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サイボーグになる テクノロジーと障害、わたしたちの不完全さについて
 [社会・政治・時事]

サイボーグになる テクノロジーと障害,わたしたちの不完全さについて
 
キム・チョヨプ/〔著〕 キム・ウォニョン/〔著〕 牧野美加/訳
出版社名:岩波書店
出版年月:2022年11月
ISBNコード:978-4-00-061567-9
税込価格:2,970円
頁数・縦:299p・19cm
 
 後天的な聴覚障害者であるSF作家と、骨形成不全症という難病を抱えながら弁護士・作家・パフォーマーとして活躍するキム・ウォニョンの二人による、非障害者に向けた評論集。
 考えてみれば、「サイボーグ」のような「完全な人間」なんて、この世には存在しないだろう。皆どこか、わずかながらでも「障害」を抱えているはずだ。目が悪い、耳が遠い、慢性鼻炎、アトピー性皮膚炎、花粉症、胃潰瘍、足が遅い、などなど。そんな「ふつうの人」と、二人の著者との間に、人間としてどれほどの「差」があるというのだろう。補綴物によって「ふつう」になるのではなく、障害を抱えたままで「ふつう」に社会に存在することはできないのだろうか。非障害者が「ふつう」に彼らを受け入れられる社会というものを夢想する。障害者がサイボーグになる必要もなしに。
 
【目次】
1 われわれはサイボーグなのか
 サイボーグになる
 宇宙での車椅子のステータス
 障害とテクノロジー、約束と現実のはざま
  ほか
2 ケアと修繕の想像力
 衝突するサイボーグ
 「障害とサイボーグ」のデザイン
 世界を再設計するサイボーグ
  ほか
3 連立と歓待の未来論
 障害の未来を想像する
 つながって存在するサイボーグ
対談 キム・チョヨプ×キム・ウォニョン
 
【著者】
キム チョヨプ (キム チョヨプ)
 本名、金草葉。1993年生まれ。2017年に「館内紛失」と「わたしたちが光の速さで進めないなら」で第2回韓国科学文学賞中短編部門の大賞と佳作をそれぞれ受賞し、文壇デビュー。後天性聴覚障害者。短編集『わたしたちが光の速さで進めないなら』(カン・バンファ、ユン・ジヨン訳、早川書房)は日本でもベストセラーとなり注目を集めた。2019年「今日の作家賞」、2020年「若い作家賞」を受賞。
 
キム ウォニョン (キム ウォニョン)
 本名、金源永。1982年生まれ。大学で社会学と法学を学び、ロースクールを卒業したあと国家人権委員会で働いた。現在は作家、弁護士、パフォーマーとして活動している。車椅子ユーザー。
 
牧野 美加 (マキノ ミカ)
 1968年大阪生まれ。釜慶大学言語教育院で韓国語を学んだあと、新聞記事や広報誌の翻訳に携わる。第1回「日本語で読みたい韓国の本翻訳コンクール」最優秀賞受賞。
 
【抜書】
●最初のサイボーグ(p13、キム・チョヨプ)
〔 最初のサイボーグは人間を宇宙に送るために考案された。アメリカのマンフレッド・クラインズ(Manfred Clynes)とネイザン・クライン(Nathan Kline)は一九六〇年、アメリカ航空宇宙局(NASA)の学術会議に提出する論文の執筆過程で、「サイバネティック(cybernetic)」と「有機体(organism)」を合わせた「サイボーグ(cyborg)」という造語を生み出した。サイボーグはテクノロジーによって改造された新しい形態の人間で、臓器移植や薬物の注入、機械との結合などによって、極限の宇宙環境でも生存できるよう増強された人間を意味する。このようにサイボーグという概念は、今すぐに実現可能な技術というより、遠い未来の、いつか開発されるべき技術に関する抽象的なアイデアからスタートした。それが文化や芸術、学問の領域へと徐々に広がっていき、具体的な形象を持ちはじめたのだ。〕
 
●弱い人たちが存在できる世界(p224、キム・チョヨプ)
〔 身体や能力の序列がなくなった世界を想像するのは容易ではない。正常ではない身体を持つ人が差別から解放される世界を思い描くことすら、漠然としていて難しい。むしろ、人間が死や老い、病気から解放された世界をイメージするほうが簡単かもしれない。けれど、たとえどんなに想像するのが難しくても、すべての人が「有能な」世界よりも、弱い人たちが平穏に、ありのままに存在する未来のほうが解放的だと、わたしは信じる。損傷など一切存在しないように見える未来よりも、苦痛の中にある身体、損傷した身体、何もできない身体を世界の構成員として歓待する未来のほうが、より開かれていると信じる。〕
 
●神の存在証明(p229、キム・ウォニョン)
 神が「いないことが立証されない限りわたしたちは(神を)信じる」ということ。
 ソウル大学のチョン・ハギュン教授は、ヒト胚性幹細胞複製に成功したという研究成果が、捏造であると断定された2006年の時点でも、「今すぐ証明されないからといって幹細胞がないとは考えない」と述べていた。まるで、神の存在の証明とそっくり。
 
(2023/11/25)NM
 
〈この本の詳細〉


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