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流されて生きる生き物たちの生存戦略 驚きの渓流生態系
 [自然科学]

流されて生きる生き物たちの生存戦略: 驚きの渓流生態系
 
吉村真由美/著
出版社名:築地書館
出版年月:2022年12月
ISBNコード:978-4-8067-1644-0
税込価格:2,640円
頁数・縦:225p, 図版16p・19cm
 
 渓流の仕組みと生態系を詳しく解説。
 
【目次】
第1章 水の循環と河川
 川の流れを追う
 渓流の環境
  ほか
第2章 流水をいなして生きる生き物たち
 撹乱を耐え忍ぶ
 流れからの待避
  ほか
第3章 流水に適応する
 外部環境への適応
 生息環境と生き物の形状
  ほか
第4章 生き物どうしの関係
 さまざまな察知能力
 餌をめぐるやりとり
第5章 渓流域における落葉の重要性
 渓流域のエネルギーの流れ
 落葉と底生動物
付録 渓流に生息している主な生き物
 
【著者】
吉村 真由美 (ヨシムラ マユミ)
 大阪府生まれ。奈良女子大学大学院理学研究科修了、大阪府立大学大学院農学生命科学研究科中途退学、博士(理学)。運輸省にて航空関係の業務に携わったのち、農林水産省入省。森林総合研究所四国支所研究員、国立研究開発法人森林総合研究所企画部研究評価室長を経て、現在は国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所関西支所チーム長。渓流性水生昆虫の生理生態学、森林構造と生物群集との関係解明、放射性セシウム汚染による水生生物への影響、生態系サービスや生物多様性保全に関わる研究などを行っている。
 
【抜書】
●河床間隙水域(p21)
 hyporheic zone。渓流の川床の下に広がっているエリア。伏流水は、このエリアの渓流に近い部分を指すことが多い。
 攪乱などによって多くの土砂が流れ込み、渓流自体に水が流れなくなっても、このエリアに水が存在していることが多く、生き物も生息している。
 
●溶存酸素量(p29)
 水の中にもわずかに酸素が存在している。しかし、利用可能な酸素の量は空気中の約三十分の一。
 水の中の酸素は主に、水面で水と空気が触れ合うことで、水の中に空気が取り込まれることによってもたらされている。
 溶存酸素量は、水温が低いと多くなる。標準の大気圧のもとで、5℃で12.77mg/Lだったものが、25℃では8.26mg/Lにまで減少する。
 また、流れが速いところなど水が攪拌されていると、空気と触れ合う機会が増えるので酸素濃度は高くなる。
 
●酸性度(p50)
 酸性度は、水素イオンの濃度ではかる。川の中の石が赤茶色になっているのは、酸性の河川となっている証拠。
 アルカリ度は、炭酸塩の濃度ではかる。
 硬度は、カルシウムイオンおよびマグネシウムイオンの含有量で決まる。
 電気伝導度は、水の中のすべてのイオン量で決まる。
 
●クリプトビオシス(p74)
 生物が、乾燥や極低温などの状況で活動を停止する無代謝状態。
 
●一級河川(p81)
 一級河川……国土を保全する上でまたは国民の経済を豊かにする上で特に重要と判断された水系。国土交通省令により、国土交通大臣が水系ごとに名称・区間を指定する。全国で109水系が指定されている。国土交通大臣の直轄によって管理を行う河川と、政令によって区間を指定して当該都道府県知事に管理の一部を委任する河川に分けられる。
 二級河川……公共の利害に重要な関係性のある河川。一級河川の水系以外の水系の中から、都道府県知事が指定して管理を行う。
 準用河川……上記以外の河川で、公共性の見地から重要と考えて市町村長が指定する。河川法で指定されていない小川などを、市町村長が準用河川に指定して管理することもある。
 普通河川……どこにも管理されていない場合、河川法の適用を受けない普通河川として扱われる。
 国有林内を流れる渓流の管理は林野庁になるが(町村有林の渓流は町などの管理)、一般的に、渓流は普通河川になる。
 
●シスト形成(p115)
 体の周囲に膜や壁を作り、一時的な休止状態に入ること。乾燥状態の時など、シスト形成を行って環境変化に対応している。
 プラナリアは、シスト形成をするか乾燥耐性のある卵を産むことによって、乾燥状態を生き延びている。
 
●摂食機能群(p155)
 シュレッダー……デトリタス食者や破砕食者ともいう。落葉を細かくして、付着している菌類とともに落葉を食べる。カクツツトビゲラ科、オナシカワゲラ科、など。
 コレクター……上流から流れてきた小型・中型の粒子状有機物を食べる。ユスリカ科、など。
 グレーザー……付着藻類を剥ぎ取って餌とする。ヒラタカゲロウ科、ヤマトビケラ科、ニンギョウトビケラ科、など。
 フィルターラー……石と石の間に網を張って、上流から流れてくる懸濁粒子(小型・中型の粒子状有機物)を捕獲し、濾過して餌にする。ヒゲナガカワトビケラ科、シマトビケラ科、など。
プレデター……動物を捕食するもの。カワゲラ科、ナガレトビケラ科、イワトビケラ科、など。
 
●ブユ(p159)
 ブユは、幼虫の間は小さな有機物を食べている種が多い。
 成虫になると、メスは卵を成熟させるため、栄養価の高い血液を摂取するようになる。
 オスは、飛翔のエネルギー源として花の蜜を吸っている。
 
●放射性物質(p190)
 海水に生息している魚には、体内に受動的に塩分が入ってくるのを阻止し、また入ってきた塩分を排除する機能が備わっている。そのため、入ってくる放射性セシウムを排除し、体内に入ってしまった放射性セシウムをできる限り早く排除しようとする。
 淡水に生息している魚は、体内から塩分が流亡するのを防ぎ、淡水からわずかであっても塩分を取り込もうする機能が備わっている。そのため、放射性セシウムを受動的に取り込みやすく、体内に入った放射性セシウムの流亡を防ごうとする。
 放射線汚染の影響は、淡水に生息している魚で長く続くことになる。
 淡水の魚でも塩分を排除する機能は持ち合わせている。汚染のない環境下で飼育すると、時間はかかるが、放射性セシウムを完全に排除することができる。
 
●亜成虫(p195)
 カゲロウは、不完全変態で、幼虫の間に10~40回の脱皮を繰り返す。
 羽をもつステージが二つある。亜成虫と成虫。幼虫から羽化したものが亜成虫。羽化は捕食される危険性が最も高いので、その危険を減らすため、夕方に一斉に羽化が起こることが多い。その後、羽化した場所から飛び立って、近くの別の場所で再度脱皮を行い、成虫になる。
 亜成虫は成虫とほぼ同じ形をしているが、成虫に比べて毛が多く白っぽい。性的にも未成熟。
 成虫の寿命は短く、数時間から長くても数日程度。摂食しない。
 
(2023/6/30)NM
 
〈この本の詳細〉


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