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ヒトは〈家畜化〉して進化した 私たちはなぜ寛容で残酷な生き物になったのか
 [哲学・心理・宗教]

ヒトは〈家畜化〉して進化した―私たちはなぜ寛容で残酷な生き物になったのか
 
ブライアン・ヘア/著 ヴァネッサ・ウッズ/著 藤原多伽夫/訳
出版社名:白揚社
出版年月:2022年6月
ISBNコード:978-4-8269-0239-7
税込価格:3,300円
頁数・縦:334p・20cm
 
 ヒトは自らを家畜化し、友好的で協力的コミュニケーションを進化させてきた。家畜化が、がヒトを繫栄させる原動力だった。その証拠を集め、多角的に論じる。
 
【目次】
はじめに 適者生存/最も友好的な人類
第1章 他者の考えについて考える
第2章 友好的であることの力
第3章 人間のいとこ
第4章 家畜化された心
第5章 いつまでも子ども
第6章 人間扱いされない人
第7章 不気味の谷
第8章 最高の自由
第9章 友だちの輪
 
【著者】
ヘア,ブライアン (hare, Brian)
 デューク大学進化人類学教授、同大学の認知神経科学センター教授。同大学にデューク・イヌ認知センターを創設。イヌ、オオカミ、ボノボ、チンパンジー、ヒトを含めた数十種に及ぶ動物の研究で世界各地を訪れ、その研究は米国内外で注目されている。『サイエンス』誌や『ネイチャー』誌などに100本を超える科学論文を発表。
 
ウッズ,ヴァネッサ (Woods, Vanessa)
 デューク大学のデューク・イヌ認知センターのリサーチ・サイエンティスト。受賞歴のあるジャーナリストでもあり、大人向けと子ども向けのノンフィクションの著書多数。
 
藤原 多伽夫 (フジワラ タカオ)  
翻訳家、編集者。静岡大学理学部卒業。自然科学、考古学、探検、環境など幅広い分野の翻訳と編集に携わる。
 
【抜書】
●アリの生物量(p15)
 蟻の生物量は、ほかの陸上動物をすべて足した生物量の五分の一に相当する。
 蟻は最大で5,000万匹もの個体が集まって、ひとつの社会単位として機能する「超個体」を形成することができる。
 
●コルチコステロイド(p62)
 ドミトリ・ベリャーエフがノボシビルスクで始めた、キツネの家畜化の実験。彼の死後、教え子であるリュドミラ・トルートが引き継いで続けている。
 友好的なキツネは、ストレスホルモンと呼ばれるコルチコステロイドの濃度が急上昇する時期が遅くなった。普通は、生後2~4カ月の間に分泌が増え、生後8カ月で大人の濃度に達する。
 12世代を経ると、濃度は半減していた。30世代を経るとさらに半減していた。
 50世代を経ると、友好的なキツネは普通のキツネに比べて、脳内のセロトニン(捕食や防御に関わる攻撃行動の低下に関連する神経伝達物質)の濃度が5倍に増えていた。
 
●友好的なキツネ(p63)
 友好的なキツネは、形質にも変化を起こした。
 垂れ耳、短くなった鼻づら、巻き尾、ぶちのある被毛、小さくなった歯。
〔 ベリャーエフとリュドミラは、通常ならば自然界で何千もの世代を重ねないとできないことを、自分たちの生涯のうちに達成し、成果として一つの原則を残した。人間に対して友好的な動物がより多くの子を残せるようになると、家畜化が起こる、というものだ。〕
 
●自ら家畜化(p73)
〔 オオカミはほかのオオカミの社会的なジェスチャーを理解し、それに応答できているだろうが、人間のジェスチャーに対しては、人間から逃げることにばかり気をとられ、注意を払う余裕はなかっただろう。だが、いったん人間への恐怖心が興味に変わると、オオカミは社会的な能力を新たな形で利用して、人間とコミュニケーションをとれるようになった。人間のジェスチャーや声に反応できる動物は、狩猟の相棒や見張り役として大いに役立っただろう。そうした動物はまた、心温まる親しい仲間としても貴重な存在になり、野営地の外から炉端へ近づくのを徐々に許されることになった。人間がオオカミを家畜化したのではない。最も友好的なオオカミがみずから家畜化したのだ。〕
 
●2D:4D(p94)
 哺乳類では、母親が妊娠中に高濃度のアンドロゲン(テストステロンも含まれる)を分泌すると、その赤ちゃんの第二指(人差し指、2D)は第四指(薬指、4D)よりも短くなる。この比率を2D:4Dと呼ぶ。2D:4D比の値が小さいほど、雄性化し、攻撃性が高くなる。
 チンパンジーとボノボの比較では、チンパンジーのほうが第二指が短い。
 人間でも、更新世中期には現代人よりも2D:4D比が小さかった。男性的だった。比較した中で最も男性的だったのは、4人のネアンデルタール人だった。古生物学者エマ・ネルソンの研究による。(p115)
 
●情動反応(p101)
 人間が「心の理論」を使う際に活性化する脳の領域は、内側前頭前野(mPFC)、側頭頭頂接合部(TPJ)、上側頭溝(STS)、楔前部(けつぜんぶ、PC)。
 これらの領域における活動の強弱は、情動反応によって変わる。脅威に直面した時(情動反応が強まった時)、これらの領域の活動が弱まる。
 ヒトが進化する中で情動反応に淘汰が働き、それによって寛容性や協力的コミュニケーション能力が向上した可能性がある。
 〔他者に対する反応は人によって異なるが、そうした多様な反応に対して自然淘汰が働き、文化的な認知能力を形成するうえで重要な役割を果たしたのかもしれない。これは人間が自己家畜化した可能性があることを示している。〕
 
●友好的(p112)
〔 自己家畜化仮説が正しいとすれば、ヒトは賢くなったから繫栄したのではなく、友好的になったから繁栄したということになる。ベリャーエフがキツネで行なったような実験は人では行なわれていないが、さいわいヒトには、家畜化の証拠が化石として残っている。私たちが述べたように、自己家畜化が五万年ほど前の文化革命を牽引する中心的な役割を果たしたのだとしたら、それより前の時代に証拠が化石として残っているはずだ。そこで私たちは、その直前に当たる八万年前に狙いを定めて、自己家畜化の証拠を探し始めた。〕
 
●白い強膜(p123)
 人間の白い強膜(白眼)は、生涯を通して協力行動を促進している。
 自己家畜化仮説によれば、ヒトは友好的になる淘汰を受けた結果、8万年以上前に強膜が白くなったと考えられる。
 アイコンタクトが増えるにつれて、オキシトシンの作用が発現するようになり、他者とのつながりや協力的コミュニケーションが促進される。また、他者を欺こうとする気が起きにくくなる。
 
●神経堤(p133)
 友好性の副産物として複数の形質が出現するのには、神経堤細胞が関わっている。
 神経堤細胞は、すべての脊椎動物の胚に短期間だけ現れ、神経管の背側に生じる。神経管は最終的に脳と脊髄になる。
 神経堤細胞は幹細胞なので、胚の発生が進むにつれて、さまざまな種類の細胞に分化することができる。また、神経堤細胞は遊走するので、胚の発生が進むにつれて体のあらゆる場所に移動する。
 遊走する神経堤細胞は、家畜化症候群に関連する多くの形質の発生・発達に関与している。
 家畜化にとって重要なのは恐怖心と攻撃性の低下である。神経堤細胞は、アドレナリンを分泌する副腎髄質の発達に関わっている。家畜化された動物の副腎は、野生の近縁種と比べて小さい。ストレスホルモンの分泌が少ないということ。
 また、神経堤細胞尾は尾や耳の軟骨、皮膚の色素、鼻づら(顔)の骨、歯の発達にも関与している。
 頭部の神経堤細胞は、脳の発達に影響を及ぼすと考えられている。脳の大きさを変えるだけでなく、脳のさまざまな部分がセロトニンやオキシトシンといった神経伝達物質やホルモンを受容する度合いの変化を引き起こしている可能性がある。繁殖周期の変化にも関連している可能性が高い。脳が小さくなると、繁殖周期を制御する視床下部-下垂体-性腺(HPG)軸に影響が及ぶ可能性がある。HPG軸の機能が制限されると、性成熟が早まり、繁殖周期が短くなる。
 
●オキシトシン(p147)
 ヒトの新たな社会カテゴリーの変化を引き起こした物質はオキシトシンだと考えられる。
 オキシトシンはセロトニンおよびテストステロンの可用性と密接に関係している。セロトニンの分泌が増えると、オキシトシンが影響を受ける。セロトニンはオキシトシンの効果を高める。
 テストステロンの分泌が減少すると、オキシトシンがニューロンと結合しやすくなり、行動が変わる。
 つまり、セロトニンの分泌が増え、テストステロンが減少したことによって、ヒトの行動におけるオキシトシンの効果が増大し、自分が属する集団を家族のように感じる人の能力が進化した。
 
●集団内の見知らぬ人(p151)
 ヒトは、他の動物にはない新たな社会的カテゴリーを得てきた。「集団内の見知らぬ人」である。
 このカテゴリーはオキシトシンによって生まれ、維持されてきた。
 握手できる距離まで近づいたとき、アイコンタクトをとることで自分にも相手の体にもオキシトシンが分泌され、恐怖心は弱まり、信頼し、協力しようとする気持ちが強まる。
 
●楔前部(p175)
 他者を人間と見なすか、非人間と見なすかを判断するとき、脳の「心の理論」ネットワークの一部が選択的に活性化する。楔前部の活動が強まったり弱まったりする。
 楔前部が急激な成長を遂げたのは、頭部がヒト独特の球状になったのが原因だった。球状の頭部になったのは、ヒトがネアンデルタール人から枝分かれした後のこと。
 
(2023/7/4)NM
 
〈この本の詳細〉


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