がった。
(3)火の玉宇宙
 インフレーションは熱エネルギー(潜熱)を残してあっという間に終わった。その後、この熱エネルギーを使って宇宙はまた膨張しだす。「ビッグバン」。
(4)ビッグバン元素合成
 火の玉宇宙は高温・高圧のため、最初の3分間で元素合成を行うことができた。ビッグバン元素合成。生まれた元素は水素(陽子)とヘリウム(ヘリウム原子核)、9対1。軽元素(リチウム、ベリリウム、ホウ素)もわずかに生成された。それ以外の炭素から鉄までの重い元素は星内部の熱核融合で生成された。鉄より重い元素は超新星爆発や中性子星同士の合体の際に生成されたもの。
(5)ビッグバンの残光
 誕生から38万年後、電離していたプラズマ宇宙は終わり、宇宙は中性化した。その時、電磁波はプラズマによる散乱を受けなくなるので、宇宙を自由に伝播できるようになった。この頃の宇宙の温度は3000K。宇宙はその熱放射(熱によって電磁波を放出する現象)で満たされていた。
 現在の宇宙は、宇宙年齢38万年の頃に比べて約1000倍になっているので、熱放射の波長は1000倍長くなって観測される。波長が1000倍長くなると、電磁波のエネルギーと温度は1000分の1に下がる。したがって、現在、この熱放射を観測すると、3Kの温度の熱放射として、マイクロ波という電波の波長帯で観測される。これが、宇宙マイクロ波背景放射の正体。この熱放射の存在は、ビッグバンが起こった観測的な証拠。TV番組が終わった後の「ザーッ」という雑音の約1割は宇宙マイクロ波背景放射。
(6)銀河の誕生
 宇宙の中では、ダークマター(暗黒物質)の重力に導かれ、普通の元素でできた物質が集められていく。宇宙誕生後1億年から数億年経過したときに(平均して2億年)、宇宙最初の星が生まれ始めた。その前は、一つも星がないので宇宙は真っ暗だった。そのため、宇宙最初の約2億年間は、「宇宙の暗黒時代」と呼ばれている。
(7)銀河の進化
 元素由来の物質を含む暗黒物質の塊(ダークマター・ハロー)は合体を繰り返しながら成長し、銀河を形作っていく。ダークマター・ハローに含まれている普通の元素でできたガス雲の中で星が生まれ、それらが集積されて銀河として育っていく。この考え方は「階層構造的合体モデル」と呼ばれる。
(8)現在
 宇宙の年齢は138歳になった。地球を含む太陽系は現在46億歳。
 ビッグバン……米国の物理学者ジョージ・ガモフ(1904-1968)が提唱した「ファイアーボール・モデル」のこと。「大ウソ」という意味のスラング。ファイアーボール・モデルを認めず、定常宇宙論を提唱したイギリスの天文学者フレッド・ホイル(1915-2001)が、BBCのラジオ番組で語った言葉。ガモフは、皮肉で言われた「ビッグバン」という言葉を気に入り、自分自身でも使い始めた。そのため、そのままビッグバン・モデルとして定着した。
 
●相転移(p140)
 宇宙が誕生した瞬間には力は統一されていて、一つの力しかなかった。
 ところが、相転移が起こるたびに統一されていた力は分化し、現在の自然界にある四つの基本的な力である「重力」「電磁気力」「強い力」「弱い力」となった。宇宙誕生から1秒もたたないうちに4回の相転移が起こった。
 10-44秒後に重力相互作用と電磁相互作用に分かれ、10-36秒後に電磁相互作用から強い相互作用が分かれ、10-11秒後に電磁相互作用から弱い相互作用が分かれた。10-4秒後には核子が誕生した。
 現在は電磁気力と弱い力を統一する理論が出来上がっているが、これに強い力が統一されれば大統一理論が完成する。
 さらに重力が統一されれば「すべての力の統一理論(究極の理論)」が完成する。
 
●セルシウス(p156)
 摂氏(℃、セルシウス度)は、1742年にスウェーデンの天文学者アンデルス・セルシウス(1701-1744)が定義した。セルシウスは、水の凝固点を100℃、沸点を0℃としていた。
 
●1080(p160)
 宇宙にある原子(陽子)の個数はだいたい1080個。エディントン数と呼ばれている。
 
●宇宙の未来(p172)
 宇宙の未来はどうなるのか、5通りの説がある。
(1)ビッグ・フリーズ
 宇宙は膨張とともに、どんどん冷えていく。最終的には絶対零度(0K=マイナス273.15℃)に近づいてく。
(2)ビッグ・リップ 
 リップ(rip)とは強く引き裂くこと。ダークエネルギーがある物理状態を取ると、宇宙膨張が急速に進行し、数千億年後には宇宙全体の膨張速度が光速を超える。この時、宇宙は原子レベルまで引き裂かれ、壊れて死に至る。
(3)ビッグ・クランチ
 crunchは潰れること。現在、宇宙は膨張しているが、膨張を止めるほど宇宙の中に物質があると、重力の働きで膨張にブレーキがかかる。その場合、膨張はいずれ止まり、収縮へと転ずる。そして、宇宙はまた一つの点のような小さな領域に集まる。
(4)サイクリック宇宙
 ビッグ・クランチの後、またビッグバンのような出来事が起きて、膨張に転じる可能性がある。膨張 → 収縮 → 膨張 → 収縮を繰り返す。
(5)真空崩壊
 現在私たちが住んでいる宇宙は、「真」の真空ではなく、「偽」の真空である場合に起こる。「真」の真空はエネルギーが最低の状態(最終的な安定状態)で、「偽」の真空はそれよりエネルギーが高い状態にある。「偽」の真空は「真」の真空へ遷移する運命にある。この遷移が起こると宇宙は消える。これがいつ起こるかは不明。
 
(2023/7/26)NM
 
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流されて生きる生き物たちの生存戦略 驚きの渓流生態系
 [自然科学]

流されて生きる生き物たちの生存戦略: 驚きの渓流生態系
 
吉村真由美/著
出版社名:築地書館
出版年月:2022年12月
ISBNコード:978-4-8067-1644-0
税込価格:2,640円
頁数・縦:225p, 図版16p・19cm
 
 渓流の仕組みと生態系を詳しく解説。
 
【目次】
第1章 水の循環と河川
 川の流れを追う
 渓流の環境
  ほか
第2章 流水をいなして生きる生き物たち
 撹乱を耐え忍ぶ
 流れからの待避
  ほか
第3章 流水に適応する
 外部環境への適応
 生息環境と生き物の形状
  ほか
第4章 生き物どうしの関係
 さまざまな察知能力
 餌をめぐるやりとり
第5章 渓流域における落葉の重要性
 渓流域のエネルギーの流れ
 落葉と底生動物
付録 渓流に生息している主な生き物
 
【著者】
吉村 真由美 (ヨシムラ マユミ)
 大阪府生まれ。奈良女子大学大学院理学研究科修了、大阪府立大学大学院農学生命科学研究科中途退学、博士(理学)。運輸省にて航空関係の業務に携わったのち、農林水産省入省。森林総合研究所四国支所研究員、国立研究開発法人森林総合研究所企画部研究評価室長を経て、現在は国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所関西支所チーム長。渓流性水生昆虫の生理生態学、森林構造と生物群集との関係解明、放射性セシウム汚染による水生生物への影響、生態系サービスや生物多様性保全に関わる研究などを行っている。
 
【抜書】
●河床間隙水域(p21)
 hyporheic zone。渓流の川床の下に広がっているエリア。伏流水は、このエリアの渓流に近い部分を指すことが多い。
 攪乱などによって多くの土砂が流れ込み、渓流自体に水が流れなくなっても、このエリアに水が存在していることが多く、生き物も生息している。
 
●溶存酸素量(p29)
 水の中にもわずかに酸素が存在している。しかし、利用可能な酸素の量は空気中の約三十分の一。
 水の中の酸素は主に、水面で水と空気が触れ合うことで、水の中に空気が取り込まれることによってもたらされている。
 溶存酸素量は、水温が低いと多くなる。標準の大気圧のもとで、5℃で12.77mg/Lだったものが、25℃では8.26mg/Lにまで減少する。
 また、流れが速いところなど水が攪拌されていると、空気と触れ合う機会が増えるので酸素濃度は高くなる。
 
●酸性度(p50)
 酸性度は、水素イオンの濃度ではかる。川の中の石が赤茶色になっているのは、酸性の河川となっている証拠。
 アルカリ度は、炭酸塩の濃度ではかる。
 硬度は、カルシウムイオンおよびマグネシウムイオンの含有量で決まる。
 電気伝導度は、水の中のすべてのイオン量で決まる。
 
●クリプトビオシス(p74)
 生物が、乾燥や極低温などの状況で活動を停止する無代謝状態。
 
●一級河川(p81)
 一級河川……国土を保全する上でまたは国民の経済を豊かにする上で特に重要と判断された水系。国土交通省令により、国土交通大臣が水系ごとに名称・区間を指定する。全国で109水系が指定されている。国土交通大臣の直轄によって管理を行う河川と、政令によって区間を指定して当該都道府県知事に管理の一部を委任する河川に分けられる。
 二級河川……公共の利害に重要な関係性のある河川。一級河川の水系以外の水系の中から、都道府県知事が指定して管理を行う。
 準用河川……上記以外の河川で、公共性の見地から重要と考えて市町村長が指定する。河川法で指定されていない小川などを、市町村長が準用河川に指定して管理することもある。
 普通河川……どこにも管理されていない場合、河川法の適用を受けない普通河川として扱われる。
 国有林内を流れる渓流の管理は林野庁になるが(町村有林の渓流は町などの管理)、一般的に、渓流は普通河川になる。
 
●シスト形成(p115)
 体の周囲に膜や壁を作り、一時的な休止状態に入ること。乾燥状態の時など、シスト形成を行って環境変化に対応している。
 プラナリアは、シスト形成をするか乾燥耐性のある卵を産むことによって、乾燥状態を生き延びている。
 
●摂食機能群(p155)
 シュレッダー……デトリタス食者や破砕食者ともいう。落葉を細かくして、付着している菌類とともに落葉を食べる。カクツツトビゲラ科、オナシカワゲラ科、など。
 コレクター……上流から流れてきた小型・中型の粒子状有機物を食べる。ユスリカ科、など。
 グレーザー……付着藻類を剥ぎ取って餌とする。ヒラタカゲロウ科、ヤマトビケラ科、ニンギョウトビケラ科、など。
 フィルターラー……石と石の間に網を張って、上流から流れてくる懸濁粒子(小型・中型の粒子状有機物)を捕獲し、濾過して餌にする。ヒゲナガカワトビケラ科、シマトビケラ科、など。
プレデター……動物を捕食するもの。カワゲラ科、ナガレトビケラ科、イワトビケラ科、など。
 
●ブユ(p159)
 ブユは、幼虫の間は小さな有機物を食べている種が多い。
 成虫になると、メスは卵を成熟させるため、栄養価の高い血液を摂取するようになる。
 オスは、飛翔のエネルギー源として花の蜜を吸っている。
 
●放射性物質(p190)
 海水に生息している魚には、体内に受動的に塩分が入ってくるのを阻止し、また入ってきた塩分を排除する機能が備わっている。そのため、入ってくる放射性セシウムを排除し、体内に入ってしまった放射性セシウムをできる限り早く排除しようとする。
 淡水に生息している魚は、体内から塩分が流亡するのを防ぎ、淡水からわずかであっても塩分を取り込もうする機能が備わっている。そのため、放射性セシウムを受動的に取り込みやすく、体内に入った放射性セシウムの流亡を防ごうとする。
 放射線汚染の影響は、淡水に生息している魚で長く続くことになる。
 淡水の魚でも塩分を排除する機能は持ち合わせている。汚染のない環境下で飼育すると、時間はかかるが、放射性セシウムを完全に排除することができる。
 
●亜成虫(p195)
 カゲロウは、不完全変態で、幼虫の間に10~40回の脱皮を繰り返す。
 羽をもつステージが二つある。亜成虫と成虫。幼虫から羽化したものが亜成虫。羽化は捕食される危険性が最も高いので、その危険を減らすため、夕方に一斉に羽化が起こることが多い。その後、羽化した場所から飛び立って、近くの別の場所で再度脱皮を行い、成虫になる。
 亜成虫は成虫とほぼ同じ形をしているが、成虫に比べて毛が多く白っぽい。性的にも未成熟。
 成虫の寿命は短く、数時間から長くても数日程度。摂食しない。
 
(2023/6/30)NM
 
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科学者はなぜ神を信じるのか コペルニクスからホーキングまで
 [自然科学]

科学者はなぜ神を信じるのか コペルニクスからホーキングまで (ブルーバックス)
 
三田一郎/著
出版社名:講談社(ブルーバックス B-2061)
出版年月:2018年6月
ISBNコード:978-4-06-512050-7
税込価格:1,100円
頁数・縦:270p・18cm
 
 科学理論が神(おそらくキリスト教の神を想定している)の領域を侵食していく歴史を描きながら、偉大な科学者たちの信じた「神」について論じる。
 「神」がどうのこうのということにこだわらず、パラダイムシフトする、古代から現在までの科学理論の歴史として読んでも面白く、わかりやすい内容となっている。というか、小難しい神学論争というよりも、簡潔にまとめられた宇宙論の科学史と見たほうが適切かもしれない。
 
【目次】
第1章 神とはなにか、聖書とはなにか
第2章 天動説と地動説――コペルニクスの神
第3章 宇宙は第二の聖書である――ガリレオの神
第4章 すべては方程式に――ニュートンの神
第5章 光だけが絶対である――アインシュタインの神
第6章 世界は一つに決まらない――ボーア、ハイゼンベルク、ディラックらの神
第7章 「はじまり」なき宇宙を求めて――ホーキングの神
終章 最後に言っておきたいこと
 
【著者】
三田 一郎(サンダ イチロウ)
 1944年東京都生まれ。名古屋大学名誉教授。専門は素粒子物理学。14歳で父の転勤のため渡米、プリンストン大学大学院博士課程修了。コロンビア大学およびフェルミ国立加速器研究所研究員、ロックフェラー大学准教授を経て名古屋大学理学部教授、神奈川大学工学部教授、東京大学カブリ数物連携宇宙研究機構プログラムオフィサーなどを歴任。日本学術会議会員。また、南山大学宗教文化研究所客員研究所員、カトリック名古屋司教区終身助祭、カトリック東京大司教区協力助祭(カトリック東京カテドラル関口教会出向)。
 
【抜書】
●ペスト(p34)
 キリストの死を十字架の下で悲しんだのはわずか4人だった。多くの弟子たちは自分の命を惜しんで逃げた。
 その後、信者の数は10年間に40%の割合で300年間増え続け、AD350年までに3,300万人になった。
 ローマ帝国の人口の約半分がキリスト教信者となったといわれる。
 その理由の一つは、ペストの流行。ガレンのペスト(165年)、ローマのペスト(251年)など、定期的に発生し、多くの死者が出た。多いときは1日5,000人。感染者は町から追い出され、死者はゴミのように放置された。
 キリスト教の信者たちは、感染の危険も顧みずに看病し、死者を手厚く埋葬した。その姿に感動し、新たに信者になる人が多かった。
 
●五大総主教(p35)
 313年、コンスタンティヌス1世がキリスト教を公認。ミラノ勅令。
 392年、テオドシウス1世がキリスト教をローマ帝国の国教と定め、ほかの宗教を禁じる。
 キリスト教は、免税などの恩恵を受けて富を蓄え、ローマのほかにアレクサンドリア、アンティオキア、エルサレム、コンスタンティノープルにも大きな教会を建て、5人の総主教をおく。
 キリスト教と聖書の理論的な解釈を目指す「神学」が重要な学問となり、聖書のラテン語訳も出された。
 
●フィロラオス(p38)
 BC470年頃~385年。ピタゴラス派教団の哲学者。宇宙の数理的モデルを完成。地球球体説。
 宇宙の中心には「火」があり、その周囲を「空」「水星」「金星」「地球」「月」「太陽」「火星」「木星」「土星」という9個の天体が回っている。一種の地動説。
 教団では10という数字を神からいただいた特別な「完全数」として扱っていたので、10個目の天体として、「火」を挟んだ反対側に「対地球」という星を仮定した。
 宇宙の中心にあるはずの「火」が見えない理由……われわれは「火」から見れば、地球の裏側に住んでいる。そして、地球が自転する速度と、地球が「火」の周囲を公転する速度が同じだから、常にわれわれは「火」から見て裏側にいることになる。だから決して「火」を見ることができない。
 
●固有の場所(p42)
 なぜ、物は地上に落下し、炎は上昇するのか。
 アリストテレスは、「この宇宙に存在する物体はすべて、無秩序の状態から秩序ある状態に戻るために運動する」と考えた。物体にとって「秩序ある状態」とは、その物体が本来あるべき「固有の場所」にある状態。
 天動説。
 
●アリスタルコス(p43)
 BC310-230年。ギリシャの天文学者。「古代のコペルニクス」とも呼ばれている。
 地球は太陽の周りを公転していて、月は地球の周りを1カ月に一度公転しているがゆえにその形を変える(三日月、半月、満月のこと)。太陽中心説、つまり地動説。
 しかし、アリストテレスのあまりに巨大な業績に圧倒され、ほとんど無視された。
 
●ガリレオ・ガリレイ(p65)
 1564-1642年。
 イタリアのトスカーナ地方には、一家の長男に、しばしば姓を名前として付けるという習慣があった。
 ガリレオは、トスカーナ大公国の領地であったピサという町で、ガリレイ家の長男として生まれた。
 「ガリレイ」は家の名(姓)なので複数形、「ガリレオ」は個人の名なので単数形。
 
●ジョルダーノ・ブルーノ(p84)
 1548-1600年。ドミニコ会の修道士。ガリレオより16歳年長。大学で神学と天文学を教えていた。
 宇宙論について先駆的な考えを持っており、数々の著作の中で発表していた。
 「地球が宇宙の中心でないばかりか、太陽もその中心ではない」
 「この宇宙は無数の宇宙からできている。そして神はその無限のうちにある」
 「変わらないものは何もなく、すべては相対的な存在で、常に変化している。したがって、人間が宇宙で特別の価値がある存在ではありえない」
 異端の烙印を押され、教会の目を逃れて各地を放浪。安全に思えたパドヴァ大学の教授の枠に欠員が出たため就職しようとしたが、ピサ大学教授の3年の任期が切れたガリレオに先を越される。ヴェネツィアで大貴族の家庭教師に招かれるが、この貴族に告発され、逮捕される。
 異端審問所で自説の撤回を求められるも拒否、火あぶりの刑に処せられる。
 ガリレオは、ブルーノの一件を知っていて、地動説を撤回した。
 
●ジョルジュ・ルメートル(p160)
 1894-1966年。ベルギー人。
 1927年、アレクサンドル・フリードマン(1888-1925)の宇宙モデルのことは知らずに、アインシュタイン方程式を宇宙項なしで計算し、「宇宙は膨張している」という解を導き出した。
 さらに、宇宙が膨張しているなら、時間を戻していけばやがて、宇宙は原子よりも小さな極小の粒子になるはずであると考えた。宇宙は、極小の状態から始まって、膨張し続けているという、膨張宇宙論を唱えた。「原始的原子の仮説」。
 膨張宇宙では、遠ざかるスピードは二つの星の間の距離に比例する。
 
●アインシュタインの神(p172)
〔 アインシュタインは、間違いなく神を信じていました。その神とは人間の姿をして教えを垂れるものではなく、自然法則を創り、それに沿って世界と人間を導くものでした。幼い頃に聖書と教会に絶望した彼はそれに代わる神を見いだし、その忠実な信者になったのです。
 
●最初の光(p224)
〔 ここまでみてきたコペルニクス以来の宇宙論の発展は、いうなれば神の絶対性を次々に制限していった歴史とみなすことができます。平たくいえば、この宇宙から神にしかできない仕事をどんどんなくしていった歴史です。その結果、かろうじて残ったのは、「創世記」に記されているように、天地創造において「最初の光」を与える仕事でした。〕
 
●神業(p263)
〔 私が考える「神業」とは、永遠に来ない「終わり」と言うことができます。人間には神をすべて理解することは永遠にできません。しかし、一歩でも神により近づこうとすることは可能です。近づけばまた新たな疑問が湧き、人間は己の無力と無知を思い知らされます。だからまた一歩、神に近づこうという意欲を駆り立てられます。「もう神は必要ない」としてこの無限のいたちごっこをやめてしまうことこそが、思考停止なのであり、傲慢な態度なのではないでしょうか。科学者とは、自然に対して最も謙虚な者であるべきであり、そのことと神を信じる姿勢とは、まったく矛盾しないのです。晩年のホーキングも、またディラックも、そのことに気づいていたのではないかと私は考えています。〕
 
(2023/4/29)NM
 
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一生モノの物理学 文系でもわかるビジネスに効く教養
 [自然科学]

一生モノの物理学 文系でもわかるビジネスに効く教養 (単行本) 
鎌田浩毅/著 米田誠/著
出版社名:祥伝社
出版年月:2022年3月
ISBNコード:978-4-396-61741-7
税込価格:1,760円
頁数・縦:285p・19cm
 
 高校レベルの初級物理学を応用して、10の製品や自然現象について解説する、文系ビジネスパーソン向け物理学講座。
 私の場合、ma=F(ニュートンの運動の第2法則。m:物体の質量、a:物体に生じる加速度、F:物体に外部から作用する力)までは理解できた。しかし、その後に出てきた数式が複雑で、記号の意味とともにその数式を暗記することができず、物理は挫折した。
 
【目次】
医療の中の物理学)水晶体の再建
(医療の中の物理学)内視鏡
(医療の中の物理学)X線・CT・MRI
(医療の中の物理学)重粒子線によるがん治療
(日常の中にある物理学)万有引力と天体の不思議
(日常の中にある物理学)ジェットエンジンの推進力
(日常の中にある物理学)気象現象のメカニズム
(日常の中にある物理学)ノイズ・キャンセリング
(日常の中にある物理学)レーダー・ソナー
(日常の中にある物理学)リニアモーターカー
(日常の中にある物理学)赤外線カメラと電子顕微鏡
(特別講義)社会人のための物理の学び方
 
【著者】
鎌田 浩毅 (カマタ ヒロキ)
 1955年東京生まれ。東京大学理学部卒業。通産省主任研究官、京都大学大学院人間・環境学研究科教授を経て、現在京都大学レジリエンス実践ユニット特任教授・同名誉教授。専門は火山学、地球科学、科学教育。
 
米田 誠 (ヨネダ マコト)
 1977年生まれ。兵庫県西宮市出身。大阪大学大学院修了(修士(工学))。三菱重工業株式会社での設計業務を経て、現在関西の大学受験予備校「研伸館」にて物理の学習指導に携わる。東大・京大をはじめ、難関大学志望の高校生や灘中・灘高の学校準拠クラスを指導するなど、幅広いレベル・学年の講座を担当。
 
【抜書】
●白内障(p24)
 白内障は、太陽光中の紫外線によって水晶体が白く濁ることによって起こる。
 若いうちは体内の酵素によって水晶体の白濁を防いでいるが、加齢に伴い酵素の生産量がだんだん少なくなっていく。そのため水晶体が白濁し、視界の「もや」が徐々に濃くなっていく。
 
●島津源蔵(p58)
 1895年、ドイツの物理学者ヴィルヘルム・レントゲン(1845-1923年)がX線を発見。数日後、世界最初のX線写真を撮影。妻ベルタ夫人の手の骨と指輪。
 1896年、発明家の島津源蔵(1869-1951年)が、日本初のX線写真撮影に成功。島津製作所の二代目社長。島津製作所の初代社長は、父親の初代島津源蔵。1894年に急死し、長男の梅次郎が2代目源蔵を襲名した。
 
●陽イオン、陰イオン(p93)
 電気的に中性な原子から電子を取り去って正の電気を帯びたものを「陽イオン」という。英語でCation〈カチオン〉。
 電気的に中性な原子に電子を付与したものを「陰イオン」という。Anion〈アニオン〉。
 「マイナスイオン」という言葉は、自然科学の世界には存在しない。
 
●受用と試行錯誤(p242)
 〔ビジネスパーソンは何のために物理を学ぶのでしょうか。それは、「受用」と「試行錯誤」という2つの異なる姿勢を身につけるためです。
 なお、「受用」とは「受け入れて用いること」、そして、「試行錯誤」とは「いろいろ試してみて、失敗を重ねながらも完成に近づけていくこと」です。
 物理学の学習はまず、正しいとされている基本黄な法則(ルール)を受け入れ、正しく使いこなせるようになることから始まります。換言すると、「考え方の型(カタ)を身につけて使うこと」(受用)から始まるのです。そして、そこに主観や先入観を混ぜることは許されません。
 そうした先入観のない「型」を身につけた後で、次にやっと「なぜこういう現象が起こるのだろう」と考えます。つまり、習得した「型」に従って、ああでもないこうでもないといろいろと考えるのです。これが取りも直さず、「試行錯誤」なのです。
 ここで、ほとんどの場合には、納得できる結果を得て、「型」の素晴らしさを実感します。こうなると、「物理は面白い!」となるのです。〕
 社会の現場では、「受用と試行錯誤」の次に、「探究」の要素が加わる。
 〔社会はすでにわかっていることを習得し実践するだけの場ではなく、知られていないことを仕事にして探求《ママ》する場でもあります。したがって、探究の要素が強くなります。〕
 
(2023/3/14)NM
 
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ウイルスとは何か 生物か無生物か、進化から捉える本当の姿
 [自然科学]

ウイルスとは何か 生物か無生物か、進化から捉える本当の姿 (中公新書)
 
長谷川政美/著
出版社名:中央公論新社(中公新書 2736)
出版年月:2023年1月
ISBNコード:978-4-12-102736-8
税込価格:990円
頁数・縦:266p・18cm
 
 ウイルスについて、これまでの研究で明らかになったことを総合的に論じる。
 
【目次】
第1章 ウイルスという存在
第2章 ウイルスの起源を探る
第3章 インフルエンザウイルスの進化
第4章 動物からもたらされる感染症
第5章 動物の行動を操るウイルス
第6章 進化の目で見るコロナウイルス
第7章 ヒトとともに進化するウイルス
 
【著者】
長谷川 政美 (ハセガワ マサミ)
 1944年(昭和19年)新潟県生まれ。進化生物学者。理学博士(東京大学)。統計数理研究所教授、復旦大学教授、国立遺伝学研究所客員教授などを歴任。統計数理研究所名誉教授、総合研究大学院大学名誉教授。日本科学読物賞(1993年)、日本遺伝学会木原賞(1999年)、日本統計学会賞(2003年)、日本進化学会賞・木村資生記念学術賞(2005年)など受賞歴多数。
 
【抜書】
●ウイルスの種類(p10)
 《RNAウイルス》
  ・マイナス鎖一本鎖RNA……(-)RNAゲノム。インフルエンザ、麻疹
  ・二本鎖RNA……dsRNA。レオ、ロタ
  ・プラス鎖一本鎖RNA……(+)RNAゲノム。コロナ、C型肝炎
 《レトロウイルス》
  ・一本鎖RNA逆転写……(+)RNAゲノム。HIVなどのレトロウイルス
  ・二本鎖DNA逆転写……dsDNAゲノム。B型肝炎、カリフラワーモザイク
 《DNAウイルス》
  ・一本鎖DNA……ssDNAゲノム。パルヴォ
  ・二本鎖DNA……dsDNAゲノム。ヘルペス、天然痘
 
●プラス鎖RNA(p20)
 ゲノムがそのままmRNAとして働くことができるもの。
 マイナス鎖RNAは、いったん相補的なRNAに転写された後にmRNAとして働く。そのために、あらかじめ転写のための酵素である「RNA合成酵素」を備えている。
 
●三つの起源説(p32)
 (1)「細胞前の世界」の名残。そのころのRNAやDNAなどの核酸が「カプシド」というタンパク質を獲得してウイルスになった。
 (2)ウイルスは細胞生成物の退化したもの。「細胞後の世界」の出来事。
 (3)細胞生物のゲノムの一部あるいはRNAが独立してウイルスになった。
 三つのうちどれが正しいというのではなく、さまざまな起源をもったウイルスがいる、ということかもしれない。
 カプシド……ウイルス粒子(細胞に感染する前のウイルス)は、通常、RNAまたはDNAのゲノムがカプシドで囲まれた状態にある。ウイルスが感染して細胞内に入ると、この構造は消えてしまう。その外側が、さらに脂質二重膜の「エンベロープ」と呼ばれる外皮に覆われているウイルス粒子もある。エンベロープを持たないウイルス粒子は、裸のウイルスまたは「ヌクレオカプシド」と呼ばれる。ポリオウイルスやノロウイルスなど。コロナウイルスやインフルエンザウイルスはエンベロープを持つ。
 
●25万都市(p112)
 麻疹ウイルスが牛疫ウイルスから分かれたのが2500年前。
 両ウイルスが小反芻獣疫ウイルスから分かれたのが5200年前。小反芻獣疫ウイルスは、ウシ、ヤギ、ヒツジなどの家畜化(約1万年前)の後に出現。
 ヒトに感染する麻疹ウイルスは、人口25万~40万人以上の規模の都市がないと感染が持続しないと言われている。麻疹は一度感染すると一生の間免疫が持続するようなので、これくらいの規模の都市がないと持続的に感染が保たれない。
 
●ファージ療法(p137)
 1917年、パリのパスツール研究所にいたカナダ人微生物学者フェリックス・デレーユ(1873-1949)は、細菌に感染するウイルス「ファージ」を発見した。細菌の細胞内に感染し、赤痢菌の増殖を抑える。「赤痢菌に拮抗する不可視微生物について」と題する短報。
 赤痢患者に投与されると、1日に10回以上も血便のあった症状が翌日には快癒した。ファージ療法。
 デレーユはノーベル賞候補にもなったが、その後、抗生物質が登場した結果、ファージ療法は廃れてしまった。
 しかし、抗生物質は抵抗性をもった細菌が出現しているし、人にとって有益な細菌も一緒に除去してしまうというデメリットもある。
 ファージは特定の細菌にしか感染しないので、ほかの細菌にはダメージを与えることなく病原菌を退治できる。最近、ファージ療法が再び脚光を浴びている。
 
●ウイルスの家畜化(p144)
 ヒメバチ科のベッコウアメバチモドキという寄生バチは、ヤママユという蛾の幼虫の体内に産卵し、そこで孵化した幼虫は、ヤママユの幼虫を内側から食べながら育つ。
 ベッコウアメバチモドキには、ポリドナウイルスの一種イクノウイルスが寄生(内在化)している。宿主の蛾の幼虫の生理状態をコントロールしている。まず、寄生バチの卵表面がメス蜂のカリックス細胞で増殖したポリドナウイルス粒子で覆われていることで、蛾の幼虫の免疫を回避することができる。さらに、蛾の幼虫のホルモン系を攪乱して、蛹化することを妨げる。蛹になると体表が硬くなって寄生バチの幼虫が体内から出られなくなる。
 宿主がウイルスを利用して自身の生き残りを図っているように見えることを、「ウイルスの家畜化(Viral domestication)」という。
 さらに、寄生バチの宿主となるカイコガなどの蛾のゲノムに、ポリドナウイルスの「配列」が組み込まれていることが発見された。「内在性ウイルス様配列」。幼虫に卵を産み付けるタイミングが遅れて、寄生が失敗し、ウイルスの配列が蛾のゲノムに組み込まれたと考えられる。蛾にとって、内在化された配列が何かの役に立っているのかどうかは分かっていない。
 
●ハリガネムシ(p147)
 類線形動物門に分類される寄生虫。水中で交尾産卵し、孵化した幼虫はカゲロウやユスリカなど水生昆虫の幼虫に捕食され、体内で成長し、「シスト」という休眠状態に入る。
 カゲロウやユスリカは成虫になるとカマキリなどに食べられる。ハリガネムシはカマキリなどの体内で大きく成長し、宿主の行動を操作して、入水自殺するように仕向ける。
 
●ボルバキア(p163)
 多くの節足動物の細胞内に共生する真正細菌。Wolbachia。
 ボルバキアの共生が、宿主のウイルス感染症に抵抗力を与える。共通の資源をめぐってウイルスと競い合うために、結果的に宿主にウイルスに対する抵抗性をもたらすのかもしれない。
 ヤブカ属のネッタイシマカにボルバキアを共生させると、デングウイルスやジカウイルスの増殖が抑えられる。蚊の卵にボルバキアを感染させて共生個体を作り出し、野外に放つことによってデング熱やジカ熱の流行を抑える試みが始まっている。ボルバキアは、母親から子どもに受け継がれる。
 不妊虫放飼法……似たような方法に、放射線などで不妊にしたオスを大量に放す「不妊虫放飼法」という方法がある。沖縄では、キュウリやゴーヤなどウリ類の害虫ウリミバエがこの方法で駆除された。
 
●プロウイルス(p214)
 宿主のゲノムに組み込まれた状態のレトロウイルス。
 プロウイルスから遺伝情報が発現され、ウイルスRNAやmRNAが合成される。mRNAからウイルスたんぱく質が合成され、それと新たに合成されたウイルスRNAから作られる新しいウイルスが宿主細胞から出ていく。
 
●レトロトランスポゾン(p216)
 ヒトゲノム30億塩基対のうちの98%が、たんぱく質をコードしない「非コードDNA領域」。
 その中で最も多かったのが「レトロトランスポゾン」というDNA。ゲノム全体の42%を占める。
 レトロトランスポゾンは、「DNA→RNA→DNA」と、転写と逆転写を繰り返してゲノム中で転移・増殖する。このような転移は遺伝的な変異であり、有害な影響を及ぼすこともある。
 LTR型レトロトランスポゾン……LTR=long terminal repeat。末端に長い反復配列を持つ。同じ配列を数百から数千回繰り返す。レトロウイルスのプロウイルスとそっくりだが、活性を保つために必須のエンベロープたんぱく質「env遺伝子」を失っている。他の細胞へ感染できなくなったプロウイルスが生殖細胞に残ったものに見える。
 非LTR型レトロトランスポゾン……逆転写酵素を使って増殖するが、ウイルスとは異なるもの。SINE(short interspersed elements:短い散在性反復配列。ヒトゲノムの13.5%)と、LINE(long interspersed elements:長い散在性反復配列)の2種類がある。
 哺乳類(もしくはヒト?)のAmn SINE1は124個ある。そのうちの一つは「SATB2」という遺伝子の上流にある。SATB2は、哺乳類の脳の形成に関わっており、Amn SINE1が発現量の上昇に役立っている。ゲノムへのSINEの挿入が、哺乳類の脳の進化に重要な働きをしてきたと考えれらえる。
 エンハンサー……遺伝子の発現量を上昇させる働きをする配列。
 Amn……Amniota(羊膜類)の略。
 
●ゲノム刷り込み(p222)
 ゲノム・インプリンティング。哺乳類は父親と母親とからゲノムをそれぞれ一揃いずつ受け継ぐが、いくつかの遺伝子は片方の親から受け継いだほうだけが発現する。このように、どちらの親から由来した遺伝子なのかが記録されていることを「ゲノム刷り込み」という。
 哺乳類の胎盤で発現するゲノム刷り込み遺伝子15個のうち、10個が父親由来。胎児の「母子の対立」(父母の対立)において、父親が勝利した結果。胎児の成長因子は父親由来のものが発現し、成長を抑制する因子は母親由来のものが発現するような選択圧がかかっていると考えられる。
  
(2023/3/10)NM
 
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エビはすごいカニもすごい 体のしくみ、行動から食文化まで
 [自然科学]

エビはすごい カニもすごい-体のしくみ、行動から食文化まで (中公新書 2677)
 
矢野勲/著
出版社名:中央公論新社(中公新書 2677)
出版年月:2021年12月
ISBNコード:978-4-12-102677-4
税込価格:990円
頁数・縦:264p・18cm
 
 エビ・カニに魅せられた生物学者が、生態から料理まで、エビ・カニの百科を語る。
 読めばエビ・カニが好きになる。
 
【目次】
第1章 エビ・カニとはどのような生き物なのか?
第2章 エビ・カニの五感と生殖
第3章 さまざまなエビたちの生態と不思議な行動
第4章 さまざまなカニたちの生態と不思議な行動
第5章 エビ・カニの外骨格の秘密
第6章 エビ研究の最前線から―交尾と生殖の解明
第7章 赤い色を隠すエビ・カニたち
第8章 私が愛したエビ・カニたち
第9章 エビ・カニの肉質の特徴と食文化
 
【著者】
矢野 勲 (ヤノ イサオ)
 1943年、大分県生まれ。1965年、農林省水産大学校卒業、1972年、北海道大学大学院水産学研究科博士課程修了。農林省水産庁真珠研究所研究員、海洋研究所(米国)訪問研究員、農林水産省水産庁養殖研究所室長、福井県立大学海洋生物資源学科教授等を経て、同大学名誉教授。専攻、海洋動物培養学、動物生理学。水産学博士。
 
【抜書】
●十脚目(p2)
 エビとカニの共通点は、胸脚(鋏脚と歩脚)を左右5対合計10本持つこと。
 違いは、エビが腹部の下に遊泳肢を5対、尾節に尾肢が備わっていること。カニは腹節と尾節が背甲(甲羅)で覆われた頭胸部の下に折りたたたまれ、遊泳肢を持たないこと。
 動物界 ― 節足動物門 ― 甲殻亜門 ― 軟甲綱 ― 真軟甲亜綱 ― ホンエビ上目
   ― 十脚目 ― 根鰓亜目(こんさいあもく)
       └ 抱卵亜目
《根鰓亜目》 約550種
 クルマエビ科……クルマエビ、コウライエビ、ホワイトシュリンプ
 サクラエビ
《抱卵亜目》 約1万4720種
 短尾下目……ズワイガニ、ガザミ、ブルークラブ、モクズガニ、サワガニ、キンチャクガニ 
 異尾下目……タラバガニ、ヤシガニ、ヤドカリ
 イセエビ下目……イセエビ、フロリダロブスター
 センジュエビ下目……センジュエビ
 アナジャコ下目……アナジャコ
 ザリガニ下目……ニホンザリガニ、アメリカザリガニ、アメリカンロブスター
 ムカシエビ下目……ムカシエビ
 コエビ下目……テッポウエビ、クリーナーシュリンプ
 オトヒメエビ下目……オトヒメエビ
 
●平衡胞(p35)
 へいこうほう。第一触覚の基部にある、外に向かって開口している小さな袋状のもの。開口部は粗い剛毛と、キチンの薄い層によって保護されているため、平衡胞は外部環境に対して効果的に閉じられている。内部は、楕円形で湾曲しており、その壁面に感覚毛を持つ感覚細胞が数十個並び、その上にエビ・カニが自身でハサミを使って挿入した数個の砂粒が置かれている。
 脱皮すると砂粒がなくなるため、新たに砂粒を挿入する。〔この習性を利用して、あらかじめ飼育容器の底に鉄の粒を敷いておくと、エビ・カニは脱皮後、砂粒の代わりに鉄の粒を平衡胞の内部に挿入する。この後、磁石を使って鉄の粒を動かすと、エビ・カニは逆さまなどさまざまな姿勢をとる。さらに平衡胞の内部に微量の水を流し、感覚毛を揺れ動かすと、さまざまな姿勢をとることから、この器官が体のバランスをとるための平衡器官として機能していることが明らかになった。〕
 
●ヘモシアニン(p38)
 エビ・カニの血液は、採取直後は無色透明。空気中の酸素に触れてしだいに青い色に変わっていく。
 鉄と結合したヘモグロビンを持たず、銅と結合したヘモシアニンを持っているため。ヘモシアニンは赤血球中ではなく、血漿中に存在する。ヘモシアニンが酸素を運ぶ。
 
●性転換(p91)
 エビの中には、成長の途中で性転換する種が30種ほどいる。すべてオスからメスに性転換する。ほとんどがタラバエビ科。ホッコクアカエビ、ボタンエビ、トヤマエビ、ホッカイエビ、など。
 ホッコクアカエビ(甘えび)は、体長およそ9cm。富山以北の日本海や北海道沿岸の水深100~600mの砂泥底に棲息。寿命は長くて9~10年。孵化後4~5年たつとすべてオスからメスに性転換する。精巣を卵巣へと変化させる。
 
●松葉ガニ(p103)
 ズワイガニは、雄と雌で呼び名が異なる。
 大きな雄は、兵庫県の日本海側や鳥取県などの山陰で「松葉ガニ」と呼ぶ。
 福井県では越前ガニ、石川県では加能ガニ、京都府では間人ガニ(間人〈たいざ〉漁港から水揚げ)と呼ぶ。
 小さな雌ガニは、福井県ではセコガニ(勢いよく子どもを産む「勢子」に由来)、石川県では香箱ガニ(お茶の道具でお香を入れる「香箱」に由来)、京都府丹後地方ではコッペガニ。
 雄は甲羅の横幅が15cm、雌は7~8cmほど。雌は、棲息する水深200~600mの海底が水温1~3℃と低いため、腹節に抱卵した卵が孵化するのに1年~1年6か月と長くかかり、その間まったく脱皮できず、成長できない。
 
●キチン分解細菌(p127)
 水底には、生物の死骸などが堆積するため、水中よりはるかに多くの従属栄養細菌がいる。
 その中には、エビ・カニの外骨格を形成しているキチンを最終的にグルコースにまで分解するキチン分解細菌や、タンパク質を最終的にアミノ酸にまで分解する細菌などがいる。
 キチン分解細菌の攻撃から守るため、エビ・カニは最表層の表クチクラの構成成分を、キチンではなくリポタンパク質にしている。しかし、擦れや傷によってリポタンパク質の表クチクラが傷つき、キチンからできている外クチクラが露出すると細菌にやられてしまう。地面と接触する歩脚の表面積を最小にするため、歩脚の先端は棘のように尖った形状をしている。さらに、尖った爪先の部分は、際立って外骨格が厚くなっている。
 
●外骨格(p141)
〔 エビ・カニは、体を守るために外骨格を硬く堅固な組織にしただけでなく、比重を高くするために石灰化し、しばしば起きる飢餓に備えての栄養物質を貯蔵し供給する機能を持たせ、さらに外骨格に沈着したカルシウムを自由に出し入れするという、まさにすごいと思うほどのダイナミックな組織にしているのである。〕
 
●石干見(p147)
 いしひみ、いしひび。古代の人々が漁をするために作った人工的な潮溜まり。
 干潟に半円形などさまざまな形になるよう、無数の大小の石を高さ0.6~1.5mほどに積み重ね、隙間に水が漏れないように泥や海藻などを詰めて、潮が引くと内側に海水が溜まるようにした。
 全長は数百mから数kmにもなった。
 昭和の中ごろまで、遠浅の海を持つ長崎や大分、奄美大島、沖縄などの海岸に数多く残っていた。現在は、近代的な漁法の導入と干潟での海苔養殖の発展、さらに干潟の埋め立てに伴って減少した。幻の漁法となりつつある。
 
●50%(p232)
 エビ・カニは、脱皮時に古い殻を破って出てくるときに、体重の50%ほどの海水を飲み、古い殻の下にできた皺のよった新しい殻を風船のように膨らませる。
 脱皮直後のエビ・カニは、可食部の水分が多く、身が詰まっていない。
 
●華屋与兵衛(p243)
 にぎりずしを考案。
 すしの起源は川魚の保存食。米などの穀類を炊いたものと魚を塩で一緒に漬け、乳酸菌による米の発酵が酸度のある乳酸を生み出す結果、pHが低下し抗菌性が増すことを利用して魚を保存した。BC4世紀ごろに東南アジアの山地民族の間で生まれ、日本には奈良時代のころに入ってきた。アユやフナなどの「なれずし」。1年ほど乳酸発酵させた。
 延宝年間(1673-1681年)に、飯に酢と塩で味付けした「早ずし」ができた。飯に酢をならすのに一晩置かなくてはならなかったことから、「一夜ずし」とも呼ばれた。
 田沼時代には、料理茶屋が流行し、それまでの上方風の調理法から江戸前の高級な魚介類を使った江戸風の調理法が考案され、文化・文政期に両国の華屋与兵衛によってにぎりずしが考案された。
 すしは、保存食から酢を加えた飯と江戸前の新鮮な魚介類を使った嗜好品に変わった。
 
●蟹(p252)
 漢字の「蟹」の成り立ち。4000年ほど前、長江の治水工事のために朝廷より派遣された巴解(はかい)という役人が故あって最初にチュウゴクモクズガニを食べたことに由来。「解さんに踏みつけられた虫」という意味で「蟹」という感じが生まれた。
 「虫」は、一般に無脊椎動物全般を意味する。
 
●えびいろ(p253)
 日本語の「えび」の語源。エビの体色が山葡萄(やまぶどう)の熟した赤紫色の「葡萄色(えびいろ)」に似ているから、という説がある。
 
(2023/1/21)NM
 
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直立二足歩行の人類史 人間を生き残らせた出来の悪い足
 [自然科学]

直立二足歩行の人類史 人間を生き残らせた出来の悪い足 (文春e-book)
 
ジェレミー・デシルヴァ/著 赤根洋子/訳
出版社名:文藝春秋
出版年月:2022年8月
ISBNコード:978-4-16-391583-8
税込価格:2,860円
頁数・縦:437p・20cm
 
 直立歩行をテーマに人類の歴史およびホミニンの化石発掘史をたどる。その結果として、これまで定説となっていた人類史に異なる光を照らす。
 これまで必死に化石人類の名前を覚えようと努力してきたが、なかなか記憶できなかった。本書は、二足歩行を解明してきた歴史を系統立てて解説してくれるので、種の名前も比較的スムースに頭に入ってくる。さて、今度こそ、記憶に定着するだろうか?
 
【目次】
第1部 二足歩行の起源
 人間の歩き方
 Tレックスとカロライナの虐殺者と最初の二足歩行動物
 「人類が直立したわけ」と二足歩行に関するその他の「なぜなぜ物語」
  ほか
第2部 人間の特徴
 太古の足跡
 一マイル歩く方法は一つではない
 広がるホミニン
  ほか
第3部 人生の歩み
 最初の一歩
 出産と二足歩行
 歩き方はみな違う
  ほか
 
【著者】
デシルヴァ,ジェレミー (DeSilva, Jeremy)
 ダートマス大学人類学部准教授。最初期の類人猿や初期人類の移動方法と、彼らの足・足首を専門とする古人類学者である。人類史における直立二足歩行の起源と進化を研究し、アウストラロピテクス・セディバとホモ・ナレディの発見・調査にも参加した。コーネル大学卒業後、1998年から2003年にボストン科学博物館でサイエンス・エデュケーターとして勤務。その後ボストン大学、ミシガン大学などを経て現職に。『直立二足歩行の人類史―人間を生き残らせた出来の悪い足』が初の著書となる。
 
赤根 洋子 (アカネ ヨウコ)
 翻訳家。早稲田大学大学院修士課程修了(ドイツ文学)。
 
【抜書】
●タウング・チャイルド(p31)
 1925年、ウィットウォータースランド大学(南アフリカ)のレイモンド・ダートの研究室に届いた化石を「アウストラロピテクス・アフリカヌス」と命名。250万年前の子供の頭蓋骨。世界で初めて発見された二足歩行の初期人類の化石。
 
●アルコサウルス類(p46)
 鳥類とワニ類の共通祖先。初期のアルコサウルスの化石は、2億7000万~2億4500万年前(ペルム紀中期から三畳紀前期)のもの。
 アルコサウルスの系統は、2億4500万年前、ワニ類と恐竜(やがて鳥類に)に枝分かれして進化。
 「カロライナの虐殺者」と呼ばれたカルヌフェクス・カロリネンシスは、2億3000万年前のワニ類。体長9フィート(約2m74cm)、鋭くとがった歯が口いっぱいに生えていた。時に2本足で立ち上がって歩くこともあった。
 ワニの最初期の祖先は華奢な造りで、足の速い動物だった。
 
●ダチョウ、エミュー(p52)
 ダチョウやエミューなどの足や足首には筋肉がない。長い腱があるのみ。筋肉は腰に付いている。
 人間の足や脚の腱は、類人猿より長いが、足や脚の筋肉量がダチョウやエミューに比べて遥かに多い。そのため、彼らほど速く走れない。
 
●オロリン・トゥゲネンシス(p99)
 2000年末、フランスの古人類学者ブリジット・セヌとマーティン・ピックフォードが、ケニアのバリンゴ盆地のトゥゲンヒルズ地域で600万年前の地層からホミニンの化石を発見。2001年1月、「オロリン・トゥゲネンシス」と命名。
 腕の骨の筋付着部や湾曲した長い指は、樹上生活に適応。
 大腿骨頸部が長く、二足歩行していたと推測される。
 
●アルディピテクス・カダバ(p101)
 2002年、エチオピアの古人類学者ヨハネス・ハイレ=セラシエが、「アルディピテクス・カダバ」の化石を発見。エチオピアの600万~500万年前の地層。オロリン同様、中新世のホミニン。
 足の骨の親指が長く、湾曲していた。物がつかめる足。しかし、母指球と接続していた根元部分に対して上向きに傾斜。ヒトと同様、つま先で地面を蹴りだすとき、足首を反り返らすことができた。
 
●サヘラントロプス・チャデンシス(p101)
 2001年7月19日、フランス人古生物学者ミシェル・ブリュネのチームのチャド人大学院生ジムドウマルバイエ・アホウタが、チャドのジュラブ砂漠で発見。霊長類の下顎骨と数本の歯、押しつぶされて変形した頭骨。
 「サヘラントロプス・チャデンシス」(通称:トゥーマイ。現地のゴラン語で〈生命の希望〉の意味)と命名。700万~600万年前。人類の系統とチンパンジーの系統が分かれた頃。
 脳の大きさはチンパンジー程度。顔と後頭部はゴリラに酷似。犬歯は比較的小さい(ホミニンの特徴)。大後頭孔(脊髄の出口)は、頭蓋骨骨底部に位置。常に直立していた?
 
●アルディピテクス・ラミダス(p110)
 1994年9月、カリフォルニア大学バークレー校の古人類学者ティム・ホワイトと元教え子諏訪元(げん)およびベルハネ・アスフォーは、エチオピアのアファール州アラミスで440万年前の化石を発見。アルディピテクス・ラミダスと命名(「ラミド」は、アファール語で「根」の意味)。最初はアウストラロピテクス属と発表したが、半年後に訂正。ルーシーよりもはるかに類人猿に近かったため。ルーシーより100万年古い。
 2009年に「サイエンス」誌に論文を発表。大人の雌と思われる「アルディ」の骨の分析により、森林に生息していたと判明。樹上生活に適応していたが、少なくとも時折は二足歩行していた。
  二足歩行は森林で始まった。
 
●小指(p114)
 アルディの足の親指は、長く横に張り出していて、チンパンジーに似ている。小指側は、ヒトの足に似ている。ヒトの足は、小指側から親指側に向かって進化した。
 ヒトの足の親指は、最近のほんの200万年の間に短く、真っすぐになった。
 
●類人猿の共通祖先(p119)
 原生類人猿が共通祖先から枝分かれしたのは2000万年前。アフリカで進化した。カモヤピテクス、モロトピテクス、アフロピテクス、プロコンスル、エケンボ、ナコラピテクス、エクアトリウス、ケニアピテクス、など。
 1500万年前、アフリカの類人猿は減少し始めた。赤道直下にあった大森林が地中海岸へと北上したため。
 ヨーロッパの類人猿は多様化した。ドリオピテクス、ピエロラピテクス、アノイアピテクス、ルダピテクス、ヒスパノピテクス、オウラノピテクス、オレオピテクス、など。
 1500万年前、彼らは、尿酸を体外に排出する酵素ウリカーゼを作れなくなる。尿酸は、果糖が脂肪に変わるのを助ける。冬の日照不足によって食糧が乏しくなった時、脂肪を蓄えて生き延びた。
 また、エタノールを代謝できる酵素を手に入れ、高カロリーの熟れた果実を食べられるようになった。
 中新世末期、気候が寒冷化・乾燥化し、温帯の森では生きられなくなると絶滅したが、一部の種が南下してアフリカへ戻った。
 
●ダヌビウス・グッケンモシ(p123)
 2016年5月17日、チュービンゲン大学の古生物学者マデライネ・ベーメの教え子ヨッヘン・フスが、バイエルン州プフォルツェン郊外にあるハンマーシュミーデという粘土採掘場で発見した、1100万年以上前の類人猿の化石。
 脛骨、足首の骨が、ヒトに似ていた。それ以上に、ルーシーの足首に似ていた。「ダヌビウスは千百万年前、直立して(地面ではなく)木の上を歩いていた」と、ベーメとそのチームは結論付けた。
 
●オルドワン文化(p152)
 ルイス&メアリー・リーキー夫妻は、オルドバイ渓谷で数百個の石器を発見、石器を生み出した文化を「オルドワン」文化と名付けた。180万年前のものと判明。1964年には、その作り手として、アウストラロピテクスより少し大きな脳と少し小さな犬歯を持つホミニンの化石を発見。「ホモ・ハビリス」(「器用なヒト」の意味)。
 2011年には、ニューヨーク州立大学ストーニーブルック校の人類学准教授ソニア・ハーマンドが、ケニアのトゥルカナ湖西岸の凝灰岩層で、ホミニンが造った石器を150個発見。330万年前。オルドバイ渓谷の石器よりも大きく、ずっと単純だった。
 2009年には、シカゴ大学のゼレー・アレムセゲドがアワッシュ川流域のディキカという意地域で、340万年前の地層から、アウストラロピテクスの女児の部分骨格を発見。「ルーシーの赤ちゃん」。2018年に発表。レイヨウの骨の化石もあり、鋭い石で意図的に傷をつけた跡があった。
 石器づくりは、アウストラロピテクスが始めた?
 
●昼間の活動(p160)
〔 太陽が高く上り、暑くなると、ライオンもヒョウもチーターもハイエナも日陰に入って眠りにつく。レイヨウやシマウマなど、狩られる側も丈の高い草に隠れてうずくまり、暑さをしのごうとする。われわれの祖先が生き残るために選んだのは、肉食獣が活動的になる時間帯――夕暮れ時、夜、夜明け前――には地上に下りないようにすることだった。
 アウストラロピテクスはわれわれと同じように昼間活動していたに違いない。満腹したサーベルタイガーやハイエナが日陰で眠りにつくのを待って、アウストラロピテクスはねぐらの木から下り、食べ物を探した。見つけたものは何でも手当たり次第に食べたことだろう。発酵した果実、木の実、種子、塊茎、根、昆虫、若葉。ときには、ディノフェリスの前夜の食べ残しを口にすることもあっただろう。〕
 
●ナリオコトメ・ボーイ(p198)
 1984年、トゥルカナ湖西岸の干上がったナリオコトメ川の土手で、カモヤ・キメウによって発見された。149万年前、ホモ・エレクトスの少年のほぼ完全な骨格。まだ9歳だった。身長は5フィート(約152cm)、体重約45㎏。成人したら6フィートになっていた?
 上腕骨は、ルーシーより34%長かったが、大腿骨は、ルーシーより54%も長い。
 ホモ・エレクトスは脚が長くなり、長距離移動ができるようになり、全世界に広まった? 足には、現生人類と全く同じアーチがある。
 ジョージアのドマニシ原人も、身長は5フィート程度だったが脚が長かった。
 
●腰椎(p269)
 ヒトの腰椎は、男女ともに五つ。
 男性の腰椎は下の二つが楔形、女性は下の三つが楔形。脊柱はそこでカーブしている。
 女性のほうがカーブが大きい。そのおかげで、妊婦は前方にずれた重心を股関節の上に戻すことができ、歩行の際にバランスを保てる。
 200万年前のアウストラロピテクスにもこの男女差は現れている。
 
●1日当たりの許容エネルギー(p295)
 デューク大学の人類学者ハーマン・ポンツァー。「1日当たりの許容エネルギー消費量は世界中どこでも同じ」。
 この許容エネルギー量をどのように消費するかは、文化によって、また人によって違う。
 タンザニアのハッザ族は、徒歩で移動したり、食糧を採集したり、病気を撃退したり、赤ん坊や幼児を抱えて歩いたりするためにエネルギーを使う。
 アメリカ人は、彼らほど体を動かさないため、余ったエネルギーを別のこと、炎症反応を強化することに使う。
 
●マイオカイン(p298)
 運動中に筋肉が産生して血液中に放出する分子(タンパク質)。
 インターロイキン6には、抗炎症作用がある。また、腫瘍壊死因子(TNF)の産生を抑える作用もある。マウスによる実験では、がん性腫瘍を攻撃・破壊する「ナチュラル・キラー細胞」を動員する働きがある。
 
(2023/1/10)NM
 
〈この本の詳細〉



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世界を変えた建築構造の物語
 [自然科学]

世界を変えた建築構造の物語
 
ロマ・アグラワル/著 牧尾晴喜/訳
出版社名:草思社
出版年月:2022年9月
ISBNコード:978-4-7942-2604-4
税込価格:2,420円
頁数・縦:311, 6p・19cm
 
 「少しの間、エンジニアのいない世界を想像していただきたい。」「エンジニアリングがあるからこそ、人間は人間らしくいられるのだ。」(p.298)
 古今東西のエピソードを渉猟し、素晴らしきエンジニアたちを称えた書。
 
【目次】
STORY エンジニアの/としての物語
FORCE 建物が支える力
FIRE 炎を防ぐ
CLAY 土を建材にする
MMETAL 鉄を使いこなす
ROCK 石を生み出す
SKY 空を目指す
EARTH 地面を飼いならす
HOLLOW 空洞を利用する
PURE 水を手に入れる
CLEAN 衛生のために
IDOL 理想の存在
BRIDGE 最高の橋たち
DREAM 夢のような構造を実現する
 
【著者】
アグラワル,ロマ (Agrawal, Roma)
 構造エンジニア。インド系イギリス系アメリカ人。オックスフォード大学で物理学の学士号を取得した後、インペリアル・カレッジ・ロンドンで構造工学の修士号を取得。西ヨーロッパ―の高さを誇るビル「ザ・シャード」やノーザンブリア大学歩道橋をはじめとして、数々の有名な建造物の構造設計に関わる。英国王立工学アカデミーのルーク賞を含む数々の国際的な賞を受賞している。
 
牧尾 晴喜 (マキオ ハルキ)
 株式会社フレーズクレーズ代表。建築やデザイン分野において、翻訳や記事制作を手がけている。1974年、大阪生まれ。メルボルン大学での客員研究員などを経て独立。一級建築士、博士(工学)。
 
【抜書】
●ウィトルウィウス(p36)
 マルクス・ウィトルウィウス・ポリオ(p12)。BC80年生まれ。古代ローマのマスタービルダー、「最初の建築家」。
 『建築について』を執筆。建造物の設計に関する10巻の論文。
 古代煉瓦のレシピも掲載している。完全に乾くまで、最大2年かかった。(p78)
 
●動吸振器(p47)
 超高層ビルの揺れを緩和するために設置する振り子。ビルが揺れると反対側に動く。
 ビルの固有振動数を計算し、周波数の近い振り子をビルの上部に取り付ける。
 
●4:2:1(p75)
 モヘンジョ・ダロ遺跡とハラッパ遺跡で発見されたすべての煉瓦は、大きさに関係なく、4:2:1の比率を持つ。
 均一な乾燥、作業しやすサイズ、接着剤やモルタルの種類にかかわらず、ほかの煉瓦と接着する面積が大きいという観点から、今日でもエンジニアが多くの場面でこの比率を使用している。
 インダス文明とほぼ同時期に、中国でも煉瓦の大規模な生産が行われていた。
 西洋文明で煉瓦が最も使用される材料の仲間入りを果たすのは、ローマ時代。
 
●西洋の煉瓦(p81)
 476年、西ローマ帝国が崩壊したのに伴い、西洋では数百年にわたり煉瓦造りの技法が失われた。
 中世初期(6~10世紀)の城郭の建設で復活。
 ルネッサンス期やバロック期(14~18世紀)においては、建物で煉瓦を露出することは時代遅れになり、複雑な形の漆喰や絵画の後ろに隠されることになった。
 
●西洋のコンクリート(p120)
 コンクリートは、水+セメント粉末+骨材(小さくて不揃いな石と砂)によって作られる。
 西ローマ帝国崩壊後、コンクリートのレシピは約1,000年間、失われたままだった。1300年代になってようやく復活。
 
●自己治癒コンクリート(p125)
 乳酸カルシウムの小さなカプセルを液状のコンクリートに混ぜる。カプセルの中には、酸素や食物がなくても50年間生き延びることができるバクテリアの一種(通常は火山の近くの強アルカリ性の湖に生息)が入っている。コンクリートが硬化した後、コンクリートに亀裂が生じると、そこから水が浸透し、水によって活性化されたカプセルからバクテリアが放出される。バクテリアは、アルカリ性の環境に順応しているため、強アルカリ性のコンクリートのなかでも死なない。バクテリアはカプセルを食べて、カルシウムに酸素と二酸化炭素を結合させる。つまり、純粋な石灰岩である方解石を作り出す。この方解石がコンクリートのひび割れを埋めることで、構造体は自らを治癒する。
 
●5%(p125)
 人類が作り出す二酸化炭素の5%は、コンクリートの製造に由来している。
 二酸化炭素の一部は石灰石を焼成してセメントを生成するときに発生し、残りは水和反応によって発生する。
 水和反応……石灰石と粘土の混合物を約1450℃の窯で焼くと、小さな塊になる。この塊を粉末にするとセメント粉末ができる。この粉末に水を加えると、水は石灰や粘土に含まれるカルシウムやケイ酸塩の分子と反応して、棒状または繊維状の結晶を作り出す(水和反応)。この繊維により、材料にゼリー状の柔らかくて安定した構造(配列)が生まれる。反応が進むにつれて、繊維は成長し結合する。混合物はますます濃くなり、最終的に固化する。水+セメント粉末=セメントペースト。(p112)
 
●ブルネレスキの卵(p145)
 フィリッポ・ブルネレスキ(1377-1446年)。ルネッサンス期の建築家。フィレンツェのサンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂のドームを建設した。
 ドーム設計の入札の際、工法を明かすよう、審査員団から何度も要求されたが拒否。審査会で皆に卵を持ってくるよう求めた。競合相手の中で卵を縦に立てることができる者がいれば、その人が受注すべきだと主張。しかし、成功するものはいなかった。ブルネレスキは、卵をテーブルに強く打ち付けると、その場に立てた(殻は部分的に割れていた)。
 殻を割っていいことが分かっていれば、誰でもできた、と他の者たちが抗議。「その通りです。そして、私がドームの工法を教えても、あなた方は同じことを言うでしょう」。
 
●500m(p155)
 500mを超える距離を移動するエレベータは作れない。エレベータを上げ下げするスチール製のケーブルが重くなり過ぎるため、機械が効率的に機能しない。
 
●メキシコシティ(p166)
 メキシコシティは湖の上に立てられた。はじめは小さな島だったが、徐々に拡大していった。
 街の中心部は、28m下の地盤は強固であるが、その上は脆い。過去150年間で10m以上も沈下している。
 アステカ人は、彼らの神ウィツィロポチトリ(戦争と平和の神)から、新しい首都を高原から「ノパルサボテンの上でくちばしに蛇をくわえているワシを見つけた場所(現在の国旗のエンブレムのイメージ)に移す必要があると告げられ、250年後に発見した。それが、テスココ湖の真ん中にある小さな島だった。
 「ノパルサボテンのある場所」を意味するテノチティトランは、1325年に建設された。肥沃な庭園、運河、巨大な寺院があった。
 1521年、スペイン人はテノチティトランを占領し、完全に破壊。アステカのピラミッドの神殿の基礎の上に都市を再建した。
 都市を拡大する目的で湖は埋め立てられた。もともと存在する地下水の水位が高いため、定期的に洪水が起こった。
 
●カレーズ(p208)
 古代ペルシャ人は、カレーズ(アラビア語で「カナート」)をつくって水を得た。
 丘の斜面に直線上に何本も井戸を掘り、それを地下でつなげて水路を作り、丘の底辺で水を排出するシステム。
 イランには35,000以上のカレーズがある。現代でも重要な水源として、数十万本の地下トンネルからなるネットワークとして機能している。
 国内最古にして最大のものは2700年前に作られた45kmのトンネル。ゴナーバード市にある。
 
●センナケリブ(p212)
 世界最古の水道橋を建設。アッシリアの王、在位BC705-681。
 首都のニネベから50km離れたアトラッシュ川流域を起点とし、そこからテビツ川の源流につながる運河を建設する。途中、小さな谷を越えるために水道橋を設置した。
 長さ27m、幅15m、高さ9mを超える先の尖った持ち送りアーチ(突き出た石に支持された曲線状のアーチ)からできており、建設には約0.5mの立方体の石が200万個以上使われた。水路の表面は、水漏れを防ぐためにコンクリートで仕上げられていた。BC690年に、16か月間で完成した。
 水道橋が完成した時、センナケリブ王は二人の司祭を運河の起点に呼び、宗教的儀式を行わせようとした。しかし、水を止めていた門が式典の時間よりも前に突然開き、川の水が運河に放出されてしまった。エンジニアと司祭たちは、王の意に反して自然が行ったことに対して、王が怒るのではないかと恐れた。しかしセンナケリブ王は、神々が偉業の達成を待ちきれずに門を開けてしまったのだから、これは実は良い兆候ではないかと解釈した。彼は運河の起点に行って損傷を確認し修理させ、エンジニアと作業員たちには、鮮やかな色の布、金の指輪、短剣を与えた。
 
●四つの蛇口(p220)
 シンガポール公益事業庁(PUB)は、「四つの蛇口」と呼ばれる戦略を策定している。
 シンガポールには自然の帯水層や湖がなく、水は貴重な資源。水の自給率を確保するため、できる限り効率的に国が利用すべき四つの水源を意味している。
 (1)雨水。貯水池を各地に作り、汚染から法的に保護する。雨水は、島の面積の3分の2のエリアで集められている。
 (2)マレーシアからの水。2061年まで、水を輸入する協定を結んでいる。
 (3)再生水。下水の再利用。3段階の浄化プロセスで処理される。「精密ろ過」で、半透性の膜によって固形物、細菌、ウイルス、原生動物の嚢胞を除去。固体は残るが液体は通過。「逆浸透」で、塩分や有機分子を除去。紫外線で水を消毒、残りの微生物をすべて死滅させる。NEWaterは、飲料水よりもさらに高品質の水を必要とする工業団地や製造拠点で使われている。
 (4)海水。最初に海水をろ過して大きい粒子を取り除き、次にNEWaterと同様の方法で逆浸透を行う。さらに、健康を考慮して必要なミネラルが添加される。
 (3)と(4)で必要とする水の50%以上がすでに作られており、2060年を迎えるころには、この方式で約85%がまかなわれると予測されている。
 
●ファルカーク・ホイール(p283)
 スコットランド。20世紀終盤、グラスゴーとエジンバラの間(フォース・クライド運河とユニオン運河の間)をつなぐ新しい水路を計画。
 ユニオン運河の最終地点に、ケルト族の双頭斧に似た巨大なアームを2本設置。180度回転し、船を持ち上げて下のフォース・クライド運河に下ろす。
 
(2023/1/4)NM
 
〈この本の詳細〉


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